こんにちは、ヨトゥンです。
私は円博士によって作られた等身大(八尺サイズ)エレクトリアのプロトタイプで、現在は縁あって楽器奏者をしている凛音とそのパートナーエレクトリアである華麟お姉様の元で暮らしています。私以外にも妹機であるスルト、無銘の研究者が製作したクロヒメさんも一緒です。今回はそんな私の生活の一幕をお届け出来ればと思います。
早朝。目覚めてからの確認事項はすぐ目の前の事から始まる。キングサイズの大きなベッドには私とスルトが凛音を挟み込むようにしており、お姉様とクロヒメも胸元にいます。就寝時は仰向けの凛音ですが、すぐどちらかに寝返りを打って抱きついてきます。何かに抱きついて眠るのが大好きだったそうで、私達が来る前はぬいぐるみや抱き枕を側においていたそうです。今朝はスルトの胸に吸い付き、片手でお姉様をしっかり握っています。
「ん。凛音、びったり。」
「二人とも任せた〜。」
「分かりました。クロヒメさん、いきましょうか?」
「(・ω・)∩」
捕まっていないメンバーだけ静かに抜け出して、朝食の準備を始めます。誰が捕まって動けないかは運次第ですが、割合がそれなりに均等になっているのはただの偶然でしょうか?朝食メニューはその日の気分次第で和風になったり、トーストと目玉焼き等のモーニングになったり。私たちが来る前は2人で作っていたそうですが、最近はエレクトリアの担当になっています。因みに本日の献立はご飯、卵焼き、昨晩残りのお浸しと豚汁。昼食のお弁当も合わせて調理済みです。
そろそろ起こすために寝室に入ると、
人前では大和撫子たる振る舞いをする彼女も、寝起きは張りのない女の子。最近この状態の凛音を猛烈に甘やかしたくなるのですが、庇護欲というものなのでしょうか?
「おはようございます凛音。朝食はもう出来ていますよ。」
「ありがとうございます…。今日も、よく眠れました。顔を洗ってから向かいますねぇ…。」
そう言って数分ほど食卓に料理を並べて待っていると、誰もがよく知る凛音がやって来ます。オン・オフはっきりしているのは分かりやすくていいですね。朝のニュースを横目に朝食を取りつつ、予定の確認です。本日は楽曲のレコーディングで、終わり次第ショッピングモールでお買い物。トラブルがなければ夕方までには仕事は終わるはずです。
食後片付けと荷物準備を済ませて車に乗り込む。私が専属ドライバーになってから、凛音は助手席でメールのやりとりや演奏のイメトレをやることが増えたそう。目をやれば金管楽器を演奏する運指が見えますが、しばらくすれば別の楽器を演奏しているかもしれません。今回のアルバムではすべての楽器を凛音が順番に演奏し、ボーカルも担当するとのこと。ボーカルは別日に撮り終えているので、ここしばらくは一人ジャズバンドですが、これを終えた次は和楽器をするとのことで、彼女の底しれない演奏幅には恐れ入ります。
スタジオに到着すれば、手早く準備を進めつつ、スタッフさんと相談です。また今回は特典映像として、演奏している様子や休憩中のオフショットを撮影するそうで、スタッフさんがカメラを持ち歩いています。隣のスルトにカメラが向くと両肩に乗せたお姉様とクロヒメさんと一緒にポーズを取っていますが、いつの間に考えたのでしょう…?微笑ましく眺めているとその全員が私の方を向いて、顔が期待に煌めきます。無言のリクエストに思わず固まりますが、咄嗟にカテーシーで挨拶。演奏終わりにいつもしている所作ですが、カメラさんの満足スマイルを見るに期待には応えられたようです。
ブース内には様々な楽器が置かれていますが、それらが同時に音を奏でることはありません。強いて言えばチューニングをする時くらいのものです。収録の進度によっては使わない物もあるかもしれません。凛音の演奏は心地の良いものであると同時に目指すべき、超えるべき手本でもあります。以前、私達が身内で開催した公演での評判が良く、近々私達のレコーディングが始まるとのことです。家族であると同時に同業者になる感覚はこそばゆいものですね。とは言え今の私達ではまだまだ表現力が不足しています。勿論エレクトリアなので基礎的な部分はデータ上で習得できるのですが、私自身の色を交えて音を出すのは難しいのです。
「いやいや、もう十分出来てるけどね?」
「ですが凛音の様に多くの楽器を扱うには至らず…。」
「アレはぶっちゃけバケモンだから。複数の楽器使う人もいるけど、凛音の幅は異常よ?」
「でも…色んな音楽に触れたくて。そのためには楽器から身につけなければなりません。それに──。」
それを実践している凛音は誰から見ても楽しそうに演奏します。音を楽しむと書いて音楽ですが、それは聴く方だけでなく、演奏する方にも当てはまるのです。そんな事をあれこれ考えつつ演奏を聴いていると、いつの間にか次の楽器に移っていました。表情を見るに上手く行っている様です。楽器を変えて収録を続ける凛音ですが、どうやら彼女の脳内ではそれぞれのパートを合わせた合奏が既に組み上がっており、ノートにもしっかりと書き出されています。当日のヒラメキで変更した部分もすぐさま対応する彼女には音楽作成ソフトウェアが搭載されているのかもしれません。しかし脳内でそんな演算をしつつ、演奏をこなせば当然消耗します。演奏中の集中状態では外から見た変化はありませんが、収録を終えて楽器を下ろした瞬間身体から力が抜けていきます。呼吸も大きくなり、椅子に身体を預けます。
「─────────。」
「凛音。」
私が手を広げて受け入れ態勢に入ると、吸い込まれるように飛び付く凛音。私が彼女を労おうとハグしたのが始まりで、仕事終わりや休憩時間にこうしています。人を駄目にするクッションなどありますが、私の体もその類なのでしょう。特にこの大きな胸は円博士のお墨付きで、彼女も疲れた時はメビウスに抱き着きながら仕事するそうです。すぐ休める環境が出来た影響なのか、余力を残すことなく全力投球するようになったとのことです。それだけ私達に頼ってくれるのは喜ばしいですね。
「今日もお疲れさまでした。片付けはスルトとスタッフさんが進めているので、出発まで休んでいてください。」
「ん〜。」
「水分も取ってくださいね?」
「はぃ。」
私の胸に顔を埋めたまま返事が返ってきます。この様子を見たスタッフさんから、まるで母に甘える娘の様だと言われました。この長身美女2人が抱き合う様子を映像で伝えるのはあまりにも艶めかしいという判断になったのか、控えめなシーンの写真だけ公開になりました。余談にはなりますが、後の公演で私とスルトとの握手会ならぬ抱擁会が企画されたのもこれがきっかけだったとか…。今もまさにスルトが頑張ったスタッフさんを労いたいと、抱き着いてまわっています。
「皆さんに挨拶を…。」
「いえ、今日はこのまま帰ってしまいましょう。撮影の見栄えにも良いと思います。」
消耗した凛音を休ませるために車まで抱き抱えて運びます。お姫様抱っこでスタジオを後にする様子は特典動画の締めになったとの事です。そのまま凛音を車に乗せますが、本人が全然動かないので荷物の積み込みにも見えますね。そんな彼女が目を覚ましたのは時計の針が一周してショッピングモールに着く頃。気持ち良く休めたようで、表情も晴れ晴れしています。
行きつけのモールではエレクトリアバトルによるサービス券配布があり、スタッフさんとも顔馴染みになっています。イベントスペースで実施しているので、バトル目当てのギャラリーもそれなりに見かけます。
「んーー、良し。今日は大きめの銃火器で暴れちゃおっと。ヨトゥン、口開けてくれる?」
「分かりました。あむ…。」
呑み込んだお姉様は喉を通って体の中に入っていきます。かつては捕獲したエレクトリアの保管場所としていましたが、それだけではもったいないと、現在はお姉様のパーツ収容場として使っています。この話に円博士も興味を示して調整した結果、谷間の中に別のゲートを付けてより大きなパーツも入るようになりました。余談ですが、私用のエネルギーブレードも設置したらしく…。
『これで機械槍が無くてもいつでも戦えるし良いんじゃない?』
『なかなか様になるわね。メビウスにも着けてあげようかしら。』
となかなか好評でした…。一体何と戦うつもりなのやら。そろそろ準備が出来たようで、胸の内側からノックされます。手を差し込んで取り出す様子は何処かのアニメで見覚えがいくつもあります。というか入る際もここからで良いと思うのですが、お姉様はどうしても私に食べられたいようです…。バトルが始まれば後は気楽な観戦です。この程度の相手であれば大きなダメージもあり得ませんし、クロヒメさんがタッグに入れば、守護神のように全ての攻撃を防いでいきます。因みにスタッフに誘われて私とスルトも参加したことがありますが、10倍以上の巨躯を持つ怪獣の蹂躙劇になり、それはそれで見応えがあったとの事です。そもそも私のボディは拳銃にも耐えうる強度なので、通常エレクトリアの武器ではダメージにはなりません。クロヒメさんですら通常規格とは段違いのボディ強度なので、お姉様防護網は鉄壁です。
「よーし、勝った勝った〜。クロヒメもお疲れ様。」
「(*´ω`*)」
華麟お姉様に身体を押し付けて撫でてもらう姿は大型犬そのもの。ちなみに私はお姉様を掌に乗せて頬ずりして、スルトは頭の上に乗せています。お姉様のあの小さなボディには人たらし特性でも付与されているのでしょうか?少なくとも我々妹はデレデレです。
軽い運動を終えて帰宅すれば、凛音も包丁を手にして皆で夕飯作りです。大人数でキッチンにいますが、作る量は勿論凛音一人分。各々が調理するとコース料理もあっという間に出来上がります。今晩の献立は麻婆豆腐、皿うどん、餃子、サラダに中華スープ。そこそこ量はあるのですが凛音は丁寧な所作かつ早めのペースでしっかりと食べきります。私たちが来てから品数が増えた筈ですが、彼女の体型は全く変わりません。仕事も趣味も全力でこなす理由はこのカロリー消費のためなのかもしれません。
「ごちそうさまでした。餃子の出来栄えが良かったです。」
「クロヒメが頑張って包んで、焼いてたもんね〜」
「✧◝(⁰▿⁰)◜✧」
「クロヒメさんの家事スキルは日に日に向上していきますね。レパートリーも増えてきました。」
「うん。凄くて、偉い。」
「(๑╹ω╹)ムフー。」
クロヒメさんの成長は本人の努力もありますが、彼女の大きめなボディと特性バックパックの腕によって安定感を生み出しているのが大きな要因です。円博士曰く、100cm辺りの幼児体型ならエレクトリアと人の特性を程よく持たせられるそうです。もしかすると既に作成しているのでは……。
「さて、今日は私の番ですね。」
「うん。スルト達が、お片付け。」
「しばらくしたら呼びますね。」
食後の片付けを皆さんに任せてリビングを後にして向かうのは風呂場。身体についた汚れを落とすのは勿論ですが、他にもやることがあります。突然ですが、私とスルトに内蔵された特殊ジェネレータは戦闘向けの大出力を賄うため、この平和な日常では役割がありません。一応発電機として活用も可能ですが、設備工事などが必要になるので、ほぼ無用の長物となっていました。ですが冬の日にお姉さまをはじめとして、エレクトリアが発熱する事でカイロ代りになるのを見て閃いたのです。更に大きなエネルギーで同じ事をすればお風呂を沸かせられるのではと。結果は大成功で、電気ガスのささやかな節約に貢献しています。これだけでなく、掃除の際に熱で汚れを取りやすくしたり、冷えた飲み物を温めたりと、活用方法はいくらでもあります。
『私はそんな便利ロボットを作った覚えはないのだけれど?』
円博士は呆れていましたが、それもまた娘の選択なのだと受け入れてくれました。
話を戻して、湯船が徐々に温まってきました。この家の浴槽はかなり大きく、私も少し膝を曲げるだけで収まります。
『お姉さま。湯加減良くなりましたので、いつでも来てください。』
『おっけー。すぐ行くわ。』
直ぐにこちらに向かう足音が聞こえてきます。いつもならこのまま湯船で出迎えるのですが、用事があるので入れ替わるように出ていきます。
「あれ?今日は先に出るの?」
「はい。遊ぶ約束をしていますので。」
「そうでしたね。ではゆっくり暖まってから合流しましょう。」
リビングではゲームコントローラーを握ってテレビを睨むスルトの姿。様々なミニゲームが遊べるパーティゲームなのだが、画面端に表示される勝利数は一人が飛び抜けている。
「調子はどうですか?」
「ん、いい。でもエア、絶好調…。」
【いえ、それほどでもありません。】
【すんません、エレクトリア2人についていく俺を慰めてください…】
流石ゲーム好きなエアと言うべきか、その技術は野生のプロといっても過言ではない。プレイヤー欄には麟佳もいるが、スルトより更に低いスコアである。それでも高難度のCPUには勝ち越しているので彼も頑張ってはいるのです。
【私達に追随するあなたも十分に能力があります。ですがこれからはヨトゥンも加わるので最下位をひた走って頂きますね。】
【わぁお……。】
宣言通り、超性能エレクトリア3体のハイレベルに巻き込まれて揉みくちゃにされています。チャットカメラからは彼の悲痛な叫びが木霊しており、都度私が慰めています。その様子を眺めるエアは慈悲深い笑顔を見せているのでとても楽しんでいるようです。ゲームプレイ自体は無慈悲に絶望を叩きつけているのですが…。
「ふふ、お疲れさまです。交代しましょうか?」
【あ、凛音さんこんばんは。ちょっとへばったので、観客してます〜。】
「疲れたらいつでも終わっていいですからね?私は明日お休みなので、きっと夜中まで遊んでいますから。」
入れ替わりで入った凛音は宣言通り、日を跨ぐまで遊んでいました。麟佳さんは途中で退場し、エアさんも共に寝室に向かいます。ただ小型ボディのエアさんは残っているので、そのまま一緒に遊んでいます。2人の時間も1人の時間も満喫する彼女はとても欲張りだと本人も言っていました。欲張りすぎて3人パーティのゲームは大小Wエア体制で遊ぶことも考えたのだとか。
「こちらで同じ事をしようとすると、あぶれますね…。5人で遊べるゲームがあればよいのですが…。」
【ありますよ。少し前のハードでソフトは少ないですが、どれも好評です。よろしければこちらにある物をお渡しします。】
「お二人を招いてパーティをするのも良いかもしれませんね。お菓子レシピのデータを調べておきましょう。」
「はたから見たら男子一人が美女に囲まれてるわねソレ…。で、真っ先に寝落ちすると…。」
「大丈夫。深夜の背徳飯、食べれば眠くない。」
「お菓子ではなく、丼メニューを準備するべきでしょうか…。」
「若い頃は時々作っていました。この罪を皆さんに科せられないのが残念ですね。」
「不健康メニュー食べてその美貌と体型はインチキじゃない?」
「((( ;゚Д゚)))」
ガールズトークを添えて遊び続けること数時間。気づいた頃には時計の数字は小さくなっていました。凛音の瞬きも少し重さを持つようになり、お開きの合図です。
【ここまでにしましょう。カメラ越しでも睡魔が見えます。】
「フフ、今日も遅くまでありがとうございます。」
【こちらこそ。ではお互いよい夢を。】
チャットを閉じて、ゲームの電源を落とすと案の定、凛音の身体がゆらゆらと揺れ始めます。
「はいはい、ここで寝ないでよ。スルト、運んであげて。ヨトゥンはコントローラーとか飲み物片付けてくれる?」
「ん。」
「分かりました。」
運ばれていく凛音を横目に手早くリビングを片付けます。時間にすれば数分ですが、ベットに着いた頃には既に寝息が聞こえています。
「心配になるレベルで寝るの早いわね…。」
「凛音、子どもみたい。」
「ではその可愛い女の子の快眠を守ってあげましょう。」