かませ役から始まる転生勇者のセカンドライフ~主人公の追放をやり遂げたら続編主人公を育てることになりました~   作:佐遊樹

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後談

 ダンゴーンが各地に展開した魔族の領域は、順次俺たちや王国軍の手で破壊されていった。

 

 設置された瞬間から人類に対して有害な瘴気を垂れ流すこの迷惑結界。

 なんと放置していると、魔族がわらわらと湧いてくる。

 ラスダン入る前って今までの街で敵がウヨウヨしてたりするけど、アレ用のアイテムだ。

 

 カデンタが対応しに行ったところは既に魔族が出現していたらしい。

 それでも初期状態だったので、殲滅には時間を要さなかったようだが。

 

 ちなみに出て来る魔族は強い弱いとは別で、なんかこう、モブっぽい。

 実際、以前俺がかなり育った魔族の領域を破壊にしに行った際は、湧いてくる魔族たちは自我を持っていないような印象を受けた。

 ……ゲームシステム上はちょっと強い魔族を無限にポップさせていたのだが、現実で見ると、魔族と言うよりは魔族の外見をした操り人形という感じだ。

 

 まあ魔族を生み出すのは魔王だしな。

 魔族が生み出した魔族のデッドコピー、みたいな感じなんだろう。

 この辺りは向こうの文明とか技術とかをもっと知らないと理解できない気がしている。

 

「というわけで、報告書はこんなもんでどうスかね」

「いいと思いますよ」

 

 校舎がなくなったどころか土地がひっくり返って三日後。

 気合で土地をならして校舎を再建した俺と教頭先生は職員室の整備を完了させていた。

 

 校舎がまるごと薙ぎ払われたのだが、勢いが良すぎて建物そのまま土砂の中に転がってたんだよな。

 まだ使える資材とか無事な細かい資料とかが多くてよかったよ。

 

「すみません、お休みの日に見ていただいて」

「それを言ってしまうと、ハルート君だってお休みでしょう」

 

 お互い様ですよ、と笑顔で流してくれる教頭先生。

 彼女に見てもらっていたのは、事件の一連の流れをまとめた、政府へ提出するためのレポートだ。

 

 さすがに色々あり過ぎた。

 というか国土で魔族用領域が展開されたというのが看過できない事態なのだ。

 位の高い魔族が十分なリソースを確保し、時間をかけて術式を形成しなければ、あの瘴気に満ちた空間は出現しない。

 

 俺の場合は魔族が支配している土地なんかにも行ったことがあるので、もっと育ったあの空間を見たことはある。

 しかし国防を主として活動する正規軍はほぼ初見だったろう。国内外で暗躍してるカデンタの助力があったからこそスムーズに対応できたとは耳に入れている。

 

「まあ、色々と、参考になればいいんですがね」

 

 書類をトントンと整理してカバンに入れる。

 

「ところでハルート君、これからはどうするつもりですか?」

「……どうする、って何がです?」

「君が教師になった理由、もっと言えばあの日パーティを解散した理由が、なくなったんじゃないかと」

 

 ああなるほど教師辞めてマリーメイアとまた冒険するのかって話か。

 

「あの三人が相談でもしてきましたか」

「心配しているのはあの子たちだけではありません、計四人ですよ」

 

 教頭先生は女神のように美しく微笑み、唇に人差し指を当てる。

 

「……一度受け持ったからには、卒業まで投げ出さないようにしますよ」

「そうしてくれるとこちらは嬉しいです。でも今度は……」

「はい、ちゃんと話し合って決めます」

 

 合格です、と教頭先生が俺の頭を撫でる。

 いい年して恥ずかしいからやめてほしい──とかはまったく思わなかった。

 

 何歳になっても年上の美人から頭を撫でられるとめちゃくちゃいい気分だな!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 さて後日、そのレポートを提出しに王城へと来た。

 とりあえず役人さんに渡して、じゃあ帰りまーすとはいかない。

 

 同日に行われる、とある実験。

 俺は警護担当というか、何かがあった時に対応する役としてその実験に招かれている。

 

 ここは王城にある、何重にも防護結界を展開した魔術実験室。

 張り巡らされた結界の中心に立っているのはマリーメイアだ。

 

 マリーメイアが探知したという、ダンゴーンの魂のストック。

 本人が言うには、向こうが記憶を覗き込んできた際のリンクで逆算できたという。

 

 ぶっちゃけ何を言っているのかはよく分からない。

 魔族が人間の記憶を勝手に見たり、個体によっては操作したりしてくるのは知ってる。

 

 だけどそこで逆に魔族側の何かをハッキングするのは分からない。

 上級魔族の中でもしつこい連中が疑似的な不死を可能とする、どっかにストックしている予備の魂を見つけるのはもっと分からない。

 ていうか別次元にあるものを探知するなよ。

 

「やはり来ていたな、我が同胞(はらから)よ」

「ん……カデンタか」

 

 いつの間にか、燃えるような赤髪の女が隣にいた。

 

「この実験が上手くいけば、貴様と彼女を組ませてあちこちの上級魔族へとぶつけることになるだろうな」

 

 そりゃそうだ、上手くいったなら俺だってそれを提案する。

 最速最短であのうっとうしい残機制の連中を駆除できるんだ、やらない理由がない。

 

「……まあ正直、難しいと思ってるけどな」

「む、何故だ?」

 

 準備が進んで行く中で水を差すようなことを言うのも忍びなく、俺は声を落とす。

 

「今まで戦ってきた上級魔族の連中は、確かに魔王への忠誠心はどいつも強かった。でも同じ上級魔族同士での連帯なんかしてるのを見たことがねえ。相手が死ぬまでやるタイプの喧嘩をしてるのは見たことがあるけど」

「同胞よ、それは喧嘩とは言わないぞ」

 

 カデンタは真顔で指摘してきた。

 おれもそう思う。

 

「そんな連中が同じ場所に予備の魂を置くと思うか? 多分マリーメイアが探知できたのは、ダンゴーンが自分で作って自分で使ってた別次元空間だと思うぜ」

「むう……道理は通っているか」

 

 同窓生相手に推測を語っていると、実験の準備が完了した。

 

「では……【行くは旅路】【人々のよすが】【我は永久なる先導者】【紡がれた希望に集うがいい】……発動(drive)

 

 マリーメイアは詠唱して『セイントエンドサンクチュアリ』を発動させ俺たちに危害が及ばないようにする。

 それから……両手でズッ、と次元を引き裂いて、腕を突っ込んでごそごそ漁り始めた。

 

「絵面ヤバ」

「棚の奥に入ったものを取り出すときの動きそのものだな……」

 

 本当にこれ別次元に干渉する絶技を行使してる最中なのか?

 実家の部屋を掃除している時の俺なんじゃないか?

 そう疑いの視線を送っていると、マリーメイアは片腕を向こうの次元に突っ込んだまま首を横に振る。

 

「やっぱり魂はないみたいです。何か別のものはあるんですが」

「ではそちらを試しに取り出していただいても?」

 

 研究担当の人に言われて、マリーメイアが頷く。

 

「あ」

「どうした、我が同胞」

「なんかすごい嫌な予感がする。お前どうせ剣使わないだろうしそれ貸して」

 

 ものすごい表情になったカデンタが、半ば押し付けるようにして剣を貸してくれた。 

 直後、マリーメイアが何かを別次元から引っ張り出す。

 

 彼女の手に握られていたのは、魔族の領域を展開するための核だった。

 多分、ダンゴーンが自分で造り上げ、予備として魂と同じ場所にストックしていたんだろう。

 

 あの核は周囲が人間の領域だと判断すれば即座に効果を発動する。

 王城の中なんかもってのほかだろう。

 

『あっ』

 

 全員が異口同音に、これはやばいと声を上げた。

 結果は明白だった。

 マリーメイアを起点として、王都のど真ん中でそれなりの規模の魔族の領域が展開された。

 

 誰も何も言えない。びっくりしすぎているからだ。

 そして、何か条件が普段と違うからなのか、展開された直後だというのにもう魔族が沸いて出て来る。

 

 わらわらと出てくる魔族たちが、完全に包囲している俺たちを見て硬直する。

 逆に俺たちは普通に出てきた魔族連中を見て硬直している。

 

 俺は自分の剣とカデンタの剣を左右の手に持った。

 

「【瀆すは神代】【赤子の祈り】【我は愚かな殉教者】【零落を嘆くがいい】……発動(drive)

 

 爆速で戦闘モードを起動させた後、複数体の魔族越しに、半泣きになっているマリーメイアを見やる。

 

「は、ハルートさぁ~~ん……ッ!!」

「ああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 俺は両手に勇者の剣を持つと、一閃ごとに実験室の壁をズタズタにしながら魔族たちの群れへと突っ込むのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 上級魔族ダンゴーン・ペリゼフォルスが起こした、テイル王国領内で複数の魔族用領域が展開された一連の事件、『人為魔境事変』。

 テイル王国史上でも類を見ない、国内で発生した、魔族による攻撃行動。

 その最終的な段階としては、複数体の魔族とテイル王国の最強戦力たちが王城にて激闘を繰り広げたとされている。

 

 記録を参照すれば、確かに王城での戦闘は存在した。

 つまり王城にまで攻め込まれるほどの時期があったと予想できる。

 

 絶望的であったろうその戦いに勝利したこと。

 それが人類史におけるターニングポイントとなっているのではないか、と後世の歴史家たちは指摘するのだった。

 

 

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