【エレコド】電子の巨神   作:麟佳さん

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剣術のすゝめ

休日の市街地を走る車には4つの人影。運転席に座るのは凛音。慣れた手付きで手足を動かし、車は無駄な揺れなく進む。昨今では珍しいMT車だが、彼女はこの両手両足で車を動かす楽しみを知っている。助手席に座るのはヨトゥン。そしてその両手に抱えられているのは華麟。元々はコンソールボックス等に入っていた華麟だがヨトゥンの希望でこうして抱き抱えられている。残ったスルトは後部座席を一人で広々……とは行かないが真ん中に鎮座し脚も開いてどっしり構えている。身体が大きく足も長いので仕方無い。

「小さな車でごめんなさい。狭くありませんか?」

「いえ、私達が大き過ぎるだけですから…。脚を曲げれば問題ありません。人とは違い同じ体勢で苦しくなることもありませんし。」

「後ろ広々、どっしり…座る…。安定、問題ない。皆が、一緒…嬉しい。」

「ホントにぎやかになったわね。後部座席のある車を持ってたのはラッキーだったわ。二人乗りの奴にするかも悩んでたし?」

「それもまた縁なのかもしれませんね。さて、そろそろ付きますよ。」

車が入っていったのは市民ホール。そこそこ大きな街なので大きめの部屋がいくつかあり、近くには図書館やプールなども併設されている。その中の小ホールでは小中学生辺りの子ども達から大人まで、既に用具の準備をして稽古をしていた。

「麟佳さん、おはようございます。」

「あ、おはようございます!おぉ……後ろにいるのが噂の……。」

呼ばれてやってきたのは細身の男性。半袖長ズボンのスポーツウェアを身に纏い、身長184と他のメンバーより頭一つ抜けて高い。そんな彼もヨトゥンを前にすれば見上げて息を呑んでいた。

「話には聞いてたけど…目線が肩にも届かない…。っとと、挨拶挨拶。自分はここのスポーツチャンバラ教室の指導補佐をしている天宮麟佳です。師範は今日都合悪くて来てないので自分が指導してます。」

「ヨトゥンです。よろしくお願いします…。」

「スルト。よろしく。」

「今日は体験するんでしたっけ?」

「いえ、私がどんなことをしているかを知りたいらしくて。でもその気になれば参加するかもしれません。」

「貸出用の備品はあるので気が向いたらいくらでも。それじゃ…。」

「あ!凛音さんと……でっかぁい!?」

遮る声に目をやると入り口から子どもたちが溢れんばかりに覗き込んでいる。同学年は隣に並び、その上段に年齢順で重なっていき、上段は高校大学生がいる。もしこれが暗い夜中だったら悲鳴を上げてもおかしくない。

「君ら餌に釣られて柵から頭だけ出してる感じになってんだけど…。体操と素振りは終わった?」

『終わったー。』

「で、その大っきいお姉さん誰?新しく入る人?」

「オレしってる、八尺様だろ!」

「マジか!?」

「あーもう、扉詰まってるから散れ散れぇ〜。」

入口の人混みを散らしてホールに入ると小学生の子ども達が駆け寄りあっという間に囲まれてしまう。好奇心の塊に興味の塊をぶつけたらそりゃこうなる。ヨトゥンはどうしたものかとオロオロしているし、スルトは表情こそ変えないもののどう反応すればいいか困惑していた。

「お姉さん達を強いの!?」

「身長どんくらい?」

「抱っこしてよ〜。」

「り、凛音…。」

質問攻めにされるヨトゥンは思わず助けを求める。人に触れるいい機会という建前で狼狽える二人をもう少し眺めたい気持ちがあるが、ぐっと堪える。

「はいはいそこまで。ちびっ子は練習時間でしょ?質問とかはまた後にしなさいよ?」

『はーい。』

華麟の言葉で子ども達はあっさり帰っていく。なんだか皆を治めるリーダーのようで、姉の小さな背中がとても立派に見えた。

そうこうしている内に準備を整えた凛音も稽古に参加する。素振りから始まるのだが凛音のそれは堅さと柔らかさを持ち、静と動の繋がりがとても綺麗であり、他の会員とは既に一線を画す仕上がりだ。先程の子ども達に目を移すとまだまだ荒削りだがそれでも経験年数としては十分な仕上がりに思える。試合稽古では全員無差別に相手する。長身の凛音と子ども達では圧倒的なリーチ差があるがそこをどう攻めるか、どう反撃するかを考えることが成長に繋がる。あえて隙を晒して見たり、逆に攻め続けてどれだけ防御できるか試したりもする。麟佳曰く、自分より教えるのが上手とのこと。ただし優しいだけではなく、当てる時は容赦無く一本を取りに行く。

一通り全員と戦った後は自分で相手を指名する。同じくらいの相手でも良いし、何か試したいことを実践しても良いし、格上相手に教えを乞うのも良い。やはりというか凛音は人気で指名が沢山入っていた。

「凄い人気ですね…。」

「まぁ強いし、問題点はしっかり言うし、相手してて楽しいで評判だし。」

「そう言って頂けて嬉しいばかりです。」

「凛音、指名…しない?」

「そうですね。凛音が戦い人と相手するのも見てみたいです。」

「そうですね…では麟佳さん、お相手よろしいでしょうか?」

「わっかりましたー。ちょっと気合入れなくちゃ…。」

この教室きっての長身二人による試合は一種の名物だ。凛音の動きも子ども達と試合した時と違い、剣の動きが細かい。速さも勿論上がっているが、一番目立つのは空間を広く使っている事。前後は勿論、左右への移動が滑らかで踊りのようなステップだ。面の後ろから垂れる髪が舞い広がる様子に見惚れる人も少なくは無い。

一方の麟佳は本人評で強くないと言うが十分に剣は鋭く、何より多彩だ。構えを変えたり、あえて大振りの攻撃をしたり背中を向けて防御してみたり。強さより楽しさの比重が大きい彼の剣は無駄を含みつつも見栄えが良い。しかしその合間に挟まれる堅実な手が、彼は型無しではなく型破りであると示していた。劇場の殺陣の様な試合を子ども達は応援し、大人達は技を学んでいた。そして二分間の練習稽古を終え、面を外すと麟佳は膝を付いて肩で息をしている。

「ありがとうございました。」

「ありがとうございました…!やっぱ…凛音さんの相手はめっちゃ、疲れる…。」

「凛音と互角…。強いんですね。」

「仮にも指導補佐やってるし、大会もある程度勝ち進めるんだっけ?」

「それに麟佳さんは色んな人に恐れられていますから。」

「ゑ?あの?」

「そうなのですか…?」

「りんか…恐い。覚えた。」

「いやいや、麟佳さん弱々で恐くないからね!?もー、なんで広まっていくのぉ…?」

疲労に加えていらぬ悪評?の追撃にがっくり崩れ落ちる麟佳。本人も悪気が無いのは分かっているが、出来れば優しいとか大きいとかもう少し穏やかな表現がやはり欲しいところ。激しい試合を終え、息を整えていると側にスルトがやって来た。

「凛音。スルトも、やってみたい。」

「それは良いですね。では…。」

「自分がやりますよ。まだ動けますし、個人的もどんな剣なのか気になるので。」

そう言った麟佳は大きく深呼吸をして再び準備をする。絶え絶えだった呼吸はスイッチが入った様に落ち着いている。スルトも貸出用具を身に着け、剣を振ってみると今日聴いたことの無い風切り音がする。

(うわー、あれは流石に当たりたくないなー。)

風に吹き飛ばされるのではというほど脱力してしまうがそこは気合で持ち直す。試合開始と同時に動いたのはスルト。初撃は面への振り下ろし。しっかり構えてからの振り下ろしなので防御は間に合うはず…

「つぁ……!」

間に合った。確かに間に合ったが頭上で横に構えた剣は勢いに負け、守るべき頭部に命中してしまった。

「大丈夫?痛い?」

「大丈夫大丈夫。マジか…防御ごと吹き飛ぶやん…。」

スルトが誇るパワー、スピード、そしてエレクトリアならではの反応速度。単純な身体スペックは圧倒的な差だがそこは機転を利かせる。普段は高身長の立場だからこその攻め方がある。一歩蹴り出し間合いに入る。それを迎撃すべく、スルトは剣を横に薙ぐが麟佳の体は命中直前でガクンと落下した。匍匐前進でもするのかというほど身を低く屈めたため、追撃しようにも直立しているスルトでは僅かに遠い。そのまま空いた脚に向かって剣を振るが、スルトはこれを跳び上がることで回避される。だがこれは彼の想定内。

「だっしゃぁあ!!」

左腕を床について体を押し上げながら剣を天に振り抜く。浮いた体では動けない。そして剣は反撃のために振り上げている。つまり完全な無防備の時間…。がら空きの胴体に命中した剣は甲高い音を奏でた。

「…!」

着地したスルトはペタペタとお腹を触って具合を見ている。安全に配慮された剣なので手で軽く叩かれる程度の衝撃はあるがそれまで。ましてや頑丈な彼女の体ならバットで殴られても大丈夫なのだが、気になることがあるようだ。一方の麟佳は仕切り直しの為に距離を開けて構え直している。

(さぁて、同じ手はきっと通じないし、次どうすっかな…。)

闘志が宿る視線はスルトが動き出すのを見逃さない為に凝視している。

「どうやった?」

「ほぇ?」

予想外の質問に首を傾げてしまう。試合稽古中に解説パートに入ることは時々あるがまさか口下手そうなスルトから来るとは思っていなかった。呆ける麟佳を気にすること無く、スルトはグッと顔を近付けて疑問を投げかけていく。

「力、速度、反応、スルトが上。でも負けた。理由、は技術…だと思うどうやったの?」

スペックの暴力。人間同士の競争でもその差で圧倒するのは何度も目にするし、事実としてスルトは上に立つ側であり、先程の一本目ではそれを示した。だからこそ二本目の敗北は彼女にとって未知の世界なのだ。

「今のは正直なところ全部の仕掛けが上手く行ったっていうのが自分の感想かな。多分勝てる所は色んな動きを知ってる経験しか無いから。そうなったら始めから動き方決めて、後はどうにかなーれ!の精神だね。」

「何、となく理解。始めの回避、速かった。」

「あれも一点勝負だから読み間違えたら駄目だし、タイミング外したら駄目だからドキドキやね。もし興味があったら凛音さんや華麟ちゃんの動きを真似するのが良いかも…。そうだ、今度の市のお祭りで丁度いいやつがあって……。」

道具を置いて鞄を漁る麟佳。見つけたクリアファイルから取り出したパンフレットは月末にやってくるお祭りの案内。その中にあったのが…

「ブレオン大会…?」

「近接限定のエレクトリアバトルよ。そう言えばあったわね。」

「大会って言ってもお祭りの催しだから気楽で良いと思って。華麟ちゃんも出てみる?」

「え?いや、私は……。」

「お姉様の剣…とても興味があります…。」

「スルト、気になる。」

大きな妹達のキラキラした視線が降り注ぐ。凛音に助け舟を期待するも、良いではありませんかと言わんばかりの微笑み。

「はいはい出るわよ。私の凄いところを見せたげるから。」

「(*・ω・)从(・ω・*)」

ハイタッチする二人を背にため息一つ。本当はのんびりと出店ブースをウロウロするつもりだったが宛がはずれてしまった。

 

そうしてやって来たお祭り当日。出店や体験イベントなどを楽しんでいるとあっという間にお昼過ぎになり、大会会場に人が集まってきた。

「さぁ市民夏祭り午後の部の目玉はエレクトリア・ブレオン大会!近接武器のみ規格での戦いがみたい奴は集まれー!実況は市役所のスポーツ振興担当の角馬が!解説は〜?」

「どうも、別会場でスポーツチャンバラ体験会してたら攫われて、宣伝もついでにして来いと師範やちびっ子達に生贄にされました麟佳です。エレクトリアバトルは専門外ですが頑張りまーす。チャンバラ体験会は夕方までやってるので気になったら是非是非ですよ。」

「今回の大会はブレオンルール。飛び道具無しの近接武器のみです。剣は勿論、槍とか爪とか何なら拳でもOK!試合はトーナメント制で行われ優勝者にはなんと!ささやかな景品が贈呈されまーす。」

「そこ豪華じゃないのぉ…?」

即興コンビながらなかなかの掛け合いを見せる二人に会場も盛り上がっていく。その頃控え室では参加者たちが装備の準備を整えており、華麟もその中にいた。身につけた衣装はセイントメイル。聖なる力を宿すと言われる鎧だ。それに対して頭部には大きな角、脚は怪物を思わせるデモンレッグ。竜の尻尾と羽もあるので魔界の騎士の様だ。右手にはフォースブレイドを携えている。軽くて威力も申し分ないバランスの良い武器だ。

「ドラゴン…格好いい。スルト、も着たい。」

「お姉様。前の銃剣は使わないのですか?」

「今回はコレってことで。まぁ見てなさいって。」

意気揚々と挑んだ一回戦は快勝。繰り出される技はまさに舞の様に美しくも力強い。そしてヨトゥン達はその動きに見覚えがあった。

「凛音の動きにそっくりです。」

「はい。ダンスや剣の稽古も一緒にやっているので自然と似たらしいんです。」

おおよそ普通のエレクトリアでは辿り着かないであろう技の数々に対戦相手は為す術なく追い詰められる。そうして快調に勝ち進みあっさりと準決勝まで進めていた。

「すごいですお姉様。これなら優勝も見えますね。」

「どうかな?ここまでは楽だったけど、次はキツイかも…。」

先にフィールドに入った華麟に遅れてやって来たエレクトリアは軽装の鎧を纏った騎士。その手には金色の装飾が輝く両刃の剣が握られている。

「ルリタリア選手の武器はグランドキャリバー!まさに騎士に相応しい聖剣だぁ!」

「まぁ今回のレギュレーションでは飛び道具禁止なので格好いいビームはお預けでーす。」

近接武器の中には遠距離攻撃が出来るものが幾つかあるが、グランドキャリバーは巨大なビームを打てるロマンあふれる武器。剣単体の性能を見ても少し重いが威力はあるので愛用する人も多い一品だ。

「それでは準決勝第一試合、始めぇ!」

先に動き出したのはルリタリア。ブースト全開で銃弾のように飛び込んでいく。これを華麟は闘牛士のようにくるりと回転しながら受け流す。

「流石は舞姫、良く避けたわね?」

「それ持ってそんだけ速いとか、やるわね。でも私より小回り効かないでしょ?」

「それはどうかしら!」

高機動力による、縦横無尽の動きは聖剣の重みを感じさせない。初手の突撃は勿論速かったが、踏み込みすぎず離脱もまた速い。メリハリのある攻めと守りのリズムはこれまでの相手には無かったものだ。しかしこの難敵を相手にしても華麟は自分より何倍も重くのしかかる剣を器用に捌き、小さな動きで隙を伺う。一撃の威力に劣るのであれば動きのクセを少しずつ見切り、軽さを武器に手数で勝負する。そして見計らったところで鋭い刺突がルリタリアの胸元を貫く!しかしルリタリアは全く怯むこと無く反撃に出る。

「おっとこれはリアクティブシールドか!?一瞬だが攻撃を無効化させる強力なスキルだ!」

「まるで聖剣の加護ですね。」

思わぬ防御に少し驚くが直ぐに剣を引き戻す。しかしルリタリアはこの隙を逃さなかった。シールドに防がれて停止した剣は前進から後退にうつる僅かな瞬間、剣にかかる力はゼロになる。その一瞬の隙に切り上げを叩き込まれ、剣はあっさりと手から弾き飛ばされた!勝機を確信したルリタリアはそのまま剣を振り上げてトドメの体勢にはいる。

(よし、これで勝ち!)

「……あぐっ!?」

思考と認識から外れた声が口から漏れた。謎の衝撃に身体が曲がってしまい、剣の重みを支えられず大きくふらつくルリタリア。好機を逃すまいと華麟は懐に入り、光を纏った左腕を何度も振り抜く!

「速い速い怒涛のラッシュ!体制が整わないルリタリア選手は防戦一方だ!」

「なんすかあれ!?左手から何かエネルギーが?」

「これは魔力の剣!起動させた時のみ現れる武装!そしてこの武器は何より軽いのだ!」

魔力の剣は持ち手の無いエネルギー武器で、手刀が延長されるように展開する。そして重めのグランドキャリバーの半分にも満たないフォースブレイドより更に軽い。二刀流の心得がある華麟はどちらの手でも一定のパフォーマンスを発揮できるため、前半戦よりも更に速く攻めたてる。加えて剣を出したり消したりすることでリズムを崩し、ルリタリアを更に動揺させる。

「このっ!調子に乗らないで!」

「いや、この調子で勝たせてもらうわ!」

やっとの思いで横薙ぎ一閃を放つがそこに華麟はいない。

見下ろした先に人影を見たのも束の間、足払いを食らって仰向けに倒れてしまう。すぐ離脱しようとするが、直後に馬乗りになった華麟の重みのせいで身動きが取れない。そのまま喉元に剣先が突きつけられる。

「参った?」

「……降参よ。」

「ここで決着!決勝に勝ち進んだのは華麟選手だ!」

今日一番の名勝負に観客のボルテージは更に上昇する。その名優達は手を取って健闘を讃えていた。

「今日は負けたけど、次は絶対勝つから!」

「じゃあ次は二刀流でもっと圧倒したげるから覚悟しといてよ?」

「ふん!」

別れて戻ってきた華麟を妹達ががっしりと抱きしめて歓迎する。喜びのあまり圧力が強いのは仕方ないと流す。

「お姉様、決勝進出おめでとうございます…!」

「最後の…スルトが、やられたの…似てる。」

「そうそう、あれと同じ感じでやってみた。エレクトリアって大体後ろや上に飛んで逃げるからあの避け方したら結構怯んでくれるのよね。」

「それを本番でやってのけるなんて…お姉様は凄いです。」

「ハイハイ分かったからそろそろ放してくれない?決勝の前に潰れちゃう…。」

迎えた決勝戦。勝ち上がった相手は黒いコートを身につけたエレクトリア。これまでの試合では、ものの数十秒で勝利する異次元の強さを誇っていた。しかし華麟にはある確信があった。僅かに見た試合と立ち振る舞い、そしてこうして向かい合った時のプレッシャーを放つ相手の正体を。

「ねぇ。そのコート外したら?負けた時の言い訳にしたいならそのままで良いけど?」

「うむ…確かにもうよいかもしれぬな…。」

コートを脱ぎ去り、現れたのは和服を纏い、長い狐耳をついた桃色の髪。腰には長短二本の刀を携えた巫女、八重がいた。

「おっと、謎のコート剣士の正体が明らかに!その正体は……えぇえゑゑぇ!?やや、八重だぁぁあ!?」

「こっちも知人ですやん…。」

「通称、最強の桜巫女!ブレオン世界大会制覇経験もある大剣豪が来たぁぁあ!!」

ざわめきが大歓声に変わる。その活躍を知るファンからは応援の声援も挙がる。

「剣筋で察してたけど、あんたなんであんな変装してたの?」

「街の催しとは言え、ここはそれなりの人が集まる場所じゃ。他の参加者に正体を悟られぬ様にしたまで。それと、サプライズは面白いであろう?」

クスクスと笑う八重に肩を落とす。お茶目な一面もあるのは知っていたがまさかこんな所で食らうとは思っていなかった。だが気を引き締めねばならない。剣術の実力で言えば準決勝のルリタリアよりも更に格上で、自分の剣技も霞かけない。油断は勿論不要で、絶好調でも勝てるかは怪しい相手だ。

「さぁ構えよ。小さな大会とは言え、加減はせぬぞ?」

「そうして上から見てなさい。脚を掬ってあげる。」

「さぁ、決勝にこれほど相応しい役者はいない。歌う舞姫・華麟VS最強の巫女・八重!構えて…試合開始ィ!」

開幕と同時に駆け出した二人。華麟は魔力の剣を隠すことはせず二刀流で挑む。相対する八重も二本の刀を抜いて迎え撃つ。打ち込んで受け止め、捌いて避けて切り返す。加えて二人とも二刀流…彼女達の練度も相まって素人の目で追うにはあまりにも速すぎる。

「何と言う速度の剣戟!瞬きする暇がないぞぉ!」

「これ、いい意味でエレクトリアらしくない試合ですね。」

「と言いますと?」

「エレクトリアは飛行能力があるので空間を広く使う傾向があり、これまでの試合も急旋回、急加速によるヒットアンドアウェイが主なんです。でもこの二人の戦いは人の間合い…アクション映画とかみたいですね。」

麟佳の解説の通り、広いフィールドを飛び回ることはしない。飛び回らないため姿を追う必要は無いが、剣の動きは縦横無尽。アクション映画の高速剣劇に匹敵するので瞬きする暇が無い。一進一退の攻防は互角に見えるが実際苦しいのは華麟だった。軽さを活かした剣術でここまで勝ち上がってきたが、ここに来て立ちはだかったのは更に速い剣術の使い手。加えて元々近接武器と射撃武器をバランス良く使う戦法のため、近接限定の練度差が出てくる。しかしそれがどうしたと果敢に攻めていく。

「やはりお主との手合わせは高揚してしまうな。」

「それはどうも!」

軽口をぶつけるも剣の勢いは留まるところを知らない。いや軽いのは口だけで剣は重く、浴びせられる気迫は更に重い。まだ制限時間に余裕はあるが引き伸ばしたところで状況は良くならない。ならば…。

「でぇやぁああ!」

「一段上がって来くるか!ならば応えるまで!」

出力を上げての短期決戦。ブースターは発熱ギリギリまで使い、予測演算も常に行われている。言うまでもなくしんどい。この華麟のハイペースに全く遅れること無く八重は追従…いや隙さえあれば凌駕してやると言わんばかりだ。そして少し大振りの一撃を回避されたところで、八重が力強く踏み込む。次に来るであろう攻撃に対処するには体を回転させて防御態勢に入っても僅かに時間が足らない。それにもかかわらず華麟は振り抜いた勢いのまま回転する。

「…!」

「なんっ!?」

八重の胴体にヒットしたのは竜の尾。回転が間に合わないなら背中にある物を使えば良い。本来攻撃には用いない尻尾を活かしたのは華麟の発想力と機転の利かせ方は通常のエレクトリアとは一線を画す物だ。しかしこの不意打ちを受けても八重は受け身をしっかりとり、ペースを乱さない。それどころか不敵に笑う余裕さえ見せた。

「それを使ったところを見るに、余裕は無いと見たが…どうじゃ?」

「ちょっとくらい苦しそうにしてくれない!?」

「ならもっと追い詰めれば良い。」

尻尾も加えた三刀流。太さも長さもあるので当たればバランスを崩せるだろうが先程の一撃を見せてしまったため、尻尾も手札にある物として判断される。何より尻尾で攻撃するには回転して後ろを向けなければならない。下手に仕掛ければ死角から切り捨てられる。それを承知の上で攻め続ける。何度か攻撃が命中するもそれ以上の斬撃を受けてしまっている。しかし優勢とはいえ隙を晒せばあっという間にひっくり返る事を双方認識している。そんな中で華麟は不気味な緊張を感じ始めていた。ドキドキというか、ピリピリなのか…。確かなのは八重が戦況を動かす、ないし決着の手を出すであろう前兆だ。それを認識した直後、八重は左手の剣を華麟に投げ飛ばした。飛び道具を全く警戒していなかったため反応が遅れる。辛うじて防御こそ出来たが無理矢理動いてしまったため、次の動きに移るまでに無の時間が生まれる。対する八重は納刀し抜刀術の構えが完成していた。

「あ、しまっ…。」

「ふん!」

スタジアムに集まる観客の視線を振り切る八重。消えたと言っても良い速度での抜刀術を肉眼で捉えられた者はいるのだろうか?次に八重の姿を観客が見た時には納刀を終える直前。そしてその背後では華麟が地面に倒れていた。

『……。』

想像も出来ない絶技を前に数秒間、そこにいる全ての声が途絶える。

「…はっ!ボケッとしてしまった!優勝者は完璧で究極の巫女、八重だァァ!!」

 

『わあああああああ!!!』

 

会場の外まで溢れる大歓声。浴びせられた声援に八重はお辞儀で返している。

「あーー。疲れた…。バッテリーも一気に使っちゃって動くのめんどい…。」

華麟は身体を放り投げて大の字になっている。

「満身創痍のようじゃな?」

「ほんっと疲れた…。悪いけど凛音の所まで運んでくれない?なんか気が抜けたら動けなくって。」

「いや、妾よりも相応しい相手がもう向かっておる。」

「お姉様!」

スタジアムの側には既にヨトゥンが控えており、少し後ろから他の二人も来ていた。

「ほら、可愛い妹が出迎えておるぞ?」

「お姉様、大丈夫ですか?」

「ちょっとくたびれただけ。まぁ最後とアレは大分痛かったけど…。」

「それは仕方がないことじゃ。あれ程の勝負はそう出会えるものではない。優勝という目標も達成出来たゆえ文句無しじゃ。」

「そう言えば景品って何だっけ?特に気にしてなかったから忘れてたわ。」

気になってなんとなく司会席に目をやると何やら壇上に物が運ばれていた。おそらくあれが景品なのだろう。

「優勝賞品は近接特化パーツの盛り合わせです!」

「そこは詰め合わせじゃないの…!?」

壇上には様々なパーツが置かれており、10数個はあるだろうか。剣は勿論バックパックやレッグパーツなどなど部位は様々だ。最上位ではないが色々とに重宝されるパーツなので確かに景品である。

「うむ。あれであれば皆も満足するであろう。」

「ひょっとして野良の皆に渡す奴?」

「そうじゃ。以前巨大な怪物にムシャムシャと食べられてしまったからの〜?」

「う……。」

やってしまった苦い思い出。当時は命令通りの行動をしただけだが今はそれを罪として理解している。意識制限があったものの記憶は鮮明なのでなおさら罪悪感が蘇ってくる。

「ごめんなさい…。」

「ふふ、少しからかっただけじゃ。妾にとって今のヨトゥン殿は良き友人。昔は色々あったなで流せば良い。」

ヨトゥンが下げた頭をぽむぽむと叩く。小さな手だがとても暖かく感じられた。

「しかし償いがしたいと言うならばこのパーツを運んではくれぬか?妾一人でこれを運ぶのは骨が折れる。」

「ええ、分かりました。」

「助かる。では凛音殿、ヨトゥン殿を借りてゆくぞ?」

「はい。彼女達にもよろしくお願いします。」

 

その後、野良達の拠点に景品のパーツを持ち込むと皆お祭り騒ぎの様に湧き上がっていたらしい。ヨトゥンの事も快く歓迎し、あれやこれやと日常話に花が咲く。中にはリベンジだ〜、と息巻いて秒殺で返り討ちにされるやんちゃ娘もいた。

「うむ、ヨトゥン殿に荷物運びを頼んだのは正解だったようじゃ。」

「…?どうしてですか?」

「皆の笑顔もそうだが、ヨトゥン殿の笑顔がよく見られたから。無情に妾達を食らい尽くした怪物はもういないようじゃな?」

「ありがとう。でも怪物はまだ消えてない。悪い子がいたらこの口でパクッと食べてしまいます。八重も気を付けて下さいね?」

「ふふ、その意気じゃ♪」

 

 

 




お姉様もとい華麟と八重の実力を書いてみました。とはいえ近接はやはり八重桜に軍配。華麟ちゃんの真の強さが描かれるのはいつになるやら…。

因みに戦闘描写は筆者本人の実体験を一部含んだり脚色つけたりしてます。スポーツチャンバラって剣が軽いのを良いことに無茶苦茶する人がちょこちょこいるんですよねぇ…人の事言えませんが。
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