乙女ゲームが始まらない   作:語部創太

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1.5 主人公が何か違う

 乙女ゲーム【癒しと愛のカーネーション】は、薄幸の少女が主人公である。

 

 田舎のとある村に産まれた少女は、母と同じく、ヒトの病気や傷を治すことが出来る『癒しの力』を使うことが出来た。

 しかし母親はまだ幼い少女を捨てて村を出奔、少女は天涯孤独となってしまう。

 

 少女の『癒しの力』を意のままに操ろうとする村人たちによって苛烈な虐めを受け、ろくな食事も与えられず酷使され続ける少女。

 やがてその強力な『癒しの力』に目を付けた領主の男爵家に引き取られる。

 しかしそこでも道具のように扱われる日々。

 

 そんな少女に転機が訪れたのは『聖女』選抜の儀が執り行われると通達が来た時だった。

 王都の貴族学院で国内の『癒しの力』を持つ少女を集め、最も力が強い者を聖女として取り立てるというもの。

 かくして貴族学院に入学した身も心もボロボロな少女を待っていたのは、魅力的な攻略対象の男性たちだった。

 

 学院生活を通して、初めて愛情と優しさを知り成長していく主人公。

 果たして主人公は『聖女』の座と男性の愛を勝ち取り、永遠の幸福を得ることが出来るのだろうか……。

 

 

 

---

 

 

 

 もう間もなく、物語の幕は上がる。

 隙間風がひどいボロ小屋の中で、少女は目覚めた。

 近くに母親はおらず、代わりにいたのは村長を始めとする村の大人たちだった。

 

「お前の母親は逃げ出した!」

「そうだ! 『癒しの使い手』としての役目を投げ出した!」

 

 母親に対する怒りを、まだ年端もいかぬ子どもにぶつける大人たち。

 

「これからはお前が村のみんなを癒すんだ!」

「逃げようなんて絶対に思うな!」

 

 怒号を浴びせられた少女は、目をパチクリと見開く。

 

「お前はこれから俺たちの奴隷だからな!」

 

 ここから十数年。少女の辛く厳しい半生が始まるのだった……。

 

 

 

「は? 嫌だが?」

 

 

 

 ………………うん?

 

「口答えをするな!」

「生意気なガキめ! こらしめてやる!」

 

 反抗の意思を見せる少女に、村人たちが折檻する。

 殴る蹴るの暴行。

 髪を引きちぎり、ただでさえボロボロな服を破る。

 

「これで分かったか!」

「おとなしく言う事を聞いてればいいんだよ!」

 

 床に血だらけでうずくまる少女。

 痛々しいその様子を見て、村人の気も済んだらしい。

 やっと終わった暴行。

 見下ろす村人に対して、少女は返事をする。

 

 

 

「いやだから、嫌だが?」

 

 

 

 なにこの子メンタル強い。

 

「いい加減にしろクソガキィ!」

「死ね! 死んじまえ!」

 

 まだ反抗的な少女に村人たちは怒り狂い、その暴行は激しさを増す。

 必死に耐えていた少女だったが、幼い子どもに大人からの暴力はあまりに堪えた。

 やがてピクリとも動かなくなった少女。

 息すらしていない少女の様子を見て、村人の間に動揺が走る。

 

「お、おい……。まさか本当に死んじまったんじゃ」

「それはヤバいって。『癒しの使い手』がいないと俺たちが困る」

 

 あまりにも身勝手な村人たちの言い分。

 しかしその言葉はすでに息絶えた少女の耳には届かない。

 哀れな子どもは、物語が始まるまでもなく天に召されることとなってしまった────

 

 

 

「勝手に殺すなし」

 

 

 

 なんでぇ!?

 え、はぁ!? 確実に死んでたよねこの子!

 なんで生き返ってるの!?

 『癒しの力』って自分に使えないし、というか死んだ人を蘇生できるような力を与えたつもりはないんだけど!?

 

「死んだふりなんかしやがって!」

「もっとこらしめてやる!」

 

 立ち上がった少女に驚愕していた村人たちだったが、また少女への折檻を開始する。

 何度も何度も暴行される少女。

 しかし彼女は決して屈することなく立ち上がる。

 

 何回も、何回も。

 死んでは生き返り、死んでは生き返り、死んでは生き返り、死んでは生き返り、死んでは生き返り、死んでは生き返り………………

 

 

 

---

 

 

 

「終わった?」

 

 ケロッと立ち上がる少女。その肉体はまったくの無傷。

 肩で息をする、すっかり疲弊した村人たち。

 

「こ、この野郎……!」

「こうなったら、お前をぶち犯してやるよ……!」

 

 暴行は効果がないと見たのか。

 イキリ立つ男性たちは、下半身の性器を露出した。

 怒張した男性器たち。

 プライドの高い少女は、村人たちの慰み者になってしまう────

 

 

 

「自分から弱点晒すとかアホか」

 

 

 

 ガァンッッッ!

 

 少女の蹴りが、男性器にクリーンヒットした。

 

「~~~!?」

「お、おい! 大丈夫か!?」

 

 蹲る男性を心配する村人たち。

 しかしその隙を狙って、少女は反撃を開始した。

 

 男性の尊厳を踏みにじるかの如く、急所に向かって的確に攻撃を加える少女。

 もちろん村人たちも馬鹿ではない。

 少女を捕まえようと手を伸ばす。

 しかし、すっかり疲れ切ったせいで動きが緩慢な男性たちはすばしっこい少女を捕らえられない。

 

 

 

 ……数時間後。

 立っていたのは、少女ただ1人だった。

 

「お前ら、今日から私の奴隷な?」

 

 グリグリと男性器を踏みにじる少女はこの日、村の頂点に君臨した。

 

 グジュッ……!

 

「ゥアアアアアアアアア!!」

「あ、やべ。潰しちゃった」

 

 

 

 乙女ゲームの主人公である薄幸の少女はいない。

 いるのはただ、圧倒的なまでの暴君。

 

 世界はその日、シナリオから逸脱したのだった。

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