こんにちは、ヨトゥンです。凛音の元にお世話になって、もう一ヶ月が過ぎていました。華麟お姉様の指導のおかげで家事は卒無くこなせるようになり、お役に立てている実感が心を満たしてくれています。そんな私ですが、今は新しいことに挑戦しています。その為に私は今…
『ブロロロ──。』
車のハンドルを握っています。
事の始まりは一週間前。みんな家事は大抵こなせるようになり、ヨトゥンとスルトは買い物等も一人で行けるようになった。はたから見れば凛音のメイドさんの様にも見える。そんなある休日、凛音がある提案をした。
「皆さんは何かやってみたいことはありますか?趣味があればより楽しいと思いまして。」
これまで凛音のためにとお手伝いとして生活してきたので、コレといった趣味に手を付けていなかった。しかし生活リズムが整い、暇な時間も出るようになった今なら新しいことに挑戦するいい機会だ。しかしこの手のことはいざ考えると難しいもの……と思いきやスルスルと意見が出てくる。書き出してみるとスポーツに旅行、演奏、栽培、アリーナバトルなどなど様々だ。その中でヨトゥンが一つピックアップしたのは車の運転だ。
「現状は凛音が運転して私達は荷物持ち(兼護衛)として一緒にいます。ですが凛音は運転は勿論、お仕事で疲れていると思います。なので私が代わりに運転できれば、とても楽だと思います。」
「良いんじゃない?ヨトゥンが運転してくれるなら、演奏会とかで、体力使い切っても大丈夫だし。」
凛音は活力に満ちているし、集中力も他の人より長続きするのは自他ともに認めている。しかしスイッチが切れるとあっさり眠りに落ちる。公演後に電車で帰る際もだいたい寝ているので、いつも華麟に起こされるそうだ。
「休息、大事。休めば…沢山、遊べる。」
「(∩´∀`)∩ワーイ」
「そうですね。お言葉に甘えようと思います。」
早速ミカに相談してみると…。
「私は良いと思うわ。エレクトリアによるナビゲーションシステムは既にあるし、今後の開発に向けての、データ取りも出来るもの。自動運転のアプローチにもなるかもしれないし。」
円にも確認したが同様の意見だった。電子製品を通信操作出来るエレクトリアなら、専用の装置さえ作れば車の運転も可能ではないかと言うのは過去の議題にもあったらしい。少し大きいが、人と同じスケールで動けるヨトゥンのデータは参考とするには十分すぎる物だ。そうしてやって来た今日、教習所に来ている。教官の女性はリアル八尺様なヨトゥンに思わず息を呑んでいたが、咳払い一つして調子を戻す。
「ヨトゥンさんですね?今日はお願いしますね。」
「はい。よろしくお願いします…。」
「そちらは付き添いの凛音さんですね?」
「はい。彼女は少し口下手な時があるので、お手伝い出来ればと。」
ヨトゥンも生活に慣れてきたとはいえ、家族以外の人と話すのはまだ苦手らしい。そのため安心できるように凛音がサポートに入る事になった。学科教習については既に学習済みで、試験は当然100点を叩き出している。なのでさっそく運転教習からスタートだ。凛音の車で練習していたので、巨体もスムーズに運転席に入ってシートを調節する。
「ではエンジンを入れて発進しましょっか。」
「わかりました。」
スイッチを押して足をペダルに置く。凛音の車がMT車なので、教習車もMTである。学習した知識を元にクラッチを踏んで、アクセルを吹かす。1000─2000─維持。ゆっくりとクラッチを繋げて動力を伝える。
「おぉ…オートマぐらいゆったり滑らか発進。取り敢えず外周を2週ほどしてみましょう。」
走り始めると最初の一周で車の全てを手中に収めたのか、道路ど真ん中をブレ無く、揺れ無く走行する。シフト変更も振動の無い熟練さを感じさせる。
「ここまで綺麗だと私が教えることあるかな?」
「凛音が前もって教えてくれたおかげです…。」
「私は注意する所を伝えただけですよ。丁寧な操作出来ているのはヨトゥン自身の力です。」
「ありがとうございます。あとは車がどう動いていくかを想定しているのも大きいかと…。」
「あー、それ良い心掛けですよ。タイヤがどう進んでるか、重心はどっちとか考えるのは免許持ってても出来ない人多いですし。ではでは、次は……。」
そんな調子で教習は順調に進んでいく。因みにここに居ないスルトはどうしているかというと…。
「風…気持ちいい。」
「ゆっくり丁寧にしてよ?またウィリーとか嫌だからね?」
「分かった。」
付き添いの華麟を懐に入れてバイクに跨っていた。以前映画を見た際に、バイクアクションがとても気に入ったらしい。というわけで彼女は大型二輪免許に挑戦中だ。クロヒメはメンテナンスと研究のために円に預けられている。もしかすると後日、新しい装備が届くことがあるかもしれない。
話をヨトゥンに戻して、今は休憩時間。正確には教官と凛音の休憩だ。
「初めての運転はどうですか?」
「凛音があの車を運転している理由が少しわかった気がします。」
「というと?」
「私がエレクトリアという事も関係するかもしれませんが、両手両足が延長されて車体を動かしている感じがするのです…。それが楽しくて…。」
「それは良いことですよ。好きな事しながら移動もできるって車に乗る人では最強ですから。もしや凛音さんの車ってスポーツ車ですか?」
「スポーツタイプのハッチバックですね。」
「あー、イイですね~。実用性と運動性能兼ね備えたあのタイプは最強です。となると教習車は少し重く感じてるのでは?」
「確かにそうですが、人も車も個性です…。だから相手に合わせれば自然と上手くいくと聞きました。」
「他の生徒にも見習ってほしいほどの心構え…羨ましいぃ。ではでは、後10分ほどしたら午後の教習入りますよ。」
「分かりました。」
午後も引き続き校内コースを走っていく。速度は指定した所で常に一定、S字やクランクもスルスルと抜けていく。駐車も最低限のハンドル操作でバッチリ停める。某漫画のようにコップに水を入れても零さず綺麗に走れそうだ。
「すごーい、この運転ならゆったり安眠できそう。」
「私、毛布で丸まって寝ても良いでしょうか?」
「そうですね~、二人で寝ちゃいましょ!」
「いえ、駄目ですからね…!?」
「だってホントに淀みなく揺れ少なく走るんですもん。寧ろこの小さな揺れが心地よい…。明日から路上出ても良いんじゃないかなー、とか思ってますからね?いやいいんじゃないかな?」
「教官様、どんどん投げ槍になっていませんか…?」
「いやいや、多少のお巫山戯はしますけど仕事は真剣です。その上でヨトゥンさんは現時点でもう完璧ってだけですよ。」
「せ、せめて明日も見てからで…。」
「しかたありませんね〜。」
何とか説得に成功し、翌日も校内教習を行うも、やはりというか当然で完璧にこなしていく。途中から道の指示は出すものの、車内は日常会話に花を咲かせるプライベート空間と化していた。流石にもう一度説得するのはむりなので、教習も後半戦…路上運転に移る。技能の高さは疑う余地無しだが、一般道では様々な障害物が現れる。
「私、知っています…。『路上はアカン奴バッカリおるって思うとき。人間よ愚かなり…くらいの気持ちでええよ。』という話を聞きました。」
「ヨトゥン…そのお話はどこで…?」
「多分それ商店街の八百屋オバチャンじゃないですか?わたしよくあそこで惣菜買って帰るんで、今の雰囲気が似てるの分かりましたよ。でもその心持ちは大事ですね。変な運転する人は突然出てきますから。」
そうして路上に出るとやはりというか自転車や人が横切っていく。しかしヨトゥンの丁寧な運転を妨げる程ではない。それどころか…。
「右前方にいる自転車、来るかもしれません。」
「「え?」」
その数秒後、本当に横断してきたのだ。しかも車の流れの僅かな隙間を縫うように勢い良く飛び出してきたので、普通ならブレーキを踏むところだ。
「ヨトゥンさん、ひょっとして未来見てます?」
「予測演算は常にしています…。先程の方は短時間に振り向きながら車道を見ていたので、もしかしたらと…。」
「もしや、見えてる視界の情報を全部処理してます?」
「勿論です。安全のためですから。」
「こりゃ凄い…。もう免許渡して良いんじゃない?いやもう独断で渡すが?」
「いや駄目ですよ!?ルールに則った上で…。」
「今回は超特殊事例なのでまぁ、前例とかに縛られなくても良いんじゃないですかね?校内教習もok出してもらいましたし。」
「せ、せめて数日見てもらいたいのですが…。」
「でもこうして会話しているうちにもババァミサイルとかすり抜けファンネル回避してますし。」
「実は面倒になっていませんか…?」
「まさかまさか!ジョークを挟みますが、お仕事は真面目です。実際、運転の映像データ見せれば皆頷きますよ。」
「ですが道路の状況は千差万別ですのでやはり数日は…。」
「仕方ありませんね…。そうなれば明日からはフリートークでドライブTIMEになりますね。」
一方スルトの方は教官がノリが良い方だったのか、危ない運転を体験するという名目でウィリー走行や校内高速走行などをやっていた。ヤンチャな先生だと思いきや、まさかの白バイ隊員経験者という経歴だったので町中を想定したコースにも関わらず恐ろしい速度で走行していく。休み時間、コーナーを競技車バリのバンクと速度で駆け抜けていく先生と生徒の姿は注目の的になっていた。因みに教官は上司にゲンコツを貰ったらしい。
そんな二人も今日は高速道路講習。本来自動二輪に高速道路教習は無いのだが、スルトの技術を確認するために特例として付いてくることになった。いつもと違う速度で走っていくが、高速は高速で別のアカン奴がいるのは言うまでも無い。
「本当はずっと左を走っていくのですが、いろんな速度域で走ることを覚えましょ。2,3時間程度のんびり走りますよ。スルトさん、無線はどうですか?」
『大丈夫。聞こえる。』
「ではでは出発しましょー。」
教習所から10分もすれば高速道路に入る。現状は渋滞も無く、まちまちな速度で流れている。
「練習にはもってこいの密度ですね。取り敢えず周りに合わせて、80〜100辺りでしばらく走って下さい。」
流れに身を任せて走行する。横道から飛び出すなんてことは無いので、ヨトゥンも楽に演算が出来る。彼女の頭にはまるで俯瞰カメラのように周囲を見た景色が常に意識されている。場所や速度は勿論、加速度まで判別してるので車線変更や追い越し判断は的確だ。
「それカーナビに追加されないですかね?事故間違いなく減りますよ?」
「今後の私達の運転次第ではあり得るかもしれませんよ?」
「マジで?期待して待ってます。っと、次の出口で降りたら右折して道なりです。少しして横に入ったらちょいとした峠道なので、ゆったり走って下さい。」
広々した高速道路とは打って変わって道幅は少し狭くなり、右は湖、左は山肌と視界の差が大きい。傾斜も少しあり、くねくねと曲がりくねった道にはハンドルとアクセルの操作も忙しくなる。それでもヨトゥンは相変わらず重心移動を最小限に抑えている。
そうして到着したのは山の上の展望台。涼しい風が吹き、見渡せば色良い木々が湖を囲んでいる。
「いや〜、仕事中にここで休憩できるなんて思ってなかったな〜。」
「え?ここはいつものコースとは違うのですか…?」
「いつもはあの辺りで高速を降りたら折り返すんですよ。今日は最後の練習としてこっちまで来ちゃいました。」
ニコニコ笑顔で身体を伸ばす
「私はこの仕事好きでやってて、色んな人を見るのも好きなんですけど、この数日は飛び抜けて楽しかったですよ。」
「私も貴女の指導のお陰でここまでこられました。」
「いやいや、私ずっと眺めてただけですよ?」
「そうだとしても、見守っていてくれました…。」
「そこまで言われたら、先生風でもふかしておきましょ。いやはや、エレクトリアが運転してくれる時代が近づいてくるとは…夢が広がりますね〜。」
展望台の柵に凭れた彼女はニマニマと笑っている。しかしヨトゥンにはその理由が分からない。もしエレクトリアによる自動運転システムが確立されたなら、人が運転する必要はない。つまり免許を取る人がいなくなる筈だ。彼女の職に関わることにしてはあまり大事に感じていないように見える。それを質問してみると、返答はあっさりしたものだった。
「多少は影響出るかもですが、多分大丈夫ですよ。だってヨトゥンさん、運転が楽しいって言ったでしょ?その感情は人もエレクトリアも変わらないです。車は娯楽と実用を兼ねる最強の道具ですよ。」
「ありがとうございます。納得できる答えでした。やはり先生は凄いですね。」
「ただの車好きを仕事にしただけですよ。ではでは、そろそろ帰りましょっか。ヨトゥンさんの運転…最後に満喫しなくては!」
「あの、お仕事放りだして寝ないで下さいね?」
「大丈夫です。お昼寝大好きですが、居眠り運転はご法度なので。」
こうして一週間ほど、朝から晩まで乗り続けた二人は…。
「免許証が貰えました…!」
「ぶい(´・ω・)v」
無事に免許を取得した。運転試験は文句無しの合格。学科も早々に解答を済ませて静かに待っていたそうだ。通常の同じ課程を済ませたので、免許証も通常配布と同じ物だ。
「凛音。免許証、出して。三人、並べる。」
机に並べられた三人の免許証。別段珍しい物ではないが、彼女達には代えがたい宝物である。
「エレクトリアなのに人間と同じ免許を持てるなんて、不思議な気持ちです。」
「エレクトリアは資格技能の知識はネットワーク経由でインストールなので、こういった形あるものはありませんからね。」
「早速、おでかけ。」
「スルトは先にやることがありますよ?」
「(・ω・)?」
「私は凛音の車がありますけど、バイクはありません…。」
「(´・ω・`)」
「落ち込まなくても大丈夫です。今日はみんなでスルトが乗るバイクを探しましょう。」
後日、青い車と赤色バイクであちこちドライブ行くお話はまた今度…。
自動運転…憧れますねぇ。まぁ麟佳さんは一人でドライブに行く程度には車の運転好きなのですが。
凛音さんの車はスイフトスポーツ、ZC33S。こちら私の車でもあります。四人乗りで、良い走りしてくれる安くてオススメの車なのです。