璃月に戻り、蛍とパイモンはのんびりと港を歩く。
「なんか……同じ日に二度も同じ街に来るのって変な感じだな……」
「そうだね」
パイモンが言うのも分かる。なんかちょっと変わった感覚がある。……まぁ、でも今思うと
「で、今回の依頼人は何処なんだ?」
「知らない。そもそもいるのかもわかんないし。その辺、煙緋に聞かないと分からないから、連携が中々難しいよね」
「あー……確かにな。でもまぁ仕方ないんじゃないか? そもそも、説明の段階で依頼内容によっては受けられるかどうかもわからないって伝えてあるんだし、少し待たせちまうくらいは依頼人も分かってるだろ」
「まぁ……そっか」
ていうか、そもそも「旅人に何かしてもらわないと困る」レベルの依頼は遠慮願いたい。クレーの依頼とかは今思えば最適だったのかもしれないし、ああいう感じのものが良い。
「ていうか、ほんと煙緋どこ行っちゃったんだろ……仕事中なのかな。もう帰る?」
「基本的にはやりたく無いからってお前……」
なんて二人揃って話しながら歩いている時だった。ふとパイモンが「あっ」と声を漏らす。視線の先にいたのは、ティナリとセノだ。
「あ、ティナリ、セノー!」
「おや、パイモンと旅人」
「また会ったな」
まだいたのか、と思ったけど、まぁ遥々と璃月まで来たのだし、そのままカードだけ手に入れて帰るのは勿体ない。多分、名所とか回っていたのだろう。
二人の姿を見るなり、ティナリがセノに視線を移しながら言う。
「ちょうど良かった、頼みたいことがあるんだって。セノが」
「? 何?」
「ああ。この張り紙を見つけた」
レンタルのビラを見せつけられ、少し胸の奥が痛む。いや、後ろめたさと言うよりも、自分に関係するビラが兄の捜索に関するものに追加して二つ目……それも、内容が内容だけに非常に恥ずかしくて。
「頼めるか? 今から」
「あ、ごめん。それ順番を管理してるの煙緋とガイアだから……しかも、なんか三日分は既に埋まってるとか言ってたし、今すぐには厳しいかな」
「そ、そうなのか……じゃあ予約だけでも入れさせて欲しい」
「良いけど……いつまで璃月にいるの? 活動範囲は今の所、璃月とモンドの間だけなんだけど……」
「何っ……スメールには来ないのか?」
「う、うん……管理する人もいないしね」
「……なるほど」
少しセノは顎に手を当てて考え込む。その様子を隣から眺めながら、ティナリは穏やかに口を挟む。
「やっぱり諦めなって。それに、あんな願いは流石に無理なんじゃないかな……」
「そうだな……今は諦めよう」
「うん。じゃあもう帰……」
「ここは一度、スメールに戻って知恵の神のお力を借りるとしよう」
「諦めないんだ……」
一体、何を依頼するつもりなのか……と、思っている間に、二人は帰るようで、軽く手を振ってきた。
「じゃあね、旅人、パイモン。またスメールに来る時は顔を見せて。コレイも会いたがっているからさ」
「では、またな」
「ああ、じゃあなー!」
「またね」
「……さて、どうするか。誰かしら暇な人物……カーヴェ辺りに頼むか……?」
「セノ、怒られるよ」
なんかぶつぶつ話しながら帰宅して行った。その背中をぼんやりと眺めながら、パイモンが呟いた。
「……何を頼むつもりだったんだろうな……」
「さぁ……ダジャレ100連発とか?」
「オイオイ……仮にも大マハマトラだぜ? 最近、お前セノの事、ギャグキャラだと思って見てるだろ……」
なんて話している時だった。後ろから大声が掛けられる。
「見つけた、旅人……」
「相棒ー! 久しぶりだな!」
管理者のセリフを遮って、元気な成人男性の声音が耳から脳まで響き渡る。
渋々、振り返ると……そこにいたのは、煙緋とタルタリヤ。ファデュイの執行官である。
「……タルタル」
「その呼び方はやめてくれる?」
「ようやく来たね、旅人。パイモン」
「お、おい……煙緋。まさか、次の依頼人って……」
「そう、彼さ」
「ファデュイかよ!」
とうとうそんな奴からまで依頼をされるようになってしまった。
悪い人ではないのは分かるが、決して良い奴らでもない。神の心を集めている連中である。
「なんだ、俺が依頼しちゃ悪いのかな?」
「……内容による」
「そうだぞ。お前らの悪事の手伝いなんてさせられないからな!」
「そんなこと頼まないさ。俺、そんなに画策するタイプじゃないだろ?」
「するよ」
「するだろ」
「するね」
「ちょっと君までなんだよ……」
煙緋にまで言われたのは応えたらしい。まぁもう見た目からして何か企んでいそうな男だし、気持ちは分かる。なんなら気持ちしか分からない。
だが……それ以外だと考えられるのは、あの件だろうか?
「もしかして……また弟でもこっちに来た?」
「いや、それもないよ。……でも、来たらまたお願いすると思う」
あ、真剣だ、と理解。あの時は本当にタルタリヤは苦労していたが、その分あのオモチャ工場で暴れていた様子はカッコよかった。自分はバカ兄貴によって苦労させられているけど、苦労している兄貴もいるんだな、と少し頷いてしまう。
「じゃあ、何をこいつに頼むんだよ」
「バトルしよう! 久しぶりに思いっきり!」
「煙緋、出禁」
「なんでだよ⁉︎」
いや、当たり前である。ビラをちゃんと読めと言いたい。
「お前……暴力とかそういうのはダメって書いてあるじゃんか……」
「俺とお前の仲じゃないか。良いだろ?」
「そうだね。もう3回はあなた達のお陰でバカな苦労はさせられてるね」
「でも、相棒は乗り越えてきたんだろう? なら、このくらいの山くらい大したことないさ」
「山を生み出してる奴が言うな!」
「とにかくダメ」
流石にダメな奴だ。許可出来ない。何がまずいって、似たような注文が殺到するのが一番困る。
そんな中、口を挟んだのは煙緋だった。
「よく分からないが……君は戦いをしたいのか?」
「そうそう。旅人と毎週戦っているよ。今週ももう終わっちゃったんだけど、お金を払えば何度でも戦ってくれるって言うから」
「……旅人、毎週戦っているのか?」
目を逸らした。仕方ないのだ。素材のためには。
「なら良いじゃないか。……ただし、人目につくのは困るから、ちゃんと三人だけになれる場所に行くこと。それから呉々も死人は出さないこと。それを守ってくれるのなら、特例を出すよ」
「て言ってるけど? 旅人」
「ちょっと煙緋……」
……いや、何にしても嫌だ。モラはもらえるかもしれないが、基本的にこんな危ない奴と金のために戦うなんて……。
「分かった。じゃあ俺に勝つたびに1万モラ上乗せして良いから」
「よし、特例を出そう。財布が軽くなる覚悟をしておいて」
「えっ、お、おい……」
銀行で三時間、暴れるに暴れた。
×××
さて、なんやかんやホクホクになった財布を持って、再びモンドへ。もう夕方になってしまったが、この後の仕事はもう決まっている。
「で、この後はディルックのお店だよな?」
「うん。そのはず」
日も傾いてきた頃だし、少し早いかもしれないが行っても良いだろう。
またまたモンドの門を潜って城内に入る。城門からお店は割と近くにあるのですぐに行ってみたのだが……まだ、日が沈みきっていないからか、ガイアの姿はなかった。
「まだ来てないみたいだな」
「どうしよっか。時間空いちゃったね」
「せっかくだし、少し休もうぜ」
「そうだね」
話しながら、二人でそのまま散歩しようとした時だった。その二人の元に「旅人ー!」と声が掛けられる。
顔を向けると、そこにいたのはアンバーだった。
「あ、アンバー!」
「どうしたの?」
「あんた、今レンタルとかいうのやってるんでしょ?」
クリティカルヒットした。そのセリフ、死ぬほど恥ずかしい。
「ガイア先輩に言われてきたんだー。代わりにあたしが、依頼人との仲介をしますっ」
「相手がディルックだからかな……」
あり得る話だ。可能な限り絡みたくはないのだろう。……上手く使われている、アンバーも。
さて、そんな風に思っていると、店の扉が開かれた。現れたのはディルック。声をかけてきた。
「やぁ、二人とも。……あいつは?」
「ガイア先輩の代わりにあたしが来ましたっ」
「……まったく。まぁ、仕事を引き受けてくれるなら構わない」
「では、お先に依頼内容の提示をお願いします」
元気に仕事をこなすアンバー。火属性の共鳴でも起きているのだろうか、と思うほどに元気いっぱいである。
「僕の依頼は、店の手伝いだ。……実は今日、面倒な客が予約を取っている。だから、そいつの相手……と、あと店の雑用を頼む」
「え……それだけで、時給10,000円……?」
「面倒な客の相手がメインだ。決して高くない」
そんなに面倒なやつが相手なのだろうか? まぁ……とりあえず承諾して、店の中に入った。
時間は四時間。割に合わないんじゃないか、と不安にもなるけど、決めたのはディルックだしこっちが何か言うのも違う気がする。
「よーっし、じゃあ頑張ろうぜ! 旅人!」
「うんっ」
二人で話しながら、お店の中に入った。まだ開店時間ではない。一応、従業員というポジションなので、まずは店内の掃除から始めた。
最低限、エプロンだけつけた後は、机の上や床などを掃き掃除。その後は、表に出て店の前を掃除したり……などなど、普通の店員っぽく仕事をする。
「へへへっ、エプロン姿、中々似合うじゃないか、旅人」
「パイモンもエプロンつけたら? 白い髪が埃まみれになるよ」
「オイラのサイズのエプロンなんかないだろ!」
「あるぞ」
「あるのか⁉︎」
そんなわけで、パイモンもエプロンをつけた。
「どうだ? 似合うか?」
「大きな生クリームが飛んでるみたい」
「おい! そこは褒めるところだろ!」
なんて話しながら、仕事をとりあえずこなしていった。
しばらく仕事をこなしていると、開店時間になる。流石に接客の経験はないので、少しだけ緊張し始めて来た。
ちょうど良いので、ディルックに聞いてみた。
「そういえば、ディルック。普段はやっぱり騎士団のお客さんが多いの?」
「いや、大人が多く集まるだけで、特別そういうわけでもない。鹿狩りの娘や、教会のシスターもよく来る」
「へぇ〜……まぁ、みんなお酒好きだからね……」
モンドの神様でさえかなりの酒豪……と、そこでハッとする。今、ディルックは何故、吟遊詩人と言わなかったのだろうか? あれこそモンドを示しているような気がするが。
……もし、敢えて言わなかったのだとしたら……理由は何となく……と、そこまで思い当たった直後だった。
「こんばんはー! とりあえず生でー!」
「来たか。旅人、あれの相手を頼む。奴がいると絡まれて仕事にならないんだ」
「やっぱりそういうこと⁉︎」
店に入って来るなり酒を注文しながらカウンター席に腰を下ろしたのは、吟遊詩人の皮を被った風神……ウェンティだ。
「おや? 旅人にパイモン。久しぶりだね、ここでバイト中かい?」
「こんばんは、ウェンティ」
「吟遊野郎! ……またここで酒飲んだくれるのか?」
「そんな言い方しないでよ。僕は嗜みに来てるだけだよ?」
嗜み、という言葉を辞書で一度引いて来て欲しい言葉だった。だが、話を聞かない自由の国の代表格な風神様は、気楽にディルックに声をかける。
「ほらほら、店主さん。僕にビールをハリーハリー」
「……すまないが、君には今日、特等席を用意した。その席を空けてくれるか?」
「おや、そうなのかい?」
「……えっ」
嫌な予感。店内を掃除した感じ、別に変わった席があった感じも、増えた席があった感じもない。……つまり、特別な席を演出するには、何か外部からのプラスアルファが来るというわけで。
「こちらだ」
そう言ってディルックは奥の一人席を案内する。裏口が近いあたりがまた困る。そこにウェンティを座らせた後、戻って来てビールを用意すると、それを蛍に渡して来た。
「では、頼む」
「え、な、何を?」
「察しが良い君のことだ。もう分かっているだろ?」
「……」
だめだ、この男思ったより性格が悪い。もう覚悟を決めるしかないようで、観念したようにため息をついた。
要するに、ウェンティ専属のウェイトレスをやれということだろう。
「……分かった。じゃあ、行ってくる」
「お、オイラも手伝うぞ!」
「ありがとう。パイモン」
そんなわけで、二人でウェンティの席に向かった。まずはトレーに乗せたビールを置く。
「お待たせいたしました。ビールでございます」
「おやおや、可愛いウェイトレスさんだね。……もしかして、君が僕の特別になってくれる子かい?」
「……遺憾ながら」
「ふふ、なるほどなるほど」
どういう意味で蛍が来たのか知ってか知らずか、楽しそうな笑みをこぼすウェンティ。いや、これ気付いている。確実に。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。お姉さん。とりあえず、何かつまみを持って来て欲しいな」
「何に致しますか?」
「お姉さんのセンスに任せます」
「……」
青筋が浮かぶのを必死に抑える。この野郎、本当にこの野郎、と言わんばかりだ。
「……畏まりました」
「うん。お願……あ、待った」
「なんでしょうか?」
「出来れば、お姉さんの手作りが良いな」
「……」
こいつもう既に酔ってんじゃないだろうな、と苛立ちが高まる。完全にこの状況を楽しんでくれているものだ。
チラリとディルックを見ると無言で目を閉じながら頷いてくれた。仕方ないので、適当に作ろう。
本当なら黒背スズキの激辛唐辛子煮込みでもお見舞いしてやりたいところだが、ここはディルックの店。ならば、満足させないわけにはいけない。
「お酒に合いそうな食べ物……パイモン、何が良いかな?」
「え、お、オイラ別にお酒飲まないしなぁ……まぁ、吟遊野郎だし、たまにはモンドの外の料理でも良いんじゃないか?」
「うーん……となると……」
……スメールの料理とか、だろうか? とりあえず風神なのでカロリーとかは気にしてやる必要はないし、好きにやってしまっても面白いかもしれない。
「ピタ……とかどうかな」
「ああ、あの生地がモチモチした美味いやつかぁ、オイラもアレ大好きだぞ」
「パイモンはなんでも好きでしょ」
「まぁ、お前が作って料理は全部美味いからな」
やだこの子、ママを盛り上げるのがお上手……なんて少しテンションが上がる。
そんなわけで、まずはピタを作ってみることにした。スメールの駄獣から取った獣肉と、あとは普通の小麦粉、牛乳、トマトで。
まずは生地から作るのに何故一瞬で出来るのか、とかいう疑問は置いといて、とりあえず完成だ。
「出来た……」
「美味そうだな! ……オイラにも一つくれよ」
「いや、仮にもお客様のだから」
「あ……そ、そっか」
「パイモンはウェイトレスは一番、向いてないかもね」
「おい! どういう意味だよ! オイラだって、商品を食べないくらいの我慢は出来るぞ!」
ほんとかな? なんて思いつつも、だ。興が乗っていたので、つい作ってしまったものをパイモンに差し出す。
「はい」
「? え、これ……」
「パイモンの分。食べたいって言い出すと思ったから」
「わ……わざわざ作ってくれたのか〜⁉︎ ほ、蛍〜!」
「じゃあ、私はこれ出してくるね」
食べる前からその嬉しそうな反応……これほど作り甲斐がある友達はそう多くない。
少し蛍自身もテンションを上げながら、ウェンティの元にピタを渡しにいく。
「お待たせ致しました」
「これは?」
「ピタでございます」
「へぇ〜。どんな料理なの? お姉さんの説明、聞きたいな〜」
「……」
嗚呼……これほど同じものを出されて食べる前のリアクションが違うのか、と苛立つ。
「……食べないのでしたら片付けますが」
「あ、あー嘘嘘! ごめんごめん、ありがたくいただくよ」
そう言ってウェンティはピタを口に含む。すると、目を小さく見開いた。
「んっ……このピタ美味しいよ、旅人!」
「知っているのに何故、さっき詳細をお尋ねになられたのですか、お客様」
「あ、あはは……あ、もう飲み終わっちゃったから、次のお酒欲しいな。同じもの。あと、次のおつまみもお願い」
「……畏まりました」
つまみが来る前に飲むなよ、と思いつつも……まぁ、美味しいって言ってくれたし良いか、と思っておくことにして、厨房に戻った。
とりあえず、先にビールをお出ししてから、料理を考える。次は、稲妻が良いだろう。
「……うなぎの蒲焼かな。美味しいものが良いと思うし」
「おおー! 良いじゃんか! オイラも食べたいぞ!」
「いや、毎回パイモンの分まで作ってたら手間かかって仕方ないでしょ……」
残念ながら、そこまでの余裕はない。とりあえずそのまま蒲焼きを作るが……蛍は忘れていた。蒲焼は、焼き始めると香ばしい匂いが世界を蹂躙し始めるのだ。
「な……なんか良い匂いしねえ?」
「バーというより居酒屋っぽい匂いが……」
「確かに……」
そんな声が周囲からざわつき始める。気が付いたパイモンが少し狼狽えた。これ……旅人の仕事が増えそうな気がしたから。
「な、なぁ……旅人。なんか周りが……」
「ん? ……えっ」
周囲のお客さんが自分の料理に興味を持ち始める。マズイ、と冷や汗。稲妻で習得した料理だが、当然のことながらモンドの人にとっては珍しいものだ。
「なぁ、それ俺らにも一つ!」
「俺にも!」
「私もー!」
「えっ、いや、あのっ……」
……ヤバい。チョイスをミスったかも……と、ディルックの方を見る。が、ディルックは言うまでもなく助け舟を出してくれた。
「注文するのは構わないが、それは今日限りの特別商品だ。一つ10,000モラは取るが?」
「やっぱいいわ」
「無理無理無理」
「飲もうぜ」
一掃してくれたが……そんなことを言えば、ウェンティも手を引いてしまうのでは? と、バーの隅でグラスを傾けている風神の方に目をやるが……。
「んー、このピタって料理やっぱ美味しいなー。何故かビールに合うし」
全然、聞いていなかった。まぁそれならそれで構わない。そもそもあのアホな神様が特別店員を必要とされるくらいにまで飲んだくれなければ良いだけの話だったのだから。
そのまま料理を完成させて渡しに行った。この様子なら、思ったより辛い依頼にならなさそうだ。
×××
「たぁびぃびぃとぉ〜……聞いれいるのらい? ぶぉくの話しをぉ〜」
それから僅か1時間で自分の愚かさを知った。途中から料理はいらないと言われ、隣に座らされ、顔を真っ赤にしながら肩を組まれて絡み酒。
「この前さぁ〜……トワリンの背中で酔っ払っちゃっへさぁ〜……思わふ全裸ぇ踊ってたら、背中から振り落ほされふぇさぁ……落ちた先がアカツキふぁイナリーの近くの川でさぁ〜……酷いよね〜?」
「……聞きたくないんだけど」
「そぉんら川みたいに冷らいこと言わらいへくれよ〜……」
……めんどくさい、この風神。これは確かに一時間一万モラで雇われる気持ちもわかる。ていうか、お願いだから自分の前では全裸にならないで欲しい。
「……パイモン」
「そ、そんな泣きそうな顔するなよ……」
今までどんな敵が目の前に現れても折れることがなかった旅人が、全力で涙目になっていた。半分くらいブチギレているかもしれない。
それでも、一応は仕事なので雑に追い出したりはしない。とりあえず相手をしてやるしかない。
「……旅人〜……僕に構ってくれよ〜……神様はね、寂しいと死んじゃうんだよ……」
「……はいはい」
そのまましばらく朝まで愚痴に付き合うハメになった。
結局、さらにその数時間後には大量のグラスに囲まれてイビキをかく神様が目の前に倒れていた。
「ぐがー、ごがー」
「……」
自由の国の象徴も良し悪しだな、なんて思ってしまったり。まぁそれでも一先ずは楽出来る。
とりあえず、グラスを片付けるためにそれらを持ってカウンターの奥の長さは持って行く。
すると、気が付いたディルックが顔を向けた。
「おや、もう寝たのか? あの吟遊詩人は」
「うん……いびきかいてる」
「そうか……ちなみに、君は幾つ料理を作ってやったんだ?」
「えーっと……12種くらいかな」
「つまり、120,000モラ+酒代か」
「あ、ほんとに10,000モラ取るんだ……」
他の客を追い返すための方便だと思っていたのだが、本気だったらしい。……まぁ、確かにそうじゃないと旅人のレンタル代を含めると赤字になるから当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
「アレが寝たのならば、君も元の仕事に戻ると良い。……またあれが起きたら相手をしてあげてくれ」
「あ、うん分かった」
さて、そんなわけで働くことさらに3時間ほど経過し、無事に仕事を終えた。
店が閉店時間になり、ついでなので締め作業も手伝い、お金をもらってお店を出る。
その後で、後ろから「えっ……し、支払い14万……?」と絶望するような神様の声が聞こえるが、無視。
手数料もアンバーに支払い、厚くなった財布を前に久しぶりにご機嫌になりながら思わず声を漏らす。
「いやー、儲かった儲かった」
「やったな! 思ったより楽勝だったな」
「うん。あの神様、すぐ寝ちゃうから」
……起きている間はかなりキツかったけれど。ディルックも一人の客から14万取ったからか、少し報酬をおまけしてくれた。……でもあのダル絡みはしんどいしムカつくので二度とごめんだが。
さて、このあとはどうしよう? もう割と夜だし、ガイアにだけ顔を見せて指示を待つか……と、探しに行った。
が、探すまでもなく騎士団本部近くのベンチで座っているのが見えた。
「よう、お疲れさん。旅人」
「どうも。手数料、アンバーに渡しちゃったよ」
「勿論、構わないぞ。俺は今回は仲介していないからな」
その辺きっちりしている。まぁ腐っても騎士団ということだろう。
「今日はもう休んでも構わないと思うぞ。明日の朝に璃月に向かってくれ」
「分かった」
「じゃあな、ガイア!」
「ああ、またな」
それだけ話して今日は壺の中で休む事にした。
×××
稲妻城にも、一応だが応接室のような場所はある。あまり使われた事がない故に、内緒話をする時とかはそこを使われることが多かった。
だからこそ、九条裟羅は少し不思議だった。雷電将軍に、その部屋に呼び出されたからだ。過去に一度もなかったレベルのウルトラレアなケースだ。
ノックをしてから、扉越しに声を掛ける。
「九条裟羅、馳せ参じました」
「入りなさい」
その声が聞こえた後、部屋の襖を開けて中へ入ると……座っていたのは雷電将軍だけでは無かった。
神里綾華、そして珊瑚宮心海が揃っており、思わず目を丸くしてしまった。
「っ……か、神里綾華殿に、珊瑚宮心海……⁉︎」
「彼女らは私のお客人です。警戒はしなくて結構」
「こんにちは、九条裟羅さん」
「ご機嫌よう」
二人揃って笑顔で声を掛けてくるが……特に心海を相手に警戒するな、は無理がある。何せ、前まで戦いの相手だった者だ。
しかし、それを許さないと言うように雷電将軍は静かに内容を告げた。
「緊急を要する案件ですので、本題に入らせていただきます」
「……はっ」
「これは、我々三勢力が協力せざるを得ないと判断した事案です。それ故に、このお二方もお呼び立てしました。この任務……命を賭けて遂行しなさい」
「っ……!」
それ程の任務……つまり、稲妻全体を揺るがすという事を示唆している。外国からの刺客か、それともファデュイがまた暗躍を始めたのか……何れにしても、久しぶりに重要な仕事という事だ。
……しかし、それならば珊瑚宮、神里の両名からも援軍が欲しい所だが……まぁ、それくらいあるだろうし、黙ってまずは将軍の話に耳を傾ける。
そんな中、雷電将軍は一枚の紙を机の上に置いた。そこには「栄誉騎士、旅人・蛍レンタル」と狂気に塗れた文言が書かれていた。
「……これは?」
「そのサービスに稲妻も混ざれるよう、旅人に交渉して来なさい」
「…………はい?」
この中に入ろうとしてるの? と普通に目が点になった。明らかにこの旅人を利用した黒幕が客を食い物にしようとしている悪質なサービスに?
嘘だと言ってよ将軍様、と思う裟羅にとどめを刺すように将軍様は告げた。
「大方の要求はこちらが折れます。金銭を要求された場合は最多で1千万モラの用意があります。必要であれば誰を連れて行っても構いません。……とにかく、この商売の活動範囲が稲妻にまで広がるよう手を尽くしなさい」
「…………は、はぁ」
「返事は?」
「は、はいっ」
過去一、モチベーションが上がらない任務が幕を開けた。