レイを墜としたい   作:三白めめ

4 / 9
まだ誰も死んでない時。


別にアスランはライバルじゃない

 黒海、スエズ。オーブ軍に先に戦ってもらって、アタシたちは後から出るって流れでコックピット待機をしている時。オープンチャンネルで演説が流れ出した。

 

『ゲリラ屋じゃん。国家元首を辞めてゲリラに復帰したのかな?』

 

 オーブ連合首長国代表を名乗る、国元を離れたゲリラ屋が軍を引けと言っているみたいだ。アタシは世界情勢とか知らないけど、せっかくMSに乗ってるんだしオーブで直接クーデターでもした方がいいんじゃないかな。わざわざこんな戦場で演説しなくてもさ。

 

「あ、ここの指揮官殺しに来たとか! 今旗艦に乗ってるやつが代表なんでしょ?」

 

 そんな風に暇つぶしの会話をしていると、コックピットのモニターに表示があった。エクステンデッドに、オペレーション開始の命令。

船体の横部分が開き、《ウィンダム》とかのMSが発進していく。《アビス》は発進と同時に変形、水中へ。《カオス》とアタシの《プロトセイバー》は《ウィンダム》と一緒に《ミネルバ》を落としに行く。《ガイア》は地球では長く飛べないので船上から射撃っぽい。

 

「にしても、あの機体……」

 

 突如としてこの戦いに乱入してきた彼。サブ人格ちゃんが『マトモな准将の新たなる剣か……』って言ってた《フリーダム》が、戦場に舞い降りている。あと、ポツリと呟いていた『なん傲神つも』ってなに?

 それにしても、あの戦い方は……

 

「現実、なめてるよね」

 

 殺すとストレスが溜まるからなるべく無力化に留めているらしいけど。「ナチュラルの捕虜なんかいるかよ」とか「青き正常なる世界のために」とかを知ってると、どのみち殺されるよね。

 

『まあ、前の戦いで廃人寸前だったから。それができる力もあるし、メンタルケアには気を使うんじゃない?』

 

 敵を甚振るのが趣味のやつみたいに、敵を殺さないのが趣味ってこと? 逆にメンタルイカレてる気がする。

 そんな感じに考えつつ《セイバー》や《インパルス》に射撃で牽制していると、オレンジ色の《グフ》と戦っている《ガイア》が見えた。なんかスティングは《セイバー》と戦ってるし、《アビス》は《インパルス》と射撃戦だ。アタシもMA形態に変形させて《ミネルバ》にビームを撃ったりしているけど、たかだか艦砲射撃に当たるわけもない。

 

「流石に、戦力が減らされるのはムカつくなぁ……っ!」

 

 方向を変える。狙うのは《ストライクルージュ》……ではなくその傍にいる金色の《ムラサメ》。

 

「スーパーコーディネーターだっけ。化物の逆鱗には触れたくないんだよね」

『姉を失って、全盛期のバーサーカーメンタルになられるのは困るし。狙うならそっちだよな』

 

 アタシたちみたいに、戦わないと生きていけない存在とは違うんだろうけどさ。あいにくと戦場では力だけが全てだから、《フリーダム》はただの化物でしかない。そんなわけで、乱入してきた戦艦こと《アークエンジェル》から発進した《ムラサメ》を墜としつつ、パーソナルカラー付きの機体へ向かう。

 

「突っ込むよー!」

 

 相手も速いし上手いけど、一般的なエースパイロットのコーディネーターとアタシたちじゃ後者の方が上だ。体の頑丈さから違うんだから、無茶な機動だってできる。アスラン……? あれはほら、別でしょ。カテゴリーがさ。

 

 戦闘の内容としては、どっちが相手の後ろを取るかってドッグファイトだ。ただ、相手はアスランほどヤバげな機動とかをしてこない。もともと《セイバー》と《プロトセイバー》は機体性能がほぼ同じだったからあれほど硬直状態だったのであって、今回はそうじゃない。高威力の赤いプラズマビーム砲に対して、すぐに変形して盾と左腕を犠牲に撃墜を免れたのは上手いと思うけれど、逆に言えばそれまでだ。ビームライフルでの反撃を機体のロールで躱し、即座に二発目を放つために機体を変形させ──ッ!

 

「きゃあっ!」

 

 《フリーダム》が腰のレールガンでこっちを撃ってきた。武器狙いというのは分かっていたので、手放したビームライフルでそれを防ぐ。ただ、その間にあの金色は離脱したようで、仕留め損ねたのに変わりはない。

 当然撃ってきたそっちの方に目を向けると……

 

「《ガイア》に……《インパルス》?」

 

 MA形態の《ガイア》が、翼状のビームブレードで《フリーダム》に攻撃しようとしている。ただ、その直線状にはシン・アスカの《インパルス》がいて……

 

『ハイネーッ!』

 

 サブ人格ちゃんが叫んだ通り、盾どころか両腕の無いオレンジ色の機体が《インパルス》の前に出て身代わりになった。……やっぱりイグナイテッド西川じゃないじゃん、あのオレンジ色の名前。

 勢いを殺された上に爆発音で《フリーダム》に気付かれた《ガイア》は、案の定蹴り飛ばされた。岩場や水面に激突する前にスティングの《カオス》が回収したから、中破まではいってないはず。よかった。ステラを撫でたりするのは楽しいから、死なれたりすると困る。

 整備のために一度退くよう連絡が来たので、J.P.ジョーンズまで帰還することになった。このあたりの聞き分けはいい方だと自負している。《アビス》も撃たれたし、これ以上《フリーダム》と事を構えるのは不利だろう。

 

「また黒星だよ……そろそろ後がないんじゃない?」

『その判断は、俺たちのすることじゃないけど。まあ、処分を選ぶほど馬鹿じゃないでしょ。上の連中もさ』

 

 こっちが攻勢に出ていた側というのもあって、無事に戻るのは容易だった。

 

「仕留めたかったなぁ、あの金色」

 

 白い《ザク》ことレイはカタパルトデッキから近づく《ムラサメ》やミサイルを迎撃しているだけだったから、ちょっかいかけるにもつまらなさそうだったし。それにしても、やっぱり──

 

「気に食わないな、《フリーダム》はさ」

 

 アタシたちは、勝てなきゃいつか廃棄か使い捨て前提の調整をされる。ガンダムに乗って死ぬのも、廃棄されて死ぬのもごめんだね。だから、機体を戦えなくして開いた戦端を閉じようなんて、死が近づくのと同じなんだよ。……まあ、この感情も消されるんだろうけど。

 そういえば、ステラってあれ置きっぱなしだっけ。シン・アスカから貰った大きいハンカチ。記録としてでも覚えているのはアタシだけだし、捨てられてなければいつか返そう。機会があれば。

 

 アタシの損害はビームライフルだけってことで、機体にダメージを受けたアウルやステラほどじゃない。スティングはあの複合兵装ポッドの調整でコンソールと向き合っている。

 だから、周りを見渡す余裕があるというか、娘のようにネオの腕に抱き着いているステラの姿も見えるわけで。ネオがステラから少し離れ、スタッフとなにか話している姿もまた見えた。

 

「ロドニアの……ラボ?」

 

 エクステンデッドは潜入も可能な強化人間というわけで、読唇術くらいはできる。そんな特性を発揮して会話内容を少し拾うと、人体実験を受けた出身地ことロドニアのラボが、処分に失敗したうえザフトに見つかったらしい。

 

「あはっ! そっかぁ……!」

 

 母代わりの研究員がいたアウルと違って、アタシはあそこに思い入れとかない。それに、きっとその見つけたザフトの人間は、レイだろう。なんとなく、そういう流れがあるんだって、サブ人格ちゃんから察せられる。刻の流れというか、運命というか、そんな感じの。

 だとすれば、アタシたち(エクステンデッド)のことをレイも知ることになる。体を弄ばれて、短い命の。記憶を操作されて、過去や誕生日も思い出せないアタシたちのことを!

 スキップしたい気持ちを抑えつつ、パイロットスーツを脱ぐ。両肩と腋が露出している地球連合の制服に着替えて、他三人を待つ。なんだかんだで一緒に行動している時間は好きだ。

 

 ちょっと不安そうにしているステラの頭を撫でたりしつつ船内の廊下を歩いていると、そのステラが口を開いた。

 

「ロドニアのラボって、なに?」

 

 さっきのネオの会話を聞いていたんだろう。その言葉に、スティングとアウルが返す。あと、アタシも。

 

「ロドニアのラボって、そりゃお前」

「俺たちが前にいたとこじゃん」

「懐かしの……ってほどでもないか。それがどうかした?」

 

 記憶を消されていて精神的成長もないからか、ステラは幼い印象を受ける。だからこういうことをいきなり言い出してもおかしくないと分かっているスティングは軽く流して先に進もうとするが……

 

「悪いことにザフトがって、ネオが!」

 

 その言葉に、先に進んでいた男子二人が足を止めた。ちょうどアタシとステラも待機する部屋に入った時で、後ろでドアが閉まる。

 始まったのは、スティングとアウルの言い争いだ。押し問答と言ってもいいかもしれない。

 

「ちょっと落ち着けって! アウル!」

 

 今にも飛び出していきそうなアウルの両肩を、スティングが掴んで引き留めている。アウルの首元にかかったネックレスが揺れた。

 

「なんでだよ! なんで落ち着いてられるんだよ!」

 

 

「ラボには母さんがっ!」

 

 アタシたちが暴走した時、恐慌状態を起こさせて制御するためのブロックワード。そのうちアウルに割り当てられたそれを、彼は自分自身で口にした。暗示も万能じゃないから、ブロックワードも当然思い入れのあるそれになるのは当然だけど……こんなうっかりの事故が発生するのはそもそもからして間違ってる気がしてきた。

 

「かあ、さんが……いる……だぞ……」

 

 涙を流して、弱々しく話すアウル。今度は正気に戻すために肩に手をかけたスティングだが、効果はなく彼は膝から崩れ落ちる。

 

「あ、あぁあ……かあ、さんが……」

 

 まあ、ここまではいい。別に戦場じゃないし、こんな事故もあるだろう。

 

「母さんが──死んじゃうじゃないかぁ!」

「死んじゃう……?」

 

 はい。ブロックワード二人目だよ。"死"。これが、ステラのブロックワードだ。スティングはアウルをなだめるのに精いっぱいだから、彼女はアタシが看るしかない。

 

「おい、コラ! しっかりしろ、バカ!」

 

 今まさに恐慌状態のアウルを一瞥することもなく、ステラはふらふらと歩き出す。

 

「死んじゃう……死んじゃうはだめ……こわい……」

 

 やっぱりこれ、アタシがいくしかないよね。

 

「スティング、今のでステラのワードに引っかかった! ステラはアタシが見とくから、そっちよろしく!」

「あ、ああ。頼む」

 

 なぜかいきなり走り出したステラを追いかけて、アタシも艦内を走る。ただ、白兵戦とかの成績はステラの方が上なんだよね。要は、走る速さだとステラの方がちょっと速いわけで。それに距離も空いていたから、先に出撃デッキへ辿り着かれてしまう。

 

「ハッチ開けて! 開けないと、吹き飛ばす!」

 

 そんな脅迫をしたのは、装甲が起動した《ガイア》。つまり、ステラはとっくに乗り込んでいた。ここで死んでは堪らないと、船体の横が開いて出撃可能になる。

 

「──アタシが追う!」

 

 整備士たちにそう声をかけて、アタシも《プロトセイバー》に乗り込んだ。パイロットスーツを着ていないから、例のグラハムスペシャルをしたらまた吐血する羽目になる。できれば大人しく戻ってくれればいいんだけど……

 

「しっ、しかし!」

 

 直後、轟音が響く。ハッチが吹き飛ばされた音だ。《ガイア》はすぐにそこから飛び出した。マジでやったよ。

 

「これは、アタシが出るしかないよね」

 

 整備士は動揺もあり、首を縦に振った。

 

「武装や機体の整備は完了しましたが、エネルギーは先ほどの戦闘から最低限しか充電できていません!」

 

 エクステンデッドは機体のパーツ扱いだけど、だからこそというか、必要なことはちゃんと話してくれている。発進と同時に機体を変形させ、巡航速度でステラを追う。一応は呼びかけてみるけど、やっぱり返事はなかった。《ガイア》はMA形態の上に全速力だからか、こっちが空を飛んでいるとはいえなかなか距離を縮めることができない。そして、正面からは──

 

「うわっ! アスラン!」

 

 《セイバー》と《インパルス》。あっちは《フリーダム》との戦闘で負った損傷も回復している。

 

『二対二……エクバかな?』

「とりあえず、アスラン抑えないと。──《ガイア》の追跡中、《セイバー》と例の新型の二機と遭遇。ステラが戦闘を開始した。こちらも参戦する」

 

 とりあえず、本部の方にも状況を報告しておく。回線が開く音がした。

 

「こちらネオ。……了解した」

 

 とりあえず、この方針で大丈夫らしい。なんでこんなことに……サブ人格ちゃんも、なんか訳知り顔で語ってるならこのくらい予想できたりしなかった?

 

『いや、十年くらい前のことを完璧には覚えてないって……』

 

 こんなところで使いたくなかったけど……使わないとアタシも撃墜される可能性が出てきたし。

 

「ステージ3!」

 

 これでサブ人格ちゃんが持つ空間認識能力も共有されて……

 

「あー、やっぱりいるよね、レイ」

 

 同じ能力を持つレイを知覚する。そっちに気を取られている暇もないので《セイバー》に意識を向けて、とりあえずと連射性能の高い緑のビームを撃つ。お互いにMA形態での戦闘機対決となる中で、《インパルス》と《ガイア》での一対一が形成された。時々そっちの方に射撃したり体当たりを仕掛けたりと気を逸らすが、同じことをアスラン側でもやられることでそっちの対処をせざるを得なくなる。冷静に連携ができているザフト側と違って、こっちはステラが暴走状態だ。唯一冷静さを欠く《ガイア》が狙い目だと判断した二機が一気に墜としにかかる。被弾を覚悟で《ガイア》へ突撃を敢行した《セイバー》が盾を弾き飛ばし、体勢を崩した隙を《インパルス》が斬り上げた。

 コックピットハッチを溶かしたその一閃で、《ガイア》は地面に叩きつけられる。

 

「これは、回収不可能かも……」

 

 いくらアタシがステージ5まで到達させたとしても、操縦者が意識不明の《ガイア》を連れてこの二機から逃走するのは不可能だ。追い払うのも厳しそう。

 

「……ネオ、ステラがやられた。死んではないけど意識不明。二対一の状態で、回収は……」

「──撤退しろ」

 

 だいぶ感情を押し殺した声で返事がきた。とはいえ、ここでステラが捕らえられて解剖されるとかになると嫌だな。──そうだ!

 

『こういうときこそ、か』

 

 オープンチャンネルを開く。返答は期待していないので、一言だけ残してチャンネルを閉じる。

 

「ステラ……っ!」

 

 あっちから驚いたような息遣いが聞こえたので、効果はあったのだろう。すぐさま機体を反転させて離脱する。念のため、ここは最高速度だ。

 

「頭ガンガンしてる……」

 

 薬の副作用。ひどい頭痛を感じつつ、そうして帰還を果たした。戻ると、すぐに調整のため寝るように促される。……これ、ステラのことも忘れるのかな。

 

『まあ、後で教えるさ』

 

 もしもの話だけどね。




たぶん、キラとかアスランとは一言も話さないまま終わります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。