さぼってた鏡鉄道やってブルアカとか始めてたら遅れました。ごめんね。多分次も時間かかる。
結果は139ターンでした。やる人いないと思うけどX660867452でフレンドサーチすれば証拠が出て…これ証拠になるのかな?まあいいや。廃棄物を見ろとか言ってたらそいつです。
何人か平気で発言がひっくり返ってますが特異点と幾つかの世界の環境が合わさってバグってるのでしょうがない所はあります。
文字通り1人1人に違う世界が視えている状況です。全員自分にとっての正しい判断と発言をしてますがそれが他の視点にとって正しいかは別となります。まるで翼のルールと地区みたいですね。
今回はパソコンだと上手く表示されない所があります。その部分を楽しみたい方はスマホでの閲覧を推奨します。
〖構成人格〗
0.幼少期 ミシェル
1.カルメン研究所 研究員
2.L社セフィラ ホド
3.文学の階 指定司書・開花 E.G.O::「何も無い」
4.裏路地の夜 掃除屋・目 監視者
5.コイン教室 教師・ねじれ 「ピアニスト」
6.大湖の伝説 レーチェル号船長
7.ダロク事務所 フィクサー・薬指 マエストロ
8.捨て犬 リーダー・ツヴァイ協会 南部6課 部長・狼牙工房 代表
9.LCB 囚人番号11
もっといい存在になれる希望を持った子です。全ての周回において新しい事に挑戦し続けてました。
この積み重ねは虚無の道化師から逃げ切る方法を見つける原動力となっていかなる時も彼女を生かし続けています。
がたんごとんと列車が揺れる。私は前の真ん中の席に座っていた。
窓からは夜の都市が映っていて、立ち並ぶ住宅マンションの窓灯りがここが本物であると嘯いている。
この景色が幻想体が見せる幻だとアインは言っていたが、とてもそうは見えない程現実らしさがあった。
時計が秒数を刻む音だけが響く。
私に宿り、ここまでの全ての行動に対して誘導し続けて来たアインの人格は、今はいない。
ついさっきまでやる事も無いから色々と聞いたりしていたけど、電車が折り返し地点についたから下車して行った。『あっち』の記録の活動する空間でやるべき事をしに行くらしい。
私が初めに『あっち』に来た時からずっと私の中で隠れていたそうだ。私が『あっち』に行っている間に様々な用意を…ファウストとこの出来事のシナリオの擦り合わせだとか、『あっち』の囚人の引き込みとか。
ここまで私がやった事といえば、言われた通り業務をしたりダンジョンを回ったり時計を回しただけである。
この後も私のやる事は無いみたいだし、待っていればそれでいいんだって。
それから随分と長い時間をこの列車の中で過ごしたと思う。3ヶ月程だろうか、…ほんの数時間程度かも知れないが、私は揺られながら執筆していた。
アンジェラ…虚無の道化師の助言で書いて本棚に入れた筈の本が何故か手元に有った。黄金の枝の下、鎖に巻かれた光に触れて、気づけばこうして列車の中だ。脱出も試みたけど、後ろの車両以外は閉まっていた。
そして、その後ろの車両を覗いたら手鏡を落とした時の私と『あっち』の囚人達が居たから、多分この列車は全ての周回が一堂に会する場所なのだと思う。会って何が起きるか想像も出来ないからこのまま大人しくしておく事にした。
あの時はここがバスだと思っていたけれど、どうやら列車の中だったみたい。
そんなこんなでやる事も無い私は、こうして本に纏めて此処までの状況を整理した。
改めて文字にすると不自然な所が一杯で、それでも悲劇と屍は積み重なるのは此処が都市由来の場所という証明だった。
[…うーん。試しに書いてみたけど、初めの方を書き直したくなって来たな]
最初の数日は望郷の思いで「こっち」の事を書いていたけれど、改めて書き足したい事が出来た。
幾つか知らない所…ファウストの方では何が起きたのか、カロンの方はどうだったか、あの時ヴェルギリウスはどう考えていたのか、全てが終わったら聞いて何をしていたか書いてみたいね?
どうやら私はこの暇つぶしにすっかりハマってしまったらしい。少なくとも、この話は完成させたいと思う程度には。
[…………はぁ]
吐く息が何処から出たのかも構わずにため息をつく。この先何をすればいいか判らずに現実逃避するのはやめた方がいいだろう。1人だとこうして思考が変な方に流れていけない。
とはいえ、待っていれば戻れるみたいだし、『あっち』の処分もアインがやってくれている。
できる事があるとすれば、精々思い返す程度だろうね?
今回の事で、私は何もする事が出来なかった。強制的になったとはいえ、管理人として不甲斐ないと感じる。
私の視点での出来事はここまで書いた通りだが、そこに人格として今も宿っているアインの視点を付け加えて、改めて此処までの流れを書こう。残りのページが少ないから出来るだけ簡易に…私のノートみたいに書いていこう。
・「こっち」
私が住んでいる都市で、この鏡の世界を内包する「手鏡」もある場所。それ以外で表現するなら、「都市」としか言いようがない。
-『あっち』
イサンがくれた手鏡の中にあった世界。鏡の世界で、幾つもの人格と幻想体の記録を組み合わせた物。
私達が普段指しているW社の世界とか、南部リウ協会の世界とかの人格ストーリーと名前や性質は近いと思うけれど、K社の星の涙と私の影響で色々と別物となってしまった。
元々は人格のなり損ないや幻想体の卵が詰め込まれていたみたい。
-星の涙の影響
K社に来た時にイサンが「手鏡」を「星の涙」に漬けた事でその中にあった人格のなり損ないや幻想体の卵が原型に戻って人間の何かや幻想体になったみたい。
考えてみれば人格の原型は人間だし、幻想体の卵の原型は幻想体だ。私の発想だと人間に戻ったのなら手鏡を壊して人間が飛び出てきそうとしか思いつかなかったけれど、現在の状況からどうやら人格の原型は人間では無く何かしらの情報体だったみたい。
アインの持っていた情報だとその原型に戻った人格は「記録」と呼んでいたみたい。
Lobotomy Corporation社の抽出部門が管理していた物と性質が似ていたから同じ名前にしたそうだ。
-私の影響
私は手鏡を落として壊し、直そうとして巻き戻した。、私の巻き戻しは本来なら囚人に限定した能力で、私としては効くはず無かった物が何故か効いた不思議な状態なのだけれど、アインの情報では「私達は元々囚人の人格として引き上げられた物だから巻き戻しの影響は受ける」んだって。
それにしては囚人は別の人だったし、その別の人の別の可能性な訳だから無茶があると思うけれど、裏技みたいに何とかなっちゃったみたい。何でも「積み重ねた望み」の幻想体が居たのがいけなかったらしい。
-「積み重ねた望み」
アインからどんな幻想体か聞いて、こんな紙を作って貰ったので挟んでおく。移り変わる恐怖と童話の魔法の鏡が合わさった幻想体なんだって。
積み重ねた望み
BLACK 0-4
19
良い 16-19
普通 3-15
悪い 1-2
Ⅰ 普通
Ⅱ 普通
Ⅲ 普通
Ⅳ 普通
Ⅴ 高い
Ⅰ 最高
Ⅱ 最高
Ⅲ 最高
Ⅳ 最高
Ⅴ 最高
Ⅰ 低い
Ⅱ 低い
Ⅲ 低い
Ⅳ 最低
Ⅴ 最低
Ⅰ 最低
Ⅱ 低い
Ⅲ 最高
Ⅳ 低い
Ⅴ 最低
─
煙突(目)
HE
煙突
属性 BLACK
ダメージ 8-15
速度 速い
射程 中距離
HE
煙突
RED(0.8) 耐性
WHITE(0.5) 耐性
BLACK(2.0) 脆弱
PALE(1.0) 普通
この幻想体でF-06-223-01っていうのになった者は止まった時間の中でも動く性質を持ってた。
それがクリフォト抑止力の無い中で活動した場合、巻き戻しすらも無効化してむしろ時間そのものとして取り込む危険性があったそうだ。
そういえばカルメンは『あっち』は幻想体で足りない所を補っていた、って言っていたし、この幻想体が取り込んだ時間をつかってその辺りを補ったみたいだ。
こんな風に沢山の幻想体が「記録」が活動する空間を作り上げたみたい。
-「記録」
今まで『』で書いてきた『あっち』の人達の事だ。普通に喋る事もあるけど、人格を何個も同時に使うと『』で喋る様になるみたい。特に幻想体が関わると一気に個数の判定が増えるんだそうだ。
始めはただの人格未満だったからか他の「記録」から一部の情報を奪って、奪った情報を人格として再構成して自分の過去として取り込む事を本能的に求めてしまうそうだ。
食事に似ているとアインは言っていた。人格がその時その瞬間の情報であるのを逆手にとったんだって。
その奪う行為の為には過去へ行って成り変わる行為が必要で、過去に戻った囚人の中にはこの鏡の世界を存続させる為なのを大義名分に色んな「記録」から情報を奪った子もいるみたい。
-過去へ戻る列車
今私が乗っている過去へ戻る列車だけど、これはカルメンが複数の幻想体を組み合わせて作った物だ。
アインからは「厳密には過去に戻るのでは無く、全ての「記録」の意識の開始地点を一定の地点まで統一して戻す」と教えられたけど、要は何個もある動画のシークバーを煙戦争に合わせた…みたいな感じらしい。
そうして全ての「記録」がお互いに干渉できる空間を「積み重ねた望み」の貯めた時間の分だけ動かして関わり合い、記録を更新する行為なんだって。
私には複雑だけど、私が「こっち」にいる間も列車は動いてたし、そういうものなんだろうね?
カルメンはさも『あっち』が本物の世界である様に語ってたけど、こうして観るとまだ道具の範疇に収まってると感じるから不思議な物だ。
そんな訳でこの列車の役割は記録を合わせる対象から除外される為の分別で、後ろの私と『あっち』の囚人がワイワイしている光景は過ぎた過去、履歴でしか無いんだとか。それでも干渉すれば変化していまうから下手に触らない方が良いそうだ。
「ダンテと囚人には影響は出ない。その周回の俺達と幻想体の生死だけが変わる」らしい。
そしてこの意識のシークバーの操作対象からの除外が主観としては過去への逆行、引いてはループに見えるらしい。
「俺もカルメンも全て同じ事を述べているが、その解釈と言語化で幾らでも変わる。だからこそ、特異点を始めとしたそれらの名前は名付けた者の願いが込められる物だ」との事だし、カルメンもファウストも、今私が感じている事も全て同じなのだろうか。
E.G.O、神備、開花、幾何学的器官の根絶、似通った同じ物でもこれだけ人によって変わるのだ。そういう物だと理解した。
-幾何学的器官の根絶
これはおまけだけど、アインにどういう意味の名前なのか聞いたら
「“人間は考える葦である”聞いた事はあるだろう?過去に存在したブレーズ・パスカルという人物が考えた幾何学的精神と繊細な精神の理論から取った」
「幾何学的精神とは、数学的・論理的に考える能力のことであり、繊細な精神とは、日常的なものごとを直観的に把握する能力の事を指す」
「そして精神は脳にこそ宿り、故に精神は脳、器官として肉体に組み込まれている。幾何学的器官とはあらゆる物事に対する論理性、つまり都市が患っている自身の意思を無視した、役割に殉ずるという病の患部だ」
「故に幾何学的器官の根絶…E.G.Oは扱う事で都市の病に冒された患部と保護するべき繊細な精神を切り分ける武器と防具であり、根絶させる望みである。…少なくとも、これの始まりはそうだったんだ」
なんだって。都市は自分のやりたい事を主張する心…繊細な精神を無視しがちだからそこを何とかしたかったみたい。
ねじれは繊細な精神が肥大化してて、開花したE.G.Oはどちらも併せ持った上で繊細な精神を優先してる状態、どっちにしろ自分のやりたい事に挑戦できてるからカルメンはどっちでもよくて、選択が大事だと考えたアインは開花するべきと考えた。
光の種シナリオはその為に描いた物。彼らの、この鏡の世界で始めにやろうとした内容の概要だ。
-カルメンの目的
この世界を本物にする事。その為に「こっち」の世界を取り込みたかったみたい。
取り込む以外の方法があるならそっちにするつもりだったらしいけど、アインが言うにはそんな物は無いらしいから無いんだろうね?
その為に必要なエンケファリンやW社の特異点や幻想体は整ってたみたいだから、虚無の道化師が私達を襲いマッチポンプで助け出して、ここに来なければそのまま終わってたそうだ。
もしかしたら…というより、ユーリを連れていかなければ間違いなくこうなってた。
-虚無の道化師/アンジェラの目的
自身以外の全てを破壊して人格として生き残る事。その為に何もかも壊して殺して自分だけ生き残ろうとしたらしい。
幻想体の力を借りるのが上手くて8周目の時に仕掛けて大暴れしたんだって。出し抜くのに苦労させられたとアインは言っていた。
もしかしたら、彼女達の願いが叶った道も有ったかも知れない。そうしたら私が彼女の人格を使って戦える様になってたかもね?そう夢を見るのも偶にはいいだろう。
-アインの目的
この世界の情報を全て元の世界に戻す事、逆流させた光の流れを辿ってコギトの川、地の底を流れる河から帰るそうだ。
その為に必要な幻想体の中に「抑制」を補う夢見る流れと「循環」を補うアルリウネがいるから消滅を防いで2回目の図書館まで生存させなきゃいけないんだって。
その後この列車も解体して幻想体に戻して組み直すんだとか。列車が突然止まったら近くの物に捕まった方がいいと言われたし、それまでこうして本でも書きながら待っている事にした。
それにしてもここに来てから私は待ってばっかりだと思う。だけど今回の騒動はどうやら私と囚人達では無く『あっち』の人達が中心になって動いているからこうなっているのも仕方ないのかも知れない。
[…ふう、少し休もうかな]
筆を胸ポケットに刺して本を閉じる。「神曲」と名付けた本から視線を上げて変わらない列車の内装をぼんやりと眺めた。
白と黄色の間の色合いの蛍光灯がチカチカと光り、さも古い時から存在してきた様に振る舞っていた。
[………]
蒙昧な意識の中、ぼんやりとする。今回の騒動は命の危険は普段と変わらず、しかし余りにも理不尽であったと思う。
自分が原因だと言われ、実際その通りだとしても突然始まって勝手に終わる一連の流れがどうにももやもやとした感情を作り出す。
だから何だと言われればそれまでなんだけど、何かできる事があったんじゃ無いかと考えてしまうのは…私が発端を作った事に対する罪悪感なんだろうか、…違う様な気もする。
何となくだけど、この罪悪感に身を任せると狂気に呑まれそうな気がする。…そういえばアインはここは図書館と同じく感情を高める力があるから、感情を増幅してねじれたく無いなら分別する理性を持った方がいいと言ってたっけ。
[…そういえば]
一つ、考えてなかった事がある。ここまで沢山思考を巡らせた訳だけど、私についてはまだそんなに考えてなかった。
アイン、アンジェラ、この鏡の世界、何故こうなったか、何故一部の囚人に人格が侵蝕されていたか、教わった事の方が多いけど、これに関しては誰にも聞けるものではなかったから分からずじまいだ。
まず違和感は
不思議な話だ。何も私とヴェルギリウスとカロンだけで先に行かせる必要は無い。
ここまでの流れで私がアインの計画通りに動けばいいのなら、確実を期して囚人全員揃えてから揃って出発させればいいし、誘導するなら、やっぱり一緒に動いていた方がいい。
手分けしてやる必要があった。時間制限があった。そう考えるのは簡単だけど、ここは区切りがよくてやっと進む場所だ。
同時じゃなくて一つずつでも、こなしたタスク量に依存した時間の進みだから何も別ける必要は無い。
そもそも、ヴェルギリウスを動かす事態が異常なのでそうする必要があった何かがあるというのは間違いない。
…そういえば、ファウストは私のやれる事の根幹を何か弄ったような発言をしていたけど、私にはそれに関する記憶と見覚えが無い。そもそもこの力に手を加える事ってできるのだろうか。ファウストならやれそうだけど、修めた学問とか、分野が違う様に感じる。
…特異点に関して詳しくは無いけど、私の能力を技術に落とし込めるなら私は要らないだろうし、私が管理人をしている限りファウストにその技術に関した物はない筈だ。
それに幾つか教えてくれてもいい情報を濁したりもしたし、含みのある行動だった。隠し事だって、まるで私がダンテでは無いみたいな隠し方だったし……これだけでは足りないな。
…私が貪欲な王との戦いで混乱した時、私は自分以外で2人見た事。幻覚だと思ってたけど、アインとこの列車で対面した時に見覚えがあったから、あの時間違いなく自身の内側を見れていた。
1人はアインだ。だが、
…仮にもう1人の私がいるとしてだ。いつからいて、どの様な経緯でそこに居たのか、今もいるのかも不明となると…これもまた、思考を重ねる必要があるだろうね?
仮定としてあげるなら、だ。
1、私はこの鏡の世界の人格/記録としてのダンテである。
2、私はファウスト/アイン/カルメン/アンジェラに造られたダンテと思い込んでいる機械である。
3、時計を巻き戻した時に鏡の世界に入り込んだダンテの入れ物が意思を持った。
4、以上の3つの説の「私」が「もう1人」だった場合
概ねこれらだろう。細かい違いのある説もあるが、大枠ならこれで大体の可能性は網羅できる。
まず、私の感覚としては4つ目以外はどの説にも掠ってそうとしか言えない。感覚として感じる部分を別けて仮説として提唱したのだから当然ではあるが、一つずつ考えてみるとしよう。
1つ目は私が「あっち」の記録を持っているだけの人格であるという説だ。この説が最もあり得そうではあるが、ファウストが私に隠し事をする理由とするには弱いだろうね?
一応、この人格がある事は確認出来ている。少なくとも8周目からはアンジェラやアインに取って代わられたけど、その前なら私が鏡の人格としてそこにいた筈だ。
立場を取られた人格がどうなるかは知らないが、この鏡の世界なら過去に遡れば分かることだろうね?何ならこの列車の後ろの扉を進み続ければ分かることだ。碌な事になりそうにないから、やるならどうしようもない時だ。
2つ目と3つ目はファウストが私に隠し事をした理由として強い物だ。
2つ目なら作った存在に有利に動くのを危惧して、3つ目なら「本物」が人質になっている事に気付かせない為に。
造られた存在はその意思に反して造物者に有利になる様に動く事を強制される。もし私がカルメンみたいな自滅的な救済を求めた場合、情報は何よりも与えてはいけないだろう。
そして私は貪欲の王の時の混乱まで居ることにすら気付かなかった訳だから、直接言及しなければ問題ない。
もしも私が気づいてこの泥舟の世界から脱する為に「本物」と入れ替わろうとするのを危惧して気づく為の情報を与えるのは、これも2つ目と同じく危険な事だ。嘘をついてでも誤魔化して、万が一の策を用意する必要がある。
その為の人員として囚人達の戦力や数が必要になった場合、ヴェルギリウスを付けて護衛はいるとアピールして誤魔化して、非戦闘員のカロンをその近くに置くのは何も間違えては無いだろうね?
私がエノクに辿り着かなければずっと廊下を歩いていた事を考えれば、成程合理的な策だと思う。
…考えてみたが、決定的な証拠が無いから結論を出すには難しいね?
疑い穿つ見方をすればこういう解釈も出来るってだけだから、決めつけるにはどうにも煮えくらない。
これが利権の絡んだ時の都市の日常なのだろうかと感じるばかりで、なるほど、暗殺の仕事が尽きない訳だと感心すらする。
正直、何人もの思惑が絡み過ぎて全てを理解するのは私では無理だろうね?
[考えても仕方ないか…そういえば、今はどの辺りかな]
座ってばかりで凝った体をほぐすついでに、後ろの扉に付いている硝子窓を覗き込む。図書館に行く前はこの位置に扉や窓は無かったけど、列車を動かしたから変わったみたいだった。
観る私がガリオンに聞く前の、『あっち』の都市について詳しい人が誰か尋ねる所だ。
今にして思えば、14日の光は幻想体が貯めた可能性そのものなんだろうね。その中であればどんな人格の持った空間でも再現出来るし、時間も戻る分と進む分で28日、大体1ヶ月の再現、記録の活動できる空間が作られるという訳だ。
あの図書館から考えて、次元屈折変異体が貯蔵庫みたいな役割を担ってたんじゃ無いかと推測は出来るけど…これも考えてもしょうがないだろうね?
[ミシェル、ちよっといいかな]
「今ですか?勿論いいですよ!』
[囚人の中にこの都市について詳しい人っている?]
呑気な事だと思う。今まさに大変な事が起きてる中で全く気づいていなかったのだから。
例え過去の光景だとしても、あれこれが起きていると言ってやりたかった。
そうしていると、私が覗いている扉のすぐ横の壁にアルガリア…ヴェルギリウスと同じ立場に就いた人格…が寄っかかった。
「俺はさ、今自分が立っている船底をくり抜いて、腹に穴が空くまで泳ぎ続けたいんだけど、そうすると正しい事でしかなくなっちゃうからさ。困ってたんだよ」
…話しかけられてるのか判断しかねた。
「だってそうだろ?奇跡的な歯車の音色が折り重なって産まれた砂屑が自ら降りるんだから、自分のしたい事以上にただ沈黙するだけになる」
「ハハハ、都市ってよくできてるよなぁ。運転手である君はいつだって自由で行きたい所に行けるのに、進める道その物を歪めて逆さまに落とすんだから」
「理不尽じゃないか。やりたい事も決められて、選択はある様で与えられた物しか無いんだ」
「そして何よりも理不尽なのはさ、俺もその1人に過ぎないって事なんだよ」
青い光が視界の隅を横切り、一瞬の時間。身体から自分自身が抜き取られる感覚の後、光を伝って扉についた窓から『あっち』の車両の中に取り込まれた。
すり抜けた窓の方を見るけれど、そこには壁があるだけで、後戻りできない事だけが確かだった。
[いったい何が起きて…]
『───それを尋ねるのは無知な愚者よりも堕ちた獣と相違無い事だ』
聞き覚えのある話。小さな真四角の、鏡みたいな小窓からガリオンの声がら聞こえる。
いつかの私に語りかけているもの。だけど、何故だか断片的に聞こえるそれは確かに私に語りかけていた。
アルガリアがゆっくりと歩いていたのを止める。
「どうしたんだ?まるで閉じ込められたみたいな困惑じゃないか。ハハ、心配しなくていいよ。管理人、君をちょっとだけ取っただけで主体は10番目の所だから、君はいつ消えてもいい。安心してくれよ」
「それとも、何で俺が君を認知できてるかを聞きたいのかい?残念だ、それは──」
『───それを語るには余りにも多くの血が必要となるし、何より今すぐに君達の道行を終わらせる必要が出てくる。…私はその景色を是非とも眺めたい所だが』
戒める様な声が聞こえる。背を向けた過去の私はこちらに気づいた様子は無いけれど、ガリオンは此方を見つめていた。
「いえ、貴婦人。俺もそこは弁えますよ。ですからどうか、この旅は見物に留めて下さい。折角の見送り何ですから」
『フフ…賢い犬は私の好みでは無いが、愚かにも手を出す猫よりは長生きするものだ。都市ではどちらも人の獲物に過ぎずとも主菜か副菜かは選べる物、きっと君はCよりも長生きするとも』
「恐縮と、感謝を」
アルガリアは青い光となって過去の私を過ぎ去り、裏口の扉を開けた。
今まで『あっち』に行く時に必ず通っていた道、錆びた鉄扉は音もなく開き、私を携えた案内人を向かい入れた。
何処かの路地裏の景色、血に濡れた夜の暗がりに続く道を迷いなく進む。
何も分からず、ただ流れて行くままに連れられた私は、ただ不気味な程に静かな道の後ろ、錆びた鉄扉が忽然と消えた光景をただ見つめるしかなかった。
囚人の違う鏡の物語XI
LCB シンクレア→LCB ミシェル
[8番目の活動場「
どさり
仲間の1人が倒れる音だ。
「くそが!ツイてねぇ!」
皮膚に刻み込んだ改造施術が紫色に輝き、力が増した殴りも碌に効きやしない。
「仲間になりましょう!なりましょう!ツヴァイ協会!私の下に!力を!私は正しいんです!それを否定した!これは必然ですよ!指示に従って下さい!罰を与えましょう!」
「エリヤァ!このくそアマが!」
真っ黒な盾と剣を携えて、古代に居たっていう騎士みてぇに突撃してくるツヴァイ協会のドベの親玉が、剣を払う度に仲間がまた一人と倒れていく。
初めはこうでは無かった。元々部長の席にいた奴が死んで繰り上がったからだろうな。
上に立つ風格も無くしどろもどろで仲間になろう、協力し合えると言ってきた時は笑って俺たち捨て犬がより上に成り上がる為の踏み台として精々活用してやろうとしか思わなかった。
変わったのはいつだったか、そうだ。最近続いている白夜、それに晒されてたからかそこらに転がっていたネズミがでっけぇ緑の液体で出来た蓑虫になって、暴れてたから協力してぶっ潰した時からか。
それ以来、あいつは狂った様に誰かの為だの、私の指示が全部正しいだのほざき始めて反抗する奴を殺していったんだ。
「罰を!罪を!償って償って償って償って償って!!私の元に辿り着いて!仰ぎましょう!」
「くどい!」
仲間の1人が死にかけの身体を引き摺ってあいつの足に纏わり付いた。意識をそっちに向けた瞬間、増強した脚力で一飛びにあいつの盾よりも内側に滑り込んで、衝撃が逃げない様に片手で抑えて殴り続けた。
鼻を曲げて、目を潰し、歯を飛ばして、骨にヒビを入れる。何度も殴ってわかった事は、こいつは見た目より頑丈で、この攻撃では致命傷にはなんねぇ事だ。
上に向かって飛び、地面を擦って勢いを殺して着地する。さっきまでいた場所には、自分に向けて剣を刺しているエリヤの姿だ。
あそこで殴り続けてたら一緒に串刺しだっただろうな。
「…おいおい、お構いなしか?」
「…は…は!いい勘ですね!素晴らしい!どうでしょう、ツヴァイ協会に入りませんか?ミシェル、あなたなら直ぐにエースになれますよ!給料だって弾みます!貴女が入ればここの地区は安泰ですよ!」
正気を疑った。この気に及んでまだ取り入れると考えているらしい。私の仲間を殺しておいて、私の今までの積み重ねを消しとばして、私の事を知りもしないで、まだ仲良くなれると、頭に花畑を作ってた様だ。
「断る!私は私の力で成り上がる!…約束なんだよ、そうするって決めてんだ、テメェみてぇなふざけた奴のお溢れなんざを食うほど、落ちぶれてねぇ!」
意地だ。今はそこらで転がっている仲間達との約束だった。私がそこまで連れて行くと約束した。
あいつらはきっと本気にはしてねぇだろうが、私なりに譲りたくねぇ一線だ。
…分かってる。本当なら、ここは了承するのが正解だ。ここで勝った所で残るのは捨て犬一匹、群れてねぇ捨て犬なんざ何匹もネズミが集れば死ぬ程度の安い命だ。
殴れば切り傷を作る指輪、地面に叩きつければよく跳ねて伸びる鎖、改造して増した筋肉と骨、瞬間的に威力を上げる紋様、金は掛けている。其処らの雑魚共には負けねぇ。
だが、数に負ける。より強い個に負ける。夜の掃除屋に負ける。強い怪物に負ける。
何より、この都市は弱った奴を助けない。傷の数だけ喰われる。盗られる。いい様に扱われる。
生き残るなら、ここは苦渋であっても頷くべきだった。そうしなかったのは、単にここ最近の白夜の影響か、脳にこびり付いた表現しようのない後悔か、どうでもいい。今はただ、アイツを殺す。それで十分だ。
「そうですか…なら脳を施術させますね!知り合いにそういうのが得意な人がいるんです!」
胸に刺さった剣を抜き、中段に構えたのを観ながら隙を探る。感情のまま殴りにいけば死ぬのはここまでの殺し合いで理解していた。下手な交戦はダメだ。アイツは競い合いに勝つ程傷が癒えていく。確実に一合ずつ勝っていかなきゃジリ貧だ。何か、周りに活用できるもんは…
全力の跳躍。転がりながらより遠くの路地裏に身を投げる。
思考より早い行動。不利だったから、弱者の戦い方をしようとしたからこそ先に気づいた。背後から青い光が見える。振り返らずに走り続けた。
「〜〜〜!!青い残響!」
きっと今の私の速さは、青い残響にとっては欠伸が出るほど遅いだろう。だが、それは逃げない理由にも、理不尽な災害から身を守らない理由にもならない。
「……クソが!」
きっと今頃、アイツは青い残響の余興か何かに付き合わされてるんだろう。何が目的か、考えるだけ無駄であったが、それでも逃げるしか出来ない自身の不甲斐なさに悪態が漏れる。
雨が降ってきた。運がいい。視界が悪くなればより見つかりづらくなる。
アスファルトに溜まった水溜りにも気にせず走ろうとして、水の流れにふと思いついて流れを辿る様に走った。
「…よし、マンホール!思った通りだ!」
考えた通り、マンホールがあったので蓋を開けて中に隠れる。下までは行かずに途中のはじこに捕まって時間が過ぎるのを待つ。下には行かない。今は昼だから掃除屋はこの下の下水道に潜んでいる筈だし、其処を歩ける奴は怪物か何か事情のある一級以上のフィクサーだ。出会ったら殺される。
……歯を食いしばった。苛立ちに任せて濡れた髪をぐしゃぐしゃにする。
ただ、今の自分が不甲斐なかった。仇を討つことも出来ずに逃げて、強者に怯えて隠れて、無様な弱者のそれだ。弱かった時の、まだ私がネズミだった時の戦い方をやろうとして生き残った事がやりよりもその事を証明していた。
ただ、横で流れる水に映る自分の姿が情けなかった。
マンホールの蓋を開けて、外に出た。雨は止んだいた。
アイツと戦っていた廃墟の中に戻り、アイツの死体を見つけた。
近くには開けられた封筒が新しくあり、身体には無数の切り傷や刺し傷でいっぱいになっている。真新しい死体で、頬を触れるとまだ生温かった。
…特級相手への健闘を称えて、憎くはあったがせめてもの情けに開ききっていた瞼を下ろし、剣と盾、身分証に髪と心臓、身ぐるみを剥がしてから死体を埋める。心臓がくり抜かれ、真裸ではあったが、それでもこの都市では埋葬されるだけまだマシな末路だ。
私にも明日が必要だったから、しょうがない。
死んだ仲間達は放っておく。その内ネズミ共が全部持って行き、そうしてまた新たな犬が誕生し、この地を収めるだろう。この都市では自然な摂理だった。
「……あそこを…ああいって…ここか」
元々は心臓持ち込み専門の、知ってる店に行こうと考えていた。
アイツ…いや、エリヤの持っていた財布に入っていた名刺を頼りに工房を訪ねて、私の遺伝子にエリヤのものを付け足し、かつての「経験」の特異点、その残骸の技術も併用して脳に剣と盾の経験を注いだ。脳を取り扱う工房は、大抵こういう事が出来ると知っていたからそうした。
鏡を見る。元より同じ女性で、髪も同じ茶色ではあった。そこまで同じなら、少し手を加えれば簡単に同じ見た目になれる。違うとすればこの皮膚に刻み込んだ紋様とアクセサリーくらいだろう。
何処かの翼の管理下ではそういうのは禁止だと聞いたが、ここでは違う。なら、成り代わるくらい容易だった。
「…ふぅ。私は…エリヤ。これからは、エリヤ。少なくとも、「私」になれるまで、貰うぞ…ますよ」
何故こうしたか。立ち向かった相手に憧れたか、こうした方が成り上がる近道だからか…今すぐに答えを出すには、難しい事だ。
どうであれ、この都市で私はどんな手を使ってでもより高みを目指すと決めた。ただの捨て犬が最高に成功するなら、それは何よりもアイツらへの手向けにもなる。今の私には、その夢で十分だった。その為にも、まずは金がいるだろう。
そこまで考えてから、椅子を引いて伸びをする。既に夜となり、この部署に居るのは私だけだ。
部下達は全員帰らせた。曲がりなりにも他者の立場を奪い取った以上、捨て犬の時の舎弟どもよりも大切に、死なないよう努力する必要があった。もし過労や疲労で戦闘時に失敗して死ぬなんてあれば、この黒い盾と剣が黙ってはいないだろう。
まあ、それは護るべき住人を食い物にしている奴が言えたことでは無いのだが。だが、長くここに居るほどバレる可能性が上がる以上、ここが私の手の届く範囲だ。…つくづくまだエリヤには届いていない自分に落胆する。
ため息を吐き、オフィスの窓を見る。
ツヴァイ協会の服を着た、エリヤに似せた顔は酷く疲れ果てていて、クマが酷く眼も濁っていた。
それから、私の企みは驚くほど簡単に運んだ。職権を濫用して金と人を自分の思うがままに利用して、上には媚びて眼を瞑らせ、護るべき住民をその手の業者に売って金にして、あらゆる方法で金を集めた。
そうして適当な巣に一生暮らせるだけの金が集まり、その頃にもなると高みを目指すという夢にも具体性が出来て、自分の工房をもってみたいと思う様になった。
脈絡の無い夢ではあったが、昔から武器には拘っていたし、捨て犬の頃はいい武器を持つのが密かな夢だったのだ。ツヴァイ協会に勤めた時だってこの剣と盾には何度も助けられたし、そうなってくると自然と愛着や興味も向いてくる。
思い立ったが吉日と、何日もかけて念入りに汚職やらの痕跡を消し、顔を戻して引き継ぎを済ませ、退職し高級工房に弟子入りを志願した。
何十も訪ね歩いた末に弟子入り出来たのは狼牙工房。金属とある怪物の骨を合わせた短剣、切り口という一点のみで再生や回復を妨害し血を流す事を強制する武器の工房だ。
「ミシェルと言います!至らない所もありますがいち早く皆様と並び立ちたいと考えてます!よろしくお願いします!!」
工房では作業中、音で声が聞こえないなんて事はよくある。だからなるべく大きな声を出した。
何人か拍手し、作業に戻って行く。それから私も先輩の1人に着いて行き業務を覚えていった。
「…これ、んでこれを一緒に熱して、163分真空の中で熱を引かせて、そしたら表面をやすりで均等にする。誤差は1nmまで。「均等」のそれ使ってもいいけど手作業の方が強くなるからやする感覚は絶対に覚えて。そしたらこの骨を液状になるまで砕いたのを刃先の表面に…」
「わかりました先輩!」
最初は武器の製作。素材の取り扱い、加工に始まり何処かからとってきたかつての翼の特異点の扱いや手作業の仕方、用語の解説にブランドにする為の戦闘に支障の出ない程度のデザインのやり方。
作業機器の手入れに点検、備品の管理に測定の仕方。現代になっても専門の人がいる所以を知った。
「次に素材ね。ウチは都市の地下にある遺跡で見つけた鉱脈とそこに居た怪物の骨を合わせて作ってるから、戦闘必須よ。自信は?」
「2級フィクサー程度は!」
「上等。流石準即戦力で入った新人だね。じゃあいつもはあそこのエレベーター乗るんだけど、万が一ってあるからさ、緊急時に帰れる様に今回は徒歩ね。道をおぼえつつ歩きで下に行こう。帰りはエレベーター使っていいから。」
「はい!」
素材採取。この工房の秘密の採取場への道を知り、人以外との戦闘をする。それぞれの怪物の対処法、休息出来る場所、近道や遠回りの道、武器を紛失に始まり様々な条件下での生存方法、武器を創るまでの事の大変さを知った。
「事務作業、面倒いけど顧客の要望とかクレームとか、宣伝に新人採用、会計に税の計算、予算の調整、人材評価に連絡報告相談対応、死んだ奴の親族関係の精算、新しい武器の品評会への参加やそういったイベントの開催、なにをするにも他のとこと連携しないといけないからやってる。うちも他の工房の例に漏れず秘匿する事沢山あるから信用できる人でこういったのは固めておかないといけないからさ、こっち専門の部長いるから細かいのは向こうがやってくれる。うちらは出来るだけ面倒なもの回さない様に努力するのがここらの仕事」
「…頑張ります!」
事務処理。社会で活動する集団には切っても切れない物だ。捨て犬だった頃は無縁だったが、ツヴァイ協会の時に如何に重要な事であるかを実感させられた。ここでは武器創った上でどうすれば商品になるかが詰まっていた。
「詰め込みになったけど、基本この3つのサイクルを繰り返して工房を発展させる。どれも欠かす事の出来ない重要な物だ。全て均等に覚えてもいいけど、出来ればどれか一つは一週間で人に教えられるくらいにはなってて欲しい。足りない事は他の出来る人に任せる方が早いからね。任せられる様になりな。出来るは武器になるからさ」
「ご指導ありがとうございました!」
そうして私はこの工房で働き、その末に代表になった。
それまでに様々な事があった。
遺跡の鉱脈から暴走する遺産が現れて世話になった先輩が死んだ。
神備なる新たな製法が確立され、過去の武器として工房倒産の危機に瀕した。
地殻変動で遺跡への道が途絶えたり、骨用の怪物が完全に死んだりもした。
だが、その度に私はかつての私の憧れを裏切らない為に努力を重ねてその困難を乗り越えてみせた。そうして遂に私は狼牙工房の代表として立てるほどになった。
…そうだ、ここまで、完全な努力だけの成果で、報われて然るべきなのに…
「これは…ないんじゃねぇの?」
荒らされた工房。ウチの武器の傷で死んだ作業員達、ちかりちかりと、壊れ掛けた電球だけが頼りの夜に、蒼い化け物がいた。
『…あら、まだ生きていたのね』
「は、この工房の代表何だ。そのくれぇねぇとなぁ」
とはいえ、既に私も死にかけだ。足は赤い花びらになって散らばり、心臓には植物の蔦に巻かれた木製の槍に貫かれている。これではもう少しもすれば死ぬだろう。
「…最後によう、一つ聞くんだが、その武器、何処で手に入れた?」
『…そう、最後まで職人として……現実から眼を逸らして理想を語るのだけはいつになっても得意よね、あなたは』
何をわからねぇ事を。それよりもその武器について早く教えて欲しい。そんで学んで次に活かす。何がなんでも、いつだってこういうのは乗り越えてきたんだ。だからこそこれは早さが重要だとすぐに気づいた。
新たな製法、新たな素材、新たな顧客、いつだって新しい物はいち早く齧り付いたものが勝者になってきた。これはその類だ。真新しい新鮮な技術の匂い、今が死にかけであろうとも、これだけは譲る事は出来そうに無かった。
『…その傲慢さに免じて教えてあげるわ。…その前に、そうね…』
蒼い化け物はそう言って心臓を貫いていた槍を抜く。空いた通り道から血が止めどなく溢れ、手先から冷たくなるのを実感できた。
血が溢れ、溢れ、血溜まりが出来て尚尽きず、違和感を感じた。
…なんで私の血は尽きないんだ?
『
覚えは
服が、装いが変わる。鎖と指輪で飾り、紋様が活性化する。狼牙の武器が崩れ落ちて代わりに黒い盾と剣を構えた。
「ああ…そうだったなぁ。そういや私は捨て犬でツヴァイ協会の部長だったんだっけか」
『それで質問の答えだけれど、簡単な事よ。〖ロボトミーE.G.O::喜び〗を右腕だけ纏った。生憎本物のE.G.Oは
「それだけわかったら十分だ。今なら負ける気がしねぇし、やろうか」
息を整え、戦闘前の準備を終える。血が滾り、傷がゆっくりと塞がっていくのが実感できた。
一歩踏み込み、互いの剣と蔦の槍が競い合う。4合打ち合った後、胴を狙われた物は盾で防ぎ、足を狙われればより踏み込んで柄の所まで進む。衝撃で体勢が崩れない様紋様を使って瞬間的に増した力で地面に足をめり込ませて踏ん張り、関節を狙って剣を突き刺した。
半分が機械で出来た相手だから、下手に頑丈な機械の部位で攻撃が無駄にならない様にするための、人と機械共通の弱点を狙った。
そのまま胴に深く傷を作ろうとして手を離し、蒼い化け物は左手に創った白と黒の銃で私に撃ち込む。葬式で聞く様なチーンという音が反響し、蝶が舞った。
あぶなかった。何発撃てるかも不明の拳銃。工房で過ごした経験が、弾を込める場所がない事に気付かせ無ければ押し切ろうとしてそのまま銃弾の雨で死んでいた。こういう武器は大抵1発が凄まじいかそもそも「次元」の特異点で造られた弾倉で何百も貯められている。
翼の社内のみで扱うといった事であればそういう違法な武器がある。
工房では酒のつまみの噺として使い古された噂に過ぎない情報。仮に本当なら、見つかれば都市の差配者である頭の爪によって消されるだろう。
だが、それでも作る者が後を経たないからこそ、頭の規則があって、私達はそれに従う。
ロボトミーと化け物は言った。つまり出所はL社、そしてご立派な何処の工房や翼が作ったかも知れない物を出したなら、噂であっても警戒に値する。
それが正しいかは、何発も限りなく撃ち込まれる銃弾を鎖で弾いている現状が答えだ。
『…便利な鎖。同期V、ツヴァイの方は1人喰べた?…そうね、絶望の騎士に類似したねじれが妥当ね』
「何言ってんのかさっぱりだな!護る為に殺すだけだ!」
『屈折は出来ても制御は稚拙。ヒントだけで出来てるのは流石だけど…まあ、ローラン程は稀か』
記憶を探り、打開する道筋を立てる。過去を反芻する。
盾を斜めに構えて持ち、銃弾を横に流せる様にして剣の間合いにまで一蹴りで詰めた。何発もの銃弾が弾かれる音と盾を吹き飛ばす衝撃、吹き飛ばされるのに合わせて貫いてきた槍を巻き込んで一緒に投げる。
競い合いに合わせた呼吸で傷が塞がっていくのを感じつつ、紋様を光らせ勢いの増した剣を振りかぶり、化け物が槍が吹き飛ばされ自由になった手で剣を掴み止める。キリキリと金属がぶつかり合う音、目の前に銃を突きつけられ、発砲された。
『…ああ、あったわね。それ』
「…効いちゃいねぇがな。ッチ!」
化け物の後ろ、地面を這わせた鎖での奇襲。私自身を囮にした油断を突いた攻撃。それは奴の心臓を貫いてはいたが、まるで効いてはいないようだった。
いや、効いてはいる。ただ、それ以上に向こうがしぶとかった。そこまで思い至った所で横から鋭い痛みが走り、思わず剣から手を離す。
どさりと倒れ、横を見れば転がっている槍から丸い棘の生えた虹色の種子が私の方に棘を向けていた。どうやら油断を突かれたのは私の方だったらしい。
風穴が空いて何故だか気分良くすっきりとした頭で考える。あの狂人みたいに立ち上がる気が沸かなかった。より良い存在に成れれば出来ると思っていたが、どうやら私では成り得ないみたいだ。
目の前では心胸に刺さり、巻き付いて拘束しようとする鎖に意も介さずに蝶の銃を別の武器に、錆びたリボルバーを此方に構えた。
カチリと銃弾が入る音がする。
『何か、言い残す事は』
せめてもの情けだろうか。蒼い化け物は…いや、片方の眼で涙を流す、哀れな人間は、そう言って私の心臓を6発分撃ち抜いた。空虚が心を埋める。仲間を失った悲しみも、工房が、夢の結晶が消えた怒りも空虚になっていった。
死出の旅に出た者たちとの縁を、鎖と成り私を死に導かんとする重りを砕いたみたいに心が軽くなる。代わりに残ったのは空虚だった。
もう一度カチリと音がする。
「…容赦ねぇな」
『…しぶとい
武器の材料の事だろう。私が地下の骨の事を語る時と同じ仕草をしていた。ハゲは名前からしてハゲしか扱えなくて、オールドレディってのが今手にある錆びたリボルバーの出自だろう。
後悔、今の私からして死者との縁、この場合は記憶か?それを風化させ…いや、感情に直接攻撃して殺したか。記憶から溢れる怒り、悲しみ、恨み、それらを撃ち殺した。差し詰め精神攻撃、R社のトナカイ辺りの物と結果は似ているな。
「そうかよ。はぁ…いけると思ったんだがなぁ?」
『私を殺すには足りないわ。3対65453よ?……それか、1対65452ね。おめでとう。ルビー、勇気ある魔弾の射手のE.G.Oを使ってた子、1人殺せてるわよ』
「察するに命の数?さっき私がやったみたいな過去の掛け合わせ?…ああ、分かった。過去が、それそのものが本来の一つの人生ね?私は渡り歩いていたと」
思い出してきた。そうだ、私は──ミシェル。カルメンに誘われて外郭の研究所に入ったミシェル。ホドであり、セフィラにして文学の階の司書。それが私だったっけ。
銃弾が手足を撃ち抜いた。もう容赦は売り切れたみたいだった。
『元が天才なだけはあったわね。正解よ。さて、言い残す事は?』
「…アンジェラ、自分だけしか居ないのは…寂しいですよ」
『そう』
銃弾が肉体を挽肉にする為に打ち砕いていく。血が飛び、肉が裂け、骨が砕かれ、熱い熱が狂ったみたいに全身を駆け巡り、声にならない悲鳴を上げた。
意識が薄くなる。麻酔を打たれたみたいに視界が縦に回りぐるぐると意識が飛びそうになる。
だが、まだ死なない。撃ち込まれる事を競い合いと見做して呼吸を整えて命を繋ぐ。自ら立ち上がるほどの希望は持ってないが、辛くとも生きようとする希望は、曲がりなりにも理解し持ち得ようとした事がある。
『まだ死なないのね。次の人生でも目指したらどう?きっと次は今よりはマシよ』
「…ハア…ちょーっとまだ言い足りないので…フー…アンジェラ、曲がりなりにも…教育のセフィラだった者として、言いたい事が…ッ!…あるんです」
『…特別にもう一言だけ聞いてあげるわ』
今の私の装いは何だろうか。研究所…会社…図書館…多分、もっと前。誰にも出会う前の、小さくも拙い夢が絶対に叶うと信じていた幼少の頃だ。
もう捨て犬でも、ツヴァイ協会でも、狼牙工房でも無い。ずっと前の一周目、まだ人格の一欠片でしかなかった時の私。上塗りした物を全て剥がした末に残った、ある日の私だった。
「地獄で…どれだけ亡者が足掻こうと…苦しみだけしか残りません。……成りとげたいなら…地獄を旅する者か神に救いを求めるしか無いんです」
これは教訓だ。この世界で研究し沢山の仲間達と見つけ出した絶望、どん詰まりの中でしか無かった事を示す結果。まだアンジェラは知らないだろう事実。
「でも……その夢がどれだけ他者を否定する物でも…私は応援してます。頑張って下さい」
それを突きつけた上で、私はその背中を押した。
そもそも、5周目の事を思えば私には彼女を弾劾する資格なんて無い。だから、心の底から彼女の事を応援した。
『………』
銃が変わり、黒いリボンが巻き付いた銃になる。長身の木を基調に使った古い設計のそれは、レティシアのE.G.Oだった。
「…ふふ、そこは葬儀の崇高な誓いを出すところでしょ?」
『…貴女の言ったことが正しかったとして、私の試みが失敗して次があるなら、さよならよりもまた遊んで仲良くなりましょう、が適切じゃないかしら?』
「かも知れませんね」
無邪気な愛情、子供が抱く結果を決め付けた行動。歪んでその相手を殺す事になってしまうアブノーマリティのそれは、中々どうして現状に合っていた。
「では、また次の時は一緒に遊
『さようなら、どうか安らかに』
[………]
「悲しい話だね。でも、こうしてみんな死んでいったから僕達がこうして紀行出来てるって考えると、これも素敵なお話になるだろう?」
鏡の奥。何も無い真っ暗な空間に、手のひらと同じくらいの大きさの窓から覗き込む景色と声に、私は押し黙った。
あの後、アルガリアに連れ去られてから私はこの真夜中の都市を眺め続ける事になった。
そこにあったのは、言わずと知れた無数の悲劇とアンジェラによる虐殺だった。
「さて、君は何も説明されないまま旅する事に慣れてるみたいだし、このまま俺も省いてもいいんだけど…欲しいかい?」
[…できる事なら]
巣の中心には真っ白に輝く光の柱があり、それがこの世界をより広く拡大させ、合わせて28日間もの間支えている幹であった。
「なんて事無いんだけど、ここまでの旅で俺たちが周回してるのは知ってるだろ?8周目ではその負債が一遍に来たんだ」
「騙して、攫って、媚び諂い、命の価値を貶め、ありもしない希望に縋り、権利を悪用して、先の無い偽善を積み重ね、奪い盗み、裏切り、不和を撒いて、騙された」
「罪を重ねて潰れたんだ。この閉じ込められた空間に1億の人モドキが押し込められて、自分だけが生き残ろうと争い続けた」
アルガリアは近くにあった誰かの死体を掴み、暇だから手遊びをするみたいにその頭部を握りつぶす。
捨てられた後の死体の首から赤い樹液を出す樹が伸び、伸び切る前にアルガリアの手によって瞬く間に切り倒された。瓶を取り出し、赤い樹液を回収しながらアルガリアは話を続ける。
「だからこの周回は「
[……その結果は…]
「20人。この周回から次に繋げられた記録の数。だから、9999万9980人がそれまでに死んだ訳だ」
[…それは]
例え此処が仮初の空間であっても、その数には思う所が出てくる。少なくとも、彼等にとっては本物の命なのだ。迂闊に触れない方が無難だろうね?
アルガリアは路地を駆けて途中にあった幾つかの扉を通り、一つの建物の前で立ち止まった。
ねじれ探偵事務所と掲げられた看板のある建物の階段を登り、ドアノブに手をかけた。
「ここはそういう所さ。俺達の終着点で、無意味でしか無い時間。上書きを繰り返して、折れ曲がった物を無理やり戻そうとした。折れ目はどうやったって消えないのに」
扉を開けると同時に赤い樹液の入った瓶を放り込む。金髪の背の高い女性、エズラがその瓶を殴り、その一秒にも満たない時間で奥にいた白髪の混じった黒い髪の妙齢の女性、見た事がある。確かモーゼスだったっけ。煙戦争の記録を見た時に見かけた事を覚えている。
アルガリアはその首に凶刃を押し当て、そのまま捻じ切った。頭部と下の体を持ち、樹液の液体にかかって眼が見えていないエズラの横を通り過ぎて事務所を出て行った。
合計して2秒も経っていない間の出来事だ。私だったら指示の一つも出せないだろうね?
「さて、もう十分ここは堪能しただろう?次はこの人が君を案内するし、その後も別の人が君を導いていくんだ。君はただ観ているだけでここの最初に辿り着ける」
「そしたら君が時計を回すんだ。時計は時間を示す先と、回す為の根本が必要だよね?君はその根本の方。送り返す方だよ」
…つまり、この鏡の世界から帰るには私が一周目と呼ばれる所に行って、巻き戻す必要があるという事だろうか。
「理不尽かい?残念だけど、親切心さ。そもそも君はこの鏡の世界で活動していた間、更にその一部を切り取ったダンテだから、本当に問題ないんだ」
ほら、本を書いて納めただろう?というアルガリアの声を聞きながらショックを受ける。
聞いていた話では何もしなくても帰れる筈…いや、今の私とあの列車に乗った方は別とアルガリアは言った。つまり、帰る方の私の視点では何もして無いという事であっているのだろう。
割と衝撃な事実が出てきたね?つまり、今の私は使い捨ての私なのだろうか。
「不安なら補強に保険屋のダンテを使える事も教えよう。きっと彼なら今の君の声も聞こえるだろうから、4周目の時に人格補填保証の審査をする様に言えばいい。今の君なら通るさ」
アルガリアは言うべき事は言ったのか、モーゼスの死体の心臓を裂いて中から鍵を取り出した。何で心臓から鍵が出るのかは聞くまでも無い事だろうね?多分、この世界特有の何かしらだろう。
宙に鍵を差し入れ、回すと金縁の木製の扉がいつの間にか出てきて開く。
扉の先には赤い空と見間違うほどに濃い煙に満ちた戦場だった。喧騒と怒号が響き、虫のモスキート音が嫌に耳に残る。
アルガリアは私を、正確には私が入った鏡だろうか…を掴むと、モーゼスの死体の脳みそに差し込んで一緒に扉の方へ投げ入れた。
「さあ、行くといい。物語を後ろから読む様な旅路になってしまうのは残念だけど、君にとっては最後のお話だ。できる限り楽しんでくれると俺達の死も報われるだろうから」
「いってらっしゃい」
扉が閉まる。閉まりきる最後の瞬間まで、アルガリアは笑顔で私を見送った。
「……ああ、くそ。頭痛が酷いな。」
私が気を逸らしている間にこの周回、7周目としてのモーゼスになったのだろうか。探偵の装いのモーゼスが立ち上がる。
「…何だ?この…抜いたら死ぬかも知れないな。そのままにしようか。」
私に気づいたモーゼスは、こつこつと私を叩くと、下手に動かして悪化するのを危惧して放っておくみたい。
「……ああ、厭な匂いだ。」
モーゼスは辺りを見渡すと、一つため息を吐き、目を閉じて、落ち着く為か
後は旅して終わりです。