今回は少し短めになってます!
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体育館裏。周りが体育祭への練習や部活へと勤しんでいる中、私と有栖ちゃんは人目のつかない一本道へと来ていた。
「……萌さん。先程から、仰っている意味が理解できないのですが。冗談にしてはタチが悪すぎますよ?」
「冗談じゃないよー、私はいつでも本気なんだから」
有栖ちゃんの手を無理やり引いて連れてきた私は、目的の場所へ着くと有栖ちゃんに向き合う。有栖ちゃんの顔を見ると、不満なのを隠す気もないようだった。
「貴女は私の命を奪いたいのですか?Aクラスの自称
「違う違う!そんなんじゃないって!」
鋭い目つきで私の事を睨んで恨み言を連ねる有栖ちゃんに私は困ったような笑顔を向ける。まあ受け入れられるとは思ってなかったけど、こんなにも言葉の刃が飛んでくるとは。
「私はただ、有栖ちゃんに同じ景色を見てほしいだけなんだよ」
「同じ景色?いつも見ているでしょう」
「んー、そうじゃなくて。なんていうのかなぁ………もうちょっとロマンチックなやつ?私が感じている感動とか体験を、有栖ちゃんにも感じて欲しいなって」
「それに何の意味があるんです。命を賭けてまでやる価値があるとは思えません」
「もー、頑固!私はさ、有栖ちゃんともっと仲良くなりたいと思ってるんだ。それに、有栖ちゃんに強くなって欲しいと思ってる。今の状態でも勿論充分強いんだけど、ここから一歩でも二歩でも今の有栖ちゃんから成長したら、それは他クラスにとってすごい脅威な異分子に映ると思わない?それに自主的に動けるようになったら、今よりももっと便利な生活になるよ!」
「私が動かずとも、クラスの方々に動いてもらえば良い話です。それに杖との生活も長いですから、今更不便に感じることはありません。この話は平行線ですよ」
「待って待って、もう1つあるんだって!有栖ちゃんの特訓の理由!先の未来でさ、有栖ちゃんと一緒の歩幅で、有栖ちゃんと風を、景色を、感動を共有する。それってすごく素敵な事だと思わない?」
有栖ちゃんの両手を握って笑顔で問いかける。私の目を見て意図を図っているのか、有栖ちゃんは数秒私の顔を見つめ沈黙し、深く、深く溜息をついた。
「……貴女の真意は理解しかねますが…。言葉で理解させるより、実際に付き合って理解させた方が早いでしょう。少しだけなら構いませんよ」
「やった!もちろんだよ有栖ちゃん!有栖ちゃんに無理はさせないからね!!少しでも乱れがあればすぐに中止するから!!」
私は有栖ちゃんから杖を取り上げ、スロープの手すりに掴まらせる。初めてだからね、ちゃんと段階を踏まないと。
「まずはつま先立ちからだよー。歩行の負担になれる練習から!一緒に1セット20秒やっていこう!はい1セット目!」
「……この程度であれば、問題はありませんが。これに意味はあるのですか?」
「つま先立ちはねー、歩く時の体幹と下肢の筋肉を鍛えるためだよ!これが終わったら片足立ちと、その場でのステップもやってもらうからね!」
「特訓と言った割には随分と初歩的なのですね」
「基礎はとっても大事なんだよー?それに、有栖ちゃんがどんな状態か、どこまで出来るのか、まだ手探りだからね。無理は絶対にさせちゃダメだし」
「それを理解しているのであれば、最初からこんな提案をしないでいただきたいのですが」
「そこはほら、みんなが体育祭の練習がんばってるから、有栖ちゃんもがんばろーってことで!あ、20秒経ったね。少し休憩してもう1セットやろうか。つま先立ちの次は片足立ちだよ、まずは右足からやっていこうね!」
こうして順調にこなしていた有栖ちゃんだったが、次のステップでつまづくことになる。
「じゃあ今度は私の両手を掴んで、杖無しで歩いてみようか」
「つ、杖無し……ですか」
「大丈夫、私が支えてるから」
これまで以上に不安そうな有栖ちゃん。足が動かないのか、その場に固まってしまっている。まあ、そうだよね。初めてのことで、身体も慣れていない。一人で勇気を出せ、という方が無理な話だ。私は有栖ちゃんのことを握る手に力を込める。
「萌さん……?」
「大丈夫。有栖ちゃん、一緒にやっていこう。私を信じて」
有栖ちゃんは私の目を見つめる。しばらくして私の手を取り歩くことを決意したようで、恐る恐るといった様子で一歩、二歩とかなりゆっくりではあるが歩き出す。
「いいよ有栖ちゃん、その調子!最初はゆっくりでいいからね」
「っ…………はぁ……」
まだ怖さが混じっているのかその足取りは重いが、着実に前に進んではいる。あとはこの調子で、杖無しの歩行に慣れる訓練と徐々にスピードアップしていく形でやれば、歩行への難は緩和されていくのではないだろうか。有栖ちゃんの呼吸が少し乱れてきたのを感じ、私は有栖ちゃんのことを抱き寄せる形で受け止める。
「はい、今日はここでおしまい」
「も、もう……ですか……?」
「有栖ちゃん、ちょっと疲れ始めてきたでしょ?無理はさせない。無茶はしない。そういう約束だからね。それに、こうやって杖がなくても歩くっていう決心が出来ただけでも上出来すぎるくらいだよ」
正面から有栖ちゃんを抱いて頭を撫でる。初めてのこと、慣れないことには、本人が気づいていないだけで強烈な精神的疲労も伴いやすい。まだ少し動けるかも…位で丁度いいのだ。リハビリに大切なのは、短期間での劇的な成果ではなく、じっくりゆっくりと継続していくこと。一回一回の成果は目に見えない微々たるものでも、塵も積もれば山となるだ。
有栖ちゃんは私の胸元に顔を預け、呼吸を整えている様子だった。
「よく頑張ったね、お疲れ様。えらい、えらい」
「…………私は、子供ではないのですが」
「子供じゃなくても、褒められる権利はあるでしょ?有栖ちゃんは今自分の殻を破って挑戦したんだから、充分すごいんだよ。挑戦してくれてありがとう」
「……全く、貴女といると調子が狂いますね」
アメリカの宗教哲学者、ジョセフ・マーフィーはかつてこう語った。『誰でも心の中にもっとも深く根ざしている願望は、自分の本当の価値を認めてもらいたいということです。他人の価値を認めなさい。そうすればあなたの価値も認めてもらえます』。
人間の潜在意識というものは、時として人を動かす原動力になる。有栖ちゃんの本質へと向き合うことで、彼女にとっての私の価値は飛躍的に上昇する。
「……有栖ちゃん、どう?落ち着いた?」
「………………まだです。まだ、こうしていてください」
「あはは、思ったより疲れちゃった?いいよー、いつまででもこうしてあげる。でも座らなくて大丈夫?ベンチとかに移動した方が……」
「私がいいと言っています。それ以外の選択肢がありますか?」
「ごめんごめん。無理させたのは私だからね。有栖ちゃんの仰せのままに」
撫でている手を頭から背中に移動させ、有栖ちゃんを落ち着かせるようさすっていく。私の胸元を掴んでいる手が、まだどこか震えているのを感じたからだ。
「焦らなくていいよ。無理もしなくていい。少しずつ、歩ける距離を増やしていこう。もちろん杖をついてる有栖ちゃんも大好きだけど、今の特訓を通じて有栖ちゃんが『もう少し歩いてみようかな』って思った時、一番近くで支える役は譲りたくないからね」
「……厚顔無恥ですね。その軽口は、今のうちに矯正しておいた方がいいのでしょうか」
「本心だよ?がんばってる有栖ちゃん、いつもと違った魅力があるし。有栖ちゃんと一緒に行ける場所が増えたら嬉しいなーって、本気で思ってるよ」
「何故、私にそこまでするのですか?貴女に得があるとは思えません」
「あはは、それ有栖ちゃんが言う?私の事嫌になるくらい派閥に誘ってきたくせに。……前に言ったよね。私は君を孤独にさせない。他でもない有栖ちゃんと、一緒に未来を増やしたいんだ」
私がそう言うと、しばらく沈黙の時間が続く。そして傍に立てかけていた杖を持つと、有栖ちゃんは呼吸が落ち着いたのか、私から離れた。その顔は疲労からか、若干赤くなっている。
「……いいでしょう。貴女がそこまで言うなら、私にも条件があります」
「条件?なーに?」
「今度の体育祭。個人種目の全てで1位を取り、学年別の最優秀生徒になりなさい。やる気のない貴女がそこまでしたのであれば、その言葉を“本気”と捉え、私も貴女の言う特訓とやらに今後も付き合ってあげましょう」
「……!ほんと!?!?」
「ええ。しかし1種目でも2位以下に落ち着いたり、最優秀生徒の称号を誰かに奪われたりすれば、この約束は白紙です。私は杖をこれからも愛用しますし、貴女には無謀な提案の罰を受けていただきます」
「ば、罰!?有栖ちゃんの罰って何!?怖すぎるんだけど!」
「あら、もう負けることを考えているのですか?私が結果を確認するまでもなく、この提案は白紙に戻してもいいかもしれませんね」
「わー待って待って!!がんばる!!がんばるから!!」
普段の調子を取り戻したかのように冷たく笑い、寮に向かって歩き出した有栖ちゃんを急いで追いかけ、隣に並び立つ。歩きながら有栖ちゃんの顔を覗き込むように体勢を変える。
「ね、有栖ちゃん」
「何ですか。まだ何か?」
「いつか杖なしで歩けたら、その時はちょっと遠回りして帰ろうよ。色んな景色を見て、色んな場所に寄り道してさ。あ、色んなお店のケーキを食べ比べするのもいいかも!」
「………その時が来たら、考えてあげましょう。不確定な未来のことよりも、目先の体育祭について考えたらいかがですか?」
「あはは、手厳しいなぁ。でも約束だよ!」
今は全然違う歩幅だけど。いつか
次回 体育祭!!