山賊ロールプレイしてたら、何故か勇者が襲いかかってきたんだが!?   作:蓼食う裕太さん

4 / 8
 やあ!私だ!
 (投稿遅くなって申し訳ありません。普通にリアルが忙しくて執筆時間が取れませんでした。とりあえず8月中旬頃には落ち着くので、更新頻度が落ちることをお許しください!ボルガ博士。)

 本日の二十時ごろにランキングを覗くとオリジナル部門で4位に拙作がありまして、正直驚きました。
 この成果は皆さんの声援あっての事です。
 本当にありがとうございます。
 これからも皆様のご声援お待ちしております。



 私事ですがTwitter開設いたしました。

https://twitter.com/tadekue24?s=21&t=4zX-puiy2qlJDo_pBYNESA





一章
僕の師匠は最強だよ!


 

 「うっ…此処は?」

 

 激しい頭痛と共に、一人の男が目覚めた。

 男の名は勇者アレン。

 

 先刻、山賊王との戦闘にて頭部を抉られ死亡したが…目立った傷は一つもなく、本当に戦ったのかさえ怪しいと思える無傷なその身体は、白い無機質なベットの上に寝かされていた。

 

 誰がどう見ても完全に死んでいた筈の彼は、今生き永らえている。

 その原因は勇者の特性にある。

 

 勇者の加護、いや正確には聖剣の加護(・・・・・)が、アレンの死した肉体を無理矢理再構築して、死の果てからその魂魄を掬い上げたのだ。

 

 だがあくまで肉体を再構築しただけに留まり、勇者の肉体はほぼ麻痺しきっているような状態といえよう。

 

 「目が覚めたか?空け者が…」

 

 そんな勇者を見下す形で一人の人物が語りかける。

 すらりと伸びた初雪を思わせる頭髪からは、絶世の美女の風貌がみてとれ、今にも揺らいで消えてしまいそうで、余りにも儚げな雰囲気を纏っていた。

 だが同時に彼女の存在感の重さ──積み重ねられた歴史の重さというべきなのか──をも同時に感じさせる、老人のような立ち振る舞い。

 

 しがれたような声と同時に若々しさ声をも内包した異様な存在感の持ち主だ。

 

 そんな異質な雰囲気を纏いつつ、和やかな顔つきでアレンを見つめ呆れたように安心するようにしていた。

 

 「し…師匠、ー何が…あったんですか?」

 

 ───師匠と、勇者が口にした存在は一瞬、罪悪感からか苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、顔色を普段のモノに戻し、勇者を叱責する。

 

 「我が知るか、直接見ておったのは貴様らだけだろうて…」

 

 確かに彼女はあの場面において、勇者と共に戦っていない。

 故に一切の事情を知らず、彼女は単に知己(・・)からの勇者が敗北したとの知らせを聞いて駆けつけただけに過ぎない。

 

 「…っ、そうだ…ッ、僕らは山賊王と…ッ!ぐっ…がっぁ」

 

 ハッとした様子でこれまでの経緯を思い出し、起きあがろうとするも、全身の千切れ飛んだ細胞が悲鳴を上げて、その動作の全てを拒絶した。

 

 「何、山賊王だと!?貴様、正気か?アレとは敵対してはならんぞ!」

 

 勇者の口から漏れ出た山賊王という言葉を聞いた途端に、彼女は顔色を変えて、勇者に掴みかかった。

 

 「え、は?な…何を…師匠?」

 

 勇者にとっては普段から余裕綽々とした彼女がこうも取り乱す姿は、あり得ないものであり、驚愕を禁じ得ない事態であった。

 

 (たとえ自分が何人いても子供のようにあしらってきた師匠が、こうにまで動揺するなんて、山賊王は一体何者なんだ?)

 

 勇者は当然の疑問を抱きつつ、彼女の言葉を待つ。

 すると彼の師は、観念したように口を開き、言葉を続ける。

 

 「山賊王レンは背信者共の中でも飛び抜けて凶悪な存在…先代の統領も中々厄介だったが、今代のレンは異質なのだ。この我の知恵を持ってなお、理解できぬほどにな…」

 

 「モノによれば、目が見えなくなったり、腕が生まれた時から奪われていたり、心のない者、声を失った者もおるわ。貴様の仲間にも呪術を扱う者がおったろう?あやつのアレは主の呪いを劣化再現といえよう…故に王には通って(・・・・・・・・)おろう?」

 

 師の言葉を省みて、戦闘を思い返す。

 確かにアンナの呪術は通りが悪かったが、呪いがかかりさえすれば、効果覿面であったと回想し、腑に落ちた様子の勇者の姿を確認し、彼女は話を続ける。

 

 「そんな奴らを束ねているあの山賊王は、その中でも飛び抜けて規格外だ。」

 

 「アレは知りすぎるのだよ、一を見て、十を知り、百を識り、千を解して、万を察するのだ。貴様の聖剣、その真奥さえも見切ったのやも知れぬ。」

 

 「いや、下手をすれば…」

 

 恐らくこの世界で最も長く生き、あらゆる存在を卓越したと言っても過言ではない己が師の言葉に、勇者を戦慄からか、動きもしない身体を無意識のうちに震わせてしまった。

 

 彼女が頑なに語ろうとしない聖剣の真奥。その真価をあの軽薄そうな男が理解できるとは到底思えないが、深刻そうに語る師の姿はその想像を容易に打ち砕く。

 

 「師匠の言うことも尤もですが…珍しいですね。これほどまでに言葉を濁す師匠は初めて見ましたよ。」

 

 故に、勇者は疑問に感じた。

 あの男はそれほどまでに脅威なのかと。

 確かに山賊王は強い、それこそ勇者パーティ総出で彼一人を相手にしても勝てるビジョンが見えないほどだ。

 勇者を思い返す、最後の瞬間に露見したあの、あらゆるものを否定するかのような負のオーラ。

 呪術師の呪術により身体能力が半減した状態で、勇者の全力を押し切る出力。

 

 師のいうように恐ろしいほどに不気味で異質だ。

 しかし、おそらく山賊王の切り札とも取れるあのオーラを使ってなお、勇者の実力の2倍以上の出力しかないのだ。

 

 勇者にとって倍以上の戦闘力差は、日常茶飯事、何度死そうとも聖剣により蘇り、苦戦した分だけその差は聖剣のバックアップによって埋められる。

 

 今の自分自身ならば山賊王に勝てるというわけではないが、死ぬ以前と比べて大きく彼の実力に近づいたと言えるだろうと、勇者は考える。

 

 「ともかく、非常時を除いて、あの男と関わろうとするな…その男は我が対応する。貴様は魔王討伐を再開するのだ。分かったな?」

 

 だが勇者のそんな考えは師による再三の警告の元、断念せざるを得ない。

 勇者にとって、彼女の言葉はある意味で主を超えて絶対の言葉となるのだから。

 勇者アレンは自覚しているのだ、奉ずべき主を差し置いて信仰する存在(師匠)がこの世界にいる事を。

 故に彼は守らねばならなかった。

 この世界を危機に追いやる輩を廃し、真の意味で師を救いたかったのだから。

 

 そんな己こそが、勇者に見そめられてしまった己こそが世界最大の背信者である事を知っていた。

 

 「はい、分かりました。あ、その…僕の仲間達は今どこにいますか?教会の方で治療を…」

 

 そんな真意を上辺に浮かべる事なく内心に留め、己の師に勘付かれないためにも、思い返したかのように仲間のことを問いかける。

 

 「…賢者は行方不明、エルフは心をやられたな…他の者は聖女様が蘇生して下さったようだが…そうさな、あの後は聖女様が一番詳しかろう?一度会って話を聞いてみると良い。もう動けるだろう?」

 

 勇者に対して一切の配慮の無い物言い。

 これを聞いた勇者は仲の良かったカノンの容態に心を痛め、ティナの身を案じ、その顔を曇らせた。

 山賊王との戦闘、その後を知らぬ勇者にとって、その後の出来事を知り得る術は限られており、病み上がりの影響もあり、最悪の可能性という結論にまでは及ばなかったようである。

 

 今に思えば、カノンは寂しがり屋でよく自分のことを慕っていた少女だ。目の前で自分が死ねばそうなることは予想できたというのに、聖剣の加護を伝えなかったばかりに、彼女は心を病んでしまった。

 

 また(・・)失敗してしまった。

 

 慚愧の念は絶えない。

 

 「ははは…ええ、勿論です。無茶をすればですがね…」

 

 だが勇者にとってはそれが常の事であり、困った笑みを浮かべ、頭を掻く。

 出会いと別れというものは旅に付き物であり、聖剣を抜いた日から覚悟はしていたし、もう慣れた(・・・・・)

 通常ならば無理をするなと言うべきなのだろうが、両者に遠慮はない。

 彼女は勇者が仲間の身を案じていることを知っているし、勇者は彼女のそんな気遣いを理解しており、両者共に気丈に振る舞っているのだ。

 

 「ならば問題ないな、勇者とはそういうモノだ。」

 

 それに勇者は止まってはいけない。

 死してなお、魔王討伐のために立ち上がるべし。

 

 そう教えてしまったのは、他ならぬ勇者の師匠であったからだ。

 

 「そうですね。もう耳がタコになるかっていうほど聞きましたから。それくらい分かってますよ師匠。」

 

 作り上げた笑みを浮かべながら、いつもの教えを脳裏で反芻する事で己を納得させる。

 

 「カカカッ此奴め言いよるではないか!」

 

 必死に隠そうとしているが、目に見えて表情を曇らせている勇者を見て彼女は軽くため息をついて、勇者の頭を乱暴に撫でる。

 

 「ああ!いえ、そういう訳で言ったんじゃなくて…って師匠ぉ!」

 

 普段パーティのメンバーにスキンシップをされても、一切顔色を変えなかった勇者はここでは、大きく顔色を変えて動揺し、あたふたとしつつも、拗ねるように視線を逸らした。

 

 「構わん、構わん。一番苦労してるのは貴様だろうて。我ら(・・)はあくまで貴様の憂いを取り除く方しか出来からな。」

 

 鬱屈とした雰囲気が晴れ、澱んでいた空気が澄み渡るような気分を両者は抱き、勇者の師は出口を見つめ口を開く。

 

 「では、我は行くとするか。貴様も傷を癒やし次第、旅を再開するといい、なぁに案ずるな、後処理は我らに任せるといい。ではなっ!」

 

 朗らかな笑みを浮かべ、彼女はこの空間から立ち去った。

 残された勇者は一人、髪に残った暖かさを名残惜しそうに感じながら、身体を起き上がらせ、旅の支度をし始めた。

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 「────よう、随分と遅かったなぁ。可愛い息子との逢瀬は満足か?」

 

 勇者の師が弟子の元を立ち、しばらくして異空間から欠伸を噛み殺しながら一人の男が姿を現した。

 つい先日勇者を下した山賊、その統領である山賊王レン。

 

 故あって彼女とこの男の間には、10年以上の付き合いになる縁がある訳だが、両者の間には親しみという感情は一才、無かった。

 

 その男の登場とともに、殺気立った彼女は腰に差した剣に手を伸ばし、男にキッと口を強く結び、射殺すかのように強くに睨みつける。

 

 彼女は勇者が目覚める以前、聖女と交わした言葉を思い返して、勇者の前では決して見せる事はなかった激情を露出させ、一歩踏み込む。

 

 「黙れ、貴様やってくれたな。」

 

 激昂する彼女とは対照的に、面倒くさそうにしながら相手を一瞥した山賊王は突如、纏う雰囲気を変え、大きく目を見開いて言い放つ。

 

 「おいおい、そりゃこっちのセリフだぜ?テメェんトコのお子様のお遊びで、200も損害出たんだわ。お前になら(・・・・・)分かるよなぁこの意味が。」

 

 勇猛果敢な勇者の突撃によって、瞬きの間に蹴散らされた名も無き山賊達、その無念を背負い男は吠える。

 

 ぞんざいな扱いをしていた自覚を持ってはいたが、長年苦楽をともにしてきた友や、自分の命を虎視眈々と狙い続けてきた野心家、果てには呪い付きでありながらも、真っ当に恋をして子を成した者がいた。

 

 男にとって、その者達は大して役に立たなかった、無能な駒ではあった。

 いてもいなくても、将来的にも、大して影響はないだろう。

 

 だが、そんな男であろうとも、その者らを記憶していたのだ。

 

 故に男は余裕を演じるため、仮装していた普段の飄々とした態度を、自らかなぐり捨てて、格上(・・)の存在である彼女に噛みついた。

 

 もはやその感情を着飾る言葉が、配慮が、余裕が、何もかもが、必要ないほどに、ただ男は激昂していたのだ。

 

 「ッ!?それは…」

 

 そんな山賊王と相対する彼女は、格下()の態度にたじろぎ、喉元までに来た言葉を飲み込む。

 言うのは容易い、言葉にするのも容易だ。

 だがそれを口にすれば最後、決定的な破滅を自身にもたらす、確信めいた予感を感じさせた。

 

 「そもそもよぉ!勇者と俺らが衝突しねぇようにセッティングすんのがお前の仕事だろうがよ?」

 

 ここで山賊王は遠い昔(・・・)に彼女と結んだ協定(・・)を持ち出し、怒声を張りながら威圧した。

 

 「ぐっ…」

 

 山賊王の言うことも尤もなことであり、いかに重要な案件(・・・・・・・・)であったとはいえ、勇者の活動の監視監視を怠った責は彼女にあり、それを自覚しているが故に、言葉を切り出せない。

 

 「あーマジで嫌になるぜ。ホントにやる気あんのかよ……」

 

 そんな彼女の姿を責めるように細目で見つめて、はぁ…と大きく一息をついてから男はどうしたものかと言う風に、掌で視線を覆い、現実から目を逸らしつつ、当然の権利として嫌味をその口から漏らした。

 そもそも男はこのような話をしにこの場に訪れた訳ではない。

 時間的な余裕がある訳でもなく、早急に済ませる予定であったにも関わらず、肝心の眼前におわす老人はこの体たらくだ。

 

 「この件に関しては完全に我の監督不届だ…だが貴様とてやりすぎであろう!何もあそこまで…!」

 

 山賊王の嫌味の一つも溢してやりたくなるような思いが、無意識に溢れ出た結果、プライドの高い彼女に火が着いてしまう。

 

 一方的ではダメだ、こちらからも攻めなければ…という、数百年も昔の旧時代的な思考回路は最早、完全に蛮族のそれであり、山賊王の頭を悩ますだけには止まらず、直接脳を叩き付けているような鈍痛を響かせている。

 

 「だぁーっ!テメェッ!良い加減にしろよ!自分の不手際って分かってんならとっと謝罪して、この話に収拾つけろや!なんで反論してきやがるんだよ!こっちの時間もただじゃねぇんだぞ!?」

 

 そして男の理性によって堰き止めれていた激情が彼女の言葉によって、決壊を起こして、怒りとなって濁流を引き起こす。

 

 だが常に男は内にある憤怒、神への憎悪を長年飼い慣らし、緻密な計画を練っているのだ。この程度の感情の操作は造作もなかった。

 激流となった感情を吐き出しつつ、最大限の妥協案を提示する。

 

 相手の不義理に対して、寛大な折衷案を設ける───

 

 男にとって、前世では当たり前のように出来ていた事だが、転生してからはその憎悪によって長らく不可能となっていた譲歩を辛うじて引き出す。

 

 もし男の眼前にいるのが、部下やその他の人間ならば、この場で斬り捨ていただろう。

 しかし今彼の前にいるのは先代勇者パーティ(・・・・・・・・)の生き残りだ。

 

 つまりは魔王に伍する力の持ち主。

 

 互いの事情は分かり切っているが故に、次に繋げるための布石を打つのが男にとって必須事項であった。

 

 「う…今回の件は貸しにして…おく。…すまなかった…」

 

 彼女は男にしては珍しいその譲歩の姿勢を見て、己の幼稚さを認識し、これまでの自分の行いを恥入って謝罪する…訳ではなく、内心で舌打ちした。

 

 彼女としては山賊王が逆上し、襲いかかってきたところを片し、有耶無耶にしようとしていたが、そうもいかなくなったようだ。

 

 「はぁ…ったく、分かったよ。この話はここまでだ。こっちもイライラすっからな。その辺の折り合いは一旦着いたって事にしとくぞ。」

 

 勿論、そんな彼女の意図は既に山賊王に漏れており、そんな貪欲さを受け、怒りを通り越して呆れを感じたのか、唐突に思考が冴え渡ったかの様に落ち着き出した彼は、話の主導権を握る。

 

 「あぁ構わぬ。」

 

 「そんじゃ本題な。今日呼び出した訳を聞いてやるよ。まさか、こんなゴタゴタの為だけに、俺を呼び出した訳じゃあるめーよな?」

 

 男にとっての最重要事項。

 わざわざ予定していた略奪を急遽(・・)中断してまでの出来事なのか。

 幸いからの部下達は男に恐れをなすとともに、勇者を撃退するほどの実力に敬意を抱いたことから反乱など考えもしておらず、略奪を中止したとしてもさしたる問題もないだろう。

 だが不満を抱くものが生まれる。

 大人数の組織において、そういった不安分子は男にとっては最も忌避すべきものだ。

 

 話して目の前の女が話す言葉が、自分にとって有意義な物なのか。

 

 それだけが重要であった。

 

 「ああ無論だ。レン、貴様の探していたものが見つかったぞ。」

 

 「ッ!マジかよ!それでいうと『古竜の亡骸』か!?」

 

 「ああ、中々に苦労させられたが、聖教の力を舐めるでないぞ。…だがしかし、場所が問題であるのだ。」

 

 「場所か?もしかすると魔界とかか?ならおっかねぇな…」

 

 「馬鹿者!魔界なんぞ聖教の人間を派遣できるような場所ではないわ!場所は──深海。それも人界と魔界の狭間。唯一の不干渉地域…」

 

 「よりにもよってガヌート海かよ…」

 

 確かに其処ならば古竜の亡骸があっても不思議ではない。

 ガヌート海はこの世界において、魔界を除き最も危険な場所。

 

 そこには何万年も前の旧魔王戦役の影響で、大陸ごと地の底に沈んだ事で今尚発見されていないお宝が眠っているとか何とか。

 

 それに何といっても何代も前の魔王が放ったとされる魔法の影響でガヌート海一帯は重力異常(・・・・)

 

 レンだけならばともかく、レベルの低い団員を連れて行くとなれば、想定被害は勇者達の襲撃の際の比ではないだろう。

 

 となれば少数精鋭がいいか?

 

 そうやってレンが編成を考えている内に彼女は懐に手を伸ばし、一枚の手紙を取り出した。

 

 「ああ。ついでに喜べ、先走ろうとした馬鹿な貴族共が護衛をご所望だぞ。」

 

 手紙を受け取り、中身を見通し、男はまるで悪人かの様な笑みを浮かべ、この招待状(・・・)を渡してきた女を一瞥する。

 

 「おー手際が良いねぇ。」

 

 行き先は危険地帯。

 何が起こっても不思議ではない(・・・・・・・・・・・・・・)ような場所なのだ。

 例えば、乗員が誰一人として戻らずとも、怪しむ者もいない。

 

 両者にとって、これほどまでに美味しい話はない。

 

 「なるほどなるほど。極秘任務ねぇ…勝手にこいつらが、お前らに抜け駆けてやるって事か。つまりこいつらを秘密裏に沈めとけばいいって事だな。わかったぜ。いい仕事の紹介助かるなぁ、今後ともよろしく頼むぜ?」

 

 男は殆どリスク無しに、目当ての宝を横取りでき

 

 「こちらこそ…というやつだ。馬鹿共を処理できて助かるからな。渡りに船といえよう。」

 

 女は目障りな貴族を処理できる。

 

 今まさに善と悪、互いの目的が一致して手を取り合う事となる。

 

 双方に不利益はなく、唯利益のみが存在していた。

 男も女も所謂、『悪い大人の笑み』を浮かべては、満足げにしている。

 

 「まあサンキューな。しっかし最近はツイてるな。ここ数日の出来事だけで、目標まで数年は短縮できそうだ。」

 

 まるで冗談の様な、気味の悪い会合。

 

 それを早急に終わらせて、今後に備えるべく男は礼を言って、この場を去ろうとする。

 

 女は男の言葉の端に少しの疑問を感じつつ、当初から聞きたかった言葉を紡ぐ。

 

 「?まあ、よかろう。時にレン、貴様。賢者を連れ去ったろう?アレをどうする気だ?答えるがいい。よもや()に使うとでも?」

 

 賢者──ティナの事である。

 

 彼女を連れ去った事を女は疑問視している。

 単に女を攫うのならば、問題はない。

 しかし態々勇者パーティのメンバーを攫うというリスクを冒したという方は、彼にとってそれほどまでに有益だったという事。

 

 そして、女の問いかけに男は口角を釣り上げて、その答えを述べる。

 

 「おいおい、その質問こそまさか(・・・)だよ。もう大分壊して(・・・)やったさ。後数日もすりゃ出来上がる(・・・・・)ぜ。」

 

 それを聞き届けた女は、その言葉に未だ信じられないようにしており、さらに質問を続ける。

 

 「しかしあの魔女は、アレンのパーティの一員。魔王討伐に支障はないのか?」

 

 例え有益であったとしても、勇者が魔王に負ければ全てが御破算だ。

 勇者が魔王に負けるなど本来はあり得ない形ではあるが、今代の勇者は別だ。

 

 「よく言うぜ、魔王討伐をより困難にした張本人(・・・)がよ。」

 

 男が嘲りながら発した言葉を耳に入れ、女は身も縮むような殺気を周囲に撒き散らす。

 

 「………この場で死にたいのか?」

 

 女のその眼が、この言は真実であると如実に語っているのを悟り、男は僅かに後退りつつも確かに身構え、用意していた交渉の手札の内、最も有効なものを一枚切った。

 

 「おいおい、そうすりゃテメェの望みは二度と叶わない事になるぜ?生憎とこっちは手札揃えてんだよ。後はテメェらと勇者サマ次第だ。」

 

 それを女は聞いて複雑そうに、やはりか…と小声で呟き、ふっと殺気を収める。

 

 「まあ俺らとしては、最悪お前らがミスったとしても、サブプランは立ててあるから、アレンの奴がくたばっても問題ねぇがな」

 

 それを見届け、ようやく一息をついたところで男は肩をすくめながら、そう言い放った。

 

 「はぁ…まあ良いだろう。貴様らの先代に免じて此処は大目に見てやる。」

 

 彼と女を繋ぎ止める楔である先代、アヤカ。

 女は彼女の事を思い出して、大きな溜息をついた。

 

 太陽のような笑顔、いつまでも幼い性格。

 

 そんな彼女が目に見えて衰えていく姿が辛く、神さえ恨んだ事もあった。

 何故主は、彼女にここまで悍ましい呪い(・・)を授けてしまったのかと、何度も問いかけた。

 

 だが主は何も答えず、唯天に座すのみだ。

 

 「へ、そうかよ。…っと話が脱線しちまったな。だがよかったな。少なくともテメェの望みは遠くないうちに叶うぜ。」

 

 落ち着きを取り戻した女に向き直り、いつも通りの軽薄な態度に戻った男は軽い口調ながらも、同胞に対して寿ぐかのように言葉を溢した。

 

 「何?それは本当か?」

 

 しかし、長年生き続けた弊害か、男の言葉を現実であると信じられない。

 そんな女の疑心が己を苛み、思考を何度も逡巡させる。

 

 「マジだよ。にしてもよぉ、まさかあの淫売がな…クックック、トンだ拾い物だったぜ。なぁ、ツイてるじゃねぇか。《強欲(・・)》のユリア様よぉ?」

 

 ユリア(・・)そう呼ばれた女は一瞬あらゆる動きを止めた。

 

 「……!」

 

 今はもはや誰も知らないだろう女の数百年前の二つ名を嬉々として口に出して、笑う山賊王。

 

 ───本当だというのか!

 

 他人の二つ名を語る際のこの男の言葉は、漏れなく真実であると知っている女は目を大きく開き、確信を得た。

 

 が同時に大きくを声を張って男に注意を飛ばす。

 

 「っおい、貴様!」

 

 余計な事を…!

 ユリアは内心で怒りに震えるとともに、己の人間不信を呪う。

 

 自分とこの男の関係程度ならいくらでも言い訳が効くが、その二つ名だけは不味い(・・・・・・・・・・・)のだ。

 

 大罪を示す、忌まわしき異名。

 例え長き時によった記録が風化しようとも、聖教にバレれば即座に異端認定されるという事態は免れないだろう。

 

 これでは最終的な計画に大きく支障をきたすぞ!

 

 そう抗議の視線を向けると、あっけらかんとした表情をレンは浮かべこう言い放つ。

 

 「心配すんな、お付きの聖騎士様はみーんな、俺様がしまっといたからな。」

 

 そう言ってワープゲートを開き、聖騎士達の身体を取り出す。

 一見すると聖騎士達の体には何ら異常がないように見えるが、その全てが息絶えている。

 

 よく見れば、首を覆う金属が歪なまでにひしゃげており、喉元を鎧ごと穿ち抜いた形跡が見てとれた。

 

 「やってくれたな…」

 

 ユリアは頭に手を当て、呆然とする。

 聖騎士共はいくらでも変えが効くが、この人数の聖騎士との連絡が取らなくなったとなれば、教会は追加の人材を送ってくる。

 

 「どっちにしろだろ。そう遠くないうちに、またゾロゾロと増援がくるぜ?奴さんら俺様の首が何としてでも欲しいらしいからなぁ…てな訳でここでお前さんとやり合ったフリして、トンズラここうって算段だ。」

 

 レンもまたユリアと同様の想定をしており、彼と彼女の戦いに巻き込まれたという体裁で聖騎士を無き者とするつもりであったようだ。

 

 「そうか…なら、多少は貴様に鬱憤をぶつけてもよかろう?此方とて溜まるものもあるわ。」

 

 どうやら無茶苦茶な男の行動に対して、ついに痺れを切らしたようだ。

 

 「お、おい?マジじゃねぇよな?」

 

 レンはかつてないほどに動揺して、一歩退く。

 心なしかその一歩は普段の一歩とは異なり、重く、引き摺るような隙を許してしまうものだ。

 

 ユリアはレンの言葉を耳に入れる事なく聞き流し、術式を解凍する。

 

 すると彼女の周囲には魔力で編まれた剣のようなものが一、二、三、

四、五、六…と止まる事なく展開され、一人の男に狙いを定め、轟と音を響かせる。

 

 剣の形状をした魔力塊は無数の空気の壁を掻き分けて射出された。

 

 「チッ、マジかよふざけんなよ!誰がテメェみたいな糞老害と正面からぶつかるってんだ…」

 

 レンが嘗てティナの攻撃を受け流したかのように、ユリアの放つ一撃を己の得物に亜空間を纏わせて弾く───

 

 というわけにもいかないかった。

 

 レンは即座にユリアとのレベルの差を思い出し、その愚策を唾と共に吐き捨て、全力で身を捩る事で事無きを得た。

 

 ユリアとのレベル差は驚異の128。

 そんな女の攻撃を亜空間越しとはいえ、接触でもしてみるといい。

 亜空間ごと剣を捻じ切り、その衝撃で腕が弾け飛んだだろう。

 

 エンチャント以外にもレンには対処策が存在するが、それはとっておきの切り札。

 

 このような場で晒すようなモノでもないし、晒すべきではない。

 

 再び迫り来る無数の魔法剣を何とかやり過ごすも束の間、ユリアはニヤニヤとしながら新たな術式を繰り出す。

 

 「逃がさぬぞ?貴様には散々虚仮にしてもらった礼もある。所謂礼参りと言うやつだ。まさか貴様、受け取れぬ…とは言うまいな?」

 

 大砲いや、数世紀先に存在すべき超科学兵器(オーパーツ)を思わせる砲身がユリアの頭上に浮かぶ。

 

 「てめッ、そりゃ洒落じゃ、すまねぇぞ!!!」

 

 砲身(ソレ)に込められた魔力量を感じとり、男は戦慄する。

 

 いやそれだからではない、感じ取った膨大な魔力───それこそレンが一生涯あっても使いきれないような───は火種でしかなかった。

 

 世界を壊すかのような無尽蔵な魔力を注ぎ込まれたそれは、空を軋ませながら、レンの方向に向く。

 

 瞬時にそれが、広範囲の殲滅を目的とした魔法ではなく、亜空間(・・・)をも消し去る他次元への干渉を可能とした魔法である事を理解する。

 

 時空を操る魔導書はすでにこの世に存在しない。

 

 だが数百年を超える時を生きながらえた彼女は、その内容を熟知している。

 

 故に男に逃げ場はない。

 

 「煩せえ!一つ教えてやるがよぉ、押し付けがましいババアは嫌われるってのは知らねぇかぁッ?」

 

 情けなく必死にユリアを罵倒するも、最早何の意味も成さない。

 

 不吉な音を立てながら砲身に、ユリアの頭髪と同様に緑色に輝く魔力が収束、そして極太の極光が砲身より解き放たれた。

 

 光は世界を削りながら奔る。

 

 山を抉り、空に浮かぶ雲を、青い空を、そしてその色さえも(・・・・・・)掻き消してしまった。

 

 軌道上には抉られた大地と色をなくした空があった。

 

 「逃げおおせたか…」

 

 ユリアの言葉と共に、世界の時が停止し、損傷箇所に夥しい程のノイズが走り、ユリアを除いた何人にも認識できない内に、色を失った空が修繕された。

 

 「まあ良かろう…気は晴れた。うむ満足だ。」

 

 「ユリア様ーーーっ!!!今援護に向かいます!」

 

 刻限だ。

 騒ぎを聞きつけたのか、聖教からの増援が蟻の群れの様に隊列を一切崩す事なく、姿を見せる。

 

 ユリアはそんな聖騎士達を見て溜息をつき、仕事に戻った。

 

 

 




 レン「奪えば全部手に入るぜぇ!夢も金も信念も尊敬も悦びも愛も恐怖も力もなァ!!!」

 ???「奪うだけじゃ 手に入らない!」

 

 《用語解説》

聖剣の加護…加護という名称ではあるが、神の加護とはまた異なり聖剣独自の加護が与えられる。現時点で判明している加護は、不死と復活時の強制覚醒。
 その他の加護は勇者の実力不足、若しくは条件を満たしていないか、何かに阻まれている可能性がある。

呪い…神の加護と同系列の概念。一種の加護とも呼べる。作品によっては呪刻(カース)と呼んだりしてそう。
 本作では呪いを受けている者を呪い付きと呼称しており、呪い付きの多くは現代でいう精神や身体に障害を負っているものを指す。
 レンが拾った少女のように発声器官に影響があるなどの現代でも存在する障害のような呪いを受けている者や、ゴンズイ兄弟のように正しく呪いと呼べるものまで存在している。

背信者…聖教が定めた人類の敵。魔王を奉じる魔族の他に、不敬にも己の神を信じない人間を指す。不条理な呪いをかけられた呪い付きの大半が背信者となっている。
 レンの率いる山賊の構成員のほぼ全員が配信者であり、聖教によって賞金がかけられているが、彼らの足取を掴むことができない為未だに殲滅という目標は叶っていない。

《登場人物》

ユリア…《???》Lv.176
 勇者の師匠。やや特殊な立場だが聖教に所属しつつも、聖教に嫌気がさしている。
 完璧で究極な生命体(アルティメットシイング)。魔王を除けばこの世界では最強だが、長寿の癖してメンタルは弱弱。
 遅刻しておきながら、自分の失敗を棚に上げて逆ギレし、相手に譲歩されてもその態度を崩さないほどに気丈な性格。
 見た目はTHE正統派美人。眉目秀麗にして、荘厳華麗なる儚い女性。
 勇者の気持ちに気づいているが、彼が子供の頃から面倒を見ていたため非常に複雑な気持ちを抱いている。
 勇者に対する罪悪感からか、彼の言うことには基本逆らえないので、高圧的に接して要求させないようにしているが、勇者に気づかれている事に気づいていない。
 とある人物曰く、幼い頃は名家のお嬢様らしく、初で、口調もお淑やかであったらしい。
 アンナとは犬猿の仲であり、彼女らが顔を合わせる度に口論をするので勇者が苦笑しながら対処している。
 先代山賊王であるアヤカとは友人であったようで、彼女にレンを紹介され今の関係に至る。

 ちなみに司教達の命令で2話で主人公がいた街のドワーフ達を鏖にしている。
 勇者が負けたなんて誤謬は正さないとね?

アレン…《勇者》Lv.34→35
 一度の戦闘でレベルが上がる事はまずあり得ない。何度も戦い、経験を重ねることでようやく、レベルがあがる。
 また通常、戦闘に敗北し蘇生された場合その戦闘中に獲得した経験値は全て0になるが、勇者だけは数倍の経験値を獲得して成長できる。
 重ねて不死であるため、長期的に戦い続ければ魔王に比肩しうる実力を発揮できるようになるだろう。

レン…《山賊》Lv.48
 我らが主人公。ユリアに勇者戦後の処理を押し付けた。
 最近の日課はティナとのおしゃべりだが、直に終わりそう。
 ユリアとは10年近く前からの知り合いで、何かを企んでいる模様。
 ユリアのことは只長く生きただけの老人だと思っており、敬意も愛情も覚えておらず、真面目に目の上のたんこぶなので、早く消えて欲しいと思っている。
 彼女とは先代統領との繋がりで邂逅したが、その話はまた後日。
 実は子沢山。
 
 アヤカ…《故人》Lv.51→39(晩年)
 先代山賊王。ユリアを除けば人類最強だった。
 年幼いながらも生まれつきの才能で荒くれ者ばかりの山賊を押さえつけてきた。
 レンと出会った時は20歳。
 わんぱくで大雑把な気質を持ち、男勝りな性格をしていたが呪いの影響で病弱であり、深窓の令嬢を思われせる雰囲気を纏っていた。
 晩年は副頭領であるオズの手を借りて、一時的に全盛期を取り戻し、統領の座をかけてレンと殺し合い、命を落とした。


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