【エレコド】電子の巨神   作:麟佳さん

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ヨトゥンのやりたい事リスト。
今回は出会いのきっかけとなった音楽。奏でる音はどんなものなのか…。


私の音

凛音は演奏のプロとして申し分ない技量を有している。そんな彼女の特異性はその高い技能を数多の楽器で保有していることだ。音楽に限らずスポーツや娯楽、料理に学問でも一線級の能力を持つ人はその道を極め、各々特化した輝きを持つ。一方の凛音は、様々な楽器を使いこなす。トランペットを吹いたり、ギターを弾いたり、ピアノを叩いたりなどなど。パート分けして録音し、一人オーケストラなんてしたこともある。そうなった原因は楽しそうという興味と理想の音を奏でたい情熱。特にやる気が満ちている時は日の出前から日を跨ぐまでずーっと練習していたこともある。そんな彼女が今いるのはジャズミュージックの演奏会。凛音が懇意にしている団体で各々がトップクラスの音楽家として仕事をしている。そこで行われる一部の公演では目玉の一つとなるコーナーがある。それは──。

 

『さぁさ、ここからは凛音のソロ&デュオメドレーだぁ!!』

 

ソロパートは会場をその人一色に染め上げる時間。短時間とはいえ一人で会場を盛り上げる必要があるため、高い技量を要求される。そんな演奏者は自分のパートに誇りを持ち、自分の技量を余すこと無く発揮したいと考えるものだ。しかし同時に彼らは音楽を聞くことも愛するため、同業者の技術を間近で聞きたいという興味もある。そんな中、凛音の技量と人柄に惹かれた人々が何とかそれを活かせないかと思案した結果、彼女に全パートのソロを演奏させるという無茶振りな発想に至った。しかしそれをやってのけてしまうのが凛音の恐ろしいところである。今の凛音が手にしているのはサックスだが、次のパートではギターを手にしている。その後もトランペットにピアノ、ドラムを叩き鳴らしてからタップダンスも決める始末。全部あの人でいいんじゃない?という言葉を音楽業界で体現するのは彼女なのだろう。

コンサート終幕後、人が去っていく客席の一角には狭い椅子に何とか体を入れるヨトゥンとスルトの姿。華麟とクロヒメも二人に抱えられている。

「どーよ、凛音の全力演奏は?」

「練習時とは比べ物にならない気迫を感じます。それにただ強く激しいだけではなくて、柔らかく静かな所も。」

「格好いい、綺麗。両方…あった。」

「(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)」

「ご満悦そうでなにより。私から見ても今日の凛音はベストパフォーマンス叩き出してたから目標にするにはうってつけね。」

 

事の始まりはヨトゥンとスルトのやりたいこと一覧を書き出した時のこと。

「凛音の歌と音楽に導かれたからこそ今の私があります。機械的だった心を震わせた旋律に、私は感動していたのだと今なら断言できます。」

「あの時のヨトゥン、本当に楽しそうだったもんね〜。その後システムに抗えず皆を襲いだしたけど。」

「お姉様、それは……。」

「大丈夫、怒ってないない。昔はヤンチャしてしました〜的なアレよ。まぁ私達も音楽やりたいんだろうな〜とは思ってたけど、楽器の希望とかある?」

「それがまだ…。凛音は沢山の楽器を使っているので、どれも魅力的に見えてしまい…。」

「でしたら、ちょうど良い公演があるので客席で見るのはどうでしょう?」

そうして今回、この演奏会で改めて凛音の音楽に触れる事にしたのだ。もちろん練習時にも聴いているが、本人の意識、大きな空間、それを埋め尽くす観客と空気感は実際のものを体験しなければ分からない物だ。そして実感したそれは称賛する形容詞を片っ端から使わなければ褒めきれない程の物だった。客席の退場が落ち着いた頃にスタッフに案内されて控え室に入る。部屋の端にある椅子にぐったりと凭れ掛かりながら、ゆっくりと呼吸をしている凛音の姿はまさに完全燃焼していた。

「凛音さーん。お迎えが来ましたよー?」

「あらら…恥ずかしい所を見られてしまいました。」

「家でクッションに包まれてふにゃふにゃになってるくせによく言えるわね?」

「華麟さん華麟さん。その写真ってあったりします?」

「今秒で送った。」

「ウェ~イ!他の人にも見せてきまァーす♪みんなー!凛音さんの可愛い写真が見たいか〜!」

スタッフは電光石火で見せびらかしに部屋を後にする。運営や片付けを終えた後にも関わらずまだまだエネルギーに溢れているようだ。一方ですっからかんの凛音はヨトゥンの柔らかな身体に抱き上げられていた。

「お疲れ様でした凛音。貴女の演奏は素晴らしいものでした。」

「ありがとうございます。ヨトゥンさんの大きくて柔らかな体は落ち着きますね…。何か気になる楽器はありましたか?」

「それが…全部、でしょうか。」

「どれも魅力的に見えたと。逆に悩みのタネが増えてしまいましたね?」

「でも大丈夫です。今日の演奏会はしっかり記録しているので何度も見返せばきっと…はい…。」

「大丈夫。スルト…クロヒメは、決まった。」

「(`・ω・´)ゞ」

「えぇ!?もうですか!?」

「逆に2つは減ったから良いんじゃない?」

「そ、そうですね──。早速ですが相談よろしいですか、お姉様?」

「はいはい〜。」

 

そうして後日、練習スタジオにてヨトゥンはサックス、スルトはドラム、クロヒメはギターをそれぞれ手にしていた。

「この音が心地良かったので。」

「音、動き…大きい。とっても…目立つ。」

『この大きな腕なら演奏できそうだったから。』(特別翻訳)

そうして始まった個人練習。まず凛音はスルトの股の間に入るようにして座ると、手を取りゆっくりとドラムを叩き始める。

「スルトは力が強いですから、まず基準となる叩く強さを覚えましょう。」

自分の懐に収まる凛音をついつい抱きしめたい衝動を抑えつつ、黙々と叩く。スルト自身が少しずつ力を込めると共に凛音は少しずつ緩めていく。しばらく経つと自力で叩けるようになった。キックペダルも同様に上達し、凛音の指示に合わせてリズム、強弱の調整も完璧だ。

「上達が早いですね。私なんて直ぐに追い越してしまいそうです。」

「先生、が上手。凛音、凄い。アドバ…イス…は、ある?」

「そうですね…。さっき目立ちたいと言っていたので、あえて無駄のある大きな動きを加えてみると良いかもしれません。スルトの大きな身体が迫力を生んでくれるはずです。」

「わかった。やってみる。」

順調なスルトの一方、ヨトゥンはなかなか満足の行く音が出せないようで顔をしかめていた。呼吸をしないエレクトリアが吐息の強弱や舌先の動きを調節することは難しい。一応エレクトリア用の楽器はあるが、今回手にしているのは凛音の私物。要するに人と全く同じ技量を要求される。そしてドラムのように手取り足取り教える事もできない。運指は覚えることが出来るが、どうも音の繋がりに角が立つ。まるで音楽ソフトで音階を打ち込んで、単純な強弱を付けただけのようだ。初心者の域は超えそうだが、凛音と並び立つのなら最低限として自分の望む音を表現できるようになりたい。もっと───もっと打ち込まなければ…。

「ひゃう!?」

突如脇腹辺りを撫でられて身体が跳ねる。振り向けば凛音がニコニコとしている。

「あの、一体何を…?」

「緊張で身体が固くなっているようでしたので。」

「私はエレクトリアなので、硬いとは思うのですが?」

「なら縁さんの作ったボディがそれほど人体に近いのかもしれませんね。とにかく、緊張で力が出せてないように見えました。私達が出会った時を思い出して下さい。あの時のヨトゥンはとても楽しそうでした。その想いを胸に練習すれば結果はついてきますよ。」

呼び起こす記憶は出会いの時。機械的で無感情に過ごしていたヨトゥンの中に呼び起こされた衝動。曲に合わせて体を動かし、声で彩る。思い出に浸っていると音が聴こえてくる。隣で凛音が演奏しているのだ。あの時と同じ様にその音を追いかける。フラフラとしながらも道標を元に先へ先へと心のまま進んでいたあの時の様に。残像の様に遅れていた音色はいつしか重なり合い、隣り合っている。

「どうですか?」

「はい。具体的には出来ないのですが、何か見えた気がします。」

「それは良かったです。もう少し続けてみましょう。」

 

残ったクロヒメは通常ボディの倍以上の体格かつ、人の道具を扱える大きな腕を持つ。彼女にかかれば自由自在に──。

「違ーう!薬指はもう一つ下で人差し指が上よ。」

「(´;ω;`)ウッ…」

「出来るまで見たげるからドンドン行くわよ!」

「(`;ω;´)ガンバル」

自在にはいかないようだ。隣で弾く華麟のコード指導を受けている。コード表は頭に入っているのだが、特殊なサイズ感と大小の腕4本で保持して演奏を行うためか運指が少し噛み合っていない様子。しかし大好きな華麟お姉様と練習が出来ると言うことでモチベーションは最高潮だ。

「お姉様…珍しく激しいですね…。」

「あれはきっと、久しぶりの先生役と可愛い妹の為に頑張りたい気持ちが前のめりになっているのかもしれません。可愛いですね。」

「そうですね。」

「そっちもしっかり練習する!このままじゃスルトに置いていかれるわよ?」

お墨付きを頂いたスルトに目をやると、アップテンポでビートを刻んでシンバルでフィニッシュし、ドヤァァァ…とこちらに向く。無表情ながら熱い視線でアピールしている。

「いや、マジでスルトの成長速度が早すぎる…。二人も十分早いんだけど、あれもう演奏せても大丈夫だもん…。」

「これは負けていられません…。私達も頑張りましょうクロヒメ!」

「(`・ω・´)ゞ」

それから更に数時間程の練習を経てから、全員の演奏を合わせて一通り通してみる。いざ始めてみるとなかなかに好調。初心者同士で合奏すると音の位置がズレたり、自信の無さから他の音に引っ張られる形になることは多々あるのだが、それがみられない。全員が隣り合って1つの集団として動けている。

「いい演奏が出来ましたね。華麟はどうですか?」

「うーん、完成度60%じゃない?」

「辛口…」

「(´・ω・`)」

「寧ろ練習初日で及第点を超えているなら凄いのでは?」

「では今日の到達目標で点をつけるならどうでしょう?」

「…130。」

「Σ(゚Д゚)」

「まーービックリした。上達早すぎ…。でも流石は私の妹達って感じ?因みに最優秀賞はスルト。ドラムって手足の動き別々だし目立つからズレると全体が歪みがちなんだけど、それが一切無し。最初は私と凛音でどうにか修正しようとか思ってたけど、心配ご無用だったわ。」

「やった…♪」

「今後の目標は演奏技術向上を続けるつもりだったけど、これなら早々に合わせに入っても良いんじゃない?」

「そうですね。演奏したい曲もいくつかピックアップしておきましょう。」

その後も隙間隙間で練習を続けつつ、1週間。集められた皆が凛音の端末を覗き込むと、そこにはヨトゥン達の演奏会のお知らせ。楽団メンバーにこの事が知れ渡り、仲間内を集めた演奏会をすることとなったのだ。一応身内だけ参加の演奏会なのでプレッシャーなくのびのびと出来るはずだ。

「っていうか、いつの間にバレてるの?しかもいくら身内事といっても、日程組むの早すぎない?」

「えっと……稽古場に来るヨトゥン達の目線が変わったのを悟られてから、皆さんに詰められまして……ね?」

『ヨトゥンさんとスルトさんが楽器触ってるんすか!?絶対キレイでカッコいい…。え?クロヒメちゃんも?可愛ッ!!めっちゃ見たいッス!!』

「うわぁ……欲望剥き出しね…。」

「ただ、身内事なのでやりたくなければ断れますよ。皆さんそこまで我儘じゃありませんから。」

「いいえ、凛音。これはむしろいい機会だと思います。私達の成果の確認、モチベーションに繋がるはずです。」

力強い視線で答えたヨトゥン。スルトとクロヒメも同様にやる気満々のようだ。妹たちがこうなってしまっては、姉も腹を括らねばならない。

「よーし、なら全員が腰抜かす演奏を見せてやらなくちゃね。さてと、曲目どうしよう…。」

「お姉様。実ははこれをやってみたくて…。」

ヨトゥンが出したのはとある音楽サークルのアレンジ曲。それに続くようにスルトはゲームBGM、クロヒメは映画の主題歌をリクエスト。ノリノリで曲目の幅は広く、既存の曲をアレンジは調べれで激しい曲とお洒落で少し寂しさのある曲が並べられたが別段問題はない。凛音が好きなジャズも、静かなものから激しいものまで山程出てくる。なんならジャズに拘る必要もなく、凛音ならどのジャンルでも演奏してくれる。オマケに今回の観客は気心知れた身内なので、何でも出来る。

「これなら私の楽器は……。えぇ…イメージが付きました。練習しておきましょう。」

「そこは凛音に丸投げするから頼むわよ?」

 

そうして練習を重ねて迎えた演奏会当日。舞台袖から覗いた客席には真剣な面持ちの人もいれば、団扇やボードで愛を叫ぶ者もいた。

「まさかこんなに盛り上がっているとは…。」

「((( ;゚ω゚)))」

「ここの楽団はヤンチャな奴ばっかりだったけど、ここまでやるぅ…?」

「スルト、平気。ヨトゥン…、大丈夫?」

「もし私に心臓があればきっとドキドキ跳ねているのだと思います。」

「なるほど…こんな風でしょうか?」

凛音はヨトゥンの手を取ると胸に当てさせる。掌に伝わる凛音の鼓動はいつもより少し早く、慌ただしい。

「凛音も…緊張しているのですか?」

「いつもそうですよ。表情や声色は誤魔化せても、この胸は正直みたいです。ですので…華麟、こっちに来てくれますか?」

「いつものやつ?あー、でも今日はクロヒメもくっついてるけど?」

目をやるといつも以上に力強く華麟に抱き付いているクロヒメ。唇を一文字に引っ張っているあたり、彼女も気持ちがいっぱいいっぱいらしい。

「それじゃあ二人まとめて抱かせて下さい。」

「では私は凛音を抱きしめますね。スルトもこっちに。」

「りょうかい。」

肩を組むのではなく皆が抱き合う。体のサイズが大きく違う彼女達だからこその円陣なのだろう。

「それでは緊張解しと気合い入れのために、一番中心にいる華麟に一言入れてもらいましょう♪」

「は、私?しかたない…。まぁ身内ばっかりだし、楽しんでいくわよ。ファイト〜〜…。」

『オー!!』

 

小さな会場が徐々に暗くなっていく。薄暗い中で照らされているのは使い手を待つ楽器達。少し遅れて今回の主役たちが入場し、拍手で迎えられる。最後の調整後に少しの静寂。口火を切ったのは凛音が手にしたギター。そこから4人が追従し、夜明けの様に音が広がっていく。音楽を知る観客達はこの数秒だけで彼女達がどれほど努力し、どれほどの実力を身に着けたかを理解できた。誰が見てもその演奏は素晴らしい物だが、音楽に携わる人々はその音の厚みが普通でないと感じていた。それも当然。この演奏中、彼女たちの心は紛れもなく1つとなっていた。エレクトリアと人の共鳴は能力を互いに引き上げることが出来る。不思議な話だがこの楽団は1人で5つの楽器を演奏しつつ、5人の個性を発揮している。それらがお互いを殺すこと無く厚みとして音に表れている。本来これほどのパフォーマンスは高い技術と互いのリズムを完璧に合わせなければ成り立たない。

「3人ともこんなに演奏できて凄い…!」

「ギター抱えてるクロヒメちゃん可愛…。」

「スルトちゃんのあれ見た?俺が教えたスティック回しやってくれてんだけど?(´;ω;`)」

「ちょっと私の取ってくるわ、ヨトゥンさんとデュオる。」

「落ち着け、お前の出る幕は今日ねぇから座っとけ。それと予約は俺が先な?」

演奏を邪魔しない程度に雑談を挟む観客たちも盛り上がっている。それもそうだ、凛音の娘とも言える彼女達は姪っ子の様なもので、ついつい気にかけてしまう。そんな彼女達がこんなに上達していて沸き立つ感情を抑えられるか?いや出来ない。

 

bitter sweet(仮面ライダーセイバー):クロヒメ

クロヒメが選んだのは映画のテーマ曲。大人になり苦味とささやかな甘みを描いたこの曲は大きな別れと出会いを体験したクロヒメの琴線に触れるものだったらしい。さらにクロヒメが手にしたのはギターより更に大きなヴァイオリン。凛音の私物を60cm程の身体で扱うため、演奏方法はチェロに近い。勿論ギターとはまるっきり別物なので練習量が倍になるので華麟が止めたが、クロヒメは頑として譲らなかった。その熱意に折れ、さらに苛烈なトレーニングの末、彼女は1人前として扱えている。その隣の凛音はコントラバスに持ち替え、美しい旋律を奏でる。この演奏中に観客たちが最も眼を惹かれたのはクロヒメの表情。憂いと強さ秘めた淑女はいつもの甘えん坊ではなく、見た目通りの気品を感じさせる。勿論、演奏の技術も付随しての印象である。

(1番の頑固者は強いんだか、弱いんだか…。)

「止まった昨日も、向かう明日も、動き出す今日も繋がり合って…。」

末妹を見守る長姉はそれを包むように鍵盤を叩き、歌を紡ぐ。その言葉はそのまま末妹へのメッセージだ。

 

port town(F-ZERO):スルト

音がやんで、凛音とクロヒメが楽器を取り替える。クロヒメはギターに戻ったのだが、凛音が手にしたのはエレキギター。観客達が首を傾げた次の瞬間にやってきたのは、お洒落なジャズと打って変わってスルトの激しいドラム。華麟のキーボードもピアノからシンセに切り替わっている。スルトがリクエストしたこの曲はレースゲームに使われているもので、マシンと音楽がお互いに引き上げるように加速していく。スルトのドラムからは先程までの倍以上の音が烈火の如く放たれ、会場を震わせる。全てを溶かすような炎に対抗するように姉は冷たい鉄を響かせる。

(私より強い妹…)

(スルトより…強い、ヨトゥン…。)

互いが互いの強さを羨み、高みを目指す。それは武力かもしれないし、知恵かもしれないし、心かもしれない。確かな事は普通のエレクトリアとは違う自分を受け入れ、普通のエレクトリアの様に育ちたい、シンプルなプロセスが彼女達をここまで連れてきたことだ。

 

弾幕注意報(東京アクティブNEETs):ヨトゥン

ヨトゥンがリクエストしたのはアップテンポなジャズアレンジ。先程よりマイルドになったが、それでも賑やかだ。ここで凛音が手にしたのはトランペット。ヨトゥンと並び立ち、2つの金管楽器が響かせる合奏は彼女達が初めて出会った頃の光景を想起させる。音に導かれ、縁に導かれ、情動のままに動き始めた彼女たちの時間。

(凛音。これが私の想いです。)

演奏はヨトゥンのソロパートに入る。持てる技術、感情を総動員して音楽を生み出す。この場にいる全員が誰に向けての演奏かを理解している。それを受け取る者は静かに見守っている。ここに至る起源、努力、苦悩、感動を。

(彼女達の想いを受け止めるのが私の役目でしょう…!)

娘を見守る親の様な心持ち。その魂を受けた彼女は手にした煌めく奏具で音を弾けさせる。

 

 

 

 

最後の曲、その最後の一音が小さくなり消えていく。一拍置いて客席からははち切れんばかりの拍手が鳴り響く。すべてを出し切った奏者達は万感の思いを胸に礼を返す。楽器の片付けは楽団のメンバーに任せて、控え室に戻ると各々椅子に体を預けたり、ソファに横になったりと楽にしていた。

「エネルギーは問題ないのですが…。こ、これが精神的に疲れるということなのでしょうか…?」

「スルト、ぐったり──。」

「(。-ω-)zzz. . . (。゚ω゚) ハッ!」

「いつもは強〜い皆も疲れたみたいね。凛音はいつもより曲少ないから、いつもよりは元気だけど。」

「いえいえ、皆さんと演奏が出来るのが嬉しくてついつい張り切ってしまいました。ですが大変なのはこれからですよ?」

「「え?( ゚д゚)」」

休憩を挟んでから会場へ向かうと、様々な楽器の音が重なり合っていた。何事かと覗き込むと、いくつかのグループに分かれて曲合わせが行われていた。あわわと呆ける妹3人に対して、場馴れしている凛音と華麟はすぐに気づいた。

「ヨトゥンさんヨトゥンさん、こっちで金管セッションしません?」

「クロヒメちゃん、ちょっと借りてもいいですか!」

「このゲーム曲どうよ!さっきの好きならコレも気に入るはず!」

新規客を熱心に引き込む勧誘担当の様にグイグイと迫って来る。助けを求めようと隣を見るが、既に誘拐され演奏が始まっている。遠くなった助け船からは無線連絡が飛ぶ。

『ここの皆揃って音楽バカだから疲れたらちゃんと休憩しなさいよ。』

こうなると覚悟を決めるしかない。愉快なフリーセッションに飛び込んだ奏者達は空が赤くなるまで音を奏でた。

 

 

騒がしい日中を終え、静かな夜の下でヨトゥンは演奏を振り返っていた。反省会ではなく、ただ単純に楽しい事を振り返ってるだけ。彼女の心にはもっとやりたいという好奇心が輝いていた。

「素敵な旋律ですね。」

後ろから凛音に声をかけられる。自覚は無かったが鼻唄が漏れていたらしい。

「ありがとうございます。音楽は不思議な力があるのですね。」

「そう言ってくれたなら、今日までの努力も喜んでくれるでしょう。眠気が来るまで、ご一緒してもいいですか?」

「はい。疲れて眠ってしまったら、私が運んで添い寝してあげますので。」

「では…。」

セットリストなど無い、気ままな夜の合唱会。人と機械の旋律は片方が静かに鳴るまでずーっと続いていく。

 

 

 

セットリスト

sparkle(山下達郎):華麟

bitter sweet(仮面ライダーセイバー):クロヒメ

port town(F-ZERO):スルト

弾幕注意報(東京アクティブNEETs):ヨトゥン

 

 




実は麟佳さん、音楽経験は高校の選択授業でちょいと楽器に触った程度。ギターやピアノに琴はちょいとさわれるのです。
美術は嫌だ、美術は嫌だ、音楽やりたい!って念を送ってたのは懐かしいのです
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