レイを墜としたい   作:三白めめ

2 / 9
お察しかと思いますが、日常パートなんてありません。強化人間なので。


強い相手と戦うと死にそう

 宇宙でのガンダム強奪とか追手を巻いたりとかの後。地球に降りたアタシたちは、インド洋の船上にいた。〈ユニウスセブン〉に砲撃したまま地球に行った例の船──《ミネルバ》を、今度は追う側になっているってのは、なかなかに奇妙な状況かもしれない。

 《J.P.ジョーンズ》──ミラージュコロイド搭載の《ガーティ・ルー》と違って、こっちは普通の強襲揚陸艦だ。堂々と出歩けるだけのことはあって、クルーはファントムペインの存在を認知している。まあ、構成員の顔は知らないみたいだけど。

 

「暇……」

 

 男連中ふたりはトランプしてて、ステラは海を見てる。アタシの機体は整備中だから、やることがない。最適化の時に寝てるから睡眠時間も足りてるし。強奪したもう一機は、技術解析のためにどっかいった。だから、興味のない大昔の画集を眺めて時間を潰してるしかない。なぜかバイオリンの弾き方を体は覚えているから、引けないことはないけど……ここにないからしょうがない。

 本を適当に捲れば、癖のついたページが真っ先に開かれる。そこに載っているのは中世のタペストリーだ。サブ人格ちゃんが言うところの、"私のたった一つの望み"、"可能性の獣"。

 

「アタシたちに、可能性もなにもないと思うけどさ」

 

 サブ人格ちゃんとリンクすれば、アタシも空間認識能力が使える。ちょっとした未来予知や戦場把握と、同じ能力を持つ者の察知。そんなものが人の可能性だとしたら、バカみたいだ。そんなものがアタシたちなんて存在に備わってるのが、特に。

 

「ネオから、次の任務だってさ!」

 

 部屋の扉が開く音に目を遣れば、アウルがいた。仕事。──なんだかんだで楽しいんだ、戦うのは。生憎と、それが哀しいとも思えない。デッキで海を見てるステラは彼に任せて、さっさと向かうことにする。

 "貴婦人と一角獣"の絵が、パタリと閉じた。

 

 パイロットスーツを着て、他の三人と一緒に格納デッキへ。

 

「いいな、みんな。ステラだけお留守番」

 

 落ち込んでいるステラに、スティングが海でも見ながら待ってなと慰める。面倒見いいよね、スティング。別にアタシは言うこともないけど。そのうちネオがステラの保護者役をやってくれる。

 

「俺も、ステラと出られないのは残念だがね」

 

 整備士二人が敬礼する中、ネオが歩いてきた。駆け寄るステラに、後は頼むと頭を撫でながら言っているのを横目に、自分の機体へ乗り込む。

 

「スティング・オーグレー。《カオス》、発進する!」

「アウル・ニーダ。《アビス》、出るよ」

 

 二人に続いて、発進の宣言をする。

 

「メリー・フェネクス。《プロトセイバー》、行動開始!」

 

 後続との連携のため、速度は《カオス》に合わせる。戦闘が始まったら一気に加速するつもりだけど、それまでは一緒のペースで進む。

 

「変な反応……いや、完成品だね、あれは」

 

 レーダーに引っかかったのは、該当データなしの機体。ただ、形からして《プロトセイバー》の同型──《セイバー》だろう。

 

「また新型、いやそりゃあるか。こっちにプロトタイプがあるんだし」

「はん、あんなもの……!」

 

 ネオが呟くと、スティングが《カオス》を加速させた。

 

「あ、先行くんだ」

「おいおいスティング……ま、いっか」

 

 なんか、先行してもいいらしい。それならせっかくだし、こっちもそうしよっかな。

 

「ネオ、アタシも先行っていい?」

「んじゃよろしく。血気盛んだねー」

 

 機体を変形させてペダルを踏み込むと、すぐに最高速度に到達する。レーダーを見れば、後ろのウィンダムとは三倍近い速度差が出ていた。

 

『三倍ってのが、ライバル感あってちょうどいいんだよな』

「さて、見せてもらおっか。完成品の性能ってやつをさ!」

 

 《カオス》を追い越して、アムフォルタスプラズマ集束ビーム砲──名前長いから赤ビームでいいや。それを撃ちつつ《セイバー》と距離を詰める。あっちは雲の中に入り込んで射線を切ったあと、アタシと同じようにMAに変形していた。普通の人間が使う以上、あの機体では無茶な加速ができないだろう。

 

『アスランならやりそう。無法な強さしてるし』

 

 ……まあ、どっちでもいいか。お互いに考えることは同じのようで、連射力に長けたスーパーフォルティス──緑ビームを撃ちつつ正面からの交差を選択した。バレルロールで射線をずらしつつの直進で、すれ違う瞬間を狙う。おそらく《セイバー》は交差直後に変形、自機の背面からビームライフルを撃つ可能性が高い。それなら。

 

「こっちが先に!」

 

 三度目の変形マニューバ。Uターンを最速で行うなら、これで仕留められる。

 

「……減速した!?」

 

 流石に読まれてるか。それならとビームライフルを撃つが、旋回して躱された。互いに距離を離した瞬間、ビームライフルの閃光と76mm機関砲の射撃が《セイバー》に放たれる。

 

「そらぁ! 見せてみろ、力を! この新顔!」

 

 追いついてきた《カオス》が眼前のモビルスーツに撃つが、上昇することでそれを回避した。お返しとばかりに放たれた赤と緑のビームをシールドで防いだ《カオス》のフォローに、再びビームライフルの引き金を引く。

 

「せめて、手傷は負わせたいかな!」

 

 兵装ポッドからミサイルが射出されるのと同時に、《プロトセイバー》をMAへ移行。発射されたそれに軌道を合わせて旋回し、戦闘機の状態となっている《セイバー》の背後を取る。即席のコンビネーションってやつだ。アタシが合わせてるだけなんだけど。

 アスランは機首部分の機関砲でミサイルを迎撃しつつ、ブースターを停止。慣性による落下で強引に機体を180度後ろに回転させ、アタシの《プロトセイバー》にビーム砲の銃口を向けた。

 

「あはっ、化物じゃん」

「コイツ、なんて動きを……!」

 

 あんな動きしてたらGによるブラックアウトのリスクとかは当然ある。それでもやってのけた上に戦闘を続行できるのは、天性の才としか言いようがない。──やられっぱなしは性に合わないな。けど、あの状態に()()()()1()()()()()()()()

 

『あれで種割れしてなかったら、もう勝ち目ないって』

「だよねー……。ステージ2!」

 

 音声に反応して、首輪の無針注射から薬液が注入される。反射担当のサブ人格ちゃんと人格を同期させるための、特殊な向精神薬。これによってナチュラルやコーディネーターより優れた反応速度や空間認識能力を手に入れることができる。まあ、副作用もキツいし、そのせいでむざむざ死ぬのはごめんなんだけど。……これ、口に出すと俺たちの立場がヤバくなるんだよなー。人格ぐちゃぐちゃにされた生体CPUは流石にゴメンだ。

 おっと、アタシと俺で思考がごちゃごちゃになってる。どうもなれないな、この瞬間。瞬間的に高速の並列思考ができるけど、その分余計なことを考えちゃう。

 相手が発射するのに合わせて、こちらもトリガーを引く。赤色の集束ビームが干渉して、一対の砲門のうち片側を破壊した。

 けど、《カオス》と《プロトセイバー》の二機でかかってようやく痛み分けっておかしくない? 生のアスランは思った以上にイカレてる強さしてるぜ。

 

「あんまり気乗りはしないんだけど。ステージ上げないと無理かなぁ……?」

 

 薬液の入った首輪に手をやる。ステージ4や5をここで使うのはやめときたいけど、今のアスランを倒すなら最低でも3はいるっぽい。ステージ上げた時に感知したけど、レイの白いザクは《アビス》と戦ってて詰まんないし……

 

「っと。《ガイア》がそっちに入り込むのはマズくない?」

 

 《ガイア》が任されていた基地の防衛、あそこってどう見ても建設途中で戦場にしちゃ不都合だと思うんだよね。まあ、《セイバー》にかかりきりのアタシとスティングはどうしようもないし、アウルじゃ止めようがない。ネオも他の《ウィンダム》と連携して……全滅してるし。これは終わりっぽい?

 

「アウル、スティング、メリー、ステラ! 終了だ、離脱しろ!」

 

 ほら、ネオから通信が入った。アウルは不服そうになぜかと聞くが、あっちだと上のことは知りようがないからしょうがないか。

 

「借りた連中が全滅だ! 拠点予定地にまで入られてるしな」

「えー、何やってんだよボケ」

 

 そんなわけで、とっとと帰る。楽しかったけど、《セイバー》の相手は疲れた。《アビス》は大物一個墜としてから帰還するらしい。たかが潜水艦ひとつなら、すぐ終わるでしょ。

 水中の爆発で、海面が吹き上がる。アウルの笑い声が聞こえてくることから、彼がうまいことやったんだろう。

 

「──ッ! ヒューッ! ……ヒュッ、ハァッ……ハッ……。これ、きっついね……」

 

 着艦するやいなや、コックピットの椅子に体を預ける。なんか、ステラとかに比べてアタシの仕様だけなんかおかしいって。名字からして悪魔の名前だし。

 戦闘中から過呼吸はあったけど、戦闘が終わって落ち着くと余計に辛く感じる。ステージ上げないとトップエース相手に撃墜されて死ぬし、かといってステージ上げすぎると副作用で死ぬ。

 詰まされてない? 世界とか、なんかそういうのに。できるだけ長生きしたいんだけど。




連合サイドで進むので、アークエンジェル組とはほぼ絡む機会がない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。