かませ役から始まる転生勇者のセカンドライフ~主人公の追放をやり遂げたら続編主人公を育てることになりました~   作:佐遊樹

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突入戦闘

 カデンタからの手紙に記されていた研究所を、シャロンと二人で目指す。

 授業と言うだけあって、俺は教師用のスーツに近い正装、シャロンは制服姿だ。

 

 とはいえ得物を持っているからか、すれ違う人々は不思議そうにしている。

 冒険者バッジを引っ張り出してなければ騎士がすっ飛んできたかもしれない。

 まあ聖騎士と戦いに行くんですけどね。ハハハ……

 

「エリンたちは置いてきてよかったの?」

「戦力として使えないのは本人たちが申告してるし、大勢で押しかけるのも失礼だからな」

「そ、そっか」

 

 王都から二つほど離れた町の一角に、洋館を丸ごと研究施設に改造した建物がある。

 そこがアークライト卿の研究施設だ。

 

「先生は、そこの研究所が作った何かを使ったりは……」

「全然してないな。ソロのころはそういうスポンサーみたいなの一つもなかったし」

 

 魔法使いと出会ってから初めて、二人で暮らしていくなら必要だなとなって貴族たちに顔を売り始めたわけだし。

 僧侶、女騎士が加入したころには別で太いスポンサーがついていた。

 正直言って聞いたこともない。

 

「あ、先生。多分ここだね」

「ん……?」

 

 シャロンが指さした先を確認して、頬が引きつった。

 寂れた洋館、と呼ぶほかない、薄暗く人気のない邸宅が息をひそめるようにして佇んでいる。

 

「うん、アークライト研究所って書いてある……先生?」

「あ、ああ」

 

 埃と汚れにまみれた表札を確認して頷くシャロン。

 その隣で、俺は冷や汗をダラダラと垂らしていた。

 

 研究所跡地じゃん。

 いや……跡地じゃないけど今目の前にあるのは。

 でもこれ、2のサブクエで何度か探索に来たりする『研究所跡地』と同じ外観じゃん!!

 

 いやだってこれ、地下入ったら禁呪指定っぽいキメラとか出て来る場所ですよ?

 年齢制限かかってないのが不思議なグロいグラの敵がわんさか出て来るんですよ?

 何も知らない配信者たちが突然洋ゲーみたいな世界に放り込まれて阿鼻叫喚だったんですよ?

 普段ぽわぽわしてる配信者だけがぽわぽわしたまま敵を殺戮し始めて死ぬほどバズってたんですよ?

 

 ……ここ、アークライトさんの研究所だったの?

 じゃあ2の時間軸では、完全に屋敷はすたれていたということになる。

 すでに貴族としてすら失脚していたのだろうか。1と2の間に。

 ブレイブハート卿の姿かたちが全然違うのといい、どうも根本的なところでズレが生じているのは確実だな。

 

「……もしかして先生、緊張してるわけ?」

「ん?」

 

 隣を見れば、シャロンがこちらをじっと見つめていた。

 普段の無表情の中に、ちょっと馬鹿にしてくるような色合いがある。

 

「黙り込んじゃって、どうしたの?」

「ちょっと、考えることが多くてな」

「フーン。ま、行こうよ」

 

 いや君は君で緊張が解け過ぎじゃない?

 手ぇ引っ張って来るし……いや道ぐらい分かるからね?

 

 

 ◇

 

 

 研究所の敷地に入った時から、ざわりと体を不快感が舐めた。

 外とは何か、温度や湿度以外に何かが大きく違う。

 警戒を切らさないまま、そっと正面の扉を開く。

 

 キィィ……と金属のこすれる音と同時、二人は屋敷の中へと侵入を果たした。

 

「カデンタからの情報によると目指すべきは地下最奥だな」

「内部構造まで調べてるの? 凄いね、流石軍人さん」

「……まあな」

 

 まさかこれが前世で覚えたマップ知識だとは言えず、ハルートは口笛を吹きながら誤魔化す。

 彼に先行する形で前へと進むシャロンは、そっと背後の担任の様子をうかがった。

 

(私を連れて行くって言われた時はびっくりしたけど、よく考えたら都合がいい……)

 

 修行の神殿から帰って来た夜。

 半分ぐらい寝ながら三人組で夕飯を食べている時、クユミは興味深い話をしてくれた。

 

(精霊がコピーした先生……普段よりずっと怖くて、強かったって言ってた)

 

 トラブルに巻き込まれた際も、課外授業に連れて行った際も。

 恐らく自分たちは、彼の本気の一端すら見ることができていない。

 

(だったら、ブレイブハートさんだったら……もしかしたら先生も、本気を出せるかもしれない)

 

 そんなことを考えながら、階段を下りていく。

 

「あ」

 

 ふと気配を感じて、シャロンは踊り場で足を止めた。

 地下1階から2階へと向かう途中、行きつく先である地下2階の廊下で影がこちらを待っている。

 

「先生」

「ん、実験個体Aかな……」

 

 小さい声でつぶやいて、ハルートはシャロンの隣に並ぶ。

 彼はじーっと敵を見つめたあと、肩をすくめた。

 

「じゃ、任せたから」

「はあ!?」

 

 あれぐらいやれるだろ、と余裕しゃくしゃくの表情を見せる担任教師。

 思わず文句を言いそうになったところで、先んじて彼が口を開く。

 

「魔王の影と比べたら雑魚オブ雑魚だよ。やばくなったらすぐ助けるから」

 

 助ける、というよりも、恐らくこの間合いであろうと刹那で処理できてしまうのだろう。

 

(……流石にここまでお膳立てされたら、やるしかないか)

 

 覚悟を決めて、シャロンは突撃槍を握って階段を駆け下りる。

 足音に反応した様子で、複数の影がぐるりと上半身をひねって彼女を見た。

 

「え──こいつら、何!?」

 

 先制の砲撃を放とうとした体が驚愕に止まる。

 ボロボロに劣化した包帯に全身を巻かれた人型の敵は、明らかに大きさの違う手足を強引に結びつけられた異形だった。

 神経がつながるはずがないというのに、それらは呻き声をあげて走って来る。

 

「ぐっ……!」

 

 振るわれる拳と、怖気の走る噛みつきが左右から迫る。

 突撃槍を使って、シャロンは素早く敵の攻撃をすべて叩き落とした。

 

(……ッ!? 何今の、私がやったの!?)

 

 恐怖と嫌悪から、明らかに動き出しが遅れた。

 だがガードは間に合い、流れるようにして体が反撃を放つ。

 横一閃に振るわれたランスが、二体の異形を吹き飛ばした。

 

「おーおー、早速成果が出てるな」

 

 階段の途中で気だるげにこちらを見守っているハルートが、ぱちぱちと拍手する。

 

「先生、なんか私しかいないからって、テキトーしてない……?」

「エリンとクユミはこういう隙を晒すと容赦ないけど、君はスルーしてくれるし」

 

 そう言ってネクタイを緩め、あくびすらするハルート。

 言葉と態度は最低だったが──ちょっと嬉しい、隙を私には見せていいんだ、と思ってシャロンは顔を逸らした。

 

「次来るぞ」

「分かってる!」

 

 迫るは人型以外にも、四足歩行の獣型や、熊に近い巨体と八本足の異形などバリエーション豊かな実験個体たち。

 それらを迷わずシャロンは断ち、突き込み、吹き飛ばす。

 

「そろそろ砲撃使っていいかな」

 

 いつの間にか真後ろにいたハルートの言葉。

 聞いた瞬間の反応で、突撃槍を砲撃モードに切り替え、無詠唱で砲撃をぶっ放す。

 廊下を埋め尽くしていた異形たちが、裁きの光を浴びて分子単位に還元されて消し飛んだ。

 

「……ありがと、確かにそうだったかも」

 

 判断を手助けしてもらった、というのはマイナスポイントだろう。

 少し歯がゆさを感じながらも、シャロンは背後に振り向く。

 

「え……ちょっと出力上がりすぎっていうか、今変な消え方しなかった?」

 

 ハルートは顎に指を当てて、何も残っていない廊下を見て頬をひきつらせていた。

 さっきまでの余裕たっぷりな態度が崩れまくっている姿に、思わず噴き出しそうになる。

 

「……何ですか、シャロンさん」

「修行の成果ってやつじゃないのかな。ハルート先生が言っていた、さ」

 

 そう言われては返す言葉はなく。

 ハルートは無言で肩をすくめ、次の階層へ行こうと告げるのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 階段は地下6階で終わった。

 シャロンが実験個体たちの骸を無数に積み上げて(あるいは消し飛ばして)踏破するのを見守った後、俺たちは、怪我一つないままに最奥の広間へとたどり着いていた。

 

「……見るからにここだけど、合ってる?」

「情報によればここがゴールだ」

 

 その言葉を受けた直後、シャロンはドアを魔力砲撃で吹き飛ばした。

 判断速すぎ。

 

「行こう」

「……ちょっと適応し過ぎだろ」

 

 ハリウッド映画に出て来るかっこいい女主人公みたいな顔になっている。

 堂々と踏み込んだ彼女の後を追って、俺も広間に足を踏み入れた。

 

 中身は広いアリーナ状になっており、コントロールセンターとかではなく、恐らく実験個体同士を戦わせていたんだろうなと推測できる。

 地面だけでなく、空間そのものに血の匂いが染みついていた。

 

「趣味の悪い場所だね」

「同感だ」

「──そうですか、趣味が合わず残念ですよ」

 

 声が響き渡った。

 顔を上げれば、観客席に該当するスペースの最上部にて、玉座のような椅子に座るアークライト卿の姿がある。

 

「ようこそ、ハルートさんにシャロン君」

「どうも。呼び鈴が見つからなかったんだが、大丈夫だったか?」

 

 敬語を放り捨てて、俺は嘲笑を浮かべた。

 

「気にしないでください。こちらこそ、急なお客さんとあって、もてなしがいささか雑になったのは申し訳ない。今日はどんな用件で?」

「あんたの企みを全部ぶっ壊しに来た。諦めて、謝罪して、捕まってくれるか?」

 

 アークライトが笑みを浮かべて、彼の真横に佇む男へ視線を送る。

 

「だそうです。どう思いますかトップガン君?」

「……我が主の敵であるというのなら排除します」

 

 長い黒髪を一つに束ね、荘厳な鎧を身に纏う、絵本から出てきたような理想の騎士。

 すれ違う人々の誰もが思わず振り返るであろう、美しく気高いその姿。

 

 見間違えるはずもない。

 聖騎士が一人、トップガン・ブレイブハート卿本人だ。

 

「……騎士道を、捨ててるんですね」

「何のことですか、シャロン殿」

 

 彼女が指摘した通り、ブレイブハート卿の姿は、俺が前世でよく知る美しき騎士のものだった。

 つまり精霊の呪いが解除される条件を満たしている──騎士道を捨てているのだ。

 気にしていない様子からして、アークライトは呪いについて知っていたのだろう。

 

「ま、こんな暗黒研究施設を運営してるやつの一味っていうなら、騎士道からはかけ離れてるよな」

 

 喋りながら、シャロンより前に出る。

 意図を察した彼女は数歩後退した。

 

「暗黒研究施設……? 私はただ、技術の発展のために身を粉にして働いているだけです。確かに、過程で犠牲は払ってきましたが──」

「ああもういい、全部薄っぺらいんだよあんたの言葉」

 

 発言を途中で遮ると、アークライトの額にビキと青筋が浮かんだ。

 

「……どういう意味ですかな、ハルートさん」

「だからさ、要するには安いんだよ、あんたの趣味は」

 

 元々、この『研究施設跡地』が最悪の場所だっていうのはゲームで知っていた。

 得られる手記などのアイテムからして、生きている人間や魔物を研究材料として消費していたこと、実験が失敗に終わったこと、全て把握している。

 

 そして今の時間軸では、頑張って成果を出そうと悪戦苦闘中というわけだ。

 孤児院の子供たちを使ってでもな。

 

「人間をバラして研究材料にして、そこまでして結果が出てないのはあんたが無能だから以外の理由無いだろ。頼むから無能なら働かないでくれ」

「……貴様」

 

 立ち上がろうとしたアークライトを、聖騎士が手で制する。

 

「主を侮辱する者に対応するのは、騎士の仕事です」

 

 己の主人のために、とアリーナへ降りてくる騎士。

 俺は口角を釣り上げた。

 

「へえ! それがあんたの新しい騎士道か、トップガン・ブレイブハート!」

 

 かつてお前が語った騎士道、忘れたとは言わせない。

 だが彼は顔色一つ変えないまま剣を引き抜く。

 

「騎士道を捨てたことなどない! 決めた主に仕えることこそが騎士の本分!」

「…………!」

 

 なるほどな。

 どうやらこの場で決着をつけるしかないらしい。

 

「先生……あの人……」

「分かってる、大丈夫だ」

 

 ハッとした様子で声をこぼすシャロンに、背中越しに声をかけた。

 それから息を吐き、体中に魔力を通す。

 

 

「【瀆すは神代】【赤子の祈り】【我は愚かな殉教者】【零落を嘆くがいい】──発動(drive)

 

 

 アクティブスキル『救世装置(偽)』を発動。

 引き抜いた練習用の剣が、勇者にのみ許される極光を宿す。

 

「勇者の末裔、手合わせ願おうか」

 

 マントを翻して前に進み出た聖騎士が、剣をかざす。

 最高級合金を惜しみなくつぎ込んだ名剣だが、騎士の本質はそこには宿らない。

 彼が使うことで、そして彼がその権能を発動することで、初めて聖騎士は歩く災害となる。

 

 

「【弾くは火花】【不可視の布石】【下される裁きを受け入れ】【過ちと共に果てるがいい】──発動(drive)ッ」

 

 

 発動するは、彼の戦闘用魔法術式。

 アクティブスキル『ネガインパルス・インテグレーター』。

 

「騎士に敗北はありません。御覚悟を」

 

 刹那、間合いが死んだ。

 目の前に出現したブレイブハートが剣を振り下ろす。

 

「だったら教育的指導だ、敗北を教えてやる!」

 

 こちらも余波に地面を削りながら、勇者の剣を振り上げる。

 激突と同時に視界が真っ白に焼かれ、聖騎士との第二戦が幕を開けた。

 

 

 

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