かませ役から始まる転生勇者のセカンドライフ~主人公の追放をやり遂げたら続編主人公を育てることになりました~   作:佐遊樹

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正論包囲網

 公休を使って実家に顔を出していたエリンが、特大のニュースを引っ提げて寮に帰還した。

 俺の元パーティメンバーであるマリーメイアがここに来るらしい。

 

 なんで!?!?!?!?!?!?

 どうして!?!?!?!?!?!?!?

 どういうこと!?!?!?!?!?!???

 

 寮の自室で椅子からひっくり返りそうになった。

 寝耳に水と青天の霹靂が融合して襲い掛かって来たようなものだった。あの二つ、用法は微妙に違うらしいけど。

 

『センセ、ちょっとあの人とちゃんと話した方がいいと思う』

 

 神妙な顔で告げるエリンの背後では、シャロンとクユミが頷いている。

 どうやら先に三人で情報共有した上で、俺の元へと伝えに来たようだ。

 

 そうは言っても、話すことなどない。

 厳密に言えば話せることがないのだが、エリン達相手にそこまで明かす必要もない。

 取り付く島もないといった態度を示して、俺は三人を追い出した。

 

 ……静かになった自室で、溜息を吐く。

 エリンから聞いた話は、俺の想定と全く違う方向に事態が進んでいたというものだ。

 

 マリーメイアは俺を恨んでいない。

 むしろ、俺に追い出されることとなった自分の無力さを憎悪している。

 

 なんだそれは──勘弁してくれ。

 お前は元々俺なんかの仲間でいるべきじゃない。

 清廉潔白で世界を救うにふさわしい、王道主人公の美少女なんだぞ。

 

 俺を恨んでいるのなら別にいい。

 原作でも恨んでこそいないが、態度はどんどん邪険なものになっていった。

 他人へと手を差し伸べたり、他人をちょっと怖がったり、そうした等身大の姿がマリーメイアの魅力だった。

 

 だが自分を恨むというのはどういうことだ。

 なんでそんなことになっているんだ。

 

 俺は──俺は何を間違ってしまったんだ?

 

 

 

 ◇

 

 

 

「元々素質はあるんだ、経験を積んで行けばお前は大陸最高のヒーラーになれるだろうさ」

 

 俺はかつて何度も、何度もマリーメイアにそう伝えた。

 

「そんな……ハルートさんが、私なんかを拾ってくれたおかげです」

 

 一介の町娘であった彼女を、原作ハルートは見た目でスカウトした。あいつくじ運やべえわ。

 そして俺はすべてのシナリオを知る人間として、物語の前段を整えるためにスカウトした。

 

 彼女が旅で困らないように強くした。

 彼女が自ら出ていきたがらないよう居心地の良い空間を提供した。

 あとは彼女が最後に覚醒するよう、追放して憎悪を教えるだけだった。

 

 自分の旅など、シナリオの邪魔になりそうなモブや非ネームドを処理して回る単純作業の連続に過ぎない。

 マリーメイアを追放すれば俺は冒険者をやめると決めていた。

 

 原作ハルートは落ちぶれていったし何度も顔を見せに来たが、ああいうのはいい。

 普通に嫌われるだけでめちゃくちゃ嫌なのになんでその後も一層嫌われなきゃならんのだ。

 引退して静かに過ごすわ。

 

「ハルート、君は何を恐れているんだい?」

 

 彼女を追放する日は近いなと直感していた、冒険者時代の末期。

 ある土地で夜を明かすべくキャンプをしていた時、不意に僧侶が問いかけてきた。

 

「……何の話だ?」

「とぼけてもらっては困るな。まさか分からないとでも思われているのか? なあ」

 

 僧侶は肩をすくめて、女騎士へと視線を飛ばした。

 ちなみにマリーメイアと魔法使いは二人で近くの野草を摘みに行っている。調合に使うらしい。

 

此方(こなた)たちに分からないはずがないだろう、見くびるなよハルート。貴様、日に日に弱っているぞ。何かに追い立てられている」

「…………」

 

 焚火をじっと見つめながら、俺は沈黙しか返せなかった。

 俺が恐れている内容を語ったところで、良い影響になるという確証はなく、むしろ悪い影響となる可能性すら高かったからだ。

 

「……ククッ。俺は勇者の末裔だぞ。俺に恐れるものなど何もありはしない」

 

 そう偉そうにしゃべりながら、揺らめく炎を眺める。

 俺が一番恐れていること、一番怖いと思っていること。

 それは、マリーメイアが真の力に目覚めないことだ。

 

 マリーメイアは魔王を倒す魔法に唯一目覚める、選ばれし者だ。

 エリンもまた、『2』ラスボスを倒す力に目覚める資格を有している。

 

 だが、マリーメイアが『2』ラスボスを。

 反対に、エリンが『1』ラスボスである魔王を倒せるという確証はない。

 

 マリーメイアを必ず、シナリオに沿い時系列も大きくズレこまない形で覚醒させ、復活する『1』ラスボスにブチ当てなければならない。

 そして俺に、勇者ハルートに、彼女をずっと導く役はできない。

 

 だから……そうか。

 恐れていることは抜きにしても、やろうとしていることは、共有していいか。

 マリーメイアと魔法使いが離れたところにいるのは把握している。今なら大丈夫だ。

 

「話を変えていいか?」

「おいおい、待ってくれよ。まだこっちの質問に──」

「近日中、必要な手順として、マリーメイアをこのパーティから放出する。一時的なものじゃない」

 

 シン、とキャンプが静まり返った。

 僧侶と女騎士が限界まで目を見開き、絶句している。

 

「……あんなに、マリーメイアを溺愛してる君が、そんなこと、できるわけないだろ」

 

 なんとか絞り出した、といった調子ではあるものの、僧侶からの指摘は鋭い。

 当然だと女騎士も追随して頷く。

 だが俺は、この時ばかりは顔色一つ変えることなく首を振った。

 

「できるできないじゃない、決定事項だ。文句があるのならかかってこいよ」

 

 トントン、と椅子に立てかけてある、一族に伝わる聖剣の柄を指で叩いた。

 正面衝突で俺に勝てるやつはそういない。

 まあパーティメンバーと戦えって言われたら正直全員ごめん被るけど。

 それでもやらなきゃいけないなら勝てる、勝つ。

 

 そう意気込んでいると、スッと女騎士が手を挙げた。

 えっこの流れで本当にかかってくることあるの? マジ?

 すみません……撤回いいすか?

 

「此方は今のメンツが好きなのだが……マリーメイアとて此方たちとの旅を楽しんでいるだろう、なぜ皆の幸福を壊してしまうんだ。ハルートを倒せば追い出さずに済むのか?」

「クククッ……」

 

 ちゃんと愛情に溢れた理由だった。

 普通に負けそう。こっちに正当性がなさ過ぎるわ。

 

「あ……此方が勝てばリーダーも此方になったりするのか……!?」

「クククッ……お前普通にそれは図々しくない?」

「あっ……そ、そうだろうな。此方のような図体ばかり大きな人に非ざる者などが意見を言うなど……」

「あああああそんなことないよ! ほらお前の意見毎回超助かってるから! 超絶賢い可愛い最高! 一生助言してほしいわ!」

 

 女騎士がメンタルブレイクを起こしたので慌ててフォローを入れる。

 思い付く限りの誉め言葉を与え続けていると、だんだんと彼女は背筋を伸ばし、頬を赤くして、目を泳がせ、「そんなことは……」と照れ始める。

 よし、なんとかなったみたいだな。

 

魂魄重装転下(ソウルフィスター)!」

「おぼっ」

 

 途端、僧侶が杖を軽く叩いて、俺の頭上から魂を転換した質量を降らせてくる。

 

「何すんだよ……!」

「本筋からそれ過ぎだからだよ。君、マリーメイアに嫌われてもおかしくないけど……覚悟はあるの?」

 

 僧侶からの問いかけに対して、俺は頷いた。

 

「ああ、覚悟はあるよ──俺を嫌うなんて、むしろ、彼女はそうあるべきだと思うから」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 あの時はそう言った。

 覚悟はあった、嫌われるのは仕方ないと思っていた。

 

 でも現実は違った、嫌ったのは俺ではなく自分自身だった。

 彼女が、優しすぎたのだろうか。

 俺はもっと恣意的に、彼女の意思を操るべきだったのだろうか。

 

 俺は間違っていたのか?

 俺は彼女に何をするべきだったんだ?

 

 

 

「……縦一閃ッ!!」

「ほわあああああああああああああっ!?」

 

 

 

 一人でうなだれていたら寮のドアが真っ二つになった。

 ドアだった残骸を蹴り飛ばして、エリンたち3人が部屋の中に押し入って来る。

 なんだこの気合の入り過ぎな強盗は!

 

「ちょっ、お前ら何を……」

「センセが悪いんでしょ、こっちの話ちっとも聞かずに、自分の意見だけ押し通そうとして!」

 

 直接マリーメイアと話したからだろうか、エリンの声は切羽詰まっている。

 

「あの人をあのままにするなんて、ダメだよ! 悲しすぎる……あたし、もしあたしがああいう目に遭ったら、多分耐えられない……!」

「……それは」

「でもあの人は、自分を憎むことで耐えてる! 一番悲しいことじゃん、そんなの!」

 

 髪を振り乱して、彼女は俺の胸ぐらをつかんだ。

 

「だからセンセにはお説教だよ!」

「え……お、俺がお説教される側……?」

「当ッたり前でしょ!?」

 

 ぐいと引っ張られ、鼻と鼻がこすれ合うほどの至近距離にエリンの顔が来る。

 彼女の真っすぐなまなざしに射抜かれ、言葉が出なくなる。

 

「センセだって、言えない側だって辛いだろうけどさ……センセは、言われない側がもっとつらいってことを忘れてるんだよ!」

「!!」

 

 エリンの言葉に、俺はハッと目を見開いた。

 

「事情って、そんなの」

「センセのこと知ってたらみんなそう思うよ」

 

 ね、とエリンが振り向いて級友二人に同意を求める。

 二人は薄く笑みを浮かべて、エリンを俺から引きはがした。

 

「あれえっなんでっ!?」

「くっつきすぎだからだよ~♡」

 

 シャロンとクユミの手で間合いが適切に取りなおされた。

 ちょっと助かる。さっきの距離は普通に無理。

 

 改めて三人並んで、俺を正面から見つめてくる。

 半分ぐらいは睨んでいると言った方がいいかもしれない。

 

「先生は確かに、事情があって……そして、その事情を悟られるわけにもいかなかったのかもしれない。だったらせめて、ちゃんと向こうがどう考えるかまで、予想してあげないとダメでしょ」

 

 淡々と告げられるシャロンの言葉が、グサグサと突き刺さる。

 

「じゃあ、俺は……もしかして……」

「そのとーりだよ、せんせいは暗躍プレーのやる気には満ち溢れてたけど、知性と共感性が全然足りてなかったってこと♡ このミスター落第♡ 他人を操ろうなんておこがましいと思った方がいいよ♡」

「ガハッ」

 

 グサグサ刺さるどころじゃない一撃が飛んできた。

 どてっぱらに大穴開ける大砲打ち込んでくるやつがいたんですけど。

 

「お、俺は本当にそのレベルで……何も理解できていなかったのか……?」

「常識的に考えると自分が実力不足で追い出されたって思うんじゃないの?」

 

 エリンの言葉に、俺は衝撃を受けた。

 

「そんなわけねえだろ!? 大陸最高のヒーラーだって何度も、俺たちだけじゃなくて他の人だって認めてた!」

「で、そのマリーメイアさんを見出して育てた先生が追い出したんだ?」

「どう考えても期待外れだったから、になるよね~♡」

「ザンバお兄様がその辺のこと全部調べて教えてくれたよ。センセにきつく言ってやれって」

 

 ぐっ、あの雷野郎が手を引いていたのか!

 道理でさっきから知り過ぎていると思ったんだよ……!

 

「だったら……俺のやったことは……」

「……ちゃんと謝って、許してもらおうよ」

 

 エリンは一歩前に進み出て、苦笑いを浮かべた。

 

「その、許せないと思ってるとか、許されたくないと思ってるとか……色々、事情は人それぞれだけど。でも、許したいと思える瞬間が来れば、その時に許せちゃうものだからさ」

「……!」

 

 彼女が指しているのが自分の家の問題であることは明白だった。

 

「それにマリーメイアさん、センセに追い出された後も、仲間に恵まれてたみたいだよ。ちょっとキリッとしたお兄さんとか、不思議なメイドさんとか、ノリのいいおじさんとか」

 

 えっ三人目ってパイルバンカーおじさんもういるのかよ。

 仲間集めるペース普通に早いな……まあ、それはいい。

 ていうかパイルバンカーおじさんは普通に超絶いい人だし潤滑油をやってくれるので本当にいてくれて助かる。

 

「それで、マリーメイアさんをこの学校に連れて来ようって言いだしてくれたの、その仲間のおじさんだったんだ。きっと向こうも同じなんだよ、センセとマリーメイアさんがすれ違ったままなのは、仲間として嫌なんだと思う」

 

 ……そうか。

 画面越しにずっと見て、操作して、応援してきたあのパーティ。

 いいや違う、同じ世界を生きる、世界を救う旅をする偉大な冒険者たち。

 彼ら彼女らは、仲間を思いやり、心を痛めている。

 

 これが現実であることなど百も承知していた。

 だから、現実なのだからこそ、死力を尽くして絶対に救わなければならないと思っていた。

 

 シャカリキになって走り続けて、そのせいで見落としちゃいけないものを見落としていたのかもしれない。

 相手の立場になって考えるという、本当に当たり前のことができてないなんて。

 

 ああ──俺、本当に終わってるわ。

 推しを傷つけておいてオタクとか名乗れるはずがない。

 

 だけど推しを傷つけておいて、そのまま放置しているのは、オタク以前に人間として絶対にやっちゃいけないことだ。

 

 俺は決意と共に顔を上げた。

 成すべきことを必ず成すと、三人の前で宣言する。

 

 

 

 

 

「まず……俺は……土下座して腹を切ります……!」

「絶対やめてね♡」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そうしてマリーメイアが辺境の冒険者学校を訪れる日がやって来る。

 これが、テイル王国の歴史に名を遺す大事件の一つが起きる日。

 

 

 後世で『人為魔境事変』と呼ばれる事件の始まりだとは、ただ一人を除いて知らないままに。

 

 

 

 

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