レンタル旅人、一時間1万モラ。   作:バナハロ

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噂は人の数だけ広まる。

 璃月港では、当然ながら多くの船が行き交う。それは北斗が操る南十字船隊も同様だ。

 荷物の積み込みやらで港に降りると、ふと目に入ったのは一枚の張り紙だった。

 

「何だこれ?」

 

 呟きながら、紙を剥がして眺めてみる。デカデカと丁寧な字で書かれた見出しには、こうあった。

 

『レンタル栄誉騎士、旅人・蛍レンタル』

 

 蛍と言えば……やはり、旅人のことだろう。以前、新しい群玉閣を作るのに共闘したり、そのまま稲妻まで送ったりと、何かと顔を合わせる機会が多かった子だ。北斗自身も気に入っている。

 それが……自分を売りに出したレンタル。パイモンも共同とはいえ……苦笑いしか浮かばない。

 

「なーにやってんだこいつ……」

 

 思わず呆れてしまった。いや、本当に何をやっているのか。面白いが。あのある意味特殊な存在を、金さえ払えば好きに使えるというのは面白そうではある。

 

「レンタルに興味がおありかな?」

 

 そんな自分の後ろから声が掛けられる。振り返るとそこにいたのは、法律家の煙緋だった。何度か仕事で顔を合わせたことがある。

 

「ああ、あんたか。いや、何だこれと思ってな。確かに興味はあるが」

「利用の際は、私に声をかけてくれたまえ」

 

 こいつとガイアという男が運営なのは確かにビラにも書いてある。法律違反になるようなことにはならないのはよく分かるので、ある意味では安心感がある……あるのだが。

 

「それは良いんだが……ちょっと高くないか? 人集まるのかこれで?」

「そうだね。璃月でだけで三日分くらいの予約は埋まっているよ」

「そんなにか⁉︎ すごいな、旅人!」

「もっとも、依頼内容によってはこちらも弾かなければならないから、とりあえず検討します、という返事しかできないけれどね」

 

 色んな人に恩を売りまくっている上に、色んな人から好かれているので分からなくはないが……それにしても、というものだ。1万モラを払ってまで頼みたい事なんて北斗にはない。

 ないのだが……それなら少し面白そうだ。トラブルの種、というわけではないけど、直感がこれは面白いものだと告げている。

 

「このチラシ、もらっても良いか?」

「構わないよ」

「サンキュ」

 

 それを持って、自身の艦隊に戻った。もう少しこのチラシを読み込んでおこうと思い、稲妻に着くまでの間、暇潰しに読み込んでおくことにした。

 

 ×××

 

 モンドに到着した蛍は、とりあえずガイアの元に向かう事にした。とりあえずお金は稼げたのはなんだかんだありがたい。一時間で9,500モラというのも悪く無い気がする。

 最終的には、理由はよく分からないけど刻晴は過剰に喜んでくれたし、少しやる気出てきた。

 

「モンドと璃月の往復も大変だよな……」

「まぁでも……人の役に立ててるし、それでお金もらえてるし、割と悪くないかもね、このお仕事」

「お……なんだ? やる気出てきたのか?」

「少しだけね」

 

 なんて話しながらモンドの中に入る。久しぶりな気がするが、相変わらず騎士が常に場内で目を光らせている。

 ……そして、誰が貼り付けたのか知らないが、至る所に「レンタル蛍」の張り紙が貼られている。

 なるべくそれを見ないようにしていると、パイモンが声をかけてきた。

 

「仕事の前に、久々に鹿狩り行かないか?」

「いやさっき食べたばっかでしょ……しかも、刻晴の奢りで」

「良いじゃんか。甘いものは別腹って言うだろ?」

「甘いものあったっけ鹿狩……」

 

 そんな話をしながら中を歩いていると、ふと目に入ったのはディルックだった。

 

「あ、ディルックー!」

「パイモンと、旅人。久しぶりだな」

「久しぶり」

 

 ディルック・ラグヴィンド。モンド最大の酒造、アカツキワイナリーのオーナーだ。

 西風騎士団を批判している彼が、昼間からここにいるのは珍しい。何か用事でもあったのだろうか? 

 

「わざわざ足を運んでくれた所すまないが、君への依頼は夜にお願いしたい」

「え? な、何の話だよ?」

「何だ、聞いていないのか。相変わらず人には報告をしない男だな、あいつは」

 

 パイモンは頭上に「?」を浮かべているが、蛍には分かった。ちょっと信じられなかったが、そういうことなんだと思うしかない。

 

「もしかして……ディルックも……?」

「ああ。心苦しいが……僕も君のレンタルをお願いしたい。あの男の口車に乗ったようで癪なのだが、最近は迷惑な客が来て手段を選んでいられない。頼む」

 

 客、というのは夜、バーテンダーをやっているお店に来る人のことだろう。たまに酒癖の悪い客が来るから、迷惑が過ぎる奴もいるのだろう。

 

「分かった。じゃあ夜に引き受けるね」

「助かる」

「それで、ガイアは何処だよ?」

「さぁ……僕と話したのはもう一時間ほど前のことだし、今は分からないな。どうせ本部でダラけているんじゃないか?」

「い、行ってみるよ」

 

 それだけ挨拶して、パイモンと一緒に騎士団本部へ走った。栄誉騎士であるにも関わらず、もう顔パスで入れてしまうのはどうなのか、と今更ながらに思うけど、でも嫌なことではないのでありがたくその権利を使わせてもらう。

 

「ガイアはどこにいるんだろうな?」

「俺ならここにいるぜ」

「うわっ……⁉︎」

 

 いつの間にそこにいたのか、真横から声を掛けられる。顔を向けると、ガイアが立っていた。

 

「び、ビックリした……もしかして、待たせちゃってたか?」

「気にしなくて良い。それより、最初の依頼人はすぐ近くにいる」

 

 とのことで、会いに行った。その先に向かった場所は、ジン団長代理の執務室。モンドでの最初の依頼人はジン、ということだろうか? 

 とりあえず中に入ると、そこにいたのはジンだけでなく、クレーだった。

 

「失礼するぜ、団長」

「ああ、来たか。ガイア」

「あ、ガイアお兄ちゃん! 栄誉騎士のお姉ちゃん、パイモンちゃん!」

「よう、ジン! クレー!」

「こんにちは」

「よく来てくれた、二人とも。……いや、レンタル栄誉騎士」

 

 うっ、と少し困る。なんか改めて言われるとものっそい気恥ずかしい。

 

「もしかして、ジンの依頼なのか?」

「その通りだ。実は、クレーが外でドッカンしたいと言い出してね……だけど、周囲の魔物はつい先日、アンバーが全て討ち取ってしまった」

「あ〜……なるほどな」

「そこで、少し遠出しても構わないから、何処かでクレーを全力で遊ばせてやってくれないだろうか?」

 

 またそのくらいの事でお金をもらってしまうのか……と、少し申し訳なさが滲み出てしまう。

 

「どうだ、旅人? 依頼、受けるか?」

「もちろん……でも、良いの? そんな事で……」

「そんなことではないさ。それに、名目上は魔物の討伐だ。二時間、よろしく頼むよ」

「よろしくね! 栄誉騎士のお姉ちゃん!」

「う、うん……」

 

 まぁ……いっか、と思う事にして、引き受けた。

 お金をもらい、そのままクレーとパイモンを連れて出掛けていった。モンドを後にしてから、橋を渡ってパイモンと足を止める。

 

「どこに行こうか?」

「そうだな……この辺りの敵はみんな倒しちゃったって言うし、少し奥に……」

「ボンボン爆弾!」

 

 直後、元気な掛け声と同時に、橋からそこそこな大きさのボールが落下し、水の中に入り、爆発。水飛沫が高く舞い上がり、水蒸気と水飛沫で視界が白く染まる……にも関わらず、蛍もパイモンも唖然としたまま目を背けることもなく口を半開きにするしかなかった。

 辛うじて意識を飛ばさなかった蛍が、無理矢理口を開いて聞いた。

 

「……クレー? 何をしているの?」

「おおー! すっごい威力! 昨日、クレー新しい爆弾を作ったから、試したかったんだ!」

「そ、そう……」

 

 怒られる、とすぐに理解し、とりあえず走ってクレーの手首を掴んで無言で逃げた。

 

「わっ、わっ? 栄誉騎士のお姉ちゃん、どうしたの⁉︎」

「うん、とりあえず逃げよう!」

「何か悪いことしたの? お姉ちゃん」

「いやしてないけどとにかく来て!」

「って、お、おい! オイラを置いて行くなよ!」

 

 さて、なんだかんだでアカツキワイナリー付近まで逃げ込んでしまった。何とか肩で息をしながら呼吸を整えつつも……引っ張られるがままだったクレーは元気いっぱいだ。

 

「栄誉騎士のお姉ちゃん、とっても足が速くて力持ちなんだね! クレー、足が浮いちゃってた!」

「そ、そうだよ……足が速くて力持ちなんだよ……」

「もう一回やりたい!」

「クレーはドッカンしたいんでしょ?」

「あ、そうだった。じゃあ、どこでドッカンしたら良い?」

 

 そう言われても困るが……というか、分かっていたことだが、この子に付き合うのは中々にハードだ。確かに1万モラの価値はあるのかもしれない。

 しかし……この豊かな草原でドッカンなんてさせたら、火の粉が何処に飛び火するか分かったものでは……と、思っていると、ふと妙案が浮かんだ。

 

「クレー、少しお姉ちゃんと遠出しよっか」

「とおで? する!」

「お、おい……何処に連れて行くんだよ?」

「まだクレーがドッカンしても怒られない場所」

 

 話しながら、アカツキワイナリーの坂道を下に下った。そこにあるのは爽やかな渓流。そして……氷スライムだ。

 

「あ、なるほどな……」

「よし、ここなら良いよ。ドッカンして」

「わーい! じゃあ、火力全開ー!」

 

 一気にドッカン花火を開放しながら、氷スライムに突っ込んでいった。元気にまずは周りの氷アーマーから剥がし始める様子を眺めながら、蛍は近くのイグサを収穫する。

 クレーの目当てはあくまでも魚だが、巻き込まれてスライムが溶かされて行っているのが素晴らしい。

 

「す、好き勝手に暴れてるな……」

「クレーはお魚取りに来てるだけだから。たまたま魔物に当たっちゃうのは仕方ない」

「そ、そうだな。魔物だもんな」

「あ、偶然にも霧氷花が溶けてる。拾っておかないと勿体無いよね」

「……」

 

 さて、お魚とアイテムを拾ってから、とりあえずクレーに声をかけた。

 

「もっとドッカンしたい?」

「うん! まだまだクレー、物足りないよ!」

「じゃあ、少しずつ奥に行こっか」

 

 そう話しながら、三人で奥に進む。今度、目の前に現れたのは風スライム……と、近くにあるのは鉱石だった。

 それらを爆弾(の余波)によって片っ端から片付けていく。もちろん、狙っているのは魚であり、周囲のことなど知ったことではない。なので、旅人も何の自責の念もなくアイテムを拾い続けた。

 さて、一通り暴れ終えた後、クレーは少し腰を下ろした。

 

「ふぅ……少し疲れちゃった。こんなに何でもドッカンしたの、すっごく久しぶりだから!」

「そうなのか?」

「うん。普段はすぐジン団長に見つかっちゃうから……」

「それはそうか……」

 

 まぁ、それも騎士団の教育だろう。というより、ほとんど母親のようになっているジンの教育と言うべきか。

 休むなら……確か、もう少し先に璃月だがお茶を飲める場所がある。そこまで暴れても構わない。

 

「クレー、そういえばスモークチキンあるけど食べる?」

「食べる!」

「じゃあ、それ食べてもう少しドッカンしよう。お茶飲める場所、もう少し先にあるから」

「うん!」

「はい」

 

 三人で旅人が作り置きしておいた手料理を食べながら、さらにドッカンしながら進んだ。

 

 ×××

 

 さて、お茶屋で休んだ後は、鉱石がある方向かつ、敵がいる方向に突き進み、結構奥まで歩いた。

 久しぶりに好き放題できたクレーは、それはもうご機嫌のまま先頭をのっしのっしと歩いている。途中でファデュイ雷蛍術師も現れたのだが、クレーの純粋な笑顔とのっしのっしと歩きながら周囲を爆散させる様子に秒で逃げていった。

 

「なんか……凄まじいな……」

「うん。でも、クレーは楽しそうだし、悪いことじゃないよね」

「まぁな……でも、璃月を荒らしちゃって大丈夫なのか?」

「子供のしたことだし、大丈夫だよ。……あ、また鉱石落ちた」

 

 蛍は蛍で物拾いに夢中である。目に入ったものを拾うくらいではないと色々追いつかないのだ。

 

「まぁ、二時間まであと少しだし、もうちょっとだけ頑張ろうぜ!」

「あ……そっか。二時間か」

「忘れてたのかよ……あ、てか今更だけど、さっきのお茶屋のお茶はお前が払ったのか?」

「そうだよ。……流石にクレーには払わせられないし」

「後で、ジンに請求するのか?」

「お茶代くらいいいよ別に。……でも、言っちゃうとジンは払うって言い出すと思うし、内緒ね?」

「分かったぜ」

 

 なんて、話しているのが、おそらく油断だったのだろう。話しながら何となく前を見ると、クレーの姿は無かった。

 

「……あれ?」

「く、クレーは?」

「や、ヤバい。ここモンドじゃないのに……!」

 

 しまった、気を抜きすぎた……と、思ったところで蛍は気がつく。なんとなく来てしまったが、この先にあるのは確か……と、嫌な予感。

 慌てて前へ走り、石造りの階段を上がった時だった。

 

『故郷からの刺客か、それとも軽策の水を侵すものか?』

「わっ、おっきい青のお魚さん!」

「ああああ! く、クレー待った!」

 

 純水精霊とおっ始めてしまっていた。慌てて泳いでフィールドに向かう……というかクレーはわざわざ泳いで向こうまで渡ったのだろうか? 好奇心旺盛にも程がある。

 そうこうしている間に、ローデシアは水の動物を顕現させる。

 

「わっ、わっ! すごい、鶴さんだ!」

「クレー! ヤバいって!」

 

 よりにもよって、他の動物の中で一番、遠距離から高威力の水を飛ばしてくる長距離インキャ砲野郎だ。飛んでる鳥の次に鬱陶しい奴を召喚してくれやがった。

 

「あ、パイモンちゃん! すごいよ! 鶴さん!」

 

 しかもクレーは敵とさえ認識していない。

 

「た、旅人急げ!」

「分かってる……!」

 

 すぐに上がった直後、鶴が水を放ったのを見て、蛍も手を翳す。剣では間に合わない。律儀にモンドに来た時に元素力を切り替えたのが役に立ちそうだ。

 

「風刃……!」

 

 と、風を放とうとした直後だ。クレーはポケットから爆弾を投げた。

 

「えっ」

 

 それらが、迫る水に直撃し、爆発。水蒸気をあげて蒸発させる。

 

「あははっ、すっごーい!」

 

 ……そうだった。クレーは別に敵が相手じゃなくても爆弾を投げる子だった。悪人認定していないアビスの魔術師も爆殺したくらいなのだから。

 少し力が抜けたが……それならそれで好都合。旋風の剣を、鶴本体に切り替えて放つ。水に風は上手くないが、やらないよりマシだ。

 鶴の一体に直撃するが、大きなダメージは見られない。それでも少しノックバックしたように見える。

 

「わー! 栄誉騎士のお姉ちゃん、カッコイイ!」

「ありがとう……」

「お、おい……どうするんだよ?」

 

 パイモンが聞いてくる。

 確かに、正直カッコイイとかそれどころじゃないんだけど、と思うものの、言わない方が良い。今日のクレーの爆弾は絶好調だからだ。

 それならば……いっそ、二人で切り抜けるしかない。

 

「クレー、もっとドッカンしたくない?」

「したーい!」

「じゃあいつも通り、あの水の動物をドッカン出来る?」

「うん! ……でも、今日はもうたくさんドッカンしたよ? これ以上やると、ジン団長が飛んで来ちゃうんじゃ……」

「大丈夫。栄誉騎士のお姉ちゃんが許可します。今は、好きなだけドッカンして良いよ」

 

 そう言うと、クレーは瞳でも爆発しているんじゃないかと思う程に目をキラキラと輝かせた。

 

「ほんと⁉︎」

「ほんと」

「うん、じゃあ……クレー、たくさんたくさんドッカーンするね!」

「うん」

 

 それだけ話すと、蛍も剣を握り直して構える。……正直、厳しい気がしないでもないが、所詮は雑魚狩りで決着がつく相手。クレーの十八番と言えるだろう。

 

『……そうか。妾とやろうと言うのだな? ならば仕方ない……水のありがたみも恐怖も知らない者には、教えてやるとしよう……』

 

 そう言いながら、ローデシアはさらに水の幻霊を増やす。あくまでもクレーを怪我させないように、と旅人が前に出た直後だった。

 

「大人しくしやがれ」

 

 真横から、氷の剣が飛び出し、前に勢揃いしていた動物達が一気に凍った。

 

「!」

「今のは……!」

 

 大人しい声が聞こえた方向に目を向けると、その方向から歩いてくるのは、凍らせた水面をゆっくりと歩いて来る眼帯の男。

 ニヤリとほくそ笑んだまま、片手剣に冷気を纏わせたまま自分達を眺める。

 

「やれやれ、お転婆な栄誉騎士と火花騎士だな。こんな所まで爆発しに来るとは」

「あ、ガイアお兄ちゃん!」

「やぁクレー。奇遇だな」

 

 軽くヒラヒラと手を振るう。この男……おそらくだが、つけていたのだろう。

 

「クレーね、今日たくさんドッカンしたんだよ! 栄誉騎士のお姉ちゃんと一緒に!」

「そうかそうか、良かったなクレー」

「でも……ガイアお兄ちゃんが来たって事は、もう終わりの時間……?」

「大丈夫さ、クレー。もう少しだけドッカンしても、ジン団長には内緒にしててやる」

「ほんと⁉︎」

「ほんと」

 

 上手く戦えとは言わずに話を進めた。ガイアのこういうところはとても助かる。それに、氷元素なら水を凍らせられるし、クレーを守るのに最適だろう。

 さて、許可が降りたことで、更にクレーのテンションは大きく上がった。両手を広げながら、炎元素の力を全開に引き上げる。

 それに伴い、蛍もガイアも自らの武器を構えた。

 

「よーっし、じゃあ栄誉騎士のお姉ちゃんと、ガイアお兄ちゃんと、パイモンちゃん! ちゃんと見ててね! クレー特製の……ドッカン花火!」

 

 そう言いながら、純水精霊との戦闘を開始した。

 

 ×××

 

 さて、それから何分か経過した後、クレーは蛍の背中で寝息を立てていた。モンドへ帰る道中、純水精霊との遊びが楽しくて寝てしまったようだ。

 

「疲れた……」

「ははは、お疲れさん。旅人」

「まったくだぜ……」

 

 もう割とぐったりしてしまっているが、騎士団本部に送り届けるまでが仕事である。むしろ、二時間でよくやり遂げたものだ。

 しかし……やはり、疲れた。だが、今日という日はまだまだ終わっていない。これから璃月に向かって仕事した後、また戻ってきてディルックの依頼をする必要がある。

 

「そもそも、ガイアは何であそこにいたんだよ? ていうか、そもそも璃月には何をしに行ってたんだ?」

「たいした用事じゃない。今回はお前さん達の万が一を考えて後を追っていたが、前はバーバラが新しいドリンクを開発するために、璃月の名産品が欲しいと言っていたから、獲りに行っていただけさ」

「へぇ〜……優しい所あるんだな、ガイア」

「サボりの口実が欲しかっただけでしょ」

「旅人は、相変わらず鋭いな」

「ひ、否定しろよ!」

 

 けど、正直助かったし何か言うつもりもない。しかし……今後、子守のような依頼を受けたときはもう少し気を緩めないようにしなければ。

 

「……で、この後は璃月で良いの?」

「ああ、構わない。夜はディルックの旦那の店だ。店の前で待っているから来てくれ」

「はーい」

 

 そんな話をしながら、とりあえずモンドでクレーを下ろした。

 

 ×××

 

 稲妻に到着した北斗は取引相手であり、尚且つ神里家の家司であるトーマからサインを受け取っていた。

 

「これでよしっ……」

「取引完了だな。またのご利用をお待ちしているよ」

「ああ、こちらこそ……ん?」

 

 何かを見てトーマが声を漏らす。何を見た? と思ったら、指差す先には箱の上のチラシがあった。

 

「あれなんだ? なんかレンタル栄誉騎士とかよくわかんない事書いてあるけど……」

「ああ、なんか璃月とモンドで、旅人が商売始めたらしい。うちは使うことないけど、もしかしたら面白いこと書いてあるかもと思ってもらってきたんだ」

「へ、へ〜……そんなにお金ないのかな?」

「さぁ」

 

 すると、トーマは顎に手を当てて少し考え込む。自分自身がこれを使うことはないだろうが……最近、お嬢が旅人に会えないストレスで深夜お茶漬けの数が増えた。

 もしかしたら、これも使えるのかも……と、少し思ったのでダメ元で聞いてみた。

 

「このチラシ、もらっても良いか?」

「ああ、良いぞ。もう読んだし」

 

 よし、とガッツポーズして、チラシをもらった。

 

「じゃあ、そろそろ行くから」

「うん。ありがとう」

 

 北斗と離れながら、チラシを見下ろす。今や鎖国も解けた稲妻では、離島と本島の間も自由に行き来できる。

 元々、トーマにそんなものは関係なかったが、こうして見るとやはり人々が自由にしている方が国全体の空気は良いものだ。

 だから、このサービスも堂々と使うことができるだろう。

 荷物は自身の部下に任せてから、トーマは報告に神里屋敷に向かう。

 

「ふーむ……」

 

 ざっと読んだ感じ、要するに一時間1万モラで旅人を自由に使えるということ。でも、当然ながら犯罪の関与になるようなことはできないし、旅人自身の人権を無碍に扱うようなことも許されていない。

 多分、会ったことはない人だけど相当、しっかりとルールを作り込める人がこれを考案したのだろう。

 

「……でもなぁ」

 

 神里屋敷に近付いてから思った。でも……これを流行らせてしまったら、業務自体に影響が出る可能性もあるのでは? と。

 ……というか、稲妻は割とアホな人が多いから「24時間! 24万モラくらい安いものだ」という感じで一日拘束する人も少なくない気がする……。

 やはり、やめておくべきかも……なんて思ったところで遅かった。

 

「きゃっ」

「おっ、と……す、すみません、お嬢」

 

 ぶつかった相手は、神里綾華。自身が支える家のお嬢である。このくらいで気にするお方では無いが、ちょっと気を抜きすぎたと反省。

 

「トーマ、珍しいですね。あなたがよそ見しながら歩くなんて……」

「い、いやちょっと……」

 

 ヤバい、隠さなきゃ、と思って手元にあるはずの紙に目を落としたが、無い。代わりに、綾華の足元に紙が一枚、落ちていた。

 

「これを読んでいたのですか?」

「あ、いや、それは……!」

 

 慌てて手を伸ばしたが、当然のように間に合わない。拾い上げた綾華は、それを見た直後、まるで神里流・霜滅を放つ直前のように目を鋭くさせる。

 ヤベー……と、トーマが無言で焦る中、綾華は微動だにする事なく紙を真剣に眺めた後、その紙を二つ折りにして懐にしまった。

 

「……トーマ。これはどちらで手に入れたのですか?」

「え? あ、ほ、北斗さんの船で……」

「……彼女はなんと?」

「いや本人も詳しいってわけじゃなさそうですよ。璃月とモンドの間だけでなんかやってるらしいです」

「稲妻では?」

「え、いや俺も初耳ですし流行ってはないのでは?」

「……なるほど。由々しき事態ですね」

「ゆ、由々しいんですか?」

「由々しいです」

 

 言い切りながら、トーマの横を通り過ぎる。歩いていく先は、方角的に稲妻城だ。

 

「どこ行くんですか?」

「しばらく家を空けます」

「え、いやだから……」

「稲妻の全権利を持って、稲妻にもこのサービスを通してもらう会議をしに行きます」

「……」

 

 だめだ。これはもう止まらない。とりあえず、今後忙しくなる事を覚悟しておきながら、とりあえずトーマは今のうちに休んでおくことにした。

 

 

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