かませ役から始まる転生勇者のセカンドライフ~主人公の追放をやり遂げたら続編主人公を育てることになりました~   作:佐遊樹

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楽しい剣術訓練

 教師生活を始めて、数日が経過した。

 

「ほら、先生、ちゃんと集中して」

 

 俺は今、訓練場でシャロンとベタベタにくっついていた。

 教師としては詰んでるっぽい。

 誰か俺をクビにしてください。

 

「へえ……これぐらいの出力がいいのね」

 

 得物である突撃槍を砲撃モードにして、シャロンは伝達されていく魔力量を確認して頷く。

 俺と彼女の二人がかりで槍を支えているような光景だ。ケーキ入刀と言えば分かりやすいか。

 分かりやすさのためにもっと大事なものを捨てているような気がするが……

 

「エリンちゃんってば寂しがってるのわかりやす過ぎ♡」

「ちょっと、心臓読まないでよ」

「ううん、顔に書いてる♡」

「むー……」

 

 背後ではエリンとクユミが何やら喋っている。

 視線がずっと背中に突き刺さっていて、もう物理的に痛い。

 そりゃこんな最終決戦専用ポーズを授業中にしてる教師、見たことないだろうしな。

 

「先生、試しに撃たせてもらってもいい?」

「あ、ああ」

 

 訓練場の仮想ターゲット表示機能を立ち上げる。

 シャロンはぐっと俺に顔を寄せると、意思伝達でトリガーを引いて砲撃を放った。

 直撃と共にターゲットが叩き割られ、貫通した砲撃が訓練場の壁を焦がす。

 反動に黒髪やら制服のスカートやらがはためいた。

 

「これぐらいならちょうどいいってこと?」

「平均値よりは少し……結構、いやかなり上ではあるんだけど、調整できるようになったっていう進歩を喜ぶべきだろうな」

「それ私がいないところで言うべきでしょ」

 

 くすくすと笑いながら、シャロンは突撃槍の砲撃モードを終了する。

 

「ありがと、先生」

 

 耳元でウィスパーボイスで囁かれ、びくっと肩が跳ねた。

 距離感が明らかに近すぎるんだよ。

 

「じゃ、じゃあ次は……クユミか?」

「せんせい~、おなか痛いからシャロンちゃんに付き添ってもらって保健室行ってきま~す♡」

 

 顔を向けた瞬間にそう言われ、俺は眉根を寄せた。

 

「え、健康そうに見えるけど」

「女の子には色々あるんだよ、そんなのも分からないからせんせいはざこなんだね♡」

 

 はい……すみません……女の子のこと分かりません……

 言い返せなくなった俺を見て、クユミはきゃはっと笑った。

 俺相手に取るべきポジションを完全に理解している。まずい。このままでは一生頭が上がらなくなる。

 

「じゃ、シャロンちゃん付き合って~♡」

「……ハァ」

 

 溜息をついて、シャロンは目を白黒させているエリンの片足を軽く蹴った。

 

「いたっ、何すんのシャロン」

「クユミはお膳立てしてあげようと言ってるわけ。頑張りなさい」

「えええっ!? な、何が、何を!?」

「いいから……」

 

 何からごちゃごちゃと話した後、シャロンとクユミは軽やかな足取りで訓練場を後にした。

 絶対に仮病だったな。次からは注意するべきなのだろうか。でもクユミ、実技基本的に満点だから注意しにくいんだよなあ。

 

「う、うぅ……」

「じゃあ、エリン。ちょっとこっち来てくれるか?」

「あ、う、うん!」

 

 二人に取り残されたエリンは、大小の太刀二本を腰に差して、もじもじしながら近づいてくる。

 何をテンパっているのかは知らないけど、相手の意識を掻い潜る歩法で距離を詰めてくるの、心臓に悪いからやめてほしい。

 この歩くブシドースタイルがよ。

 

「とりあえずお前の場合は、シンプルに色々な経験を積んでいってほしいんだ。今回はターゲットを複数出してみるから、最速で全部斬ってみよう」

 

 俺が操作すると、ヴンと音を立てて魔力を編み込んだ仮想ターゲットが姿を現す。

 横軸も縦軸もズラして配置した。

 

「…………うん」

 

 的を認識した刹那に、エリンの頬から赤みが引いて、両眼に冷徹な光が宿った。

 冷たい炎とでもいうべきか。

 彼女は死地においてこそ本領を発揮する存在というわけだ。

 

「じゃあ、始め」

「ッ!」

 

 即座に発動する『横一閃ッ!』×2が、普通にターゲットを全部真っ二つにした。

 えぇ……

 

「ど、どうかなセンセ! 結構上手だったくない!?」

「めちゃくちゃ上手というか、上手を超えた超絶技巧というか」

 

 今のをやらせないために配置を結構難しくしたのに、普通に突破されたんだけど。

 ていうか一発目のアクティブスキルは普通に打ったけど二発目は無理矢理に途中で軌道曲げてなかった? 横一閃ではあったけど横一線ではなかったよな?

 

「……今の、いつ思いついたんだ?」

「え? うーん、ここ立ってから」

 

 エリンは視線を下に落とした。

 天才過ぎ。かなり喜ばしい反面、怖い。

 

「合格、というか満点だな……ちょっと他のパターン組むから待っててもらえる?」

「うん、いーよ」

 

 快活に返事をしてくれたエリンは、その場にしゃがみこんで木の枝で地面をひっかき始めた。

 ……これどうしたらいいんだ? 別のアクティブスキルである『縦一閃ッ!』を使ってもらおうかなと思っていたんだけど、全部『横一閃ッ!』で解決されそう。

 

「ねーねー、センセ」

「うん?」

 

 頭を抱えていると、地面を見つめたままエリンが声をかけてきた。

 こいつ授業中に教師相手に雑談を仕掛けるとか本気か? 別にいいけど。

 

「センセはさ、2年半……だっけ、冒険者してたんだよね」

「あのパーティではね。マリーメイアが加入してからとか、仲間を集める前とかの時期も含めるともう少し長いよ」

「じゃ、冒険者になる前は何をやってたの?」

「エリンが聞いていて面白そうな話は、正直仲間と出会う前は何もないなあ。ていうか仲間と……特に魔法使いと会う前の俺って、正直思い出したくもないと言うか」

「えっ、あ、そ、そーなんだ……」

「ああ違う違う、嫌な思い出があるとかじゃないんだ」

 

 端的に言うのなら、時間をずっと無駄にしていた。

 やるべきことを見定めることができず、自分の領分を理解できず、日々を無為に浪費していた。

 

「じゃあ、聞きたいんだけど……その、何してたの?」

「魔王を自力で殺せないか研究してたんだ」

 

 え、とエリンが口をぽかんと開けた。

 

 魔王は強い。単純に強いだけではなく、生物としての格が違う。

 強い人間とか、強い魔族とか、そういうのとは比較することすらできない。

 

 だからこそ、魔王を討つ資格を生まれ持った者、つまり選ばれし者でなければ完全に抹殺することはできないと、シナリオチームが明言している。

 それでも、マリーメイアが命がけで戦わなくてはいけないことを、認めるわけにはいかなかった。

 

「王国が保有する最大規模の戦闘要塞、サウザンドアイズのことは知っているか?」

「う、うん」

「サウザンドアイズっていう命名のもとにもなった、1000個の魔力圧縮レンズを用いた超高火力圧縮魔力砲も分かるね?」

「なんか……都市一つを焼き払える、っていうやつだよね」

 

 他国からはこれを所有しているというだけでめちゃくちゃに文句を言われることとなった、何のために作られたのか正直分からないおバカ兵器である。

 戦争に使うにしてもオーバーキル過ぎる。国際条約の概念があったら真っ先に新規建造を禁止された挙句、解体の憂き目にあっていただろう。

 

 ──でもシナリオだと魔王を殺し切れなかったんだよね。

 

「あれを超えようとしたんだけど、ちょっと超えたぐらいが限界だった」

「…………」

 

 一度殺すことすらし損ねた代物のちょっと上。

 完全抹殺には程遠い。まったくお話にならない。

 かなり絶望した。才能はあると思うし努力もしてきた。それでもこのゲームの世界においては、資質を持っていなければ、まず土俵に上がることすらできないのだ。

 

 もちろんそういう大規模殲滅攻撃は俺の本領ではない。近距離戦闘が本職だ。

 だから俺は、魔王を場当たり的に殺し続けることこそできるだろうが、完全に殺し切ることができない。

 いつか寿命で死んだ後に魔王が復活して、俺がやってきたことは意味がなかったんだと証明される。

 

 結局のところ、俺は、マリーメイアやエリンに託すしかないのだ。

 まあお膳立ては全力でやり遂げた。ふってわいた『2』主人公たちの処理は本当に悩ましいが、普通に教師をしていれば問題ないだろう。

 

「そこまでして魔王を倒そうとしたのは……魔族が、嫌いとか?」

「好きじゃない。でも嫌いだから殺したい、とかではないかな」

 

 自分の正直な心情を告げて、しまった! と叫びそうになった。

 ハッと顔を向けると、地面を見つめるエリンの瞳はがらんどうで光を映しこんでいなかった。

 

「……偉いね、先生は」

 

 俺は知っている。

 エリンは確か……孤児だ。実の家族を魔族に殺されている。

 そして剣の才能を見込まれてソードエックス家に迎え入れられ、それから戦闘マシーンとしての訓練を受けていたのだ。

 

「あたしは、そう思えない」

 

 彼女は魔族を憎んでいる。

 だけど、ソードエックス家の修練に耐えられるほどの極まった復讐鬼にはなれなかった。

 

「あたしは全部中途半端で……センセのおかげで、今があるのに……」

 

 空っぽの声で呟くエリン相手に、俺はかける言葉を持たなかった。

 

 

 

 

 

「え!? ちょっと待ってくれ! 俺のおかげって何?」

「あっ」

 

 

 

 

 

 かける言葉あったわ!

 いや俺のおかげってマジで何??

 

 

 

 ◇

 

 

 

 保健室へと向かう道の途中、階段の踊り場でシャロンとクユミは暇をつぶしていた。

 サボりである。

 

「思ってた以上に強いねせんせいは♡ でもキョドりまくってるし、王子様ってカンジじゃなくなーい?」

「それ言ってるのエリンだから。私じゃないよ、そう思ったことなんて一度もない」

「そーだっけ? ま、ここに来た甲斐はあったかな♡」

「……クユミがここに来た理由は、思い出だっけ」

「うん、思い出がたくさん欲しいんだよね~」

「そっか」

 

 シャロンは一つ頷いた。

 簡素な相槌ではあったが、それがクユミにとってはうれしかった。

 

「せんせいだけじゃなくって、エリンちゃんとシャロンちゃんにも散々付き合ってもらうんだからね♡」

「はいはい……」

 

 けだるそうにするシャロンだったが、唇は緩やかに弧を描いている。

 

「そーゆー意味だと、一番心配なのはエリンちゃんなんだよね~」

「だから先生と二人きりにしたの?」

「うん、シャロンちゃんとしては不服だったでしょ、ごめんね~♡」

「別に」

 

 またまたあ、とにやにや笑うクユミに対して、分が悪いとみてシャロンは顔をそむけた。

 からかいすぎたかなと内心で反省しながら、暗殺を生業とする少女は話題を切り替える。

 

「じゃあ、シャロンちゃんはどうなの?」

「何が?」

「なんでこの冒険者学校に来たのって意味♡ 家遠いでしょ?」

「……」

 

 シャロンは自分の掌に視線を落とした。

 ここに来る前の自分は──死んでいないけれど、生きてもいなかった。

 

 生まれ持った魔力の資質のせいで、人生の全てを決められそうになった。

 年の離れた優秀な剣士と子を成させることで最強の戦士を作りたいと、そう言っている大人がいた。

 魔族を焼き払うためではなく、富と名声を手に入れるためだ。同意する者もいた。

 話はシャロンの意思を置き去りにして、まとまりそうになった。

 

 でも、その話はなくなった。

 勇者の末裔という男が、貴族たちにある話を持ち掛けたのだ。

 

 ──自分が最強になるから、余計なことはしないで自分たちに投資しろと。

 

 その肩書と、貴族たちのもとへと来るより前に打ち立ててきた功績から、ひとまずみな彼に従った。恐ろしいほどに彼のやることはうまくいった。

 ズブズブの関係となっていくのは自然の摂理だった。貴族が持て余す金を、男は自分の冒険や、魔族によって被害を受けた地域の復興に当てた。名声は高まり、自然と男の近くには金が集まるようになり、貴族たちはその金を拾うというサイクルが出来上がった。

 

 シャロンを最強の戦士の母胎に仕立て上げる必要はなくなった。

 忌まわしい形ながらも存在を認められていたシャロンにとっては、急に宙へと放り投げられたような気分だった。

 

 少したって、貢献者として社交界に招かれたその男とシャロンは顔を合わせた。

 

『……そっちのせいで、迷惑を被った人間もいるんだけど』

『えっマジ? なんで? 大丈夫? ……じゃねえやクハハハハッ! 知らんな、この俺の何が不満というんだ?』

『……嫌だけど、従うしかないと思っていた生き方が消えたの。だから、何もないのよ、今の私には。どうしろっていうの』

 

 言いながら、あまりの情けなさに涙すらにじんできた。

 そうだ、嫌がっているくせに寄り掛かっていたのだ。

 自分の行く先を決められていることに、安堵すら抱いていたのだ。

 

『……あーこれガチなやつか。えーと、そうだな。ここは別に本筋じゃないよな……なら』

 

 勇者の末裔であるという、最強の冒険者。

 絵本の中から飛び出してきた王子様のようなその男は、こちらの頭に手を置いて言い放った。

 

『君にとって大事なものを見つければいい、それまではまず、自分を大事にしてあげるんだ』

『…………!!』

『生き方を決めつけられるほどに、君には価値があるってみんな認めてたってことだろう。だったらその価値を、君が自分の意思で活用出来たら──めちゃくちゃ凄いことができると思わないか?』

 

 その言葉を、表情を、声を、すべてを鮮明に思い出せる。

 今まで閉じていた瞳を開いたような感覚をシャロンに与えたのだから。

 

 彼女の扱いは宙に浮いていた。

 だから冒険者学校へ入学するというワガママが通った。

 最強の冒険者がそこに教師として来たのはあまりにも、運命だった。

 

「……そう、ね」

 

 それらを踏まえてシャロンは薄く笑みを浮かべる。

 思わずクユミですら見惚れたほどに美しく、けれど嵌ればどこまでも沈んでいってしまいそうな恐ろしい笑みだった。

 

 

 

「縁談を壊された責任を取ってもらうため、かな」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 木々が生い茂る深い闇の奥底。

 人里から遠く離れたそこで、憎悪が形を取る。

 

「……ハルート、ハルートめぇぇぇぇ……!」

 

 体につけられた傷を指でなぞり、両眼に憤怒の炎を灯す闇の住人。

 

「あの魔眼のガキ共々……! 許さん……! 陛下に誓って、やつらだけはこの手で……!」

 

 小さく、今にも消えてしまいそうだが。

 確かに一つの影が、忍び寄る。

 

 

 

 








流石に杯企画ものなので、期間最終日である土曜日にいったんキリよくなるように話を頑張ってまとめようと思います。
連載自体は期間後も続けていけるだけ続けていくつもりです。
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