いつも誤字報告ありがとうございます。とても助かってます。
毎回投稿する前に確認してるんですが、中々どうして見落としがちですね……。
クリスマスイブ
終業式も終わり、高度育成高等学校は正式に冬休みに入った。本日は12月24日、有栖ちゃんに1日空けておけと言われた日である。いつも通り寮のロビー集合かと思ったが、待ち合わせ場所として提案されたのはケヤキモールの一角にあるレトロカフェ。お昼に集まるから、そこでついでにご飯食べるのかな?そんなことを考えながら、私は外に出る支度をする。
今は午前7時を少し過ぎたところ。こんな時間から待ち合わせの場所に行くのかと言われたら否。私がそんな面倒なことをする訳がない。冬休み前、ある人物に日にちと時間指定で呼び出され、つい先程追加の連絡を受けたからだ。
「……あ、雪」
外に出ると、雪が大量に積もっていた。雪の状態的に、つい先程止んだといったところだろうか。……有栖ちゃん、こんな雪の中歩けるのかな?ちょっと心配になってきた。
夏か冬、どちらの方が好きか?という定番の質問をされたら、私は迷わず冬と答えるだろう。夏に嫌いな要素が多いというのもあるが……特定の動物たちが冬に必ず行うある“行動”が一番の要因だ。とはいえ、雪は体温を奪っていくからな。冬という季節は好きでも、雪という天気はあまり好きではない。ホワイトルームから出たばかりの頃は感覚を楽しんでいた時期もあったが、今はすっかり慣れてしまった。少し歩いてケヤキモールの外れに行くと、私を呼び出した人物ともう1人が話し込んでいた。
「赤井、遅いぞ」
「ごめんごめん、雪を見てたら遅れちゃった。生徒会長さん、おはようございまーす。……あ、今は生徒会長さんじゃないんでしたっけ」
「綾小路。南雲降ろしの協力者というのは、赤井のことか?」
「そうだ。オレがこの学校で最も実力に信頼を寄せる生徒と言っても過言では無い」
「綾小路くんに言われると照れちゃうね〜。それで?私はあんまり詳しいお話は聞いてないんですけど……」
「お前も存在は知っているであろう、現生徒会長の南雲雅のことだ。あいつはこの学校を根底から変えようとしている。奴は退学者を出すことを躊躇していない。来年になれば、退学者が後を絶たない事態になるのは目に見えている」
「それを止めて欲しいと。……正直、個人の思想に介入するのなんて不可能に等しいと思いますけどねー」
「もちろん簡単に出来ることだとは思っていない。ただ、南雲に対抗する人間は一人でも多くいた方がいい」
「なるほど。それで、綾小路くんは承諾したんですか?」
「一応、やれるだけやってみるつもりだ。堀北兄には借りもあるからな」
「ふーん……なら、私もオッケーですよ。生徒会……堀北先輩の頼みに応えられるかは分かりませんけど」
「それでいい。これからの学校生活は、お前たちに任せる」
そう大層な任務を押し付け、元生徒会長さんは去っていった。見えなくなったところで、清隆が座っているベンチの隣に私も腰掛ける。
「……それで?強引に共謀者に仕立てあげてどういうつもりですか?」
「最終的にはお前の決めたことだろ。堀北兄は、堀北を生徒会に入れることで南雲を監視し、オレを動かそうとしている。そこでお前にも、生徒会に入ってもらいたい」
「……仰っている意味が理解できないのですが。堀北が生徒会に入るのであれば、それでいいのでは?」
「確かに、南雲降ろしの面で見ればそれでいいだろうな。だが、お前も知ってるだろ。あの男がいつ動いてくるかわからない。この学校の生徒会は、話を聞いている限り普通の生徒よりも強い権力を持っている。学校運営側と密に繋がることが出来れば、この先の不穏な動きを真っ先に感知し対策を立てることができる」
「その為の人柱になれと。あまり気乗りはしませんね」
「そうだろうな。だが、オレたちに必要なことだ。お前は体育祭で一度南雲に目をつけられている。オレがもし表立って動くことになっても、南雲の執着をお前に向かせられれば楽に動ける」
「………まあ、約束したのはこちらですからね。約束は守りますよ。ただし、生徒会に入るのは少し待ってください。こちらから希望するより、あちらからの執着を向けさせた状態でオファーが来るのを待った方がいいでしょう」
「萌の好きなタイミングで構わない」
話が終わったのを感じ、私は清隆に別れを告げて寮へと帰る。……退学者の増加。南雲降ろし、か。これからの学生生活は、普通とはかけ離れたものになりそうだ。私は白い溜息を吐いた。
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午後。
待ち合わせの時間より少し早くケヤキモールに行き、有栖ちゃんに言われたレトロカフェへと足を運ぶ。しかし、今日のケヤキモールは何だか変な装飾ばかりだな。至る所にデコレーションされたモミの木が沢山あるし、さっきから赤い服を着た店員さんばかりだ。みんな同じような服装だし……何かのキャンペーン中なのか?そう思い店員を凝視していると、こちらに気づいたようで営業スマイルを向けられる。
「メリークリスマス!素敵なあなたにクリスマスプレゼントをどうぞ!うちの商品のチョコレートです!!」
「……どうも」
メリーということは、何かのお祭りなのだろうか。不思議に思いながらも、チョコレートを口に含んで待ち合わせ場所のカフェに到着する。カフェの前には既に私服姿の有栖ちゃんが椅子に座って待っていた。相変わらずオシャレだ。
「やっほー有栖ちゃん。早いね」
「こんにちは、萌さん。貴女も充分早いですよ。さあ、中に入りましょうか」
有栖ちゃんについていく形で中に入ると、パレットよりは混んでいないもののやはり人は多い様子。冬休みだからだろうか?心做しか男女ペアのお客さんたちが多い気がする。有栖ちゃんの足の負担にならないよう入口に近い席に座ると、これまた赤い服を着た店員さんがメニューを持ってきた。
「……有栖ちゃん。最近赤い服を着るのが流行ってるの?なんか今日見る店員さんたち、みんな赤い服着てて怖いんだけど」
「ふふ、それは今日が『クリスマスイブ』だからですよ、萌さん」
「クリスマス、イブ……?」
「ええ。萌さんでも、クリスマスくらいは知っているのではありませんか?」
「ああ、うん。イエス・キリストの生誕祭だよね?産まれた日かどうかは諸説あるらしいけど」
「ハロウィンと同じですよ、萌さん。クリスマスも、現代では宗教的な枠を超えて冬のイベントの一つとして消費されています。そして今日はその前日。かつての教会暦では日没が一日の始まりとされていたため、24日の夕方からクリスマスとなるわけです」
「……ん?でもクリスマスとは名称が違うし、今はまだ昼だよ?」
「時代が移るにつれて境界線が曖昧になってきた弊害でしょうね。ですがいいではありませんか。数少ないイベントの一つとして、今日を楽しむというのも」
……なるほど。だから今日に日にちを指定されたのか。私はメニューを見ながら感じた疑問をぶつける。
「でもそれって赤い服の人がいっぱいいる理由にはならなくない?今日がイベントの日っていうのは分かったけど」
「萌さん。それはクリスマスイブの夜からクリスマスの朝にかけて“期間限定”で現れる、あるおじいさんが関係しているのです」
「おじいさん……?」
「ええ___その名も、『サンタクロース』。彼は世界中の子供たちに一夜でプレゼントを配る、実にエキセントリックな存在です。サンタさんは空飛ぶトナカイを連れて良い子のもとに、煙突……あるいは窓から現れ、プレゼントを置いていきます。サンタさんからプレゼントを貰える条件は2つ。“その年に良い子であったこと”と“サンタさんが来る時間にしっかり寝ていること”です」
「空飛ぶトナカイ?一夜でみんなにプレゼント?……不思議な存在なんだね、サンタさんって」
「ええ、彼らは一種の魔法使いですから」
有栖ちゃんは面白そうに笑みを深める。良い子のところにしか来ない、か。それなら今まで私のところに来なかったのも納得できる。それにホワイトルームは閉鎖空間だし、もしサンタさんが来ていたとしても教官の方で不要だと弾かれていそうだ。……今年は、来てくれるかな?それとも、今年も悪い子だったから来てくれないだろうか。
「…………有栖ちゃん」
「はい、何ですか?流石の萌さんでもサンタの理について__」
「そのサンタさんって、私にも来てくれるかな!?」
「………………はい?」
私が机越しに有栖ちゃんの両手を握ると、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてポカンとする有栖ちゃん。……私、何か変なこと言ったかな?やっぱりホワイトルームの出身だし、ちょっと部活でも先輩を脅迫してるし、良い子じゃない?そう思っていると、ハロウィンの時と同じようなどこか優しい笑みを浮かべた有栖ちゃん。
「ええ、萌さんが信じていればきっといらっしゃいますよ。ただ寮は煙突もありませんしセキュリティが強固ですから、今夜はドアのロックを開けて、何があっても寝ることをオススメします」
「そ、そっか……分かった!」
「それにしても……ふふ、存外に純粋なんですね。いえ、これもホワイトルームの教育故でしょうか?」
……あ。そろそろ何か頼まなきゃ。私は改めてメニューを見る。すると、何やら“クリスマス限定!”と強調されているメニューがあることに気づいた。見てみると、苺のパフェの上に雪だるまや赤い服のお爺さんのデコレーションがトッピングされている。この赤い服のお爺さんが、有栖ちゃんの言っているサンタさんなのだろうか。
「有栖ちゃん、食べたいの決まったー?」
「ええ、注文しましょうか」
ベルで店員を呼び、有栖ちゃんが先にメニューを注文する。私も続いて注文すると、店員さんのテンションが一段階上がったのが感じ取れた。これ以上ないくらいの笑顔で、私と有栖ちゃんのことを交互に見ている。
「ちなみにこのクリスマス限定パフェなんですが……カップル割が適用されるんです!」
「カップル割?」
「はい!お2人がカップルなのであれば、こちらに対するアピールに応じて価格を減額させていただきます!『好きと伝える』が20%減額、『相手の好きな箇所を5個あげる』が30%減額、『ハグをする』が40%減額、そしてなんと『相手のどこかにキスをする』で最大の50%減額になります!」
なるほど、クリスマスにはそんな制度もあるのか。私と有栖ちゃんはカップルではないが、払うお金が減るというのは何とも魅力的だ。元々このパフェは特別価格で1500pptくらいする。求めるならやはり、最大減額だろうか。それとなく有栖ちゃんの方を見ると、私がやらないと踏んでいるのか『出来るものならどうぞ?』と言った風な余裕そうな雰囲気を醸し出している。有栖ちゃんが良いのであれば、私が気にすることではないか。これは作業だと、私の脳に言い聞かせる。
「有栖ちゃん、ちょっと失礼するね」
「……はい?萌さん、一体何を……」
私は有栖ちゃんの手を持ち上げ、手の甲にそっと唇を落とした。
「…………っ!?!!も、萌さん!?!?」
「わ〜……!お熱い…いえ、とっても素敵なカップルさんですね!こちら50%の半額券になります!レジまで持参してスキャンしますと反映されますので、ぜひお使いください!それではご注文の品が届くまで、もう少しお待ちくださいね!」
「やった、見てみて有栖ちゃん!半額だよ、半額!」
「あ、貴女……!半額を狙う必要はなかったでしょう!」
「えー、だって40%減額と半額だったら150円近くも値段が違ったんだよ?コスパ的には半額を狙った方がお得だよー」
「だ、だからと言って……!あのような………はぁ、もう良いです。萌さんに何を言っても無駄でしょうし」
真っ赤になった顔を背け、お店の外にあるモミの木を睨むように見つめる有栖ちゃん。いつもすました顔してるのに、こういう反応するのは面白いなあ。意外とケロッとしてそうなのに。しばらく経ってから来たパフェの甘みを楽しみながら、有栖ちゃんの意外な一面を噛み締めるのだった。
カフェを出た私たちは、ケヤキモールのベンチに座りながら次の計画を立てていた。
「次はどこに行こっかー、有栖ちゃん」
「……私は先程のこと、まだ許した訳ではありませんからね」
「まだ根に持ってるの?有栖ちゃん、意外と執念深いなー。あれはお金のためであって他意はないから許してよ」
「それが問題だと……!いえ、もういいです。それより、次でしたね。折角のクリスマスイブですから、お互いにプレゼントを買うというのはいかがでしょう?」
「プレゼント?お互いに買ってきて持ち寄るってこと?」
「ええ。今から3時間後、またここのベンチに集合いたしましょう」
「有栖ちゃん、一人で大丈夫?今日のケヤキモール、人が多いから押し潰されちゃうんじゃ……」
「大丈夫です。それに、貴女の特訓のおかげで少しは長く歩いても問題なくなってきましたから」
「そっか、無理はしないでね?じゃあ有栖ちゃんが驚くようなプレゼント、買ってくるねー!また3時間後に!!」
そう言い、有栖ちゃんに手を振って一時の別れを告げた。……さて、どうしようか。ケヤキモールにはいっばいお店があるし、そもそも有栖ちゃんが喜ぶようなものが分からない。有栖ちゃんオシャレだし何でも持ってそうだし、私がプレゼント出来るものってあるのかな……。
……そういえば、誰かに何かをプレゼントしたことって、
「うーん……帽子はもう持ってるし、なんなら夏祭りの時プレゼントしたし……ヘアゴム?いや、それだと価格が安すぎるか……」
有栖ちゃんの普段の行動を思い出そう。杖をついて移動するから杖…は、有栖ちゃんの馴染みがある方がいいだろうし。杖に付けられるチャームとかは好まなさそうだし。そもそも有栖ちゃんの趣味嗜好が分からない。チェスの教本……?いや、直ぐに終わっちゃうものはあまりプレゼントと呼べないのではないだろうか。
「…………意外と難しいな……」
1を100にするような鍛錬はいくつも積んできたが、0から1を作り出すことがこんなに難しいとは。例えるなら『自由』というお題を、真っ白いキャンバスに描けと言われている気分だ。私は有栖ちゃんのことを、それほどまでに知らない。
「まあ、とりあえず色んなお店を見てみるか。そのうちビビっとくるものがあるでしょ」
そんなお気楽な気持ちで、私はケヤキモールを歩き始めた_________
____2時間半後。
「まっずい…………」
何も思い浮かばないまま時間だけ過ぎていった。てか何なんだ今日のケヤキモール。人多すぎるでしょ。私が身軽じゃなかったらこの人の波に押し流されて迷子になってたぞ。無駄に装飾されたモミの木の横に設置されているベンチに座りながら頭を抱える。床とこんにちはしている場合ではない。絶対このまま集合場所に行ったらバカにされる。
『あら、私に特訓を強要する野生児さんは人を喜ばすプレゼントも選べないのですか?私に偉そうなことを言う割に、その程度だったのですね』
……言ったな有栖ちゃん!!見てろよ、絶対に有栖ちゃんが喜ぶような物を……。闘志に燃える私が見上げた先にあったのは、インテリアを映えさせるようなものが数多く売っている雑貨店。そこに売り出されたあるモノに、私は目を奪われる。
「……これ、前プレゼントしたぬいぐるみの子に似てる……」
私は直感的にこれしかないと思い、この二時間半の悩みが嘘だったかのように即購入を決めた。
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「あ!り!す!ちゃーーーん!!おまたせー!!!」
「おや、萌さん。時間ギリギリですよ。淑女を待たせるような行為は感心しませんね」
「えー!間に合ったから許してよー!プレゼントがダメにならないように、慎重に走ってきたんだから!」
「ふふ、冗談です。それでは私からプレゼントしましょうか。萌さん、目を閉じてください」
「……?うん、閉じるねー。こうでいい?」
私が目を閉じると、首元に何かを巻かれる感触がする。何だ?なんか、暖かい……?
「はい、目を開けて良いですよ」
「……わっ、これってマフラーってやつ!?」
「ええ、貴女はいつもセーター姿で寒そうですから。ブレザーのような生地の固いものは好まないと仰っていましたので、比較的柔らかい生地のものを選ばせていただきました。暖かいでしょう?」
「うん!暖かい!!有栖ちゃんに抱きしめられてるみたい!!」
「……変なことを言うのはやめなさい」
自分のマフラーを口元まで上げ、顔をふいっと逸らす有栖ちゃん。寒さには強いつもりだったけど、意外とあったらあったで嬉しいものだな。
有栖ちゃんのターンが終わったため、次は私の番だ。私は箱に入れてもらった購入物のの“片方”を袋から取り出し、有栖ちゃんの目の前に出す。
「私からはねー、じゃじゃーん!!これだよ!ほら有栖ちゃん、開けてみて!!」
「…………これは、ティーカップ?随分と可愛らしいデザインですね」
「アンティークで高級そうなのもいいかなーって思ったんだけど、それだともう有栖ちゃん持ってそうだから。それにね、見て見て!これ、お揃いのペアティーカップなんだよ!」
私は袋の中から2つ目のティーカップを取り出し、有栖ちゃんのティーカップの隣に持ってくる。2つのカップの柄によって1つの絵が完成するような、そんなティーカップ。
「有栖ちゃんと私でお揃い!有栖ちゃんよく紅茶飲んでるし!どうどう!?喜んでくれた!?!?」
私が期待を含んで有栖ちゃんに尋ねると、有栖ちゃんは数秒ティーカップを見つめた後、心底面白そうに笑いだした。
「ふふ、ふふふ、あはははは!萌さん、貴女は本当に期待を裏切りませんね。ふふふっ……」
「えー!?有栖ちゃん、またすっごい笑ってる!?私、一生懸命考えたのに!!」
「萌さん、随分とご自身に自信がおありなのですね?お揃いだから嬉しいだろうと……ふふ、大層な心掛けです」
「えっ、あ、あー。確かに、仲良い人じゃないと嬉しくないよね……。私とお揃い、嬉しくなかった?」
私が不安そうに有栖ちゃんの顔を覗き込むと、有栖ちゃんは笑顔を崩さずマグカップを持っていない方の手の人差し指で、私の額をコツンと押し出す。
「あいたっ」
「ご自分を卑下なさらないでください。嬉しくないような間柄であれば、わざわざ今日の予定を空けさせませんよ」
「……!それって!」
「ええ、ありがたく使わせていただきます。しかし、“お揃い”ですからね。貴女も紅茶を嗜むのですよ?」
「うっ、き、気が向いたらね……有栖ちゃんに教わった紅茶の淹れ方、工程が多くて気が滅入っちゃうんだもん……」
「そうですね、早速私の部屋でレクチャーを行いましょうか。このティーカップに、最高の紅茶を淹れてくださいね?」
「ひぇー、今から!?まあもう外も暗くなってくるだろうし、帰ることには賛成だけどさー……」
外に出ると冬だからか、もう空はすっかり暗くなっていた。だが完全に外が暗いかと言われればそうではなく。
「わー、なんかキラキラしてる……」
「イルミネーション、ですね。並木道に電飾を施してライトアップしているそうです。幻想的だと思いませんか?」
「綺麗だけど、私達から奪われたプライベートポイントの一部がこういう所で使われてるのかと思うと少し複雑……あいたっ、痛い痛い!杖で足をつつかないで!」
「夢も雰囲気もない方ですね、全く……。そういうところは早めに治しておきなさい」
「はーい、ごめんなさーい」
ライトアップで彩られたいつもの道を、二人で歩いていく。……サンタさんも今頃、ここに来るために空を奔走しているのだろうか。まだ皆が寝付く時間じゃないから早いかな?
「ねえ有栖ちゃん。サンタさん、ほんとに来るかな?」
「……ええ、きっと来ますよ。そういえば、萌さんはサンタさんに何を頼むのですか?」
「え?うーん……特に考えてなかったや!自分の欲しいものが何かって聞かれると、いつも迷っちゃうんだよね。だからもしなにか貰えるなら、なんでも嬉しいかな」
「そうですか。サンタさんのセンスに期待ですね」
こうして、私たちの夜は更けていく。今夜は少しだけ、睡眠に期待を抱きながら。
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深夜。誰もが寝静まっているであろう時間帯に、坂柳有栖はコートを羽織り部屋を出ていた。眠れないからではない。夜更かし体質な訳でもない。寧ろ最低8時間は寝ることを己の中で決めている彼女がこの時間に起きているのは、極めて稀であると言える。
「……ふふ。まさか私が、こんな事をする日が来るとは。随分と、彼女に毒されてしまったようですね」
白い息を吐きながら言葉を紡いだ彼女の右手にはいつも通り杖が握られている。しかしもう片方の手には、いかにもプレゼントが入っているであろう箱が握られていた。その箱の中には坂柳が独自に選んだネックレスが入っている。2つ隣の萌の部屋の前に立った坂柳は、扉に手をかける。
「本当にロックをかけていませんね……。私が言ったからとはいえ、不用心極まりないことです」
内心で苦笑しながら、なるべく音を立てないよう細心の注意を払う。萌は微かな音にも敏感だ。大きな音を立ててしまえば目を覚まし、こちらを認識してしまうかもしれない。今の坂柳にとって、それは一番避けたい事態だった。とはいえ、杖をついているためそこまで近くには寄れない。その杖をつく音で気づかれてしまっては本末転倒だからだ。坂柳は萌の部屋に侵入し、ベッドで眠る萌を一瞥する。普段の飄々とした雰囲気で隠されている、どこかあどけないような、幼い表情。坂柳は何とも言えない感情を胸に抱きながらも、ベッドの離れにある勉強机の上にプレゼントを置いた。だが、ここで気を抜くような坂柳ではない。撤退するまでが、この『サンタ作戦』における任務である。再び細心の注意を払い、遂にドア前まで辿り着くことに成功する。萌の部屋を出る前、作戦成功を誇るかのように坂柳は目を閉じて静かに笑った。
「メリークリスマス、萌さん。貴女の生活が、彩りあるものになることを祈ります」