かませ役から始まる転生勇者のセカンドライフ~主人公の追放をやり遂げたら続編主人公を育てることになりました~   作:佐遊樹

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ブレイブハート卿の事情

 座学を終えた後、食事時間を兼ねたお昼休み。

 普段通りにエリンたち三人組は教室でお弁当を並べてランチタイムを楽しんでいる。

 

 一方で俺は、トップガン・ブレイブハート卿と二人で学校の屋上に来ていた。

 嫌だなあ青春イベントスチルっぽいよこれ。めっちゃ空綺麗だし。

 

「いやあ、いいところでごわすな。王都と比べて空気が澄んでるように感じるでごわす」

「まあ、人が少なくて自然が多いですからね」

 

 どっこいしょと座り込んだブレイブハート卿が、自前の包みを取り出す。

 まさかな、と思って見ていると、つつみの中からはゴッツイおにぎりが出てきた。

 お前100点満点かよ。

 

「ハルートさんもメシにしたらどうでごわすか」

「……そうですね」

 

 ブレイブハート卿の前に座り込み、自前の弁当箱を取り出す。

 今朝はバタバタしてしまったので簡単なのり弁だ。

 白米とのりを交互に敷き詰めて、魚を水分が飛ぶまで炒めてフレーク状にしたものを散らした。

 

「おっ、可愛らしいお弁当箱でごわすな。30点加点」

「それどう説明するんですか? 弁当箱のデザインが良かったので加点しましたって言うんですか?」

「はっはっはっ、そこは今晩考えるでごわすよ」

「後付けなのか……」

 

 っつーか男二人で米とのり食ってるだけかよ。

 奇しくも同じ構えじゃねえか。昔の野球部かな?

 

 もしゃもしゃとご飯を食べていると、ブレイブハート卿がおにぎりを一個むんずと掴み、大口を開けて丸呑みにした。

 丸呑みにした!? ヘビじゃん。

 想像を絶する光景にフリーズしている間に、彼は二個目へと手を伸ばす。

 

 ああいかん、これだと普通にメシ食うだけになるわ。

 俺はきちんと情報収集するべく、箸をいったん止める。

 

「……通い続けるのにふさわしくないと判断された場合、シャロンはどうなるんですか?」

 

 問いかけると、彼はおにぎりを掴んだまま動きを止めた。

 

「具体的にどうするかはおいどんも聞いとりません。ただ、学校を出ることになる可能性は高いと思うでごわす」

「あなたが聞いてないって……かつて婚約者になるはずだったあなたと結婚する、とかじゃないんですか?」

 

 当然の指摘だった。

 しかし彼はスッと表情を消した。

 意図したものというよりは、瞬間的な感情の揺れを制御した反動に見える。

 

 おっと、これは地雷だったか。

 とはいえ……シャロンと彼の年齢差を考えると、引っかかる。

 

 当時まだ幼かったシャロンとの婚約に執着しているとなれば度し難いロリコンだ。

 でも、彼女のことをそういう目で見ている様子はない。

 むしろ純粋な保護者として、親より親らしく振舞っているじゃないか。

 

「そろそろ教えてくれませんか? 何が目的なのか」

 

 探りを入れるのもバカバカしい。

 二人しかいないんだ、直接聞いた方が断然早いだろう。

 

「……シャロン殿の立場が難しいものだということは、ご存じでごわすか?」

「一応は」

 

 原作シナリオとは色々違う形になっているものの、教師として多少は把握している。

 家からすれば、役に立たないのなら追い出したい、しかしその魔法の才能に価値はある……みたいな感じのはずだ。

 

「そろそろ全部、お話しした方がよかですね」

「情報共有するためにここへ?」

「本人や、まだ学生やっとる子らには聞かせたくない話でごわすからな」

 

 そう言って彼は二個目のおにぎりを丸呑みした。

 なるほどなと納得がいく。

 となれば家の事情なんだろうが、正直方向性は想像がついていた。

 

「直接言われたわけではないでごわすが……一度は白紙になったものの、おいどんとの縁談を再度前向きに検討したい、とご両親が言い始めておるようです」

 

 やっぱりな! もう食傷気味なんだわそれ。

 つーか、それならこんな辺境の学校に送り出してくるなよ。

 ソードエックスといい何なんだよ三人組の家、面倒くさすぎるって。

 

「ブレイブハート卿は乗り気ではないのですか?」

「シャロン殿は学校を楽しんでおられるようでごわすからな。どうしようもない事情というのは世の中に多々あるものの、此度はちいと彼女の意思を無下にし過ぎかと」

 

 彼はシャロンが学校に通い続けられるように動いている、らしい。

 どこまで信頼していいのか分からないが、いったん信じないと話が進まねえなこれ。

 

「じゃあ、ご両親を説得する材料を得るために?」

「そういうことでごわす」

 

 鷹揚に頷いた後、ブレイブハート卿は表情を真面目なものにした。

 彼は顔を寄せて、そっと声を落とす。

 

「ですが今回の話、どうもシャロン殿のご両親が決断したというよりは、ご両親に何かを吹き込んだ者がいるようでごわす」

「あなたとシャロンを結婚させたい人がいると?」

「ええ」

 

 なるほど構造はハッキリ見えた。

 ただ、その黒幕のモチベーションが謎だな。

 シャロンとブレイブハート卿を結婚させて得をするやつ、いまいち想像がつかない。

 

「迷惑なキューピットでごわすよ。おいどんは年上が好きなんでごわすが……ちょうどここの教頭先生のような美人さんだと最高でごわすね」

「ははっ」

 

 気持ちは分かる。

 良い人そうだし、戦って俺より強かったらご飯ぐらいセッティングしてあげようかな。

 

「……あー、教頭先生のくだりは冗談でごわすよ」

「何言ってんですか分かってますよそれぐらい」

「聞いた通り、本当に身内と認めた人には甘く、懐くタイプでごわすね……」

「ちょっと待ってください、聞いた通りってなんですか?」

 

 冷や汗を垂らすブレイブハート卿に、俺は待ったをかけた。

 ちょっと聞き流せない言葉があった。

 

「酒場で出会った吟遊詩人に聞いたでごわす、勇者の末裔ハルートはこんな性格だと」

「あの野郎……」

 

 同窓生の一人、合コン狂いのアイアスだろう。

 俺のプライベートを他人が切り売りしているの、かなり最悪だな。

 ま、あいつなら仕方ない。

 

「次会ったら注意した方がよかとですか?」

「いやいい、気にしなくて大丈夫ですよ」

 

 聖騎士相手でも、あいつ喧嘩できちゃうだろうしなあ。

 とにかく、話がそれすぎた。

 本題に戻ろう。

 

「それで、シャロンの両親に何か吹き込んでいるのが誰なのかは分からないと?」

「ええ。ですから、おいどんの報告にはそれなりに色を付けますが、それがどれくらい効果を持つかは分からんとです」

「なるほど……」

 

 シャロンは今は学校に通うべきだろうとブレイブハート卿が進言してくれる、それ以外に対応が見当たらないな。

 こういう時、教師としては保護者の意見を無下にできない。

 

 ソードエックス家の場合は最終的に当主代行と直接話すことができた。

 だが今回もそういう機会があるとは限らない。

 どうしたもんか、いや手をこまねいているわけにはいかないか。

 

「その、唆してるやつに目星でもついたら連絡をくれませんか」

「ええ、もちろんそのつもりでごわす。おいどんは権力は持っとりますが、その分しがらみも多く、お恥ずかしながらあんたさんの手を借りねばどうにもならんかと」

「そう判断してくれて助かりました」

 

 エリンの件で俺も学んだ。

 ダルい方向に展開される前にさっさと黒幕と話をつけるのが一番いい。

 

「では、そのへんは王都に戻ってからの、おいどんの報告を待ってもらえればと」

「よろしくお願いします」

 

 話はまとまった。

 俺は箸を再度動かし始め、ブレイブハート卿は三つ目のおにぎりに取り掛かる。

 だがその時、彼はスッと水筒代わりのポットを手に取った。

 

「それは?」

「自家製のだしを入れとります。最後はお茶漬けにするのがおいどんは好きでして」

「あっちょっズル……それはズルいって。ちょっとくださいよそれ」

「……ッ!?」

 

 目を見開き、ブレイブハート卿は手を震わせながらポットを差し出してきた。

 どういう反応なんだよ。

 俺は弁当箱にトクトクとだしを注ぎ、茶漬けをズズ……と啜った。うま。

 

「おいどんがつくっただしが……ハルートさんの体の中に……っ!」

 

 視界の隅でビクビクと震えるブレイブハート卿。

 凄く嫌な気分になった。

 だし茶漬けは凄い美味しいのに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 さて、昼ご飯を終えての午後、実技授業。

 俺たちは装備を持って、練習場に集まっていた。

 

「じゃあ見本として俺とブレイブハート卿で瞬間火力の見本を見せるからね」

 

 離れたところに並んで座る三人に声をかける。

 彼女たちは頷きながらも、心配そうに視線を横へ向けた。

 

「おうふ……お、おいどんがまさか、ハルートさんと打ち合いをさせてもらえるとは……」

 

 そこには恍惚の表情を浮かべ今にもヘブン状態になりそうな聖騎士がいた。

 直視したくない。

 

「センセ、えっと……瞬間火力の出し方、って?」

「ああ、いつ、何を目的にして火力を出すのかを見て研究してほしいんだ」

 

 やたらめったら、ずーっと最高出力で戦うのは地味に難しい。

 敵軍の中ならそれが早いけど、あんまりそういう機会はない。

 なので生徒たちには、適切な力の入れるタイミングの見極めをできるようになってほしいのだ。

 

「そっちに余波が飛んで行かないようにはするけど、一応気を付けておいてくれ」

 

 注意を飛ばした後、詠唱を省略して『救世装置(偽)』を発動。

 練習用の剣を勇者の剣に上書きして、ぴかぴかと光らせる。

 さすがに模擬戦なので、フル詠唱する必要はない。

 

「ほら始めますよブレイブハート卿、戻ってきてください」

「ハッ! ……こ、こりゃ失礼しました」

 

 声をかけると、彼の魂は現世に帰って来た。

 それから俺の持つ剣をまじまじと見つめてくる。

 

「それが噂に聞く勇者の剣でごわすか」

「出力は抑えてありますけどね」

 

 向こうだって鎧はなく、戦闘用の魔法すら発動していない。

 聖騎士は何もせずとも全身に神秘を纏い、拳一つで岩を砕く。

 下手に戦闘の準備を整えてしまうと殺し合いになる。

 

「じゃあ始めましょうか」

 

 告げて、剣を構えた。

 こうして練習場で向かい合えば分かる、聖騎士の強さ。

 本当に隙がない。こっちから仕掛けたくない、ちょっと待つか。

 

「まずは小手調べをされておくでごわすな」

「小手調べをされておく、聞いたことねえ言葉過ぎる」

 

 俺がする側なのかよ。

 ブレイブハート卿が手をかざし、弾丸状に圧縮した神秘を放ってくる。

 

「砲撃戦か……」

 

 飛び込んでくる神秘の砲弾を、するりと避ける。

 足元の地面が爆砕するのに構わず、こちらも勇者の剣から光を放つ。

 それを聖騎士は剣で叩き切った。えっ対応早っ。

 

「流石に少しはビビってくれると良かったんですが?」

「吟遊詩人が語っておったとですよ、ハルートさんは器用に全距離に対応できると。遠距離は10点中9.6点とか」

「俺の戦法解説まで酒場でしてんじゃねえよあいつ……!」

 

 かつての親友が企業系wikiみたいになっていた。

 最悪の気分だ。

 ……不得手なつもりだったが、あのスペシャリストから見て9.6点か。

 

「なんかセンセ、嬉しそうだね?」

「ハァ? 全ッ然嬉しくね〜けど?」

「わあ超嬉しそう♡」

 

 クユミがにまにま笑っているのを意図的に視界から外す。

 

「では、いよいよ胸をお借りするでごわす」

 

 小手調べは終わりか。

 ブレイブハート卿はすっとリーゼントみたいな髪を撫でつけた後、地面を爆砕して加速した。

 

 目で追う先、壁を蹴って再度彼の体が加速する。

 あっ!? 違うな今、蹴ってない!

 体ごとぶつかって跳ねてたぞ。

 

「え? あ? いや……」

 

 ビュンビュンビュンビュン!! と音を立てて彼の体が跳ねまわる。

 飛翔でも跳躍でもない、人間大の跳弾と言うべきか。

 

 一体どこからその弾性が来ているのか、地面や壁と接触するたび器用に跳ねて、聖騎士が縦横無尽に俺の周囲を跳びまわる。

 俺と同じように、詠唱を省略しつつも何かの魔法を使っているのだろう。

 

「ちょっ、何!? どういう戦い方なのこれは!?」

 

 シャロンが超高速で跳びはねる騎士の姿に悲鳴を上げた。

 さっきからこの人、剣で地面をひっかいて方向転換してるけど、それ以外は本当に、ただ勢いのままに転がっているだけだな……

 

「ねえどういうこと? 何を見させられてるの、私たちは」

「ん~見た目はバカバカしいけどさ、ぶつかったらバラバラになっちゃいそう♡」

「あ……」

 

 クユミの言葉を聞いて、シャロンやエリンも気づく。

 多分そう言うことだ、そういう戦法なのだ。

 

 今は着てないけど、鎧は破壊力を底上げするために。

 眩き名剣は地面をひっかいて方向転換をするために。

 要するには自分を鎧に覆われた砲弾として扱う体当たり戦法なわけだ。

 

「聖騎士さんの戦い方じゃない……」

 

 分かりやすいぐらいにエリンがドン引きしていた。

 俺もそう思う。

 

「さあいくでごわすよッ」

 

 威勢のいい声が響く。

 いつ仕掛けてくるかと警戒しつつも、俺は泣きそうだった。

 

 異世界転生して勇者の末裔になって美少女三人の教師になって。

 俺は今、小太りの男に周囲をビュンビュン飛び回られている。

 どういう罰ゲームなんだよこれぇ!

 

 

 

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