外から見れば、モノアイが一条の光を描いているかもしれない。《ミネルバ》の保有するMS戦力は、《デスティニー》と《インパルス》、《レジェンド》の三機だけだ。《デスティニー》は武装からして《デストロイ》の相手に回るだろうし、《インパルス》の姿は見えない。必然的に、アタシが当たる相手は一機だけだ。
《ミネルバ》一隻のみで、このダイダロス基地に仕掛けてきた。その知らせが入り、
「《ザク》、発進よろし」
ブリッジからの伝達で、VPS装甲を起動させる。モノアイが光るとともに色づく機体は、動力機関の性能向上の影響もあって赤色となっていた。
「メリー・フェネクス。《ザク》、出るよー!」
本体と、大型バインダーに備え付けられたスラスターが点火する。本来なら先行している防衛部隊に追いつくか追い越すことすら可能だけど、それはしない。戦場に着けば、《レジェンド》は既にドラグーンを展開している。今回は、ザフトが攻め込む側だ。となれば、最初から相手のドラグーンに空間が制圧されているのと同じ。まずやるべきは、その条件を崩すことだった。
『クシャトリヤが仕掛ける側ってのは違うけどね』
左手に持った、ダガー用のバズーカ──対ミサイル用に散弾仕様となったそれを発射する。一帯に展開されているドラグーンの牽制のために撃ち切り、即座に投棄。《レジェンド》はドラグーンを自機の周囲に戻して、損耗を防いだ。
いくら核動力機とはいえ、ドラグーンにも動力を積んでいるわけじゃない。おそらくは充電式。仮にVPS装甲で散弾が防げるとしても、スラスターとビーム砲に使うエネルギーが減るのは変わりないだろう。
「ステージ5!」
「さあ! 出し惜しみは無し、反射と思考の融合ってやつだ!」
直後に、サブ人格ちゃんと同期。空間認識能力を共有して、アタシは24機のドラグーンを統制することに集中する。
相手は核動力機。こっちは《デストロイ》で得たノウハウで多少改修されているとはいえ、長期的な戦闘ではスペックの差が出る。けど、勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらない。
空間認識能力では、アタシたちの方が上だ。それに、対Gとかの身体性能も。そこはナチュラルやコーディネーターと、強化されているエクステンデッドの差異だから埋めようもない。だから、勝敗は操縦者の技だけで決まるわけじゃない。
散弾バズーカで生まれた空白地帯に、《ザク》のドラグーンを展開する。《レジェンド》のそれと違って対物センサーに引っかからない大きさのそれが無数に配置された。あとは、結果だけが全てだ。
「
サブ人格ちゃんがそう呟く。言ってる意味は分からないけど、やる気ならいいことなんだろう。
あらぬ方向から、無数の閃光が殺到する。展開された双方のドラグーンから出る熱線とビームガトリング。
閃光が交錯して打ち消し合い、《ザク》と《レジェンド》を隔てる網のようになる。ドラグーンの撃墜を目的として放たれたそれらが消えた直後、互いに機体の距離を詰める。考えていることは同じだ。ドラグーンを一機ずつ落とすのは困難なら、本体を狙うしかない。ビームサーベルでの鍔競り合いはできないことから、交差の繰り返しだ。ドラグーンのビームで通過するルートを限定することで、より有利なコースを位置取ろうとしている。
「純粋な技量勝負ならっ!」
未来が見えるアタシたちの方にアドバンテージがある。それに、操縦とドラグーンの操作はサブ人格ちゃんとの分業だ。だから、自機に当たるギリギリを狙うなんて精密動作も可能。
もちろん、レイもやられっぱなしってわけじゃない。撃つのは無理だとしても、ビームと機体の直撃コースの間にドラグーンを置いて、盾代わりにしている。そうして狙うのはコックピット。多少の被弾を前提として突っ込んできた彼は、大型の機体だから内側に入り込めば勝機があると考えたのだろう。
「甘いよ」
バインダー内の隠し腕を展開する。ビームサーベルを持ったそれがコックピットを貫こうとする腕の軌道を変え、背部武装を破壊した。《レジェンド》はドラグーンプラットフォームに損害が出て、《ザク》は四枚羽の内一枚が操作を受け付けない。痛み分けではあるが、戦闘の続行は可能。大型バインダーから追加で二本の腕を出現させ、動かない一枚を除いてすべての腕が出現した。先ほど出した腕で《レジェンド》を掴み、回避はさせない。とどめの一撃のため、ビームサーベルを振り上げた。そして、爆発音。
「……ガーディ・ルーが墜ちた!?」
一隻だけで逃げ出したということは、基地も制圧されたのは想像に難くない。そして、逃走は失敗。《デスティニー》が──シン・アスカが、ステラを弄んだ報いを受けさせたのだろう。
そっちに気を取られた隙を突いて、《レジェンド》は拘束から抜け出した。
「……もう、いいか」
ここで勝っても、アタシに先はない。逃げたところで、調整を受けられない状態じゃ衰弱死が待っているだけだ。それなら──
「ああ、最期まで付き合うさ。一緒に行こう、本体ちゃん」
「おっけー!」
防御なんて考えなくていい。《デスティニー》がこっちに来た状態の二対一になれば、間違いなく勝ち目はないんだ。その前に墜とす。
ドラグーンの動きを変更。今までは自機に当たらない射線構成をしていたけど、アタシごと《レジェンド》を撃てるルートも許容する。
「お互い、戦うための道具でしかないんだよ。アタシたちは同じだ! 平和のためには、死ななきゃいけない!」
だったら、いっそ。クローンとか生体CPUだとかSEEDだとか、そんな面倒なものは全部!
「全部、壊してやる……っ!」
サブ人格ちゃんと考えは一致した。基地からは停戦命令が飛んできているが関係ない。そもそも、ここまで来た連中はだいたいブルーコスモスだ。じゃなきゃ〈レクイエム〉なんて大量破壊兵器を許容していない。だから、大半のMSは戦闘を継続している。《デストロイ》も全機消失した今、勝ち目なんてないけど。
そういう戦いを無視して、アタシとレイは戦闘を続ける。互いに機体は損壊していた。《ザク》に至っては、バインダーが更にもう一枚失われている状態だ。咄嗟にビーム砲を発射させて、誘爆で《レジェンド》の片腕を奪ったけど。
そして、《デスティニー》がもうすぐこっちに来る未来を見て、決着を付けようと機体を加速させた瞬間──
「なに、これ」
アタシの脳裏に、知らない記憶が流れ込む。極まった空間認識能力が未来を予知することすら可能なら、過去を見ることもまた……
これはきっと、レイの視点だ。彼の人生や、それに伴って思い出したステラの顔。彼が「どんな命でも、生きられるのなら生きたいだろう」と言っていたこと。なんとなく、レイも同じようにアタシの過去を見てるんだと認識する。ドラグーンを使うためにやり取りされる、大量の量子通信の混線とか、考えられる科学的な原因はいくつもあった。今のアタシは、サブ人格ちゃんと同期している。どういう会話があったのかとか、《ミネルバ》のブリッジや格納庫がどうなってるかは、そっちが既に知っている。なら、あとちょっとの情報があれば過去を観測するレベルの予測は簡単にできてしまう。
「まるでニュータイプだ」
この世界にオカルトを持ち込むなんて。吐き捨てるように言ったサブ人格ちゃんをよそに、アタシは思い出した。最初は殺したくなかったんだ。けど、それができない子が連れ出され、暴力を振るわれたり壊されたりしたのを見て、やるしかなくなった。それでも躊躇ったアタシは、いつの間にか引き金を引いていて。
そんなサブ人格ちゃんとの出会いを思い出し、結局逃げられないんだと悟る。
「もういいだろう!」
通信回線が開いた。オープンチャンネルではなく、アタシ個人の。きっと、シンがステラを逃がすときに解析した周波数とかを教えてもらったのだろう。それか、アタシの過去から知ったのか。
……ドラグーンを動かす。同時にサブ人格ちゃんがビームガトリングを撃つ。
「じゃあ! もう長くないからって、逃げるだけのレイは!」
ドラグーンの攻撃を受けていたのもあって、持っていた砲身が使えなくなる。即座にパージして、バインダーのビーム砲へ切り替えた。
「目を逸らして……家族ごっこに命を懸けて……そんなの死んでるのと同じ!」
彼の辿る最期を知っている。結局は自分自身から目を逸らしきれずに、議長を撃った。それで、議長と《ミネルバ》の艦長と三人で束の間の家族ごっこに興じて心中。……そんなの、死んでるのと同じだ。
「ステラは生きてた!」
あれだけ死にたくないと思っていた彼女も、結局は死んだ。
逃げたところで、行く当てもなければ生きる手段もない。ドラグーンの動きを止め、ビームサーベルの発振すら解除した《レジェンド》が、アタシの《ザク》に近づいた。
「当たり前だ! 生きたいと思うのは、お前もそうだろう!」
腕を掴まれる。隠し腕を出そうと思ったけど、何故か手が動かない。……ステージ5を使って、脳に大量の負荷をかけたんだ。死にかけてるのかも。
「あの本がお前だろう! 記憶がなくても何度も開いて……! 本物を見る夢を諦められなくて!」
けど、その前にレイは墜とす。アタシが死ぬなら、そうしてから終わりたい。それなのに、殺し合いの最中に勝手なことを言う彼を黙らせないと。
「キミに何が──」
「俺と来い!」
迷いなくそう返すレイ。
操縦を担うサブ人格ちゃんも、驚いて動きを止めていた。いつもは知ったようなことを言って茶化すのに、まるで初めて聞いたように。
■本体ちゃん 別に青き正常なる世界なんてどうでもいいし、兵士には向いてなかった。
■サブ人格ちゃん ちょっとした未練は、水星の魔女の二期を見られなかったこと。巨大要塞でクワイエットゼロを連想しなかったのも、そもそも知らなかったから。
■レイ・ザ・バレル SEED DESTINY最終話を前にして、明日が欲しいメンタルになった。
■クシャトリヤ VPS装甲が赤くなった。