レイを墜としたい   作:三白めめ

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最終話。


望みの果て

「俺と来い!」

 

 そうレイが叫ぶと、《ザク》の動きも止まる。ドラグーンはその場で動きが停止し、その空間だけが完全に静止したようだった。

 

「生き方が分からないなら、一緒に探してやる。怖いなら隣にいてやる」

 

 それは、シンがステラと目指したことだ。彼の友であるレイは、それを見ていた。だからこそ、この場でそれが言えたのだから。

 

「逃げられないなら、俺をあの絵の場所に連れていけ!」

 

 あの瞬間に、レイはアル・ダ・フラガに匹敵するスペックを発揮していた。お互いにドラグーンや機体の動きを読み続けていたからこそ成しえた、空間認識能力の急成長。それによって、メリーの読んでいた画集のことも知った。一番開く癖のついていた、貴婦人と一角獣のタペストリー。他にも、色々な絵を、これから見ていけばいい。残り少ない命でもやりたいことがあると、レイもつい先ほどに自覚したのだから。

 

「その先のことなんて、後でいい! ──生きていいんだって、証明させろよ!」

 

 いつもの落ち着いた様子とは違う、上ずって必死な声色。神経接続による操縦もあって、ほんの少し動いた《ザク》の腕を、《レジェンド》が掴んだ。

 

 彼を墜として自分も死ぬのだと、それが運命なんだと思った終わりの景色で、メリー・フェネクスは笑みを浮かべた。足はもう動かないし、手もほとんど力が入らないけれど。高鳴った心臓の鼓動が示している。まだ、生きていたいのだと。

 そう、ここが望みの果て。だからこそ──

 

「……っ!」

 

 比較的僅かに冷静だったサブ人格ちゃん(男性人格の転生者)は、基地の防衛をしていたランチャーストライカーのダガーが、アグニをこちらに向けていたことに気付いた。

 

「青き、正常なる……世界のためにぃ……っ!」

 

 そのまま抑えていろと、無言の圧力を感じる。最期まで道具としてアタシたちを使い潰す気なんだと、メリーは察した。

 

「一緒に……っ、来いだの……連れてけだの……。バカでしょ、ぜったい……っ」

 

 だから、最後に譲れないもののために。操縦桿を持つ手に思い切り力を入れて、やっと少し動いたMSの腕で、《レジェンド》を突き飛ばす。

 

「あとで教えて……学校のこととか、好きなこととか……」

 

 直後、アグニの赤い閃光がさっき突き飛ばした《レジェンドの》──今は《ザク》のコックピット部分に迫って──

 

 《デスティニー》のビームシールドが、それを防いだ。基地に残る最後の一機、その一矢を届かせないままで距離を詰めたシンは、掌のビーム砲で爆散させる。

 彼の声はメリーに聞こえないけど、ステラの時と違って今は一人で戦っているわけじゃない。だからレイが説得をして、何かあった時には自分が守り抜くようにと分担したんだろう。もしかしたら、説得もしていないかもしれない。ただ、あの時に似ていたから体が動いただけなのかも。

 結果だけが全てであるがゆえに、事実のみを語るとすれば──友達がいたから成し遂げられたことだった。

 

「逃げれば一つ、進めば二つか」

 

 メリーが自分を鼓舞するように言っていたそれ。何度かレイも聞いたその言葉を、彼自身も呟いた。

 

「……どうやら俺は、存外欲張りらしい」

 

 メリーにも聞こえたその言葉は、軽やかな声音をしていた。

 ギルの理想を叶えて、自分が死んだ後の世界が平和であってほしい。メリーと最期まで一緒にいたい。あの絵を探して見てみたい。シンと話して、またピアノを弾いて……ちょっとしたリストにできるくらいには、やりたいことが溢れてくる。

 停止した《ザク》の手を引いて《ミネルバ》へ《レジェンド》が着艦した。

 

「──ここから始めよう。俺たちの、誕生日を」

 


 

 その後について、アタシが話すことはそんなにない。医務室に残っていたステラの診断データと、ダイダロス基地に残されていたエクステンデッドの調整データ。そうしたもので、あとちょっとだけ延命することができた。ステージを上げるようなことはもうできないけど、約束を果たす時間くらいはある。

 

『……帰って来たな。レイ』

「そうだねー」

 

 〈ネオ・ジェネシス〉の防衛に出たレイは、ちゃんと帰ってきた。てっきり、あの時見た未来のように、ザフトの議長と心中するかと思ったんだけど。行ってらっしゃいと送り出されたみたいだ。

 

『《レジェンド》は〈ネオ・ジェネシス〉と一緒に破壊、ぼろぼろの《デスティニー》に二人乗りで帰ってきたわけだ』

 

 彼のことはシンが迎えに行ったみたい。流石は友達。そんなわけで、アタシとレイは地球に降りて、美術館巡りをしているわけだ。あれだけ薬を投与した後遺症は、ロドニアのラボに残っていたブーステッドマンのデータが役に立ったらしい。アタシは詳しくないけど、普通に歩けるくらいにまでは回復した。戦うために仕方ない呪いだと思っていたけど、それをなんとかしようとした人もいたんだ。戦争も終わったのだからと尽力してくれた、《ミネルバ》の船医の人みたいな。

 残された時間はちょうど一年。〈レクイエム〉の戦いが終わったあの日をもう一度迎えるまでが、レイとアタシのタイムリミットだった。

 

 結局のところ、アタシたちとレイは、同じ日が誕生日になったんだ。だから──ハッピーバースデー、アタシたち。ゆりかごにして存在意義だった機体から、生まれ墜とされた命として。

 

「『目一杯の祝福を君に』」

 

 そんな言葉を、二人分の缶ジュースを買ってきた彼に投げかけた。




■メリー・フェネクス 本体ちゃん。レイに墜とされた。恋愛的な意味で。
■サブ人格ちゃん 冷静だったので、最後の一撃を察知出来た方。あの状況でレイを生かす選択を取れるくらいには絆されていた。友情エンド。TSした意味は、あの状況で中身が女の子だったら本体ちゃんと同じようにキュンときて、ダガーの攻撃を気づけなかったから。
■レイ・ザ・バレル やりたいことリストができたので、アニメ最終話で議長を撃った後は帰ることを選んだ。原作通り死亡で、その後にメリーがプラントを見てレイに関連のある場所を巡るエンドにするかなーって思っていたら、書いているうちにスレッタみたいなメンタルになっていて生存。定められたフィクションから飛び出した。
■シン・アスカ レイもいたから、今度こそ守れた。分かり合えたのに死ぬとか、マジ笑えないっすから! 彼がステラを助けたから、そのデータで本体ちゃんの後遺症がかなりマシになった。本作品におけるハッピーエンドの要因を担っている。



これにて完結です。ここまでの全9話、お付き合いいただきありがとうございました!
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