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5月も半分に差しかかった頃、私はもう一度図書館を訪れていた。椎名ちゃんに貰った8巻分を熟読し終わった、というのもあり返却しに来たのと、ついでだから椎名ちゃんに会いに来たのだ。……いるかは分からないけど。それにしても、1巻1巻が重いから持ってくるだけでも一苦労だ。
「……あれ?おーい……って萌ちゃん?!」
「ん?……あ、ほにゃ。どうしたの?」
「いや、それはこっちのセリフだよ!?なんでそんなにたくさんの本抱えてるの!?も、持とうか?」
「ああいや、大丈夫。今から返すところなんだ」
「そうなんだ……萌ちゃんって意外に本とか読むタイプ?」
「む、意外にとはなんだね……よし、これで返却完了っと」
「あはは、ごめんごめん〜……あ、それより萌ちゃん……」
「上等だ!かかってこいよ!」
そう、図書館には似合わない大きな罵声でほにゃの声がかき消される。……どうやら、この平和な空間でも面倒事は起きてしまうようだ。ほにゃは気になるようで、音のした方をちらちらと確認している。
「……行ってみる?」
「……!うん!」
少し急ぎ足で騒ぎの方へと向かう。そこでは男子生徒と男子生徒と女子生徒が言い合いになっていた。
「1ポイントも残ってない不良品の分際で、生意気言うじゃねえか。顔が可愛いからって何でも許されると思うなよ?」
「脈絡もない話をありがとう。私は今まで自分の容姿を気に掛けたことはなかったけれど、あなたに褒められたことで不愉快に感じたわ」
「っ!」
その容赦のない物言いに、煽っていた男子生徒が、机を叩いて立ち上がる。……それよりも。私は見覚えのある顔を、3つも見て驚きを隠せなかった。
「萌ちゃん、もうやばそうだよね?行かなきゃ……」
「堀北と、櫛田、と……清隆____?」
「……萌ちゃん?萌ちゃん!」
「__あぁ、ごめん。そうだね、少し急ごうか」
何故あいつらが、この学校にいるのかは関係ない。……どうせ今は、
「俺たちは赤点を取らないために勉強してるんじゃねえ。より良い点数を取るために勉強してんだよ。大体、お前ら、フランシス・ベーコンだとか言って喜んでるが、正気か?テスト範囲外のところを勉強して何になる?」
「え?」
「もしかしてテスト範囲もろくに分かってないのか?これだから不良品はよぉ」
「いい加減にしろよ、コラ」
先程から怒りを抑えきれていなかった赤髪くんが、煽っている男子生徒の胸ぐらを掴む。……テスト範囲外?確かに、フランシス・ベーコンは真嶋先生から伝えられたテストの範囲には入ってなかった。それを、AクラスとCクラス……あるいはBクラスも知っていて、Dクラスだけ知らないなんて言う特例があるのだろうか。担任の失念か、それとも……。なるほど、私の推測に基づく行動は無駄にならないようだ。
「お、おいおい、暴力ふるう気か?マイナス食らうぞ?いいのか?」
「減るポイントなんて持ってねーんだよ!」
「はい、ストップストップ!」
……どうやら私が考えている間にほにゃが制止してくれたらしい。ほにゃの隣に立つように、私も無言で位置に着く。
「んだ、テメェらは。部外者が口出すなよ」
「部外者?この図書館を利用させてもらってる生徒の一人として、騒ぎを見過ごすわけにはいかないの。もし、どうしても暴力沙汰を起こしたいなら、外でやってもらえる?」
「んだとてめぇ!」
正論にムカついた赤髪くんは正常な判断が出来ないのか、ほにゃに殴りかかろうとする。暴力で解決するとは、本当に…………既視感のある光景に、私は反吐が出る思いになる。
「……調子に乗らないでください、ここは
そう、赤髪の拳を掴んだ手に力を込めながら、赤髪にだけ聞こえるように言う。あくまでも、笑顔は絶やさず。観念したのか、赤髪は手を離した。
「それから君たちも、挑発がすぎるんじゃないかな?これ以上続けるなら、学校側にこのことを報告しなきゃいけないけど、それでもいいのかな?」
「……確かに、ほにゃの言う通り。Cクラスはクラスポイントの減点と、個人よ停学処分を食らうことになるね〜」
「わ、悪い。そんなつもりはないんだよ、一之瀬、赤井」
……何故か名前を知られてるけど、私はこの人のことを知らない。というか顔も初めて見たし。
「おい行こうぜ。こんなところで勉強してたらバカが移るし」
「だ、だな」
……ああいう連中って、去るときまでダサいんだなー……。
「君たちもここで勉強を続けるなら、大人しくやろうね。以上っ」
「いじょーっ」
そう言い、私達は騒ぎのあったところから去っていった。……果たして私は、上手く
「いやー、助かったよ萌ちゃん」
「私は何もしてないよ」
「いやいや、助けてくれたでしょ?」
「……なんの事だか」
「もー!……あ、そういえば何かいつもと口調が違ってたような気もするけど……」
「……あー、気のせいじゃない?それよりほらっ、ほにゃも勉強しに来たんじゃないの〜」
「わっ、押さないでぇ。あ、そうそう!萌ちゃん、折角だから分からないところ教えて貰えないかな?」
「私が?それまた何で……」
「萌ちゃんなら分かるかなーって」
「私、勉強あんまり出来ないぞ〜?」
「まあまあ、見るだけでも〜」
今度は私が押され、ほにゃが使っていた席へと案内される。……咄嗟の演技力は、まだまだだな。
___中間テスト、当日。
「……ふわあぁ、眠…」
朝5時。いつものように起床する。テスト2週間前から毎朝のランニングのような自己メニューは室内で簡素にすませられるものに変え、メニューをすませたら勉強をする……という日課に変えていた。いつものように、テスト範囲の勉強をする。集中というのは怖い。1度集中してしまったら、時間や状況を忘れてしまうこともある。もちろん登校前に時間を忘れてしまうのは悪影響しか及ぼさないので、7時にアラームがなるよう、あえて時計をセットしている。
勉強し始め、もうそろそろ頃合いか……と思った瞬間、アラームがなる。体内時計は正確のようだ。
「……ん?メッセージ……?」
学生証端末の電源を付けると、そこには有栖ちゃんから1件のメッセージが数分前に来ていた。内容は今日の勝負が楽しみだということ、そして。
「今日は迎えに行きます……?どういうこと?」
私がメッセージの意味を理解しかねていると、程なくしてインターホンが鳴らされる。朝から誰だろうか。
「はーい」
「おはようございます、萌さん。お迎えに来ましたよ」
「……ああ、なるほど」
迎えに来るとは、登校前に私の部屋まで迎えに来るから道中のエスコートをしろということらしい。
「ちょっと待っててー、今準備するから〜」
「ええ、早めにお願いしますね」
制服を着て髪を結び、水で軽く顔を洗う。……よし、完了。扉を開けると、有栖ちゃんがいつもと変わらない姿で待っていた。
「早かったですね?」
「お待たせしちゃいけないからね〜」
「では、行きましょうか」
有栖ちゃんが我先にと歩いていくのを、急いで追う。どうやら今日はエスコートしろということではないらしい。
「今日はいよいよ、中間試験ですね」
「そうだね〜、勉強会はどうだったの?」
「基礎的な学力の向上はできたと思います。ですがあくまで教えたのは基礎。そこからどう点数をあげるかは彼ら次第ですね」
「ま、大体のことはそう言えるよね〜」
「萌さんの方こそ、結局勉強会には参加されていませんでしたけど、自室で勉強していたのですか?」
「んー……まあ、そんな感じかな」
「ふふ、より結果が楽しみですね」
「上限は決められてるんだから、簡単な戦いだと思うけどね〜」
「そうですね、そこだけが残念です」
勝負、といっても測れるのは100点まで。つまり学習がちゃんと定着しているかのみであり、本当の学力や頭脳は測りきれない。まあ、私にとっては好都合でもあるけど。
「私はこの3週間、確かに勉強会を開いてきましたが貴方と勝負するために抜かりなく勉強してきました。余計な感情は一切なく、どうぞ今出せる全力を出してください」
「元からそのつもりです〜……はあ、そんな大層な人物でもないんだけどね」
「それは過小評価というものですよ。私が感じ取ったものは本物なはずです」
「え?何を感じ取られたの?というかいつ?!」
「ふふ、いつでしょう」
「こわぁ……」
「貴方はここで逃がすには惜しい人ということです。最大の褒め言葉ですよ?」
「私は駒として動くつもりは無いよ」
「別に駒でなくとも構いません。他のところに行かせない確証だけでも取れればいいのですから」
「……なんか首輪で繋がれてる犬みたい」
「飼ってあげましょうか?」
「野良犬育ちなので大丈夫……」
そんな会話をしているうちに、学校に着く。思ったより登校している生徒は早く、テスト前最後の学習に余念が無いようだった。
「うわー……」
「何で引いてるんですか」
「いや、絵に書いたようなガリ勉集団だなーと」
「学があるところがうちのクラスの良いところですよ。その分、面倒でもありますが」
「褒めてるの?貶してるの?」
「萌さんよりは貶してませんね」
「ガリ勉は褒め言葉だよっ、多分」
「ならせめて言葉に確実性を持たせてください」
「うっ……さあ、勉強勉強〜」
「……逃げましたね」
逃げるように、私は集中の域に入る。隣の有栖ちゃんも諦めたようで、それ以上の会話はなかった。
「朝のHRを始める。欠席は……いないようだな」
そんな真嶋先生の言葉で我に返る。……どうやらだいぶ時間が経っていたようだ。まだまだ体内時計は正確じゃないのかもしれない。
「それでは定刻より、本年度の第一学期中間テストを始める。しっかり着席しているように。健闘を祈る」
私の推察では、この試験で退学になる人はまずいない。そして派閥平均点では……きっと葛城派閥が上回るだろう。圧倒的な強みだとしても、有栖ちゃんと葛城くんでは基本的な考え方がまるで異なる。そして今回の試験では、葛城くんの方に強みがあるということ。……それに、私も肩入れしてあげたんだし。
そう考えると、複雑な要素が絡まって結果として顕著に現れるこの学校のシステムは、少し面白いかもしれない。
「……それでは、始め!」
Aクラスに派閥争いが生まれたこと。他クラスとの競争を前提とすること。生徒会長に目をつけられたこと。堀北や櫛田がいたこと。私が私として、ここに存在すること。……そしてなにより、清隆がいること。
___ああ、なんて
__翌日、放課後。
「……まさか、本当にこうなるとは。予想はしていましたが……」
「全科目どっちも満点、これじゃあ結果としては引き分け?」
「……そう、ですね……」
どうやら有栖ちゃんとしては納得がいかないらしい。勝負として成立した上での正当な結果なんだから受け入れればいいのに、意外と子供っぽいところあるなあ。
「……では萌さん、1つ提案してもよろしいですか?」
「なにー?」
「お互い、1つお願いを聞くというのはどうでしょう。もちろん私は派閥関連のことを言いません」
「まあ、そんなのでいいなら……」
「では萌さんから、どうぞ」
「……んー、じゃあ私は、この先退学の危機から守って欲しいな?」
「……それはまた、何故でしょう?」
「まあ、色々とね」
「……今は確証できませんね。それこそ、私の味方になっていただかないと」
「なら私からお願いすることはないかなー……あ、こき使うのやめてほしいとか?エスコート係引退とか?」
「それも承諾できませんね」
「えー、何ならいいのさ……」
「……では、萌さんのお願いは保留にしましょうか。退学の危機から……というのは、私の派閥に入っていただけたらということで」
「手厳しいな〜」
「……では、私からお願いしても良いですか?」
「うんうん、なんでもいいよ〜」
どんと構える姿勢を見せるが、有栖ちゃんからの次の言葉が出てこない。何してるんだろう、そう思っていると、言いにくそうに口を開いた。
「…………私と、今週末お出かけしてください」
「……?そんなことでいいの?」
「……ええ」
「分かった、今週末ね。……あ、ごめん電話きた。じゃあまたね、有栖ちゃん」
そう言って私は有栖ちゃんに背を向け、校内から急いで出ていく。
「___貴方は、また行ってしまうのですね」
名前も確認せず出た通話の相手は、一之瀬帆波……ほにゃであった。
『もしもし?萌ちゃん、今大丈夫だった?』
「うん、だいじょぶだいじょぶー。どしたの?」
『萌ちゃんのおかげで助かったからさ!お礼を言おうと思って』
「あー、気にしなくていいよそんなこと」
『それでねっ、今から打ち上げ?みたいなのにみんなで行くんだけど萌ちゃんも一緒にどうかなーって』
「嬉しいお誘いだけど、遠慮しとく。Bクラスのみんなで楽しんできてよ」
『そっかー……じゃあ、またお礼させてね!』
「だから気にしなくていいって……通話切れたし。嵐みたいだな、あの子」
「赤井」
後ろから声をかけられる。どうやら教室から追ってきたらしい、葛城くんだった。
「あ、葛城くん。どうしたの?」
「いや、特に用という用はないが、礼を言っておこうと思ってな。赤井が過去問を持ってきてくれたおかげで、うちはとても助かった」
「ううん、気にしないで。クラスのために尽力するのは当然でしょ?ね?」
「……そうだな」
私が中間テストまでにやったことは簡単。連絡先を交換した茜ちゃん先輩に相談があるから会いたいという旨のメールを送り、会う。そこで過去問をポイントで買い、それを複製。ほにゃと、椎名ちゃんと、葛城くんに渡した。戸塚くんは何だか嫌がってたみたいだけど、点数が低い戸塚くんに手段を選ぶ暇などない。
「約束しよう、俺たちは今後、赤井に無理な勧誘はしないとな」
「それだけでも過去問を渡したかいがあったよ」
「しかし本当にポイントを支払わなくていいのか?これはポイントで買ったものだろう」
「うん。さっきも言ったでしょ?クラスのために尽力するのは当然だ、って」
「……赤井が良いなら、この件はこれで終わりにしよう」
「うん、じゃあね葛城くん〜」
これでいい。どことも対立せず、私は私で動く。
私のこの学校での目的は、自由な青春を謳歌することなのだから。
ここの須藤くんは手を出してしまっていますが、原作ではちゃんと一之瀬さんの言い分を聞いて手を離しています。
散々引っ張った割にあっけなく中間テストが終わってしまった……。
夏休み、誰とデートする?(一話投稿予定)
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坂柳有栖
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一之瀬帆波
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椎名ひより
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綾小路清隆