暗闇の中でしか生きられないダーク系魔法少女だけど、エッチな事にすぐ負けそうなエロゲ系魔法少女拾った(更新停止中) 作:名護十字郎
『魔法は!願いの力は負けたりしない!みんな、力を貸して!』
その掛け声と共に、少女の杖に光が集まっていく。
その光は近くの仲間から、街の人々から……否、世界中から集まり、太陽にも負けないほどの輝きを彼女の頭身にも並ぶ大きさの杖は一身に受けていた。
戦いの余波で破壊され尽くした廃墟の街に煌めくそれは、まさに侵略者たちの暴虐に決して屈しなかった魔法少女たちの決意と勝利の象徴のようだった。
『お、おのれ魔法少女オオオォォォォ!!』
対し、黒の怪人が吼える。
自らの敗北を悟った者の、絶望の断末魔。
怪人の軍勢を率いた訪問者、怪魔王の野望はたった今潰えようとしていた。
『これが、みんなの希望!
スカー・レイジ……アルテマバスター!』
少女の叫びと同時に、杖に溜め込まれていた光が放たれる。
中空から放たれた光は怪人の王を貫くと同時に到達した地面に半球型の結界を生み出しながら膨張を続け、やがて王をも包み込みながら巨大化していく。
そして限界まで膨れ上がり……内部に溜め込まれ続けた光の力が爆発した。
『グアアアアァァァァーーーッ!!!』
侵略者の断末魔すらも魔力の嵐の轟音に掻き消されていく。
存在一つ、声ひとつすら拒絶し否定し駆逐する光景はまさに魔法少女たちの願いが具現化した瞬間だった。
ここに、魔法少女と異世界の怪人たちとの戦いは決着したのだ。
そして、怪人の統率者を討ち倒した魔法少女は戦いの余波でボロボロになったコスチュームをはためかせながら、倒れ伏した仲間たちのところに降りる。
そして、
『……みんな、終わったよ』
満面の笑みを浮かべるのだった。
「……はぁ、くだらない」
すれ違う者が誰もいない道路を走る車の中、そう言って彼女はスマホとイヤホンを誰もいない隣の席に投げつけた。
今彼女が見ていたのは「セミドキュメンタリーアニメ」。
数年前この街……半斗浦市に現れた「怪人」とこの街の魔法少女達の戦いを元に作られたアニメ作品で、登場人物は皆実際に戦った魔法少女たちだ。
制作はこの半斗浦市に拠点を置く「魔法管理局」。
魔法災害や魔法犯罪が絶えないこの街において「正義の魔法少女」のアピールにはもってこいの題材なのだろう。
あえて悪い言い方をするなら「プロパガンダ」だ。
敵対する「怪人」なる連中についてはかなり脚色されているらしいが、そこまでの事情はわからない。
ただそれ以上に彼女の興味を削いだのは魔法少女の在り方だ。
ただ強く、可愛くて、みんなから愛され頼られる正義の味方。
……そんなのごく一握りしかいない。
むしろ、存在そのものを忌み嫌われる魔法少女までいると言うのに。
(まさに私たちみたいなのとか、ね)
そう内心で自嘲すると、投げ捨てたスマホから目を離して窓に目を向けた。
……街一つ丸ごと燃えている。
ビルに阻まれて中心部で何が起きているのかは目視できないが、それでも尚炎と煙が立ち上り夜の街を不自然に照らし出している。
……光が街を照らしているのは同じなのにさっきのアニメとは似ても似つかない。
そう憂いていると、急にドアが開いて微かな熱気が飛び込んできた。
「アズサ、着いたわよ。安全に運べるのはここまでだからあとは自分で行って」
「久恵里(くえり)さん、まだかなり遠いじゃない」
「今回の『レムナント』はそれだけ危険ってことよ」
運転席の女性、鳴雨 久恵里(めいう くえり)にそう言われた少女……隅華(すみか)アズサは半ば車を追い出され、仕方なしに道路に立つ。
車から出た途端に全身が熱風に晒された。
目標まで1kmはあるのに、この熱気なら中心的がどんな惨状になっているかなど一々想像するまでもない。
事態が切迫している事を改めて実感したアズサは胸元のポケットから6つの黒いキューブを取り出す。
彼女の起点であり、名前の象徴にもなっているそれを、片手で握りしめる。
するとそれらは本来あった形を思い出したかのように結合し、開いた手の中に現れた。
六面ダイスを平面に展開した姿、と言えば分かりやすいかもしれないが……もっと適切な表現がある。
「十字架」。
それをアズサは再び握り締めて……潰した。
「……リザレクション」
その言葉と同時に、砕いたキューブの残骸から膨大な魔力が溢れ出してアズサを包み込みその姿を変えていく。
全身に黒を纏うコスチューム。
元よりの黒髪の中に一対の赤いメッシュ。
左腕には無骨な獣爪。
そして右腕には……さながら獣の顎のような異形が取り付く。
「……『スターボイド』」
名乗りを上げると同時に力が覚醒し、その小柄な身体に超常の力が宿る。
……そう、アズサもまたこの街の魔法少女の一人だ。
だが、先のアニメのような可愛らしさも人々からの信頼も誇りもアズサには無縁のものだ。
変身が終わると同時に街を駆け屋根を飛び越え災厄の中心部に向かう彼女に、声援も応援も浴びせられる事はないのだから。
アズサが辿り着いた先、そこには4つのものが満ちていた。
まずは蒸せ返るほどの熱気、次に建造物や木々、都市が無差別に燃える臭い、そして視界を染めるほどの大火の輝き。
『ヴァァアアアアアア!!』
そして最後に、災厄の元凶。
理性なき獰猛な叫びがたった一つ、燃え盛る無人の街に響く。
先遣隊の魔法少女達によって、住民の避難は完了していると聞いている。
声無きはずの街になお響く声の主は……炎だ。
炎が叫んでいるのだ。
その炎は単に燃え盛っているだけではない。
その形状は巨人の上半身を模している。
腰から上しか存在せず、両腕で地面を這いながら炎を振りまくその光景は、これが単なる火事ではなく魔法災害であることを如実に表している。
巨人は腕を振るえば熱波が一帯を薙ぎ払い、拳を振り下ろせば建物が融解しながら粉砕されていく。
巨人はアズサを眼の無い顔で睨め付け、しかし正確に位置を把握して掌を伸ばし握り潰そうとする。
「ハァッ!」
人一人など易々と圧殺できる掌をスライディングで回避して腕の真下に潜り込み、その勢いで爪を喰らわせた。
爪が腕に食い込むと同時に炎が舞い、アズサを焼き尽くすために噴き上がる。
それに直撃こそしなかったものの巨人の熱気は凄まじいもので、アズサもその熱から完璧に逃げられてはいなかった。
魔法少女の防護能力で重篤な火傷に至ってこそいないものの、全身に鋭い痛みが走る。
腕が通り過ぎた後でアズサが再び起き上がったが……。
(コイツ……やっぱり質量がない)
爪で巨人の腕を切り付ける試みにまるで手応えはなく、ただ自らを焼くだけに終わった。
振り抜かれた腕を見ても、何のダメージにもなっていないのが見て取れた。
魔法災害に普通の物理法則など期待してはいないつもりだったが、明確に効果が無い事を示されるとやはり表情に不快さとして出てしまう。
『ウグルァァアアアアア!!』
怨嗟の声を上げ、巨人の炎は激しさを増していく。
炎をいくら叩いても巨人には何のダメージも与えられないというのに、巨人の方は時間が経つほどに強力になっていくのだ。
(こういうのは大体身体の何処かに核がある……核、ね)
近接戦闘は分が悪いと判断したアズサは大きくバックジャンプ、爪を備えた左腕を下ろし、獣の顎と融合した右腕を巨人に向ける。
顎は砲口となっており、2発、3発と砲口から光が放たれて巨人に到達する度にその身体を大きく弾き飛ばす。
……だが先程と変わらない。
ただ身体から噴き出た炎の反撃を受けないだけで、どれだけ撃っても巨人はすぐに再生するだけだ。
しかしアズサは表情を崩さずに回避と射撃を繰り返す。
押し寄せる熱波は建物を盾にしてやり過ごし、頭を撃つ。
全てを焼き払う腕を跳躍してかわし、肩を撃つ。
巨人が燃え盛る建物を握り潰し火炎の散弾として投擲、それを砲撃で撃墜しながらも腰を撃つ。
何度も何度も砲撃を続ける光景はさながら水面に映る姿を斬りつけるような不毛な行いに見える。
だがこの戦い方は考えなしに乱射しているわけではない、アズサには勝機があった。
「……そこだ!」
アズサは砲口を降ろすと一瞬四肢を獣のように地に着け、左腕の爪を地面に亀裂が出来るほど叩きつけてその勢いで大きく飛び跳ねて巨人を強襲する。
炎の巨人を攻撃してもすぐに再生する、しかし再生していく方向や速度は部位によって異なり、また同じ部位では一定だった。
つまり巨人の体内の何処かにある核から放射状に身体が構成、再生している……そのため全身をくまなく撃って再生の仕方を確認、そこから核を割り出したのだ。
「暴走魔法少女『レムナント』……その核」
アズサが炎の身体の中を突き抜けて、その爪に捕らえていたのは一人の少女だった。
つい今まで巨人の身体を形作っていた少女が纏う、赤を基調とした服装は一見するとアズサのものよりよほど可愛らしく魔法少女らしい。
……そう、彼女もまたアズサと同じく魔法少女だ。
背後を見れば、先程まで再現なく破壊を振り撒いていた巨人は見る見る力を失いつつある。
体内に取り込んでいた核……目の前の魔法少女を引き剥がされ、力の源を失ったがためだろう。
そして、炎に身を沈めたのはアズサもまた同じ。
全身を魔力で防護していたとは言え、燃え盛る巨人の体内をそのまま突き抜けて無傷なはずもなく、アズサの全身は苛烈な炎の跡が刻まれている。
それを見た炎の少女は嗤った。
「お姉ちゃん、あの炎の中を通って熱かったでしょ?」
「……ええ」
「私はもっと熱かったよ」
その少女の瞳は氷のように冷たい。
先程まで炎を振り撒いていた存在とはとても思えないほどに。
「熱くて怖くて、けど瓦礫が脚にのし掛かってて動けなかったんだ。
……ほら、こんなだったし」
最後まで言葉は続かずに、その代わり少女はコスチュームのロングスカートを指で摘んでたくし上げ、自分の脚を指差した。
原型を留めないほどにひしゃげている。
思えば、先ほどの巨人に脚が無かったのも……。
「ねぇお姉ちゃん、なんであの時は来てくれなくて今になって来たの?
あの時の火なんて、私の巨人と比べたらずっと弱っちかったのに」
「そ、それは……邪魔が入って……」
「でも、もう良いんだ。
……ねえお姉ちゃん、私と一緒になろう?」
そうして、彼女の全身から再び炎が吹き上がり、アズサを抱擁する。
先程よりは小さいながらも炎は人型を取り、その両腕は既にアズサを抱き締め、瞬く間に勢いを増していく。
全身を焼かれながらもアズサは左腕を少女の頬に伸ばし、優しく撫でた。
「……ごめんなさい」
そして、巨大な爪で相手の顔面を抑えつけて地面に叩きつける。
突然の暴虐に驚愕する表情は爪に遮られ、口元の変化しか分からない。
周囲を揺るがす轟音が走り、地には亀裂が広がった。
蜘蛛の巣状にヒビ割れた大地に赤黒い紋様が広がる。
そして、
「……グリードハート・バーン!」
左腕で相手を押さえつけたまま、右腕の顎を少女に向ける。
顔面を抑えつけたのは最期の光景を見る事がないようにというアズサの一抹の慈悲故。
右腕の獣の顎が限界まで開かれて、その内側から鮮烈な光が迸る。
そして極限まで溜め込まれた光……魔力は奔流と化して、全てを消し飛ばす。
左の剛爪で相手を捕らえ、ゼロ距離で右腕の顎から放たれる魔力を浴びせる「グリードハート・バーン」、スターボイドの必殺技だ。
そう、必殺技。
「必」ず「殺」す「技」。
異形の顎から吐き出された閃光が収まった時、そこに残されたのは破壊の爪痕のみだった。
焼き払われた街、叩き割られたアスファルト、その中心部にある高熱源で融解した痕跡。
破壊の限りを尽くしていた炎の巨人も、その核となった少女の姿もない。
アズサが最後に見る光景はいつも同じだ。
レムナントによって、そして自分の手で更に崩壊した街があるだけ、他には何もない。
……殺した相手の遺体さえも。
だからアズサは、レムナントを倒した後はいつも自分で壊した街を左手だけで漁って探すのだ。
レムナントと化した魔法少女の、せめて遺体の一部でも見つけられるように。
グリードハート・バーンの反動で右手を消し飛ばすが故に、いつも片手で。
しかし今回は元々が小柄な子、残っていたのは……。
「アズサ、終わったのね」
「久恵里さん、これ……脚しか無いけど、あの子の」
「……分かったわ、これだけでもご両親に会わせてあげましょう」
『◯◯月××日、半斗浦市東部にて火災が発生し、付近に住む家族のうち夫婦二人が遺体で発見。当時行方不明になっていた長女も瓦礫の下から遺体で発見され……』
今回アズサが解決した事件の報告書をまとめ上げている最中に垂れ流していたテレビから流れるニュースが終わり、次のニュースに移り変わるのを見て久恵里はやるせなさで深いため息をついた。
彼女の苦痛に満ちた末路は、たった数十秒の報道が流れるのみだった。
このニュースを見ている人々も、あと半日もしない内に彼女の事なんて忘れ果てるのだろう。
何より、久恵里が勤める魔法管理局にある魔法少女データベースの中に被害者の少女の名前はない。
魔法との関わりなど本来あるはずがないのだ。
……暴走魔法少女「レムナント」。
魔力を暴走させた末に人の姿を失った末路の総称だ。
魔法少女の善性をアピールしたい魔法管理局にとって、その存在は単なる魔法犯罪者よりよほど認められないものとなる。
そのため一般の報道においてその名前が語られることも無く、今回もまた単なる大規模火災として扱われて終わりなのだろう。
ましてやレムナントと化した魔法少女が「どうやって誕生したか」など、もっての外だ。
『◯◯月××日 レムナント事件発生およびその解決に係る報告書』
全身が疲労を訴える中でようやくそれを書き上げて保存し、フォルダにアップロードする。
普段ならこのままコンピュータを閉じて惰眠を貪るところだが、今日はどうにも眠る気にはなれない。
脳裏から離れないのはアズサと、アズサが「解決」した火の少女を生み出す魔法少女のことだ。
レムナントについてを知り、その上で関わろうとする者は魔法少女を含めても極めて少ない。
ある者は強大な脅威として。
ある者は一線を超えた禁忌の存在として。
またある者は意図的に撒かれた災厄の種として。
理由に差こそあれ、レムナント討伐任務を全うできるのは半斗浦市広しと言えどもアズサくらいのものだ。
何より、「普通の魔法少女」はどれだけ暴走してもレムナントになどならないのだから。
現状で唯一レムナント化が確認されているのは。
「アズサと同じタイプの魔法少女だけ……か」
この街にはあらゆる魔法少女が集まる。
皆の声援と称賛を一身に浴びる魔法少女。
暗がりの中を歩み、あるいはそこでしか生きていけない魔法少女。
そして……中にはこんな奴も。
「は、はひぃ……ヌルヌル、ヌルヌルいやぁ……」