それは、とある草原での出来事だった。のんびりと旅をしていた旅人……蛍は、自身の財布の中を見てため息を漏らしてしまう。
「はぁ……」
「どうした? 旅人」
「いや……武器の強化でお金ほとんど飛んじゃったなって……」
「あ〜……」
しかも自分では使わない武器の強化だ。色んな仲間の為に、色んな武器を強化しているとお金はすぐになくなってしまうのだ。
その上、食事代やら日によっては宿代やらと色々考えると、どうしてもお金の減り方は早まってしまう。
食事は自分でも食材をとって作れるし、野宿も慣れている……とはいえ、やはり文化的な生活もしたいわけで。
一応、冒険者協会から来るデイリー任務もこなしてはいるが、武器の強化代が本当にかかる。ふざけている。自分で使わない武器が大半なのに。
「な、なんかごめんな、旅人。オイラの分までいつも払ってくれてるのに」
「気にしないで。まだ非常食の役目は来てないから」
「おい! まだその話生きてたのかよ⁉︎」
そこにツッコミを入れつつも、だ。パイモンにも思う所はある。頼れるガイド役、という役割を買ってはいるが、どうにも自分に出来る事が少し限られている気がする。
せめて、戦い以外でなら少しは役に立ちたい。そう思い、行動に移すことにした。ちょうど、ここは璃月。今まで旅してきた四カ国の中心にあると言える場所だ。
「旅人、少しここで待っててくれ!」
「もう璃月の宝箱は掘り尽くしたよ?」
「お、オイラがそんなにガメつく見えるって言うのか⁉︎」
「じゃあどこ行くの?」
「え? えーっと……お、お金が入ってそうな箱、探して来る!」
「宝箱だよそれは」
「う、うるさいな! いいから大人しく待ってろ!」
そう言って、幻想の翼をはためかせながら近くにある望舒旅館の方へ飛んでいった。
……さて、勢いだけで飛び出してしまったが……どうしたら良いのだろうか? バイト? いや、そんな程度で貯まるお金などが蛍の足しになるとは思えない。
他にどうやってお金を稼いだら……と、悩んでいる時だ。
「おや、パイモンじゃないか」
「? ……あ、ガイア! 何してるんだ? こんなところで」
声をかけられた先にいたのは、モンドの西風騎士団、騎兵隊長であるガイア・アルベリヒ。片目に眼帯をつけた、片手剣使いの青年である。
「それはこっちのセリフだ。旅人はどうした?」
「いや、それがだな……」
そこで、これまでの経緯を話す。要するに金がない、という話だし、普通なら他の人に話せる内容では無い事でもあるのだが、そこはパイモンなので仕方ない。
相談を聞いたガイアは、少し顎に手を当てた後、ニヤリとほくそ笑んだ。
「なるほど……そういうことか」
「そうなんだ〜。何か良い儲け話はないか?」
「無いこともないが……世の中、一発逆転を狙って一攫千金を企むのは良くない。旅人さえ良ければだが、良い案がないわけでもないぞ?」
「あるのか⁉︎」
パァッと顔色が明るくなる……が、ガイアの考える事だ、と流石のパイモンも学んでいる。ただでさえ本人がいない場での話なので、そこは慎重になった方が良い。
「……本当に良い話なのか〜? ガイアの考えることだし……こう、騎士団で雑用一ヶ月とかじゃないのか〜?」
「そんなコスい真似はしないさ。……ま、他に何か案が浮かぶなら、パイモンの好きにすれば良い」
「う〜……」
どの口が、と思ったけど黙る。確かにガイアは賢い。かなり冷徹な手段や、他人を利用するような手を用いるとしても、その頭脳で敵を翻弄した例は何度でもある。
嘘の可能性もあるが……先に案を聞く今回のような場合では、少なくともあまりにエゲつなさ過ぎるような事はしないだろう。
「……分かった。聞かせてくれ」
「了解した。……じゃあ、ちょっと待っててくれ」
それだけ言うと、ガイアは旅館の中に入って行った。
×××
およそ5分後くらいだろうか? パイモンの首から「レンタル西風騎士団栄誉騎士。一時間10,000モラ」と書かれたボードが下げられていた。
「これでよし……と」
そう呟いてから、ガイアはペンをポケットにしまう。
「そのまま、お前さんは街中をとりあえず飛び回ってくれば良い」
「オイ! なんだよレンタルって⁉︎ 旅人は本でも脚立でもないぞ!」
当然のツッコミが炸裂した。が、それはガイア自身も想定内だったようで、いつもの飄々とした笑みでそれを受け流す。
「もちろん、分かっているさ。だが、何でもできる器用な旅人にはもってこいの仕事なんじゃないか?」
「何処がだよ! 確かに何でもできるけど、だからってこれじゃあただの便利屋じゃないか!」
「だから言っただろう? 旅人にも体を張ってもらうって。一日で24万モラも稼げる仕事、中々ないぞ」
「寝ずに働けってことかよ!」
やっぱりガイアはガイアだった。一時間で1万モラは確かに魅力的だが、その仕事の内容が怖い。
「そもそも、レンタルって何をするんだよ」
「もちろん、旅人の身体を借りるのさ。手伝ってほしい仕事、旅人にしか出来ない事、そういったことをするだけだ。簡単だろ?」
「何処がだよ!」
人によってはとんでもないことを頼んで来そうだし、そうでなくても恨みがある奴がサンドバックにしたい、なんて言ったらとんでもない。
そんなパイモンの考えを見抜いているように、ガイアは続けた。
「大丈夫だ。もし、倫理的に良くないこと……そうだな。例えば、暴力や危険な薬品の実験台、性的サービスは受け付けない。その辺は、事前に旅人が何をするかを聞いて、抜かりなくやれば良い。それを決めるのはお前だよ、パイモン」
「え……オイラか?」
「お前自身が、旅人を守るんだ。仲介者としてな」
「オイラが……旅人を……!」
それを聞いてやる気になってしまうあたり、やはりパイモンは単純だった。自分がその辺を見極めれば、旅人の役に立つ、というパイモンの願いも叶えられる。世話になってばかりでは無いということだ。
そんな話をしている時だった。
「話は聞かせてもらったよ、モンドのお客人とパイモン」
「うえっ⁉︎」
そこに現れたのは、璃月の法律家である煙緋だった。赤い帽子を被ったタレ目の少女は、ニヤリとほくそ笑みながら言う。
「そんな面白……ううんっ、もとい怪しい話、法律家として放って置けないな?」
「ほほう、これはまた綺麗なお姉さんが現れた。俺は、西風騎士団のガイアだ」
「初めまして、私は璃月の煙緋」
お互いに自己紹介をした後、煙緋は続けて言った。
「その商売は璃月でもやるつもりなんだろう? モンドのお客人。なら、私を通していただかないわけにはいかないな」
「そんな規則、璃月にあったか……?」
パイモンが怪訝な顔をするが、無視して煙緋は続ける。
「旅人は璃月にとっても恩人さ。私が事細かに規則を決めさせてくれれば、パイモンだけじゃない。璃月とモンド、二国で守れることになるんじゃないか?」
「……なるほどな」
ガイアには何となく言わんとしていることがわかった。ツラツラとそれっぽいことを言い並べているが、結局の所は「絡みたい」という事だろう。
それに、彼女が言うには法律家ということだし、決して採用するのも悪くはない。
「良いだろう。じゃあ、煙緋殿にも決めてもらおうかな。レンタル旅人のルールを」
「勿論、構わないよ。とりあえず……あそこで、三人で考えよう」
話しながら、三人は旅館の前の飲食スペースで、食事をしながら話し合いを始めた。
×××
「で……こうなったと」
「おう! どうだ、悪くないだろ? 旅人!」
新たな事業に関する話し合い、なんて少し頭良さそうなことをしてしまったからか、得意げなパイモンを前に旅人は頭を抱える。
以下、事業内容である。
『栄誉騎士、旅人・蛍レンタルサービス』
当サービスは、あのモンド、璃月、稲妻、スメールにおいて数々の試練を乗り越え、国を救って来た旅の英雄、蛍を自由にレンタル出来る出張サービスでございます。
・利用金額
1時間/1万モラ。最大3時間までとさせていただきます。延滞料金をお支払いいただければ延長も可能です(その場合、30分/1万モラ)。また、深夜料金は1時間/1万5千モラとなります。
尚、開始時刻は蛍がお客様と合流し、係りの者がスタートと言った直後となります。
・レンタルご使用時の内容
大きな制限は設けませんが、殺人・人間相手の暴力・犯罪・性行為・脱衣・金銭強要等のご利用はご遠慮いただきます。
尚、レンタル時は係員、蛍ご自身にレンタル内容を伝えていただき、係員の判定によって許可するか判断させていただきます。許可することが出来ない場合は、お金はいただきません。
また、食事や買い物の際は、従業員の費用はお客様負担でお願い致します。
・ご利用時間
AM8:00〜21:00までが通常料金、深夜料金は21:01〜7:59までとなっております。
・ご利用方法
本人、或いはガイア、煙緋までご連絡下さい。
・順番待ちについて
基本的に早い者勝ちで順番にお伺い致します。蛍にモンドと璃月の間を往復していただき、各国で一件ずつ仕事を捌く形になります。
蛍がいる場所によって、多少順番が前後することがあります。ご了承下さい。但し、二つ以上前後する事がないよう対応致します。
……思った以上にびっしり書かれていた。ちょっと引いた。
そんな中、パイモンがさらに紙を差し出してくる。
「で、これが契約書だ!」
言われるがまま見下ろす。要約すると蛍が何でもやって、パイモンが依頼の許可・不許可を判断し、仲介役・広告役がガイアと煙緋。……こいつら手数料で500モラ持って行きやがる。自分の儲けは9,500モラしか無いらしい。いや、一時間で9,500モラって普通の労働に比べたらとんでも無い金額ではあるが。
「……こんな高くて人来るの?」
「さぁ……二人とも『絶対に需要がある』って言ってたけど……」
「……」
よく分からないが、契約に関してうるさい煙緋が言うならそうなのだろう。
「パイモンの儲けは?」
「えっ⁉︎ い、いいんだオイラは! いつも、お前の財布を当てにしちまってるからな。今回は、オイラがお前を助けるんだから!」
「パイモン……でも働くのは私だよね」
「うっ……も、もちろんオイラも手伝えることは手伝うから!」
まぁそれも良いとして……とりあえず、気持ちは伝わった。正直、あまりやりたくないけど、パイモンが頑張って二人も巻き込んで探してくれた仕事だし、やってみても良いかもしれない。
「一週間だけね、とりあえず」
「! ほ、本当にやるのか⁉︎」
「うん。たまには宝箱とかじゃなくて、自分で稼いで美味しいもの食べよう」
「そうだな! じゃあ、煙緋のところに行こう! 二人とも、もうモンドと璃月でビラをばら撒いてる頃だと思うぞ!」
「何で許可する前にビラをばら撒いてるの?」
そこに引っかかりながらも、とりあえず璃月に向かった。
×××
「やぁ、久しぶり。旅人。許可してくれて嬉しいよ」
「……」
煙緋がしゃあしゃあとそう言いながら、璃月港の子供達、モン、ルル、飛の三人の頭を撫でる。
「三人ともお疲れ様。これが、報酬の3,000モラだ。三人で均等に分けるように」
「「「ありがとー!」」」
「お礼はいらないさ。これは対等な契約だからね」
そう言って、お金を渡して三人を解放する。その煙緋に、パイモンが小首を傾げて聞いた。
「何してたんだ?」
「三人にビラを貼ってもらっていたんだ。もちろん、タダではなくね」
「私が許可する前に?」
「君ならパイモンの気持ちを考えて必ず許可する、ってガイアくんが言っていたよ。彼、中々優秀だね。私の助手に欲し……あ、いやいや。報酬をガメられそうだから、やはりいいかな」
こいつら……と、思いつつも、もう仕方ない。というか、子供達に報酬を払ってまでビラを撒いているあたり、本当に儲かると思っているらしい。
客が来るとしたら、六人で今払ったお金は回収出来る。……だから、なんかなおのこと腹立つ。
「あれ……旅人、もしかして怒っている?」
「言わなきゃ分からない?」
「はははっ、私は君に選択権を与えたつもりだよ。許可をしたのなら、怒られる理由はないさ」
この野郎……と、思いつつも、もう諦めることにした。
「とりあえず、一週間だからね。契約書にも書き加えたからね」
「分かっているとも。ガイアくんには、私の方から回しておく」
「ビラも一週間経過する前に剥がしてね」
「今日はやけに念入りだね。何かあったのかい?」
「荒星……」
「うん、冗談だから岩はやめてくれ……」
とはいえ……やはり、蛍的にこの仕事に需要を微塵も感じないので、やはり別の方法でお金を稼ぐ方法を考えないと……と、悩んでいる時だった。
その三人の目の前に、紫色の光が現れた。これは、見たことがある。璃月七星の一人が得意とする、雷元素の力……つまり。
「見つけたわ!」
直後、その場所に雷撃を放ちながら現れたのは、刻晴だった。その手には、ビラが握り締められている。
「これ、やってるんでしょ⁉︎」
「ほら来た」
「こ、刻晴⁉︎」
煙緋は至極当然と言うように、パイモンは本気で驚いた様子で目を丸くしていた。蛍も驚きたくて仕方ない。
「い、良いのよね⁉︎ たったの1万で旅人を借りても!」
「たったって……」
「ああ、ルールを守ってくれるのなら構わないとも」
「誰に言っていると思っているの? 書かれている最低限のルールは守るわ」
確かに厳粛な彼女ならルールは守ってくれるだろうが……しかし、たった1万モラって……と、パイモンと同じような反応をしてしまう。
とりあえず、忙しい身であるはずの七星が超速で飛んできた時点で冷静ではないことを理解したので、一応確認をとった。
「ほ、本当に良いの? 私、刻晴のためなら、別にお金なんて……」
「ダメ! 誰にも邪魔されたくないんだから! 契約上なら何があっても二人は守られるでしょ!」
「いや……ていうか、オイラも一緒だぞ……?」
「パイモンなら構わないわ。あなた達は、二人で一人でしょ?」
ダメだ、この圧……もう受けるしかなさそうだ。……というか、隣で勝手に煙緋は受付票と領収書を用意している。
「じゃあ、ここに名前を書いて。終わったら、先払いを頼むよ」
「はいはい……うん、受付の内容もビラと相違ないわね。OKよ。一時間でお願いね。内容は買い物よ」
そこは流石、璃月の七星。ちゃんと確認してからサインを済ませ、お金を払っていた。
「じゃあ、旅人。500モラ預かるよ。パイモン、一時間ちゃんと計測するように。終わったら、モンドでガイアくんと合流しておくれ」
「分かったぜ……」
「う、うん」
さて、それだけ話して煙緋はその場から立ち去った。その背中を目でぼんやり追いつつも、まぁ商売なので致し方ない。何とか笑顔を作って声を掛けた。
「そ、それで……どうしたら」
「来て!」
「うわっ、ち、ちょっと……!」
グイッと腕を引かれ、街の中を連行された。
引き摺られてきた場所は、山ばあやの玩具屋。そこで開催されているのは……どうやら、くじのようだ。七星くじ、と大きく書かれている。景品は七星のフィギュアだが……なんと、一等が岩王帝君のフィギュアである。
「あれ、付き合って」
「付き合ってって……私いるのこれ?」
「店主さんの意向で、子供達も均等に引けるように一人一回しか引けないの。でも、あなたを雇えば私、旅人、パイモンで三回引けるでしょ?」
「ま、まぁ……」
それはその通りだが、分かっているのだろうか? 同じことを思ったのか、パイモンが確認をした。
「その……くじ代は刻晴が持つんだぞ? オイラの分も……」
「分かってる」
「あれ、一回1,000モラって書いてあるし……三回引くだけで13,000モラになるんだぞ?」
「分かってるってば。……べ、別に……くじが引きたいってだけじゃないし……」
「え?」
「な、なんでもない!」
何か言っていた気がしたが、なんでもないらしいのでスルー。それより、もう一つ問題がある。
「ていうか……こういうやり方ってお店のルール的に平気なの?」
「うっ」
「おい、なんだよその反応! グレーなのかよ!」
バツの悪そうな顔をした刻晴に、パイモンがツッコミを入れた。
「へ、平気よ! 買うのはあなた達だし、景品の交換まで禁止されているわけでは無いもの!」
「そ、それはそうだけどよ……大人げないぜ〜。仮にも七星が……」
「七星でも……いや、七星だからこそ趣味は大事でしょう?」
「あ、ああ言えばこう言う奴だな……」
だが、お金は刻晴が出すし、買い物と言えば買い物だし、何も問題はない……のかもしれない。倫理的な問題を除けば、だが。
こちらも先払いでお金をもらっている以上、もはや致し方ない。
「分かった。じゃあ引こう」
「でも、オイラ達が引いても出るってわけじゃないからな」
「分かってるわよ。ほら、行きましょう!」
との事で、三人で列に並んだ。後ろから見た感じ、一等が帝君、二等〜八等までが七星のフィギュア、九等が全七種類の七星召喚の七星カード、一〇等が全七種のコースター、十一等が神の目を模したストラップ……らしい。
「最後のは七星関係ないな……」
「一応聞くけど、刻晴は誰狙」
「帝君」
だよね、と呟く。ちなみに結構な数の人が引いているみたいで、割とフィギュアも減っている。残っているフィギュアは帝君、凝光、刻晴、天おじだけだ。
「他の景品も帝君グッズは一等しかないからなぁ……」
「死んでも当てるわ……!」
「本気過ぎる……」
まぁ限定品なのだろうし、分からなくはない……なんて思っている時だった。
「む、旅人?」
「? あ……セノとティナリ!」
「久しぶり」
見覚えのある耳が合計で四つ、ひょこひょこと揺らしている。セノとティナリはスメールの人間で、教令院の学者を監督する大マハマトラと、レンジャー長だ。
その二人の姿を見て、パイモンが驚いたように声を上げた。
「何でお前らここにいるんだ?」
「セノがね、ここでしか手に入らないカードがあるって言うから、買いに来たんだ」
「まさか、くじとは思わなかったがな……」
「あー……なるほどな」
「だが、安心してほしい。当たらなくても周囲の人にトレードしてもらえるよう、金とカードを一式持ってきた」
「誰も心配はしてないぞ……」
アホほど七星召喚というカードゲームにハマっているセノは、このカードに関しては何処までもガチである。おそらくだが、噂程度でも限定カードが手に入ると聞けば国境を超えて現れる程度には。
これは、刻晴にとってはチャンスでしかない。まずは七星として最低限の礼儀を見せることにする。
「初めまして、スメールからのお客人様。私は、璃月七星が一人、刻晴と言います。以後、お見知り置きを」
「これはご丁寧にどうも。僕はレンジャー長のティナリ」
「俺は大マハマトラ、セノだ。よろしく」
「ええ、よろしくね」
二人と握手。……さて、話はここからだ。
「えーっと、カードということは、二人は七星召喚のカードが欲しい、という理解でよろしい?」
「ああ、まぁそんなところだ」
「僕は何でも良いかな。どちらかというと、あっちのお土産コーナーの方が気になるかも」
「でしたら、もし私がカードを引いて、あなた達が一等の帝君を引いたら、交換していただけないかしら? 勿論、タダとは言わないわ」
「別に構わないが?」
「僕も良いよ」
よっしゃ、これで5回引けるようなもの……! と言わんばかりに光の速さでガッツポーズをする。当然、蛍とパイモンは普通に引いた。
さて、そうこうしている間に、五人で引く番が近づいて来る。誰から行く? みたいな視線のやり取りの後、とりあえず蛍から行こうとすると、それを刻晴が止めた。
「待ちなさい。あなたの狙いは一つしかない一等でしょ? たくさんあるカードを狙っているお二人に行ってもらった方が確率が上がるわ」
「……そ、そうだね」
「こ、刻晴……本気過ぎるぜ……」
「当たり前じゃない。『記念に一回』とか『七星ファンだし』とか『フィギュア好きだから何でも良い』とか、そんな甘ったれた理由じゃないから。私は岩王帝君が欲しいの」
少しずついつもの調子に戻っていく刻晴。そんな刻晴の様子を見て、ティナリが声を漏らした。
「そんなに岩神様が好きなんだね。どんな神様なの?」
「っ、そ、そうね……常に璃月で暮らす人々のことを考えている、立派なお方だわ」
財布を携帯する癖が中々つかない人だけど、と旅人とパイモンが思う中、刻晴は可能な限り口には出さない。語り出したら止まらない自覚があるからだ。
ここは、さっさと話を逸らした方が良い。
「というか……何処の国でも神は基本的に崇められているものでしょう? そちらの草神様も同じじゃないの?」
「うん。岩神様に比べるとまだ若い神様かもしれないけど、立派な方だよ」
「ああ。今度、こっちに来る機会があったら会ってみると良い。お忙しい方だから会えるとは限らないが」
「そうするわ」
なんて話している間に、いよいよ引く番になった。さっきの流れ的に、まずはティナリからだ。
「……あ、九等」
「よくやった、ティナリ。今夜はパーティだな」
「いやせめてセノも引いてからその判断をしなよ……」
それは、刻晴にとっても朗報だ。確率が1減った。
さて、引き続きセノの番。一枚、くじを引くと……それも同じく九等だった。
「! 引いた、俺も引いたぞティナリ!」
「はいはい、おめでとう。二枚も引けて良かったじゃん」
「? 一枚だろう?」
「え? でも僕のカードは……」
「自分も引けたのだから、一枚で十分だ。そのカードはティナリが使うと良い」
立派だ……と、パイモンも蛍も強く思う。決して欲張らないつもりらしい。……それに引き換え、刻晴と言えば……済ました顔をしてはいるが「また自分の勝利に一歩近付いた、というのが出ている。
「次はオイラが引くぞ……?」
パイモンがフワフワと浮きながら、お金を渡してくじ箱に手を入れる。中を漁って一つ、取り出した。
出たのは、十一等……早い話が、神の目ストラップである。岩元素の。
「お、おう……思ったより小さいんだな……」
「パイモンにはちょうど良いサイズじゃない?」
「おい、どういう意味だよ!」
「旅人、次お願い」
そう言われても……せめて、稲妻でおみくじ引いてからにしたい……と、思いながら、一枚引いてみた。十一等だった。雷元素の。
「あなた達……ダラしないわね。せめてフィギュアくらい当てなさいよ」
「わ、悪かったな……」
「いや運なのに文句言われても……」
「まぁ良いわ。相手の体力を削る役割はしっかりと果たしてくれたから」
削るって……と、もうため息しか出ない。分かっているのか疑問なのだが、くじに体力なんてものは存在しない。
「じゃあ、次は私ね」
「……今更だけどよ、旅人。自分で自分のくじを引く絵って……結構面白いよな?」
「しっ」
ヒソヒソ話をしつつも、後ろから刻晴の様子を眺める。緊張気味に喉を鳴らした刻晴は、眉間に皺を寄せ、頬から汗を流しながら一歩前に出た。
まぁ……くじを引くのにかけたお金は13,000モラ。その上、割とルールに抵触するギリギリの範囲を攻めているので、ここまでやって引けなかったら落ち込むだろうな……というのは分からなくもない。
でも、何故かな。嫌な予感しかしない。
そんな蛍とパイモンの気を知るはずもなく、刻晴は一思いに雷元素を纏わせた左手を伸ばし、一気に箱の中に突っ込んだ。
「そこ!」
一番最初に触れた紙を摘み、一気に引き抜いた。
シュバっと真上に掲げられた紙は、後光を差すように陽の光をバックにし、蛍、パイモン、セノ、ティナリ、山ばあやの視線を惹きつける。
そして、一思いに顔の前まで引き寄せ、ヒュバッと結果を見た。
「ーっ!」
直後、一瞬だけ絶望的な表情を浮かべた時点で、蛍とパイモンは何かを察したが、すぐにニパッとした笑顔になって、思わず頭上に「?」が浮かぶ。
「当たりよ! 当たりを引いたわ!」
そう言いながら差し出された紙は……あからさまに「十」の部分を指で隠して見せられていた。
「ほ、ほら! 一等よ一等!」
「おい! どう見たって指で隠してるじゃないか!」
「隠してないわよ! 隠していたとしても見えてないんだから、これは一等だから!」
「隠してるって言ったぞ今⁉︎」
「とにかく一等なんだから! いえーい! フォーウ!」
キャラが壊れているレベルで、真上にそんな様子を眺めながら、星辰帰位を放って空中に浮いた後、天街巡遊で狂気乱舞する。本当に狂っている。
その様子を眺めながら、冷静に腕を組んでいたセノがポツリと呟く。
「雷元素か。中々、鋭い剣技だな」
「錆にされたくなかったら、可能な限りセノは黙ってた方が良いかもね」
「? 何故だ? ……しかし、高く浮けるものだ。セノでは、背伸びしても届」
「そういうとこだよ」
とにかく……たくさんお金を使ってこの結果なのは、確かにいたたまれない。ため息を吐きながら、蛍はパイモンと顔を見合わせた後、コホンと咳払いをした。
「ま、まぁ……私はちょっと嬉しかったけどな……」
「は⁉︎ 何が!」
「この神の目ストラップ……璃月の雷元素で、刻晴とお揃いだから……」
「……」
流石に苦しいだろうか……? と、思いながら、顔を向けるものの、空中でピタッと刻晴は動きを止めている。
……そして、ゆったりと真下に着地した。どうしたのだろうか? と、小首をかしげる。
刻晴は、無言のまま蛍達に背中を向けて、ストラップと交換した。そして……振り返りながら、目を逸らしつつ呟く。……その顔は、炎元素を使っているかのように、真っ赤に染まり上がっていた。
「ま、まぁ……仕方ないわね。なら、これで我慢してあげるわ」
「……」
「……」
良いんだ、と四人揃って思いながらも、そのままとりあえずせっかくなので、食事に行くことにした。
でもまぁ……とりあえず、最初の依頼はなんやかんやで満足してもらえた。……何となく、前途多難な気がするが。