かませ役から始まる転生勇者のセカンドライフ~主人公の追放をやり遂げたら続編主人公を育てることになりました~   作:佐遊樹

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教えるべきことと、過去からの手紙

 練習用グラウンドに魔力の火花が散る。

 3方向から突き刺さる視線。意図を読み解き、狙いを看破し、次の行動を確定させる。

 

 正面から襲いくる太刀を弾く。

 鋭く正確無比な斬撃を、息をするようにしてくるエリン。だがそれ故読みやすい。衝撃も返して相手の体勢に隙を作る。

 しかし、向こうからすれば、これは布石に過ぎない。

 

 踏み込もうとした瞬間に死角を突いて飛翔してくるダガー、返す刀で打ち払う。

 読みにくさではクユミが最大の難所であるものの、今回はあくまで連携訓練。

 最善手を打ってくる以上は、状況をコントロールすればクユミの選択肢を強制一択にさせられる。そうすれば、分かってる攻撃など意識せずとも対処できる。

 

「このッ──!」

「あはっ……♡」

 

 攻撃を完全に処理された二人が揃って俺へと距離を詰めようとした。

 近接戦闘、なわけがない。

 

「それは分かりやすすぎるぞ」

 

 二人が互いを弾くようにして左右へと吹き飛んだ。

 刹那、展開した防御魔法にシャロンの砲撃が直撃する。

 

「……!? 読まれた!?」

 

 そりゃそうだよ。

 エリンとクユミのコンビネーションは、見えてるのに対応しにくいエリンとこちらの視界から外れるクユミの波状攻撃が最大の魅力なんだ。

 

 そんな彼女たちが足並み揃えて突っ込んでくる時点で何か狙いがあると分かる。

 なら援護砲撃を警戒するのは必然だ。

 

「でも!」

「まだ終わんないよ♡」

 

 防御魔法の展開で足止めされた俺の体を、ワイヤーアンカーが絡め取る。

 これが実戦なら力ずくで引きちぎるか逆にクユミを振り回してエリンにぶつけるところだが……

 

「もらった! 縦一閃!」

 

 正中線をなぞるようにして放たれる、ソードエックス家奥義。

 動きを制限されている今、防ぐことはできない。

 ならアレだな。

 

「よっと」

 

 半歩だけズレて上体を反らす。

 縦の斬撃が丁寧に俺の体の表面をなぞり……ぐるぐるに巻き付いていたワイヤーだけを断ち切った。

 

「はぁ!?」

「えっ!?」

 

 そのままエリンの首筋へと切っ先を突きつけて、慌てて突撃してきたクユミの刺突を掴んで止める。

 

「終わりだな」

 

 通告すると同時に、剣を腰へと戻す。

 今回は三人の連携訓練を行っていた、一人でも落ちれば終了だ。

 

「負けたー! 手も足も出なかった〜!」

「まあ勝ち負けの訓練じゃないからね♡ ちゃんと動き見直して糧にしよ♡」

 

 大の字になって横たわるエリンに、苦笑しながらクユミが話しかける。

 スカートでその姿勢はやめて欲しい……

 

「最後のはせんせいの動きが気持ち悪すぎただけだし♡ 荒れ馬の馬車に煙草の先だけ接触させて摩擦で火をつける、みたいなこと簡単にしないで♡」

「本当だよね、首の皮一枚よりひどいってどういうこと…?」

 

 実は切れてるんじゃないかとクユミが俺の服をペタペタ触り始める。

 やめんか。ちゃんと見切って回避してるんだよ。

 

 近接戦闘組がああだこうだと意見を交わしているのを見守っていると、遠くからシャロンが歩いてきた。

 先ほど発動した砲撃魔法の余波か、彼女の周囲だけ魔力が微妙に荒れている。

 

「シャロンの援護も、タイミングは良かったぞ」

「……うん」

 

 巨大な得物を抱えて、シャロンは意気消沈した様子で頷く。

 うーん……多分、ほか二人に比べて貢献できた実感が無いんだろうな。

 

「実際、常にシャロンから撃たれるのを警戒しなきゃいけなくて大変だったよ」

「……そう、だったらいいんだけど」

「いるだけで脅威っていうのは本当に凄いことなんだ、あとは具体的な行動の幅を広げていこう」

 

 これが同窓生連中だったら『何もせず黙ってるのが一番ということかい?』『じゃ寝ときま〜す』『お前を敵ごと葬る準備はできてるってことを忘れるなよ』とありえないぐらいボロクソ言い返してきそうなものだが、シャロンは素直でいいなあ。

 

 とはいえ、色々と気にしてるのは事実か。

 奥義をモノにしてから調子のいいエリンに元々幅広く色々とできるクユミが同期となれば、確かに現状のシャロンは歯がゆい気持ちがあるだろう。

 

 単純な手数の差だけではない。

 戦闘経験数が違うことは、戦闘中の思考の数、発想の方向性の豊かさに直結する。

 

 まあ、そういうのを抜きにした、全部を単一のやり方で突破できてしまう化け物はいるんだけどね。

 女騎士とか、女騎士とか、女騎士とか。

 

「……そうだね、私にできること、増えるといいんだけどね」

 

 ぼそりと呟かれた言葉に、俺は黙り込む。

 思っているよりもこれは深刻そうだな……ちょっと考えなければならないだろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「というわけで、率直に意見をお伺いしたいんです」

「なるほど……」

 

 串打ちされ丁寧に焼き目をつけられた肉を片手に、俺は教頭先生に問いかけた。

 ここは冒険者学校から早馬で少しの小さな町。

 夜でも明かりに照らされている道の一角、俺たちの行きつけのお店だ。

 

 西暦世界で言うところの焼き鳥屋さんに近いだろう。

 その日その日で仕入れた新鮮な肉を、昼のうちに下ごしらえして串打ちして、職人の腕で焼き上げてくれる。

 

「シャロンは多分、目に見えての成長が欲しい時期に差し掛かっています。率直に言えば伸び悩みを自覚する時期です」

「でしょうね。元々の素質が素質なだけに、一朝一夕で目に見えた進歩が見えづらいのは確かです」

 

 そう言うと、教頭先生は顎に指を当ててうーんと唸った。

 ゲーム知識を参考にするのならば、シャロンはレベルが高くなっていくほどに火力も上がっていく。

 日々の訓練は絶対に無駄にはならない。

 

 だが、やることが変わらないのは事実。

 火力担当として、上のランクの魔法を覚えたらそれに切り替わるだけ。

 溜めたポイントを消費してぶっぱなす、というムーブはほぼ変わらない。

 

「……彼女が求める進歩を提供できる引き出しが、俺にはないように感じるんです」

 

 攻略本を片手に効率よくキャラを育成している、と割り切るのなら楽だろう。

 だが違う、相手は人間だ。俺はそこを二度と適当に誤魔化してはいけない。

 

「だからあなたの、教育者の先輩としての意見を伺いたい」

 

 串に刺さっていた肉をぐいと頬張って、体ごと教頭先生に向き直る。

 白く細い指でグラスのふちをなぞりながら、彼女はフッと笑った。

 

「すみません、ハルート君。少し本題からそれますが」

「はい」

「最近は随分と、余裕が出てきたみたいですね」

「あー……」

 

 言わんとすることは分かる。

 教師を始めて一ヵ月ぐらい経っただろうか。

 自分でも、仕事にかける労力が効率化されてきたし、生徒について考える時に教える側として色々と工夫できるようになってきた。

 

「やっぱり、仕事に慣れてきたからですかね?」

「もちろんそれは大きいと思いますが、マリーメイアさんの一件後は君と言う人間が大きく変わったように思います」

 

 ……まあ、そりゃそうだよな。

 今までの人生の中でずっと抱えていた大問題が、ついに片付いたのだ。

 

 いやまあ、結局のところ、『余計な手を回さず順当にマリーメイアが成長すること』に賭けるしかない、となったわけだが。

 果たして彼女がどうやって憎しみと愛を知るのかが分からない以上は、原作シナリオを順守するのをあきらめた場合、ここに着地するのは自然か。

 

 ちなみに教頭先生にだけは、上記のマリーメイアが魔王を倒す魔法に目覚める条件を共有している。

 というか俺だけでは判断しかねるところが多すぎて、先生に共有して『どこからどこまでを伝えればいいんですかね』と相談したのだ。

 

 結果としては『目的だけ伝えるのが無難』となり、実際にそうした。

 俺一人では決めかねていただろう、本当に助かった。

 

「この間、マリーメイアの件で相談に乗ってもらったばかりなので心苦しいですが……」

「水臭いことは言わないものですよ、ハルート君。たった二人の同僚なんですから、なんでも相談してくださいね。私も何かあれば相談しますから」

「ははは……分かりました、教頭先生に頼られるぐらい頑張ります」

「随分と大人になりましたね、昔はあんなだったというのに」

 

 グラスの氷を鳴らして微笑む教頭先生。

 

「昔の自分、あんまり思い出したくないですね。イタ過ぎて普通に死にたくなるんで」

「でも、悪ガキではありましたが善の味方なのは昔からでした。私の目をかいくぐって授業をサボって、五人で世直しだの悪人退治だのに繰り出していましたね」

 

 当時の俺本当にイタいなあ!

 自分への罰として、普通じゃない死に方で死にたくなってきた。

 

「あれは本当に若気の至りと言うか……」

「ですがカデンタさんは、あの活動は今の仕事の根底にあると言っていましたよ」

「悪ガキの自警活動が王国機密部隊にはつながらないでしょう……!?」

 

 さすがに目を剥く俺に、教頭先生はグラスの中身を一口飲んで柔らかく微笑んだ。

 

「人生とはそういうものですから。小さな小石に躓いたことを、時間がたった後、大きく飛び立つ時に思い出したりするものです」

「……そういう、ものなんですかねえ」

「そうなんです。君は兵士を育成するスキルには長けていますが、生徒を導く大人としてはまだ経験が浅いから、この辺りを学んでいくといいでしょう」

 

 ぐうの音も出ない指摘が飛んできた。

 そりゃそうだな、あれもこれもと人生経験を積んでる暇はなかった。

 前世の記憶があるからギリ、ってところだ。なかったら今頃は戦闘マシーンだろう。

 

「だからシャロンさんの気持ちを、君は本当はよく分かってあげられるはずです」

「……!」

 

 進歩したいと思っている、それは事実だ。

 でもそれがシャロンと共有できる思いだとは、考えていなかった。

 

「教師とは教え導く者ですが、本当にそれだけなはずがありません。時には何かを与えるだけではなく、寄り添ってあげることも必要です」

「……確かに、そうですね」

 

 シャロンに何を与えるか、だけではない。

 シャロンが何をどう感じるのか、というところにも、教師として接していく必要があるというわけだ。

 

「すみません、ありがとうございました」

「ふふっ、とんでもないですよ。いつか私の相談にも乗ってくださいね」

「ええ、もちろん。今日のところは、ここのお代でどうでしょうか」

 

 早めに仕事を切り上げてきたから、今日は時間に余裕がある。

 じっくり飲み食いできるだろうと思っての発言に対して、教頭先生はスッと目を細くしてメニュー表を手に持った。

 

「大将さん、ここからここまで」

「へい」

 

 教頭先生の指が滑らかに、美しく、メニュー表の端っこから端っこまでをすべっていった。

 嘘でしょ……

 

 店の厨房に立つ大将は一切動揺せず了承したし、他のお客さんたちも『あーあ』『あの"酒干しの美神"相手になんて無謀な』『若さゆえの過ちだな』と気の毒そうな視線を向けてくる。

 みんな知ってたのかよ! なんで教えてくれなかったんだよ今の今まで!

 

「ハルート君、では授業です。軽率な言動をする前に、彼我の状況・スペック・環境をよく確認しなくてはならないということ……教えたはずなのに忘れていたようで嘆かわしいです。再度叩き込んであげましょう」

 

 そう告げる教頭先生は本当にきれいだった。

 多分だけど、ソドムとゴモラを焼いた天使もこれぐらいきれいだったんだろうな、と思った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日、ガンガンに鳴り響く二日酔いの頭痛を気合でねじ伏せ起床。

 顔を洗い水をガブ飲みして、なんとか職員室へとたどり着いた俺を意外な人物が待っていた。

 

「あ、おはよ、先生」

 

 困った表情のシャロンがなぜか先に職員室に来ていたのだ。

 ちなみに教頭先生はさらっといつも通りに席に座っている。

 どうなってるんだ。酷い詐欺に遭った気分なんだが。

 

「おはよう、シャロン。どうしたんだ」

「えっと、その、相談があって」

 

 チラリと教頭先生へと視線を配る。

 彼女は無言で、こちらを見ることもなく頷いた。

 

「じゃあ、ちょっとあっちに行こうか」

 

 指し示した先、職員室の片隅でパーテーションに区切られた談話スペースに向かう。

 来賓と軽くしゃべる時とかに使う場所だな。

 

 向き合う形で置かれた二つのソファーに、それぞれ腰かける。

 彼女はずっと、片手に白い封筒を持っていた。

 

「相談っていうのはその手紙か?」

「うん」

 

 やや気まずそうに、シャロンは口を開く。

 もう嫌な予感しかしない。

 

「それが……昔、私の結婚相手に決まりそうになってた人が、この学校を見学したいって……」

 

 また保護者からケチつけられるのかよ──ってえ、何?

 昔結婚相手に決まりそうになってた人?

 

 ガチの他人じゃねーか! ふざけんな!

 

 

 

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