山賊ロールプレイしてたら、何故か勇者が襲いかかってきたんだが!? 作:蓼食う裕太さん
リアルの都合とスランプなどなどで更新が遅れてしまったことを此処にお詫び申し上げます。
エタらないように努力いたしますので、これからもよろしくお願いします。
レンが捕囚となったティナとの対話を終え、牢を去って数時間後。
レンとユリアとの密会を終えて暫くの時期になる。
山賊団の本拠地である館にて、幹部クラスの重鎮達が一室に集う。
「ふむ、時間だな。本日はレン様が急な御用事で欠席されておられるが、通常通りに会合を始めささて貰おう。議長はこれまで通り私、スヴェンが務めさせて頂く。では各員、手元の報告書を確認のもと、情報の共有及び近況の報告をせよ」
老齢の紳士が円卓に座り、声を上げた。
老人の名はスヴェン。
先代山賊王であるアヤカの側近であり、20年以上もの間、山賊団の重鎮としてその敏腕を奮ってきた男だ。
歴戦の戦士を思わせる威圧感を前に、この場の空気が引き締まるような感覚を円卓に集う者達は確かに感じていた。
「おう、まずは儂からじゃの。大体のことはそこの報告書に書いとるが、追加報告になるがの…一昨日は序列十八位の小僧と一戦交えたわい」
会議の始まりに先駆け、一見、浮浪者に見間違えるような風貌の道着を身につけた巨躯、マルスが端を発した。
先はどの緊張は何処へやら、マルスの巌のような顔には誇らしげな笑みが浮かんでおり、語りながら髭を弄るその姿からは充足感に満ち足りている様子だ。
「おいマルス。まさかお前、やったのか…?」
そこに指摘が入る。
死人のような青褪めた表情、干からびた皮膚、青褪めた顔の───いや、顔では無い。
死人の仮面だ。
おそらくは屍蝋で固めた
悪趣味な
「勿論だとも
エルムは己の疑念が満足気なマルスの言葉と合致した事で、仮面越しに天を仰ぎため息を吐く。
「この脳筋め…序列一八位は個人が突出している分、集団の統率力が極めて低い。だから機が熟すまで放置しておけと首領に言われただろうに……」
「ガハハハッ、変わらん変わらん。結局全員殺すのだろ?なら聖王領の奴らをより多くより早く殺してやるのも我らの仕事であろうとも!」
「それにウチのカシラも先日勇者の首を獲ったらしい…ならば問題はないな!バシバシやればいいということだ!」
「随分と口が過ぎるな……首領の判断とお前の判断は関係ない筈だが?」
「儂に喧嘩を売っているか若造?丁度貴様のその仮面を粉々に砕いてやりたいと思っておったわい。中々気が回るではないか!」
ヒートアップする口論。
山賊団の総本山であるこの空間中に、
一方は敵愾心無く純粋な闘争心から。
もう一方は忠誠故の殺意から。
山賊団というだけあり此処に集うのは皆脛に傷を持った者や、破綻者ばかりである。
それに加え
絶対的な君主の不在の影響は計り知れず、既に
巨漢は立ち上がり、青褪めた仮面を見下し、挑発し、煽る。
「見え透いた挑発だな。だが、」
そして今、呼応するように対となった男が立ち上がり、戦いの火蓋が切って落とされ────
「はいはい、マルスもエルムもそこまで。あんまり煩いとスヴェンが二人共、摘み出しちゃうよ?」
今まさに衝突せんとした双方の間に割って入ったのは、やや気怠さを感じさせる女性の声。
それはまるで歌姫を思わせる美声であると共に、硝子を爪で掻いたような不快感を覚えさせる不可思議な声質。
そんな柔らかな彼女の言葉と裏腹に、彼女から発せられた何処か不吉な悪寒が周囲を駆け巡る。
山賊団が副首領、咳鉄の魔女オズ。
滑らかな黒髪、透き通るような白い肌、気品を感じさせる眼差し。
どれ一つをとっても、彼女の人柄と一致しない乖離性。
山賊らしからぬ、それこそ一国の姫を思わせる出立である。
彼女の一挙手一投足が、その場に集う全ての者の視線を釘付けにした。
異端者しか存在しないこの場において最も異端にして、一線を画す
その姿にある者は敵意を、ある者は憎悪を、そしてある者は懼れを抱く。
彼女の声を聞いた途端にエルムは露骨に顔を顰めて声の主を強く睨みつけ、盛大にため息を吐いてから、円卓を包んでいた殺意を霧散させる。
「失礼しました」
「もぉ〜、エルムったらクールそうに見えて熱いんだから〜」
上下関係
「……で、マルスはどう?まだ続ける?」
そして彼女の視線は
血潮を連想させる真紅の眼は何の感情も有さない。
無機質な視線を以て、彼女はマルスに問いかける。
「ぬぅ……相変わらず貴様はつくづく下らんな。日和おってからに……興が削がれたわい、どれカシラの仕事の穴埋めでもするかの……」
それに加えてマルスは魔法使いとの争いを極端に厭っている。
互いに肉を抉り合う感触、骨を砕く音を好む戦闘狂にとって、一瞬でカタのつく戦いほどくだらないものはなかった。
故に苛立ちを隠さずに頭を掻きむしりながら、乱暴に立ち上がってはその剛脚で椅子を蹴飛ばし、この場を去った。
彼が蹴り飛ばした椅子の悲惨な様が、その直後の静寂を物語っていた言えよう。
「あれま、行っちゃった。必要最低限の報告は貰ったし……いっか」
益荒男が立ち去ってすぐ、オズは苦笑しながらも横暴を見逃した。
並の構成員がマルスのような傍若無人な態度をとっていれば、即座に処罰──内容について具体的に言うまでもないが──が下され二度と日の目を見ることはなくなる。
だがマルス、引いてはこの円卓に集う幹部達はある程度の自由が認められている。
幹部達には山賊団の構成員自体に認められる、組織の乗っ取りや所有者の定まっていない
数年前までは痕跡を残す事のリスクを考慮していた事から、活動は控えめといえたが、不死である勇者の誕生により痕跡を残さずに略奪を行っていた方がバレるのも時間のうちと考えられた事で、略奪の頻度を増やす代わりに都市をある程度維持できる程度の搾取に留めるべきだ、という取り決めがなされたのは幹部達の記憶に新しい。
もっとも不幸というべきか、山賊達が勇者と遭遇したドワーフの街は既に地図から消え去っている。
"勇者が負けた"という外聞を広められる事を恐れた聖教の上層部が、街ごと生存者を消炭に帰したのだ。
この事態はレンの意図するところでは無かったが、こればかりは仕方がないと言えよう。
勇者との遭遇については聖騎士の序列一位であるユリアからの連絡という筋でしか回避する術がないが、彼女のミスという形でレンが現在後始末に駆られているという状況。
襲撃部隊が小規模であることや伝達が遅れたこともあり、運び出せた物資も多いとはいえない。
本来の目的は構成員のガス抜きではあるが、些か赤字といえよう。
そしてそこを補うのがマルスであった。
遠征というものはとにかく疲れるものだ。
大人数での行進、潜伏、略奪。
瞬間的に距離を詰められるレンの転移とて、慣れない者にとっては酷い酔いを起こす可能性もある。
とにかく軍全体の疲労が溜まりやすいのだ。
略奪中はともかく、略奪後──所謂お楽しみの後が地獄だ。
溜まっていた疲労がドッと押し寄せてくる。
だから連続での行進というものは、まずそうそうないと言えよう。
転移に慣れた者の多い事で、比較的疲労の溜まりにくいレンの軍とて3回までの行進が最大限の戦闘力を発揮出来る限界なのだ。
だがマルスは違う。
彼は個人で軍なのだ。
来る日も来る日も、戦いに明け暮れた戦闘狂。
単身ながら、かつて万の挽肉を一晩で産み、一月で国を落とした怪物だ。
継戦脳力という一点については紛れもなく世界最強のといえよう。
そんな彼こそがある意味で働き頭であり、男の横暴が許される所以であった。
それに止まらず、何だかんだといって
過剰に暴れる悪癖はあるものの、こなせと命じたに任務には命を賭けて殉じる命知らずであるが故に、先のような横暴はレンやオズに黙認され、そして生かされ続けている。
「マルスめ、また好き勝手を」
ただそれを理解していてなお、納得には及ばないエルムにとっては、腹立たしい存在であることには変わりない。
エルムがそうなるのも、無理のない話だ。
他ならぬマルスこそがエルムの想い人を殺し、彼が後天的な呪いを受けるきっかけとなった存在なのだから。
何も呪いとは先天性のものに限られているわけでは無い。
祝福と同様に
今の彼にとって死者である女については折り合いはつけたものの、己が被った呪いの一端とも言えるマルスが、今も尚のうのうと生きている事を許容できないのも至極当然とも言えるだろう。
マルスの全てを否定した上で、その命を断つ。
それだけを縁に生きながらえたエルムは、
レンは死に体の男を拾い上げ、知恵と武器と殺しの技術を授けた。
そして与えられたマルスを殺害する機会。
厳しい鍛錬を終えた事でレン達に認められ、晴れて山賊団の幹部となったエルムはマルスという男の殺害を望み、標的と対面する。
そう
如何に幹部とはいえ、許可されているのは
些細な諍いならば、黙認されよう。
だが命を賭した決闘となれば、話は違う。
首領の許可無く、人的資源を浪費することは許されない。
山賊団に属する者の絶対的な規則。
無法者でさえ遵守する事を強いられる絶対原則。
故にマルスとエルムは決して争うことはできない。
魂、存在を縛る契約によって不戦を強いられるのだ。
現実を知り、言葉を失ったマルスを視界に入れ、悪魔は悪辣な笑みを浮かべた。
追加の契約。
"それさえ成し遂げれば、マルスを殺せるようにしてやる。"
甘美な囁きにエルムは応じ、レンに忠誠を誓う。
最早この身に、自由など不要だ。
この手で奴さえ殺せるならば、俺は……
胸の内でとぐろを巻く、決して褪せることのない
己を成した記憶を棄て去り、あらゆる温もりを拒絶した
全てを投げ打つ覚悟で歩み始めて8年が経った。
首領が勇者と切り結んだ事で漸くだ。
漸く、
画面の下で怒りを噛み締めながら、微かに綻ぶ。
男は、全てが動き出す、そんな予感が五体の奥底から湧き出でようとしているのを強く認識していた。
────────────────────────
マルスが退場し、会合は滞りなく進行する。
携わる職務の特性上、欠席せざるを得ない幹部の1人、アデルの代理として出席したオニキスの報告によって情報の開示が終わる。
その中でも特筆すべき情報はアデルの率いる隠密部隊からの報告。
──神血漿
神の叡智とも称される物質。
レンが10年近く捜索し続けた"古竜の亡骸"に並ぶ、神話の遺物。
御伽やまやかしの如く知られたそれは、存在するかも定かではない代物であり、長年レンに忠誠を誓い続けていたエルムとて眉唾だと吐き捨てるほどだ。
山賊団の最古参であるスヴェンに至っては言葉を失い、固まっている。
何を隠そう"神血漿"とは先代山賊王であるアヤカが最も欲し、終ぞ手に入れる事が出来ず、さりとて諦める事も叶わず、今際の際にレンへと託した唯一の要望だ。
古参であればある程、現実からかけ離れた報告。
そんな報告を受けて最も興味を示したのは副首領のオズ。
彼女は数年ほど前にレンの紹介で突如山賊団に加入し、そのまま副首領の座に居座った新参者である。
新参とはいえレン達とは
かつて部外者であった彼女にとっても神血漿という遺物は、想定外の誤算であった。
上司であるレンの確信にも近い物言いを信じず、元より存在しない前提で
故に彼女の疑念はより別の方向へと向けられる事となる。
何故?
いや、どうやってレンは神血漿が存在するのを知っていたのか?
「いやはや、アデル君には頭が下がらないね。ちなみにどうやって知ったのか、ご教授願っても問題ないかいオニキス君?」
「申し訳ございませんが、アデル様からは何も言うなとの指示を受けております故」
「もー、釣れないな。流石に秘密主義にも程があるぞ、君ら"隠密衆"は」
隠密衆、それはアデルを首魁とした山賊王レン
レン
つまりは彼らの持ち得た情報の全てはレンと共有されるが、他の幹部達とは常に共有されるわけではない。
「ご安心くださいオズ様。
必要な情報。
オニキスの言うそれは、果たして誰にとっての必要な情報なのか。
「
分かりきっていた返答を受けたオズは、現在欠席中の人物を想起し言伝を頼む。
「副首領、奴は今……」
ウルスタートという男の名を受けて、マルスとの一悶着が終わって以来口を閉ざしていたエルムが言葉を発する。
「あーそう言えば、レンから何か指示されてたんだっけ?」
そして思い出す男の欠席理由。
首領からの直接の任務。
オズは間の抜けた声で全てを察し、言葉を濁す。
ウルスタートとは優秀だ。
マルスと比べ揉め事は起こさないし、エルムのように融通が効かなくなる事もなく、聞き分けが良い優れた僕だ。
だが───
「えぇ、ウルスタート殿は任務中ですが、現在は音信不通でございます。相も変わらず見目麗しい
───度を越した変態なのだ。
それこそ少女のためならば、
「待て、オニキス。」
「はい」
「あの男は首領から指令を受けていたのでは?」
「そのようですね。私もこの会合に出席する前にゴンズイ様……ああ兄君の方と
エルムは混乱したようにして椅子にもたれ掛かる。
彼の頭を逡巡するのはマルスへの殺意ではなく、今に始まった事ではない同僚の奇行だ。
レンからの直接の命令。
それだけでも無視すれば重大な処罰対象だが、よりにもよって
「なら何故、
「監視をしていた者からの通信で任務を途中で放棄し、道中で見つけた幼児を追いかけ回しているとの報告が先ほどの会議中にありましてね……」
「…………ウルスタートめ、流石の俺とて擁護出来んぞ……」
エルムの口から漏れたそれは限りなく、いや本音そのものであった。
山賊団における穏健派であるエルムやウルスタートはレンを首領として据え、彼を支え続ける事に主眼を置いた派閥だ。
一方マルスらの所属する過激派は隙あらばレンを廃し、己こそが山賊王とならんとする者達の集まりであり、彼らこそが山賊団における過半数を占め、穏健派を優に上回る戦略を保持している。
それ故に万が一にも穏健派の重鎮であるウルスタートがレンに不興を書い、処刑でもされたのならば起こりうる混乱など想像に難くないだろう。
「同感です」
「うわぁ無い無い。流石にキモいよ」
オズやオニキスのウルスタートに対する呆れや嫌悪感が各々露わに、一方でエルムの胃に大きな風穴を通しそうになった、その時───
「はははははっ、流石にそこまで言われると傷付きますよ!我が愛しのファミリー!私が可愛らしい幼児と追いかけっこをする事の何がっ、間違っておられると。男児たる者ならば分かるはずです!分からない?ではっ!語りましょう、私の身に何が!起きたのかを!!!」
「うわ出た」
「もう口を開くな」
「結構です」
────────────────────────
私が勇者一行の監視の任務を申しつけられたのは、我らの主がドワーフの街で得た戦利品を、この隠れ家へ送り届けてすぐの話です。
「おいナメクジ野郎、仕事だ。事前に仕掛けてた監視が想像以上に使えん、お前得意だろ?追いかけ回すの」
「お任せを…」
仰せられた事を即座に承諾し、私は跪き首を垂れました。
すると私のやや大袈裟な一挙一動に苛立ちを抱いたのか、舌打ちをしてを「さっさと行け」とだけ言い残して、牢獄の方へと向かいました。
おそらく
以前同好の士である、ゴンズイ殿の兄君と共に味見しに向かおうとしたところ脱走していた彼女が漸く、心変わりをしてこちらに戻ってきてくれた事は大変好ましいです。
大抵は輪わされて、廃人になっているか性病にかかって余命幾許もない状況というものです。
しかし彼女は珍しく真っ当に生き、再び我等の元へと舞い戻った。
なんと素晴らしい事でしょう。
美しい殺意、可愛らしい憤怒、清々しいまでのエゴ!
これはもう、実質愛でしょう!
彼女のような純粋無垢な少女に、ここまで好いてもらえるとは、主も男冥利に尽きるというものでしょうねぇ。
「おっといけません、職務に取り掛からねば……」
諸々の準備を終え、主より賜った"鍵"に魔力を注ぐ事でゲートを開き、勇者御一行の元へ向かう。
開けた視界には激しい先頭の形跡が刻まれていました。
抉れた地形から察するに、おそらくユリア嬢の『魔砲』が放たれたのでしょう。
私がかの一撃を受けたのならば跡形もなく消し飛ぶことになるでしょうが、相対したのは文句をつけに向かった主と考えるのが妥当ですから、問題はないでしょう。
多少の手傷など、彼にとってはなんの妨げにもなりませんでしょうしね。
さらに周囲を見遣ると名も無き聖騎士たちの無惨な死体。
頭部が弾けた少年、上半身をすり潰されたかのような女性、腹部を穿たれ息絶えた青年。
分を弁えずに、戦場に出てしまった報いというべきか、何とも言い難いものです。
亡骸を背にして私は勇者達の姿を探すため、探索を始めました。
ユリア殿がいたということは此処は彼女の拠点の一つと考えても良いでしょう。
そして負傷した勇者達もそこにいる可能性は高い。
主より賜った"鍵"で開けるゲートの行き先は、我らの拠点と武器庫、そして主が指定した場所です。
此処に飛んだということはおそらくこの付近に彼らがいるということ。
一向に見当たらない勇者の姿に違和感を覚えつつ、さらに周囲を捜索すると何やら小屋がありました。
「……ッこれは、結界?」
小屋へ向かい、その距離を縮める最中私の肌を焼くような刺激が襲いかかってきます。
真っ先に結界に接触した左手を見やると爛れた皮膚から白い蒸気が上がっていました。
───ほほう。これは許可のないものを弾き飛ばす結界ですか。
切り離した
直接正面から赴くのも良いでしょうが、念には念を。
尤も私にとって結界なんてモノは、"見られたくない何かが過去にはある"と教えてくれているようなものです。
結界の外側から周囲を索敵すると生体反応が3つ。
一つは、眠っているようですね。
もう一つは、気配からしておそらく勇者か聖女でしょうか?
最後は……呪いの気配?
私は自身にかけられた呪いを利用して全身を希釈させ、結界を素通りして小屋に接近。
遠目から一人の人間の存在が確認できました。
ボロ布を来た
「あの少女は……」
その風貌、身に纏う雰囲気、姿形はまるで
初めて主とお会いした時と同じ程の戦慄。
私は直ぐ様、隠密に撤し彼女達の様子を伺い、ああ成程と合点がいきました。
確かに
数千年前から続く、呪術師の家系。
死してなお集積される知恵、経験、呪い。
人類史上初めて呪いを完全に克服したとされる一族。
そして、唯一呪いを魔法のように扱える存在。
いわば我々にとっての
呪いをこの身に宿すということは、呪いが効くということ。
だから私達では彼女の呪術から逃れることは出来ません。
───なるほどなるほど、彼女がいたのならば主が苦戦を強いられたのは頷けます。しかし、いやこれは?はてさて……
僅かに感じる違和感。
彼女の存在にどこか、致命的なズレを感じながらも、私は己の身を極限まで薄め接近します。
この時すでに私の中における警戒対象が切り替わってしまっていたのでしょう。
噂に聞く勇者の実力。
旅立って間もないことから、レベルも30程度に留まり現時点では脅威とは到底呼べない存在です。
勿論来るべき時となれば、魔王をも滅し得る可能性を秘める救世の存在となるのは承知の上ですが、我々が現時点で最も警戒していたのは聖女クリス様の事です。
彼女がいる限りは真正面からの戦闘は極力避けるべきでしょう。
何せ彼女の奇蹟は、死後1時間以内のあらゆる生命体を蘇生させてしまう神の所業。
主曰く、"権能"の域に至った彼女の奇蹟は魔力を用いるものではなく、彼女の精神性に依るものです。
故に
遺体の損壊が激しいのならば、蘇生にまで時間がかかるそうですが、彼女の奇蹟の腕は有史以来最高峰のものです。
祝福の全貌さえ明らかになっていない彼女こそが、勇者一行でもっとも警戒すべき存在。
そう捉えた主の見立ては何ら問題はなく、正しい分析と言えるでしょう。
しかし、何事にも例外は存在したようです。
これは正面から彼女と相対しない事には理解できない、故にこそ主は私をここに派遣したのでしょう。
ドス黒い魔力が呪いとなった形を織りなす様を私はまじまじと見つめながら、次善策を練りました。
もっとも大切な事は、勇者一行が魔王を討伐する事だ。
故に彼らのその障害となるんじゃねぇ。
だが想定している戦力と異なる場合のみ、多少は削いでも構わん。
主の言葉が想起する。
何はともあれ、不確定要素はここで除去するしかありません。
虚な目をしたエルフの少女に対して、何らかの処置を行う呪術師に対して指先を向ける事で、狙いを定める。
───コンパクトに、スタイリッシュに、ワンショットで決めさせて貰います。
呪いを帯びた螺旋状の水泡が指先へと収束を始める。
内部で生じた螺旋により、規格外のエネルギーを得た水疱はさながらドリルのような形状と化し、標的の命へと狙いを定める。
そして大きく推力を得た事で放たれた水弾は、加速度的に直進し私が見据えた先、即ち───
呪術師の少女の脳天目掛けて一直線に、空気の層を突き破りながら軌跡を描く。
音速を超えたことでキーンといった凄まじい衝撃音を轟かせながら、肉を抉り、骨を穿ち抜く。
───完全に決まった。
私は確信と共に構えを解きました。
数多の敵対者達を屠ってきた、必殺の一撃、"欽水刺"
気を抜くと身体が液状化する体質、"呪い"を応用して編み出した秘術であり、体の一部分を液状化させて音速で射出する。
貫通力、破壊力共に申し分なく、これを防げるものは魔人の魔力装甲とでもいった具合でしょう。
弱点と言えば直線上にしか飛ばせない点、液体が蒸発するほどの高熱に加え、異常なまでの生命力。
ルカ殿の報告にあがっていた勇者一行の姫騎士。
あのルカ殿が首を刎ねたつもりであっても、薄皮ひとつ斬るさえ叶わない圧倒的な生命力。
彼女のような規格外が相手ならば勿論効果はさして乏しい事でしょうね。
尤も私と同格以上の方ならば、正面きっての闘いという条件付きですが確実に躱されてしまう一撃ですが、完全に不意さえついてしまえれば如何なる御仁とて一撃で沈めるのは容易いといえましょう。
ともあれ不穏因子を排除する事に成功した私は違和感の正体を確かめるべく、彼女達のいた方向へと歩みを進めました。
自身を希釈させていた潜伏状態を解除し、窓枠へと足をかける。
血溜まりに足を伸ばして生死な確認を取った時、
「くっふ、ふふふふっ。き、君何、も……だい?なな中、々のく、か歓迎、じゃない、か?」
血溜まりに身を臥した少女の口が開く、
脳を撃ち抜いた影響でしょうか、その口から漏れ出した言葉は所々どもっており、彼女の焦点の定まらない視線が右往左往しながら、不気味な起き上がり方を──手を使う事無く、脚だけを利用して再起しました。
フラフラと、その有様はまるで幽鬼のようで生気を感じさせない顔色をした彼女はゆったりと立ち上がる。
正面から脳天を撃ち抜いたのならば、当たり所さえ良ければ、極々稀に何の影響もなしに蘇生できる人がいるとは聞き及んでおりますが、脳天に打ち込んだ"欽水刺"は後頭部を貫いたはずです。
常の人間なら二度と起き上がる事はままならないはず……にも関わらず起き上がった彼女はニタリを此方を見つめる。
水弾が頭蓋で逸らされた?
否、そうならば側頭部に弧を描いたような傷痕が刻まれるはず、彼女の頭部にそんな傷何処にも見当たらない。
それに私の"欽水刺"は、下手に
一点に収束した水圧は形状を崩されることで放射状に広がって、超高水圧によるカッターとなり、並みの人間の頭蓋など赤子の柔肌を斬り裂くように簡単にスライスできるはずです。
とにかく私の一撃は、殺傷性という点に関しては、間違いなく彼女の生命活動を終わらせるに足るものだったのです。
主より賜った情報では不死に近い存在は勇者と聖女のみ、ならばこの眼前の少女は?
いやそもそも勇者や聖女とて一度命を失えば復活するまで暫くの時間がかかると聞いたはずですが、この呪術師の少女はどうやって即座に復活したのか……興味深い限りですね。
私は彼女の不死性、その根幹について幾つか当たりをつける。
ひとつ、永遠の象徴である聖剣と何らかの深い縁がある可能性。
これは最古の呪術師の家系である眼前の少女だからこその推測。遡れば聖剣が生まれた時に、何らかの関与をしていた可能性も否定はできない。
ふたつ、そういう祝福を持っていた。
雑ながら否定する材料とないのが現状であり、現時点でも聖女が同様の祝福を与えられている事から強ちハズレとは言い切れないでしょう。
みっつ、死後に発動する呪術。
呪いが真価を発揮するのはいつか?少なくとも勇気や希望を見出した時とは対極に位置する……そう言っていた主の言葉がここに来てよく理解できます。
なるほど、彼女は元々
我々と同様に呪いが使えないわけではないでしょう。
だからといって脳が欠損したまま?
たとえ不死であったとしても、立ち上がれるわけがないでしょうに、彼女は一体何をしたのでしょうか?
「呪いを克服?冗談でしょう?呪詛を無理矢理に押さえ込んでいただけでしょうに……」
「な、ななんだあい、バレレレてたか」
呪いを克服する手段を唯一持つとされる一族。
彼女達は呪いを克服し、解明し、技へと昇華させた。
だがそれは───
「呪いの伝播。押さえ込んでいた呪いが部屋中に満ちていますよ、黒いお嬢さん」
解呪?
否、そんな高等技術は人の身では不可能。
呪いとは神によって与えられた不出来の烙印。
生まれついての欠損を持った者を何人も癒さないように、決まりきったこと。
となれば彼女達が成し得たのは至極単純に、呪詛の漏れを極限まで抑え、さも魔法の技術のように呪いを行使する程度の技術ならば、確かに呪いを克服したようにも見える……そうあたりをつけるのが妥当ですね。
一部のエルフ達が命を賭して所謂、『道連れ』のような呪術を発動しますが、彼女は
そんな彼女が命を賭した呪術の行使。
自らの死体を無理矢理動かす程度、訳なくこなせるのかもしれません。
「そそ、それにぃしててても、、、随、分な……ご挨拶いさ、つだね」
「それは失礼、では再度挨拶を……尤も、お別れの挨拶となりますがそれでもよろしいでしょうか?」
「んぃや、死ししたいも、ゆ、有効っつ用したげるるら、こわ今後とま……」
どこからともなく顕現した錫杖が、勢いよく叩きつけられ開戦の狼煙切って落とされる。
フラフラと崩れた語彙を紡ぎながら魔力の高まり、呪いが脈動する。
血となって滲み出した呪詛は、近くいたエルフの少女お構いなしに部屋全体を侵し尽くす。
「よろりく!」
呪詛に塗れたこの空間。
呪術師である彼女にとって此処は謂わば腹の中で、私はまな板の上の鯉とでも言うべきでしょうか。
─── 一旦退くべきでしょうか?
そう考え周囲を見渡しましたが、残念なことにそれは不可能でした。
私が利用した侵入経路も出口も窓も、呪詛塗れで干渉した瞬間に呪術による手痛い反撃をお見舞いされてしまいます。
意気揚々と臨戦態勢となった彼女を尻目に私は─────
───堂々と床に這いつくばり、血の混じった呪詛溜まりに舌を伸ばして舐め取りました。
冠水したのかと勘違いするほどに溢れかえった呪詛溜まりは、私のような呪いに耐性のある人間でなければ、とうの昔にその精神と肉体を蝕むに足りるものであり、完全に地の利を取られたと言っても過言ではないのですが……それは私にとっても同じく好ましい条件です。
「──何、を……」
一見奇行にしか見えない私の行いに当惑の表情を浮かべる少女に対して私は床を舐めながら、言葉を紡ぎます。
「血液などの液体は大小関わらず、流れを生み出します。私が穿った傷口から流れ出したモノを媒介にして呪詛汚染に流れを与え、広域に呪術が及びやすいように戦地を作り替えた手腕……そこまではお見事でした」
最も魔力を帯びやすい血液であるが同時に、全身を迸る血液は呪いと祝福の受け皿である魂の奔流とも考えられる。
実際に血液を操作する呪い付きの者も実在しており、その特性と相性故に優れた戦闘能力に呪いによる戦闘時の応用性の高さは私の知る中でも上位に位置するものです。
「ですが少々、想定不足ですね、先の貴女の頭部を貫いた一撃から私がどのような呪いを有しているのかも予測できたでしょうに……」
それ以外にもこの辺りに張り巡らされていた結界を抜けるのにも、私の呪いをは必要不可欠ともいえます。
扱いさえ理解できれば拡張性が非常に高い私の呪い、それは───
「え液ていに、干、渉するっ、のろぃ……」
勿論、答え合わせはしません。
現時点では不明ですが、頭部の損傷を回復する手段を持ち合わせていればより厄介ですし、そもそもミスリードを狙った所で、知識量なら彼女の方が圧倒的に上でしょうから、齟齬があれば即座にバレるのは想像に難くないです。
ですが、ここは敢えて、
「私は呪いによって特異体質となっておりましてね、人体を構成する水分の割合が100%なんですよ。」
「そして私が取り込んだ液体は、私と同化するのです。」
「………!」
ここまで口にすれば頭に穴が空いている彼女とて、理解は容易いでしょう。
勿論これが些細であることも、彼女にはバレているはず。
「呪詛返し……」
「もちろん、ただの呪詛返しではありませんよ?」
支配下に置いた呪詛を媒介に、呪詛溜まりを解析。
即座に呪詛溜まりから発せられる反撃を中和して、彼女の誇る優位性を無効化。
勿論全てのアドバンテージを覆したというわけではありませんが、これ以降彼女の攻撃の大半は、私の身体に潜む彼女の呪詛によって相殺されます。
「残念!それあ、悪手!」
私の失策に気付いたのか彼女はニタリと表情を歪めて、露骨なほど魔力を脚部に収束。
いつの間にか構えていた杖の先端からは、深い闇を連想させる紫紺の鎌が顕現し、床板を沈ませて跳躍した彼女が今まさに私の首を刈り取らんとしていました。
一方私はというと、想定外の事態にただ立ち尽くすだけでした。
厄介な事に解析し、取り込んだ彼女の呪詛。
なんと内から私を食い破ろうとしてきたのです。
今まで私が相手にした呪術師の呪詛ではこのような事態には陥りませんでしたが、流石は最古より続く呪術師の末裔。
「まさか……私が奪った制御をものの数秒で、完全に奪い返したというのですか!」
呪詛に塗れた魔刃がその瞬間私の視界から失せ、私の視線いや、首を宙を舞うのでした。
「あい、てがわ───ゴホン、悪かったね。ふぅ……キチンと私を殺したければ、私の呪いを解ける呪術師でも連れてくる事さ」
「なるほど主にはそう伝えておきましょう。ではお嬢さん、
───呪詛排斥、抗体再構築完了
───
「おや、また会いましたねお嬢さん」
何事もなく姿を見せる私を一瞥した彼女は眉を顰めながら、苦々しそうに口を開きました。
「しつこいね君、ストーカーはやめた方がいいと思うよ」
「共感できずとも貴女が私と一緒になれば、
私の身体の内側から、さながら水面に顔を出せた溺死寸前の彼女達の麗しい瞳が、鼻が、口が、耳が、顔が、次々と浮かび出て、私はの『
苦痛に歪んだ表情が、私に助けを求める悲痛な叫びが、命乞いが、愛が!
なんと美しいことか!!!
「"魂"をも縛りつける呪いか!前言撤回だ。君早く死んだほうがいいよ?」
「安心してください。恐れてはなりません。愛はいずれ世界を包むのですから」
こうして私たちの長い長い逢瀬の始まりが告げられました。
《人物紹介》
レン……山賊団首領。ユリアとの内通後、即座に拠点へと帰宅。次なる舞台への準備中。
ティナ……お喋り中にレンが用事ができたと去り、数時間もの間吊されたまま。いい加減肩が痛い。
スヴェン……おそらく最古参の幹部。先代山賊王アヤカの頃から使えており、会議を出席しまくる首領、副首領に代わって議長を務めている。
マルス……筋骨隆々の巨漢。純粋な戦闘能力だけでは作中上位(予定)。歩く災害と呼ばれ、戦場に現れては人と魔物とを見境なく虐殺し、荒野を赤く染める悪鬼。
ステゴロだけなら最強であり、常に血なく沸き踊る闘争を求める戦闘狂。エルムのかつての恋人の仇であるが、本人は覚えていないし興味もない。
エルム……死人の面を被る魔術師の青年。一時期レンに師事しており、魔術師とは思えない戦闘能力を有する。マルスにかつての恋人を奪われ、祝福が反転し山賊へと身を堕とした。
殺しや略奪を好まないが、忌避感を抱いている様子もなく、淡々と師事通りに仕事をこなす。レンによって鍛え上げやらだ実力に陰りはなく、攻撃性に特化した呪いによって、いまやマルスに比肩しうる実力の持ち主と称される。
オズ……山賊団副首領。人類史上最も嫌悪される魔女。過去10年間における人類の死因の約1割を担い、彼女が滅ぼした街からは血煙が漂い、呼吸をする中でも鉄の味に噎せ返ることから咳鉄の魔女と称される。
山賊団に加入したのはアヤカの死後であり古参ではないものの、山賊団との関わりは古くからあったようだ。
アデル……山賊団、隠密衆の長。情報収集と暗殺任務を一手に受け持つ隠密衆の棟梁である彼の姿は山賊団の中でも秘匿され、幹部以外の不安分子の排除や魔王軍の情勢、聖都への潜入などの任務を受け持つ。
オニキス……隠密衆の一員、連絡係であり会議に出席できる数少ない構成員の一人。燕尾服を纏い、丁寧な言葉遣いをしており数少ない本作での常識人。
ウルスタート……自称愛の伝道師、幹部の一人。紳士的な態度をとるが、彼の本質は邪悪そのものであり、所謂ポジティブなカス。ロリコンであり、やや道化師的な立ち振る舞いが見られるもその行いの多くが善意によるもの。
しかしながらその善意で動いた時には常に最悪の結果を巻き起こし、彼に気に入られた少女達は死してなお、その魂を縛り付けられ責苦を味合わされている。
己の身体が液状化してしまうという呪いを持ち、山賊団の中では呪いの制御という一点において最高峰の技量を有する。
アンナ……呪術師。頭部を穿たれても死なない程度にはタフ。
彼女に比肩しうる呪術の使い手は存在せず、呪術についての情報が独占されている状況になっている元凶の一人。実は近接戦闘もそれなりにイケら口。
勇者パーティのメンバータフすぎるんですよねぇby筆者
カノン……エルフの少女。勇者アレンの死体を見てしまった事で病んでしまい、半ば廃人状態。
アンナが容態を確認しようとしたところにウルスタートの襲撃が起き、現在はアンナの呪詛に塗れていて汚い。
キャクターのまとめ回必要ですか?
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はい
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いいえ
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いつも通り後書きでok
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そんなことより早く書け