ようこそ青春至上主義の教室へ   作:イノセ

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完全に区切るところを間違えました!(泣)
かなり長くなりましたが、よろしくお願いします!!









体育祭(後編)

 

 

 

 

 

 10分休憩も程なく終わり、騎馬戦は1年女子からの開幕となる。8対8のDA連合対BC連合の戦い。1騎馬につき50点、クラス毎に1騎馬存在している大将騎は100点を保持している。自分が生き残っても相手のハチマキを奪ってもこちらの点数になる、なんとも夢のある戦いだ。Dクラスの騎手は堀北、櫛田、軽井沢さん……と名前の知らないあと一人。こちらの騎手は私、元土肥ちゃん、美紀、谷原ちゃん。10分休憩の時に指示はしておいた。この騎馬戦、作戦の要となるのは堀北、私、そして美紀だ。それ以外はどうなっても構わない捨て駒。

 

 

「美紀、作戦通りいくよー。森下藍ちゃんも頼むね」

「任せてください赤井萌。相手に穴を開けてやります」

「が、頑張りますっ……!」

 

 

 試合開始の合図とともに、Cクラスは全員が堀北を狙う。予想通り、と言ったところだろう。私はあえて堀北の救助に向かわず、残るBクラスの騎馬たちへ向かうように指示を飛ばす。堀北の救援に向かった軽井沢さんを阻むように帆波たちの騎馬がDクラスの騎馬に向かっているのが見えた。

 

 

「一騎取り逃したか……まあちょうどいいかな。Aクラス、Bクラスを潰すよ。私以外の二騎はDクラスまでの進路を阻みつつ、私の方へ誘導してねー」

「もえぴー、一人で大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫、ここは通過点だからね。さ、真澄ちゃん号しゅっぱーつ!」

 

 

 Bクラスの残り三騎の騎手は全員知らない子だけど、まあ大した問題では無いだろう。Bクラスの連携力は騎馬戦においてかなりの有利要素ではあるが、圧倒的な個の前では無力に等しい。私は一騎と対峙しながら、回り込んでくるもう一騎を気配で感じ取る。早めに決着をつけないとね。そう思い、身を乗り出して__。

 

 

「そぉいっ」

「きゃっ!?!!」

 

 

 相手の顔面スレスレに拳を振りかぶる。もちろん顔を殴ったらアウトなので、寸止めではあるが。人は奇襲に弱い。女の子なら、拳と拳の殴り合いというような喧嘩を経験していない子が大半だろう。反射的に目をつぶった騎手の子からハチマキを奪い、一騎を撃破する。

 

 

「まずは1人。ごめんねー、脅かすような真似しちゃって。殴ってないから許してね?よーし、真澄ちゃん号!反転して回り込んでる子達にぜんしーん!!」

「だから真澄ちゃん号って呼ぶなバカ!!!」

 

 

 そう叫びながらも緻密な移動により、難なく反転に成功。少し気圧された様子の騎手の子に対して迷わず進んでいく。こちらに対して気を張っているのが伺える。きっと先程の様子を見て要注意だと踏んだのだろう。それなら私としても好都合だ。私は身体をわざと右に動かし、相手の視線を誘導する。そして極限まで身体に集中させたその最中、猫騙し。相手が「え?」みたいな反応をしている隙にハチマキを取らせてもらう。

 

 

「っ!?!!!」

「はい、2人目ー。案外上手くいくもんだね」

 

 

 ちなみに夏休みに師匠から観せて貰ったアニメ?では、猫騙しで人の意識を刈り取っていた。極限まで条件が揃えばあのレベルまでいくらしいんだけど、本当なんだろうか?やはり暗〇の世界は恐ろしいんだなあ……。っと、そんなことを考えてる暇はないね。軽井沢さんと帆波がいい感じにやり合ってる。今がチャンスかなー。

 

 

「美紀!!ほな……一之瀬の騎馬に前進!!」

「え、えいっ!!」

「わわっと!?!!いつの間に!?」

 

 

 美紀に指示をしたのはたった2つ。襲われている堀北を徹底的に無視すること。そして、堀北を救援する騎馬を阻止する騎馬が現れたら、その子たちに気づかれないよう、限りなく死角をついて近づくこと。美紀の影の薄さは相当強いのか、騎馬戦でも遺憾無く発揮されることが練習の時点で判明した。それならば、運動能力が低い美紀でも奇襲の一発は確実に成功する。帆波は機動力に優れていないため急に現れた美紀に対応できず、呆気なくハチマキを取られてしまう。

 

 

「あっ、帆波ちゃん!?!」

「敵の大将を討ち取れば平静は失われる。君のハチマキ、貰ってくねー」

 

 

 こうしてBクラスの全ての騎馬を撃破し、残るはCクラスの騎馬のみ。Dクラスの騎馬は……猛攻を受けていた堀北と名前の知らない子がやられたか。一度体勢を立て直すため、Dクラスの子達に声をかける。

 

 

「桔梗!軽井沢さん!1回下がって!」

「この状況、どうするの?あたし、さっきの一之瀬さんとのアレで結構キツイんだけど……」

「んー、そうだね。森下藍ちゃん、観察の結果はどう?」

「Cクラスの伊吹澪がやはり強力ですね。ですが一人で先走っている様子もあるので、伊吹澪を狙うならそこがウィークポイントになると考えます。逆に言えば伊吹澪以外はあまり脅威ではないでしょう」

「さっすが森下藍ちゃん。じゃあそうだね……伊吹さんの相手は私がするから、他の子達で残り二騎の相手をしてくれないかな?」

「赤井さんは一人で大丈夫なの?」

「うん、問題ないよ。じゃ、真澄ちゃん号ぜんしーん!!」

「だから真澄ちゃん号って言うな」

「えー……じゃあマスミン号」

「あだ名にすればいいってもんじゃないのよ!あと更に酷くすんな!!」

 

 

 騎馬戦本番とは思えないほどの緩い雰囲気で、私たちは伊吹さんの騎馬と対峙する。

 

 

「ハッ、一人で来るなんて舐めてるわけ?」

「うん、めっちゃ舐めてるよー。100メートル走だって堀北に負けてたし」

「……は?私が堀北より下だって言いたいわけ!?」

「君がそう思うならそうじゃないかなあ。私は堀北より強いし、君が格下なことに変わりないね」

「…………あったまきた。絶対負かす!!!ほらあんたたち!前進しなさいよ!!」

 

 

 伊吹さんは思った通り挑発に乗ってきてくれ、騎馬の子達を強引に動かす。さて、伊吹さんは暴力とか猫騙しとか聞くようなタチじゃなさそうだからなー。純粋に勝負するしかないか。

 

 

「先手必勝!!」

「わおっ、中々早いね。怖い怖い。どんどん来ていいよー」

「舐めんな!!」

 

 

 伊吹さんがハチマキを奪うために前に出す腕を、次々と躱していく。中々動きが素早いね。並の子であればもうハチマキを取られているだろう。取れない状況に苛立ちを感じたのか、伊吹さんの動きはどんどん荒くなっている。これでいい。私はあくまで時間稼ぎの役割だ。伊吹さんの腕をいなしながら目を横に向けると、Cクラスの騎馬が二騎、Aクラスの騎馬が二騎脱落していた。徹底的に分析したとて、即席の戦力には限界があるか。

 

 

「余所見してんじゃない!!!」

「わっ、あーぶなっ。君、何かやってるの?空手とか?」

「は?今は関係ないでしょ。ぜっっったいにあんたを泣かしてやる……!」

「それはいいけど……もうすぐ私の方にも援軍が来ちゃうよ?」

 

 

 私がそう言うと、Cクラスの残り一騎のハチマキを奪ったのか、Dクラスから軽井沢さんの騎馬と、Aクラスから元土肥ちゃんの騎馬が援護に来る。これで3対1。油断はできないが、伊吹さんにとって絶望的な状況であることに変わりは無い。

 

 

「よーし、ここからは攻撃のターンだよ〜。三方向から攻めちゃえー♪」

「んなっ……あ、あんた!卑怯でしょ!!」

「卑怯?君たちが堀北にした戦略でしょ?それに数で有利を作るのは基本中の基本だよね」

「くそっ……舐めんな!!」

 

 

 伊吹さんはまだ諦めていないようで、軽井沢さんと元土肥ちゃんの攻撃をいなしながらも元土肥ちゃんのハチマキを難なく奪う。……そろそろまずいかな。

 

 

「よしっ、真澄ちゃん。アレをやるよー!」

「アレって……は?あんた本気だったの?」

「本気も本気、じゃあ行くよー!!」

 

 

 そう言うと、私は騎馬の子の手の上から真澄ちゃんの肩へと足をかける。そしてそのまま伊吹ちゃんの方へ飛び____。

 

 

 

「ほっ、と。ハチマキ、奪ったり〜」

「は、はぁ!?!ちょっと、今のアリなわけ!?!」

「暴力行為してないしオッケーでしょ、ただ私が空中に飛んでその勢いで伊吹ちゃんのハチマキを奪っただけだよ?私が地面に足をつける前に勝負は終わったから、私の点数は保持されたままってワケー。いえーい」

 

 

 これみよがしにピースを向けると、怒りのあまり顔を赤くし拳を握る伊吹さん。しかし意外にも冷静な判断は出来るのか、私に殴り掛かることなく自分のクラスのテントへと戻って行った。男子たちが始まりそうな気配を感じながら、私は上級生のテントを見やる。……うん。問題なさそうだ。

 これにて女子の騎馬戦は、赤組の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 ________________

 

 

 

 続く200メートル走でも問題なく1位を取り、私たちはお昼休憩へと入っていく。グラウンドには沢山の仕出し弁当が積まれている。鬼頭くんや橋本くんとクラスメイトの分も取って私たちはお昼ご飯を食べ始める。

 

 

「あれ、有栖ちゃんはこっちのお弁当食べないの?無料だよー?」

「ええ、この身体だと色々と制限も多いもので。学食のメニューであれば事前に成分を見て選べますが、外注のものは選べませんから」

「そっかー、大変だね。こんなに高そうなのに……あ!有栖ちゃんの卵焼き、1つちょーだい!」

「お断りします。等価交換出来るものがないでしょう」

「えー……じゃあこのお肉あげるから…………あげたくないけど……………」

「……全く。仕方ないですね。お肉はいりません。食べるなら食べなさい。お1つくらいなら許可しましょう」

「え!!やったあ!!あーーん!!」

「…………ご自分で食べてください」

「えー、何有栖ちゃん。間接キスとか気にしてるのー?おっとめー!私たち、もう同じものを食べた仲じゃん!」

「あれは貴女が私の口に押し付けたからでしょう」

「ちぇー、有栖ちゃんから食べさせてもらった方が絶対美味しいのに!」

「…………あんたたち、他人がいるのに2人の世界でイチャつかないでくれない?私の野菜が甘くなるんだけど」

「じゃあ真澄ちゃんも私の食べる?はい、たくあんあげるね〜。あーん」

「いらない、押し付けんな」

「あのー、俺たちもいるんだけどナー……」

「………橋本、余計な口出しはしない方が身のためだ」

「くそう。鬼頭、男たちで虚しく食べような……」

 

 

 お昼ご飯を食べ終わり、体育祭後半となる午後の部が始まる。後半私が出場する種目は借り物競争、男女混合二人三脚、リレーの3つ。四方綱引きも別に出てよかったのだが、全種目出場するのはやはり体力の面が不安ということと、他のクラスからは男子が出ることが予想されることから葛城くんに却下されてしまった。まあ、貴重な休みの機会と思えばいいだろう。

 

 

「にしてもあっつい……有栖ちゃん、これ持っといて!」

「おや、私を荷物持ちにするとはいい度胸ですね」

「あはは、邪魔ならグラウンドに捨てといていいから!じゃ、行ってくるねー!」

 

 

 午前まで着ていたジャージの上を有栖ちゃんに投げ渡し、借り物競争へと向かう。参加グループに合流すると、審判から説明が入る。

 

 

「借り物競争では高い難易度のものも設定されている。その場合は引き直しを希望することも出来るが、次に引き直すまでに30秒の待機を要求する。希望するものは競技中クジを引く地点にいる審判に申し出ること。また3名がゴールした時点で競技は終了する。以上だ」

 

 

 競技に出る人達を見渡すと、知り合いがいることに気づいたため声をかけに行く。

 

 

「おーい、やっほー綾鷹くん」

「…………何だそのお茶みたいな名前は」

「“綾”小路清“隆”で綾鷹くん、結構良いと思わない?あ、でも『たか』の部分の漢字が違うかー……」

「それより、赤井も2レース目なのか?」

「うん、そうだよー。お互いがんばろーね」

「よう。赤井に金魚のフンか。おい金魚のフン、あの筋肉バカは借り物競争には出なかったのか?てっきり出ると思ってたぜ。それに鈴音も姿がないが、まさか体育祭の裏でハメてんじゃねえだろうな?」

「さあ。オレには関係ないからな……。クラスの内情もよく分かってないんだ」

「糞らしい回答だな。おい赤井、負かしてやるから覚悟しとけよ」

「あはは、期待しとくねー」

 

 

 そんな会話をしているうちに1レース目が終わったようで、2レース目の私たちのスタート合図がなる。一番乗りでクジ引きの場へ着くと、箱の中に手を入れる。

 

 

 『杖』

 

「……こんなピンポイントなことある?」

 

 

 若干困惑しながらも、Aクラスのテントに爆走する。……そうだ、折角なら面白い方がいいよね。本を読んでばかりの有栖ちゃんにも、ちゃんと体育祭に参加して欲しいし。

 

 

「あーりっすちゃん!」

「……?何ですか、萌さん。その不敵な笑みは」

「んー?ちょっとお身体失礼します!!ちゃんと杖持っててねー!!」

「……はい?きゃっ___!?」

 

 

 不思議そうな有栖ちゃんを無視して私は強制的に有栖ちゃんをお姫様抱っこし、杖を持たせる。有栖ちゃんの膝の上に綺麗に畳まれていた私のジャージが椅子に落ちたが、まあ気にすることでもないだろう。

 

 

「有栖ちゃん、しっかり掴まっててねー。じゃ、全速前進!!」

「も、萌さん!!今すぐ降ろしなさい!!!」

「えー?だって私のお題『杖』なんだもん。杖を持ってる人なんて有栖ちゃんしかいないでしょー?」

「でしたら私ごとではなく……!杖だけ持っていけば……っ!いいでしょう……!!」

「あはは!!こっちの方が面白いかなって!!!それともお題は『好きな人』とかの方が良かったかなー!?」

「っ、黙りなさい!!」

「わっ!?今運んでるんだから杖振り回さないでー!?!?」

 

 

 結局そのままゴールに一番乗りで到着し、顔が真っ赤な有栖ちゃんをお姫様抱っこしたままAクラスのテントに戻った。いやー、珍しい表情の有栖ちゃんも見れたし満足満足。さっきから恨めしげな視線と足にぶつかる杖が痛いけど。

 

 

「有栖ちゃん、痛い、痛いよー。1位でゴール出来たんだからいいじゃーん」

「結果ではなく過程の話をしているのです!あのような、公開処刑のようなことをっ……!!」

「公開処刑?真っ赤な有栖ちゃんすごく可愛かったのに……」

「それが!公開処刑だと言っているのです!!」

「ぎゃー!?有栖ちゃん、それ脳天狙ってるよね!?真澄ちゃん、助けてー!有栖ちゃんがひどいよー!!」

「いや自業自得でしょ。ちょ、私を盾にすんな!」

 

 

 杖を振り回している有栖ちゃんの攻撃を避けながら四方綱引きの結果を見る。やはりというか、Dクラスは須藤くんが抜けてしまっているようだった。その影響か、Bクラスとの争いに負けて最下位になってしまう。Aクラスは2位。……と、男女混合二人三脚の待機列に行かないと。そう思い、肩で息をして疲れている様子の有栖ちゃんに声をかける。

 

 

「有栖ちゃん、行ってくるね!ほら真澄ちゃん、早く並びに行こー」

「分かったから、押さないでよ」

「はぁ……はぁ……萌さん、私にここまでさせたのです。負けなど絶対に許しませんからね」

「あはは、がんばるよー。橋本くんも、行くよー!」

「おう、がんばろうぜ」

 

 

 待機列に並んでいると、帆波と男の子の姿が見える。帆波、前に運動は得意じゃないって言ってなかったっけ。そう思っていると、こちらに気づいた帆波から手を振られる。

 

 

「あ、やっほー萌ちゃん!萌ちゃんも二人三脚出るの?」

「うん、帆波も?中々手強そうだね」

「んー、柴田くんは早いけど、私はそんなこともないよ?まだ1位1個も取れてないし」

 

 

 帆波と一緒に走る男の子は柴田くんと言うらしい。確かサッカー部の……。爽やかな感じの子だ。

 

 

「何を隠そう、Bクラスの快速柴田マンとは俺の事だぜ!」

「あははは!だっさいあだ名!」

「ださくないだろー!赤井もめっちゃ速いらしいけど負けないぞ!」

「うん、お互い頑張ろうね。じゃあ橋本くん、結んじゃっていいかな?」

「おう、いいぜ。しかし赤井、お前大丈夫なのか?」

「ん?大丈夫って何が?」

「いやいや、四方綱引き以外全部出てるだろ?休憩とか昼休みがあったとはいえ、体力の消費も激しいんじゃないかと思ってな。ほんと、よくやるわ」

「んー、まあ体力にはちょっと自信があるからね。……よし、足はこれで大丈夫かな。じゃあ並ぼうか!」

 

 

 ……体力、か。別にこの程度で体力が極限まで奪われることはない。この体育祭、私は一度も()()()()()()()()()のだから。

 ……ま、それを言ったところで何か変わるわけでもないし。今は二人三脚に集中しよう。

 

 

「よーし、橋本くん。ちゃんと私の肩に掴まっててね〜」

「……ん?そりゃ肩に手は置くが……」

「真澄ちゃんの時は試せなかったからね!ほら、いっくよー!」

「……は?いや待て待て、なんか浮いて……ギャアアアアアアアア!?!!!!」

 

 

 

 

 _________________

 

 

 

「し、死ぬかと思った……」

「橋本くん、軟弱だなー。さっきからずっと這いつくばってるよー?」

「足が完全に地面から離れてる上にお前と俺で身長差があるからな!!腕を伸ばしてギリギリ掴めるかどうかだったんだよ!!!!てか事前に言えよそういうのは!!!」

「だって、事前に言ったら真澄ちゃんみたいに断られるから……」

「……今だけは橋本に同情するわ…………」

「ほら橋本くん、次は1200メートルリレーだから頑張って?はい、深呼吸深呼吸」

「お前のせいだろ……水、水くれ…………」

 

 

 橋本くんの背中を摩っているうちに、1200メートルリレーの召集がかかる。1200メートルリレーは各クラスから男女3名ずつ、1人200メートルを走ることになっている。それが3学年混合となる、異例の競技。1年Aクラスのスタートレーンは内側から4番目になっている。抜け出した生徒からインコースを取っていいルールとなっているため、最初の位置取りが肝となってくるのは言うまでもないだろう。1番手を務めるのは鬼頭くん。一応彼にもスタートダッシュは教えたが、どうなるだろうか。

 

 スタートを告げる音と共に、12人が一斉に走り出す。トップに躍り出たのは、スタートダッシュを華麗に決めた須藤くんだった。それに続くように、11人が走っていく。鬼頭くんは現在3位。混戦に巻き込まれた時の為に彼を起用したのは正解だったかな。その後も状況は転々とし、抜かし抜かされを繰り返して5番手の橋本くんに渡る頃には4位になっていた。元々うちのクラスのメンツは能力としては悪くない。こと運動においては特別秀でたものが少ないのも事実だが、体育祭までにひたすら技術面と身体の動かし方を強化してきた。一番最初の練習の頃とは見違えるような進化をしたと言ってもいいだろう。

 私はアンカーとして、位置に待機する。すると上級生と思われる金髪の男と、生徒会長さんが何やら話し出した。

 

 

「この勝負は俺たちの勝ちっスね堀北会長。出来れば接戦で走りたかったですよ。総合点でもうちが勝ちそうですし、新時代の幕開けってところですかねー」

「本当に変えるつもりか?この学校を」

「今までの生徒会は面白みが無さすぎたんですよ。伝統を守ることに固執し過ぎたんです。口では厳しいことを言いながらも救済措置を忘れない。ロクに退学者もでない甘いルール。もうそんなのは不要でしょう。だから俺は新しいルールを作るだけです。究極の実力主義の学校をネ」

 

 

 そう言い終わると、金髪男は助走に入る。言葉からして彼が次の生徒会長になる男なのだろうか。それにしても、次期生徒会長さんとの距離はかなりあるなあ……。追いつけない……ことはないと思うが、かなり全力を出さないと無理そうだ。そんなことを考えていると橋本くんが3年Aクラスを抜き3位になる。

 

 

「っしゃナイス!後は任せてちょ!」

 

 

 目を輝かせた柴田くんが、1年Bクラスの5番手からバトンを受け取る。彼に追いつくくらいに留めておこう。そう思い、ふとAクラスのテント___有栖ちゃんの方へ目を向ける。がんばるから見ててねー、と手を振ると、彼女にしては珍しく小さく手を振り返してくれた。そして口を動かしてこう一言。

 

 

 『勝ちなさい、私の騎士(ナイト)さん』

 「ははっ……」

 

 

 全く、無理を言ってくれる。橋本くんが迫ってくる気配を感じ、助走に入りながら有栖ちゃんに笑って指を指した。

 

 

「____了解、有栖ちゃん(マイ・キング)!」

 

 

 バトンを受け取り、フルスロットルで駆け出す。この広い世界で、全速力で駆け抜けたのはいつ以来だろうか。いや……こんな開放感がある状態なのは、生まれて初めてかもしれない。風が、音が、通り過ぎていく。1つ目のカーブを越える頃には柴田くんを追い抜かしていた。私が狙うは、前の直線を走るあの金髪。上げていたギアを、更に、更に上げる。2つ目のカーブを迎えた頃、金髪の背中を捉え、遂に追いつくことに成功する。

 

 

「んなっ____!?」

 

 

 金髪が驚嘆の声を漏らすが、そんなことはどうでもいい。汗を伝う感覚。冷たい風が頬を打ち、砂埃が舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___ああ。私は今、生きている(楽しい)んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __________________

 

 

 

 走り終わって空を見上げている私に、金髪男が話しかけに来る。その顔は私に負けたにも関わらず、どこか歓喜を隠せない様子だった。

 

 

「おいお前、名前はなんだ。その力は今まで隠してたのか?」

「………赤井萌、1年Aクラスです。別に隠してはいませんでしたよ、金髪男さん」

「俺は南雲雅だ。それにしても……クハハッ!おもしれぇ、まだお前みたいな奴がいたとはな」

 

 

 南雲先輩は、生徒会長さんと熱いバトルを繰り広げている清隆の方へと目をやる。

 

 

「……アイツも気に入らない。綾小路、だったか。おい、赤井」

「はーい、何でしょう」

「俺が3年になったら、お前たち共々相手にしてやる。それまで楽しみに待ってるんだな」

 

 

 そう言い残し、南雲先輩はその場を去っていく。別に私は相手をして欲しい訳じゃないから全然楽しみじゃないんだけど。……それにしても、興奮しすぎたな。少し風に当たりたいし、頭を冷やすためにも人がいない場所に移動するか。それに……結果が確定する前に、提出したいのもあるし。そう思い、私は()()()()()と会ってから教員のテントへと向かった。

 それから程なくして閉会式が行われ、結果が発表される。赤組対白組の戦いは赤組の勝利。続いてクラス別の総合得点が発表される。

 

 

 1位 1年Bクラス

 2位 1年Aクラス

 3位 1年Dクラス

 4位 1年Cクラス

 

 

「……は!?Cクラスが最下位ってマジかよ!」

「嘘だろ、俺たちが最下位かと思ってたぜ……」

 

 

 Dクラスが騒ぐのを横目に、私は龍園くんの方を見やる。龍園くんは驚きを隠せないという様子で目を見開いていた。それもそうだろう。これは私が仕組んだ結果なのだから。私は今回Dクラスの参加表が漏れていると判明した時点で協力者に頼んで1年の競技風景をスマホに撮影をしてもらった。龍園くんの堀北潰しや須藤くん狙いは、一見するとその場での喧騒に混じった隠滅の容易いことに思える。しかしそれは、()()()()()がないから出来ること。被害者の訴えだけでは負け惜しみにしか聞こえないものも、録画という物的証拠があれば話は変わってくる。意図的に龍園くんたちのクラスがDクラスの子達を怪我させた、というのが明るみになってしまう。結果、龍園くんのクラスは反則判定を喰らい失格扱い。獲得点数の一部を剥奪されてしまったのだ。

 

 

「それでは最後に、学年別優秀選手を発表する」

 

 

 1年最優秀賞はA組・赤井萌

 

 

 電光掲示板に表示された文字を見て安堵する。良かった、あれだけ豪語しておきながら取れてなかったら面目が丸潰れだからな。有栖ちゃんの方を見ると、私の方を不敵な笑みで見つめている。……何だ?喜んでいる……のか?いや、それよりも何か……面白いものを見つけた、というような。私が疑問に感じていると閉会式が終わったようで、校舎に戻る生徒で溢れかえる。少し流れが過ぎ去るのを待ってから戻るか、そう思っていると真澄ちゃんから声をかけられる。

 

 

「ねえ、萌。坂柳が5時になったら特別棟に来いって」

「え?私?」

「そう。なんか不気味なほど上機嫌なんだけど、あんた何かしたわけ?」

 

 

 ……何だろう?特訓の件についてかな。疑問に思いながらもロッカーで制服に着替え、約束の5時に向けて特別棟へと向かった。

 

 

 

 ________________

 

 

 

 約束の時間、特別棟の入口へと辿り着く。ここで待っていればいいのだろうか、そんなことを思っていると程なくして清隆を連れた真澄ちゃんがやってきた。……清隆と、私?この組み合わせって……嫌な予感を察知しながらも、私は声をかける。

 

 

「あれ、綾小路くんじゃん。綾小路くんもお呼び出し?」

「そんなところだ」

「ついてきて」

 

 

 短く不機嫌そうに呟くと、真澄ちゃんは私たちを特別棟の3階へと連れていき、待つように伝える。そして廊下の角に差し掛かると、一言小さく呟く。

 

 

「もう帰ってもいい?」

「はい。ご苦労様でした真澄さん。またよろしくお願いしますね」

 

 

 真澄ちゃんが去っていき、廊下の奥からゆっくりと有栖ちゃんが姿を見せる。

 

 

「あ、有栖ちゃん。ねえ、何の話?」

「坂柳、だったか。あんたがオレたちを?」

「最後のリレーは大注目を浴びていましたね。赤井萌さん。綾小路清隆くん」

「あー悪い。ちょっと先に1通メールだけ送ってもいいか。待ってる人がいるんだ」

「どうぞ」

 

 

 清隆はメールを送ると、有栖ちゃんを怪しむように見ながら再び声をかける。

 

 

「それで……おまえでいいのか?オレたちを呼び出したのは」

「はい」

「一体何の用だ?出来れば早く本題を切り出してほしいんだけどな」

「あなたがたの最後の走りを見ていてあることを思い出してしまったんです。その時の衝撃を共有したいと思ってつい呼び出してしまいました。まるで告白の前触れみたいですよね」

「何の事だかさっぱりだ……。赤井は分かるか?」

「ううん、何も。有栖ちゃん、なんか変だよ?」

「ふふ、まさか貴女もとは思いませんでしたよ萌さん。いえ、必然だったのかもしれませんね。私が最初に感じたものに納得が行きました」

 

 

 何も、と言いつつもこの組み合わせに違和感を覚えずにはいられない。まさかこの少女は、あの施設の関係者なのか?カツン、カツンと杖をつきながら坂柳有栖は私たちの隣に立つ。

 

 

「萌さんは既に出会っていましたが、改めて。お久しぶりです綾小路くん。萌さん。8年と243日ぶりですね」

「冗談だろ。オレはお前なんて知らない」

「私も、この学校以前に会ったことないと思うな。人違いじゃない?」

「ふふ、知らないのも無理はありません。私だけが一方的に知っているのですから」

 

 

 段々と杖が遠ざかっていく。それだけの事を言いに来たのだろうか。そう思っていると、坂柳は私たちと反対に歩き出す。

 

 

「ホワイトルーム」

 

 

 振り向かずにはいられなかった。それは清隆も同じようで、先程私と合流した時よりも強い警戒心を坂柳に向けている。

 

 

「嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるというのは。懐かしい再会をしたんですから、挨拶をしないわけにはいかないと思ったんです」

 

 

 知っているか?そんな視線を清隆から向けられるが首を横に振ることしか出来ない。確実に、この坂柳有栖という女はこの学校で初めて出会った。記憶を失ったということもない。そんな私たちの思考を見透かしたかのように、坂柳は言葉を続ける。

 

 

「無理もありません。あなたがたは私を知りませんから。でも私はあなたがたを知っている。これも不思議な縁、なんでしょうね。このような場所であなたがたに再会するなんて。……萌さん。入学当初貴女に言った言葉を覚えていますか?」

「……人はこういうのを運命とも呼ぶ、だっけ?」

「ええ。私と貴女が出逢ったのは運命だと、今日確信しました。それに……綾小路くん。これで全ての謎が解けました。無人島、船上、そしてDクラスの退学騒動。全てが堀北鈴音の作戦だとはどうしても思えませんでした。その全ては貴方が裏で糸を引いていたんですね」

「なんのことだか。うちには何人か参謀がいるからな」

「参謀とは堀北鈴音さんのことですか?それとも平田洋介くん?どちらにしても貴方の存在が出てきた以上誰がいても関係ありませんけどね」

 

 

 この過信。間違いない。坂柳の言葉は嘘やハッタリではない。ホワイトルームを、そして綾小路清隆(最高傑作)を知っている。

 

 

「安心してください。あなたがたのことは一先ず、誰にも言うつもりはありませんから」

「言えば楽になるんじゃないか?」

「邪魔されたくありませんし。偽りの天才たちを葬る役目は私にこそ相応しい」

「……あー、ちょっといい?私は途中で脱落したし、もし有栖ちゃんが偽りの天才を葬りたいのであれば私は該当しないと思うな」

「いいえ。あの時見た貴女は、綾小路くんにも負けずとも劣らない存在でした。……フフ。退屈な学校生活にも、少しだけ楽しみができましたね」

「ひとつ聞いてもいいか」

「貴方から質問を頂けて光栄です。どうぞ聞いて下さい。私が貴方を知っている理由が知りたければお答えしても構いませんよ?」

「いや、そんなことに興味はない。ただ一つだけ知りたい」

 

 

 お互いが、お互いの目を見つめ合う。

 

 

「おまえにオレたちが……いや、オレが葬れるのか?」

「……ふふ。ふふふ。すみません、笑ってしまって。でも貴方の発言を侮辱したつもりはありません。私は貴方がどれだけ凄い方か良く知っていますから。今から楽しみになりました。貴方のお父様が作り上げた最高傑作を破壊してこそ悲願も達成できるというもの」

 

 

 そう言い残すと、満足したのか坂柳は特別棟を去っていった。2人残った廊下で、清隆がこちらに語りかける。

 

 

「久しぶりだな、萌。やっぱり()()()は演技だったか」

「……ええ。まさかお会い出来るとは思ってもいませんでした。私のようにホワイトルームを脱走した、という訳でもないのでしょう?」

「一年前に稼働停止になってな。いろいろツテがあってここに入学することに決めたんだ」

「そうなると、先生が黙っていないのではないですか?」

「……そうだな。事実かどうか定かではないが、学校側に訴えに来たと聞いている」

「実力行使に出るのも時間の問題でしょうね」

「おまえから見て、坂柳有栖はどう思う。アイツがホワイトルームについて知っているのをおまえは知っていたのか?」

「まさか。私も初耳ですよ。……油断はなりませんが、彼女の口ぶりに嘘はありませんでした。しばらくは観察でしょうか」

「ひとつ聞きたい。おまえはアイツのことをどう思っている」

「味方か敵か、という話ですか?」

「いや。そうだな……これまで接してきて、大切に思っているか、友人だと思っているのか。それが聞きたい」

 

 

 そんな最高傑作からの質問に、思わず嘲笑してしまう。

 

 

「___まさか。坂柳有栖は、道化(赤井萌)の演出にすぎませんよ」

「そうか。おまえが今でもそうならいい。今大切なのはホワイトルームについて知っている人間がいること。そして、ホワイトルーム関係者からの刺客である可能性があることだ」

「となると……私は坂柳の観察と、場合によっては清隆との共闘を選べ、と?」

「そうなる。ここにおまえがいる事があの男にバレたら、おまえも連れ戻される可能性が高いだろう」

 

 

 それは否定できない。サンプルとして、そして何より最高傑作に並ぶ存在として、先生が私を無視するとは到底思えない。

 

 

「分かりました。その話をのみましょう。それより、個人的な疑問をいいですか?」

「ああ」

「今、あなたがたは龍園によって狙われている状態です。今回の体育祭で堀北たちDクラスを成長させる目論見なのは理解できました。となると、これからも狙ってくるであろうCクラスの対処はどうされるのですか?」

「必要になれば、オレが龍園を処理する」

「なるほど。Cクラスもあなたによって成長するということですね」

 

 

 少し考え、結論に至る。私がこの学校に存在する意義。価値。それを定義するため、必要なこと。

 

 

「であれば、BクラスとAクラスの処遇は私に任せていただけませんか?」

「構わない。だが、坂柳をどうにかできるのか?」

「ええ。清隆に迷惑はかけませんよ」

「そうか。それならいい。……そろそろ帰るか、ここに長居するのも問題だろうしな」

「……そうだねっ!それにしても、面倒なことになったな〜」

「同感だ。何事もなければいいんだけどな」

 

 

 ホワイトルームの人間が清隆を倒すのではなく、部外者が倒すことで、先生の教育……もといホワイトルームの存在は否定される。となると、有栖ちゃんの存在は都合がいいのかもしれない。

 その未来が来ることを、私は誰よりも望んでいるのだから。

 

 

 

 

 






クラスポイント推移
Aクラス→0CP →1094CP
Bクラス→-50CP→703CP
Cクラス→-200CP→492CP
Dクラス→-50CP→162CP

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