思ったより最適化に時間がかかったのもあって、起きて少しすると夕方になっていた。アタシはステラという少女のことを覚えていなくて、約束通りにサブ人格ちゃんからそれを教えてもらったわけだ。スティングとアウルは一対一でバスケットボールをやっていて、アタシは海を眺めている。
「ホントに思い出せないなあ。ステラのこと」
スティングやアウルは、記憶や誕生日がないことになにも思うところはなさそう。それじゃ、ダメだ。アタシの理解者にはなってくれない。
翌朝にはまた、クレタで《ミネルバ》との戦いだ。顔も思い出せないけど、弔い合戦といこっか。
コンディションレッド──戦闘準備のブザーが鳴る中、発進デッキを走る。片腕にヘルメットを抱えた状態での移動だが、アウルが急に立ち止まった。
「どうした?」
「いや、なんか、こう……」
彼自身も言語化できない違和感だが、今は戦闘前だとすぐに移動を開始する。
「ステラ、か」
『そこにあったのは《ガイア》だね。黒いやつ』
こういう風に、死ぬと忘れられるのか……それは、いやだな。一応、あの夜に確認した段階では死んでなかったみたいだけど、そろそろ限界も近いだろうし……
「なーんか大事なこと、忘れてる気がするんだよな」
「ふっ、なんだよ、大事なことって」
アウルの呟きに、スティングが返す。こういうところで真っ先に反応するあたりが、男同士の友情とかそんな感じなのかもしれない。アタシはほら、サブ人格ちゃんといつもコミュニケーションしているから。話し相手には飢えていないから。
「それがわかんねぇっつってんの!」
「思い出せないなら、ないのと一緒でしょ」
そうして会話は打ち切られる。そう、思い出せないものはないのと同じだ。だから、アタシは死にたくないんだよね。
「スティング・オークレー。《カオス》、発進する!」
「アウル・ニーダ。《アビス》、出るよ」
「メリー・フェネクス。《プロトセイバー》、出撃しまーすっ!」
《カオス》と《プロトセイバー》は空に。《アビス》は水中へと動きを進めた。その後は、ほぼ戦う相手が定まっている気がする。アタシたちエクステンデッドの仕事は、エース級との相手をすること。つまり、アウルはスラスターで水上を滑るように動く緑の《インパルス》へ。アタシとスティングはいつも通り《セイバー》とのマッチだ。
いつも通り過ぎて、驚くほど戦闘に変化がない。アスランは母艦へ攻撃する《ミネルバ》の防衛もしなければならないから、守勢に回らざるを得ない。そのうえコックピットを狙わない不殺チャレンジまでしている。アタシたち二機を前にして。舐められてるのかな?
そんなことを考えていると、またもや舞い降りる剣。《フリーダム》とピンクっぽい《ストライク》、《アークエンジェル》の乱入だ。また来たよ。
『地球軍の言いなりになるなは、こっちの対立陣営を表明してるだろ』
「ま、明らかに敵だよね!」
《インパルス》がミサイルを放ったのに合わせて、こっちも赤いプラズマビーム砲を撃つ。《フリーダム》は頭部のバルカンと盾で迎撃と防御をしつつ降下した。
続いて今までアタシたちと戦っていた《セイバー》があの機体に斬りかかる。
「貰ったぜ、テメェら!」
数度の斬り合いの最中にスティングが割り込んで……ポッドと両腕が斬られた。海面を滑り、直後に離脱する。
《アビス》の方は、先ほどと同じように《インパルス》へ攻撃を仕掛けている。ここでアスランも加わると厄介なので、さっきまでの《カオス》の役割はアタシが引き継ぐことになる。ビームライフルで《セイバー》を撃ち、こちらへ気を引く。
アウルが放ったバインダー内側の三連ビーム砲二つが相手のバックパックを撃ち抜いて──
それを咄嗟にパージして爆発を受けなかったシンの機体は、ビームジャベリンを《アビス》へ投擲した。貫いたのは、コックピットの位置。MS形態の機体は、そのまま海へと沈んでいき……その位置からの爆発で水が吹き上がった。
「嘘……アウル、死んで──」
『やめろ。その先はダメだ』
分かってるけど、これはどう考えても……
「"負け"たの……?」
負けた。そう、負けだ。アタシにあってはならないはずのそれ。もちろん、それはアタシ自身がそうなったわけじゃないけど。
「ステージ……5……ッ!」
全部消えちゃえ。そうだ。死なないように守ればいいと、ステラはそうした。なら、アタシも同じだ。負けないように、全部殺せばいい。
「ハァッ、ハァ、ハァ、ハハッ! ここで逃げたら、俺たちだけは負けなくて済む。じゃあ、進んだら。アタシたちは弔い合戦と勝利ができる」
なら、アタシたちは進むしかない。奪うだけじゃダメらしいけど、アタシには過去もなにもないんだ。なら、勝利ぐらいは貰ってもいいだろう。
空間認識能力。ステージ4で手に入るのは、数秒間の未来予測。本来であれば、ドラグーンの完璧な運用に用いる能力だけど。今回は多数を効率よく一気に殺すためのルート予測に使う。
MAへ変形し、機体の推力を最大に。パイロットスーツを着ていても体に負荷がかかるが、強化された肉体なら耐えられる。
「心臓、痛い……」
連射に長けたスーパーフォルティスと、高威力のアムフォルタス。緑と赤のビームを撃ち、MS形態への急制動を伴った変形を駆使して被弾なく敵を墜とし続ける。戦う気のない《ストライクルージュ》は、手足を破壊したところで《フリーダム》に守られて下がらされていた。できればあれも撃墜したいけど、今のアタシたちじゃどうやってもムリだ。機体スペックが足りない。
「息……できない」
続いて目標を《セイバー》へ。迎撃で向けられる足やビームサーベルの位置の把握は済んだ。やけに動きが鈍い隙を逃すわけがなく、両手に持ったビームサーベルでその足を斬る。そのまま機体を通り過ぎると、続いて《フリーダム》に腕と頭部を落とされていた。ダルマ状態のままで落下するけど、アスランだし生きてるだろ。
「でも、アタシ──生きてる!」
道中にアークエンジェルの方へ向かっている駆逐艦や救命艇があったので、ついでに破壊しておく。特攻ならともかく、連合と組んでおきながら敵の方に行くのは敵前逃亡か、叛逆か……ともかく、そっちに逃げるなら、誇りだけ得て死んでもらおう。オーブに進めば自分たちの命も手に入ったのにね。
「きえろ……消えろ。消えろ、消えろ、消えろ消えろ!」
そのまま、ソードシルエットを装着した《インパルス》へ。今なら確実に仕留められる。ここから反撃してくるにしても、ビームライフルだけだろう。それなら、間違いなく躱したうえで墜とせる。空母に立ってるそれへと急降下し──
「全部、消えろ!」
《プロトセイバー》と《インパルス》の間を、一条のビームが遮った。そちらを見れば、白い《ザク》がビームライフルを構えている。
「──ッ!」
「タケミカズチが墜ちた。作戦は終了だ」
その一瞬後に撤退命令が下された。……ステラのことも忘れさせられたんだ。たぶん、アウルのこともそうなんだろう。
薬剤の投与が止まり、ステージ5が解除される。ヘルメットが汚れて前が見えにくい。邪魔なので脱ぎ捨てれば、血の跡が見える。
吐血と血涙。副作用と急激なGが原因っぽい。頭の痛みや吐き気に耐えていると、いつの間にか《J.P.ジョーンズ》に着いていた。
再調整のベッドへ横になる。すぐに意識を失ったのは、よかったかもしれない。
「これだけは、誰にも分からないよ」
レイにだってわからない。
薄々気付いている方もいると思いますが、この小説を書き始めた動機は5ノレいいよねです。