山賊ロールプレイしてたら、何故か勇者が襲いかかってきたんだが!?   作:蓼食う裕太さん

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 見切り発車ですが、応援と感想よろしくお願いします。
 ちょっと長めですがお付き合い頂けたら幸いです。

 ※主人公は唯のクズです。

 少々過激ですが、削除されたら修正します。


対峙する者達。死にゆく者達。

 

 ドワーフ共の街を攻め落とし、戦利品の分配を終えた。

 

 戦後処理として町長と話をつけに向かうべ、会館へと足を運ぶ。

 

 こう言う話は正直面倒臭いが、これを部下に任せると面倒な事になるのは分かりきっている。

 俺の部下は大体俺に従順だが、腹の内までは完全に理解することはできない。

 ドワーフ共と結託して反乱でも起こされると少し厄介だ。

 何匹やってこようと雑魚は雑魚だから問題はないが、人手を減らされるのは少し怠い。

 

 それに消耗した武器の補充のために来てるってのに、武器を壊されちゃ敵わん話だ。

 だから何事も徹底的にすべきだ。特に俺のように、人様から恨みを買う事をしている奴ほどな。

 

 部下に先導させ、目的地へと辿り着く。

 扉をドワーフ共に開けさせ、漸く交渉の席に着くと見せかけ考え込むフリをする。

 

 俺のやり口を知る部下は口元を歪ませ、下卑た顔つきでドワーフを見つめる。

 

 我ながら滅茶苦茶で道理も糞もないものだが、この世界の住人には確実に嵌るやり方だ。

 

 「早速で笑いがおっさん。俺達もさっさと武器整備してよぉ、次の街に行きたいんだ。分かるかい?あんた次第で直ぐに穏便に終われるんだぜ?期待してるからな」

 

 立ったまま視線を身体ごと、小柄なドワーフに合わせ話しかける。

 ここでのポイントは決して脅さない事だ。

 この場で唯一話が通じそうな人間に見せかける。

 

 そうすりゃ、縋るように街からの即時撤収を要求してくる。

 あんたも心が痛むだろう?と言う風にだ。

 

 「そ、それなら…!」

 

 「まあまあ、とにかく席に着こうや。お話はそこからだろ、な?」

 

 「う…うむ」

 

 とりあえず。第一段階は通過。

 次のステップだ。

 

 「んじゃ取り敢えず、そっちの要求から聞かせてくれや。」

 

 「ああ。こちらの要求はこの紙に認めている」

 

 ドワーフの部下がこちらに契約書を持ってきた。

 随分と緊張してる様で、手汗が契約書にまで滲み出ていて気色が悪いが、そこはまあ勘弁してやろう。

 

 だがずっと持たれるとシミが広まって気持ち悪いので、奪い取る様にしてドワーフの手から契約書を捥ぎ取る。

 

 流石ドワーフ小汚い種族だ事で……ベトベトして汚ねぇな

 汚さはウチの馬鹿共といい勝負か?

 

 「へぇ……」

 

 軽く目を通して、契約内容を把握する。まあしなくてもいいんだがな。

 

 そんでもって少し目を細めて、咎める様な視線を送る。

 

 どちらにしても俺たちが有利な立場にあるのは変わらないが、向こうに少しでもイニシアチブは握らせたくないからな。

 

 本当にそれでいいのか?と問いかける様に小汚いドワーフの顔にチラりと視線を投げる。

 そうするとあら不思議、おっさんの顔色は一気に青ざめる。

 

 「おいおい、どうしたよおっさん!顔色が悪いなぁ…何かやましいことでもあったのか?ハハハっ!なんてな……まさか、んな訳無ぇよなぁ」

 

 「あっああ……そちらが要求に応じてくれるなら……」

 

 一瞬目が泳いだ。

 ──嘘だな。

 

 部下達に目配せし、準備をさせる。

 

 「な、何を!?」

 

 唐突に動き出した山賊共を見て狼狽えるドワーフのおっさんを横目に、俺は溜息を吐きながら、机の上に行儀良く足を乗せる。

 

 「分かってねぇな…今のは赤信号だよ。って分からんか。あー面倒臭ェ。兎に角、これであんたらはチャンスを一つ逃した」

 

 そう言ってビリビリと契約書を破り捨てる。

 困惑した様子のドワーフ達を尻目に俺は

 

 「つうかよ、舐めてんのか? あ゛ぁ゛!?契約っつーもんはな、対等な相手に仕掛けるもんだぞ!てめぇら薄汚いドワーフ風情共とっ!この俺達が対等だぁ?!ふざけんのも大概にしろ!」

 

 躊躇いなく机を蹴り飛ばし、恫喝する。

 

 ドワーフ共に己の立場を分からせるんだ。

 自分は相手の厚意を踏み躙ったんだと、次はないと、これ以上相手からの妥協は得られないと考えさせ、全てを奪い取る。

 

 それに契約内容も中々こちらの足元を見ていた分も攻め立ててやればいいが、そのカードを切るのはもう少し後だ。

 相手には俺達に対して契約そのものがダメだと言うイメージを植え付ける。

 

 「す、すまなかったっ…!だが我々の要求は、変わらない!武器を作り次第、すぐにこの街から出て行って貰いたい!」

 

 中々意固地なおっさんだな。

 そういう話じゃねぇのに

 

 「はぁ……」

 

 大きく溜息を吐き、ドサリと質の悪い椅子に持たれ込む。

 ドワーフは力強くタフで、この上なく愚かだったと後世に伝えるべく自叙伝でも残してやろう。

 

 「あのなぁ…いや、もういいか。おい、お前らアレ連れてこい。」

 

 「分かりました親分。」

 

 部下に指示を飛ばして、顎をつきながら呆れたように相手方を見つめて面倒くさそうにする。

 

 「何をするつもりだ?」

 

 「お前らは運がいいよなあ……先代、あのガンギマリ統領なら交渉の席になんてついてくれはせんし、なんならとっくの昔にお前ら皆殺しにして武器もお持ち帰りしちまってただろうぜ?」

 

 「そう考えると俺らは途轍もなく優しいわけだが…お前らには少し伝わらない様だから、仕方な〜くだ。仕方ないんだよなぁ。あー俺たちだってよ、こんなことはしたかぁねぇんだがな」

 

 わざとらしく、大仰ながらさも残念そうに"お前らには失望しました"という態度を取り、部下が戻ってくるのを待つ。

 

 しばらく待ち続け、背後から扉が蹴破られる音が響いたのが、部下の帰還の合図となった。

 

 「きっ、貴様らぁぁぁ!」

 

 ドワーフのおっさんが声を荒げて、立ち上がり此方を血走った眼で睨みつけてくる。

 

 「まあまあ、そんなカッカしなさんなよ。言ったろ?俺らは優しいからな。な、嬢ちゃん、早くこんな面倒な事終わらせてさぁ、ゆっくり寝ときたいだろう?昨日から眠れてないみたい様子だしな」

 

 部下によって連れてこられたのは虚な目をしな全裸の小柄な少女。

 一晩中弄ばれたのか、意識が朦朧としており、譫言を続けているみたいだ。

 秘部に前戯無しで無理矢理ブチ込まれたのか、太腿には赤黒い軌跡が僅かに見て取れる。

 

 生憎と俺はドワーフの娘はあまり興味がないから、部下にこういった事を投げたらすぐにこれだ。

 

 本拠地に引き篭ってばかりだと溜まるもんもあるだろうから、そればっかりは仕方ないと言う事で目を瞑っている。

 

 それに俺は所謂ロリ巨乳って奴にそこまで情欲を煽られない。

 なんというかアンバランスさが気に食わないからな。

 

 そんなわけで町長、ドワーフのおっさんの娘は俺らの慰み者になってるって事だ。

 

 「殺してやる…貴様らだけは絶対に殺してやる…!」

 

 「おーいいねぇ、さっきよりはマシな面じゃないか。正直者は大好きだぜ俺ぁよ。」

 

 ほらよ と言いながらおっさんの顔に持っていた酒ををぶっ掛ける。

 

 落ち着くにしても、余計にキレるにしてもどっちでもいい。

 

 「〜〜ッ!」

 

 どうやら後者みたいだ。それならそれで話は容易い。

 

 「どうどう、落ち着けよ」

 

 腰に差した湾刀を抜き、振り払う。

 血を撒き散らしながら、男の腕が宙に舞った。

 

 「ッガァァァァ!!!」

 

 流れる様な軌跡を描いた刃はドワーフの腕をなぞるようにして、その剛腕を斬り落とし、それとほぼ同時に武器を構えたドワーフの取り巻きを俺の部下達が待ってましたとばかりに、斧で頭をカチ割った。

 

 利き腕を奪われたドワーフは獣の様な叫びをあげ、悶絶する。

 

 「あーあ、もう2度と武器が打てないねぇ、残念だねぇ。大事なお手てが無くなっちまったもんなぁ!ハハハッ!!!」

 

 最初に優しく接し、期待させ、徐々に横暴に、そして残虐に対する事で交渉相手を逆上させる。

 

 まともな世界ならこんな下衆な手段は使えないが、この世界なら何の罪悪感を抱かずに行使できる。

 

 「にしてもよぉ、よくねぇよなぁ…交渉相手に殺意を隠さないのはよぉ!よくもまあそんな短気で街の長が務まるもんだぜ」

 

 「ハァッハァ……ッ何故だぁっ?!どうしてこんな事を──」

 

 「そりゃあ、まあそういう生業してっからなぁ。あんたらが武器を打つ様に、俺たちは奪い取って殺すんだわ」

 

 「この背信者共めッ!主よ!この者らに裁きを(・・・・・・・・・・・)…!」

 

 煽るようにして、吐き出させたい言葉を吐き出させ、呪詛の様に言葉を吐き出したおっさんの頭を刎ねる。

 

 「あんがとよ。それと、もう神罰(それ)は受けてんだわな。」

 

 俺は欲しかった言葉(・・・・・・・)を聞き入れて、おっさんの指を自前の契約書に当てて、血判を押す。

 

 「それじゃ読み上げるぞー。契約規則一、甲はドワーフ一同、乙は山賊一同とする。規則ニ、甲は乙の要求、その全てを受け入れ、乙は甲の要求を受け入れる。以上。」

 

 「んで、そっちの要求は…なんだっけなぁ?契約書流し読みしたけど忘れちまったわ。まあ最期の最期に言ってたおっさんの想いを尊重して、俺達に神の裁きを(・・・・・・・・)って事でいいか。」

 

 「そんで、俺らの要求は此方の支配だ。おっさんの血判は貰ったし、契約は成立って事だ。不慮の事故でおっさんが死んじまったから代理は……血縁者の嬢ちゃんって事にするかぁ…最終確認だ。これでいいよな?町長代理の嬢ちゃん。」

 

 「はひぃ…わ、わらひは…」

 

 半日近く犯され、薬物を投与されたせいで、ほぼ人格が壊れてるみたいだが、言質取れたしいいや。

 

 この世界じゃ言葉の重みは半端じゃねぇからな。

 

 ほぼ意識のない嬢ちゃんは全肯定してくれるし、頑固頭のおっさんより話が分かるようで助かるわ。

 

 「おーけー。そんじゃ!お前ら宴の時間だッー!!!」

 

 

────────────────────────

 

 

 「おら!お前ら飲め飲め!今日は宴だぁー!ハッハッハッ!」

 

 略奪を終えた後は決まって宴会だ。

 俺が音頭を取った途端に馬鹿共がガヤガヤと騒ぎ始め、隷属の首輪が付けられた若いドワーフの娘達からの晩酌を受け取る。

 

 ドワーフ共には集会の場で身なり整えた嬢ちゃんと一緒に後二、三日でここを離れるから安心しろとだけ伝えており、その間だけ俺らの武器を作れと命じた。

 もちろん金は払う。まあ格安でだがな。全部奪っちまうとこの街が滅んでしまうから、ある程度の額は支払うさ。

 

 襲える街のレパートリーが減っちまうと俺らも寂しい。昔は良くそれでいくつか街を消してしまったから、いい教訓になった。

 滅んだ街の女は俺達が責任を持って身元を引き受けて、奴隷にして働き者達に売ってやったよ。

 あの時は生娘が少なかったから大した金にはならんかったが、今回は一部の変態共に人気のあるドワーフの小娘だからな、かなり高値で売れるだろう。

 

 「いやー親分の蛮族っぷりは流石だぜ!」

 

 「マジで交渉ってなんだよって気分だなぁ!俺も王都にいた頃にアレやりたかったぜ!あーむかつく上司をブチ殺すの気持ち良さそうだ、絶対ぇ気持ちいいだろ!あーやりテェなぁ…」

 

 「親分ももっと飲んでくだせぇよ!あれぇ親分はどこでい?」

 

 

 

 皆が好き勝手騒ぎ始める中、俺は一人で酒場を抜け出し、温泉へと向かう。

 ドワーフの街を攻めたのは武器の調達もあるが、日本人として風呂は欠かせない。

 風呂は素晴らしい。心身を清め、神や馬鹿共から俺を遠ざけてくれる。

 湯をかければ、今朝方にドワーフのおっさんからかけられた怨嗟の声が流れ落ちる気分になる。

 

 「はぁ〜たまらねぇな…」

 

 俺らが風呂のためにドワーフの街を攻めてるとバレれば、風呂がこの世界から無くなっちまう。

 それだけは防がにゃならん。

 

 側近のゴンズイ弟の奴にも悪いしな。

 あいつは話が分かる屑だ。

 使い道も多いし、手札としても優秀だ、

 おっさん達は俺の入浴のための尊い犠牲となったが、その犠牲は無駄にしない。

 俺が身体を流し終えるまで…

 

 汗を掛け湯で流し、まずは身体を石鹸で洗う。

 

 何故中世ヨーロッパ風のこの世界に石鹸があるかって?

 

 多分たまたまだが…

 ドワーフ共は鉱山で採掘し、武器を鍛える。

 ずんぐりむっくりとした奴らの体の汚れは半端じゃない分、その身体を清める風呂は偉大だ。

 しかし湯船に浸かるだけでは、その汚れを落とすことは出来ない。故に石鹸をドワーフ達は作り出した。

 

 それを知った時、俺は泣いたね。

 

 漸くこの汚ねぇ身体とおさらばできるのかと…しかしドワーフ共は俺達が背信者の存在を認めはしない。

 酷い差別主義者だ。

 これに憤慨した俺は、定期的にドワーフ共の風呂を奪い取るために略奪の対象とした。

 

 最近は魔王の活動が活発になったせいで略奪するのが大変だったが、勇者サマの活躍のおかげで、俺たちもこうして日々を営める。

 勇者様に感謝だ。

 

 俺は月を侍らせ酒を飲み、杯を天に掲げる。

 

 「このクソったれた世界に乾杯!」

 

 

────────────────────────

 

 次の朝、窓から温かい日差しが注ぎ、部下達の怒号で目が覚めた。

 バタバタと忙しなく暴れ回る部下を尻目に俺はベッドから起き上がり、何となく嫌な予感を感じつつ情報を整理しようする。

 

 「親分ッ!ヤバいですよ!奴らが来ました!」

 

 「あーうっせぇな、んだよ奴らって…」

 

 「奴らって言ぇや、勇者ですよ勇者!ああ〜っやべーっすよ!どうすんですか!」

 

 「はぁ?勇者?寝起きのドッキリにしちゃあ…いやマジっぽいな」

 

 仮にマジなら最悪だ、あのクソ婆が話が違うじゃねぇか……

 

 喚く馬鹿を無視して、扉の外へ耳を澄ませる。

 剣戟と魔法による衝撃が、徐々にこの部屋に向かってくるのを伝えてくれる。

 

 呪術師に何だ?歌声か?なら精霊術の使い手だな、それに弓を射る音…まあエルフだな。

 他は魔力流れ的にヒーラーに魔法使いと、格闘家かだな。

 後はよくわからん奴と、勇者。

 計七人、随分と大所帯のパーティだな。

 随分と以前に風の噂で聞いた話だが、勇者パーティにはあのトンチキ聖女がいるらしいし、正面から戦えば勝ち目はない。

 

 だが肝心のレベルは多分そこまで高くはないはずだ。

 俺の予想では精々30行っていれば良い方で、40ならちとキツいかも知らんが、それはないだろう。

 

 レベル40になっているなら、もっと魔人討伐の噂を聞いてるはずだからな。

 俺ですら魔人の四、五体は殺しているんだ、勇者ならもっと殺しているだろう。

 

 だから、勇者パーティの平均レベルは30〜35辺りと考えるのが妥当だ。

 なら生きて帰れない事もない。

 

 ともかく…

 

 「動ける奴は!?」

 

 「へ、へぇ!ゴンズイの兄弟と、あの無愛想な餓鬼に、マートンとえーっと…あ!後、ルカの兄貴がまだいますぜ!」

 

 「ちっ、随分すくねぇな…」

 

 ルカの奴は良いとして、他の野郎共は対して強くねぇんだよな……

 ゴンズイ兄は勝手に色々やってくれるのは便利だが、馬鹿だし阿呆だ。

 弟の方は優秀だが、引っ込み思案すぎて使い物にならない。

 あの糞餓鬼は使えるんだが、まだ仕込みがキチンと終わってねぇからな。

 

 「それに戦況はあんまし、芳しくなさそうだな。仕方ねぇ」

 

 「お、親分どうします?」

 

 「怠りぃがやる事は一つだ!さっさと撤収準備だ!女と武器を詰めるだけ詰め込んで隠れ家戻んぞ!死んだ馬鹿は置いてけ、どうせ餓鬼は腐るほどいるからな!」

 

 「俺と糞餓鬼、それにルカの野郎は殿だ。後はゴンズイの兄弟に指揮させろ」

 

 「へ、へぇ!じゃあ他の奴らにも伝えてきます!」

 

 「おう、任せた」

 

 ドタドタと忙しく走り出す部下を見送り、対策を練る。

 

 俺らのグループには大したヒーラーはいないから。

 ダメージ覚悟で突っ切る訳にはいかない。

 となればある程度魔法を捌ける人材を用意するしかないが、ゴンズイ兄は魔法が何かいまだに理解してねぇからな…多分すぐ死ぬし、タフなだけな奴とか今は要らねぇ。

 弟はまだ先だ。晒すには早すぎる。

 

 ルカの野郎ならそれなりに魔法を捌けるし、便利だから道連れは確定で、あの糞餓鬼は最近拾ったばかりだが、頭がいいし、才能もある。

 流石はアイツの娘だ。

 ルカに比べりゃ戦力にはならんが、餓鬼ってだけでも使い道はいくらでもある。

 

 「はぁー最悪だぜ」

 

 「でしょーなぁ。親分」

 

 ドアを開けながら黒髪の優男が入ってきた。

 ルカだ。

 

 ルカは短剣と曲剣の使い手で、俺が先代を殺した後に、真っ先についてきた男だ。

 山賊団の中じゃ、俺を除けば一番強いが俺以上に面倒臭がりで、後継者争いが面倒だから一番強い俺に従っているだけで全く忠誠心のカケラもない男だ。

 扱いが面倒だし、糞野郎なんで、ここで死んでくれれば助かるし、死ななくても時間稼ぎにゃもってこいだ。

 

 「で、俺に勇者様と戦って死んでこいって命令だが、本気で言ってんすか?流石に統領の命令でも、そりゃ聞きたくないんですがねぇ」

 

 そういって柄に手を伸ばそうとしているルカを見て俺は酷く陰鬱な気分になった。

 

 「馬鹿言え、あの糞餓鬼と俺とテメェとだよ。あいつらにゃ神の御加護が付いてるからな、言っとくが、まず勝ち筋は殆どねぇ。馬鹿共が全員撤退するまで時間稼ぎするだけだ」

 

 「おー、なら良かった。親分無しで殿とかマジで無理っすよ」

 

 「で、あの糞餓鬼はどうした?」

 

 「多分、今こっちに向かってるところなんじゃないですかね。というかいつまで、あの小僧に名前付けないんすか?呼びにくいんですけど」

 

 「名前ってのはな、一人前になって初めてつけるもんだよ。あの餓鬼はまだまだって事」

 

 「へぇ…その割にはここに呼ぶんすね」

 

 「なんだ、俺に口答えすんのか?」

 

 「あー何もないっす」

 

 「ちっ、反発してきたら、斬り伏せてやろうと思ったんだがな……」

 

 「え?マジっすか……ウチの統領マジで怖ぇ……」

 

 ルカとゴチャゴチャと話しているうちに、再び扉が開く。

 

 「  ……」

 

 例の餓鬼が入ってきた。

 

 相変わらず汚ねぇな、

 臭すぎる、こいつ風呂入ってんのか?

 

 「お前、この後体洗え、統領の命令だ分かったな?」

 

 「……」

 

 コクリと頷き、いつものように此方は透明な眼差しを送る。

 

 「ルカお前がちゃんと風呂入る所まで見届けろ。いいな?」

 

 「いやぁ俺じゃ大任過ぎて無理。それこそ……少し前に餓鬼産んだ貴族の女にやらせましょ?」

 

 こいつ面倒臭がってるな。よし、やらせるぞ。

 

 「いやアイツらは無駄にプライドが高い。面倒を起こされても困るから無しだ。その点お前は無駄な面倒を起こさんし、そこの餓鬼相手に無断で手を出すこともあり得ないからな」

 

 「こりゃ厚い信頼ですなぁ」

 

 「玉無し野郎がほざけ」

 

 「だーれの所為なんすかね?」

 

 「生きてるだけ感謝しろよ」

 

 「はぁ……とりあえず揃ったな。」

 

 じゃあ作戦会議だ。

 

 

────────────────────────

 

 

 僕達は今、山賊王達がいるとだろうというドワーフの街に来ている。

 

 「うへぇ…こりゃあ酷いわなぁ」

 

 「うん。そうみたい。」

 

 「これは…酷い…」

 

 「…ッ…」

 

 アンナがポツリと呟いた言葉に追従する様にカノンとモモ、ティアが各々言葉を発した。

 

 「クリス、蘇生(リザレクション)は可能かい?」

 

 「いえ、もう相当時間が立っている様です…私の信仰では彼等に主の御技を施す事は無理でしょう…」

 

 「そっか…今は、急ごうか。」

 

 死者に黙祷を捧げる事は暇はない、山賊達の蛮行を僕達の手で止める。関わりのない僕らに出来ることは一刻も早く、彼等の魔の手からドワーフ達を救うことだ。

 

 「ええ。」

 

 クリスや他のみんなも決意を固めたのか、強い意志を秘めた視線を遠くに聳え立つ建物へと向けた。

 

 感じる気配は百を超える。

 自動で働いた鑑定スキルが彼等のレベルを告げてくれる。

 

 「山賊達の平均レベルは20〜25。何人か30近くの人がいるけどこれなら問題ない!皆!いつもの陣形で冷静に行こう!」

 

 「ええ」

 

 「勿論」

 

 「任せなさい!」

 

 「ん」

 

 「はい」

 

 「わかってるわよ」

 

 パーティ全員の声を聞き、いざ扉を開け放つ。

 

 「そこまでだ!」

 

 大きく声を張り、周囲の視線を一手に引き受ける。

 

 「誰…グォォ!?」

 

 「僕らは勇者だ!」

 

 扉のすぐ側にいた男を斬り伏せる。

 

 「敵襲!敵襲!!!」

 

 それをみた男達は大きな声で、そう叫び、一気に臨戦態勢に入る。

 ある者は逃げ惑い、ある者は武器を取り、ある者は此方の言を眉唾だと吐き捨てる。

 

 「勇者たぁ少し生意気だなぁ、おい。まずは俺様山岳のグラハム様が相手に……」

 

 長ったらしい自己紹介を文字通り斬って捨てる。

 そんなのに一々付き合ってられないんだこっちは。

 

 「おい、アレ聖剣じゃないか?」

 

 「ゲッマジかよ。どうすんだよ。」

 

 「俺聖剣初めてみたけど眩しいな。アレいくらで売れんだ?」

 

 「知るかよ!てかテメェまだ酔ってんな!糞ッタレが!」

 

 …どうやら皆酔っているみたいだ。

 

 「うん。さっさと方を付けよう。アンナ頼めるかい?」

 

 「はいはい、もうやってるわ。」

 

 アンナの周囲には凄まじい魔力が満ちており、既に呪術が発動している事を示唆している。

 

 「おぉ?何だぁ俺の体が重てぇ…」

 

 「シッ!」

 

 アンナの呪術により動きの鈍った男をカノンの矢が撃ち抜き、一人また1人と山賊の数が減っていく。

 

 僕はそれと同時に山賊達の中に飛び込み、無数の屍を築き始める。

 

 血潮が舞い、男達の悲鳴と怒号が轟く。

 

 闘いは始まったばかりだった。

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 「ハァ、ハァ…貴様!山賊の癖に中々やるな、名を聞いてやる!」

 

 既に下した人数が四十を超え、随分と人影の減った周囲を見渡すとレイナが山賊と切り結んでいる。

 いや待て、彼女まだ一人も倒していないのか?彼女の周りの山賊に切り傷はないし、殆ど打撃痕だぞ?!

 

 「何だよこの女クソ弱…グハッァ!?」

 

 レイナと戦っていた男は疑問を浮かべたまま、背後から忍び寄る奇襲を受け、地に斃れ伏した。

 

 「な!モモ私の獲物だぞ!」

 

 山賊に対して奇襲をかけたモモに対し、レイナが注意をしているがモモは一切気にしていない様子だ。

 

 そういえば冷静に考えればレイナとは一緒に過ごしたし、友達だとは思ってるけど、今更だけど、いや本当に今更なんだけど、何でついてきてるんだろう?

 彼女何故かレベルだけは高いから気づかなかったけど、ステータスがHP以外殆ど1だ!!!

 本当、何しに来たの?

 

 「ごめん、弱すぎて気づかなかった…」

 

 モモはレイナの言葉を面倒臭そうに、無視し他の山賊の元へと向かった。

 モモは僕らのパーティの中でも飛び抜けて強いし、頼りになるけどレイナに対しては気まずそうな思いを抱いている様に見えるけれど、大切にしているようだ。

 ただ最近はレイナの起こす面倒事の後始末ばかりしているような…

 

 「おのれぇ…ふ、ふん!今に見ていろ!この私が山賊共を…グヘェア!!!」

 

 モモの奮戦を見て戦意を昂らせたレイナはその直後に、背後に山賊に頭を殴られ昏倒した。

 アンナやカノン、ティナは溜息を吐き、クリスがレイナの元に駆け寄る。

 

 「よっしゃぁ!まずは一人ぃ!俺様の手柄だぜ。」

 

 「何してるの?」

 

 勇者パーティの一員を打倒した事で歓喜する男の眼前に、物凄い怒気を携えたモモが詰め寄る。

 

 「へへへ…こんな小さいガキンチョ俺でも倒せ…ぐうおおおおあ!!!」

 

 「邪魔」

 

 モモは一瞬で男を空中に打ち上げて、その上半身を天井に打ち付ける。

 天井からは二本の足が垂れ下がり、同時に男の敗北を周囲に知らしめた。

 

 「クリス、治療」

 

 「はーい…って殆どHP減ってませんね。気絶ですかね?おかしいですねぇ、HPが高い人ほど気絶耐性高いんですけれども、勇者様ー何かご存知ありませんか?」

 

 治療を施したクリスが唐突に僕に話題を振ってきた。

 というか僕一応戦ってるんだけどなぁ!

 

 「っと、はあ!レイナは特異体質みたいだね!鑑定スキルで覗いてみたけど、HP以外全ステータス1だよ!僕のHPでも500しかないのに、レイナのHP30000超えてるみたいだしね!おっとそこっ!甘いッ!」

 

 「ぐっ!うぅ…」

 

 隙をついて山賊の腹を聖剣で突き刺し、事なきを得る。

 クリスの言葉に一瞬気を取られそうになったが何とかなって良かった。

 

 これでこの酒場に集まった山賊達は全員…

 

 というかさっきから魔法が全く見えなかったけど、ティナは何して…

 

 「───」

 

 僕が彼女に視線を向けようとした途端、場の空気が凍りついた。

 

 「おー、随分減ってますねぇ。あちゃぁ、二百は死んでますな。こりゃあ…」

 

 「そうだな。あの馬鹿兄弟はもう行ってるみたいだし、とっとやるぞお前らー」

 

 「……」

 

 酒場に二人の男と、中央に位置する男の身体に、身を潜めるようにして此方を見つめる小柄な少女の姿。

 先程まで僕らが完全に掴んでいた流れを、あっという間に彼らに奪われてしまった…

 

 この二人…強い。

 特に中央の黒髪の男、底が見えない。

 

 「アレン…あいつら」

 

 「わかってる。相当、いや滅茶苦茶強いね。特にあの真ん中の人。レベルが見えない…」

 

 「嘘っ、アレンでも見えないってことは」

 

 カノンの悲鳴にも似た叫びが木霊し、周囲にその真意を伝播させる。

 僕の鑑定スキルでレベルが見えないということは最低でも僕よりレベルが10より高いという事。

 つまりは僕ら全員でかかっても、彼に勝つのは困難を極めるという事だ。

 それだけレベルの差が大きいというのは絶望的な事なのだ。

 レベル差が5程度ならば運が良ければ勝てる。

 でも10もあれば、数人掛りでも困難だし、20も差が開けばほとんど攻撃が通らない。

 勇者である僕とそれ程までに隔絶した実力を有するのはこの場において最早一人しかいない…

 

 「ああ、つまり彼が、彼こそが…」

 

 「山賊王レンだ、勇者アレン。てめぇにゃ、お仕事の邪魔されたからな…キッチリ落とし前は付けてもらうぜ。」

 

 山賊王が口を開き、ニヒルな笑みを浮かべ此方を伺う。

 両者の間に緊張が走り、今まさに戦闘が勃発しようとしていた。

 

 「で、俺がその右腕のルカ様だ」

 

 そんな緊張に水を刺すように、空気を読まずに山賊王の隣に控えていた男が口を開く。

 どこかで見たことのある顔だが、思い出せない。

 一瞬思案を巡らせるも、やはり記憶にないようだ。

 

 「まさかその顔は、騎士殺しのルカだと!なんでこんな所に!?」

 

 するといつの間にか目を覚ましたレイナが、珍しく声を荒げて目の前のルカという男について言及する。

 

 「へぇ俺の二つ名を知ってるやつまだいたのかよ…」

 

 ───そうだ、騎士殺しの異名を持つ剣士。

 手配書であの男の顔を見た事があったぞ!

 

 迂闊だった。

 山賊王の存在感に掻き消されていたが、その悪名高さからかなりの使い手である事は容易に想像できる。

 

 いや、想像するまでもない、そんなものレベルを見ればすぐに……

 

 「彼も強い、ね。レベル33だなんて騎士団でも早々いない強さだ」

 

 長年訓練された騎士団の兵でも20後半が関の山、30を超えるのは騎士団長くらいな者だが、この男はそれに並ぶか凌駕しうるほどのポテンシャルを秘めている。

 聖騎士として十分に通用するレベルどころか、上澄となる序列持ちクラスだ。

 

 どうしてこれほどの実力者が山賊なんて事をしているのかが、疑問でしかないが……ここは戦うしかない。

 

 

 「アレン、どうする。一旦引く?」

 

 モモが冷静にそう問いかけてくる。

 珍しくモモが冷や汗をかいているのを見て、僕らの中の張り詰めた空気が全身にのしかかるのを確かに感じた。

 

 「冗談、この状況で逃がして貰える訳ないよ」

 

 彼女が相応の実力者と認めたのならば、レベルだけの魔人と違って技術も兼ね備えていると考えた方がいい。

 最悪上級魔人と並ぶか否か。そういうレベルでの危機感を持って、山賊王達と戦闘する他ない。

 

 

 

 「おい、ルカ。33ってテメェ……」

 

 僕の言葉を聞いてレンはルカに対して何やら不満を溢している。

 許可なく戦闘をするのを禁じているのだろうか、それを指摘されてルカはギョッとした顔で返事をする。

 

 「まあまあ、この場で役に立つんで許してくださいよ……」

 

 「ちぃ、テメェ後で覚えてろよ?」

 

 「へいへい。ほんじゃあ、さっさとやりましょうや」

 

 「だな」

 

 互いに折り合いをつけ、ルカは歪な曲剣──、確かショーテルという武器だったか──それを逆手に構え、獰猛な笑みを浮かべながら此方を睨む。

 

 その直後、

 

 「クリス!」

 

 レイナの悲鳴が響き、背後から血潮が飛び散る。

 

 「なっ!?」

 

 いつの間にか背後を──

 いや、彼らに違う背後を取られたんじゃない!

 僕達の前に現れた山賊は三人(・・)いた筈だ!

 

 最後の一人、小柄な少女がいつの間にか姿を消している。

 

 「ッア…」

 

 背後を振り向くと右胸から金属を、凶刃をむき出しにしたクリスの姿が……(

 

 「やめろぉぉぉ!!!」

 

 血反吐を吐きながら、掠れた声を上げて膝から崩れ落ちる彼女に白く霞んだ少女が再び刃を突き立てようとしているのを見て、僕は無意識のうちに駆け出していた。

 

 「他所見てんのか?嫉妬しちまうなァ〜おい!」

 

 「ぐっ、しまった……っ」

 

 (クリスを気にかける余裕もくれないか!)

 

 一瞬の隙を突かれ、山賊王に先手を奪われた。

 彼の振るう斧は僕の背丈程の大きさを誇り、僕をも上回る膂力で振るわれたそれは、真正面から……しかも出遅れて受け止めた僕の身体を容易く吹き飛ばす。

 

 余りの衝撃で視界が真っ白に染まるが、それを許す聖剣(勇者)ではない。

 全身に電流が流れるような感覚で満ち、神経が刺激される。

 

 (聖剣が解放されたのか?そんな事はありえない(・・・・・))

 

 聖剣は本来魔族を倒すために使われる武器だ。その真髄を発揮するのは人類の脅威に対してだけど聞いていたが…目の前の男はどう見ても人間だ。

 

 そんなまさかという困惑と、この状況ではそれに縋るしかないという現実に打ち拉がれそうになる。

 けれど山賊王(レン)はそんな隙すら与えず、追撃を仕掛けてきた。

 

 「流石は勇者サマだな!俺の一撃を受けて死ななかった野郎は八人目だ!」

 

 「それは光栄!だな!」

 

 歓喜するように斧を打ち付けるレンの爆発にも似る攻撃を何とか逸らしながら、パーティメンバーの支援を期待して周囲をチラリと観察する。

 

 アンナとカノンの援護は先程の少女が撹乱を続けている事で期待は出来そうにない。

 モモとレイナはクリスを狙うルカの攻勢に手一杯な様子……

 

 (ティナは………って、えええぇ!?)

 

 

 「死ねぇぇ!山賊王!」

 

 いつの間にか詠唱を終わらせていたティナの眼前には、無数の魔法陣が跋扈し、この酒場を魔力光で余す所なく照らしていた。

 

 (これって禁術レベルの……)

 

 即座に術式を解析し、その意図を汲み取り、理解し、驚愕した。

 

 (まさか僕ごとレンを巻き添えに極大魔法を放つつもりか──!?)

 

 「喰らえぇぇぇぇ!」

 

 その直後、僕らの視界が光に包まれ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──る事はなかった。

 

 「あっぶねぇな…」

 

 「は?」

 

 今彼女が放ったのは広域殲滅魔法『メテオフォール』。隕石に見立てた超高純度の魔力塊を落とす事で、街を一つ消し飛ばすような魔法だ。

 しかもそれを一方向に収束させた、中級の魔人ならそれこそ一撃で消し飛ばすような代物。

 それを何故、この男は…

 

 ──いや、そもそも何故僕も無事なんだ(・・・・・・・・・)

 

 確実にメテオフォールの射線上に僕はいた。

 だというのにどう言う事だ?

 どうして僕の背後は(・・・)が消し飛んでいるにもかかわらず、レンと僕は無事なんだ?

 

 「まさか、いやそんな馬鹿な……どうして山賊風情のお前が!その魔法を使える(・・・・・・)!?答えろッ!」

 

 「魔法?」

 

 ティナの言葉を聞き、レンの方向を見る。

 彼女の魔法が抉ったのは、レンの手前から僕の背後だけだ。

 まるで空間を切り取ったかのように(・・・・・・・・・・・・・)不自然な……

 

 そこで一つの答えに至る。

 ティナが辿り着いたであろう結論に。

 

 「空間魔法か!?」

 

 空間魔法。あまりの利便性故か、主がその魔法を禁止するとのお触れ書きを下すほどの超級の魔法。

 空間転移は勿論、質量を無視した物質の移動、果てには…異空間への干渉(・・・・・・・)

 当然主が使用を禁じるわけだ。

 

 だがそんなものを何故?とても山賊が扱えるような…

 

 「おいおい、もうバレちまったのかよ。」

 

 僕の疑問に答えんとばかりに、嘲笑し、剣を収める。

 

 「テレポートじゃない、テレポートの空間跳躍は私の魔法を凌げるほど長くはない。なら使ったのは……ワープゲートか!?空間魔法、その中位の位置する高難度魔法をなぜお前が……!」

 

 ティナは状況を観察し、答えを一瞬にして導き出し、憤慨する。

 

 いや待て。そうか、あの小柄な少女がクリスの背後を取れたのはワープゲートかの力か!だとすれば納得がいく。

 

 それに彼女の言うことは尤もだ。

 何故山賊がこれほどまでに卓越した技術を要求する魔法を扱えるのか、何故そんなものを知っているのか?

 疑問は尽きる事知らずに増してくる。

 

 「ハハハ、大っ正解ァイ!お前ら砂利餓鬼と違っておじさんは勉強好きだからなぁ!勝つ為なら俺様、なんでも使うぜぇ〜!!!」

 

 此方を馬鹿にしたかのように腹を抱えながら、大笑いし此方に指をさす。

 冗談を言えと言いたいけれど、彼の目は嘘を言っていない。

 本当に魔法について勉強している。

 しかも並の魔法使いを凌ぐ領域で…

 

 「それが禁書でもか!?」

 

 「禁書…?ああ、そういやそうだったなあ。昔攻めた街で見つけたんだったわ。てかそういや、お前見たことあるなぁ?誰だっけか?」

 

 ティナのその言葉にレンは顎に手を当て、何かを思い出すかなような仕草をとる。

 ティナはその様子を怒りに震えながら、睨みつけている。

 

 「あー、思い出した!お前あれか!俺に処女奪われてピーピー泣き喚いてた癖に、途中から自分で腰振り始めてたみたいなあのカビ臭え魔女っ娘か!首輪は自分で外したのか?自分から懇願してつけてもらってたのに…似合ってたのに残念だな。」

 

 「…殺すっ!」

 

 レンの口から漏れた衝撃な言葉に、ティナは同時に展開した複数の魔力砲と殺意を持って返答した。

 

 七色の魔砲はレンという男を収束点にして解き放たれ、着弾。

 

 激しい爆風が周囲を包むと同時に、その全てが逸らされた。

 

 見れば、レンがグルグルと円を描く様に高速回転させている湾刀は、普段の鈍色を放つことなく紫に煌めいていた。

 

 「ひぃー、おっかねぇペットだこって…」

 

 「エンチャント。それも空間に干渉する類の物だと!?お前!どこまで!」

 

 つまり刀身に亜空間を纏わせ、それで魔法を弾いた?

 光速で飛来する魔法に、剣を当てることすら神業だというのに、一瞬でエンチャントまでこなすレンの技量の高さは凄まじいの一言に尽きる。

 

 「中々に眩しかったぜ。このピカピカが俺への礼か?そりゃ嬉しいな!締まりと感度だけは良かったお前から、交尾以外で催しモンがみれるたぁ俺もとんだ幸せモンだなぁ…」

 

 「それと老婆心で聞くがな。前戯で腰ヒクつかせながら喘ぐ特技はもう卒業したのか?偉いなあ。お前が姿を消してから、人前で披露して日銭を稼いでると思えば、お父さんはなぁ…」

 

 「黙れッ!黙れ黙れ黙れ、黙れぇ!!!」

 

 赤裸々に語られるティナの過去に衝撃を受け、呆然とする。

 秘め事を暴露された彼女は、顔を真っ赤にして魔法を滅茶苦茶に打ち続ける。

 

 だが当然当たる事はなく、その全てが弾かれた。

 

 「おいおい、愛しのご主人様に対してなんて口利きやがるんだよ…こりゃもう一回お仕置きしねぇとなぁ!前は優しくしてやったが2度と使えなくしてやらぁ…ああ、そういやウチのデブがテメェとやりたがってたし、今回の褒美に丁度いいぜ。クククッ。」

 

 「く、来るなッ」

 

 「彼女に」

 

 悲鳴にも似た彼女の声で漸く、僕の身体が再起し、かつてないスピードで二人の間に立ちはだかる。

 文字通り決死の覚悟でレンと対峙する。

 

 「近寄るなら、僕を倒して行け…!」

 

 初めに受けた傷で骨を数本折られて、痛みでもう立ち上がれそうにない。

 でも立ち上がれ。

 信頼していた仲間が死にそうだけれども、怖い。

 だから行け。

 

 それが聖剣に認められた勇者の責務だから。

 

 目の前の山賊王が恐ろしいほどに強いのは分かる。

 レベル差も開いていて、一撃を受けるだけで僕なんて簡単に死にかねない。

 

 助けを求めている仲間の言葉を、泣いている人を放っておける訳がない…ッ!

 

 「なんだぁ?御涙頂戴?俺あんま好きじゃないんだよなぁ。別に嫌いでもねぇけどよ、お題目としてはギリギリ及第点な気もするし、周りが期待値上げすぎてイマイチ面白みに欠けんだよ…な!」

 

 「ぐうぅ…」

 

 何とか聖剣で受けるが衝撃を完全に殺す事は出来ない。

 その衝撃は僕の腕の関節を壊し、骨に骨が減り込む様にして漸く、拡散した。

 

 「アレンッ…」

 

 ティナが叫ぶ。

 

 「僕はこんな所で、倒れるわけには行かない!」

 

 「あ、そう。お前つまんねぇな。…ッ!これは!?」

 

 ここに来て初めてレンが驚愕の声が上がる。

 そこに複数の矢が飛来し、レンの攻撃が中断された。

 

 「ハァハァ…やっと掛かったわね。」

 

 アンナの呪術だ。

 

 アンナがいた方向を見ると、彼女達を撹乱していたあの少女は体力切れを起こしたのか、無傷だが大の字で地面に倒れ込んでいる。

 

 「…ッおい、マジかよあの糞餓鬼。もう落ちたのかよ…あーだが未発達の身体にしちゃ、よくやった方か?にしても、何だよこれ?身体が糞重てぇぞ!」

 

 

 「アレン、悪いけど一分以内にあいつを倒して…一分で効果が切れるわ。」

 

 「一分かぁ…アンナ昔から無茶振り凄いけど、今回はかなりキツイなあ…」

 

 「言っとくけどアイツ滅茶苦茶耐性高いからね、多分30回は呪いかけてるから…次いつ呪いかけれるか分からないから、ここでやってくれないと流石に詰みよ…」

 

 アンナが青息吐息の様子で此方に小声で話しかける。

 アンナのこんな姿は初めて見たけれど、もう驚きはない。

 敵は規格外の存在だ。

 ここで何としてでも討ち取るしかない。

 

 「私も援護させてもらうわよアレン!」

 

 カノンが近づき、少し頭痛がする。

 疲労かよくわからないけど、精霊術を使ってくれた様で、身体が軽い。

 

 「私も加勢する。」

 

 モモがヒョコッと僕とカノンの間に割って入ってきた。

 いつになく無表情だが、その立ち姿からは強い闘志を感じ取らせる。

 気配を全く感じさせない佇まいは相変わらずで、いつも以上に頼りになれる存在だ。

 

 「悪い親分!コイツ糞みたいにタフだわ!言われた通り聖女さん抑えとくから、あとは頑張ってくだせぇ!って離れろや!この糞女が!」

 

 「アレン!モモ!こことクリスは私に任せろ─!」

 

 「マジかよ。想定外だな…」

 

 なんというべきか、持ち前のHPを活かして気絶したクリスを守り続けるレイナの姿が頭に増して輝かしく見えた。

 何度もへばりついてくるレイナに対して、激しい苛立ちと疲労を欠かせなくなってきているルカを横目に、レンも困惑の表情を浮かべ、苛立たしそうにして頭を掻いている。

 

 「大人しく、降参するなら命までは取らない。ただ…」

 

 僕はレンに降伏勧告をする。

 正直この状態でもこの男と戦うのは危険極まりない。

 一縷の希望をかけての行為だ。

 もちろん時間を無駄にすることはできない。

 けれどそれほどまでにこの男は強い、圧倒的有利な状況だというのに、彼の目から闘志が消える事はない。

 

 「ただ、どうすんだ?」

 

 分かりきった問答だが、聞かずにはいられない。

 

 「死ぬほど辛い目にあってもらうだけだッ!」

 

 一気に加速して、距離を積める。

 魔力の爆縮にも似たそれは僕の四肢を蝕みながら、超強力な一撃をもたらす。

 

 カノンの精霊術によって無理やり引き上げられた身体能力と自然治癒能力で、ある程度の無茶は効く、だから滅茶苦茶に闘ってやる。

 

 「うおおぉ!?おおお!!!」

 

 思いもよらない程の大きな衝撃だったのか、僕の一撃を受け止めたレンはそのまま足を地に着けたまま、大きく後退し、その衝撃を殺しから事なく背後の壁にぶつかる。

 

 「ちっ、これが呪術ってやつかよ。ざっと短時間限定の身体能力の超低下か?倍率は50%くらいあるな、そこのエルフも詩もこっちの思考を妨害してきやがるし、耳が痛ェ…」

 

 「失礼ね!」

 

 レンの言葉に憤慨したカノンが彼の眉間を目掛けて放たれる。

 がやはり弾かれた。

 

 だかそれで良い。

 弾くという事は、レンには僕らの攻撃が通るという事なのだから。

 

 「くっそ、こんな事なら聖女じゃなくて先に呪術師の野郎を殺れば…ああいや、それだと聖女が生き返られせるから無駄か…ならこれが最善手。後はコイツらを倒せば問題ねぇが、ルカが使えねぇのキツイなぁ。」

 

 「糞勇者共が!5対1とか恥ずかしくねぇのかよ!タイマンでっ!?」

 

 レンの愚痴に対して、長期の詠唱を終えたティナの魔法が炸裂する。

 流石のレンも呪術の影響とカノンの強化によって、これには反応できなかったようで直撃しているようだ。

 

 「お前がそれをいうか!!!」

 

 激昂するティナは再び魔法陣を展開する。

 そんな彼女を見て、僕らはまだ終わっていないことを悟る。

 

 「今のはちょっとびっくりしたわ。もう少し反応が遅れてたらマジで直撃してたぞ」

 

 彼の手のひらには盾の古代文字が刻まれた魔力壁。

 

 「マジックバリアまで使えるのか…」

 

 苦虫を噛み潰したかのようなティナを嘲るように、レンは鼻を鳴らし、魔力壁を解除する。

 

 「アレン。一つ頼んでも良い?」

 

 ティナが僕を頼るなんて、本当に今日は珍しい事ばかりだが、こういうのはまた普通の日ならば良かったと考える。

 

 「何だい?」

 

 「あなた、勇者…いえ聖剣の加護でどれくらいアイツと正面から斬り合える?」

 

 「…ッ!知ってるのかい?いや、今はいい。分かったよ。耐えろって事だね。」

 

 勇者のシステムその根幹を言い当てられて、一瞬固まるもが今はもうそんな事どうでも良い。

 

 「だいたい持ってニ十秒。それを越えれば僕は暫くデクの棒だ。」

 

 「分かった。ギリギリまで持ち堪えて、私を守って。あいつは私が絶対に仕留めるから。」

 

 そう言って、ティナは僕の側まで駆け寄り、再び大規模な詠唱を始めた。

 

 「そろそろ作戦会議は終わりか?勇者さんよぉ?」

 

 「ああ、待たせて悪かったね。ここで君を捉える算段がようやくついたよ。」

 

 「そら良かったな。ここで祝杯でも上げとくか?てめぇには奢らねぇがよ。」

 

 「なら聞かないでくれよ、それは自分からお断りって言ってるようなものだよ。」

 

 僕の目的は時間稼ぎ。

 彼との会話が長引けば長引くほど、僕らが有利になる。

 それにあと四十秒はアンナの呪いが持続する。

 いや逆にそれだけしか、時間がない。

 

 「それもそうだな!」

 

 大きく大斧を振り翳し、此方を両弾せんと斬首の一撃が迫り来る。

 

 でも四十秒もあれば、僕が先にこの山賊王を倒す事も可能だ!

 

 「シィッ!」

 

 体内に溜め込んだ魔力を圧縮し、一撃、一閃、その一挙動全てに文字通り命をかけて聖剣を振るう。

 こんな無茶は聖剣の加護なしには到底できない芸当だが、僕にはその加護がある。

 

 「んだよ!一刀入魂ってか?舐めるなよ勇者ァ!こちとらな!もう魂すら燃え尽きてんだよ!」

 

 「なら、お前は何のために生きているんだ!大義も、信念もない。ただ奪うだけで何も生まない。答えろ山賊王!お前達は何のために奪うんだ!何のために罪もない人々を殺め、苦しめるんだ!」

 

 「決まってるだろうが!てめぇら神の信徒共全員に生まれてきた事後悔させてやんだよ!」

 

 「くっ!この背信者め!主が下さった、人の命の尊さが、魂の価値が何故分からないんだ!?」

 

 切り結びながら、そう叫び、レンの身体に少しずつ斬撃を刻み込む。

 

 僕の言葉を聞き、剣を交わすたびにレンは固まり、先ほどまでの余裕綽々とした表情と浮かべていた笑みを消した。

 

 

 

 そこにあるのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 「魂の価値だぁ?あーそう言っちまうのか…よりにもよっててめぇらが…なら仕方ねぇよな。恨むならてめぇらの神を恨むんだな。いや大見得切った手前を恨め。」

 

 

 圧倒的な虚無。

 

 

 

 唐突に無抵抗になった山賊王が不穏な雰囲気を纏い始める。

 瘴気というべきそれは、あたり一面を埋め尽くし、酷い倦怠感を巻き起こした。

 

 背筋に伝う、ゾワリとし感触。

 

 「………!!!」

 

 「うおおっと!?小僧何しやがる!」

 

 「…!」

 

 「ってマジかよ!さっさと退くか!じゃあな、野郎共ォ!先に失礼するぜ!」

 

 レンから溢れ出す瘴気に当てられたのか、僕らの身体が一気に重くなる。

 

 それと同時に目を覚ました小柄な少女に指摘されてたルカが、彼女を連れて扉の向こうへと逃げ込んだ。

 

 そちらの方向ではレイナが気絶しているものの、幸いにもクリスが目覚めている。

 

 「みんな行けるか?」

 

 「私達は問題ないわ。」

 

 僕の問いかけにアンナが強く答えた。

 

 他のメンバーにも視線を向けるとレイナを除いて皆同様に頷き返してくれる。

 

 「皆様ご迷惑をおかけしました。これより聖女クリス戦線は復帰します。」

 

 クリスが謝罪すると共に錫杖を構えて、僕らの身体を治癒させる。

 

 「いや君がいると百人力だ。じゃあ行こうか!」

 

 心の底からそう伝えて、聖剣の加護を最大に開放する。

 クリスが復活したなら、もう自分の身体の心配は必要ない。

 彼女ならたとえ僕の腕や足が捥げても、一瞬で再生させてくれる。

 

 「決めたぜ。酒飲みながら、お前らの生首でボウリングしてやらぁ。」

 

 禍々しい瘴気によって汚染された湾刀を左手に、右手には黒く荒んだ大斧を持ち、此方を見据える。

 

 アンナの呪術がもつのは後二十五秒。

 

 この間にケリを着けるッ!

 

 

 「おおおぉぉ!!!」

 

 全力で踏み込み、その瞬間は太腿の筋肉が弾け飛び同時に再生する。

 

 腕の筋肉繊維がブチブチと耳に届く程の破裂音を立てながら、剣閃に更なる加速を生み出し、普段の数倍の出力で山賊王の身体を薙ぐ。

 

 「それをやめやがれ!この狂信者共がっ、癪に触んだよ!死ね!」

 

 真正面から渾身の一撃を受けてもなお、山賊王の進撃は止まらない。

 確かに、確実に彼の体に刻み込んでいるのに一向に倒れる気配はない。

 

 けれど限界(めつぼう)へのカウントダウンはもう止まらない。

 無理矢理に突破したレベルの壁を超えた対価は確実に、数秒後にやってくる。

 

 だから決して止まるわけには行かないッ!

 

 「あー止まりやがれや!この野郎が!」

 

 互いに無数の切り傷を負うも、止まらない。

 レベルの差の影響で異様にタフな山賊王からすれば、格下の僕がここまで食い下がるなんて予想だにしていない筈だ!

 

 僕はその意識の隙を突くべくして、敢えて山賊王の一撃を真正面から受け止め、致命傷を受けたまま彼の懐に潜り込み奇襲をかかる。

 

 ───だが、同時に山賊王は両の腕から得物を手放した。

 

 カランカランと、音を立てながら転がる。

 

 一瞬それに気を取られた僕が最期(・・)に見た光景はまるで鏡写のように、呆然とする僕の潰れた頭(・・・・・・)だった。

 

 

────────────────────────

 

 「何必死になってんだか、気色悪りぃ…それっぽく見せて戦えば調子乗ってフルスロットかけてきやがってよ。こういうの何か知ってるか?宝の持ち腐れってんだよ。まあ今回のを教訓にだな、次は…って死体に言っても無駄か」

 

 まるでアレンの顔をなぞるようにしてレンの掌が触れた瞬間に、アレンの頭が消し飛んだ。

 

 「あ、え?嘘…アレンが死んだ?」

 

 その光景を少し離れた場所で見ていたカノンは、目をパチクリとさせ、未だに現実を受け入れられないでいた。

 手足は竦み上がり、身体は震え、その瞳に闘志はない。

 焦点の合わない彼女の瞳は、宙を彷徨い、最早戦う事など不可能であるかのように感じさせる。

 

 「くっ!でもダメージはある筈!喰らえ山賊王!!!」

 

 一方アレンの援護を頼みにしていた、ティナは詠唱を急遽中断し、速攻で魔法を発動させる。

 大した詠唱もない低火力の魔法だが、膨大な魔力量を有する彼女が放てば、低級の魔人とて無傷では済まない。

 ましては相手はただの人間、しかも呪術で魔力への耐性も低下しており、勇者との戦闘で重傷を負っている。

 

 ──今なら、勝てるッ!

 

 彼女は僅かな勝機を見出したが故に、そこに執着せざるを得なかった。

 

 「───カハッ…う…そ…」

 

 復讐を誓うのならば、この場は何としてでも生き延び、次に繋がるべきであった。

 しかし目先の勝利に囚われた彼女はなけなしの魔力で決着を望み、手に入れた物全てを奪われる。

 

 「無駄だっつーの…てかお前下手くそだなぁ。丁寧に詠唱全部読み上げりゃ、いいと思ってんのかよ?端折れる処は端折るもんだよ戦魔術ってのは、あ?知らない?だろうな今適当に言ったからな。」

 

 淡々と無表情に、無感情に、無情に、作業のように男は言葉を紡ぐ。

 男は少女の首を、その華奢な腕に見合わない剛力で握りしめ、持ち上げながら徐々に力を込め、その意識を遮断させた。

 

 「ティナ!?」

 

 あっという間に勇者パーティの内一人が無力化され、アンナが想定外いや、最悪といった表情を浮かべ、叫ぶ。

 このパーティで最も聡明な彼女はこの後の展開を予期し、絶望する。

 そしてその末路を覚悟して、呪詛を纏った杖を構える。

 

 「くっ、不味ッ!?」

 

 それとほぼ同時に急接近しながら、魔力の渦と湾刀を装備したレンの姿を遅れて認識したモモは、仲間の死に気を取られた事で致命的な隙を生み出してしまった事を理解し、己の不覚を恥いる。

 

 「てめぇらも、さっきから小蝿みてぇに喧しいんだよ。喚くなら外でやれってんだ。」

 

 男は右手に宿した焔を呪術師に向けて解き放ち、左手の湾刀で格闘家の心臓を貫き、捻り、抉り取る。

 

 「ぐああああぁぁぁ!」

 

 「カハッ…ぇい…ぁ…すま…ない………」

 

 呪術師は火に巻かれると同時に呪詛を返された事で普段より倍の痛覚を持ったまま全身を灰に変えられ、絶叫する。

 

 格闘家の少女は無自覚にも謝罪の言葉を溢し、後悔の海に沈む。

 

 「呪術師の丸焼きに、格闘家の串刺し一丁ってな!クッハハハッ!!!漸くうざったい奴が始末できたぜぇ…ふぅ〜スッキリだ。弱え癖に調子乗りやがってよ!だがありがとな!俺はスカッとしたからな、ハハハッ!」

 

 勇者パーティの大半を殺害さて漸く男の顔に色が戻り、普段のように下品に大笑いする。

 彼にとって、勇者達はなんて事ない、唯強くて面倒臭いだけの雑魚に過ぎなかった。

 

 「しかもてめぇら、勇者がいねえと何も出来てねぇじゃねぇかよ!ハハハッ、ただの烏合の衆でよくもまあ…勇者パーティなんて名乗れたもんだなぁおい!あー腹痛ェ。死ぬ程辛い目にあったわ。」

 

 男は嗤う。狂ったように、純粋無垢な少年のように、只々、己が葬り去った死者を愚弄し、嘲り笑う。

 敵に対する敬意などない。

 戦士としての誇りなどない。

 

 邪魔だから

 ムカつくから

 うざったいから

 面倒臭いから

 

 故にいつものように屍の山で大笑いする。

 

 「じゃ、帰るか…」

 

 そして全てが、遠い過去であったかのように、唐突に冷める。

 少年が夢を叶えてすぐに、全てを奪われたように。

 夢を見ている最中に、水をかけられて夢から覚めるよう。

 

 

 

 男にとって戦いや略奪はそういったものだ。

 

 唯の作業で、終わりのない苦行。

 

 神への復讐。

 その道のりは険しく、果てしなく虚無であった。

 男にとってそれは只の既定路線であり、決定事項であり、逃れられない定めだからだ。

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 「お待ちなさい…」

 

 男が銀髪の魔法使いを背負い、その場を去ろうとした時、一人の聖女が立ちはだかった。

 

 「そういやまだテメェがいたか。トンチキ聖女。てめえの存在ってことだけにゃあ、これまでの恨みに目を瞑って神に同情してやるよ。この阿婆擦れが。」

 

 男は彼女を見て、げんなりとした様子で嫌味を言う。

 

 「随分と酷い言われようですね。レン。貴方が(・・・)私に手を教えてくれたというのに…」

 

 男の罵倒に対して聖女はそれを諌める事なく、かつてを懐かしむように、己をこの魔道へと突き落とした憎き(いとおしい)男に語りかける。

 

 「はっそういやそうだな!ならあの邪神に少しは仕返しできたってわけだな!ギャハハハハ!!!」

 

 男は聖女の言葉を聞き入れ、これ以上ない程に悪辣な笑みを浮かべ、心の底から歓喜する。

 彼にとってはこの喜び(神への嫌がらせ)は勇者に勝利した事よりも、憎き先代の頭領を犯し、殺した時よりも、素晴らしく、極上な代物だった。

 

 「随分と楽しそうに笑いますね。しかし本当に主は私を疎んでおられるのでしょうか?そのように周りから思われるのも、主から試練のなのではないでしょうか?困難を乗り越え、真の愛を試す試練として。」

 

 男の歓声を余所に、聖女は男の言に心外とばかりに口を尖らせ、己の自論を展開する。

 

 「いや、それは無い。しっかし相変わらず気持ち悪いなお前…糞餓鬼にはかなり強めの毒を渡して、心臓突かせたのにすぐに復活しやがるしよ…」

 

 男は冷静に幼馴染(・・・)であった聖女を諭そうとして、それを辞め、再び罵倒する。

 

 「これぞ、主への愛が成せる業ですよ、レン。」

 

 そんな言葉を発した彼女の眼には慈愛が満ちており、ソレは殺戮者であるレンをも包まんとしていた。

 山賊王、いやレンはこれを厭い、心底気分が悪そうに彼女から視線を逸らす。

 

 「な訳あるか。はぁ…疲れた。とりあえずこの魔女っ子持って帰るぜ。」

 

 ──これ以上この女と話していたら頭がおかしくなる。

 これ以上ない真実に思い至ったレンは、脇に抱えた少女を連れ帰ろうとして、次に聖女から放たれた言葉で、その動きを止める。

 

 

 「ええ、お構いなく。──ですが私を殺さなくてもよろしいのでしょうか?こう見えても勇者パーティのヒーラーですよ、私は。」

 

 彼女にとってこの問答は一度目ではない、だが分かりきっていることを再確認せずにいられないのだ。

 例えその答えを完全に記憶していたとしても…

 

 

 「はっ薄情な聖女も居たもんだな。…てめえを殺さねぇのはアレだよ。どうせてめえ何回殺しても死なねえだろ?つかなんだよ、気合いで蘇りやがるなんぞ。正気の沙汰じゃねぇよ。」

 

 「それ程で…いえ、当然です。」

 

 「それにだ。こんな俺にも信条はアンだよ。」

 

 「おや、意外ですね。」

 

 「ああ、死人を殺す趣味はねぇ。一回殺した奴は二度と蘇らないんだよ。死人は死人、それ以上でも、それ以下でもない。だから殺す必要もねえんだわ。」

 

 「成程。死を超越して蘇る私やアレン達は貴方にとって、生きる屍と?」

 

 「そうだよ、じゃなきゃ命の尊さも、魂の輝きもこの世界に有りはしねえ。死人は死人だ。今俺が見てるてめえも俺の中じゃ幻覚見たいなもんだよ。」

 

 「フフフ、お優しいのですね。貴方はあらゆる人々の魂の尊厳のために主に立ち向かうのですね?」

 

 「はっ!勝手に言ってろ!このイカレ修道女が…っ!」

 

 俺は帰るぞ。

 そう言いながらワープゲートを開き、帰路を着こうとする男に聖女は言葉を続ける。

 

 「ええ、それも一つの愛の形ですから、私は貴方を否定しませんよ。」

 

 「でなければ、貴方の神への信仰がこれ以上無い程に満ち溢れるなど(・・・・・・・・・・・・・・・)あり得ませんから。真逆、私を超える信仰の持ち主とは恐れ入りました。宜しければ、コツを伝授して頂いても?」

 

 その質問を受け、レンの足が止まる。

 

 「お前は神に会った事はあるか(・・・・・・・・・・)?」

 

 その答えは、まるで神に直接会った(・・・・・・・)かのようで…

 

 「ああ!それは、それは…っ!何って素晴らしい!正に前人未到!神への謁見!あぁっ!何て羨ましい。ああ主よ!これほどまでにお慕い申しておりますのに!何故に、私にこれでもかと言う程に、見せつけるのでしょうか!?いいえっ、私には分かります。主のお言葉が、主の慈悲がっ!主の慈愛が!ああっ!主の愛が全身に…っ!満ち満ちて…っあぁっん!」

 

 男の境遇を理解して、嫉妬した聖女は声を徐々に湿らせ、その幸福に、試練に、架空の愛に喘ぎ、昇天する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いややっぱお前キモいわ。」

 

 男にとって、彼女のそれは偽りなく奇行に過ぎなかった。

 

 

 

 

 




用語解説 ネタバレ特に無し。

魔法…よくアニメとか漫画で出てくる奴。ビームとか炎の矢とか使ったり出来る。勉強すれば誰でも使えるけど難しい。

呪術…敵の攻撃力下げたり、動きを遅くできる。あとは普通に呪術っぽい感じで丑三刻に五寸釘刺すやつもできる。

精霊術…索敵や身体能力向上などが出来る。歌わないと使えない。

神聖術…回復魔法。

加護…神に愛されてる人間のみが得られる特殊な異能。稀に自力で獲得する者もいるが極々稀。そもそも加護を持つものが数千人に一人程度の物で、その多くは誤差の様なものを授かる。
 ちなみに山賊団のゴンズイ兄弟は背信者だが加護を有しており、太りやすくなる加護を得ている。

人権意識…あらゆる種族に対して平等に扱ってくれるのは主人公だけであり、彼はある意味世界で最も人権意識の高い平等主義者とと言える。

倫理観…魔族と勇者とエルフが独占禁止法に違反して持ってる。コイツらが悪い。


登場人物解説 ネタバレ特になし

レン…前世日本人の一般人。異世界転移したことで倫理観が生死の境がなくなり、風(神の畜生さが)強すぎて、(倫理観が)お亡くなり。
 神を殺す以外にも、新しく目標が出来て満足。
 次の目標は魔王討伐後の勇者パーティの生首でボウリングすること。


ルカ…涙目じゃない。ドライな性格で山賊に身を落とす以前は、色々していたが山賊に身を落としてから毎日がハッピーでエブリデイ。
 幼少期の主人公に剣術を仕込んだが、たった15年で互角に持ち込まれたのを若干残念に思ってる。
 ホモであり、幼少期の主人公の尻を掘っていた所為で、頭領になった主人公に陰茎を切り落とされ、再起不能になったが、特に恨んでない。
 勇者の顔が好みだが、強くて手が出せない事に悩んでる。

 ゴンズイ兄…ロリコンで肥満体型。神の加護でブクブクと太り、そのうち全てを飲み込む終末装置(大嘘)。加護を受けるまでは美男子だった(自己申告)ので神を恨んでいる。レベルはそこまで高くない。
 エンゲル係数を傾ける異能を有しているにも必ず弱い為、レンから煙たがられている。

 ゴンズイ弟。…ブス専で肥満体型。こっちは本当に世界を終わらせる終末装置なので定期的にレンの空間魔法の応用で脂肪を消滅させてもらっている。コイツが死亡すると世界を脅かす要因が一つ減る。
 持ち前の脂肪で凡ゆる攻撃を吸収する。魔王の攻撃には無力。
 綺麗好きで、レンとは風呂友だが、脂肪が風呂の湧き水を吸い取ってしまうことを申し訳なく思っている。
 レンからは面白い男判定を貰っているので許されているが、本人はそれを知らずビクビクしている。
 レンはその様子を見るのが日頃の楽しみの一つ。

 名無しの少女…白髪の少女。持病で声が殆ど出ないが感情表現は割と豊か。倫理観の無い山賊達からは親分のお気に入りと気味悪がれているが、友達が欲しいと思っている。
 彼女の母親とレンには面識があるらしいが、母親は既に故人。

 アレン…本作の倫理観を一重に担う一般勇者。規格外と裏ボスと早期に出会った事で死亡する。
 レン達と出会い初めて人間の悪辣を知って、頭がフリーズした。
 山賊達と遭遇する前に、使い捨てられたドワーフの女性の死体とぐちゃぐちゃにすりつぶされたドワーフ達の死体を見てトラウマを発症。
 これの影響で不能となっている。(余談)。
 名誉の負傷、永遠の勇者。
 そのままの君でいて…

 アンナ…勇者曇らせ隊の筆頭。勇者の死体を見て一瞬興奮している。

 カノン…異世界ジャイアン。
 好意を抱いていた男の死に様を見て発狂。
 何気に唯一ノーダメージなエルフ。ハッピーがいっぱいでよかったね!
 個人(作者)的には一番まともだが、音痴なので詠唱するたびに敵味方を撹乱する。

 レイナ…前世で死にゲーをプレイしてたのかと思うほどの生命極振り、経歴詐称女。騙しているつもりはなく本気で自分を騎士だと思い込んでいるが、実際はただの遊び人。さとりのしょ は神によって焚書されている。
 レベルを上げれば魔王の攻撃に耐えれる素質を持つ。(単にカンストダメージになるので防御力が必要ないだけ。)

 モモ…今の所は(・・・・)まともそうに見えるロリっ子格闘家。何故がルカを見て恐怖している。何か因縁があったのかもしれないが、ルカはホモなので記憶に残っていない可能性が高い。

 ティナ…銀髪貧乳のカビ臭い魔女っ娘。レンに攫われ奴隷に身を落としていたが、ある日ゴンズイ兄に狙われたところを死ぬ気で離脱して、自由の身になった。打ち込まれた淫紋はまだ消えてない。
 いつか必ずレンを殺すと心に誓うが、再びレンに捕まる。
 
 クリス…自分は世界を救う使命を受けた聖女である。と思い込んでいるやべー奴。
 致命傷を負うも、神への愛(気合い)で復活した。多分コイツは魔王でも殺せない。実は狂人。
 主人公のレンとは幼馴染の関係にあるが、古来より幼馴染はヒロインレースに負けるもの。
 そして本作にはヒロインと言えるものはない。
 教皇が不死の加護を受けているが、不老の加護を受けていない為、彼がボケ続けている限りは異端認定を受けない。
 初期設定では普通の聖女だったが、作者の気の迷いで究極進化した化け物。紫色の侵略者系巨人の指パッチンにも気合いで耐える。

 作者…一番まともな奴。コイツ無しではこの世界の倫理を守ることはできない。何も考えていないので、次回の更新は遅れます。
 具体的にいうと8月以降です。

評価してくださった方々、ありがとうございました。
皆様の感想お待ちしております。
 

この中で一番悪い人は?

  • 主人公:山賊王 レン
  • 裏主人公:勇者 アレン
  • 呪術師 アンナ
  • エルフ カノン
  • 魔法使い ティナ
  • 遊び人 レイナ
  • 格闘家 モモ
  • 聖女 クリス
  • 山賊 ルカ
  • 山賊 ゴンズイ兄
  • 山賊 ゴンズイ弟
  • 魔王 (名称未定)
  • 魔人
  • 小柄な少女(名称未定)
  • 幼少期に主人公を攫った貴族の親子
  • 教皇
  • 先代統領
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