ようこそ青春至上主義の教室へ   作:イノセ

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クラスのとっくん!

 

 

 

 

 

 翌日の体育の授業。

 学校側から諸々の器具を借りた私たちは、葛城くん主導の元体力測定を行った。測る項目は握力、上体起こし、50m走、反復横跳びの4つ。葛城くん曰く、体育祭の種目の中で必要になりそうな能力を測れる項目をピックアップしたらしい。まずは握力ということで、測定器が男子と女子に1つずつ配られる。男子の方には葛城くんが指示してるし、ここは私が女子を指示するべきかな?

 

 

「よーしっ、じゃあみんな握力から測っていくよー!私が回してくから、順番に測っていってね〜。はい、じゃあ真澄ちゃんから」

「……なんで私が最初なのよ」

「だって今五十音順で並んでるし!私から始めたらみんな萎縮していい結果出ないよ」

「はぁ、気が乗らない……」

 

 

 そう言いながらも測定器を受け取る真澄ちゃん。測り終わった結果を見ると、『36.6kg』の数値が出ていた。これが女子の中で高いのか低いのか分からないため、私は淡々と記録を記していく。

 

 

「有栖ちゃんもやってみる?握力測定」

「遠慮しておきます。やる必要がありませんし、貴女に馬鹿にされることは目に見えていますから」

「えー、ひどいなー。ただちょっと有栖ちゃんの可愛さを言葉にして送るだけなのに」

「それを世間では皮肉と呼ぶのですよ。私に構っている暇があったら、記録係としての責務を全うしたら如何ですか?」

「はーい、有栖ちゃんの仰せのままにー」

 

 

 こうして私以外の女子全員の記録が終わる。どうやら最初に測った真澄ちゃんの記録は相当高い方らしく、現状では一番高い数値となっている。

 

 

「じゃあ私も測るかなー。有栖ちゃん、どのくらいの数値がいい?」

「狙って測れるものではないと思いますが...そうですね、真澄さんとダブルスコアでもつけてあげなさい」

「りょーかいっ、真澄ちゃんの記録なんて軽く飛び越えてあげるよー」

「はぁ?あんた達、バカにしてんの?」

 

 

 毒づく真澄ちゃんを無視して私は測定器具を握る。握力測定は何度もやってきたが、自分の記録なんて知る機会はなかったからな。実際の自分の握力がどの程度であるかは分からないが、筋肉のメカニズムを知り握力に必要な部類の筋力が必要以上にあれば、狙い通りの数値を出すことは難しくない。

 

 

「……このくらいかな。お、73.4kg。みてみてー、真澄ちゃんの2倍!」

「あんた、馬鹿力すぎるでしょ。通りで腕掴まれた時に痛いわけだわ……」

「ふふ、素晴らしいですね萌さん。私の想定以上のようです」

「よーしみんな、次は上体起こしやるよー!!自分の隣の人とペアになってねー!!」

 

 

 

 __________________

 

 

 

 

 こうして必要な測定を終えた私たちは、本番で行われる種目の練習に移っていた。今は二人三脚の練習中である。……しかしまあ。

 

 

「私の身長と走力に合うペア、中々いないなあ……」

 

 

 私の身長は151cm。女子の中では低い方なので、必然的に相性の良いペアは限られてくる。走力…に関しては私が相手に合わせればいい話なのだが、あまりに乖離しすぎているとそれはそれでかなり大変になってくる。

 

 

「くそう、真澄ちゃんの身長が10cmくらい縮むか、有栖ちゃんが急に爆速で動けるようになれば私のペア決めは安泰なのに……!」

「どっちも天文学的な確率でしょそれ。あんたがチビなのが悪いんじゃない」

「チビじゃないよ!有栖ちゃんより1cmデカイんだよ!?」

「……萌さん。聞き捨てなりませんね。人の身体的特徴を揶揄するのは品のない行為ですよ」

「有栖ちゃんが私よりちっちゃいことは変わらないもんね〜、やーいチビー」

「いいでしょう、その宣戦布告を受けて差し上げます。貴女にとっての物理的な1cmなど、私の圧倒的なオーラの前では無力だということを知りなさい」

「どっちもどんぐりの背比べでしょ……ほら萌、走力じゃ私が一番近いんだから試すわよ。あんたが結びなさい」

「はーい……ねえ、真澄ちゃんを持ち上げて走るって言うのはダメなのかなぁ」

「………出来そうなのが怖いからやめなさいよ。そんな事したら当日欠席するわよ」

 

 

 それは困る。真澄ちゃん持ち上げ作戦は、いざという時の本番用に取っておくか。真澄ちゃんとの二人三脚を終えた私は、クラスメイトたちを観察してそれぞれにアドバイスを送っていく。この1ヶ月で劇的に運動能力が上がる、なんていうのは不可能に等しいが、このクラスの子たちは自分の身体の動かし方を分かっていない子が多い。技術面でサポートしてあげたら、少しくらいは結果も良くなりそうだな。体育祭当日までに、クラスメイト全員分の分析ノートでも作ってあげるか。そう思っていると、葛城くんから声をかけられる。

 

 

「赤井。推薦競技には男女混合の二人三脚もあるだろう。それに向けて、運動自慢の生徒を男女ともに何人か集め適性を確かめたいと思っている。手伝ってくれないか」

「おっけー。女子の方にも声をかけてみるね」

 

 

 こうして女子と男子で分かれていた二人三脚の練習は、男女混合のものに変わっていく。さて、どうするかなー。私の能力的に見たら鬼頭くんがベストパートナーではあるんだけど、如何せん鬼頭くんは身長がデカすぎる。身長の相違が大きいほど、歩幅が異なるということ。女子のように融通がききにくい部分でもあるため、鬼頭くんは除外かな。となると……。

 

 

「おーい赤井、二人三脚の練習やろうぜ」

「あ、橋本くん。いいよー。紐は私が結んじゃっていい?」

「ああ、いいぜ。それと……おーい里中!お前もこっちに来いよ!」

「……何だよ橋本。もえぴーとの二人三脚を見てろってことか?」

「はは、それも悪くないけどな。お前も運動神経は悪くないだろ?俺の番が終わったら赤井とやってみろよ。いいよな?赤井」

「うん!試しておくに越したことはないからねー。里中くん、ちょっと待っててね!」

「え!?お、おう!もちろん!!」

 

 

 橋本くんの左足と私の右足を結ぶと、橋本くんの脇腹を掴む。意外と相性は良いようで、スムーズに走りきることができた。

 

 

「ふー、橋本くんお疲れ様!中々やりやすかったよ!」

「赤井が俺に合わせてくれるからな。俺もかなりやりやすかったぜ。そんじゃ、次は里中とやってやってくれや」

 

 

 謎に卑劣な笑みを浮かべながら手を振る橋本くん。有栖ちゃんがいる方に行き、面白そうに耳打ちしている。……何してるんだろ?

 

 

「まあいいや。里中くん、結ぼっか」

「よ、よろしくお願いします!」

「なんで敬語?変な里中くん(笑)」

 

 

 笑いながら私はしゃがんで同様に足を結ぶ。私が里中くんのことを掴むと変な声を出した。……脇腹だとくすぐったいのかな?ちょっと腕がキツイけど、肩の方がいいだろうか。そう思い、手を起き直す。一方里中くんの手は宙を舞っていた。

 

 

「里中くん?掴まないと安定しないよ?」

「あ、え、あー、そ、そうだよな!えっと…そ、それじゃあ、失礼します!」

 

 

 ……掴んでるとは言えない位のソフトタッチだけど、まあいいか。緊張しているのか、先程の橋本くんとは異なりあまりペースが合わない。里中くん、こんなに運動神経悪かったっけ?さっきの100m走の時はそんなに身体固くなかった気がするんだけど…。走り終わった里中くんは疲れたのか座って肩で息をしている。

 

 

「はぁ、はぁ、ごめんもえぴー、俺が足引っ張っちゃって」

「ううん、大丈夫だよ。里中くん、もしかして調子悪い?あれだったら練習やめて休憩した方が……」

「い、いや!俺は全然____」

「___いいえ、中断すべきです。里中くん」

 

 

 私がしゃがんで里中くんの背中をさすっていると、遠くで椅子に座っていた有栖ちゃんがいつのまにか杖を着いてこちらに歩いてきていた。

 

 

「有栖ちゃん?座ってた方がいいんじゃ……」

「この程度平気です。それより……里中くん」

「な、何だ?坂柳……」

「先程から萌さんを握る手が震えていますね。それにどさくさに紛れて肩を引き寄せて身体を密着させる始末……正常な判断が出来ないのであれば、練習は中止していただいて構いません」

「で、でも……!俺はまだできるよ!」

「そうですか。であれば、ペアの変更をおすすめします。里中くんは人気ですからね、先程からあちらの女子が練習したそうにこちらを見つめていますよ?」

「え?あ、ほんとだー、こっち見てるね。里中くん、あっちの子達にも声かけてくるね!ちょっと待っててー!」

 

 

 私は里中くんの方を見ていた女子軍団の方へ走っていき、紐を渡す。男女混合の二人三脚はあんまり練習できなかったけど、まあ橋本くんでいいかな。里中くんは有栖ちゃんと何かを話した後、元気が無さそうに女子軍団と合流した。……ほんとに休憩しなくて大丈夫かな?

 

 

「ねえ有栖ちゃん、里中くんと何話してたの?」

「萌さんが気にする必要はありませんよ。ただ少し……そうですね、露骨で品がない手を取り締まっただけです」

「……?そう、なんだ?」

 

 

 有栖ちゃんの言ってることは分からないけど、有栖ちゃんが難しいこと言ってるのはいつものことだしまあいいか。

 

 

 

 ________________

 

 

 

 また翌日の体育の授業。基礎適性を測り、二人三脚の練習を終えた私たちは騎馬戦の練習へと移る。騎馬戦に関しては経験していない人の方が多いようで、手探りの状態で練習を進めていく。陣形などは理論で補完できても、騎馬の状態や動きは実践を伴わないと確認できないことの方が多い。私は小柄かつ動ける部類のため、騎手として敵のハチマキを奪う役目だ。

 

 

「よーし、じゃあ皆一旦私のハチマキを取ってみようか」

「え……ぜ、全員で?」

「うん、全員で。戦略を立てるもよし、1人ずつ挑戦するもよし。皆の騎馬の動きを見る目的もあるけど……簡単には取らせないからね〜」

 

 

 そう言い、歓迎の意を両手を開いて示す。葛城くんは難色を示し、他のみんなも困惑している様子だったが、観察するよりも直接対峙した方が問題点もわかりやすい。

 

 

「……よしっ!真澄ちゃん号、しゅっぱーつ!!」

「誰が真澄ちゃん号よ!!てか、本当に最低限の足場だけでいいわけ?」

「うん、基本は私がバランスを取るから大丈夫だよ〜。私が指示を出していくから、その通りに動いてくれれば問題なし!じゃあみんな、いっくよー!!」

 

 

 おずおずと向かってくる騎馬を見ながら、私は淡々と処理と分析をしていく。

 

 

 (左から来る沢田ちゃんチームは騎馬の状態に慣れてないのか、移動がもたついてるねー。元土肥ちゃんはスポーツ経験があるからかバランス感覚はいいけど、イマイチ機動力に劣るかな。でも少しテコ入れしたら騎手としては上々の動きができそう。男子は……うわ、鬼頭くんイカつっ。迫力やばっ。騎馬なのにこの迫力って、みんなビビって動けないんじゃないの?)

 

 

「真澄ちゃん号、後ろから葛城くんたちが回ってきてるよー。左前に3歩ぜんしーん」

「む……気づかれていたか。吉田!そちらからも囲め!」

「ありゃー、囲まれちゃったか。真澄ちゃん号、吉田くんの騎馬に全速ぜんしーん!!」

「は?いいわけ?あんたのハチマキ取られるんじゃないの?」

「まーまー、いいからいいから」

 

 

 私の指示で真澄ちゃんを含む騎馬の3人が吉田くんの方へと前進する。私が乗った際に少しアドバイスをしたため、即興ながら上手い移動になっている。

 

 

「よーし、吉田くん。いざ対決だよー」

「うっし!負けないぞ!!ハチマキ、いただ___」

 

 

 吉田くんが腕を伸ばしたその刹那、私はその腕を掴んで持ち上げる。そして騎馬から落とすようにして、優しく土の上へとぶん投げる。

 

 

「___えっ?」

「よいしょっと。はい、吉田くんは地面についたからアウトねー」

「い、いやいや待て待て!!!それありなのかよ!?てかなんで俺を持ち上げられるんだ!!!」

「え?だって吉田くん軽いし……」

「俺、60kgはあるんだけど!?!!」

「待て赤井。吉田の言っている通りだ。その行為はルール上問題ないのか?」

「うん、真嶋先生に確認したけど『怪我の恐れがないと確認できるなら構わない』だってさー。流石に背負い投げとかはやっちゃったらアレだけど、今のは優しく土の上に置いたでしょ?これなら安心安全だよねー」

「……かなりグレーに近いとは思うが」

「まあまあ、騎馬戦なんて元々グレーありきの勝負だよ。騎手を押し出す、騎馬が騎馬に体当たりする、そんなこともまかり通る世界だからね。あ、清水くんもーらいっ」

「あっ!?おい、今下(騎馬)の葛城が話してただろ!?」

「騎馬戦では一分一秒も気を抜けないからねー、にしし」

「く、くそぅ……あーあ、これでもえぴーに全敗かよー」

「しかし今ので学んだことも多い。もう一度動き方を確認しておこう」

 

 

 練習を再開するクラスメイトを横目に、私は休憩のために有栖ちゃんのいる日陰へと向かう。椅子に座っている有栖ちゃんは本を読んでいたが、その横の土の上に座ると、読書をやめてこちらに視線を向けた。

 

 

「有栖ちゃーん、つかれたー」

「お疲れ様です、萌さん。クラスの方々はまだ練習されているようですが?」

「んー、ちょっと有栖ちゃん成分を補給しようと思って……あ、今汗臭いから抱きつかない方がいいかなー……」

「ご自身で理解しているのであれば遠慮願いたいところですね。それに、萌さんが近づくだけで暑いですから」

「ひどいなー。頑張った騎士へのご褒美はないのー?」

「読書をやめてお話していることが貴女へのご褒美ですよ。風邪をひく前に汗を拭きなさい」

 

 

 面白そうに笑った後、用意していたのかタオルを私に渡す有栖ちゃん。意外だな。自分が参加しないから、こういう用意はしていないものだと思っていたけど。ちゃんと洗濯して返さなきゃ……。

 

 

「さてさて有栖ちゃん。私が君のとこに来たのはお話のためもあるんだけど、別件のお誘いに来たんだよー」

「おや、お誘いですか?ふむ……この後カフェで甘味を食べたいというものでしょうか。それとも他クラスの偵察に、私の観察眼が必要という申し出でしょうか?」

「ぶぶー、どっちも違いまーす!」

 

 

 私が有栖ちゃんの方を向いて指でバツを作ると、怪訝そうな顔をする有栖ちゃん。どうやら見当もついてないみたいだね。その方が都合がいい。私は立ち上がって有栖ちゃんの前に行き、その両手を掴んで言い放った。

 

 

 

「___有栖ちゃん!特訓しよう!!!」

「………………はい?」

 

 

 

 








次回 有栖ちゃんのとっくん編!!




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