原作では水泳の後に小テストですが、何も考えずに書いた結果水泳の授業を入れ忘れてました。無視しようかと思ったのですが、萌ちゃんの運動得意を周知させる為には必須かなと思ったので入れておきます。
水泳。これは男子と女子で大きく価値観が異なるものだろう。
いや、この歳になったからこそ、大きく異なる……と言うべきだろうか。もちろん小学生などの童心で溢れかえっている頃は男女等しく水泳、もといプールでのお遊び授業が楽しく、水泳は楽しい授業ランキングの上位に入っていたと思う。だが第二次性徴期に入るにつれ、男女ともに考え方が変わってくる。女子はその発育によって、男子は豊満な女子の身体によって、好き嫌いが分かれてくるという。
もちろんこれには例外がある。泳ぎが得意か否かである。泳ぎが得意であれば男子だろうと女子だろうと自分の長所を活かす絶好の機会であるし、その逆も然りだ。
「うおおおおおおおお!!!!すい!!えい!!だあああああ!!!」
「!?」
……びっくりした。茶髪の男子生徒が興奮した様子で叫んでいた。……変な人もいるんだな、この学校。
……兎にも角にも、この歳になると水泳の授業一つで色々な声が出る、ということだ。ちなみに私は今のところワクワクしている。元々身体を動かすのが好きなため、水泳も例外ではない。それにしても、水泳の授業といっても何をやるのだろうか……そんなことを考えながら、教室の戸を開ける。
「おはようございます、萌さん」
「……おはよ」
「ん、おはよ〜……あれ?橋本くんは?」
いつもなら有栖ちゃんと真澄ちゃんと一緒にいるのに、今日はいないみたいだ。
「橋本くんなら、あちらの男性集団のところにいらっしゃいますよ」
そう言って有栖ちゃんと同じ方向に目を向ける。何やら男子生徒達で集まって、何かを話し合ってる様子だった。その様子は深刻な雰囲気を醸し出しているが、表情から読み取れる感情は「喜び」と言ったプラスの感情に近い気がする。……何してるんだ?
「……何やってるの?あれ」
「さあ、私には分かりませんね。興味もありませんし」
「何か重要な会議かなー?それならみんなで話せばいいのに……」
「……知らなくていいわよ」
真澄ちゃんは知っている様子だったが、教えてはくれないみたいだ。ああ、男子生徒と言えば朝も変な人いたよなぁ……何か叫んでたみたいだけど。優等生が多いこのクラスは流石に朝みたいな変な人はいない。というかいたらそれはそれで困る。
「そういえば、今日は水泳でしたね」
「…………そうね」
「あれ、真澄ちゃん嫌そうだね。泳ぐの苦手なの?」
「別に苦手じゃない。というか私は運動の方が得意だし。……そうじゃなくて、ね」
そう、意味ありげに男子集団の方を見る真澄ちゃん。その目は侮蔑のような、憐れみのような、何やら嫌悪感を示しているようだった。
「私は泳げませんが、萌さんと真澄さんの泳ぎを見ているとしましょうか」
「あーそっか、有栖ちゃん見学か〜……あ、でももし競争するってなっなら真澄ちゃん、一緒に泳ごうね〜」
「嫌。坂柳に見られるのはもっと嫌」
「あら、では私はどなたを見れば良いのでしょう?」
「クラスメイトは他にも沢山いるでしょ」
うんうん、有栖ちゃんと真澄ちゃんも無事仲良くなったみたいだ。すると朝のHRがもうすぐ始まるからか、満足そうな表情をして男子たちが解散していく。秘密の会議はもう終わったのかな?
「席につけ。朝のHRを始める_________」
____同日、2時間目。
「有栖ちゃん、水泳だよ!」
「ふふ、まるでお子様のようですね」
「えー?いやでもなんかさ、プールって特別な感じしない?普段の体育館とかグラウンドとかでやる授業と違うし」
「私にはわかりかねますが……それよりいいのですか?着替えに行かなくて」
「…………あっ、そうだ。有栖ちゃん見学じゃん。それじゃあまたね、有栖ちゃん」
もうクラスの大半が教室から出ていっているのを確認し、私は急いで更衣室の方へ向かう。……こう見ると、移動を共にするグループ分け、っていうのも進んだんだなあと実感する。ある程度同じようなメンバーで固まっていて、尚且つ楽しそうにお話をしている。ふむ、クラス仲は良好……と言いたいけど、廊下で見ているだけでも物の見事に葛城派と坂柳派に分かれてるなあ。なんか少し睨み合ってるし。怖いよ、仲良くしてよ〜……。
「……ん?あれは……」
少し急ぎ、先に行った人たちを抜かしながら進んでいくと、1人の女子生徒がいた。……あんな人、いたっけ?いや、クラスメイトの名前は覚えたはず。となると、ここに来ても思い出せないということはかなり影の薄い生徒のようだ。私が覚えていく中でそう感じた生徒をピックアップしていく。……ああ、確かこの人って。
「やほ、山村さん」
「……!?え、あ、あの……」
声をかけられた、ってことより存在を認知されたことに驚いている様子。うん、この反応はやっぱりそうだ。山村美紀。クラスメイトを覚えていく中で、全く話したことがない上に特に見かけたこともなく、顔も分からなかった生徒だ。確かに私はクラスメイトとの交流は比較的少ない方ではあるけど、ここまで分からないなんてことはなかったから少し違和感を覚え、山村さんに注視してみることにした。……案の定、誰にも気づかれてなかったからそういう生徒なのだなあ、と確信できたけど。
「え、えっと、何か御用でしょうか……?」
「え?あー……特に考えてなかったや。ねえ、一緒に行ってもいい?」
「あ、はい……それは、構いませんけど……」
「やった〜。ねえ、山村ちゃんは水泳とか得意?」
「…………いえ、あまり運動は得意ではないですね…。その、得意なことはあまりないので」
「そうなの?うーん、まあ私も運動以外に得意なことって言われたらあんまりないかなあ」
「そう、なんですね……他クラスの方は水泳の授業で26秒を出した方がいたそうで、盛り上がってました」
「そうなの?というか他クラスのこと知ってるの?」
「えっと、その……お昼を食べていた際に、話していたので。それで……」
ああ、学食を利用した時に話していた生徒がいたってことかな。それにしても、26秒かあ。盛り上がってたってことは、かなり速いってことだよね。水泳をずっとやってた人なのかな。……ん?
「ってことはこの授業でタイム測るってこと?」
「だと思います、多分」
「えー……どれくらいが普通なんだろう……」
運動能力というのは、学力のように抑えることが難しい。いや、手を抜けばそれなりか普通以下くらいにはなれるのだろうが、その手抜き加減もまた難しいものだ。テストなどと違って簡単に手を抜くことが出来ず、色々考えるのが面倒くさいから私自身運動好きを公言しているのである。
そんなことを考えていると、更衣室に着いた。周りはタオル等で身体を隠している。……そういえば、そういうの買ってないな。学校指定の水着くらいしか買ってない。あと、水泳時に使うぼうしとゴーグルくらい。タオルはあるにはあるけど……髪をふいて乾かす用途のものだから、身体が隠せるかといえば難しい。……うん、面倒だしそのまま着替えよう。見られたとしても同じ女子だし。
「おお、結構広いね〜。それに室内プールなんだ」
そう1人、施設を見て呟く。あ、山村ちゃん置いてきちゃったけど大丈夫かな……大丈夫か、どうでもいいや。そう思った途端、後ろから先程まで一緒にいた気配が近づく。
「そうですね……」
「やっぱり山村ちゃんもそう思う?」
「まだ開放されてませんでしたが、外にも確かプール施設があったと思います」
「……2つも?色々と豪勢なんだね、この学校」
そう言っているうちに人がどんどん集まってきた。どうやら見学は有栖ちゃん含め女子4人みたいだ。まあ、女子は色々あるしね。そう思っていると、朝のように男子生徒が集まって何やらひそひそ話をしていた。……何話してるんだろう。今日の男子は仲がいいらしい。
「あんた、遅かったわね」
「真澄ちゃん。いやぁ、更衣室に行くの遅れちゃって」
「あっそ。というか気づいてる?1人サボりの子がいるの」
「えっ、そうなの?なんで分かるの?」
「
「水泳苦手なのかなー?」
「さあね。まあ私には関係ないしいいけど」
真澄ちゃんと話していると、何やら筋肉質な体型の男性が集合をかけた。……あれ?そういえば山村ちゃん、いつの間にかいなくなってる。
「見学は4名か。……よし、早速だが準備体操をしたら実力が見たい。泳いでもらうぞ」
先生がそう言うと、Aクラスにしては珍しく少しざわつく。どうやら泳ぎが得意でなかったり、運動自体嫌な子がいるようだ。
「大丈夫だ、俺が担当するからには、必ず夏までに泳げるようにしてやる。安心しろ。今は苦手でも構わんが、克服はさせる。泳げるようになっておけば、必ず役に立つ。必ず、な」
必ず?そんなに豪語することだろうか。確かに泳げた方が便利だしいざという時に役に立つ。でも、そんなに断言する程だろうか。
「まずは50mを流して泳いでもらうぞ。泳げないやつは底に足をついてもいいからなー。それから準備体操は入念にするように!」
それから準備体操を済ませ、50mを泳ぎながら感覚を取り戻していく。泳ぐのなんて2年ぶりだからな……まあそれがわくわくしている要因でもあるんだけど。
「とりあえずほとんどの者が泳げるようだな。では早速だがこれから競争をする。男女別50m自由形だ。1位になった生徒には俺から特別ボーナス、5000ポイントを支給しよう。1番遅かった奴には、逆に補習を受けさせるから覚悟しろよ」
先程よりもザワつきが大きくなる。5000ポイントかあ……勝ってもそんなにおいしくないなあ。でもまあ、負けるのはそんなに好きじゃないし。真澄ちゃんには勝ちたいなあ。
「……何よ」
「一緒に泳げるかな?」
「自由だったら同じ組になれるんじゃない」
「うーん、じゃあ私2組目に泳ごうかなあ。1組目でみんながどれくらいで泳ぐのか見たいし」
どうやら女子が先に泳ぐみたいで、1組目は比較的意欲のある子や運動ができる子か集まった。いっせいに飛び込み、男子からは何故か歓声が上がる。タイムは一番速い子で30秒。中々に好成績なんじゃないだろうか。
「っと、人のタイムを査定してる場合じゃなかった」
「……はぁ、気が進まない」
「真澄ちゃんは運動得意?」
「勉強よりかは出来るけど、得意かって言われたら微妙ね」
「そっか、お互い頑張ろうね」
そう言って真澄ちゃんに笑顔を向ける。……水泳は幼い頃からずっとやってきたけど、2年のブランクがあるから何とも言えない。ただ、さっきの子が30秒、他クラスの噂されてた子が26秒と考えると……27秒あたりを狙おうかな。狙ってできるか分からないけど。
「Take your mark……」
ピッ!と笛がなり、飛び込む。水泳は全身運動だ。奥が深い。自分に合った泳ぎ、キックとプルのどちらが強いか、重心は安定しているかなど、様々な要素が組み合わさってタイムに繋がる。もちろん泳ぎだけではなく、飛び込みの反応、ジャンプ力、飛び込み後のキックなど、細かいところでもタイムに影響する。私は27秒を目指し泳ぎ続け、やがて見えてきた壁にタッチする。周りは……まだ終わってないようだ。とりあえずあがっておこう。
「……25秒38!すごいぞ赤井!」
「……25秒?」
興奮気味に駆け寄ってきた先生からタイムが言われる。……どうやら調整をミスったらしい。2秒も速くしてしまうとは。まあ頑張ったしいいだろう、オーバーしても。先生とやり取りしているうちに2組目の子はもう泳ぎ終わったらしく、真澄ちゃんがこちらに歩いてくる。
「やほ、真澄ちゃん。何秒だった?」
「……29秒」
「おお、はやいじゃん!すごい!」
「私より速かったあんたに言われたくないんだけど」
「……それもそっか」
嫌味に聞こえても仕方ない一言を言ってしまったらしい。確かに、自分より格上の人に褒められたら反応は二極化するだろう。
ふと、見学の有栖ちゃんの方を見てみる。有栖ちゃんは面白そうに、いつもの笑顔をこちらに向けていた。
「はぁ、疲れた〜。もう休憩してていいのかな?」
「いいでしょ、私達の番は終わったわけだし」
そう言って真澄ちゃんはプールサイドに座る。私もその隣に座り、後に続いた女子や男子の競争を見ていた。……日差しがちょうどいい感じにあたって眠くなるなあ。
余談だが、男子の1位は鬼頭くんだった。ちなみに女子の1位は私だった。
高校女子で25秒は化け物です。記録で残っているものだと、長水路は池江璃花子さんの24秒21が高校生の最高記録だったような。運動能力パネー系女子にしたかったので許してください。
作者自身、水泳を幼い頃から習っていたからなのか、思ったより文字数が多くなってしまいましたね……。
夏休み、誰とデートする?(一話投稿予定)
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