レイを墜としたい   作:三白めめ

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全9話の予定です。軽微な恋愛要素はありますが、精神的BL要素はないです。


どうやら先は長くないらしい

 塗装ペンキと、過熱した電気コードの臭い。コックピットを開けた途端に鼻腔に感じるそれは、普通なら何かしらの感慨を抱くものなんだろう。特に不快感を覚えたりしないよう調()()されているアタシたちだけど、無事に帰ってこれたって安堵くらいはある。

 

『俺もそれは同意。にしても、ガンダム強奪か……』

 

 サブ人格ちゃんも、感慨深い声色をしている。ところで、声優全振り武人気取りおじさん(アナベル・ガトー)って誰? そう訊くと、『人類が増えすぎた人口を~』と語り出した。長くなるだろうなーって思って聞き流していると、やけにいい感じのテンポで喧しい解説になってる。3分くらいほぼノンストップでしゃべり続けてたし……

 

 にしても、他の3機が完成品の中でこっちのだけ試作機だったのは運が悪かったけど、この高速機体はアタシたちと最高に合ってる。そういう意味では当たりだ。

 

「これからよろしくね、《プロトセイバー》」

 

 そうして機体から降り、アタシは軽く伸びをする。あの機体、技術試験用のプロトタイプだからってエンジンリミッターかかってなかったのは想定外だった。最高速度での戦闘とか、空中変形の減速を活かした回避──サブ人格ちゃんが言うところの"グラハムスペシャル"だっけ。それを試してたりしたら、降りた後に全身が痛いし口の端に血が垂れてた。身体強化されててこれなら、普通の人間だと死ぬでしょ。ナチュラルとかコーディネーターとか関係なく。

 グラハムって人間の気持ち悪さを実感しつつ、ハンガーのゴンドラから壁側のキャットウォークを通って船内へ。母艦である《ガーティ・ルー》の一区画、そこにあるソファーで横になる。戦局が安定し、身体機能の調整が可能になるまでの待機だ。サブ人格ちゃんが言うには、記憶の調整もあるらしいけど。幸いにも急な再出撃はなく、追ってくる敵艦──《ミネルバ》というらしいそれを一度振り切ったようで。ほかの三人と同じく、いつも通りに専用のベッドで寝るように指示された。これは今までの最適化でわかったことだけど、アタシの記憶が消されても、サブ人格ちゃんと同期してそれを知ることができる。これはスタッフの連中やネオにも言ってない。最悪、サブ人格ちゃんも消されるし。まあ、思い出せるわけじゃないから、戻るのは記憶じゃなくて記録なんだけど。

 それじゃ、おやすみ。

 


 

 気付いたらなんか握っていて、寝起きの感覚で力を込めたら引き金を引いていた。

 そんなわけで、なんか異世界転生みたいな感じらしい。どちらかといえば憑依に近いが。そんなわけで素性を把握してみると、ちょっとどころじゃなくきな臭い話が見えてきた。

 まず、現在地はどこかの施設。職員らしき大人が"先生"と呼ばれていて親が見当たらないことから、孤児院と考えていいだろう。カレンダーを見れば、年号はC.E.(コズミック・イラ)。……もう嫌な予感しかしない。次に日常風景を見れば、二分間憎悪もかくやといった様相を呈する反コーディネーター思想の教育。それに加えて銃火器の扱いや対人戦闘、MS(モビルスーツ)の戦闘訓練などが入る。合言葉は「青き正常なる世界のために」だ。

 そう。人種差別上等の地獄みたいな世界で、極北みたいな思想の偏り方してる組織にいるわけ。

 

 そして、俺の現状。端的に言えばハレルヤだ。もちろんハッピーって意味じゃない。ストレスとか投薬とかで分裂した人格が俺なんだと思う。前世の記憶というか、ガンダムSEEDとかの記憶があるのは知らない。それに関する未練もちょっとだけあるけど、ままいいや。詳しく考えると哲学的な話になりそうだし答えも出ないだろう。原作の記憶もうろ覚えで、それほど役に立たない。

 なお、身体は赤っぽい髪の少女だ。名前はまだないので本体ちゃんと呼ぶことにする。その本体ちゃんだが──

 

 特殊な向精神薬の服用によって、俺と本体ちゃんの思考が同時に反映されるようになる。反射と思考の融合ってやつだ。生憎と超兵と違ってノーリスクでその状態に至れるわけじゃなく、人格のリンク精度を上げるためには一回の投薬量も増やさなきゃいけない。副作用で過呼吸とか血を吐いたりとかするし。ガンダムの呪いか?

 ともかく、その能力を見込まれ、ロドニアとかいうところのラボに移送されてモルモット兼兵士の生活になった。そこでのシミュレーターの結果だが、ステージ5の時の俺たちに勝てるやつはいない。もし勝てるとすれば、終盤のアスランとかストフリに乗ったキラとかくらいだろう。きっと。

 負けない自信はある。けれど、俺たちはいわば強化人間だ。それも女。ガンダムにおいて死亡フラグにもほどがある。

 助けて。運命に殺されそう。

 

 そんな本体ちゃんだが、肉体の性能が高い。白兵戦や銃器の訓練で何ヶ月も生き残っていることからそれは分かる。ただ、人格がおかしくなる程度には向いていなかったみたいだが。そもそも訓練が殺し合い上等な時点で人的資源の無駄だとは思う。MSのシミュレーターでは十分に優秀な成績。

 そして、俺はMSの操縦って点ではそれ以上だった。空間認識能力の向上や反射神経が強化され、高速の射撃戦で高スコアを叩き出していたりする。やはり俺はハレルヤなのかもしれない……

 じゃあ、全部俺がやればいいじゃないかと思うかもしれないが、俺が操縦担当になると周りの話が聞こえにくくなる。オタク特有の集中力といえばいいだろうか。職員からはSEEDの三馬鹿(ブーステッドマン)みたいな扱いになっていて、本体ちゃんの方が重宝されている。俺が表に出るのは、対トップエースとかくらいだ。

 

 そうしてひたすらに(本体ちゃんと時々俺が)訓練を重ねさせられる中、職員の会話でなにやら情勢が一段落したらしいことを知った。SEED本編は終了したんだろう。それでも教育プログラムは続いているというか、とうの職員たちが会話で「生体CPUは高い戦果を挙げていた」とか大喜びしてる。これだからSEED世界の連中は……。人道軽視にもほどがある。マジで命が軽いんだよな。

 

 

 そんなわけで、デスティニー時代の強化人間ことエクステンデッドとなった。初仕事は、アーモリーワンでのガンダム強奪。他のエクステンデッド(新三馬鹿)と一緒にやることになるのだが、俺の出番はない。白兵戦なら本体ちゃんの方が圧倒的に上だ。俺にできるのは、視界の端で誰か捉えたとかの警告くらいだった。

 機体格納庫を襲撃した本体ちゃんは、撃ち切った二丁のサブマシンガンを投げ捨てて灰色の機体に乗り込む。まあ、俺は見ているだけだが。

 

「強奪かんりょー!」

 

 触媒の反応スタート。全兵装、アクティブ。オールウェポンズフリー。それにしても、やっぱりこの機体はアスラン向きじゃないな。足にビームサーベルが付いてないし。ダルマにされるだけのことはある。

 さてと、()()()はどの程度やれるか……そうだ。機体名言っとかない?

 

「要る? まあいいや」

 

 初めて乗るガンダムで、これからも乗る機体なんだ。景気づけってやつさ。

 

「はいはい。──メリー・フェネクス。《プロトセイバー》、行きまーす!」

 

 命名法則が、本体ちゃんだけブーステッドマンのそれなんだよな。

 まずはハンガーを落とすというオクレ兄さんことスティングの指示で、MSのハンガーを狙う。といっても出撃前に全部壊せるわけじゃないから、そっからはディンの撃破がメインになった。それと、アーモリーワンの外壁をさっさと破壊して脱出経路を確保。本体ちゃんからは《ザク》に乗ってるアスランとカガリを殺しとかないのかと聞かれたけど、そうした場合に怒りの炎を灯したキラが出てくる可能性を考慮するとリスクが高すぎた。あと、なんかアスランがいきなり覚醒して全員返り討ちにしてくるかもしれない。MSといえど、かもしれない運転は大事だ。特にこの世界では。

 そんなわけで、適度に損害を与えつつ帰還した。その後なんだが、記憶の操作と身体メンテナンス──最適化だったっけか。それのために専用ベッドに寝た。エクステンデッドの製造過程と違って、メンテナンスは気楽なものだ。ラボでは、電極を埋め込んだヘッドギアに固定されたりで脳内弄り回されたりしたってのに。

 


 

 起きたと思ったら、また出撃らしい。次はちゃんとノーマルスーツを着たうえで。なんか、〈ユニウスセブン〉とかいうプラントの残骸でザフトがわちゃわちゃやってるから様子を見てこいとのこと。その前に三人は出撃してたらしいけど、その間もアタシは寝てた。《プロトセイバー》で殺人的加速とか色々やってたことで、最適化に一番時間がかかってたみたい。ブロックワードが使われて精神状態の不安定だったステラより手間取るって……いや、そりゃ想定されてる仕様でのトラブルと初めての状態だと後者の方が時間がかかるか。

 

 サブ人格ちゃん曰く、なんか《ゲイツ》や《ザク》が持っているのは〈メテオブレイカー〉なる道具らしい。あれをいくつか設置しないと、今のままのサイズでプラントの残骸が地球に落ちるみたいだ。

 

『そうなると、アウルのお母さんとやらも死ぬよな……』

 

 ブロックワード二つを掠める一言を口に出さないように気を付けつつ、例の機械を狙ってる《ジン》を撃破していく。シミュレーションのジンより速い高機動型みたいだけど、反射担当のサブ人格ちゃんに代わるまでもない。速度と武装の威力のどちらも、こっちの方が圧倒的に上だ。別に殺すことでストレスが溜まるわけじゃないし、コックピットを狙って爆散させていく。あと、メテオブレイカーの設置と起動が終わった機体も。任務は果たしたようだし、誇って死ねたと思う。どうでもいいけど。

 

『……変わったよな、性格』

 

「そうかな、実感ないや」

 

 投薬とかで精神的に不安定になっていたとはいえ、人格が分裂したりするくらいにはストレスの溜まることがあったっぽい。サブ人格ちゃんが言うには、縛り上げられた捕虜のコーディネーターを銃殺するときに出てきたのが自分だという。無抵抗な人間を撃つのがダメだったのかな。まあ、今はそういうのを全然感じないから問題ないんだけど。

 考え事ができる程度には余裕のある戦場だったけど、未知の新型──シン・アスカの駆る《インパルス》がこっちに来た。サブ人格ちゃんにパイロットが誰か訊いたら、そう返ってきたから知ってる。その後にマークシックザールの飛鳥真先輩だとか言っていたのは無視。サブ人格ちゃん、質問に対して必要ない情報量の返答するんだよね。実はポンコツAIだったりする?

 《インパルス》のフォースシルエット。機動力に長けた装備とはいえ、それはあくまでMSとしてという接続詞が付く。だから、飛行形態のこの機体には追い付けない。……《アビス》や《カオス》も好き勝手にやってるから、アタシたちも自由にやっていいだろう。

 

「ステージ1」

 

 音声に反応して、首輪の無針注射から薬液が注入される。思考担当の本体ちゃんと人格を同期させるための、特殊な向精神薬。

 こうやって俺と人格が融合するわけだ。メテオブレイカーによってできたデブリに欠片すら当たることなく、残骸の合間を縫ってプロトセイバーを動かす。社会一般的な倫理観を持っていた人間としては、仕事上正しいとはいえ引き金を引くことには多少の罪悪感があってしかるべきなのだろうが……

 

「どうにも、楽しいな」

 

 それを全く感じない。やはり俺はハレルヤなのでは? この世界だと宗教は廃れているからそうそう口に出すこともないだろうと、俺と本体ちゃんで相談してこれを交代ワードにしたが。……ごめん、ハレルヤとアレルヤ。悪意はないんだ。

 こちらにビームライフルを撃ってきていたインパルスは、前をよぎった赤色のビームで動きを止める。カリドゥス複装ビーム砲。《アビス》が放ったそれと同時に、俺の駆る《プロトセイバー》と《アビス》がポジションを交代する。スイッチした先の相手は白い《ザク》。

 

「レイ・ザ・バレル……」

 

 友人に恵まれてクソコテになれなかった短命の人、レイ。お互い先の短い身として、親近感を感じないわけじゃない。お互いに偏差射撃をしつつ、メテオブレイカーの設置を邪魔する《ジン》を盾に動く。いい感じに〈ユニウスセブン〉の破砕に成功してくれないと、こっちもアウルとステラがブロックワードに引っかかりそうなんだよ。なので、適度に妨害を排除しつつっていう選択肢になる。こいつらはそこにいたのが悪いどころか、残骸とはいえコロニー落とししようとしてるから良心の呵責もない。本体ちゃんは、調整でそういう良心とかは消されたっぽいんだけど。

 空間認識能力はオールレンジ攻撃の素質ってだけじゃなく、ニュータイプ的な(?)未来予知もセットらしい。実際、それを持つ俺とレイが襲撃犯の《ジン》を盾に機動戦をしているのもそれのおかげだろう。相手が撃ってくるタイミングで機体の前に襲撃者が重なるように動いている。お互いにそれを持っているからか、ニュータイプ同士が出くわしたときのあのSEが鳴った気がした。

 

「にしても、思ったより静かだな」

 

 わざとオープンチャンネルにしない限り、当然だが敵の声は聞こえない。こっちのチャンネルに敵が合わせてくることもないだろうし。ここはアニメと実際の違いだな。見えるのは、今も咲き続ける爆光。GN粒子じゃないが、きれいではある。

 そんなわけで、キルスコア稼ぎつつレイと撃ち合っていたが、限界点に到達した。この機体なら大気圏に突入しても問題ないとはいえ、身体機能のメンテナンスがある。俺一人の命じゃないわけだし、大人しく帰ろう。

 

『ちょっといい? せっかくだし……』

 

「んじゃ、そうしようか。──借りるぞ、グラハム!」

 

 戦闘機型のMA形態に変形し、連射性の高いスーパーフォルティスビーム砲(緑ビーム)を撃ちつつ敵側面から一気に格闘戦の距離へ。瞬く間に最高速度に到達したそれは特攻にも見えるが、直前で再度変形することでMSの状態へ戻る。

 

「人呼んで、グラハムスペシャル!」

 

 変形に伴う失速で白い《ザク》のビームライフル──ビーム突撃銃だったかを回避し、肩部のビームサーベル二本で斬りかかった。

 

「まあ、ここで殺れても困るからいいけどさ」

 

 左側は突撃銃を犠牲に防がれ、右はシールドと左腕だけで損傷を最小限にしている。上手くやるものだ。

 それで、本体ちゃんの要望通りここで交代。上手いこと接触回線を開いて……

 

「他人の気がしないね、アタシたち」

 

「この感覚……ッ!」

 

 まあ、アタシたちはクローンでもないしクルーゼとも無関係……いや、ムウというかネオが上司だから、ちょっとしか関係ない。短命ってくらいだ。あと、同じ空間認識能力を持つ身だろうか。本体ちゃんには備わってないから、サブ人格ちゃんが表に出た時か超兵状態の時限定になるんだけど。

 

「早くしろっての!」

 

 あらら、他はもう先行ってる。スティングに怒られちゃった。《プロトセイバー》の加速力ならすぐに追いつけるから、こうして声をかけるだけに止まっているんだろうけど。機体を反転させ、《ガーティ・ルー》へ戻る。

 二度目のグラハムスペシャルだけど、こうして関節がパキパキ鳴ってる。パイロットスーツを着ているのもあって、流石に血を吐いたりはしていないけど、痛いものは痛い。サブ人格ちゃんが言うところの、殺人的な加速ってやつだ。

 そうそう、そのフレーズで思い出した。ネオは、次は地球に行くって言ってたんだ。




■メリー・フェネクス 本体ちゃん。思考担当。赤っぽい髪の少女。生身での行動はこっちの方が上手い。訓練のストレスで二重人格になった直後に、新しい人格に転生者が憑依。この世界の話を聞いたら、レイ・ザ・バレルって強化人間みたいな人が敵にいることを知ってあって見たくなった。
■サブ人格ちゃん 転生者。反射担当。操縦はこっちの方が上手い。集中すると周りが見えなくなるタイプ。なので、うっかり味方を狙ったりも。空間認識能力がバカみたいに高い。能力を本体ちゃんにフィードバックするために、副作用のキツイ薬がいるけど。男と恋愛なんてしたくない。
■プロトセイバー セイバーガンダムの型番がアビスとかカオスより前だったから、たぶんプロトタイプみたいな形で完成させた機体はあると思う。本作の独自設定。
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