邂逅
「ふあ……ん〜……」
そう欠伸とともに、伸びをする。今日が入学式、しかもバスで通学だからと言って早く起きすぎたし早く来すぎた……。バスの時間は定刻通りに着くことが少ない、って話だったから遅れないように早めに来たけど、もう少し遅く出てても良かったかな……。暖かい日差しに当たりながら、そんなことを思う。
東京都高度育成高等学校。通称、高育。
就職率、進学率ともに100%を謳い、国指導の徹底した指導のもと、希望した未来に全力で答える___そんな高校。何とも胡散臭いを絵に書いたような学校だが、これから入学するところだし、不安や愚痴よりも楽しみや期待を胸に秘めておいた方がいいだろう。そんなことを考えていると、バスの走行音が微かに聞こえてきた。
「……乗る、か」
赤井萌。それが、今から高育に通う、私の名前。
それにしても、同じ制服の人って案外この時間でもいるんだな……私と同じ計らいから、なのかな。私は座る場所がないかと、周りを見渡してみる。そうすると後ろから2列目の席。異質な存在が1人。
(……杖?と……ベレー帽、だっけ)
私と同じ制服を身にまとった白髪の少女が、退屈そうに窓の外を見ていた。……杖をついているなら優先席に座った方が楽だと思うけど、まあ優先席はあくまで優先席。本人に座る意思がないなら、強要する話でもないだろう。乗客も遠慮しているのか隣は空いているし、丁度いい。座らせてもらうとしますか。
「……?」
「ども、お邪魔するね〜」
「……いえ、特に気を遣う必要はありませんので」
「だよね〜。席空いててラッキーラッキー」
「……席が空いてるから、ここに来たのですか?」
「ん?そうだけど……バスって普通、そういうものじゃなかったっけ?」
「……いえ、そうですね。……ふふ」
何かおかしなことでも言ったのか、面白そうに笑う。この子のツボ、よく分からないな……。
「同じ制服ということは、貴方も新入生でしょうか?」
「うん、そうだよ〜。君も?」
「はい。坂柳有栖、と申します。以後お関わりする機会があるかは分かりませんが、お見知り置きを」
「そっか。私は赤井萌、萌って呼んでくれると嬉しいな〜」
……独特な言い回しをする子だな、この子。クラスが違ったりしても、関わる機会くらいあるだろうに。
……まあ、本人に意思がなければないか。私も、中学はそうだったし。他人の顔も名前も、覚えてないし。
「有栖ちゃんはこんなに早くからバスに乗ってるなんて偉いね〜」
「それは赤井さんも同じでは?」
「む、赤井さんじゃなくて〜」
「……萌さん、でしたね」
「うんうん、ありがとねー。下の名前の方が好きだからさ〜」
「名字に拘りがあるのですか?」
「ううん、むしろないから名前で呼んでほしいかな」
「……そうですか、よく分かりませんが……萌さんの希望ならそうしましょうか」
「やった〜、有栖ちゃん優しいね〜」
「……有栖ちゃん、というのは?」
「え?だって君、坂柳有栖って名前なんでしょ?あれ、間違ってたっけ?」
「……いえ、合ってます。ただ呼ばれ慣れてないというだけなので、気にしないでください」
「やった、じゃあいっぱい呼ぼー」
うんうん、ファーストインプレッションとしては上出来じゃないかな。それにしても、慣れないことしたから余計に眠気が……ふわぁぁ……。
「……そういえば、萌さん……萌さん?」
「…………すぅ、すぅ」
「……寝てしまいましたか。私とのお話が退屈だったということでしょうか、それでしたら不服ですが」
……そう1人、出会ってまもない少女に拗ねていた。
__十数分後。
「萌さん……萌さん、起きてください」
「ん……?もう学校?」
「はい、学校に着きましたよ。私も肩が疲れました」
……?なんで肩……?そう不思議に思った疑問の答えはすぐに判明した。なるほど、重心が定まらなくて私が有栖ちゃん側に傾いたのか。これは悪いことをしてしまったかもしれない。仮にもまだ出会ってまもないのに。……よし、ここはお詫びに1つ。
「……あー、お手をどうぞ?お嬢様」
「……ふふ、よく似合っていますよ」
「それはどうも、ご丁寧な皮肉で……」
「では、お言葉に甘えさせていただきましょうか」
私が差し出した手を、有栖ちゃんがとる。こういったエスコートのようなものはしたことがないけど、とりあえず段差とかに気をつける簡素なものでいいか。罪滅ぼしだし。
「おや、あそこにクラスが掲載されているようですよ」
「……人、たくさんだね。見てこようか?」
「ええ、お願いします。同じクラスだといいですね?」
そう試すような瞳で笑う有栖ちゃんを横目に、私は群衆の中に混じる。こういう時、自分が身軽な低身長でよかったと思う。人の流れに流されることなく、私は最前列へと到達した。
「えっと……A、B、C、D……私は名字的に1番上だろうし見つけやすいかな。……Aクラスで、有栖ちゃんは……坂柳、だっけ」
坂柳、坂柳……お、あった。自分と同じAクラスから探したけど、正解だったみたいだ。目的を果たしたことだし、このごった返した群衆も流石に嫌になってきたし……早いところ有栖ちゃんのところに戻ろう。
「よっ……と」
「おかえりなさい、萌さん。どうでしたか?」
「……ただいま?私も有栖ちゃんも同じAクラスだったよ、やったね」
「ふふ、それはそれで少し退屈ですね」
「ちょっと、どういう意味ー?」
「褒めていますよ」
「ほんとかなぁ……」
そう言って私は歩き出す。すると、後ろから服を引っ張られる。
「……何?有栖ちゃん」
「エスコート、お願いしますね」
「……あれは限定的なものだったんだけどなぁ。それに私、そんな経験ないし」
「あら、そうなのですか?お上手でしたよ」
……どうやら、面倒事に首をつっこんだらしい。私の普通の青春、どうなるんだろう……。
「……はい」
「あのセリフが欲しいですね?」
「………………お手をどーぞ、おじょー様」
「棒読み感が強調されている気がしますが……まあいいでしょう。これからたくさん言ってもらうでしょうし」
「…………え?」
さらば。私の普通の青春。
ようこそ、エスコート係としての私。
……いや、私はこんなことで諦めない。絶対に、何としてでも、この高校で青春を謳歌してみせる……!
夏休み、誰とデートする?(一話投稿予定)
-
坂柳有栖
-
神室真澄
-
一之瀬帆波
-
椎名ひより
-
櫛田桔梗
-
白波千尋
-
綾小路清隆