レイを墜としたい   作:三白めめ

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最終乗機の顔見せと、レイと直接会う機会。


ザクというよりクシャトリヤ

「メリー・フェネクス。《ザク》、テストを開始するよ」

 

 彼女が強奪して使っている《プロトセイバー》が空力特性を生かした高速移動だとしたら、現状では誰も使っていない()()()()はその逆。四枚の大型バインダーに搭載されたMS用ジェネレーターとスラスターによる推力で加速している。

 

「始めよっか。──ステージ3!」

 

 ブーステッドマンと同じく5段階に分けられている投与量の3段階目。特殊な向精神薬が首輪から注射された。世界が広がる感覚と、戦場の様子が頭に流れ込む。ふたつの人格を融合したことによる空間認識能力の共有。そして、この世界のMSの操作法が神経接続であるが故に、反射で動かす方が反応速度が速くなる。

 

「回避しとく。ドラグーンの制御よろしく」

 

 20mほどの四枚羽を前面に展開し、急制動をかける。先程までの速度から行われる減速にパイロットの体が押し付けられるが、強化された身体はGの弊害を無視できる。

 レーダー外からの狙撃を躱すと、バインダーの内側で無数のスラスター光が閃く。プロヴィデンスのものより小型化することで量とステルス性を確保したそれは、各バインダーごとに六基が格納されていた。

 

「ドラグーン、アクティブ」

 

 宇宙塵(デブリ)と誤認される程度の大きさとなっているそれが、展開しているMSを四方から撃ち抜いた。同タイミングでの複数体撃破。それを行いつつも《ザク》は再加速を行い、ナスカ級へと接近する。バインダーに搭載されているエネルギー砲が赤色の閃光を放ち、並ぶ艦隊の装甲を溶かしていった。

 機関部を貫いたのか、船体の爆ぜた光が《ザク》を照らす。飛び散った残骸の破片は、重装甲の羽が防いで本体に届かせない。

 敵の周囲に展開したドラグーンが盾を弾き、頭部や腕部などを焼き切り、コックピットに緑の閃光を奔らせる。

 

「俺も、ロウソクみたいって言えればよかったんだけどな」

「誕生日も知らないでしょ、アタシたちはさ」

 

 コックピット内、同じ声と体での会話。過呼吸も見られるが、精神の錯乱にしては整然としすぎている。そうして日常の延長線上が如くに機体や船体を沈黙させていくと、周囲を静寂が包んだ。戻ってきたドラグーンを収納し、充電を開始。

 

「ステージ2までだと、ドラグーン使えないんだよね」

 

 そこは、天然の能力持ちが羨ましい。そう呟いて、機体を反転させる。ステージ4とか5の状態なら誰よりも上のスペックなんだけど、そこまで命削りたくないし。

 

「敵機殲滅。帰還するよ」

 

 自身以外に動くもののいないその場所を、スラスターを吹かして離脱する。適性の無い者でも使える《カオス》の機動兵装ポッドと、適性を前提とした《ザク》のドラグーン。これらのデータは、後の生体CPU専用機──《デストロイ》のために活用されていた。

 

 


 

 

「あの機体、いつ帰って来るのかなー」

 

 《ミネルバ》が黒海付近のザフトの港に駐留したので、それを追って空母からその街ことディオキアへ。ファントムペインの権力で貸し切ったホテル、その一室のベッドに寝転がり、足を組んで呟く。黒海付近のこの街は景観がよく、観光地として栄えていたらしい。だから、このホテルにしてもベッドがふかふかだったりする。

この部屋にはアタシしかいないけど、話し相手には事欠かない。ステラは海辺ではしゃいでるし、スティングはパソコンでなんか作業してる。機動兵装ポッドの調整とかかな。

 ポッドで思い出したんだろう、サブ人格ちゃんから返答が来る。

 

『ああ、クシャトリヤっぽいの』

「そうそう。ドラグーンウィザードだっけ」

 

 ザフトが《プロヴィデンス》で培ったドラグーン技術の検証機。《ザク》をベースに4枚の羽を付けたようなその姿は、サブ人格ちゃん曰く《クシャトリヤ》なる機体にそっくりだという。サイコフレームなるオカルト物質を積んでないから、本元の20m級より軽量化されているらしいけど……

 

「あれ乗れるの、アタシたちしかいないよね」

 

 機動兵装ポッドが補助する《カオス》と違って、空間認識能力がないと大量のドラグーンによるオールレンジ攻撃は難しい。少なくとも、それらの操作に手一杯で機体が足を止めてしまう。本来ならレイに与えられるはずの機体だったんじゃない? まあ、アタシたちならステージ3以降で万全に使えるから問題はないけど。3の時点で副作用がキツいのには目を瞑る。

 

「覚えてないけど、動かして楽しかったのはこっちでしょ。全力出したら死ぬけど」

『そう何度も乗りたかないね』

 

 《プロトセイバー》が壊れたらって感じかな。サブ人格ちゃんの言う《デストロイ》よりマシ。まあ、機体が返ってこないと皮算用だ。乗ったってのも思い出した記録からだから、そもそもの実感もないんだけどね。

 

 

 ユーラシア大陸西側、ディオキア。《ミネルバ》を追ってこの街に来たら、妙にポップな音楽が流れていた。ラクス様とかコールが聞こえてくることから、なんかそんな感じのアイドルなんだろう。こういう記憶はどうでもいいから最適化で消されてるんだけど、サブ人格ちゃんは何か知らない?

 

『……ごめん、イグナイテッド西川のこと考えてた』

「誰、イグナイテッド西川」

 

 ピンク色の《ザク》を運んできたオレンジ機体のパイロットみたいだ。変な名前。ところで、結局あのピンク髪は?

 

『そうそう、今マイクパフォーマンスしてるのは本物ラクスだね。本物のラクスより胸が大きいのが特徴だよ』

 

 偽物って言わない?それ。そんな風に思いながら、オープンカーで待ってるスティングたちに合流する。その前にとステージ付近を見れば、赤服を着たザフト兵がちらちらと見えた。

 

「いたよ、スティング。赤服がぞろぞろと。やっぱり《ミネルバ》の連中だった」

「お疲れさん」

 

 アウルが一人で占領している後部座席のドアを開ければ、少しスペースを開けてくれた。しばらく車は走り、海の方へ。

 

「で、結局俺らってまだあの船追うの?」

 

 アウルの言葉にそうだろうなと同意するスティング。大方そうだとは思っていたけど、ネオがいないときのリーダーみたいになってる彼が明言してくれたのはすっごく助かる。

 

「やった! 気になってるんだよね、白い《ザク》の子」

 

 さっきの偵察であのパイロット──レイだっけ。実際に彼の眼を見て、なんとなく親近感を覚えた。施設やロドニアのラボでよく見たそれだ。"先生"の言う通り動くような、自分で生き死にも決められないようなやつ。

 ──アタシとそっくりだ。

 

「どう思うかはともかく、ここんとこずっと黒星だろ。あの船には」

 

 勝てなきゃ負け。そんな風にスティングは言う。確かに、アタシたちは分類上生体CPU──マシンのパーツで、役割を果たせなきゃ不良品ってことになる。それに、非正規特殊部隊だしね。

 

「ファントムペインに、負けは許されない」

 

 そう話を締めて、車内は少し静かになる。海とカモメに嘆息するステラの声は、ずっと聞こえていた。

 その彼女は、自由時間の数時間後に行方不明になったけど。夜になっても帰ってこないんだな、これが。

 

「まさか、ザフトにバレたとかじゃないよな」

「とにかく、探しに行くぞ」

 

 アウルとスティングのふたりが車を出し、アタシもそれに乗る。海辺の崖の所にいるのは全員が見ていたので、きっとその近くにいるんだろう。名前を呼んで辺りを見るという、すごくアナログな方法での捜索をしている。問題は、反応がないってことくらいか。街の方へ降りたのかもしれないと、車に乗って坂を下り始めていたその時、対向車線のジープがクラクションを鳴らして止まった。そちらの方を見れば、車内にはステラ。彼女が「スティング!」と名前を呼んでいたから間違いないだろう。バックして車体を近づける。そこにいたのは黒髪の赤服とレイ、ラフな服装をした赤目の少年だった。

 

「ステラ!」

「スティング!」

 

 スティングに駆け寄って抱き着くステラ。横でアウルが「おいおい、赤服だぜ」って言ってるけど、赤目の子が近づいてくるから少し黙っててもらう。彼はステラを保護した経緯を話したりしている。

 あれがシン・アスカ。インパルスのパイロットだっけ。そっちはスティングに任せて、ジープの運転席の方へ歩いていく。

 

「あの、お礼言いたくて!」

 

 そこに座っている人物に声をかける。

 

「いや、助けたのは彼だ。俺に言うことじゃない」

 

 そう言って向こうにいるシンを指す彼だけど、アタシが話したい相手はキミなんだよね。

 視線を感じて顔を向けると、なんかあの赤服──アスランが生暖かい目でこっちを見てる。

 

『大変だなみたいな感じに思ってるだろうけど、お前は指輪渡したカガリをほっぽってメイリンといちゃいちゃしてるんだよな……』

 

 そんなんだからカガリが今泣いてるんだぞ。サブ人格ちゃんがそうぼやいてるのをスルーして、彼と話を続ける。あんまり人付き合いが好きじゃないんだろう、適当に流しているのは想定済みだ。

 

「アタシたち、仲良くなれると思うんですよ」

「メリー。そろそろだってさ」

 

 シンとアスランが戻ってきた。アタシもアウルから呼ばれたし。じゃあ、このタイミングかな。

 

「だって、お互いに知らないじゃないですか。誕生日」

 

 一瞬だけハレルヤと交代して、空間認識能力者同士の感覚を流す。同時に顔を近づければ、大人びた雰囲気の彼は逆に身を引いた。意表を突かれたその表情にクスクスと笑って数歩下がる。

 

「ザフトの方々には、本当に色々とお世話になって……」

 

 スティングがそんな風に挨拶している。皮肉も混じってるのかな? モビルスーツを強奪し(貰っ)たりと、今もお世話になっているね。ステラはシンと話していて、名残惜しそうにしている。

 

「行くぞ、シン。レイ……レイ?」

「……ええ」

 

 運転席にいるレイは、アスランに声をかけられて我に返った。街の方へと下っていく車で、シンはこっちを向いて声をかけている。

 

「ごめんね、ステラ。でも、きっと、ホント! また会えるから! ってか、会いに行く!」

 

 そういってジープは曲がり角に入って見えなくなる。ステラは彼らが行った後も、立ち止まってシンのことを考えていた。アタシは、先に後部座席に座っておく。こういう面倒のかからなさは自慢だ。

 

「また会おうね、レイ!」




■クシャトリヤ レイのレジェンドは白いガンダムタイプの外見なので、一つ目と戦わせたかった。クロスオーバータグをつけた理由。
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