本編に入れる隙間が無かった日常回を前書きにでも入れようと思います。感想のお礼という説もあります。
『あっち』のある日のアインとアンジェラです。ヒントになり過ぎるかなって思いましたが今回が解答編みたいな物なので大丈夫でしょう。
中央の代わりに記録チームを管理する事になった回です。なんで1話のバスからずっと会ってる筈なのに初対面みたいな反応してたんですかねこの時計頭。
まあそれをいったら煙戦争前にカルメンに殺されてる筈のアンジェラがシェルターで本読んでるのも可笑しいんですがね。
余談ですが前回陰と陽が龍に成ってませんが単に龍になるまでの陰陽玉の間の短時間の出来事だったか、クリフォト抑止力の技術が半端かです。ムラッけたっぷりです。その分E.G.Oやギフト関係や「鏡」関係は本来より発展してます。Aじゃ無いので理解の為の実験数が多くなった影響もありますね。
ゲスト達が魔法少女達と戦っている間の事。僕は掃除屋の本を身を宿して傷の回復を行っていた。
「…ふぅ」
光を取り込み、それを
数少ない回復手段だからあんまり使い切りたくは無いけれど、此処まで来たら惜しんでいる暇は無い。
液体を入れる外装が溶け、終末鳥のE.G.Oに戻る。僕としては余り使いたくは無いけれど、数少ない手札の一つである以上使わなければならない。
「んー!死んだ死んだ!あの人達やっぱり強いわね!特にあの特色の人!」
既に一つ目を乗り越えたか、愛と憎しみの女王が背伸びをしながら本棚の暗闇から出てきた。もうちょっとかかると思ってたけど、予定より早く終わった様だ。…貪欲の王のコンサートに歌う機械を追加で招待するとしよう、それで帳尻は合う筈だ。
「…この世界が生まれるきっかけになった世界の人達だ。そうじゃなきゃ困るよ」
「そう?…ま、あの人にくっ付いてるし、その位はあるわよね……あった。はいこれ」
そう言ってふわふわと辺りを飛んで女王は辺りの本から歌う機械の
「それだけだと足りないわよ?
何回も職員をやって、その中で中央本部に所属していた事も有ったのだろう。
僕の復元とリサの復元の下で働いていた経験からか、何体かの幻想体はこうやって何も言わずとも僕の考えを読み取ってくる事がある。
助かるけれど、こうやって僕もまだ気づいてないミスを先んじて修正する事があって、その時は不気味に思う。
「あんまり喋らないでくれ。いつ聞かれてるかも知らないんだから」
「知ってますよっと。ベテランですし?何なら外郭で司書補やった事あるみたいだし?」
「こら」
口元で指を這わせ、ンーッとした女王が立ち去る。お口にチャックを入れたと言いたいみたいだけど、ここでは一言でも喋り過ぎに成りかねない。本来なら思考するだけでも危ないのに、確実に劇に眼が行っているのが解る時間がどれだけ貴重か…。
そう考える思考を打ち切り、歌う機械と一緒に渡された1.76MHzも一緒に貪欲の王の下へ送る。本が光になって別の空間に移るのを見届けながら、背中の翼に映る景色に意識を集中させる。
終末鳥の討伐によるギフトはクリフォト抑止力のあるL社内や図書館よりも、それらの影響を受けていない外で討伐した方がより強力なギフトを授けられる。代わりにギフトによる精神汚染や扱いにくさはより深刻になるけど、それを飲み込める程度には強力な力だ。
……あの場において、何も出来ず見届けるしかなかった僕にはとても身に余る物だけど、それでもこうしてある以上は使わせて貰うとしよう。
生憎、手段は選べる様な立場では無いのだから。
「審判鳥 罪を見通せ」
翼の肉が蠢く。黄金の光が漏れ、幾つもの視界が蒙を啓く。全ての罪を暴く眼の一つに、1人の男と蒼い髪の少女が写り込んだ。
[アインの家]
「ゆゆしきじたいよ」
蒼い髪の少女はそう言った。舌ったらずに喋り、生まれて一度も切っていない髪は長く、親の白衣でダボダボな姿は一見愛らしく思えるが、よく耳を凝らせば僅かばかりに聴こえる機械音が少女が機械であると主張する。
頭の法律に反した物であり、羽やネズミにとっては関わり合いたくない存在な少女は、続けてこう言った。
「さいきんになって、あいんのおでかけがおおいわ」
「仕事なんじゃ無いかい?」
「だけどこのままではとてもさびしいわ。ひとりはいやよ」
机をタンタンと叩きながら、少女は広く感じる部屋の中で誰とも知らずに抗議した。
そう、少女はアインという人物によって発明された自我を持ったAI、見た目こそ8歳程の少女だが、その心は生まれたての赤子と変わらなかった。
故に今の少女が感じる孤独感は並大抵のものでは無く、未熟だからこそ単純な思考回路は親の存在を探し求めたのだ。
「そもそも、ねぐれくとすることがろんがいよ。あんじぇらぽいんと-10てんよ」
「生み出して置いて放置とは、成程余程大事な用のようだね!所でそのポイントが尽きるとどうなるんだい?」
「ぐれるわ」
誰とも知れずに合いの手がなされ、アンジェラの言葉がツボに入ったのか大きな笑い声が部屋に響く。姿の見えない相談相手は一頻り笑った後、笑われて頰を膨らませたアンジェラに向き直した。
「はっ、はーー、はーー…ああ笑った!笑った!くく、そうかそれは大変だ!そうならないようにしなくてはいけないなぁ!」
「…おわったならかんがえなさい。わらったぶんはかんがえてもらうわよ」
「ああ、いいとも。お姫様の仰せのままにね」
「たのむわ。むちのわたしよりあなたのほうがよりよいこたえにたどりつけるもの」
普段から親しくしているのだろう。友人同士の会話を彷彿とさせるそれに、嫉妬を覚える心をしまって続きを閲覧する。
「んんんーー…考えてみたがここはどうだろう、手料理でも作ってみたらどうだい?」
「りょうり」
「そうだ。充電で済む君は食べる事を知らないだろうけど、見てはいただろう?人は食べる事で生きる。生きるは嬉しい、だから食べるは嬉しい。だからそれを作れば自ずと好かれ、心は君に向くだろうさ」
「こむずかしいわね」
「要するに、プレゼントって事だよ。それも手作りの、たった一つその時だけの…ね?素敵だろ?」
それを聞いたアンジェラは、納得を得たのか感謝を述べた後、椅子から降りて動かし、椅子を台にして冷蔵庫から材料を取り出した。
気づけば窓からは赤い灯りが差し込んでいて、アンジェラは机の上に腕を組んで眠っており、その前には生温いビーフシチューが2つ並んでいた。
先程の会話から逆算してシチューができたのはついさっきであり、机に並べて20分程で眠った事が分かる。誰かの助言があったとはいえ1人で1日かけて作ったのだ。
機械の身体は疲れないが精神は疲れるのだろう。窓を覗けば赤い葉っぱが風に乗って遊んでいる季節で、機械で無ければ風邪でも引いていたに違いなかった。
「…すぅ…すぅ」
僅かな寝息。あたかも人間の様に動くそれは、この様な適当な巣の一軒家には到底相応しく無く、本来であれば外郭の地下深くでも無いと存在する事を許されない物だ。それなのに何故こうして此処で稼動しているかと考えれば、それは制作者が何か取り計らった以外に無い。
気づけばその努力を讃えようと、アンジェラに触れようと手が動き、すり抜けたので降ろして茫然と見続ける。…その眼は全てを見通すが、見え過ぎて我が事の様に共感してしまっていけない。
待てども何も起こらず、思考が取り留めなく散っていく。
僕も全てを知っている訳では無い。
湖の近くに産まれる筈が暗い森の近くで産まれ
都市の研究室にいるべき赤子が正常に育って僕の友達になり
捨てられた人形が成るべき幻想体に捨てた女の子が成り
L社に収容されてから現れる終末が抑止力の無い完全な物で現れ
死ぬ筈のないタイミングでリサとカーリーが死んだ事くらいしか知らない。
何となくこうなる筈だった事を感覚のみか知っていて、既知感の中自身の存在意味に問続ける日々しか送らなかった者に何を期待出来るだろうか。
流れるままに巡り合わせに従って、こうでは無い人を少しでも救いたいと傲慢に願ったのはいつからだったか。
ねじれてからの記憶は曖昧で、相違点を知ったのも図書館で司書になってから。二度目の図書館に辿り着いて始めてこの世界の起源を知った程だ。何人かの囚人よりも遅れてて、何人かの囚人よりかはマシの半端者だ。
結局ずっと地獄を観るだけの観客で、一度も舞台に上がれなかった僕ができる事は、最後まで観る事だけなのだろう。それが少しでも誰かの助けに、叶うなら彼女の助けになれば良いと思う。
ガチャリと扉の開く音がして、足音の方を向けばアインが居た。手にはトランク、頭に会う為の礼装を纏っていて、何か大事な用を済ませた後の様だった。
「………」
アンジェラと並べられたシチューを見て、事の経緯を理解したのか服を脱いで寝ているアンジェラと向かい合う様に座った。
「……頂きます」
二つのシチューが一つになり、空の皿が一つ出来た。
「………ふぁ」
アンジェラの眼が醒める。身体を持ち上げ、身体に被さっていた黒い礼服がずれて落ちた。
いつの間にか寝ていたかと眼を擦り、誰がやったのかと落ちた礼服を椅子にかけ直して空の皿を水につけて置いておく。
無意識にも、仲のいい声からのアドバイスによる行動だった。
はて、何で此処で寝ていたのか、個人の範囲の予算なせいか人らしい記憶の仕方が完成してなく、睡眠を取ると直近の記憶が無くなっていけない。
アンジェラはそのまま最近になって追加された有機物の燃焼発電機能をゆっくりと使い、もう一つ空の空を作って二つの皿を纏めた。今日はもう遅いので明日の朝に片付ける事にしたのだ。
味は感じず、ただ発電するだけの物。使わずとも問題無い機能を何故今使用したのか、その疑問は食べ終わるまでついぞ浮かぶ事なく終わる。
「ふっふーふー、ふっふーん」
鼻歌を歌い、寝室に向かう。
記憶は無い。だが、何故だか機嫌は良かった。
眼の一つを閉じる。それだけでこの記録への観測は終わった。
「……次」
休みなく次の記録を閲覧する。何でもいい、この世界の詰みを打破する情報が一つでも欲しい。見られてない今だけがチャンスだ。
幸せな記録、無意味な記録、辛い記録、苦しい記憶、悲劇の記録、懺悔の記録、後悔の記録。
幸福よりも悲劇や悲しみの方が多い記録を読み解き、自己の記録に複写して蓄える。
ゲストが来て、皆が皆この一度だけの機会を物にしようと動き回る。我が身可愛さでこの世界を続けさせようとする。そうじゃ無いのはあの人くらいだ。
次は無い。良くはならない。ここで終わらせる。なのに、それでもこうしてどうにかしたいと足掻いている。無駄になる事をする。
…ゲストには彼女の為と言ったけれど、それ以外にも目的が無いと言えば嘘になる。本来の方では献身的に犠牲になったこの身で生き足掻くというのは、側から見れば醜く見えるだろう。
それでも
「…どうか」
どうか、それでも僕にも願わせて欲しい。
「どうか、
ここまで前書き。舞台裏の話ですので忘れても構いません。彼もバレたく無いみたいですしね。
1話の最後で宣言してますがこの話は前書きと後書き以外ダンテが描います。
つまりこれは溢れ話。
他者視点、前回のヴェルギリウスや今回のその他や囚人の視点はダンテが聞き取りしてますけどそれ以外は憶測で書かれてます。なので途中聞き取りしている時の会話が混ざる事もあります。
その点は忘れずに閲覧してください。
カロンを置いていく
私はヴェルギリウスとユーリを連れて行く事にした。
今の私が疑心暗鬼になってるだけだとは思うけど、それでも念を入れるのは大事だろう。本人も残りたいと言ってるし、これが最適だろうね?
[カロンを置いていこう]
「…決まったね。カロンさんは此方に座って一緒に待ちましょうか。暇つぶしの相手は僕と幻想体達が勤めます」
「分かった。ちょっと話してくるね」
そう言ってカロンはエノクの方へ歩み寄った。後ろで何か崩れる音がして、見れば道が新しく出現していた。これまでの図書館や貴族の屋敷みたいな風景と違い、研究室や独房を感じさせる道だ。
ヴェルギリウスとユーリが先に入口に入っていく。私も後に続こうとして、
「少し良いでしょうか」
エノクに声をかけられて立ち止まった。どうやらまだやり残した事があるみたい。
「これを。帰り道のリボンで、願えばここに戻れますが一度しか使えません。代わりに勇敢な護衛が連れてってくれるので必ず戻ってこれます」
[…どうしてこれを?]
手のひら程の大きさの赤いリボンをポケットに入れる。きっとエノクはこの先の事を知ってて、必要だと判断したんだろうね。
だけどどうしてここまで私に施すのだろうか。
彼は初めは来ない方が良かったみたいな反応をしてたし、さっきの連戦は次善の策と言った。それで進めるとなったらこれを渡して、きっとこの先には私達が何かしてエノクの利になる物があるんだろうけど、その上で逃走の手段らしき物を渡すとなると…多分だけど、この先に戦闘する機会があるという事だね?
「理由は複数です。この先は行き止まりだから。因果の終着点でこの鏡の世界の全ての始まりでは、帰る手段が無ければもう一度時計を回さなければならないから。…ただし、使うのは最後の最後です。全てを観て、聞いて、理解して下さい」
そこまで言って、エノクは深く深呼吸をした後に私に抱きついて続きを語り始めた。
エノクの翼がまるで大事な人みたいに優しく包む。こうされる覚えは無いけれど、何かあったのだろうか。
…そういえば、連戦の前と後で何だか雰囲気が違っている気がするね?今のエノクは歳を取った老人みたいだ。
「……未知は恐怖を、既知は絶望を創ります。絶望は前に進む足を止めますが、恐怖は諦めず立ち向かえば何とかなる物です」
「恐怖に直面し、未来を創る。…今の貴方に必要な事です。……向かって下さい」
そこまで言ってエノクは私から離れた。私は振り返らずに先に行く事にした。
その時、カチ、という音がした気がして見渡しても何も無い。少しだけ不思議に思いつつ、そう言うこともあるかと気にしない事にした。何が起きても不思議では無いからね?
未知に進む。
囚人の違う鏡の物語X
LCB ムルソー→LCB エノク
[L社 0日目]
眩暈から意識を取り戻す。大量の情報から抜け出し、自己の確立を行う。
『目覚めましたか?では改めて名前を言って下さい』
「…僕は…いや、私はベンジャミンで…違う、ホクマーだった。そうでしたね」
『ええ、その通りです。貴方はこれから記録チームのセフィラとして働いて貰います。拒否は不可能ですので悪しからず』
「…ええ、分かっています」
昔のテレビみたいなズレる視界。機械の身体は錆びついた音を鳴らしている。
『貴方の業務はL社内の時間の運行管理、集積した人員からより優れた者を選び入社させる、実験記録の保存。そして記録チームに収容されるアブノーマリティの管理です』
『まだ記憶が整っていないでしょうし、順に説明しましょう』
私は◻︎◻︎◻︎に憧れついて行き、しかし◻︎◻︎◻︎が死ぬ事に耐えられず気を伺って共に脱しようと…それがアンジェラにバレ、ここまでが決まって…
『まず時間の運行。L社ではより効率よくエネルギー生産する為に社内の時間を通常より100倍早めています。それに異常が発生しないよう保全し、更には管理業務をこなす為に管理人の指示に従って加速・停止して下さい。』
『保全するのは第一TT2、管理人の指示によって加速・停止するのは第二TT2です。もし第一、第二に異常が発生した場合は直ちに第一と第二の間にある第三・第四TT2を稼働し運行の維持を行って下さい。異常の報告は私に行う事。修理の作業工程は私が指示します』
『また、15日後に定期検査が有りますのでマニュアルに従い第三・第四を起動後に第一・第二の運行を停止、2時間以内で点検を行って下さい。作業人員生成用のエンケファリンは前日0時に送りますので到着次第準備を整えて下さい』
…そうだ、私がホクマーとなるのは決まっていた事。しかし既に◻︎◻︎◻︎には嘘に反応するコードは送って……しかしそれは無駄で…
『入社させる人員の基準は優秀で過去にトラウマや瑕疵を持った人物である事。記録チームではこれまでL社が集めた人材の記録がされてあります。現状復旧させ入社させて下さい。既に220名分の候補がこれまでの貴方の努力により挙がっています。管理人には無作為に書類を提示して下さい』
『毎日最低でも50名は審査して採用、不採用を決めて下さい。不採用だとデータは消去されますので慎重に選ぶように』
『また、既に入社した事のある人物は0.01%の確率で前の記憶を所持している事があります。どの回か確認し、5043回より前、或いは1,2003〜1,3471の物なら処分して下さい』
…ああ、それならばせめてこの時間に閉じ込めよう。籠の中ならば鳥は安寧を得られるだろう。
『実験記録は過去に管理人が行ってきた物となっています。そこから活用方法を見つけたならば「お待ちを『管理人はあくまでもXです。性別や容姿が変わっていようと…何故そう成ったのかはマニュアル23-1実験による管理人への影響についてを閲覧して下さい』
『続けましょう。我が社ではアブノーマリティへの実験は積極的に行う方針と成っています。ただ管理するだけでは無く、社員として採用したりクロステストを行うのを歓迎しています。「それは『それはシナリオの方針に合わないとお考えでしょうが、我々は光の種のシナリオとは別にもう一つのシナリオを描いております』
先に答えが返ってくる。何回も繰り返しているのはホクマーとしての情報にあったが、もう一つのシナリオ、その情報は知らない。
『───合わせ鏡のシナリオ。管理人の元となった人物が描いた物です。光の種と並行して行うべきこの世界を存続させる計画。これはそれを成す為の下準備です』
「な──
それは何なのか聞こうとするも、意識が遠のく。
『時間ですね。それでは本日の業務を開始して下さい』
通路を抜ける。血塗れで、或いは誰かの死体が乱雑に捨てられた通路を抜けた先には、沢山の黒いチューブ…K社ホンルに繋がってる管みたいな物…が中央の何色にも見える鎖に巻かれた光に繋がっていて、そこから収容室を模した箱が次々と排出…抽出だろうね?されていく光景が広がっていた。
だが、なによりも眼を引くのは、天井から逆さまに生えている黄金の枝、いや最早樹と評するべき大きさの物が光に向かって逆さまに樹立している事だった。
それはとても美しく、視界を埋め尽くす巨大な滝を見た様な、或いは全ての脅威を跳ね除ける文明の塔を見上げる様な、並べれば数ある宝石が気恥ずかしさでたちまち石になってしまう程の美しい陽日を放つその樹は、無意識に手を伸ばしてしまう程の魅力の暴力だった。
「…これが黄金の枝か。今まで回収されて来たのと比べて随分と大きいな」
ヴェルギリウスが思わずといった感じに言葉を漏らした。そうなるのも無理はない。私でも今すぐにアレに触れたいという衝動に駆られるから、E.G.Oを発現させる程の欲を持っているヴェルギリウスなら尚更欲っしてしまうだろうね?
「ええ、私達が命をかけて創り上げた物よ。凄いでしょ?」
ヴェルギリウスがブレて、その後に金属同士がぶつかった音がする。いつの間にか黄金の枝を後ろに私達の目の前に立っていた彼女は、単眼の仮面を被った赤い霧を纏う存在に護られながら悠々と現れた。
「ハロー!ダンテ。会いたかったわ!」
ニコニコと人好きな笑顔を浮かべた彼女は、鍔迫り合うヴェルギリウスと赤い霧の隣を横目に歩き、私の前に立つ。
ユーリが警戒して剣を構えてはいるが、一瞥もせずに此方に手を差し出した。握手を求めている様だった。
「私はカルメン。これで貴方と私お互いの名前を知ったのだし、今から友達ね!これからよろしく!」
手を差し出さない私の手を無理やり掴んで握手をすると、カルメンは指を鳴らして2つの椅子と1つの机を出して片方の椅子を引いて此方を見る。
どうやら歓迎されている様だった。勢いに流されて座ろうとすると、ユーリに遮られ正気に戻る。何故私はあそこで座ろうとしたのだろうか、こんなに怪しいのだから先ずは距離をとって会話する事から始めるべきだろう。
[いや、遠慮しておくよ]
「そう?それは残念ね。…なら先ずは対話をしましょう!お互いの事を知れば仲良くなれるものよ!」
[それは…]
『管理人、乗ってはいけません。それは彼女が最も得意とする事です。ここは一方的に質問する事が賢明かと。…少なくとも、そのくらいの気概でないと呑まれます』
ユーリの助言で方針を定める。何も仲良くする必要は無い。必要なのはどうやって黄金の枝を持って帰るか、その為に道を譲って貰う必要があり、力では先程から睨み合いとなった赤い霧とヴェルギリウスから無理がある。少しでもヒントになりそうな情報を引き出す必要があるみたい。
…私は『あっち』の囚人であるユーリが、鏡の幻想体の種を植えられた者が出来ているのに違和感を感じるけど、今はそっちを考える時間はないだろうね?
「つれないわね。でもいいわ!そういう始まりもあるものね!それじゃあ、私からいくね。…もしも世界が突然終わる事が分かったら貴方ならどうするかしら?」
[怪物が原因なら倒すし、災害なら少しでも生き残れる道を探るかな。でも、それで私が欲しい物に辿り着けるのなら終わらせる方に加担すると思う]
答えてから乗せられたと気付く。何故だかは知らないけれど、さっきからカルメンとは初めて会った気がしないのだ。昔仲の良かった人と久し振りに出会った気分になる。
「私だったら仲良くなったり、仲間と一緒に何とかしたいって思う。私だけだと何も為せないから、為せる人に任せて自分のやりたい事をしたい」
そこまで話して、カルメンが赤い霧に武器を降ろさせた。戦っても勝ち目が無いので私もヴェルギリウスに武器を降ろすように頼む。言葉はユーリが通訳してくれた。
…『あっち』の私から受け取った情報に間違いがあるみたい。現状と知識が剥離している以上、これは頼るべき物では無いだろうね?
カルメンの隣には赤い霧が、私の後ろにヴェルギリウスが移動した。既に戦闘する空気では無くなっていて、彼女の場を作る上手さに舌を巻く。
[次は私か。何故ここに居る?ユーリの記録からして、カルメンは光に溶け込んでいるはずだ]
喋り方ですぐに分かった。顔を見るのは初めてだけれど、あの声はカルメンの物だね?
時系列的に今肉体を得ているのはおかしなことだったから、先ずはそこから聞いてみる事にした。
「PDA。これ迄に人格の記録を見たでしょ?あれってどうやって通信を届けてると思う?」
質問に質問で返される。憤怒の記憶の欠片で何故作ったのかは知っているが、その仕組み迄は全く考慮していなかった。都市では
「都市ではそんな事考えても仕方ないって考えたでしょ?その通り、だから何かを隠すならそこに組み込めば案外気づかれないのよ?」
思考が読めてるのかと驚くと、顔に出やすいから何となくわかるのよと答えられた。時計のどこに表情あるのだろうね?
「アレはね、旧W社の次元を斬る特異点でミクロな穴を無数に作って、その中にエンケファリンを大量に流して別次元の特定の空間にエンケファリンで満たされた空間を作り、その中を通してデータの通信をしてたの。エンケファリンを囲う膜は次元屈折変異体を利用したわ」
彼、真空を維持するから中に閉じ込めれば重力や囲いを作らなくていいし拡張も手軽だったし、今も良くやってくれてるし本当にいい子よね?
幻想体を利用した仕組みを楽しそうに話してるけど、それは次元屈折変異体が感じる苦痛は考えなかったのだろうね?少し心の距離を離せた気がした。
「知ってる?あの空間ってノイズが酷いのよ!次元屈折変異体も同じで、それをエンケファリンでシャットアウトしつつ通常と同じ空間を設計してーっとと…ごめんなさい、話が逸れたわね」
「勿論PDAはエンケファリンで動くから通信するのが=で充電になるし、別次元を通すから此方の空間の影響を受けずに通信出来る」
「そしてね?L社本部…図書館…領域タイプのねじれ…沢山の情報に汚染されたコギトやエンケファリンは上手く調整すれば特別な空間を作り出せるの」
「丁度、ここみたいにね?」
周囲の景色にノイズが走っているのを、
確かに先程まで認識していなかった事。何処か電子的なそれは、確かにここがその中であると示していた。
カルメンはいたずらが成功した子供の様に笑い、別次元でならお互いのスケールも気にしなくていいのも良いところね。となにやら専門的な利点を補足した。
「私は専門家よ?そのくらいなら出来るし、私が作ったからこそ私はここに在れる。それが答えよ」
そしてここならカーリーも呼べるわ。…E.G.Oだけの、昔の幻影だけどね?
そう言うと隣にいる赤い霧はこくりと頷く。より深く観察するとパワースーツの隙間には空洞があり、中には誰も居なかった。
「まとめると、ここは次元の亀裂の先にあるエンケファリンで満たされた空間の中で創られた、第二の図書館って所ね」
これでなんでカルメンがこうして対面しているかが分かった。此処が何処にあるかも分かったしこの話はここら辺で良さそうだ。次の質問をする事にした。
[…何故、私を此処に連れて来た?何故私達を襲ったんだ?]
「…あら、勘違いしてるわね?
隣にいるユーリを見る。
『…これは私からも言った方が良いですね』
ユーリはそう言って語り始めた。
『先ず、アレの正体は私達のフリをした虚無の道化師です』
「はあ?そりゃどう言う事だよ」
ヒースクリフがそう言うと、各囚人達にも困惑の声が広がりました。
管理人と別れた後、私達はガーネット氏と協力し全囚人を確保、その後3日…私の視点では8時間の経過…で全囚人が本の執筆を完了。この空間内の記憶消失のギミックの無効化を済ませました。
これはその直後の会話となります。
「虚無の道化師、過去に存在したL社の記録では管理してもPE-BOXが精製されない為に再度井戸に戻したと記録されており、脱走した際は大規模な損害を発生させたとあります」
「タロットカード、愚者のカードに類したものと思われるこの幻想体は、残った情報と私の予測から他者の模倣を行い、その者の道筋を辿って知る力を持っています。しかし思慮深く無い為に目的意識は無く、真似た存在の特に強い目的に沿って動く幻想体です」
「幻想体に会えばそれを模倣し暴れ、職員に会えば模倣して目の前の相手を鎮圧する。模倣出来る数に限りは無く、エネミーの数だけ強く厄介になる存在です」
虚無の道化師の説明を済ませました。続いてその幻想体がこの鏡の世界においてどの様な影響を与えたかの解説に移ります。
「『あっち』の囚人が襲ったのはこの幻想体が模倣したものです。『あっち』のまだ無事だった一部の囚人、エズラ/ホンル、ロージャ/ガリオン、シンクレア/ミシェルは自身の人格を無理矢理「こっち」の囚人に移し対処しました。彼らは鏡の世界の住民であり、その存在自体が人格です。「こっち」の囚人に宿り相手がいないなら模倣は不可能となります」
囚人からアンジェラの説明と異なると声が上がりましたが、
“ああ、強襲は人格の侵食率が高くなりすぎたのが原因よ。それを基点にした転移…交換かしらね?使わないならこれは起きないわ”
の説明とは矛盾はしていません。
まず、人格に侵食率はありません。あるのは幻想体の侵蝕確率です。ダンテは画数で億劫になって侵食と書いているでしょうが正しくは侵蝕です。
長い間虚無の道化師が真似た人格を使用した事による暴走、E.G.Oを使わなければ起きない様に使わなければ起きない。たしかに人格ですが虚無の道化師が成り変わった物という説明が省かれてますね。
「斯くして人格と成った虚無の道化師は人格の目的に従い行動する事になります。いつからそうだったのか、それは判断材料が足りませんので確定ではありませんが、ダンテが初めに『あっち』に行った時点で既に囚人の中で1人は汚染されていたと思われます」
そしてこの鏡の世界では幻想体が職員になる事が可能な時期があった以上、人型の幻想体は従来のものよりも多様な力と知能を有しています。そこに記憶を封印し、自身ですら気付かずに演技を続ける方法、或いは本物と融合し気づかれない様に置き換えるやり方を学んでも不思議ではありません。
「そしてこの鏡の世界において囚人に成り代わるというのはとても重大な意味を待つ事になります。そうですね…囚人1人につき1回、合計13回。着地点はランダムであり成功は不確か。但し、必ず
『…それがどうかしたのかしら?囚人が全員集まって気が大きくなった?それとも甘い対応をして舐められてるのかしら』
此方が明言を避けた事による戸惑いと危機感。距離を取ってますが好都合です。
何故虚無の道化師が井戸に戻されておらず、こうして囚人に成り代わる時間を得たのかは…もう一つ前置きを置く必要のある事があります。
…特異点の説明の際、決まって言うべき事が多いのは当然では有りますが、少々手間ですね。そう言う物として流さないのは骨が折れますが、別けるには必要ですから順次やっていきましょう。
「いいえ、情報は共有されて然るべきであり、現在の時刻に証言する事が重要であるからです。我々が貴方の対処をするには深い共鳴が必要ですので」
私がそう言うと、アンジェラは指を鳴らして大量の本を出現させ展開し、色彩を消しモノクロとなりました。
「一から説明しましょう。誤答は気にせずとも問題ありません」
「──ファウストは、全てを知っていますので」
ダンテが不在の為仮指揮官を持っていると判断し各囚人に隊列を組む様に指示しました。
ダンテの本を参照した所緑色の選択が確認できた為プランA通りアンジェラ/虚無の道化師との戦闘を開始します。ここで有った事が自動で書き込まれる特性を利用した連携となりますね。
仮にこれが赤色であれば動くべき時では無い為囚人の方を騙して纏めて死ぬ必要がありました。
「次の前提として、
アンジェラが一度目を瞑り姿が二重にブレました。既に隠す事を諦めた様ですね。ホンルに質問された時よりもやり方が乱雑になっています。
片方が困惑してましたがすぐに一つに戻りました。ユーリと話し合い、ダンテには私が開発した事にしている同時に二つの人格を安全に使う技術を自力で再現するとは。
この技術は従来の人格を使用する際発生する精神の綱引きをダンテが一緒に行う事で軽減していた従来の物から、多重人格者の精神構造を参考にした役割の完全な分担、エンケファリンを少量使用する事で精神の質量を持たせた事による安定性の確保によって複数の人格を扱える様になる物だと聞いております。
『あっち』の人格を持ってくる際、本来LCBのみの所をLCBを中間に様々な人格を扱えたのはこの技術のお陰です。
通常業務の合間に調べていた為にこの技術の詳細は把握仕切れてませんが、間違いなく困難な戦闘になるでしょう。
「隠す必要が無いなら遠慮なくやりましょう。"「魔法」より「声成代理」の技術を引用"」
数ある物語において活躍する魔法、それが技術として落とし込まれ、その体系を構成するものの一つ、「詠唱」を再現した技術でしょうか。
読み上げる事による過程の代行…いえ、成程。どちらかといえば脳の強化施術の一つ、「命令の植え込み」や「脳の植え替え」、契約の「強制順守」に近いですね。
今の虚無の道化師はアンジェラの人格持っている訳ですから、声にする事で強制的に演算をさせているのでしょう。"声"を"成"す事で他に"代理"になって貰う。
魔法を扱えているのは虚無の道化師と関わりのある魔法少女の幻想体から学びましたか。
「同期レベル変更の為
目を開きながらそう発言します。察するに集中する為に眼を瞑る癖がありますね。
それに加え、ここまで何回もそのレベル変更の工程を行っていた事から高いレベルを維持する事が何か虚無の道化師にとって不利になるという事、向こうには制限時間があると見ていいでしょう。
『記録:完全開放戦より引用 歴史─幸せなテディ 技術科学─捨てられた殺人鬼 文学…
「…ファウストさん。戦うのは分かったのですが始める前に一つ良いですか…?」
突然シンクレアが質問をしましたが、許容範囲内の逸脱です。
「手短にお願いします」
「結局…僕に対応してる人格のミッシェルさんの…ろーらんどぅ?って何ですか?」
『芸術─ポーキュバス 自然科学…侵入不可 言語─ノスフェラトゥ 社会科学─オズマ』
「この鏡の世界は無数の欠片で出来ています。なので1人毎に別世界の欠片であり、中には全く別の言語を持つ世界もあり、ミシェル氏はその世界の欠片だったというだけです。恐らく言葉に関係する特異点の翼が堕ちた世界なのでしょうね」
『哲学…「鍵」の突破に失敗 宗教─蒼い星』
最も、それ以上に高い可能性として何も無いの幻想体が皮を被っているだけ、と言うのは…シンクレアの精神安定的に蛇足ですか。
虚無の道化師がこうして収容されて無い以上、ALEPHは完全に管理出来ていない。そういった可能性は切り捨てられませんからね。
その問答に囚人達の張り詰めた空気が緩み始めました。
「へーぇ、一度使ってみたいな〜。僕達が使ったらダンテ〜って言う事になりそうですね」
「はは、いいなそれ。じゃあ俺は時計頭ァ!だな」
「どうせトケトケが精々ですよ。私なら管理人…ですかね」
「ああ!?俺がトケトケならお前はカンカンだろうよ!」
「は?」
『総記…該当階層確認出来ず 心理学…
「上官!上官!…ふむ、次の時に使うか」
「そういえば何でムルソーって翻訳できたの?勘?」
「…対象の発音をそのまま言った」
ムルソーが理解できたのは本を書いた結果「異邦人」が書けた程に「何も無い」と相性が良い精神だったから…これも言わない方が良いでしょう。
『文学・自然科学・哲学・総記・心理学を除き再現開始。同時に失敗した空間の剥奪、自我心道の書き換えを開始』
「うぉ〜…赤い霧の本が消えてしまったでござるぅ…」
「どんま〜いドンキ!これが終わったら一緒に本屋に行って似た様なの探そ?」
「そう言ってどうせディエーチ協会の人格狙いでありましょう!!?この前のN社の時も拙者に缶詰集めをさせたのを忘れたとは言わせませぬ!!!」
「ははは…ごめんごめん。終わったら焼肉奢るからさ、ね?」
ダンテ、あなたは知らないとは思いますが囚人の業務の一つに自身の可能性の追求があります。より多様な人格を効率よく抽出する為の物です。
基本業務には含まれませんが効果のある事が出来たと認められれば褒賞金が給料に追加される仕組みです。星2が5万眼、星3は20万眼、これまでR社やW社を初めに確かな実績のある制度です。
『E.G.O模倣率97.023%…
「良秀さん、集めて来ましたよ〜。これを配れば良いんですね?」
「そんな苦労しなかったが、この光がどう役に立つんだ?」
「食べても何処かへとなれば何ぞやと思ふ」
「ご・配・参。……構えて光を持て。来るぞ」
周囲から色が無くなり、アーチを描く採光の為の窓からは夥しい数のハート、無数の剣に刺されたスペード、人影と融合したダイヤ、幾つもの幻想体の影と重なったクラブを確認出来ます。
アンジェラは鋭利な爪のある熊のぬいぐるみの手を装着しています。
できるだけ早く終える必要がありますね。
『人格適合記録捜索…発見、再登録。同期レベルVI、〖開花 E.G.O::忘却〗』
また遊 んでくれるんだね!
忘れられた人形が無邪気に喜んでいました。
これから行う事から虚無の道化師が抽出したもの全て倒した方が不確定要素が無くなると判断しました。やるべき事を行います。
「何故ループする事になったのか、その原因は最初の方、ダンテの逆回しから始まります」
「…時間か。ダンテ、囚人達の人格を繋げて下さい」
ヴェルギリウスが急に言ってきたが、時間になったみたいに言ってたし…ファウストとの相談の時かもしくは良秀に頼んだ事が原因かもね。取り敢えず鏡屈折鉄道用の編成にしておいた。
「ありがとうございます」
そう言ってヴェルギリウスが後ろに下がった。…あれ?ユーリが膝をついて息切れしてる。何かあったのだろうか。気になるけど今は聞く余裕は無いだろう。
「貴方が鏡を落としてこの世界の時間を巻き戻した時、この世界では今の時刻を起点に僅かに…それこそK社に着いてからバスに戻って落とした程度の時間の巻き戻しが起きた」
『はぁ…はぁ…丁度…そう、私がいた…鏡の欠片の…E.G.Oに開花して…外に出るまでの時間が』
もう一つ前提を追加しましょう。そう言ってカルメンはホワイトボードを取り出して板書を始めた。
辛そうだったのでユーリには丁度ある椅子に座らせておいた。ついでにアンジェラに貰った深緑色の飲み物もあげておいた。ペットボトルに変えておいて良かった…でいいのかな?
『…これ、L社の治癒弾の中身じゃないですか。すみません、ありがとうございます…』
勢いよくごくごくと飲むとびしっと立って元気になった。効果抜群だったみたい。どうやらあの時のアンジェラはしっかりと私達を歓迎してくれていたらしい。
「本来、「鏡」の技術は『自身の奥底に眠る可能性を観測してあったかも知れないいつかを演算し見せる』だけに過ぎなかった」
本当に最初はオモチャ同然だったのよ?カルメンは鏡に立つ人とそれに映る立派な人を書いた。
『それが進歩…いえ、新たに『その可能性を羅針盤に別世界の、本当にそうなった世界に繋がる道を作る』技術、「硝子窓」へと発展します。これはかつて薬指という組織が九人会の発明した「鏡」を研究して創られた特異点です』
鏡から鎖が繋がった鏡を書き足す。鎖の上にはメフィストフェレスが走っていた。
「あくまでも道ね。繋げるだけだったから別の可能性…人格を得るには自ら歩いて取りに行って、戻らなきゃならない。かつての薬指はそれで1万の人格を得た存在を作ろうとしていたみたいだけど、そんなに歩いたら疲れて死ぬわよね?同然上手く行かなかった」
私ならそうなる前にねじれの卵にしちゃうけどね?勿体無いでしょ?
恐ろしいもしもだね?何せ一瞬ヴェルギリウスからすごく殺気を感じた。地雷だったみたい。
「経緯は省きますがその特異点を得た弊社、リンバスカンパニーは既に得ていた技術、『概念的に遠くにある物を引き上げる』技術を搭載していたメフィストフェレスの…「抽出」を利用してより効率的かつ安全な人格の引き上げが可能となりました」
「つまり!管理人様はそれを更に高める!素晴らしい人という事だな!…ふぅーー……勝利の為ならば…」
「今は戦闘に集中した方が良いかと。この戦闘は勝利するでしょう」
ウーティスの言う通りですね。謂わばソナーや地図の役割ではありますが、救命服に似た要素は有ります。
「例えるなら歩きから電車やバスを運行して定期的に乗っていた人物で新しい人がいないか確認する、でしょうね。」
「あー、管理人がガチャじゃんって言ってたあれ?全てを捨て切る事は出来なかった…」
私達が狂気を抱いて行う行為の事ですね。しかし今の例えは理解力の必要値が多くなりますね、別の例えにしましょう。
「もっと深く…貫く様に。ロージャ、その通りです。或いは流れる川に釣瓶の罠をおいてかかった獲物を取る、でもいいでしょう」
「そ・ル。んで、さっきのループ云々とどう繋ぐ?結・誰・ハ」
ダンテ曰くE.G.Oの時に長押し早送りと呼ばれた、E.G.Oを素早く使う訓練の後、皆さん省略して喋る様になって随分と経ちましたが良秀は随分と省略しましたね。その内ムルソーみたいに喋らなくなりそうではあります。
「………………」
「容易な事です。釣瓶の罠で言うならばこの鏡の世界は獲物未満の砂利や稚魚の塊です。かつてイサンと共同して製作した手鏡は、網目が小さ過ぎて目的未満の物で直ぐに埋まり、そして罠から取り出す入口に不備があり取り出す事も出来ずに失敗作として放置されてました」
私はその後をイサンに言う様に促します。この失敗は本人が言う方が精神的損失が少ないと判断した為です。
「…ここからは私が紡ぎけれ。……燃えゆく…そのままに曇り石となるは哀れなれと想いければ、鏡を磨ひて美しきを持たせり。なれば研磨にコギトを塗るべきかとこっそりやれば、いつぞやか鏡に誠美しき樹の芽が育たん」
かつての「鏡」「窓硝子」「釣瓶」を組み合わせた試作品の廃棄を躊躇し私的に保全作業をした所硝子の様に光る樹が映し出されていた。
「鏡が曇ればこの樹は枯れるとなれば尚更や捨て難き。日々家となりし扉を潜れば安眠を貪る床より取り出し眺めき」
この試作品を廃棄するとこの樹が亡くなるとなると愛着が芽生えて捨てられない。なので枕の横に飾って寝る前に見て楽しんだりコギトで手入れをした。
「いつからかドンランが現れり、何ぞやと見れば樹を育てんとする。時に迷う私には尊く眩しけれ。傘を刺さんやとK社の涙の時にこっそり漬かしてご馳走を振る舞おうとせん」
そうしていたらドンランが登場し樹を育てようとしている。当時落ち込んでいた私にはそれがとっても眩い光景に見えたのでお礼にK社の星の涙の時にこっそり浸してみた。
「………こうなれり」
眼を瞑りしゅんとしたイサンに僅かながらに踵の足踏みを増やしましたが問題ありません。
「つまり、この世界は人格に付着した数多の世界の欠片の集合であり、それに『原型に回帰させる』K社の特異点の影響を受けた上でダンテが時間を与えたという事です。片方のみなら今回みたいにはなってませんね」
K社の情報は何か隠そうとしているダンテへのプロファイリングで導きました。
…この調子ならそろそろセブン協会の私の人格が来るでしょう。私の予想では紅茶を飲んでそうですね。あそこは評判のいい紅茶専門店を運営してるみたいですし私なら通います。…一度行ってみたい物です。
ファウストは心理学を始めとする知る為の方法は全て収めていますので隠し事も知っています。
…決して良秀とイサンに煽られたからセブン協会の人格が繋がる可能性を広げようと学んだ訳ではありませんし棚ぼたで辿り着いた訳でもありません。……タンデ、確かにあの時練習相手になったヒースクリフに溜息をつかれましたがあの時はドンキホーテとロージャのイタズラで決して私の資料集めに不備があった訳ではありません。ええ、私が似合う眼鏡の検証をする可能性は存在し得ません。
…来たらきっと人格がつけているメガネをきらーんと輝かせようと思索してるなんてそんな事ある訳
「世界の欠片の原型は世界よ。つまり数多の世界が不完全ながらも復活し、唯一成長を阻害していた
『そこまでなら問題はありません。ただ私達人格がのんびり止まった世界で暮らすだけで済むはずでした』
そういえば、人格は同期レベルを上げると僅かながら…それこそ一呼吸程度動く様になる。私が巻き戻したのなら本来あるはずの無い過去にまで戻ったという事なのだろうか。
『初めに人格が最低限現状を理解する程度の時間が配られ、曲がりなりにもダンテと繋がって同期レベルが上がってその人格を取り囲む場所が増えていき、一つの手鏡に収まっていた為かその欠片同士が合流を果たしたものを私が時系列順に並べた。そうしてこの鏡の世界が誕生しました』
つぎはぎの丸柱の下にLCBのドンランとユーリが出会った場面が描かれた。その上に2人は仲良くチキンを分け合い、更にその上では空を見上げて驚く2人が書かれていた。
「ここでさっきの例え話を思い出しましょうか。この世界は、
絵に新たに幾つもの卵が描かれる。
『稚魚は人格其の物で、私はユーリがLCBに入っていた場合の人格でカルメンはXの元になる人物だった場合のカルメンです。どちらも限りなく低い確率なので成立していなかった物が成立した物。…そんな人格未満と一緒に巻き込まれたもう一つの存在、それが砂利に分類されます』
「そしてここでいう砂利とは何か?そう!それこそが」
「幻想体」
「所で、アブノーマリティの原型って何なのか知ってるかしら」
首を横に振った。
それにしても親切に教えてくれてるが、こういう所が人に好かれるの事の一つなのだろう。管理人として勉強になるね?
「そうなるわよね。んー、L社の分類になるけど…忘失せらるる物語、伝承、口碑、神話─F、強烈な個人的体験、甚だしい恐怖、心の揺さぶり─T、《河》と《海》の境界を越えて、根源不明、自然発生、抽出されたもの─O、他世界からの漂流物、世界の危篤─D」
「原型は幾つか有るけど、その中には人間が由来のものがある。覚えておいて頂戴」
そこまで一息に言って、カルメンは笑っている顔を真剣な物にした。どうやら狂っていても真面目になる程の事らしいね?
「……私がこの世界を認識し、始めに行った事は
…別の話になったね?急に…いや、いつから何故ループしているかの話になったのだろう。いつの間にか脱線していた。…取り敢えずこの話が終わってから修正するとしよう。
「私はそうしたくは無かった。だから一回目の私は最も近くにあり、かつ何とかできる可能性があるものに手をつけた。それがアブノーマリティ、貴方達が幻想体と呼ぶもの。とはいえ、私の欠片は研究所の周りしかなかった。居るのは精々肉の偶像とカーリーのE.G.Oと武器の剣、地獄への急行列車と逆行時計程度だった。」
「ええ、何とかしたわ。私の代わりにコギトの泉になったアインを動力源に外装を地獄への急行列車に、行先を決める部位に逆行時計を嵌め込んで、乗り込む為にカーリーのE.G.Oと武器、丁度良く居たミシェルと新たに作ったエンケファリンでの自動回復装置を組み合わせて祈らせ続ける物を背負ってね?」
どうやら時系列通りに並べる為にだいぶ苦労したみたい。何故ループしているかの話が随分と長くなっているけど、それだけ様々な事が絡み合った末に今に至るからなんだろうね?
「困難な旅になったわ。空間としては欠片同士は繋がっていても時間においてはバラバラで、背骨の無い人みたいなものだった。だから全ての車両に時系列順にその空間の核となる人格を入れていって無理矢理整えた。そして最後に車両の始めと終わりを繋げて、ループする様にした」
…もしかしてカルメンの後ろで輝いている物が動力源なのだろうか。
『人格が持つ空間は人格同士が近くなら一つに纏まります。其々の人格が得た時間も同様です。しかしそれだけではいずれ時間を使い切ってしまいます。なのでカルメンは1人ずつ逆行時計を使う事で何度も同じ時間を繰り返させ、それによってこの世界を完全な物にする為の方法を探させる事にしたんです』
イメージとしては時計の針が一周回ると壊れて別の針が動き、その針が時間盤の模様を変えていく感じだろうか。
カルメンが板書した文には"逆行時計は回した本人が最も平和な時間に周囲含めて飛ばす"、"その際回した者は別の場所、最も安心する場所に飛ばされる"その際回した者はその記録と過去を喪失する"と有った。
鏡の世界も都市なのに違いは無い。その中で世界を存続する手段を探るとなると地獄を観る筈。
ユーリとドンランが出会った絵、始めの方の絵を見る。きっとこの時が一番マシだったんだろうね?
「世界がループするのはこれが原因。逆行時計を使うから記録が消えてその分調べる必要があるけれど、お陰で随分と研究は進んだわ」
[…それで、虚無の道化師は何で私達を襲った?]
「…ああ、話の初めはそれだったわね。ごめんなさい、かなり逸れちゃったわね。…ええと、そうね。それでループしたじゃ無い?そしてこの世界って幻想体が混ざってるじゃ無い?その中でもALEPHクラスになると世界の一部として同化するものもいるのよ」
…何だか流れがおかしくなってきた気がするね?
「…そうなると収容しちゃうと世界のバランスが壊れる訳で…これでも何体か収容は出来たのよ?でも無理なのは居る訳で…特に虚無の道化師はいつの間にかループして進んだ研究を記録する存在になっててね?」
「それで…幻想体って何種類かに別けられて、人型って分類が有るんだけど、その枠組みって涙に漬けた影響がモロにでて人間に成ったのよ」
「正確には戻ったが正しいかしら?人間が由来なら源流に辿れば人間になる。魔弾や殺人鬼が良い例ね。そして虚無の道化師もそうだった」
そういえば愛と憎しみの子は始めは人としての光景で、その後に蛇、収容の流れだった。ループしている以上それが何周目かは分からないけど、幻想体になれば過去に戻ってもそのままなのは間違いなさそうだ。
「魔法少女の道行を辿って、虚無でしか無かった彼は人間に近づいた。そして手鏡に囚われ涙で人間に戻り、同時に魔法少女達と敵対していた時の記憶も思い出した」
魔法少女っていうのはさっき戦った幻想体達の事だろうか。そうだとしたらあれらと同時に戦って対等なのは…相当強いね?
カルメンは道化師→人の間の矢印にバツを書いて←逆向きの物を書いた。
この場合k社の涙に漬けたのは問題ではありません。ダンテに渡るまで問題は起きてませんから。
しかし一度人になった幻想体が元に戻るにはねじれの過程が必要です。
人→ねじれ→幻想体の方向はどうあれ強い感情が必要、高い場所に登るのは降るよりより困難な道となります。
そして時間がループしてもねじれの過程は無い。外部からの影響で人になったから当然ですね。
「そして、記憶を取り戻し協力していた虚無の道化師は、助かる術を知って「こっち」の世界を壊す事に決めました」
正確には『あっち』ではありますが…どちらにしても私達の方を襲うのは変わりませんからこれでいいでしょう。
「…プシュー」
「頑張れドンキホーテ。俺も判らんが何となくで流すんだ」
「…まぁ、優秀な私は理解できますね。ええ、出来てます」
一部の囚人がついていけてませんが問題ありません。理解では無く話した事が重要ですので。むしろ、後で行う記憶処理が省けて良いまであります。
虚無の道化師に関してはこの時点でオズマまで進めました。現在はカボチャを何とかしていますね。向こうはE.G.Oを使えない為かかなり有利に進めてはいます。
「人になった幻想体は人のまま鏡の世界の過去に行くことになる。そして虚無の道化師が周回の記録をしていた様に他の幻想体も一部は記憶を持ち越せました」
幻想体でもコギトやエンケファリンの影響は受けます。同じ由来である為です。故にK社の特異点の影響を受けました。
ですが、それ以外ならば影響を受けない特性を持つものが必ず現れます。人間が由来だからこそ、彼等の特記すべき事は不変と多様性ですから。
「その手段は記憶を持ち越せる幻想体で「こっち」の世界から空間と時間、そして幻想体が補わなくても良くなるまであらゆる記録を集めて再現する事、過去を奪う事でした」
「つまり、お前らとその道化師とやらはグルだったって訳か」
ヴェルギリウスが前に進むけれど、手で制して止めた。やるにはまだ早いだろうね?
[…その奪うっていうのは?]
「もう一度言うけれど、私達は襲撃に関わってないわ。何より、私達からそっちに行くには相当な賭けになるもの。」
『実際、虚無の道化師がそちらに行けたのはダンテ達が虚無の道化師が用意した人格を使い続けたからです。こちらから能動的に行う手段は乏しいですし、アンジェラのフリをした虚無の道化師が貴方達を攫ったのもかなりの人格が消滅しました。次に同じ事をすればこの世界が完全に消える程度には』
どうやら、あの短期間でこの世界にも相当量の損害があったみたい。
「それに加えて7日もすれば貴方達は元の世界に戻れるから、割に合わないわ。…正直、私はこのまま貴方がそこの枝を持って帰ってしまっても構わないと思ってるの」
カルメンはそう言って道を譲った。このまま進めば枝を回収出来そうだ。
…だけど、このまま進んでいいのだろうか。
「さあ、随分と遠回りになっちゃったけど質問には答えたし、私の目的も話したわ。私はこの世界を存続させたい。その為に手段を探して、貴方達が帰った後も何とか出来ないか探す事にするわ。さ、行って来なさい!」
答えは得られた。確かにこのまま枝を回収して、囚人達の所に帰って全てが終わるまで待てばいい。ゆっくりと足を前に進めるが、何かが引っかかる。
“未知は恐怖を、既知は絶望を創ります。絶望は前に進む足を止めますが、恐怖は諦めず立ち向かえば何とかなる物です”
“恐怖に直面し、未来を創る。…今の貴方に必要な事です。……向かって下さい”
“逆に考える事”
この言葉がどうにも気になってしまう。逆に考える…少し考える事にした。
例えば、私だったらカルメンと同じ立場ならどうするだろうか。カルメンは解決する可能性を作り、誰かがその方法を見つける事に期待した。私ならきっとそうはしない。
大きくなったこの鏡の世界が壊れるのは収める容器が小さく、移し替える手段が無いからだ。
その解決方法として虚無の道化師は「こっち」の世界の要素を取り入れて容器が壊れても問題のないレベルまで頑丈にしようとした。
なら、何もそれだけでは無いだろう。ここが抽出の結果ならそれを逆流させてしまえば元の世界に戻れるし、逆に自分以外の全てを壊せばこの世界も小さくなって保てる…
ゆっくり歩く。残り12歩といった所だ。
そう考えると虚無の道化師がやった事は何だ?この世界に私達を連れ込み、盛大に人格を大盤振る舞いした。この世界の足りない所を直して頑丈にするならそれは悪手の筈だ。人格が消えれば空間も時間もその分消える。なら「こっち」に襲撃して回収したものよりも失うものの方が多いこの手段を取るのは不自然だ。
違う目的がある。
ではそれは何か?単純に考えよう。さっき私が思いついた自分以外の全てを壊す…人格の本来の大きさにする行動が一番近い。しかしどれだけ偽装しても侵蝕確率が有った様に幻想体は人格足り得ない。どの道助かるのは人格だけで幻想体はE.G.Oにもなれずに消えるしか無いだろう。
協力元、助けたい人格がいる?
残り10歩。
これ以上深掘りするには別の思考が必要だろう。もう一つ考えるべき事がある。
“男のその後を考えろ”
貪欲な王改めディアスの言葉だ。あの後観たものはアインとアンジェラの道行だ。ここまでの話でアインだと分かったが、彼には幾つか不自然な点がある。
1つ、アンジェラの製作時期、死亡時期、生存時期の矛盾
1つ、優秀である彼が何故どこの翼にも頭にも入らずにいたか
1つ、何故確率変動者の人格の時、彼は先を知ってるかの様な行動ができたか
憤怒の従者の欠片からアンジェラは機械であり、顔の類似性からカルメンを参考にして作られたものだ。しかしアインはカルメンと出会わずにアンジェラを製作している。
そしてアンジェラは煙戦争前のカルメンが研究所で研究していた時に一度殺されているにも関わらずP社のシェルターで本を読んでいた。
虚無の道化師が偽装したという考えも出来るがこの世界でそんな過去を作り出せる様な事が出来るならとっくにここまで大事にはなっていないから考えなくてもいい事だ。
明らかな矛盾。逆行時計で戻り、時間が尽きるまでで過去同士の途中がぶつ切りであったとしても変わった過去の影響で改変が起きる筈。
そうでなければカルメンはこの手段に命運を託す真似はしなかっただろう。もっと別の都合のいい手段を選ぶ。
残り9歩。
では何故こうして矛盾しているか?逆に考えよう。どうすればこの矛盾した光景が出来上がるかを。
まず、レニーの記録、これによると彼女は鏡の技術が幻想体になったみたいな…さっきのカルメンの発言からして、虚無の道化師が何かを模倣したものだ。それが何かは不明だがともあれ、それを逃してしまった。
この記録の塊が外に出て都市に行ったとして、仮にそこでアインと出会えば如何だろう。確率として低いと思うかもしれないが、幻想体は巻き戻した人格とは別枠で記憶を持って過去に行けるのだ。
一度だけの人格と比べて何回も行けるなら居場所くらい知っていてもおかしくは無い。それに虚無の道化師は模倣が得意であり、ならば人混みに紛れるなんて余裕だろう。
そして虚無の道化師はアインに全てを伝え、その結果アンジェラの製作に踏み切った。
これならば何処にも就職せず、先を知っているのかにも説明がつく。
では何故アンジェラを製作したのか?
残り8歩。
虚無の道化師に未来と現状を伝えられてそういった行動をしたなら目的はこの世界の救済だろう。その結果がアンジェラ周りの矛盾した光景だ。
その為には彼なりに考えたやり方の為のリソースと設備を投入しなければならない。しかしこの世界においてそういったもので効果的なのは
…目の前の大きな光はアイン、それも一番最初のアインだ。となるとこう考えてみよう。
アインはどのループでもカルメンに素材にされていた。
なら欲しいのは時間、それも今、私がいる地点に生きて到達出来るまでの…だ。
残り7歩。
なら1番欲しいものは身代わり。それもカルメンを騙せる様な説得力のあるものだ。
ならアンジェラの役割はそれだ。カルメンを騙しこの光の素材なって、そして出来る事なら継続的にカルメンの進む方向を修正できる様な、そんな身代わりが。
この先に進む為の手がかりは既にみつけてある。一番最初の虚無の道化師の自己紹介、恐らくアンジェラと虚無の道化師、両方を含めたもの。
“私はアンジェラ。元L社秘書ないし元図書館館長にして司書、元たった一つの本の所有者にしてアインのセフィラコア、カルメンの影武者にして太古の川を泳ぐ者。ダンテ、貴方の味方よ”
アインのセフィラコア。もしアインと、それこそ何日も一緒に過ごしたAIがいたとして、そのAI部分をクローニングで増やした自身の肉体の脳部分に入れて、AIは、AIとしての自身を忘れる程に忘れやすくして、アインとの関わりの記憶のみを思い出せなくしたとして、果たして、
逆に考える。脳みそだけ人間で全身義体が有りなら、
残り6歩。
そして、仮にだ。
貪欲の記録で、はカルメンは貪欲の王に様々なプレゼントをした。それに王が満足したのなら、形は如何あれ少女の一部が渡された筈。出なければ貪欲を満足させるなんて夢のまた夢だ。
それが
間違いなく満足するだろう。少し機械らしく偽装してしまえばばれることも無い。道化のカルメンはまんまと一番欲しい物を手放した訳だ。
そして、貪欲な王は間違い無く体を与える。脳だけでもエンケファリンを使えば再生可能なのは、既にネツァクとの戦闘で体験済みだ。
こうしてアンジェラは元の体に戻り、アインはまんまと逃げる事が出来た。
しかしこの完全犯罪みたいな事をするにはカルメンに情報を与える虚無の道化師の協力が必要となる。これまでの周回ではこのループを作る為にアインの情報を教えて来たとなると、何か虚無の道化師が協力するに至った何かがある筈だ。
それがどうにも思いつかない。
一体何だろうか。
一歩。
これまで私の後ろに居たユーリが先に進んだ。
残り 5歩。
「さて、ここまでの説明でこのアインという方がどの様に私達と関わるか疑問に思う事でしょう」
「あー、まぁ、そうだな」
グレゴールが生返事ではありますが妥当な反応かと。
私達は無事に戦闘を終えてアンジェラと虚無の道化師に全員で武器を構えていますから。無事に人格を被る事が出来た為に順当な結果ではありますが、何が起きてもいい様に警戒に意識が向いているのは良い事です。
「私はそれよりも何で戦闘になったのかが疑問だけどね〜。説明を聞く限りこの子達って私達の味方何じゃ無い?」
「と・し・に。味方とは言いきれる奴はいねぇ。良くて中立。自分の目的に合うなら協力して、駄目なら殺し合いの関係だろう」
良秀の言葉通りですね。全員が全ての真相を知っている訳ではない以上、自己判断なりの最善手を打ちそれが愚策だったという事は往々に存在します。
ファウストは天才なのでその様な事はありませんが、通常ならその様な事が一度や二度はあると聞いています。
「これらの説明は貴女方に向けて行ったものです。アンジェラ、私の予想では貴女は8周目の終盤に自身以外の全てを壊して助かりたいが為に虚無の道化師を仲間に入れてループを破綻させようとしましたね」
「………はぁ。その通りよ。ご丁寧に脳に巻いたJ社の特異点のパスワードを全て読み上げられた以上誤魔化す事も出来ないわね」
ええ、解析には苦労しましたが無事に読み上げは完了致しました。この程度のセキュリティの突破は容易です。ファウストは天才なので。
「それで、私をどうするつもりかしら?こうなった以上、私にはどうすることも出来ないわ」
「いいえ、アンジェラ。貴女にはやって貰いたい事があります。そのご協力をして頂ければ私達も貴女を解放する事を約束いたします」
「どうだか」
すっかりやさぐれていますね。機嫌を直して貰う必要があるでしよう。
その為には…この質問が良さそうですね。
「アンジェラ、ファウストは天才ですが一つ、不明な出来事があります」
「何かしら?」
「何故、アインは交換のトリックを行って生き残った後、もう一度アンジェラの義体に入ったかです。P社のシェルターに住んでいたのはアインですよね?ファウストは天才ですが何故その様な行動をとったのか理解が及ばないのです」
知っていますがこれが最速であると判断しました。
事実、アンジェラは僅かに得意げに話し始めましたので効果は確認済みです。
「あら、簡単な事よ。良い?此処ではアインも人格よ。そして私も人格。そして人格は貴女達の世界の囚人に対応する立場になる事で、貴女達がこっちに来ている間私達は貴方達の体に降り立つ事が出来る」
「そして、私はこれ迄の9周において囚人の立場だった。アインは囚人の立場になりたかったのよ」
その言葉に囚人達が疑問を流します。
「…んー?私がガリオンさんで…」
「僕はミシェルですね…」
「ねじれ探偵の助手ですね〜。帰ったら一度会いにいっても良いですか?どんな方か気になってたんですよ〜」
「俺ぁ…まあ、後輩…だな。」
「レニーって調べても出てこなかったんだよなぁ。きっと北部で偉い役職の人だろうぜ!」
「キャットとは随分と愛らしい名前でござりますな!猫っぽいのは間違いないでござる!」
「…あ、もしや」
ウーティス、正解です。
カチ
ユーリが通り過ぎる時、自然な動作で私の10の数字盤を叩いた。針の刻む音がする。
…成程、何故虚無の道化師が協力したのかは分からないけど、この後何が起きるかは理解した。
残り4歩。
そういえば、この世界に一番最初に来たのは私だったっけ。なら、そこが狙い目だったのだろうね?
残り3歩。
何でこんなにも思考が回るかも理解した。思えばだいぶ私らしくない思考速度だったし、ここ最近は私らしくない指示の仕方だった。私なら、鎖でさくさくやるやり方が一番合っている。
残り2歩。
[カルメン。私も一つ伝え忘れていた事がある]
カルメンが不思議そうな顔をしたね。ヴェルギリウスも何か違和感を持ったみたい。
残り1歩。
囚人番号
ああ、簡単な話だ。ここは、何処まで行っても「囚人の違う鏡」だった。だったら、それを利用しない手は無い。
0歩。
ぴょんっと飛び立ち、光に触れる。ダンテの時計が巻き戻り、汽笛が鳴り、逆行時計が道行を示す。全てが巻き戻り、地獄の始まりに回帰していく。
さあ、いつもどおりの仕事をしよう。
これをやる為に頑張ったぁ!矛盾してたらごめんねぇ!
ここまで行ったらこれを言うって決めてたぁ!お気に入りと評価お願いしまぁぁす!!
ヴェルギリウスを置いて行けば初めにカーリーに殺されて鏡の世界もループ出来ずに失敗。囚人も死んで全員死亡。
ユーリを置いて行けばダンテとアインは思い出せないまま光に触れてただのループの素材になって「こっち」を犠牲にカルメンと鏡の世界1人勝ち。
カロンを置いて行けばダンテとアインの2人はプ◻︎キ◻︎A!!とばかりの連携でアインが記憶を持って何とかかんとか。
…え?ユーリとヴェルギリウスの選択が違う?……アンケート作る時にガバりました。正直緑色になって良かったと思ってる。反省はしてます。ごめんなさい。
詳しい事仕組みは待て次回。