ようこそ青春至上主義の教室へ   作:イノセ

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夏だ!デートだ!夏祭りだ!!!
一部、ゲーム「ようこそ実力至上主義の教室へ〜マージパズル特別試験〜」からネタを拝借しています。



↓アンケートTOP3の方々
坂柳(68)「真澄さんとはトリプルスコア、2位の櫛田さんとも約2倍の差をつけての勝利……皆さんには申し訳ない程の圧勝ですね」
櫛田(28)「あはは、でもこれだと坂柳さんが68歳のおばあさんになったみたいだねっ」
坂柳(68)「おばあっ……!?櫛田さん、負け惜しみは見苦しいですよ」
櫛田(28)「私は坂柳さんの知らないような萌ちゃんの過去も知ってるんだけどな〜?」
一之瀬(23)「あはは、2人とも落ち着いて〜。皆さん、投票ありがとうございました!」







夏祭り

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みも終わりを迎える頃。私は一件の電話を受けた。

 

 

 「……生徒会が主催の、夏祭り?」

 『ええ、並木道の一角に様々な出店が並ぶようです。特別棟まで使われる少々規模の大きいものだとか』

「へー、そんな大層なのが。それがどうかしたの?」

『これも1つの上級生の特別試験なのではないかと考えまして。ですからその調査に伺いたいのです』

「……それに一緒に行ってほしいと。普通の夏祭りだったらどうするのさ」

『あら、それはそれで楽しめますでしょう?』

 

 

 ふふ、と面白そうに笑う有栖ちゃん。夏祭り、か。言葉や知識として聞いたことはあるが、実際に行ったことは一度もない。確かに、有栖ちゃんの言うように何も無ければ楽しめばいい話だし。受けて悪い話でもないだろう。

 

 

「わかった、じゃあその日に寮のロビー集合?」

『ええ、時間は後程ご連絡いたします。では、当日に』

 

 

 そう言われ、電話を切られる。夏休みが終われば、二学期が始まり、また特別試験に翻弄されるだろう。最後の思い出くらい、楽しいものにしないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 __夏祭り当日、夕方。

 

 少し早めに出て寮のロビーで有栖ちゃんを待つ。夏祭りの噂を聞きつけている子も多いのか、普段よりもロビーを行き交う生徒が多い印象だ。浴衣姿の人もいる。……浴衣、着てみればよかったかな。そう思い浴衣姿の生徒を目で追いかけていると、杖の規則正しい音が聞こえる。

 

 

「お待たせいたしました。……あら、萌さんは私服なのですね」

「やほ、有栖ちゃん。浴衣なんて着たことないから、慣れない姿で迷惑かけるよりかは良いかなって」

「ふむ……私としては浴衣姿の貴女を見たかった気持ちもありますが、良いでしょう。来年の楽しみに取っておきます」

 

 

 ……さらっと来年にも行くことが確定した。有栖ちゃんは藍色がベースの紫陽花柄の着物を着用していた。いつも三つ編みのハーフアップでまとめられている髪は、その髪飾りにあわせてドーナツポニーに近い形になっている。髪型1つでこんなに雰囲気が変わって見えるのだから、人間というのは不思議なものだ。

 

 

「じゃ、行こうか有栖ちゃん」

「…………お待ちなさい、萌さん」

「……?」

 

 

 私が有栖ちゃんの手を取ると、何かに納得がいかないのか「まだ行くな」というように手を引っ張り、ジト目で私を見てくる。どうしたんだろう。早く行かないと、有栖ちゃんの身体の事情的にも色んな出店を調査できないと思うんだけど。

 

 

「どうかしたの?有栖ちゃん」

「……いえ。貴女に期待した私が愚かでした。参りましょうか」

「え、有栖ちゃん?いきなり引っ張らないで……というかなんか怒ってる?」

「怒っていません。何をしているのですか?早く私をエスコートなさい」

「はーい。よく分からない有栖ちゃん」

 

 

 少し眉が寄ってるし、心做しか歩く速度も少し速いけど……ま、本人がそう言うなら深掘りはしないでおこう。外に出ると思ったより本格的な夏祭りなようで、出店だけでなく様々な飾り付けが施されている。生徒たちが主催でやるとはいえ、充分に楽しめそうな作りだ。

 

 

「有栖ちゃん、どこから回ろうか?」

「そうですね……後のことを考えると、人が並びそうな出店から調査するのが良いかと」

「あ、じゃああそこかな?あの特別棟を使った肝試しのとこ!人も並んでるし」

「ええ、よろしいかと。萌さんの怯える姿が楽しみです」

「有栖ちゃんこそ、怖がりすぎて尻もちついちゃったりしてー」

「……あるわけないでしょう。所詮は人工物に過ぎません」

「あー、それ今から肝試しする人の会話じゃないよ。こういうのは雰囲気を楽しむものなんだから!」

 

 

 私たちが列に並びながら会話をしていると、後ろから巨大な影がさす。誰かと思って見上げると、そこにいたのは葛城くんだった。

 

 

「あ、葛城くん。こんばんはー。葛城くんも夏祭りに来たの?」

「赤井に坂柳か。ああ、上級生の特別試験ではないかと思って、調査をしにきたところだ」

「奇しくも、私たちは同じ計らいのようですね」

「というか葛城くん、夏祭りに制服なの?」

「仮に特別試験なのであれば、この格好が適切だろう」

「あー……そう、なのかも?」

「ふふ、お二人とも趣を大切にするべきですね」

 

 

 私は私服。葛城くんは制服。確かに夏の趣を感じるという意味では、有栖ちゃんの浴衣が最適解だろう。思ったより回転率がいいのか、並んでいる人数の割にすぐに中に入ることができた。杖をついている有栖ちゃんの速度に合わせ、私たちはお化け屋敷の仕組みを楽しむ。

 

 

「うーらーめーしーやー!!」

「おお、こんばんはー!はい、これ飴ちゃんですよ〜!お勤めお疲れ様です!」

「えっ?あ、ああ……ありがとう」

「……萌さん。先程から脅かしに来たお化け役の方に飴をお渡しするのはおやめなさい。逆に怖がっているでしょう」

「ええ?でもお化け役の人、ずっと待機してて大変そうだし……さーてと、次は何味にしようかな〜」

「微塵も怖がっている様子がないな……これでは冷やかし客に思われても仕方あるまい」

「そんなこと言って、2人だってさっきから全然怖がってないじゃん」

「前半は楽しみがいもありましたが……先程から全然脅かされていませんし、このままだとあっさりゴールしてしまいそうですね」

「何かあったのかなー?」

「前評判では、かなり本格的な内容ということだったが……」

「少し拍子抜けしてしまいましたね」

 

 

 疑問に思いながらもゴールをし特別棟を出る。するとスタッフと思われる先輩が、待機列に向かって叫んでいた。

 

 

「すみません、トラブルが発生したため営業を一時中断することになりました!」

 

 

 そのスタッフ役の声に、並んでいた生徒が口々に不満を漏らす。まあ確かに、時間を使って並んでいた生徒や楽しみにしていた生徒たちからしたら自分が楽しんでいないのに急に中止になるのだから、不満を覚えるだろう。並んでいた生徒たちの様子を見ていると、有栖ちゃんが別の方向を見ながら呟いた。

 

 

「スタッフが逃げ出してしまった原因は、どうやら私たちにあるようですね」

「「……??」」

 

 

 私と葛城くんが顔を見合わせていると、何かを企むような顔をして笑う有栖ちゃん。

 

 

「フフ……ここで上級生に恩を売っておくのも悪くないかもしれませんね」

「肝試しを手伝うつもりか?」

「上級生とコネクションを得る機会は貴重ですからね。当然、萌さんと葛城くんも協力していただけますよね?」

「いいだろう。Aクラスに利することなら、断る理由はない」

「えー!?私、お客さんとして楽しみに来たのに!?」

「……正反対の反応をありがとうございます。葛城くん、萌さんを拘束しておいてください」

「あー!?葛城くん!肩を掴まないでー!!私は逃げるんだよー!!!堅物!!巨体!!セクハラー!!!」

「諦めてくれ。これもAクラスのためだ」

 

 

 終わった。私の夏祭りが、脅かして罠を引っ掛けるだけの化かし祭りになってしまった。……ん?それも意外と面白そうだな。まあ逃げられないんだろうし、ここはこの状況を楽しむことにしようか。

 

 

 

 ___________________

 

 

 

「ん〜、やっっとお手伝い終わったあ……。意外と早く帰らせてくれたね」

「逃げ出したスタッフの代打ですから、それほど時間をとる予定もなかったのでしょう」

「しかし、特別試験のような素振りは一切なかったな。俺たちの杞憂だった、ということか……」

 

 

 少し考える素振りをした後、どこか安堵したような表情になる葛城くん。

 

 

「特に何も無いようなので俺は帰ろうと思う。2人はどうするんだ?」

「私たちは他の出店を見て回ろうと思います。純粋に夏祭りとしても楽しめそうですからね」

「そうか。それでは、失礼する」

「ばいばい葛城くん、また二学期に会おうねー!」

 

 

 葛城くんの姿が見えなくなるまで手を振る。それにしても、外はすっかり暗くなってしまったらしい。しかし夏祭りは暗くなってからが本番なのか、人通りは多くなった印象だ。普段は広い並木道も、出店がスペースを取っているのも相まって人で埋め尽くされている。有栖ちゃんは大丈夫かな、と視線を向けたその時。

 

 

「きゃっ___!?」

「っ!?」

 

 

 道行く人の肩がぶつかり、思わず転倒しそうになる有栖ちゃんを咄嗟に抱きとめる形で支える。……危ない。こんなところで転んだら怪我しちゃうよ。

 

 

「ふぅ、危なかった。大丈夫?有栖ちゃん」

「え、ええ。ありがとうございます、萌さん」

「……人、多くなってきたね。危ないから、離れないで」

「も、萌さんっ……!?」

 

 

 私は有栖ちゃんを正面から抱き寄せる。人の流れが多くなってきたということは、杖をついている有栖ちゃんにとってはこの上なく歩きづらい環境だろう。この通りだけでも、人がはけてから動いた方がいいかな。しばらく並木道の人の流れを見ていると落ち着いてきたため、抱き寄せていた有栖ちゃんを離す。

 

 

「……これくらい減れば動けるかな。有栖ちゃん、怪我は無い?」

「………ええ。貴女の体温が高すぎて、少しばかり暑かったですが」

 

 

 確かに、少し顔が赤い気がする。悪いことしちゃったかな?でも、有栖ちゃんの安全には変えられないからね。

 

 

「あはは、ごめんごめん。じゃあ引き続き見て回ろっか」

 

 

 その後も有栖ちゃんをエスコートしながら、射的やヨーヨー釣り、輪投げなどの遊び系から、チョコバナナやカステラなどの食べ物系まで網羅していった。輪投げでは有栖ちゃんと対決し、私が圧勝した。よわよわ有栖ちゃんである。

 

 

「っつ、いった!?!!杖で脛を叩かないで!?」

「今、失礼なことを考えましたよね?」

「有栖ちゃん、たった今エスコートしてる騎士(ナイト)に対する仕打ちじゃないんじゃないかな……」

「おや、騎士にしては忠実さが足りませんね。今ここで、忠誠の叫びをしてくれても良いのですよ?」

「え、いいの?本当にやっちゃうけど」

「………私が愚かでした。お願いですからおやめなさい」

「あはは、ごめんごめん。それにしても、日が暮れてきたのに暑いねー」

「ええ、人の熱気もありますから…配られたうちわで何とか凌げる状態ではありますが」

 

 

 談笑しながら次はどこに行こうかと一緒に出店を見て回っていると、不意に名前を呼ばれる。

 

 

「あ、あれ……?萌、ちゃん……?」

「……ん?あ、白波さん。こんばんは」

 

 

 私たちと同じく夏祭りを楽しみに来たのか、浴衣姿の白波さんに遭遇する。そういえば、無人島の時に遊ぼうって誘われてたけど、何だかんだ予定が合わなくて遊ぶこともなかったな。まあ、少し苦手意識があったから丁度良かったけど。

 そんな白波さんは私たちのある1点を見て固まっている。

 

 

「も、萌ちゃんと坂柳さんって……つ、付き合ってる……の……?」

「え?いやいや、そんなことないよー」

「だ、だって、手……!!」

 

 

 手?……ああ、そういえば有栖ちゃんのエスコートのために手を繋ぎっぱなしだったっけ。有栖ちゃんといる時はほとんど日常みたいになってたから忘れてたよ。すると何を思ったのか、有栖ちゃんが挑発的な笑みを浮かべる。

 

 

「Bクラスの白波千尋さん、でしたか。ええ、私と萌さんはとても()()()関係にあります。私への愛ゆえか、こうして自発的にエスコートをしてくださる始末です」

「ちょ、ちょっと有栖ちゃん?何言って……」

 

 

 止めようとした私を有栖ちゃんは目で制す。『面白いおもちゃを見つけたから邪魔するな』らしい。……何が面白いおもちゃなんだか。白波さんはショックを受けたように涙を目の縁に浮かばせた後、何かをこらえるように両手に拳を握りながら有栖ちゃんを睨む。……怖い。これで私が恨まれたらどうしてくれるんだ、有栖ちゃん。呆れたように有栖ちゃんを見つめていると、白波さんが口を開く。

 

 

「で、でも!付き合っていないんですよね!?」

「ええ、ですが他クラスの貴方よりかは遥かに親交を深めた状態でしょうね。これも同クラスの特権……いえ、私だからこそ成せる距離感でしょうか」

 

 

 ……煽るなあ。有栖ちゃんって誰か敵を作ってないとやっていけない性分なのかな?白波さんのように感情を表に出す相手は、多分彼女にとって煽りの対象として最高に面白いのだろう。有栖ちゃんからの煽りに耐えきれなくなったのか、私の方に近づいてくる白波さん。

 

 

「……?白波さん、どうかした____」

 

 

 私が言葉を紡いだその瞬間。白波さんが、私の身体に飛び込んでくる。思わず驚いて白波さんを支えると、白波さんは私の唇を奪ってきた。飛び込んできた白波さんごと倒れ、尻もちを着く。

 ほんの数秒、いや、永遠にも感じられた時間。私が呆気にとられていると、肩を激しく上下させた白波さんは立って有栖ちゃんを涙目で睨んでから一言。

 

 

「わ、私……!私、絶対に負けませんからっ!!」

 

 

 そう言うや否や、涙を流しながら走り去ってしまった。流石の有栖ちゃんも驚いたのか、固まっている。だが。

 

 

 

 (……!?!!な、なに、いまの…………!)

 

 

 

 有栖ちゃん以上に、私が固まってしまっていた。尻もちをついたまま、口元を拭う。気持ち悪い。今、何が起こった?

 

 

「……萌さん。大丈夫ですか?」

「……っ」

 

 

 有栖ちゃんに声をかけられ、我に返る。そうだ、ここは他人がいる。呆気にとられている場合では無い。

 

 

「あ、あはは!大丈夫大丈夫!ちょっと驚いちゃっただけだから……」

「……それにしても、驚きました。あそこまで好意を寄せられているお相手がいたとは」

「私も、びっくりだよ。ただの友達だと思ってたから……あ、有栖ちゃん!あそこにりんご飴あるよ!買ってきてあげるよ!!有栖ちゃんはそこのベンチに座ってて!」

 

 

 誤魔化すように有栖ちゃんをベンチまで誘導し、りんご飴の屋台へと向かう。そこで有栖ちゃんのりんご飴を買い、ベンチへと戻る。

 

 

「はい!有栖ちゃん!りんご飴どーぞ!」

「……ありがとうございます。貴女の分はよろしかったのですか?」

「うん、いいのいいの!ちょっと今お腹痛くて……トイレ行ってくるね!座って待ってて!!」

 

 

 有栖ちゃんとの会話もそこそこに、私は全速力でトイレへと向かう。……これ、ダメだ。想像以上にキツイ。

 私が考えていたことはただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 気持ち悪い。ただただ、気持ち悪い。

 

 

 

 

 

 

 トイレへと向かった私は、洗面台の前で思いっきり口をゆすぐ。

 

 

「はぁ、はぁ……っ!!気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!!!何なんですか、あの人間は…!?!!」

 

 

 愛を向けられてしまった。恋愛感情を、性愛を……()()()()()()()()()、キスという形で…。

 

 

「ああ、ああ………理解不能です…拭っても拭っても、不快感が消えない…………」

 

 

 身体の中を駆け巡る、不快感と激しい嫌悪感。このドロドロとした気持ち悪い感情を何とか追い出そうとする。何度も、何度も激しくえずくが、胃液の酸っぱい味しか口の中に広がらない。見上げた鏡の中の自分は、かなり顔が青ざめていた。……せめてこの震えを、何とかして、落ち着かせないと。今は、他人を待たせてしまっている。

 

 

「はぁ、はぁ……落ち着いてください、私……今の貴方は、赤井萌。赤井萌なんです…………」

 

 

 深く息を吐いたあと、何度か深呼吸を重ねる。水で顔を洗い、執拗に口元を濯ぐ。……よし。これで、何とかなるでしょう。私はトイレから出て、外の新鮮な空気を吸った。

 

 

「……それにしても、有栖ちゃんには悪いことしちゃったかな」

 

 

 

 待たせているのは申し訳ないけど、もう少し風に当たってから戻ろう。そう思い、出店とは逆方向に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 _________________

 

 

 

 side:坂柳有栖

 

 萌さんが逃げるように走り出してから十数分が経ちました。私はベンチに座りながら、萌さんに買い与えられたりんご飴を齧ります。

 

 

「……しかし、熱烈なアプローチをする方もいるものですね」

 

 

 私が思い出していたのは、つい先程の出来事。Bクラスの白波千尋さんが、あろうことか萌さんに口付けをし、逃げ去っていた時の情景です。

 

 

「別に彼女がどういう人間関係を築こうが、私に関係はありませんからね。……あの事も、彼女が周囲への精神的ケアを怠った故の結果と見るべきでしょう」

 

 

 そう納得させるように、独り言を呟きます。ですが、私の内側には言葉とは全く別の感情が循環していました。

 ガリッ。りんご飴を、想定よりも強く噛んだことにも気づかず、私は自問自答します。

 

 

 

 (なぜ私は、こんなにも不快になっているのでしょう……?)

 

 

 

 萌さんが誰と仲良くし、誰と交流を深めようとも、彼女の自由なはずです。ですが、私の脳裏には、先程の映像が嫌でも思い出されます。白波さんの、必死の表情。萌さんの、呆気にとられたような表情と、それでいて白波さんを反射的に支えていたその手。

 

 

 

「……不快ですね。何なのでしょう、この感情は」

 

 

 

 眉をひそめ、自分の左胸を掴みます。……萌さんは、まだでしょうか。せめて、何か会話をしてこの気を紛らわせたいのですが。いつの間にか食べ終わっていたりんご飴のゴミを捨て、座っていたベンチへと戻ります。無意識に萌さんが走った方向を見つめていると、おおよそ人間の速度とは思えないほど速く走る姿が目に入りました。

 

 

 

 

 _________________

 

 

 

 side:赤井萌

 

 

「有栖ちゃーーーーーん!!!お待たせー!!!!」

「……遅いですよ、萌さん。もう20分も経ってしまいました。……その手に持っているものは何ですか?」

「あ、これ?これはね、有栖ちゃんへのプレゼントだよ」

 

 

 私は持っていた白色の麦わら帽子を、有栖ちゃんの頭にそっと被せてあげる。

 

 

「暑い中待たせちゃったから、申し訳ないなって思って。それに有栖ちゃん、いつもベレー帽被ってるでしょ?暑い時期にはやっぱり、ベレー帽よりこっちの方がいいかなって。ほら、今も似合ってるし!」

「……萌さん」

 

 

 私に被せられた麦わら帽子を、頭から取って自分の胸元に持ってくる有栖ちゃん。そして呆れたような溜息をつく。

 

 

「貴女はファッションセンスというものを地の底にでも埋めてきたのですか?それとも、先程の全力疾走と共にどこかに飛んでいってしまったのでしょうか」

「あれぇ!?意外と酷評!?!!」

「当然です。今私が着用している浴衣に、この帽子は絶望的に合いません。いいですか?私がこの格好で、この髪型にしたのにもそれ相応の理由があります」

「うぅ、ごめんってば……ファッションはまだ勉強中なんだよ……!!その、嫌だったら私が貰うよ?」

「……別に、嫌とは言っていません。……折角貴女からいただいたものですから、それを使いこなしてこそAクラスのリーダーと言えるでしょう?」

 

 

 そう言い訳をされてそっぽを向かれる。……あれ?意外と怒ってない。というかむしろ照れてる?

 

 

「有栖ちゃん。もしかして、嬉しかったり?」

「何を馬鹿なことを。減らず口を叩ける元気があるのなら早く寮に戻りますよ。もう遅い時間なのですから」

「わー、ごめんごめん!置いてかないでってばー!」

 

 

 我先にと歩き出す有栖ちゃんに走って追いつき、改めて隣に並ぶ。……少し予定外なことはあったが、意外と楽しかったな。夏祭りも。有栖ちゃんの言うように、来年は浴衣を着て本格的に楽しむのもいいのかもしれない。有栖ちゃんをじっと見つめていると、ジト目で返される。

 

 

「……何ですか?私の顔になにか付いていますか?」

「ううん!……有栖ちゃん、今日はありがとうね」

「誘ったのは私の方ですから、感謝すべきはこちらでしょう」

「でもでも、夏祭り楽しめたし!有栖ちゃんに誘われなかったら行かなかったからさ!」

 

 

 そんなことを話していると、寮のロビーに付く。お互いの階が同じなため、一緒にエレベーターに乗って、有栖ちゃんの部屋の前までエスコートをしてあげる。

 

 

 

「それでは、本日はありがとうございました」

「うん!こちらこそありがとう!また二学期、だね!」

「ええ。貴女の力を存分に使わせていただきますよ?」

「あははー、期待に応えられるようにがんばるよ。……あ、そうだ」

「……?まだ何か?」

 

 

 

 有栖ちゃんが部屋に入ろうとしていた際、私は今日1日ずっと胸の内に秘めていたことを吐き出した。

 

 

 

 

「___その浴衣も髪型も、すっごく可愛くて似合ってるよ!じゃあまたね、有栖ちゃん!!」

 

 

 

 そう言い放ち、私は自分の部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、言葉を受けた坂柳は。

 

 

 

 

 「……………全く。言うのが遅いですよ、貴女は。……ふふ」

 

 

 

 萌から貰った麦わら帽子でニヤけた口元を隠しながら、どこか上機嫌で自分の部屋へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 







今回で萌ちゃんの弱み(闇?)が垣間見えましたね。
次回からはいよいよ、二学期に突入します!!ぜひぜひ読み続けてくださると嬉しいです!!!


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