有栖ちゃんが出てくるぞ!!!!!\ウオオオオオオオ!!!/
スタート地点へ向かうと、救護テントに行くように指示される。教師たちと話していると、堀北を抱えた清隆の姿が見えた。
「ここへの立ち入りは禁止だ。失格になるぞ」
「急患です。彼女は熱を出して今は意識を失っています。すぐ休ませてあげてください」
「彼女はリタイアということでいいんだな?」
「それで問題ないです。ただ一つ確認させてください。今はまだ8時前ですから、彼女の点呼は無効ではないですよね?」
「……確かに。ギリギリそうなる。だがお前はアウトだぞ」
「分かっています。それからもうひとつ、このキーカードをお返しします」
「……ああ、確かに。それにしても、今年は異例だな」
……なるほど。やっぱり堀北がリーダーだったか。今リタイアするとなると…龍園くん、葛城くんはまんまと罠にハマった、ということかな。そう考えていると、綾小路くんから声をかけられる。
「お前もリタイアか」
「うん、そんなところだよ〜」
「残念だな。あともう少しだと言うのに」
「それを言ったら、そこの堀北ちゃんだってそう言えるよね。まあ頑張ってね、綾小路くん。船から応援してるよ」
そう手を振って、敵意がないことをアピールしておく。リタイアすることが確認できたら用は済んだのか、Dクラスのベースキャンプの方へと戻って行った。
「もうすぐ保健医の星之宮先生が来られる。辛いと思うが、待機してくれ」
「はーい、承知しました〜」
別に私としてはそんなに大事ではなかったのだが、意図的に捻ったのに加え、このスタート地点に来るまでに無理に動かしたこともあり、足の見た目は最悪になっていた。かなり腫れているし、内出血も起きているっぽい。
「……みんな大袈裟だなー」
星之宮先生、と言われる先生を待つ間、海を眺める。
多くの人々を救った偉人、マザーテレサは言った。
『We ourselves feel that what we are doing is just a drop in the ocean.But the ocean would be less because of that missing drop.』
これは要約すれば、一人一人の行動は小さなものでも、その小さな行動にこそ価値があるといった、正に博愛主義を代表するような言葉だ。
ならば、今の私はどうなのか。自クラスで無所属という立場を貫き、時に反抗し、それでもクラスという名の組織に従っている。今の私に、価値はあるのか。
「……結局、あそこから出ても尚、私は変わらない」
海を見ながら物思いにふけていると、女性の慌ただしい声と足音が聞こえてきた。
「わ、君が怪我した子?見せて見せて〜…ってすごい怪我!大丈夫?女の子なんだから自分のこと大事にしなきゃダメじゃない!」
「……えっと、星之宮先生ですか?」
「は〜い、星之宮知恵でーすっ。一応この学校の保険医やってまーす」
何とも明るくフランクな先生だ。堅物なイメージの真嶋先生とは正反対だが、教師にはこういう人もいるのか。私が黙って治療を受けていると、沈黙に耐えられないタイプなのかこちらに話しかけてくる。
「赤井さんだったわよね。どうどう?もう恋人とかできちゃったり?」
「いえ、全然その気配はないですね」
「えー、釣れないなぁもう!うちの一之瀬さんとも仲良くしてくれてるみたいだし、てっきりもうクラスの子とは仲良しだと思ってたのに」
「まあ、うちのクラスは勉強熱心って感じですからね。まだ付き合ったり、好きになったりとかはないんじゃないですか?」
笑って流していると、納得がいかないのか唸る星之宮先生。
「あのね、この学校の子達はみんな枯れすぎなのよ。だって高校生よ?青春真っ盛り、今なんて夏の海が目の前にあるのに、だーれも告白しないなんて!」
「はあ」
「ほら、今のご時世異性じゃなくてもいいわけじゃない?女子同士とかさー。ねえ、君って坂柳さんの騎士ちゃんなんでしょ?坂柳さんとはどうな訳??」
「有栖ちゃんとは別にそういう関係じゃないですよ、多分向こうもそんな気はないでしょうし」
「分からないわよ〜?ああ言う子ほど、実は!っていうのが多いんだから!」
この人は、何を言っているんだろうか。冗談や気恥しさなどではなく、本気で言っていることの意味が全く理解ができない。私が坂柳有栖の傍にいる理由は、そんな不確定で不安定な理由ではない。彼女が人と一線を画し、必要以上に踏み込まないからに過ぎない。それは彼女の強みであり、弱点でもある要素ではあるが、今の私に好都合というだけ。
恋や愛なんて、小説の中の要素でしかない。不確実で、不明瞭で、不必要だ。
「……どうしたの?こわぁ〜い顔しちゃって…あ、もしかして怒っちゃった!?やーん、許してよ〜!」
「……そんなに怖い顔してましたか?大丈夫です、怒ってませんよ。ただ実感がなくて、考えてただけです」
いつの間にか足の治療は終わったみたいなので、私は船に戻るために立ち上がる。
「あっ、無理に動かしちゃダメよ〜?絶対に安静なんだからね!」
「はい、ありがとうございました。星之宮
愛、か。……不要だと切り捨ててきたもの。今でも私には、いらない不確定感情だと思っている。だが…。
「……少し、今後のクラスの方針を変えてみるのもありかな。私がここにいることの価値を、高めるために」
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無人島試験終了後。私は帰ってきたAクラスのクラスメイトから、試験の結果を聞く。
Aクラス140ポイント→1144CP
Bクラス190ポイント→853CP
Cクラス0ポイント→492CP
Dクラス225ポイント→312CP
なるほど。元々の有栖ちゃんのリタイアで270Sポイントから始まり、Cクラスのリーダーを当てて320Sポイント。しかしCクラスとDクラスにリーダーを当てられ220Sポイントに。更にDクラスのリーダーを外し170Sポイント。そして私のリタイアを含め、-30Sポイント。その結果の140ポイントという事だろう。思ったよりDクラスが稼いでいるが、帆波は上手く私の情報を使ってくれたらしい。「一人勝ち」と言えるような結果ではないだろう。
しかし……葛城くんには下位は下位で争わせておけばいいと釘をさしておいたが、まんまと清隆の戦略にハマってしまったらしい。龍園くんのクラスが1ポイントも稼げていないとなると…間違ったリーダーの情報提供の証拠ともなる。これは使えそうだ。
「おい赤井!お前がリタイアしたせいで、30ポイントも失ったんだぞ!!」
「まあまあ、落ち着いてよ戸塚くん。私がリタイアしなくても170ポイント。全体から見て3位なのは変わらないし、これは葛城くんの策が失敗したとも取れるんじゃないかな?」
「なっ、葛城さんは失敗なんてしてない!それに、お前が独断で行動したからリタイアなんてする羽目になったんだ!」
「確かに最終的にはそうだけど……最初に怪我をさせた戸塚くんには言われたくないなぁ」
狂信者は面倒くさいな、なんて思いながら対応していると、葛城くんが戸塚くんを回収しに来た。
「弥彦。見苦しい真似は寄せ。俺が失策したのは誰の目から見ても明らかだ」
「で……でも!赤井がリタイアしなかったら!」
「寄せと言っているだろう。それに、往来の中で行うものではない」
「そうだよねぇ、葛城くん。戸塚はこう言ってるけど、勝手に契約させられたわけだし。ついでに言うと赤井の怪我も戸塚が起因してることは間違いないし?」
橋本くんが援護射撃のように私の肩に手を置いて隣に立つ。別に私はこいつの味方ではないのだが、どうやら仲間扱いをされているらしい。……ま、それにしてもケジメは付けないとね。
「分かったよ。戸塚くんがそういう理由も納得できる。……ねえ真澄ちゃん、少し手を貸してくれない?」
「は?なんで私が…」
「機械の操作は苦手でさ、ちょっと助けて欲しいんだよね」
私は真澄ちゃんに手伝ってもらい、ポイント移行の画面を開く。そこでAクラスのメンバーを一括選択し、全員に3000PPを送信した。総額にして12万PP。少し手痛い出費にはなったが、必要経費だろう。
「おい赤井、なんだこれは」
「何って、見ての通り私の過失で喪失した分だよ。一旦は、これでチャラになるよね?」
ウインクして葛城くんに確認を取る。もう用は済んだだろう。私はAクラスの面々をその場に残し、部屋へと戻っていった。
「……ん?神室ちゃん、戻んないのか?もうお開きだろ」
「………………分かってるわよ」
神室真澄がその場に立ち尽くしていた理由。萌の端末を操作した際に見えた、神室の知性を総動員させても理解し得ない数字。
“1,027,822pt”
「……何なのよ、あいつ…」
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部屋に戻りベッドで寝転がっていると、学生証端末が鳴る。これは……電話?あ、有栖ちゃんからだ。
「やっほー有栖ちゃん、元気?」
『ええ、元気ですよ。萌さんも元気そうですね。てっきり無人島での試験で気力を持っていかれたかと思いましたが』
「あはは、まさかまさかー。私は自然を愛し、自然に愛されてるからね。むしろ絶好調だよ、船の方が嫌いかな」
『ええ、真澄さんから聞いていますよ。萌さんが船酔いをしていると』
「あ、真澄ちゃん教えちゃったのー?秘密にしてて欲しかったのにー」
電話越しに唇を尖らせる。そうだ、有栖ちゃんに海を見せようと思ってたんだった。デッキの方にでも移動しようかな。
「有栖ちゃんは今何してるの?相変わらず図書館でチェス?」
『ええ、ちょうど新しいチェスの問題が入ったところでして。少々物足りないですが、致し方ありません』
「あはは、有栖ちゃんにとっては全部簡単なんじゃない?……っとと、危ない」
『何やら足音や他の生徒の声も聞こえますが、移動中なのですか?』
「うん、そうだよー。有栖ちゃんに海を見せてあげようと思って」
『それはそれは。お気遣いありがとうございます』
「それで?何で電話してきたの?有栖ちゃんに限って、世間話をしに来た訳じゃないよね?」
『ええ、先程貴女から私宛に3000ptが振り込まれていたのを確認しましたので。何かの罪滅ぼしですか?』
「まあ似て非なるもの、かな」
私は無人島試験での出来事と、ここまでの経緯を有栖ちゃんに話す。興味深そうに聞いていた有栖ちゃんだったが、私が自発的に怪我をしたのはどうやら不満らしい。
「……って感じかなー」
『貴女が怪我をする必要はなかったと感じますが』
「いやいや、目に見える実害があることが重要なんだよ。他の子たちからは、私が戸塚くんに因縁をつけられてその結果怪我に繋がったように見えるでしょ?やるなら徹底的にやらなきゃ」
『……そうですか。ですが、何故そのようなことを?無所属派を謳っている貴女からすれば、メリットのない行動に見えます』
「まあねー。でも今は気分が変わってきてるんだ」
『……というと?』
「有栖ちゃんの派閥に入ってもいいなーって思ってるんだよ。ただ条件付きにはなるけどね」
『なるほど。私にとっては歓迎すべき申し出ですが、条件とは?』
「中間テストの時に保留にしたお願いがあったでしょ?それを使わせて欲しいんだ」
『なるほど。ここで、ですか』
「お願いの内容はねー、有栖ちゃんが、もっとみんなに寄り添うこと」
『……寄り添う?』
理解できない、というように言葉を反芻する有栖ちゃん。私のこの先の
「有栖ちゃんはさ、自分でも自信があるくらい天才で、強いよね。でもだからこそ、他者と関わることに関しては一歩引いているところがある。違うかな?」
『そうですね。私にとって友人なんて必要ありませんから』
「でも、一人の戦いには限界が来る。特に有栖ちゃんは身体的制限によって、他の人を頼らざるを得ないよね。頭脳戦では負け無しだとしても、限界が来る」
『私が、負けると?』
「もちろんそういうこともあるだろうね。そういった時、他者との交流を図っていないと不信感が募るばかりだよ。それだけじゃない。有栖ちゃんのやろうとしていることは、本質的には龍園くんの独裁国家と一緒じゃないかな?どんなに優秀な指示を出しても、心が離れていれば完璧には動かない。いざという時に裏切るかもしれないし、予想外の暴走をするかもしれない。有栖ちゃんは自分の知能を過信しすぎて、他人の『感情』という不確定要素を軽視しすぎてるんだよ」
坂柳有栖はプライドの高い生徒だ。そして何より、天才である。他人と歩調を合わせることは、彼女にとって苦痛でしかないだろう。でも、それではいつか限界が来る。
彼女にとっては受け入れたくない話だと思う。でも、ここで私の話をのんでおいた方が、後々自己のためになる。
『……ですが私は、小中とそういった関係を作ってきませんでした。今更、そのような事をしても…』
「無駄じゃないよ。私が保証する。最初は真似事でもなんでもいい。寄り添う姿勢を見せること、それが大事なんだから」
力強い私の声に、若干気圧される有栖ちゃん。少し考えた後に、答えを出したようだった。
『……分かりました。多少不服ではありますが、他でもない貴女がそういうのであれば、努力は致しましょう。ですが、言ったからには貴女にも手伝っていただきますよ?』
「もちろん、任せてよ
『ふふ、随分と豪語してくれますね。貴女の自惚れでないことを願います』
「……あ!海見えてきた!…ねえ有栖ちゃん、これ有栖ちゃんに見せるためにはどうすればいいの?」
『……まずは機械教育からですね、私の騎士さん』
さあ、始めようか。私の
高度育成高等学校学生データベース
氏名:赤井 萌(あかい もえ)
クラス:1年A組
学籍番号:S01T004712
部活動:女子テニス部
誕生日:2月17日
学力:B+
知性:A-
判断力:A-
身体能力:A
協調性:D-
面接官からのコメント
全体的に高水準の成績を収めており、特に身体能力に関しては性別の枠に収まらない、目を見張るものがある。面接での態度も好感触であったが、単純な道徳問題を間違える等の違和感も見られる。別途資料に記載してある事情も考慮した上で、Aクラスでの更なる能力と協調性の向上を今後期待していきたい。
担任メモ
クラスメイトと分け隔てなく接し良好な関係を築いており、一部クラスメイトからの信頼も厚い。特に坂柳とは共にいる時間も長いため、彼女と共に協調性の向上に期待する。
その他(アニメやクリアファイルなど、各キャラ紹介であった項目)
星座:みずがめ座
身長:151cm
特技:運動
趣味:登山、筋トレ、スケボー
仲の良い生徒:なし
相性の悪い生徒:白波
好物:なし
苦手なもの:大きな火
自分の好きなところ:特になし
自分の嫌いなところ:運が悪い
いつもいる場所:カフェ、ジム