ようこそ青春至上主義の教室へ   作:イノセ

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〈??の独白〉



 私が私という自我を持った時、初めて見た景色は真っ白な天井だった。天井だけではない。壁も、床も、自分の着ている服さえも、全部白。それはただの経費削減なのか、それとも自分たちがまだ何者でもない存在ということを示しているのか、私にはまだ分からない。
 
 ホワイトルーム。それが、私の最初の世界。
 
 そこには、一般的な子供が享受するはずの温もりも、絵本も、玩具もなかった。与えられるのは、ただひたすらに己の限界を削り取るような『教育』という名の虐待、あるいは幽閉のみ。泣き叫ぶことすら無駄であると、私の脳髄は幼い頃から完璧に理解した。ホワイトルームには様々な子供たちがいた。カリキュラムについていけず泣き叫ぶ者たち。無機質な部屋の中、感情を体現し説いてくる少女。自由を求め、外に飛び出した少年。
 それに影響されたのかは分からない。それでも、ホワイトルームが私を完璧な人間にしようとすればするほど、皮肉なことに私はその施設に価値を感じなくなってしまった。やがて、この施設の中では学べないものもあると理解した。
 それは『感情』という不確定要素であり、いつかの少年が説いた『自由』という未知の概念。ホワイトルームの純白の壁の外には、人間が人間たる所以の感情が広がっている。私はそれを知りたいと思った。極めて論理的な知的好奇心だった。
 しかし外で待っていたのは、そんな生易しい夢物語ではなかった。今の私を、私とした原因。外の世界で起きたあの『運の悪い出来事』を二度と繰り返さないよう、私はこの高度育成高等学校という世界で、『赤井萌』という仮面をつけた。……いや。それだけでは無いのかもしれない。
 
 『萌ちゃんには、普通の女の子として、普通に笑って過ごしてほしい』

 私にとって唯一無二の存在であった、彼らの言葉。それを無意識に実行しようとしていたのかもしれない。彼らがくれた『事実』を、楔のように心に打ち付けてしまったのかもしれない。


 私は、先日清隆に言われた言葉を思い出す。

 
『おまえは、アイツ(坂柳有栖)のことをどう思っている。大切に思っているか、友人だと思っているのか。それが聞きたい』


 本来の私の答えとして、あの場では答えた。坂柳有栖は道化(赤井萌)の演出に過ぎない。いや、坂柳有栖以外の他の人間も、すべて私が生き残るための道具であり、駒でしかない。少しでも私の利益にならないもの、私に危害を加えるものは、容赦なく見捨て、切り捨てる。
 それが、私であるはずだ。


 ……であれば何故、私はあの体育祭の日から、清隆の言葉が脳裏によぎってしまっているのか。一人きりの部屋のベッドに横たわり、私は白い天井を見つめる。純白。ホワイトルームを思い出すその色を見つめながら、私は自分自身に問いかける。



 私は、誰なのですか?



 虚像の中に見出した居場所というものは、所詮偽りに過ぎない。ならば、船上にて神室真澄に感じたあの心情は何なのか。利益にならない、坂柳有栖との特訓を提案したのは、リレーの時の指示に答えてしまったのは何なのか。

 私は、彼らが願った『普通の女の子』になれているのだろうか。それとも、普通の女の子を精巧に演じる怪物に成り下がっただけなのか。

 矛盾という数式が、私の中に襲いかかる。……私はこの先も、赤井萌(ピエロ)でいられるだろうか。それとも、もっと坂柳有栖と関われば、この芽生えたものが分かるのか。


「……気持ち悪い。意味のない空想ですね。こんなものは」


 吐き捨てるようにそう言い、()は眠りに落ちていった。





ハロウィンって原作で無視されてて可哀想

 

 

 

 

 期末テストに向けて、勉強会が行われ始めた。流石にクラスで一丸となっているところに水は差せず、私も勉強会に強制参加。たまに有栖ちゃんと息抜きにチェスをしたりお出かけをしたり。そんな一日が今日も始まるんだろうなー、と思いながら私は教室に入る。

 

 

「みんなおはよー」

「あ、もえぴー!トリック・オア・トリート!!」

「…………トリック?」

「え、もえぴーお菓子持ってないの?じゃあ……頭わしゃわしゃの刑だー!!」

「わっ、なに、なになに……?髪が崩れる!私がくせ毛だったら絶対キレてたよ!?」

 

 

 一通り髪をわしゃわしゃされた後、満足そうに立ち去っていった。……何だったんだ今の。というか何だ、あの装飾…。普段は真面目に予習をしているはずのAクラスの女子生徒たちの集団の頭に、悪魔のツノや魔女の帽子といった奇妙な装飾品が乗せられている。彼女たちの手には何やら見慣れないカボチャの形をした小さなバケツが握られているし……その中に入ってるのは……お菓子?

 

 

「ふふ、おはようございます萌さん。何をされたかまるで理解していない顔ですね」

「あ、有栖ちゃん。おはよー。あれ、どうしちゃったの?せっかく整えてきた髪が台無しだよ。何、この謎の儀式。有栖ちゃんは知ってる?」

 

 

 私が少し恨めしげに髪を直していると、有栖ちゃんは面白おかしそうに笑う。

 

「謎の儀式、ですか。ええ、もちろん存じていますよ。むしろ、今の時期にこれを知らない高校生がいないと言っても過言では無いでしょう」

「高校生って難しいなー……。それで、何なの?」

「ハロウィンですよ、萌さん。古代ケルト人の収穫祭にして、悪霊を追い払うための宗教的な行事が起源とされています。現代ではすっかり商業化され、ただ仮装をしてお菓子を要求するだけの子供騙しのお祭りへと成り下がってしまいましたが……。どうやらAクラスの生徒たちは、試験の重圧から現実逃避をするために、こういった世俗的なイベントに縋りたいようですね」

「はろ……うぃん…………ああ、あー。キリスト教の。なるほど……じゃああの子が持ってるのは小型のジャック・オー・ランタンなのか……」

「それにしても……過去が過去とはいえ、こうしたイベントごとを知らないのはいささか問題とも言えますね」

「……問題?」

「ええ。貴女は普通の学生として過ごすことを目標にしているでしょう?ですが、普通の学生ならハロウィンを知らないなどまず有り得ません。よって、貴女が困惑していること自体が不自然になります」

「あー、それは確かに……下手したら私、清隆よりもそういうの知らなそうだし……」

 

 

 有栖ちゃんは私のことをどこか優しい笑顔で見つめた後、何かを思いついたかのように悪戯っぽい笑顔になる。

 

 

「いいでしょう。貴女にはこれまで、私の退屈しのぎに付き合っていただきましたからね。今回は、この私が直々に貴女に『ハロウィン文化』を骨の髄まで叩き込んで差し上げましょう。ええ、これもいい機会です」

「…………え? ちょ、ちょっと待って有栖ちゃん。その顔、絶対に何かろくでもないこと企んでるよね? 私、座学で教えてくれればそれでいいんだけど……」

「いいえ、座学だけでは完全に学べないのがこういった年中行事というものです。何事も実践あるのみですよ」

 

 

 私にそう言い残すと、有栖ちゃんは杖をカツン、カツンと鳴らしながら教室の前の方へと向かった。……なんだろう。なんかすごい嫌な予感がする。私、今からでも欠席した方がいいかな?

 

 

「おはようございます、皆さん。先程から少々騒がしいようですが……本日はハロウィンでしたね」

「え、あ……ご、ごめん坂柳さん。ちょっとはしゃぎ過ぎたかな?」

「いいえ、結構です。せっかくの息抜きの機会ですからね。授業に支障が出ないようであれば、何をしようと構いませんよ。私もこの機会を大きく活用したいと考えましたので。つきましては、本日の放課後、クラスメイト全員参加による『Aクラス第一回・仮装大会』を開催いたします」

 

 

 その有栖ちゃんの言葉に、教室中がどよめきに包まれる。ちょうど来たばかりの真澄ちゃんとか「は?何言ってんの?」って有り得ないものを見る顔してる。

 

 

「か、仮装大会?坂柳、本気か?ほ、本当にいいのか?」

「ええ、いつも皆さんには苦労をかけていますからね。皆さんでお菓子を持ち寄ったり、仮装をして知らない一面を知ったりするのも良いでしょう。しかし、妥協は許しません。仮装を着こなした、いわば仮装大会にて最も優れている方一名に私からプライベートポイントを差し上げます」

 

 

 ポイント、という言葉が出た瞬間、クラスメイトたちの目の色が変わった。彼らもまた、実力至上主義の学校で生き残るために必死なのだ。有栖ちゃんからの報酬となれば、それは莫大な利益を意味する。……でも有栖ちゃん、報酬を用意したらそれはお遊びじゃなくなる気がするんだけど。

 すっかり盛り上がるクラスメイトたちを満足そうに見渡し、有栖ちゃんは再び自分の席へと戻ってきた。そして私のように、まるで悪魔のように微笑みかける。

 

 

「さて、萌さん。聞いての通りです。貴女はこの『仮装大会』に参加し、私を心の底から楽しませるような完璧なハロウィンの姿を提示しなければなりません。もし、私が退屈するような、あるいはハロウィンの本質を理解していないような仮装を披露した場合……」

 

 有栖ちゃんの顔が、私の耳元に近づく。そして囁くような声で一言。

 

 

「今後一ヶ月間、貴女には私の専属メイドとして、ありとあらゆる雑務をこなしていただきます。もちろん、メイド服を着た状態で、です」

「なっ……!?有栖ちゃん、それ絶対私のリターンに見合ってないよね!!?!!」

「おや、私は親切心でハロウィンの文化を貴女に教えようとしているまでですよ?専属メイドが嫌なのであれば、専属チェスプレイヤーでもいいかもしれませんね」

「それ今も同じようなことやってるじゃん!!というか仮装なんてどこで入手すればいいの!?!!」

「ケヤキモールに、ハロウィンフェアとしてレンタルしてくれるお店がいくつかあります。そちらに行ってみては?まあ、ただ仮装するだけでは他の凡俗なクラスメイトたちと差はつきませんが」

 

 

 心底面白そうに笑う有栖ちゃんを少し睨む。何が親切心だ、ただ自分が楽しみたいだけじゃないか。

 

 

「そういえば、さっきの子が言ってたトリック・オア・トリートって何なの?直訳すれば『欺瞞か、それとも治療か』……いや、文脈的におかしいか。『悪戯か、もしくはもてなしを』みたいな感じ?おかしくない?」

「それはハロウィン特有の決まり文句ですよ。ハロウィンではおもてなしをお菓子に変えて、『お菓子をくれないとイタズラしますよ』という意味になります」

「はー、なるほど!じゃあハロウィンって仮装するだけじゃなくて、合法的にお菓子をねだったり悪戯ができたりしちゃう日なんだ!」

「ええ、そういうことになりますね」

「じゃあ有栖ちゃん、トリック・オア・トリート!悪戯させて!」

 

 

 私は有栖ちゃんの方に両手を差し出し、『悪戯の権利をくれ』のポーズをする。

 

 

「おや、いきなりですか。期待を裏切ってしまって申し訳ないのですが、私はお菓子を用意しています。はい、どうぞ」

「ちぇー、なーんだ。合法的に有栖ちゃんのこと困らせられると思ったのに」

「ですが萌さん……仕掛けたということは、やられ返される覚悟がおありということですよね?」

「え?」

「トリック・オア・トリートです、萌さん。お菓子をくれないなら悪戯しますよ」

「うわ、卑怯!!私今日までハロウィンの文化を知らなかったんだよ!?!お菓子なんて持ってるわけないよ!!」

「であれば、悪戯を受け入れるしかありませんね。放課後楽しみにしていなさい」

「げぇ、今すぐ何かするわけじゃないのー?それはそれで怖いよぉ」

 

 

 朝の喧騒も真嶋先生が来たことでなりを潜め、私たちは放課後の仮装大会に向けて準備をしていくのだった。

 

 

 

 ________________

 

 

 

 放課後。1時間後、教室に集合となっている仮装大会に向けて、私はケヤキモールに来ていた。今から衣装を手作りする時間はない。なので必然的に衣装のレンタルサービスを受ける必要があるのだが、何の衣装にするか、どう他と差をつけるかが重要になってくる。

 

 

「うーん……専属メイドも専属チェスプレイヤーも嫌だし、どうにか頑張らないと……」

 

 

 あ、ケヤキモールに来たついでに家電量販店にも行こう。夏休みに私が特注で注文したものの進捗状況も気になるし。

 なんだかんだでケヤキモールを彷徨って30分。小物を買ったり、血糊を買ったり。絶対こんなものハロウィン以外で使わないのに……と思いながらも、有栖ちゃんは妥協をした瞬間にそれを見抜くだろう。あとは……。

 

 

「…………これ、本当に着ないといけないのかなあ」

 

 

 私が借りたのは西洋吸血鬼のコスプレ。吸血鬼は人気らしく、女の子らしい可愛い衣装は借りることが出来なかった。そのためどちらかと言うとかっこよさが全面に出た装飾のものだ。マントやベスト、ギザ歯など、まあ大抵の人が吸血鬼と言って想像する様なものなのだろう。それにしても、これはどうやって着れば良いのだろうか。私が1人悶々としていると、見かねた店員さんから声をかけられる。

 

 

「あの、良ければお手伝いしましょうか…?」

「え、いいんですか?ぜひお願いしたいですー!こういう衣装、着慣れてなくて……」

「そうですよね、それにこの衣装は多少動いても大丈夫なように、少し手順が多くなっているんです。あ、脱ぐ時は簡単なんですけどね。お身体失礼してよろしいですか?」

「はーい」

 

 

 その後店員さんに着替えを手伝って貰いながら、軽く雑談をする。確かに、他の吸血鬼衣装よりかは生地が柔らかくて多少動きやすくなっている。私が着終わると、店員さんはお決まりの笑顔で褒め称えてくれた。

 

 

「すごくお似合いです!お客様が個人的に買われた装飾ともよく合いますね!!今なら限定サービスとして、衣装に合わせた髪型変更なども出来るのですが……」

「髪型?……それで何か変わるんですか?」

「はいっ!例えばお客様でしたら、本来の髪型ですと少し可愛らしさが目立つ形になりますが、衣装に合わせてカッコよく、ボーイッシュな感じに仕上げることも可能です!この後お友達と楽しむのであれば、あっと驚かせられること間違いなしです!」

 

 

 ……あっと驚かせる。なるほど、有栖ちゃんの意表を着くには丁度いいのかもしれない。そう思い、私は店員さんにサービスを頼んだ。仮装大会まで、あと15分。

 

 

 

 __________________

 

 

 

 同日、15分後の教室にて。

 Aクラスの教室には、普段の厳かな雰囲気からは考えられない程和やかでくだけた様子が広がっていた。各々が仮装をし、褒め合ったり、トリック・オア・トリートの決まり文句を言い合ったり、お菓子を食べたりと自由に過ごしている。

 

 

「それにしても、赤井遅いな。もしかして部活みたいに逃げたか?」

「ふふ、その点に関しては大丈夫ですよ橋本くん。彼女が逃げないよう、釘をさしておきましたから」

「……何で私がこんな衣装を…………」

 

 

 狼男のコスプレをしている橋本が、どこから持ってきたか分からないグラスにぶどうジュースを注ぐ。それをクラスメイトに配る姿を見ながら、坂柳に強制的に命令され、黒い猫耳を付けた神室は「早く帰りたい」と言わんばかりにため息をついた。

 

 

「……にしても、ほんとにあいつ遅いわね。ケヤキモールでカフェに目移りして何か食べてんじゃないの?」

「ふふ、それも有り得ますね。ですが___」

 

 

 坂柳が言葉を発しようとしたその時。

 窓の外からガタガタガタッ!と音がした。何事かとクラスの皆が窓の方に視線をやると____風になびいたマントと共に、窓の外から登ってきた萌がアクロバティックに着地した。そして教室の机を乗り越え、廊下側の窓まで移動すると…窓の上に着いている換気用の小窓に足をかけ、逆さになり一言。

 

 

「みんな、トリック・オア・トリートー!!!お菓子をくれないならみんなから血としてプライベートポイントを奪っちゃうぞー!!」

「いや、対価が悪戯じゃなくて金かよ!?!」

「てか窓から!?ここ2階だぞ2階!!」

「もえぴー、その体勢大丈夫なの?」

「え?何が?」

「すごい頭に血登りそうだなって……」

「あー大丈夫大丈夫、それより有栖ちゃん!2回目のトリック・オア・トリートだよ!!」

 

 

 私は登場してからずっと無言で固まっている有栖ちゃんに向けて、逆さのまま指を指す。すると有栖ちゃんは本当に珍しく、糸が切れたかのように笑いだした。その姿はいつもの冷徹な女王様ではなく、まるで年相応の少女のようである。

 

 

「ふふ……ふふふ、あはははは!!」

「えっ、何有栖ちゃん!?!?そんなに爆笑するほど滑稽だった!?!!私なりに吸血鬼の演出、すっごい考えたのにー!!?」

「萌さん。私は仮装の出来は評価すれど、そこまでアクロバティックな動きをしろとは一言も言っていませんよ。ふふ、ふふふっ。そんなに仮装大会が楽しみでしたか?」

「なっ、私は有栖ちゃんが脅したから____」

「さて、皆さん。萌さんがこんなにも素晴らしい演出をしてくださったのです。彼女にお菓子を大量に与えてあげてください」

「はーい!もえぴー、そんなにハロウィン楽しみだったのー?可愛いところあるねー」

「てかすげー!吸血鬼の服だけじゃなくて、髪もワックスつけてんじゃん!オールバック?」

「え?あ、ちょっと……」

「赤井、おりてこいよー。お菓子渡せないぞー」

「ご、ごめん……ってわっ!?ちょっと、お菓子投げてこないで!」

 

 

 私の文句を遮るように放った有栖ちゃんの一言によって、私はクラスメイトに一斉に囲まれる。う、動けない……。原因である有栖ちゃんは少し離れたところから面白そうにこちらを眺めている。というかすごい触られるし。何なんだ、全く。もみくちゃにされた後、しばらくして解放される。その機を逃すまいと、有栖ちゃんたちがこちらにやってきた。

 

 

「ふふふ、お疲れ様でした萌さん。大人気でしたね」

「…………有栖ちゃん。誰のせいだと思ってるのー?私が店員さんにしてもらったセットがほとんど崩れちゃったよ」

「にしてもまたクオリティ高ぇな。レンタルした衣装に自前で小物を合わせてんのか」

「あ、橋本くんは狼男なんだねー。橋本くんっぽいや」

「……あんた、よくそんな気合い入れてやれるわね」

「いや、私だってそんなに真面目にやるつもり無かったんだよー?でも有栖ちゃんが、放課後の自由な時間を奪うって言うからさ」

「あら、結果として大量のお菓子をゲットできたのですから良いでしょう?……さて、これは約束の優勝景品です。受け取ってください」

「……有栖ちゃん、なんかすごい額が送られてるんだけど。これ気のせい?私の見間違いかな?」

「私を楽しませてくれたお礼ですよ。労働に見合った対価でしょう?」

 

 

 目を細め、また面白そうに笑う。私のこと、お笑いの道具か何かだと思ってる?まあ、確かにハロウィンがどんなものかは座学で習うよりも理解できたけど……。

 

 

 

「あ、真澄ちゃん、橋本くん!トリック・オア・トリート!真澄ちゃんはお菓子なくてもいいよ、悪戯したいし!」

「あんたの悪戯なんて悪質そうだから嫌よ。……ほら、前にチョコ好きって言ってたでしょ」

「わ!やったー!!ねね、橋本くんは?」

「俺は……もうほとんど残ってねえな。このグミで勘弁してくれ」

「…………グミかぁ」

「苦手だったか?」

「ううん、大丈夫!ありがとねー!!ふふー、お菓子が大漁だ!!」

 

 

 お菓子の山を袋に詰めていると、有栖ちゃんからじっと見つめられていることに気づく。

 

 

「有栖ちゃん、どうかした?」

「いいえ、お気になさらず。……萌さん。楽しかったですか?」

「…………?まあ、うん。楽しかったかな?非日常って感じがしたし、どう登場しようか考えてる時間は面白かったかも」

「そうですか、それは良かったです」

 

 

 そう言ってどこか満足したような、見たことないほど優しい笑顔をした有栖ちゃん。……何だ?なんか怖い……。何か裏があるのか……??変な有栖ちゃんだ。

 

 

「さて。仮装も楽しんだところで、カフェに行きましょうか。本日限定で、ハロウィンメニューが出ているようですよ?」

「え、ほんとに!?行こ行こ、すぐ行こー!」

「現金な方ですね。真澄さんたちもいかがですか?萌さんがポイントを出してくれるそうですよ」

「お、マジか!赤井太っ腹〜!!俺、一番高いやつな」

「え、有栖ちゃん!!?私そんなこと言ってないんだけど!!?」

「私が今決めましたから。それに、全員分を負担したとしてもまだ残る程のポイントを差し上げたはずですが?」

「むー……わかったわかった!私が奢るから!もー、有栖ちゃんってば人使いが荒いなー!」

 

 

 きっとあの施設にこもりっきりじゃ、こういう体験も出来なかったんだろうな。そう思うと、案外この生活もいいのかもしれない。損得だけで測れない感情というものも、きっと世の中が謳う『普通』に含まれているはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

……ところで、朝に『楽しみにしていなさい』って言われた悪戯って何されるんだろう?

 

 

 

 

 

 







「というか萌、あんな派手な登場の演出しなくて良かったんじゃないの?」
「え?あれでも結構初期案からは抑えた方だよ?最初は有栖ちゃんの手を持ち上げて手の甲の血を吸う(フリをする)つもりだったんだから」
「……うわぁ。あんた、やめといて正解だったわね」



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