また一人家族が増えた凛音達が来たのは円縁の研究室。目的はヨトゥン、スルトの定期メンテナンスとクロヒメの調査のため。通常のエレクトリアであれば町の店舗や修理業者に任せれば良いのだがヨトゥン、スルトという超特殊仕様は開発者本人に任せるしか無い。幸い本人はやって欲しい事、何か欲しい物は何でも言ってくれという歓迎ムード。今日もメンテの他にリクエストした装備も贈ってくれるそうだ。クロヒメの件も快く受け入れてくれたので、自分について色々分かるかもしれないとクロヒメはご機嫌である。
「自爆スイッチ搭載とかじゃない限り、跳ね除けたりしないけどね?」
「(=´▽`=)」
「喜んでるので構いませんが、例えが物騒ですお姉様…。」
そうこう話しつつ歩くがに研究室はもう少し先。以前の組織では入ってすぐの場所に部屋を作らせていたが、こちらでは最近の加入なので少し奥になっている。しかし設備自体は上質で、巨大エレクトリア様に広いテストスペースも確保されているので不満はないそうだ。そんな彼女の活動内容はエレクトリアの装備開発、プログラム開発・調整、そして大型エレクトリアの研究である。ただ大型エレクトリアに関しては現状は個人の趣味に留めているそうで、インダストリアルからもそこまで急かされてはいない。そもそもエレクトリアもまだまだ発展途上なので、会社としてもまだ時期尚早と判断しているらしい。
「でもいつか私達に沢山の妹ができたら…。それはとても嬉しいことです。」
「プロトタイプとか試作って意味ならお母さんかもよ?」
「ぉ、お母さん…!?」
「スルト…ママ、なる?」
「では華麟は叔母になりますね。」
「マジか…。」
研究室のカードキーを開いて部屋に入れば見覚えのある人影が…。
「あら?ご機嫌よう、凛音。」
「縁さん…?」
そこにいたのは円縁その人なのだがその下半身は白い蛇。上半身も…色々と大きくなっておりヨトゥン達とほぼ変わらない。大蛇のように長く太い尻尾はいつの間にか自分達を取り囲んでいた。
「貴女は誰ですか…?もし危害を加えるなら私とスルトが貴女を破壊します…。」
ヨトゥンの言葉に続くようにスルトは警戒態勢に入る。しかしニセ円は全く余裕を崩さないどころか楽しげに笑っている。
「そんなに怒らないで。私は争いに来たんじゃなくて、遊びに来ただけだよ。ヨトゥンお姉ちゃん♪」
「お姉ちゃん…!?」
「妹…知ら、ない。」
「スルトお姉ちゃんもそんな怖い顔しないで?ほらこうやって仲良くしましょう?」
二人が呆気にとられている間に三人纏めて蛇の蜷局に巻き取られてしまい、華麟とクロヒメも鷲掴みにされる。なんとか振り解こうにも凛音も巻き込まれているので全力を出せずにいた。
「そんなに慌てないで?ほら、凛音は全く恐がってないわ?」
「そうですね。敵意が無さそうな点もありますが、縁さんの知り合いだと思ったので。」
「縁の知り合いでも悪い事をするとは思わないの?このまま絞め殺すかもしれないし、華麟お姉ちゃんを握り潰すかもしれないのよ?」
「そこは私の勘です。」
「そう…度胸があるのね。人見が優れているのか、ただのお人好しかしら?縁が貴女を気に入る訳ね。私ももう気に入ったもの。なら自己紹介をしないとね?」
密着していた大蛇は会話のために少しだけ距離を開ける。クネクネと進む様子は本当に蛇のようだ。
「私はメビウス。見ての通り円縁の写し身…と言うには色々と大きいわね。知識を引き継ぎ、思考もほぼ再現されたもう一人の円縁…それがメビウスよ。今は彼女の助手として研究を手伝っているわ。」
それを聞いた凛音と華麟は口には出さない、いや驚愕のあまりの出せなかった。それはエレクトリアに人間の心をコピーするようなもの。オーダーメイドでエレクトリアを作成する時も全く自分と同じ設定は基本的に断られてしまう。本人作成とはいえ、この行動は大胆なものなのだ。
「ひょっとして、恐いことを考えているの?安心して。今のところ100%の再現性は無いから厳密に言わなくても私と彼女はちゃんと別人よ?でもいつかは完全に同じにしてみたい欲求は確かにあるけれど。私は円縁の記憶、思考、心理を受け継ぎ永遠に刻み続ける…それ故のメビウスよ。」
クスクスと微笑むその顔に偽りは無く、本気で取り組んでいるのだろうと確信させる。
「ちゃんとお姉ちゃん達の妹だから安心して?華麟お姉ちゃんも私を妹として扱っても構わないから。」
「わぁ…、また妹増えるじゃん…。」
「ねぇ華麟お姉ちゃん?お願いがあるのだけれど…?」
「何?まぁ、私に出来ることなら…。」
「ほんとう?ふふ…。」
妖艶に微笑んで華麟を握り締める。好奇心の対象を舐め回すような瞳に、まるで蛇に竦む蛙のように動けなくなる。
「華麟お姉ちゃんを食べても良いかしら♪」
突然の衝撃発言。しかしヨトゥンという実例があり、同じ型である以上あってもおかしくはない。
「ヨトゥンお姉ちゃんと同じで私もエレクトリアを食べる事ができる。その初めては華麟お姉ちゃんにしたいの。お願い…華麟お姉〜ちゃん♪」
「ぐぬ……。いいわよ。」
「お姉様!?」
「((( ;゚Д゚)))」
一瞬の躊躇いはあったがあっさり承諾した華麟。もっと嫌がると思っていたのか、メビウスの顔はキョトンと首を傾げる。
「本当に良いの?呑み込むフリをして噛み砕いてしまうかもしれないわよ?」
「そうなったらもう運が無かったとしか…。私を食べたいのは本当に興味があって、尚且つ拘りたいからでしょ?」
「そこまで言うなら遠慮はしないからね?じゃあ…いただきます。」
開かれたメビウスの大口に足先から落下し、頭だけ外に残る形で頬張られる。直ぐには飲み込まれず、舌で全身を舐め回され、時には甘噛もされる。もしメビウスがエレクトリアでなければ、今頃唾液で包まれていただろう。
「ごめんね、華麟お姉ちゃん。初めての食事は大事にしたいの。でももう大丈夫よ…。優しく、食べてあげる…♪」
そう言うと喉奥に入っていた脚が圧迫され、そのまま引きずり込まれていく。同意の上での事だが、多少は恐怖がある。もしヨトゥンに出会った時に丸呑みにされていたらその様子がフラッシュバックしたことだろう。そして頭も頬張られ、一気に喉奥に引きずり込まれる
「んっ…これが丸呑み…。お腹に降っていくお姉ちゃんが感じられて素敵ね…。」
嚥下した華麟を追う様に指先を這わせる。喉を降りて胸を通った先でピタリと止まる。どうやら胃袋についたらしい。
「しばらくそこでゆっくりしてて、お姉〜ちゃん?」
「狭い洞窟で絞められた感じね……。にしてもお腹の中は思ったより広いわね?」
エレクトリアには暗視機能があるので体内は決して暗闇ではない。メビウスが巨体ということもあり、大型車より広い程度の空間はある。壁は柔らかくクッションの様…いやそれと別にクッションも置いてある。
「これ誰用なのよ…。」
「もちろん私用よ。でも、お姉ちゃんも使っていいわ。」
メビウスの声がするが妙だ。エレクトリアの発声器官は喉元にあるので、もし外から話しているならある程度籠もったりするはずなのだが、今の声は直ぐ隣からのもの。慌てて振り返ってみるとそこには自分と同じ、いや少し小さいサイズのメビウスがいた。よく見ると胸元も小さくなり、脚は普通の人の物になっている。
「え…なんでちっちゃいメビウスが…?」
「私もメビウスだからよ。大きい私を親機と見れば私は子機ね。でも意思は完璧に同期されているからどちらも正真正銘本物のメビウスなの。」
一方外ではお腹の中の感覚を愉しむメビウスをヨトゥンがそわそわしながら見つめている。自分も同じ事が出来るのだが、姉への好感も相まって落ち着けない。
「お姉様は無事なのですか…?」
「もう、ヨトゥンお姉ちゃんは心配性なのね?私達の捕食機能は全く同じ。だから食べても大丈夫なのは自分がよく知ってるでしょう?」
「そうなのですが…。」
「大丈夫よヨトゥン。心配なら私が保証してあげるわ。」
「博士!」
部屋の入口には今度こそ見覚えのある姿が立っていた。正真正銘本物の円縁その人だ。
「楽しんでいるようねメビウス?」
「あら、帰ってきたのね縁?」
素早く円を掴み上げると再び全員を蜷局に巻き取るメビウス。まるで獲物を獲る様に素早く静かな動きはヨトゥン達の警戒をあっさりとすり抜けていた。
「縁と凛音にお姉ちゃん達。そしてお腹の中には可愛い華麟お姉ちゃん…。ふふふふ♪」
喜びを全てを出し切っているような恍惚とした笑み。今後もう無い様な幸せを味わっているのであろう。実際には同じ状況を再現すれば彼女は再び絶頂に浸れるのだろうが。
「満足したかしらメビウス?今日の本題、覚えてるわよね?」
「勿論覚えてるわ。大好きなお姉ちゃん達のメンテナンスや新装備だもの。お腹の中のお姉ちゃんも名残惜しいけど出してあげる。ん……。」
メビウスがお腹に置いた手が上へと上がっていき、食道を逆流していく。そして喉奥に手を入れて登ってきたものを取り出す。
「お姉様大丈…え…?小さな、メビウス…?」
「あら、間違えたわ。華麟お姉ちゃんはこっちね。」
改めて吐き出された塊は今度こそ華麟。キョロキョロと周りを見ると満足気にニヤリと微笑む。
「どう?ビックリした?即席ドッキリ仕掛けてみたの。」
「先に私を吐き出したらきっと驚くからって、華麟お姉ちゃんは意外とイジワルなのね?じゃあ私はこっちに用は無いから戻るわね?」
そう言って小さなメビウスは大きなメビウスに呑み込まれて体内に帰っていった。
「……なるほど。だから蛇なのですね。」
「何か気になることがあるの凛音?私の由来はさっき話した通りなのだけれど?」
「白蛇はいろんな伝承があるのですが、永遠や長寿などもあるんです。名前のメビウスも同意。そして小さい自分を食べるのはウロボロスではないかと。」
「( ゚д゚)」
「ウロボ…ロス?」
「この前聞いたことがあります。自分の尻尾を飲み込む死と再生を象徴する蛇ですよね?」
「凛音は聡明なのね。私がメビウスに与えた意味を導くだなんて。」
「縁が気にかける理由がよく分かったわ。ふふ…。」
三日月のように上がる二人の口角。紛うことなく笑顔なのだが、その裏が見え隠れして少し背筋が寒くなる。
「り…凛音。私達、蛇の巣から逃げられないんじゃない?」
「うーん、二人ともペロリと食べられてしまうかも…?」
「大丈夫。華麟お姉ちゃんは優しく食べてあげるから♪」
「安心できなーい!?」
かくしてようやく始まったメンテナンス。ヨトゥンとスルトはメビウスに連れられ別室へ。クロヒメは円の検査を受けるために測定機のプラグを繋がれている。先程の丸呑み事件で落ち着かないので、華麟をギュギュっと抱きしめつつ、自らは凛音の膝上に座っている。
「へぇ。中々良くできているわ。サイズを拡大しても問題は無いようだし、武装も火力強度共に申し分無し。スカートから腕の変形は可動性含めても良い出来ね。」
「実際戦った時も多彩なのよね…。私と八重のタッグをしっかり捌き切ってたし…。」
「(*´ω`*)」
「作者が剣術や格闘が好きだったのでしょうか?」
「さぁ?私は興味無いわ。それに本人にはもう確認出来ないようだし。」
「…そうですか。」
淡々と話していたメビウスの口調から更に色が消える。その変化とそれを促したであろう単語で凛音はおおよその当たりをつけ納得した。質問しようと頭で言葉を並べていた華麟もそれを中止する。凛音の様子を察したのもあるが、身体を抱いているクロヒメの腕に力が入ったのだ。
一方、奥のテストルームに入った三姉妹も早速メンテナンスに入っていた。とはいえ無線有線の検査はさほど時間も手間もかからないので休憩がてらの雑談タイムに入っていた。
「普段からこの研究室に籠もっているのですか…?」
「そうね。私自身も研究をしていたいし、こんな蛇の怪物に突然出会したら驚くでしょ?」
「確かに初めはびっくりすると思いますが、話せばきっと友人も出来るかと思います。」
「あら、私が友達も居ない寂しい人って思っているの?お姉ちゃんにそんなふうに思われているなんてガッカリ…。」
「ごめんなさい…!そんなつもりは無いのですが…。」
「大丈夫よ気にしてないから。お姉ちゃんはまだ口下手だもの。でも友達…というより同僚みたいなのはいるのよ。機会があれば紹介してあげる。」
「もしや、その方も私達のように大きいのですか?」
「どうかしらね?あぁでも縁の調子が良いみたいだから、そのうち新しい妹も来るかもしれないわ。」
「どんどん家族が増えていきますね。」
「もし量産することになったらもう少し小さくして、戦闘機能も大幅に規制されるでしょうね。」
「じゃあ…メビウス、つよい?」
「あら、スルトお姉ちゃんは戦うのが好きなの?兵器としての自覚ってところかしら?」
「ちがう。スルトも、ヨトゥンつよい。だから、興味…ある。」
「私の強さが知りたいの?じゃあせっかくだから見せてあげる…お姉ちゃん達に隠し事はしたくないもの。ふふふ…♪」
メビウスが微笑むと彼女の下半身が白から黒に染まって行く。1秒にも満たない内に輝く白い鱗は全てを飲み込む暗黒に染まり、その暗黒から黒翠の液体のような物が流れ出して瞬く間に床を塗りつぶして行く。それは床を伝い、足を伝い、腕のように脚を掴み始めた。
「これは…!?」
「足……重い!」
「それが私の武器。この蛇の身体には膨大な量のナノマテリアルが搭載されていて、それを自由に操れる。ほらほら、早くしないと全身包んじゃうわよ?」
「くっ!」
足を引き抜いても次々と絡みつくそれはまるで沼の様。このまま一方的にされないために、スルトは出力を上げて引き千切り、メビウスに殴りかかる。
「きゃ〜!スルトお姉ちゃんってばこわ~い。」
わざとらしく驚くメビウスの前に黒い壁が迫り上がる。拳が当たるとまるでスライムのように柔軟に衝撃を吸収し難なく受け止める。そのまま壁は巨大な手に変形してスルトを拘束してしまった。時を同じくして、スルトとメビウスの攻防を観察しようとしたヨトゥンも捕らえられた。蜷局に巻き取られた時と違い凛音を気にせず全力で振り解こうとするも硬さと柔らかさを兼ね備えた巨腕は全く動じない
「暴れちゃ駄目だよお姉ちゃん?お姉ちゃん達は私の大事なお姉ちゃんで、貴重なラットさんなんだから…。」
床が盛り上がる様にして現れたのは巨大なメビウスの顔。本体と同じ笑みを浮かべるそれは握りしめた姉達を物色するように眺めている。
「それじゃあ華麟お姉ちゃんと同じ様に食べてあげる…♪」
腕ごと二人を口に入れる巨大メビウス。下半身は無いので呑み込みはしないがモグモグと咀嚼し口の中で転がして遊んでいる。あまりにも呆気ない決着にメビウス本人も少し退屈そうだ。
「私はお姉ちゃん達の能力を知ってる。どう動くのかもだいたい予測がついているのよ。それに武器を持つ相手に手ぶらで勝てないでしょ?私達姉妹の基礎スペックはほぼ同じ。なら強力な武器を持った私が勝つのは当然なの。」
メビウスが指を鳴らすと巨大メビウスは水風船が割れる様に崩れ落ちた。飲み込まれた二人も開放されるが、ショックのせいか立ち上がることが出来ない。
「ご馳走さま。とっても美味しかったわ、お姉ちゃん♪」
「こんなにも差があるなんて…。」
「スルト…悔しい。」
「ところでスルトお姉ちゃん。レーヴァティンはどうしたの?あれがあればこんな負け方はしなかったのに。」
「あれ、危ない。それ、に…目立つ。」
「確かにそれもそうね。お姉ちゃんは巨大ってだけで目を引いちゃうもん。私みたいな大蛇も町中にいたらきっとパニック映画みたいに大騒ぎね?」
クスクスと笑うメビウス。しかし事実として彼女達巨大エレクトリアはとても目立つ。通常のエレクトリアは武装したまま出かける事も多いが彼女達の場合は不要な威圧感を放ってしまう。その為スルトの大剣は普段は持ち歩かない。そもそも異次元の身体能力を活かした格闘術も日常生活ではオーバースペックだ。しかしそれはメビウスにとってはつまらない事。エレクトリアの可能性を追い求める円とメビウスにとってはそんな些細な視線は取るに足らないものだ。
「じゃあヨトゥンお姉ちゃんも危ないから武器はいらないの?折角作ったのに残念。」
「え!?わ、私の武器があるのですか…?」
「そんなに驚くことかしら?スルトお姉ちゃんも私も持っているのに仲間ハズレは良くないでしょう?ちょっと待っていて。」
目立つから持ち歩かないのは事実なのだが、戦うため、護るための武器があるなら興味はある。それこそ今ちょうど武装の差を見せつけられたところなのだから尚更だ。部屋の奥から持ってきたのはヨトゥンに似合う蒼い槍。身長よりも少し長いそれは大きな刃があり、反対の持ち手側にもナイフ程の刃がある。ヨトゥンがそれを受け取った時の大きな印象はとても冷たいということ。金属が冷房で冷えたなんて甘いものではなく、氷を触ったかのように冷たいのだ。
「スルトお姉ちゃんが焔だからこっちは氷にしたの。どう?取り回しが難しいなら調整するけど?」
なんて言われたが、既にこれ以上無い程の扱いやすさを実感している。槍と通信することで冷気も調整することが出来、小さい刃を取り外すことでナイフとして扱うこともできる。その様子を見たスルトはメビウスにぴっちりと密着して催促していた。
「スルトの。スルト、のは?」
「お姉ちゃんったら欲張りなのね?じゃあこれはどうかしら?」
渡されたのはスルトが持つ大剣をそのまま小さく50cm程にした短刀が5本。色彩も統一されているので大剣と合わせて使っても似合うだろう。
「持ち運び易い様に小太刀程度のサイズにしたわ。本当は大剣と組み合わせて使う物だけれど、それは今度ね。」
「( ╹ー╹ ) ♪」
同じく素振りをしているスルトは表情こそ変わらないがご機嫌だった。力強く構える大剣と違い、クルクルと回しながら踊るように振るう様は華麟の剣舞を想起させる。
「嬉しそうで良かった。ところでお姉ちゃん達、装備の試運転…してみたくなーい?前に要望のあった装備もちょうど出来てるの。」
『!!』
グルンと風を切る勢いで振り向いた二人。服などは特注で作ってもらっていたが、実はパーツ類の希望も出していたのだ。
「スルトの…格好いい?」
「えぇ。性能も期待していいわよ?」
「えっと……私のも…?」
「もちろん。こだわり抜いたわ。」
武器はいったん降ろして、三姉妹の着付けが始まった。
場所は戻って縁の部屋。クロヒメの過去にショックを隠せない凛音と華麟。そんな二人をよそ目に円は画面と向き合って検査を続けている。
「ログを遡れば何かあるかもしれない……なんて話していたらログの抜き出しが終了したみたいね。確認するけれど…見る?」
クロヒメの過去。本人が話せないので判明しなかった未知領域への鍵が渡される。これはクロヒメの過去を明かす物だが、それは彼女の全てを見ることと同義だ。エレクトリアにも意思がある以上、彼女が秘密にしたいのであればそれを尊重するべきだ。
「クロヒメはこれ私達に見られても大丈夫?もし駄目なら調査のために博士にだけ見せるけど?」
「先に言うけど、ログの量は大した事ないわ。始動してから貴女達と出会うのにも数日しか経っていない様だし。」
「(´・ω・)……(。'-')(。,_,)。」
静かに頷いたクロヒメ。それを合図に短い上映会が始まる。
「ちゃんと起動できたかな?声は聞こえるか?」
映されたのはクロヒメが作られたであろう作業室と開発者と見られる男性。少し痩せこけているが、優しそうな青年だ。キョロキョロと見渡すと机の上には工具等の仕事道具もあるが、薬の容器や栄養ドリンクなども置かれている。時計を見るとまだ朝食頃の時間帯。疲れ具合を見るに徹夜で作業していたのかもしれない。
「よかった、間に合った……んっ…。未完成で終わったら怨霊になるくらい未練まみれになるところだ…ゲホッ…。」
言葉に詰まったり咳が出ているのを見るに体調は芳しくないようだ。片付けも雑なので開発によほど専心していたらしい。
「うーん、体調また悪化したな…。悪いけど一旦眠るね。一段落したら気が抜けたみたい。」
そうして布団に入った開発者はあっと言う間に寝息を立て始める。その様子をクロヒメはじっと眺めて一歩も動かなかった。男は目覚めてもぐったりとしていて、食事量も少ない。そんな彼に対してクロヒメは側に控えていた。何かをしてあげたかったが、主が何をしてほしいのか、何で苦しんでいるのか分からないため何も出来なかった。でもそれだけで彼の心は救われていた。慣れてなさそうな笑顔を向けてくれたのだ。
「ありがとー。パートナーに支えられるのってこんな気持ちなんだな。」
「(´・ω・`)」
「お前は……ヤベっ…つくるので必死で名前考えるの忘れてた…。ごめん。頭ボーっとしてて、いい名前浮かばないな…。また、今度にしてくれ…。」
「(´・ω・`)」
「そうだ、好きな人や物が出来たらどんどん追いかけるんだ。夢中になるのは楽しいぞ?まぁ、やる事ちゃんとしないとこうなるけど…。」
「(´・ω・`)…」
「それじゃ…おやすみな…。」
「(´;ω;`)ブワッ」
それを最後に男は動かなかった。静かな呼吸も消えていき静寂だけがクロヒメを包む。それがどういうことなのか、産まれたばかりの彼女も理解できたらしい。もう彼は居ないのだと。
「。゚(゚´Д`゚)゚。」
映像の過去と呼応するように、現在のクロヒメも涙を流していた。その後の映像ではひとしきり泣き尽くした後、部屋を去って行った。そして放浪している中で運命の人、華麟を見つけたのだ。
「。゚(゚´Д`゚)゚。」
しかしクロヒメの悲しみはまだ溢れている。その理由を知ってしまった二人はこの溢れる悲しみを止めるべきか悩み、動けずにいた。
ズシン……ズシン……
そんな彼女達に重い足音が響く。まるで大きな怪物が迫るよう。キョロキョロ見渡すも姿は見えず。ならば後ろと振り返ろうとするがそれより早く視界の横から巨影が現れた。
「がおぉ〜。」
気の抜けた咆哮はスルトの喉から響いていた。しかしその姿は随分と変わっている。手足は禍々しいデモンシリーズ。背後には大きな龍の翼と太い尻尾。頭部には大きな四本の角。衣装は華麟も身に着けていたセイントメイル。全体的に黒を基調として、スルトの赤髪が映えるようになっていた。
「ひょっとして私が大会に出た時の衣装?」
「そう。格好いい…つよつよ、ドラゴン。」
クルクルと回りながら新しい姿を見せてくれる。よっぽど嬉しいらしく、不動の口角が僅かに上がっている。そんな上機嫌な彼女だが、クロヒメの異変に敏感に気付く。
「クロヒメ…泣く?何、あった?」
「えっと……ちょっと悲しいこと思い出しちゃって…。」
「。゚(゚´Д`゚)゚。」
「ん、分かった。クロヒメ、こっち。」
「(´;ω;`)?」
そう言うと凛音からクロヒメを受け取り、目線を合わせるスルト。その眼差しにクロヒメも揺らぎながらも見つめ返す。
「クロヒメ、の…悲しい、分けて?」
「(´;ω;`)?」
「悲しい…分ける、と…小さくなる。スルト強い。だから沢山、持てる。凛音、お姉様、ヨトゥン、家族いる。みんな、で…支える、出来る。そうしたら、クロヒメ…悲しくな、い?」
「。゚(゚´∀`゚)゚。」
スルトの大きな胸に潜り込む様に抱きつくクロヒメ。涙は胸を濡らすが、構うこと無く抱き寄せて撫でる。服装もあって龍人の親子のようにも見える。
「凄いですね、スルトは。」
「私達二人とも呆然しちゃってなんて声かければ良いか分からなかったし…。」
「違う。スルト、何も知らない。勝手、言っただけ。でも、クロヒメは家族。だから…護る。それだけ。」
それだけ。それだけの事だが、それだけがクロヒメを救う一手だった。クロヒメが見つけた宝物、家族だけが彼女を救うことを許される。
「確かにやることはそうだもんね。クロヒメ?」
「(´・ω・`)?」
「あんたが私を追いかけてきたけど、こっちはもう手放す気無いから覚悟しといてよ?」
「ヽ(=´▽`=)ノ」
「ってことでスルト。じゃんじゃん撫でてやって。」
「りょーかーい。」
「(*´ω`*)」
そのまま髪を梳く様に撫でてやると満足感で顔が緩みきっているクロヒメ。尻尾もピョコピョコと跳ねている。【辛】に一本出して【幸】とはよく言うが、一本どころではない思いやりがクロヒメに降り注いでいた。
「あ、あれ?私が着替えてる間に、何かありましたか…?」
おずおずと出てきたのは着替えで遅れていたヨトゥン。シースルーのシャツにスカートという軽装だが目を引くのは毛に覆われた耳と尻尾。視線を釘付けにするのは勿論だが、そこに潜むフワフワの魔力には思わず手を伸ばしたくなってしまう。
「大丈夫です、もう一段落しましたから。それにしても随分と…もふもふですね?」
「狼を模して作ってもらったんです。どうでしょう?似合っていますか…?」
「とても素敵ですよ。触っても?」
「はい勿論です…。」
跪いて頭を差し出すヨトゥン。ピョコピョコと動く耳に触れると体の内から快感が湧き出る。これはイケナイ。俗に言う人をダメにするタイプのモッフモフだ。
「ソファはそっちにあるから自由にしていいわよ?」
すべてを見透かした円の言葉に促されて移動する二人。胸元に置かれたヨトゥンの頭を黙々と撫でる。元々艶のある綺麗な髪なのに、ふわりとしたケモミミを追加されてはナデナデが止まらない。もっともっと、と思っていると不意に頭が引っ込む。やりすぎてしまったかと思う間もなく、こんどは膝上に尻尾が乗せられる。もはや虜になっている凛音は許可を取るまでもなく尻尾を優しく握る。先程までは耳の肉感ある柔らかさだったが、こちらは空気感のある柔らかさ。手に乗せて見ても殆ど重さを感じない。質量は確かに存在するのに、手を離したら飛んでいってしまいそうな程にふわりとしている。
「ん…。」
柔らかさを追い続けるあまり、尻尾の付け根辺りまで撫でてしまった。ヨトゥンの声に思わず手を引くが、手を引き戻される。
「大丈夫です。初めての感覚に驚いただけですから。凛音ならもっと…いえ、好きなだけ触ってほしいです…♪」
本人からのお許しが出たので再度モフる。それを見守るヨトゥンの心にあるのは好きな相手に触れてもらう喜びと珍しいものを見る驚き。普段は乱れること無く、凛とした女性なのだが、ここまで気が抜けているのは布団や入浴時くらいのもの。
「凛音はこういう柔らかいものが好きなのですね?家にも沢山クッションがありましたし…。」
「そうですね。柔らかいものが好きで好きで。」
「なら遠慮なく触って下さい。」
「……。」
それを遠くで眺めているスルト。姉も凛音も大好きなのだが、胸元が少しムズムズとする。嬉しいでも無く、悲しいでもないのだが確かに心がザワつく。それを敏感に察知する姉、華麟の助け舟は早かった。
「気になるなら行って来たら?スルトも新しい衣装をもっと見てほしいでしょ?クロヒメは私が相手するから。」
「良いの?」
「(`・ω・´)ゞ」
「分かった。」
クロヒメと華麟を机に降ろして去っていったスルトは空いている凛音の隣に座って尻尾を差し出す。
「……。」
「スルト?どうしましたか?」
「尻尾、撫でて。モフモフ、無い…けど。」
手を触れてみると、やはり龍の尻尾なので確かに柔らかさは無く、ゴツゴツとしている。しかし、重く堅牢なそれは武器にも盾にもなる力強さを感じさせてくれる。
「この尻尾も私は好きですよ?」
「〜♪ じゃあ…手は?脚も、触って…。翼、角もある。もっともっと、触って。」
まるで自宅の様にリラックスし始めるスルト。狼のヨトゥンよりも犬っぽくかまってもらっている。そのヨトゥンはどうしているかと言うと。
「これは確かに堅いですね。私の何倍も強そうです。」
妹の体を堪能していた。より強く変わった妹に羨ましさはあるが、それよりも興味のほうが大きい。触る度に尻尾や翼がピコピコ動く。気付けば仰向けに転がって好きなだけ撫でてと言わんばかりだ。
「何だか甘えてる大型犬みたいですね。」
「む…。ならヨトゥンも、仰向け。今度、私撫でる。」
「え!?あ、いや…こんな外では…。」
「それは言質といいますか、しっかり断ったほうが…。」
「じゃあ帰ったら。約束。」
「でしょう?」
「(U'・ェ・)がうぅ…。」
耳も尻尾もペタリと垂れたヨトゥン。今夜どれほど撫で回されるか分かったものではない。むしろ今いない華麟やクロヒメも混ざってくると思うと全身隅々まで行くのだろう。
そんな巨神の戯れを眺めつつ、手持ち無沙汰になったクロヒメはさてどうしたものかと考えていると。側に華麟がそっと立つ。
「ねぇクロヒメ。私、空いてるわよ?今なら独り占めよね?」
「( ゚д゚)ハッ!≡≡(*つ´ω`)つ」
その言葉を受けた直後、覆い被さる様に抱き付いたクロヒメ。体格差もあって周りからは華麟が殆ど見えないが、クロヒメの荒ぶる尻尾を見れば愛しい人だろうと分かる。
「みんなでワイワイするのも良いけど、一対一も楽しいでしょ?」
「(*´ω`*)」
「今のうちに味わっときなさいよ?あの二人が私を抱きしめるの好きなのは知ってるでしょ?」
「ヽ(=´▽`=)三(=´▽`=)ノ」
「こりゃあっという間に幸せに包まれそうね。」
好きな物を追い求める。この心の熱さが嬉しいということ。もう一度彼に会えたのなら、クロヒメは胸を張って自分は好きなとこで夢中になれていると答えられる。
『御主人様。私はいま持ちきれないほどの幸せに包まれています。』
そうですね、メビウス(崩壊3rd)ですね。しゃあない、私が好きだもの。既に八重桜を出していますが、どこまで絡ませるかは……絡まんくてもええんちゃうか?
今回のヨトゥンとスルトの衣装はこんな感じなのです
スルト:ドラゴンモード
ブレオン大会の華麟の勇姿を目指し、強大にして巨大なドラゴンを模した姿。手足の硬度は高くなり、腕力脚力も向上した。尻尾の叩き付けも岩を砕く程には強い。大出力と重力装置により飛行も可能となり、空の覇者となった。追加武装は無いが元々持っていた大剣を携えればまさに龍騎士。
ヨトゥン:フェンリル
犬猫と触れ合った際に、柔らかな毛並みを大層気に入ったヨトゥン。もし自分にもあんなモフモフがあれば…きっと幸せだろうなと思い作成に至った。耳と尻尾は肌触りをとことん追求し、凛音をモフモフ天国に堕とすに至った。今回のお話では付けなかったが狼を模した手足パーツもある。
捕食機能を持った巨大なエレクトリアなので、フェンリルという名前はあながち間違いではない…。