ダンテ著:囚人が違う世界の鏡   作:何処にでもある

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これまでのあらすじ
・ダンテ、鏡を壊す
・全員鏡の世界にGO
・図書館誘拐
・旅開始
・ねじれ探偵と煙戦争
・夜明けとの終末旅行
・フィンと愉快な仲間達
・なんか宝石平原超えたら大事そうな場所に来た

 遅くなりましたが最終話、13万文字なので通信が良い場所で読み込みください


 それでは良い終わりを





積み重ねられない

 

 

 

「ここは…研究所ですか」

 

[…黄金の枝…多分戦闘になるだろうから、覚悟はした方がいい]

 

「それは、はい。もしそうなったら出来る限り頑張ります」

 

 フォスが走りながら途中の大罪を倒しては進んで行き、辿り着いた最奥は壊された研究所があった。結構広く、中心には7つの試験管の中に6つの卵状の宝石が黄金の枝を囲う様に並んで配置されている。一つだけ、緑色の宝石は無かった。

 その周りを取り囲んでいた測定器や記録装置は破壊されていて、何か情報を得ることはできそうには無い。

 

[研究成果は持って帰ってると思ってたけど…何で残ってるんだろう]

 

「さあ…それはなんとも。僕にはあそこの空いている試験管にあっただろう緑の卵が僕何じゃないかって事くらいしか思いつきませんし…」

 

[だよね]

 

 周囲を警戒しつつも、何も起きそうに無さそうだったから一先ず剣は構えたまま考える事にした。

 まず、宝石の卵を見てみる。どれも黄金の枝の光で輝いており、見ていると苛立ったり、ダルくなったり、落ち込んだりするから罪悪に関係しているのは間違い無いだろう。

 触れたら幻想体とかになりそうだからあくまで遠くから眺めたままにして、一つ空いた試験管の所から黄金の枝に近づく様指示する。

 

 黄金の枝に近づくにつれて、今までに無い感覚を覚えた。

 これまでは黄金の枝に近づくと魅力的だったり、心がざわついていたけれど、蟲師に私の周囲を覆っていた暗闇を喰われたからだろうか。

 何だか親近感や安心感、こう言うと変になるけれど、自分らしさって言えばいいのかな。そんな変な感覚が私から湧き出てくる。

 多分、ダンテとしてでは無くその基として構築された方の私としての感覚なんだろうね?

 

「…欲しくなる感覚がするんけど、取っていいですか?」

[…駄目なんだろうけど…何だか私もいつもより欲しいし…いいよ]

「わーい!」

 

 折角なので取る事にした。このままだと連戦を想定していた割には何も収穫が無さそうだし、フォスの記憶も思い出せて無いみたいだしね?

 フォスが黄金の枝に触


 

 

囚人の違う鏡の物語XIII

LCB ダンテ(「こっち」)→LCB ダンテ(『あっち』)→LCB アイン→LCB アンジェラ→【◼︎◼︎◼︎◼︎(◻︎◻︎◻︎◻︎)】→開花 E.G.O::心理学の階→幻想体 触れてはならない→::◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎→黄金の枝→

 

 

 それは、どれだけ経っても忘れられそうに無い事だった

 

 ある晴れた日のこと

 青空が綺麗で、心地よい風が吹いていた

 

 辛い事があって(エノクが死んで)

 辛い事があって(ジェバンニが死んで)

 辛い事があって(ガブリエルが死んで)

 

 私が死ねばいいという考えを()()()()()()()

 

 それを忘れようと心を空っぽに

 少しずつ

 自分を消していって

 ただ目の前のあるがままのものを楽しむ

 みんなの期待に耐えられない時

 私はいつもこうして気分転換をしていたんだ

 

「………ここに居たのか」

 

「あら、アイン。辛い事があったのね」

 

 そうして草原に転げていると、いつだったかアインが私を探しに来てくれたの

 その時に見た顔があんまりにも酷かったから

 私がいつも辛い時にしている事を教えたのを覚えている

 

 

 

 

 

 ここまでだったら、綺麗な思い出の一つになった。

 

 

 

 

 

 だけど、そうはならなかった

 

 

 

 

 

「…教えて欲しいな。何でこんな事を?」

 

「……貴方を諦める道を選んだ」

 

「そっか」

 

 血が流れる

 穏やかな草原に似つかわしく無い、乾いた火薬の音

 視界が血で滲んで、すごく痛かったのを覚えている

 どうしてとは言わなかった

 私でも、この道の困難さは分かっていたから

 

 ただ、草木が赤く染まって、その様子を見届けるアインがすごく辛そうで

 

 結局私は彼を信じさせてあげられなかった事が、心に残り続けた事を

 

 

 私は、忘れられそうに無い。

ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない死にた

 

至った


 

 

 ころころと飴玉を転がす。酸っぱい酸っぱい飴玉。ガーネットは甘い方がいいって言っていたけど、私は酸っぱい方がいい。

 

「…時間だ」

 

「うん、知ってるよ。だからさ、せめてこの飴玉が無くなるまでは味合わせて」

 

 甘いほど、すぐに溶けて無くなっちゃうから。一瞬の幸福より、私は酸っぱくても長く楽しめる方が好き。

 

「移動しながらでも食べられる……1時間だけだ」

 

「ん、ありがと」

 

 カラフルな部屋を出て、てくてくとついていって、試験管の中でゆっくりと眼を閉じて味わう。

 下から緑色の液体が迫り上がっていく。

 

 思うに、ここにいる私の人生は悪くは無かったと思う。

 

 気づいたら草原にみんなと一緒に立っていて、一から都市を作って、その中で沢山の味を食べる事ができた。九色の果実、山程の獣の心臓、刻まれた知識のスープ、色んな味があって、「私」の原型の願いは概ね叶える事が出来たと言っていい。

 その過程で原型の方の私が食べられる物が減り続けていたと知った時には悪いことをしたと思うけど、ここで終わる私にとってはこの過去(未来)を明け渡す気は全く無かった。

 

 一瞬だけど、とてもいい生だと思う。

 

 望みとは真逆だけれど。

 

「アインはさ、これが終わったら何かしたい事ってある?」

 

 しみったれた顔をして私を見つめていたから、つい声をかけた。私の最後が笑顔で送られないのが気に食わなかったから。

 でも、そんな顔をする気持ちも分かるよ。

 

「………」

 

「ちぇ、つまんないの」

 

 最後の番の私が、ガラスごしにそれまでの被験体を見る。

 全身がバラバラになって、コギトに溶けて、布になって、幻想体に変質して、白い煙にかき消えて、そこに居てそこに居ない思念体になって、全員バラバラで、全員が確かな技術の歩みとして消費された跡があるんだもん。

 

 ま、やんなっちゃうよね。

 

「私は、世界中の全てを食べ尽くしたかった。…ただ食べるだけじゃ無いよ?」

「上手くいかない勉強や仕事とか、友達と喧嘩したりとか、それでも上手くいってパーティとかも開きたいな。そして…恋人とか!…結婚して、子供も産んでさ、夜中とか煩くてピーピー怒るの。それでもきっと可愛いだろうから、大切にしてさ……そうして最後は笑顔に囲まれて死んでいくの。そういう人生の酸っぱいも甘いも食べ尽くしたかった」

 

 

「全部、ここでは無理なんだけどさ」

 

「………」

 

 だから、私はここに参加した。胡蝶の夢を長く見るよりはマシなんじゃ無いかって。……正直、長く生きたかったけど、それが無理ならせめて、一瞬の輝きは私の物にしたかったから。

 

「…ん。もう喋れそうにないね。…私を使うんだから、成功させなきゃ恨むよ」

 

 その言葉を最後に、コギトって言うので全身を満たされる。暖かく、熱く、緩やかに

 ぜんしんが とけて   きえて  な  く    な   っ       て

 

.

 

.

 

.

 

ああ

 

.

 

.

 

.

 

.

 

もっと いきたかったな

 

.


.

 

.

「あれ、ここは…」

 

 気がつけば、僕は宝石が輝く草原で一人、立ち尽くしていた。

 何も分からず、何も知らず、何の使命もないままそこに居て、まるで突然家から放り出されたみたいな気分だったけど…

 

「わーぁ!綺麗な空!花!風!やっほーい!」

 

 目の前の全てが新しくて、輝いていて、何も知らない無垢な赤子みたいに、今を楽しんで、

 

「……うん!なんとかなるよね!」

 

 純粋に未来を信じ切って輝く太陽と青い空を見上げて歩き出した。

 

 

 

 

 


 

 

 ここは地獄だった。

 

 青空は、全てが蒼い扉で続いていて、果てしない空は望めない。

 

 何かが見ていたんだ。

 

 扉の窓から覗いていた。

 

 硝子から覗いていた。

 

 その白い眼が雲のように無数に広がっていたんだ。

 

 太陽だと思っていたのは僕達を閉じ込めて苦しめて、悲劇を光として満たそうとする怪物だった。

 

 その全ての知識を与えられて、そうされたからには

 

 そろそろ お話を聞く気になった?

 

「冗談!」

 

 全て教えてあげる。

 その言葉に耳を傾けた宝石は全員()()()()()()()()()()()になった。人らしさの塊になった。…段々思考が戻ってくる。()()に傾いた思考が戻る。…状況を整理する事にした。

 

 僕は◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎の宝石。ある日突然ここに連れてこられた、ただの石ころだ。あれから、突然空から落ちてくる人達の死体から生まれた宝石達と一緒に生きていると声が綺麗だけれどおっかない女の子がやって来て、僕以外全員壊された。終わり。

 

「…理不尽過ぎない!?後名前思い出せないんだけどなんかした!?」

 

 私はただここについて教えただけよ?その上で成りたい自分について聞いただけ 名前の方はいいことよ 偽りの自分を捨てられたって事だもの!

 

「ダメだ会話せずにやりたい放題押し付けられる感じがする」

 

 覚えてないけど僕はよくそういうことをされてきた気がするから、ああまたかって既視感を強く感じた。

 まあ、起きちゃったものはしょうがないから大人しく砕ける‭─‬‭─‬‭─‬

 

「‭─‬‭─‬‭─‬訳にも行かないので逃げる!」

 

 とは言っても逃げられないって事は分かっていた。この草原全てにあの人の声は届くだろうから、逃げた所で無駄だっていうのは。

 だけど、立ち向かった所で他の宝石と同じようになるなら、少しでも希望のある方へ向かいたかったんだ。

 

 いいえ、あなたは私の話を聞くの。たったさっきそうなったわ

 

 冗談では無かった。ようやくニンゲンになって、みんなの所に辿り着いて、人としての僕が捨てられて…ああ、どうやらもう捕まってしまった様だ。重い身体が憎い。

 実際、僕達宝石は別世界の存在の一部で

 その中でも要らない所だから帰っても居場所なんて無くて

 

 僕は何の役にも立たない宝石で

 

 やる事なす事全部無駄でしか無くて

 

 居場所なんてなかったんだ

 

 そういう時はいつだって僕はこう思うんだ

 

 褒められたい 役に立ちたい 認められたい

 

 でも、誰に褒められたくて 誰の役に立ちたくて 誰に認められたかったんだっけ

 

 …思い出せないけど、ずっとその立場に僕は立ちたかった

 

 なら、あなたはどんな姿に成りたい?

 

 僕じゃない誰かに あの立場を手に入れた誰かに

 

 そう あなたはそうなりたいのね

 

 

 

 フォスフォフィライト(ラピス)

 

 

 


 

 

[…そっか。そんな貴女だから……]

 

 そこで見た記憶は、私の一部の記憶。私自身について考察するのは蟲師が言うには誰かにバレるらしいから深くは考えないけど、どうやらアインとは知り合いみたいだった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうやらそれを残念がる時間はなさそうだ。

 

「…あれに対話は無駄ですよ」

 

 そうフォスが判断するくらいには、理性が無い存在だった。誰もが獣みたいに暴れたそうにしていて、言葉になってない音の羅列を鳴らしていた。

 6つの卵が羽化した姿は、きっと基になった人物達の姿なんだろうね?写真が資料にあって良かったと思う。

 

 憤怒 赤い霧 カーリー

 色欲 暴走したセフィラ ベンジャミン

 怠惰 暴走したセフィラ ジェバンニ

 憂鬱 暴走したセフィラ ダニエル

 傲慢 黒い沈黙 アンジェリカ

 嫉妬 頭部が無い暴走したセフィラ ガブリエル

 

 いずれも、一名だけでフォスでもフィンでもレイサでもクオーラでも太刀打ち出来ない相手だ。

 そして消去法でフォスの基が孤児院のラピスだと分かったけど、今はそれどころじゃ無さそうだね?

 黄金の枝を戻せれば良かったんだけど、生憎、さっき触れた瞬間に消えてしまった。多分私の中にあると思う。

 

 誰もかれもが敵意を持って武器を構え、その内に秘めたL社のシステムを起動していて、赤い霧が武器を振り上げ始めてたのを見て次にどうなるかを察した。

 

 そうして気づけば全身を隈なく刻み込まれバラバラに

 

 

 

 なる前に、突然フォスが剣で心臓を突き刺していた。

 

 

……え?

 

 

「後は任せるので、どうかダンテさんはお願いしますね」

 

()()()()()()()

 

 そういうや否や刺した場所から青い亀裂が広がり、粉々に砕けて緑色の砂になって、フォスは死んでしまった。からりと硝子片()が転がる。

 …ついていけないけど、あまりの突飛さからか赤い霧と黒い沈黙も動けないで居た様だった。

 

 変化はすぐに起きた。

 緑の砂がひとりでに浮かび上がって再構築されて、人の形になっていく。見たことのある挙動だった。クオーラが野球をする為の数合わせに宝石の身体をレイサの友人達の為に作ってくれた時と同じくPDAが取り込まれたから何が起きるのかはすぐに分かった。

 

 

  何かが起きていた。だけど、それを今気にする余裕は無い。なにせフォスでもフィンでもレイサでもクオーラでも太刀打ち出来ない相手なのだ。

 だけど死を恐れず人格を扱うプロである囚人なら、どうだろうね?

 

 

ドンキホーテ、自警団の人格

 

무슨 말을 하는지 모르겠지만(何を言っているやらでありますが)맡겨진(任された!)!」

 

 緑の粉はドンキホーテを型作り、いつか見たドンキホーテがレイサの立場になった人格を被った。

 何というか、本来あるべき姿に戻った感覚がするね?

 

 同時にフォスが完全に死んだ証拠なのだろうか。赤い霧達が纏っていた威圧感が小さくなる。人数差?いや、フォスはこの研究所で誕生し、あれらとは深い繋がりのありそうな関係だ。

 一人倒す度に他のも弱体化する。そう考えた方がいいだろう。弱い者から対処する事にした。

 

 ドンキホーテが私を拾って額に突き刺しながら飛び出し、ガブリエル目掛けて銃弾を三発放つ。

 赤い霧が切り払う所をその身を盾にして妨害、無事にガブリエルは3つの風穴を開けた。

 赤い霧も流石の火力で、ドンキホーテをガブリエルごと横に両断して死んだ。時計で巻き戻す。

 

[重盾衛士の人格、ダニエルの前へ]

 

알았어!(了解!)

 

 情報伝達の妨害が無くなったみたい。楽になるね?

 

[槍は盾で防がず剣を防いでそれか…沈黙ってそういう事?]

 

 次にするべき事を指示する途中で静寂が訪れたけど、それでも最低限の指示は住んでいる。

 

 ドンキホーテは盾で黒い沈黙の槍を逸らそうとしているのを止めてそのまま胴を貫かれダニエルに縫い止められ、直剣で首を刎ねられるのを盾が真っ二つになる代わりにで防ぎ、棍で殴られるのをアーツで防ぎ、突進されながらの双剣を丁度二つある盾を犠牲に防ぎ、銃弾を首を捻りながら横に倒して躱しつつ風圧でギリギリ捩じ切れずに済んで流れ弾がダニエルに当たり、斧の逆袈裟斬りは耐えられずに死んだ。

 条件が整ったのか、連撃を死体蹴りに放たれ余波でダニエルが死んだ。一拍連撃が終わった所で時計を回す。

 

[ユン事務所の人格でジェバンニに源石特攻。…うん、やっぱりまともな思考は無いみたい。反射で戦ってる]

 

제대로 대처하고 싶!(適切な対処をすればよいと!)

 

 ここまでは事前にアインの書いた資料を読んでいたから適切にやれたけど、それでも紙一重な推移だ。最大の問題は弱体化してもまだ強い赤い霧と黒い沈黙の二人の倒し方が思いつかない事か。取り敢えず妨害しかして来ないセフィラ達を倒してから対処の仕方を考えよう。

 ドンキホーテの事もフォスが何をしたのかも気になるけど、一先ずはこっちが優先だった。

 

 赤い霧に縦に切られながらもフィンに渡しておいた幾つかの武器が暴走して赫い結晶を周囲にばら撒く。

 最も近くにいたフィン人格のドンキホーテの死体が赫い結晶となって更に爆発し、次に近かったジェバンニも死体の結晶がトドメになったのか赫い結晶となって爆発して周囲にばら撒き、次に近くにいた赤い霧と黒い沈黙はその全てを避けたり武器で防いだりして対処された。時計を回す。

 

[相手が相手だから反射だけでも2回目の攻撃は対処されるだろうね]

 

그렇다면 어떻게?(なら、どういたすか?)관리인(管理人殿)

 

[自警団の人格、ギフト併用‭しつつ次元‬鞄から聖印(ヘイロー)を─‬‭─‬‭]

 

 念の為、持って行かない理由も無かったから持って来ていた物を取り出させる。

 人の道を外れる事をこれからするけど、ここにはそれを躊躇するフィンもレイサもクオーラもフォスも居ないし、何よりもう死んでて然るべき過去の人物達の記録でしかないなら私的にはギリギリ許容出来ない事だ。

 それでもこうするのは、やはりこれまで私を運ぶ為に犠牲になった案内人達に報いるためか……否、ただ純粋に、ここで負ければ何百回も死んでは時計を回す地獄になるだろうと、そう答えを導き出したから。

 私が苦痛といつ完全に死ぬかも知らない地獄に向かう事が恐ろしくて、だから犠牲にする事にした。

 

[‭─‬‭─‬食べて]

 

 心臓を食べて人格を手に入れられるなら、それと似たような物なら同じやり方で行けるんじゃないか?

 これについて知った時はレイサにそんな事させるのは駄目だろうと、やる理由が無いと心の奥に閉まっていたけれど、もう躊躇する暇は無い。

 折角何かの手がかりになるだろうドンキホーテの人格が無くなる危険性を脳が導き出していたけれど、知った事では無かった。

 

 そしてドンキホーテはレイサの姿で聖印(ヘイロー)を噛み砕き

 

 

「ドンキホーテ、どう………ん?」

 

 宙に浮かぶ亀裂から覗き見るのでは無く、広々とした目の前の視界、動く手足、感覚のある下半身、額に異物感、血の匂い、硝煙の臭い、銃の重み、身に染み付いた自分のではない身のこなし、それと同時に感じるさっきまでの不自由な自分の感覚もする。

 想定した中で最悪のパターンだと理解して、強い衝撃に吹き飛ばされた。

 

  時計を回す/時計の回る音がする

 

 気づけば傷一つ無く空を舞っていた。取り敢えずベンジャミンに銃弾を放ち、姿勢を整えて天井に足を埋め込んで固定し銃を構える。

 どうやら自意識がドンキホーテ側に持ってかれたようだった。ドンキホーテの人格は死んでしまったのか心の何処にも無く、レイサ達の声も聞こえない。どうやら私が直接戦う必要がありそうだね?

 

 銃弾を放ち、代わりに赤い霧が持つ剣が伸びて天井ごと切り裂かれた。

 

  時計を回す/時計の回る音がする

 

 クオーラの人格になり、宙で盾を構えて黒い沈黙の銃弾を防ぎ、着地と同時に赤い霧に斬り飛ばされた。壁に埋まる。

 これまでのセフィラ討伐の甲斐あってすごく痛いけど、何とかなる範囲だった。少なくとも囚人1人と鏡屈折鉄道の幻想体ぐらいの差まで縮まっている。つまりまだまだきついと言う事だ。

 黒い沈黙に槍で固定された後ガントレットで締め殺された。どうやらクオーラの人格に武器は得策じゃ無いと判断されたみたい。

 

  時計を回す/時計の回る音がする

 

 さて、ベンジャミンとの距離が空いてしまった。距離が離れ過ぎてると銃弾を放っても特色二人に切り払われて終わりだろうね?

 身を盾に攻撃を通すやり方もこの様子だともう通じない。反射だけで戦っているにしては思ったより対策を建てるのが早いと感じる。フィンの人格で自爆して牽制しつつ勢いを使って硝子片をベンジャミンの方へ飛ばした。

 

  時計を回す/時計の回る音がする

 

凝血をぉ!受け取って下さい!

 

 硝子片を起点に蘇生する。正確には硝子片にくっ付いていた血を起点に、だけど。何であれ距離を縮めるのに成功した。

 レイサの人格になると同時にE.G.Oを使用する。使えるかどうかは微妙だったけど出来なきゃ死ぬだけなので問題はないね?

 広域な甲斐あって牽制しつつ、ベンジャミンが混乱したようなのでそのまま銃撃を叩き込んで殺した。後は特色2人だけだが…どうすれば殺せるんだろうね?

 

 思考時間に制限をかけるのも漸く死んだし腰を据えて

 

 気づけば背後から無数の武器に貫かれて死んだ。

 

  時計を回す/時計の回る音がする

 

「…コポッハァ⁉︎ア"‼︎」

 

 クオーラの人格になると同時に胃と肺から逆流する血を吐き出し、後ろを見ようとした瞬間に取れた四肢に心臓、他にも背中に無数の黒い沈黙の武器が突き刺さり、縫い付けられた。…これは…まずいね?

 

 どうやらベンジャミンの沈黙に対する対価を警戒して急いで行動してたのは私だけでは無かったみたい。さっきまで反射で暴れていた赤い霧の、狙いを持ったような揺れをする獣の眼を見て気づいた事だった。理性は無くても、反射では無く本能で戦えるようになった分より不利になったみたい。

 

「…助け

 

 そこからは、随分と長い時間、何回も時計を回す事になった。

 どこの部位を起点にしても即座に縫い付けられ、出来る限り痛めつけられてから死ぬ。

 多分、不死の殺し方だ。何回も蘇生したのを見て、最適解を実践しているのだろう。

 

 30日

 

 徹底的に私は死んでは生き返る苦痛を味わう事になった。

 機械的に繰り返される動きの僅かな隙を突いて脱せても、時間をかける程に増していく威力に捩じ伏せられた。

 

 詰みだ。

 

 幸いと言えばいいのだろうか。私がいる硝子片こそ壊される事は無かったけれど、返ってこの苦痛を永遠に味わう事になった。

 

 首を刎ねられ、手先から順番に刻まれ、眼をくり抜かれ、生きたまま内臓が裏返り、脳を分けられ、皮を剥がされ、ゆっくりと潰され、血を全て抜かれ、中を乱雑に掻き回される。

 

 心を殺すやり方だった。

 

 より強い苦痛を味わされ、私1人が、2人の絶対強者に殺され続ける。

 

 地獄だった。

 

 それでも時計を回すのは、やめない。

 死にたく無いから、やめない。

 

 私はまだ、何も成せていない。星位に辿り着いていない。自分の囚人に会えてもいない。旅を終えていない。

 

 何より、私はまだ、私らしく生きることが出来ていない

 何より、私はまだ、夢を諦められない

 私はまだ、そこにあった筈の(◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎)を、成し遂げていない

 

 だから/だから

 

 

 

そうして、自分を消して、世界と同化していくの


さあ…いつも通り…死んで殺しに行こう。

 

 

 

 

「狂気抱き前に進もう」

 

 囚人の繋がりを使って、フィンの死にかけた身体を動かして端末を動かす。何日も殺されていたからか、幾らかの出来事に理解が及んでいた。

 

 この端末には囚人の人格を変える項目しか無かったから無いと()()()()()()()

 

 ここを旅していて不思議だったけど判明した事。

 目の前の事実を人格の知っているものに置き換える法則。

 

 それに加えて存在しているのに私含めて誰も言及しなかった事。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 本当にそうなのかは正直自信はない。私は、ファウストにもアインにも及ばない頭脳しか無いから。

 ただ、ここまでの旅で私はずっと暗闇の中だと思っていたら車両の中に居たし、◼︎()が聞こえて居なかった幻想体に出会っている。

 幻想体を使って認識出来ない様にする何かがあるなら、特に、明らかに細工されてそうな私なら、今の現状で見えても聞こえてもいない()()がある筈だ。

 

 とても正気では選べない道だ。だって、そこに無いものを有ると信じるのだから。

 だけど、これ以外に道が無いのなら、そうするしか無い。そう信じきるしか無い。

 

 メフィストフェレスのバスは無いけれど、此処には黄金の枝を取り込んだ私がいる。誰かを基盤にした私がいる。この鏡の世界で、何か大事な役割を持っていそうな私がいる。なら、やれなきゃ嘘でしょう?

 

 斯くして、当たりをつけて画面を操作する。その動作に不穏さを感じたのだろうね?黒い沈黙が大剣で地面の染みにしようとするけれど…その動きにかける時間は、とっくに知り尽くしている。

 

 数多の鏡を万華鏡みたいに合わせて、そこに映る幾つもの私では無い誰かを私の中から無作為に近くから引き上げた。宙に亀裂が走り、何かを砕いて10の人影が私を屠殺するだけの場所に現れた。

 

『まぁ!こんなにいっぱい…敵が!』

 

 真っ黒な金魚の鱗の半端まで埋まり、防がれた瞬間武器を手袋に収納してガンレットで行う追撃は脇から来た青と黒の大剣で鍔迫り

 

指令通りに遂行しましょう」

 

 手を撓らせて大剣を横の地面に埋め込み、その空いた胴に短剣で出血傷をつけながら槌で私を殺そうとするのを3人の全身義体の人が身を挺して防せぎ

 

「た耐える」「じ人生一発」「ビリビリ

 

 高圧の電流で動きを鈍らせ、命を対価にした3つの動力を過剰駆動させた爆破で怯んだだろう所を

 

「ファイアーバットを喰らえ!」「業務処理」「

戦闘準備」「守護者」

『待ち望ん瞬間』

「指令の意味」

 

 気合いで動いて来た黒い沈黙が直剣でバットと共に真っ二つにし

 続けて剣で剣諸共袈裟斬って殺し

 銃を後ろから斬り込もうとする白髪の男を見もせずに撃ち殺し

 ツヴァイ協会の人を双剣で胴と首と腕をお別れにさせ

 双剣を振った勢いのまま突撃してガンレットでウォルターの腹に大穴を開け

 幾つもの武器を次々と交換しながらハナコを飽和攻撃で潰し

 その間にヤンは赤い霧に追いかけられながらレイサの私を抱えて草原から脱出しようとしていた。

 

「…みんなありがとう」

 

「…へ。抽出された上で呼んだ者を連れて逃亡すること。指令通りに逃げ切りましょう」

 

…色々起きたけど、その前に一言…二言…先に言いたい事を言っていいだろうか。

……黒い沈黙強過ぎない?狂気を抱いて呼んだ人達が2人を除いて死んだのは想定外だ。アインの残した資料には戦闘中ずっと静寂だけがあったって書いていて、今の戦いでその静寂が途切れ途切れ…武器を振るう瞬間だけだから弱体化はしているんだろうけど、それでも強かった。

 ハナコだけはねじれや幻想体特有の高耐久でまだ死んで無いけど時間の問題だと思う。

 

 話が逸れた。兎も角、先ずは赤い霧と追いついて来た黒い沈黙から逃げ切らないとならない。幸いと言うべきなのか今はレイサの人格なので身体を動かして邪魔をする事にした。

 銃弾を構え、撃ち込もうとして

 

「それはおすすめしません。攻撃すればより速くなろうするでしょうから、追いつかれますよ」

 

 銃を鞄に仕舞い、他の重い物も仕舞ってヤンの身体に掴み直した。本当にみんな物知りだ。本当にどこからその情報を仕入れているのだろう。

 

「ではこのまま付かず離れず行きましょう。指令に依ればそれが最適なので」

 

「はい。お願いします」

 

 そうして本当にそのまま草原から脱出する事ができたけど、未だに後ろからは赤い霧と黒い沈黙が追いかけてくる。…赤い霧の戦闘の時に見せた突然速くなる奴をやれば追いつかれるのだけど、やって来ない。

 どうやら本当に余計な事をしないのが最適解みたい。という事は多彩な攻撃で攻めるのでは無く一つの強い攻撃をし続ければ難なく倒せる……あれにそれが出来る人ならどうやっても倒せるね?弱点じゃ無いのでは?

 

「このままローランさんの家まで行きましょう。指令された目的地です。そこに着いたら降ろしますね」

 

「何から何までお世話になります…」

 

「いえいえ」

 

 …それにしても、抽出が上手くいって良かったと思う。一回出来たお陰か人格の切り替え以外の項目も見れる様になったし、これが終わって時間が出来たらまた改めて確認を済ませたい。

 何故か私の別の可能性の人格とかでは無い赤の他人ばかり出て来たのは謎だけど、多分硝子片の私の後ろで眠っている人達なんじゃ無いかと睨んでいる。

 

 そんなこんなで着いたのは蟲師もといローランの家だ。

 もうここまで来たら知らないフリも十分だろう。気づいて無くてもヤンがローランの家に行くと言って蟲師の家に着いたなら察してるだろうし、いい加減何が目的で私を包んでいた暗闇を払ったのか具体的に聞きたい頃合いだった。

 

 ヤンは私を抱えて走るのを止めず、そのまま大剣を取り出して全身を変形させる。全身を上から垂れる鎖に縛られ、錠を顔に置いた青い炎で燃える指令の化け物と評すべき姿だ。

 そのままヤンは扉に突撃し、破壊した。

 

「……時間切れ…か」

 

fe(はい)

 

 ローランとヤンは短くそう相槌して、そっと降ろされた私をローランはちらりと見てから変装を解き、ヤンは赤い霧と相対し時間を稼いでくれていた。

 ローランは私から目を外し、斬り込んできた黒い沈黙と全く同じ動きで鍔迫り合い、少しずつ傷を負わせていく。

 

「…アンジェリカ。俺はどうすれば良かったんだろうな

 

 人と大罪の亜種の差と言うべきなのだろうか、それとも弱体化してやっと同等と言うべきか、着実に黒い沈黙は動きを鈍らせていく、

 

ここは残酷な所だ。全ての願いが叶う癖して、それを享受するのは俺らじゃ無くて、別の俺たちだ

 

 黒い沈黙の片腕を落とした。より苛烈な動きになるけれど、ローランは一つ一つの動きを丁寧に捌き、対応していく。

 

探したんだ。お前が幸せに生きている未来を……簡単に見つけられたんだ。だが、どれだけ試しても意味がないって気づいたら途端に何も出来なかった。復讐する相手の居ないまま、胡乱に生きていた頃に戻った様だったよ

 

 ヤンが殺されて赤い霧が襲いかかるけど、ローランは一気に次々と武器を切り替えて致命を喰らわせて膝を付かせた。丁度いいからレイサの銃弾で追撃しておく。

 

「…ああ、分かってる。こうしてお前に話してても意味がないって事は偽物の俺たちで作った偽物に話しても意味がないのは知っているさ

「……だから、この苦しみは俺だけが抱えていよう。誰にも渡さないようにしよう。例え誰かにとっては偽物であっても、お前はお前で、俺の妻なんだ。一生忘れないまま、苦しんで生きていくよ

 

 ローランは、憎々しげに睨む彼女の心臓を突き刺し、抉り取った。

 何があったのか、どんな事を知ったのか、知らないけど、とても悲しい事だと思う。

 いつぞやのフィンの呟きからして彼女はローランの妻で、察するにローラン達はこの鏡の世界に来た欠片の大元は夫妻だったんだろうね?

 そしてディアス曰くここは周回の度にどこかで未来を売り買いする機会がある。

 しかしそれを買った所で利になるのは多分大元の方?だから、鏡の世界のローラン達はまた一から周回することになって死に別れる事になる……かなぁ?

 ここまでの情報で考えてみたけど、正直答え合わせも出来ないから自信はない。でも大体合ってると思う。

 

 そう考えてる間にローランは心臓を食べた後こっちに近づき、睨んでるのか憐れんでるのか微妙な顔で目線を合わせる為に屈んだ。今レイサの身体だから気を使ったみたい。申し訳ないしフィンに変えておこう。

 それはそれとして赤い霧が混乱から復帰して立ち上がっている。何ならE.G.Oらしき鎧まで着込んできた。

 

 ローランはさっきまでの私情の部分をさっぱり隠し、おどけて私に言った。

 

「ほんじゃまあ、行こうか。後悔ばかりが積もった旅路へ」

 

「エスコートは任せたよ」

 

 ローランの対応に合わせつつ、フィンから私を抜き取ってPDAと一緒に渡した。身体を動かしていた私が無くなって倒れそうになるフィンをローランが片手で受け止めた。

 ローランが心臓から鍵を取り出して宙で捻る。後ろから襲いかかる赤い霧にローランはフィンを投げて時間を稼ぎつつ、扉を開き思い足取りで、真っ黒な雨の降る巣の闇に紛れる様にして沈んでいった。

 

 


 

 

 フィンには申し訳ない事をしたと思う。最後はずっと気絶したままだったし、赤い霧の時間稼ぎに投げちゃったし。今度会う事があったら謝っておこう。

 でも投げたお陰で閉じる扉の隙間から伸びる剣による刺突に、片腕を持っていかれかけるだけですんだだろうから、犠牲になった価値はあった。…やっぱり赤い霧だけやたら強くない?他は色々と本来より弱くなってるっぽい事が多いのにずるいと思う。

 

[それで、次は誰になるの?]

 

 今、私達は巣の下水道を歩いていた。あちこちで汚水が垂れ流されており、臭いもキツイ。偶に掃除屋が徘徊していたりもするし、真っ暗でどうにも不気味な場所だ。

 とはいえ暇になる時はなる物で、何時間も歩いて暇を持て余した私はローランにそう尋ねた。

 私に対する戯けた言動からあまり馴れ合うつもりは無いみたいだけど、それはそれとして暇なのだ。

 

「俺と一緒になったばっかってのにもう次か。旅人さまはせっかちでございますね〜」

 

[知らない事ばかりなら積極的に知らないとね。ほら、ここってみんな隠したがりだから]

 

「そりゃごもっともだな。…ま、言っちまうと次は特殊でな。現状会える手段が限られてる奴なんだよ」

 

[相当厄介な立場何だね]

 

 誰だろう。ディアスとかガリオンとかその辺りだろうか。

 

「幻想体。アブノーマリティ。ここにいる幻想体は人間…人格を混ぜて希釈化してたりしてるのは知ってるよな?そのせいで希釈化に使われた人格の1人が生き残ってのが大元になった幻想体に権利が移ったんだ」

 

 思ってたより予想外な答えだった。希釈…確かに愛と正義の名の下に…だったっけ?…と図書館で戦って見れた記憶とかで多少はそういう話を見たけど、それがこう繋がるとは思っていなかった。

 

[希釈って何だっけ?]

 

「おっと、知らないか忘れたか?コギトと俺らと幻想体を合わせて作った幻想体亜種の劣化版。言うこと聞く幻想体を作ろうとした計画だな」

 

[思い出したありがとう。…それで、性格は幻想体と希釈化の材料になった人どっち主体?]

 

「幻想体」

 

[うわ…会話通じるか怪しいな]

 

「な?特殊だろ?だから都市に撒かれるような大脱走か、L社に侵入しなきゃ辿り着けないんだよな」

 

[それで前者を狙ってるのが今?]

 

「残念不正解、後者だ。というわけでそれまで準備して場を整えるって訳。…とは言え前者の場合も一度だけ自力で脱出する時があるから、これが失敗したらその時に渡す事になるだろうな」

 

[やる事はわかったけど…その幻想体の名前と特徴は?]

 

 最低限それだけは聞いておきたかった。どうするのかは知らないけれど、何か私にもやれる事があるなら手伝ってあげたいしね?

 

「溶ける愛。ピンクの粘体が人型の擬似餌を吊るしてる幻想体。触れた相手を眷属に変えて増殖していくんだよな」

 

[…それ、私無事なままでいられるかなぁ?]

 

 ちょっと触れたく無い類いの相手だった。今、私のいる硝子片はローランの頭に刺さっておらず懐に入れられてはいるけど、似た様な感じに持たせてやるのだろうか。…そもそも、感染タイプが脱走するのはアウトなんじゃ無いかな。

 

「だから準備しておいた。溶けても問題なく次に行ける様にな」

 

[溶けるのは確定なんだ…準備の内容は?]

 

「そこはまぁほら、ALEPHは小細工なんかでどうにかなる奴じゃ無いしな。大胆不敵にって事で会ってからのお楽しみにしとこうぜ?」

 

 …アルガリアの言っていた保険屋のダンテさんに補強頼もうか。多分これ本来なら私を覆っていた暗闇、もとい何かしらの幻想体が守ってくれてた奴なんじゃ無いだろうか。どうやら私を溶かして起きる変化が重要みたい。誰にとって問題無いのかも何気に言ってないしね?

 もしこの予想が外れていても、そうだったら何でわざわざ暗闇を剥がすなんて余計な手間の増える事をしたのかになるし…もしかしたら、本当に準備とやらがあるのかも知れないしね?

 

 それきり、会話も無く下水道をローランは歩き続けた。

 

 

 しばらく経って、目的地に着いたのか下水道から外に出た。久々の気がするまともな空気が美味しい。丁度朝焼けなのか日が出始めていて、鼻先がツンとする涼しい清涼感に包まれる。

 …どうやら頭に刺さってなくてもローランの感覚は流れてくるみたい。身体を拘束されているのに背伸びした様な感覚がする。

 

[ここは…お店?]

 

「だな。商店街って奴だ。その区画の建物全部が何かしら売っていて、露店も昼になったら大量に湧いてくる。裏路地が無いからこその賑わいがあって楽しい場所だぞ?ここの護衛任務や巡回任務は受けたく無いけどな」

 

 どうやら商店の並ぶ区画みたいで、朝早く起きて店の準備をする人々が遠目に見える中、公園のマンホールから出てきたローランは早速近くの風呂屋さんで身体と服の下水臭さを無くしてからL社印のお店に入った。

 何とも大きなお店で、24時間営業だから今の時間でもやってるんだそうだ。中には食料に始まり、武器に服に雑貨に土地の権利書なんて物もあって、節操がなかった。

 

[何でも売ってあるね]

 

「そりゃあ、2周目のL社と外郭しか無かった時に建てられた物だからな。危険な外郭に出ない様に各支部を増築して無理矢理L社としての領地を広げて生活圏を使ったんだ。1億の人口を1社のみで賄おうとするなら効率よくやんなきゃいけないし、その時はまだ誤認の法則なんてのも無かったから次に向けて土地の売買なんてのもやってたんだ」

 

 誤認の法則は…人格の知ってる事に置き換わる云々かな?どうやら過去の周回ではそういうのは無かったみたい。

 それにしても次に向けての土地か…一周する度に土地も時間も増えていくなら、その前にはその土地も時間もない筈何だけど…

 

[まだ無い物を売り買いできるの?]

 

「そりゃできるさ。記録にとって人格は自身そのものであると同時にその周囲環境、土地も併せて手に入る物なんだ。それを売れば可能性を加工した通貨が手に入って、それを使えば強くなれるし他の人格になる事もできる。理想的な人格を手に入れたならその将来を固定化する為にも金を使うし、人格を変えたからと言って売った土地や人格が消える訳でも無い」

 

 他人に売れば当然消える訳ないんだけど…態々言うって事は消える売り先があるって事でいいのかな?

 

[売って買うのを繰り返す程総量は増えるんだね]

 

 取り敢えずブラフを入れてみた。

 そういえば人格の話の中にL社が裏路地をどんどん取り込んで巣を大きくしてるってあったけど…これが合ってるならこの売り買いの事だろうね。

 

()()()()。だからみんな眼の色を真っ赤にして大量の商品に書かれた数字を睨んで、その増えた減ったに狂乱してたんだ。裏路地の下等文化しか知らない奴が次の日には翼の幹部になって、それを通貨を使って自身を強くした奴に奪われて、売られたその人格を求めてまた争い合って…全部失くした奴はL社が社員として迎入れてたな。福祉に力を注いでますなんて言いながら」

 

 幾らか話が飛んでるけど、多分

 何かを使って人格を取り入れる。今の人格と取り入れたもので悪い方を通貨、紐にする。紐を使って強くなる。をずっとやってたのは理解した。

 …〖タブーハンター〗のミョの事を思い出した。誰でもL社に入れるんじゃ無くて、どこにも行けなくなった人が最後の最後で辿り着くのがL社だったみたい。

 

「ま、所詮過ぎた話だなっと。到着だ」

 

 質問している内にどうやら着いたみたい。地下3階の一角にあったそのお店は扉に杖事務所と書いてあって、どうやら便利屋の事務所らしい。

 

[ここで何するの?]

 

「臨時バイト。L社案件の依頼を一つ貰うんだよ」

 

 …〖XX社〗のキャット……いやまだ答えを出すのは早いだろう。

 

 ローランは自然な動作で扉を開けて侵入し、自然な動作で髪が長く眼が隠れた人の心臓を切り抜き、自然な動作でその心臓を食べ

 

「おや、マルティナさん。突然立ってどうされましたか?」

「座りっぱなしでしたから…少し気分転換に伸びを…」

「ああ!かれこれ4時間はこうして事務作業をしてますからね!この高級義体でもなければ少々辛い事でしょう!」

「……まあ。はい」

 

 何事も無かったかの様に元々彼女の座っていた場所に座った。

 …なんで誰も気づいて無いんだろう。ローランに鞄に仕舞われながら私はそう考えるけど、これが弱体化していたとはいえ黒い沈黙を倒した実力かという納得もあった。

 マルティナの姿そのままに中身はローランなので、どうやらローランは人格の容姿の切り替えが上手みたい。

 とは言え近くに演じやすそうな男性が1人居たし、態々女性の方を選ぶ理由が分からない。顔を隠せるかどうかで選んだのだろうか。

 その思考は、頭をディスプレイにした男の手がふと止まり、考え込んでいるのか腕を組んだ事で中断された。

 

「…ふむ。皆さん。手を止めてコチラまで来て下さい」

「…どうしましたか」

「ネモ社長。何か問題でも?」

 

 どうしたのかとネモ社長の持っている書類を覗いてみると、成程。ローランが何故こんな事をしたのか理解した。

 

「合同研究の契約立会人の依頼ですか。珍しいですね、こういうのってその会社単独で成果を挙げて利益を独占するのが多いのに」

「…大抵は…それを奪われない為の契約何だけど」

「ええ!そうでしょう。ですがこの契約、どうやら今話題のL社からの依頼!報酬も前金だけで向こう3ヶ月は休んでも事務所が潰れない大金です!はい!怪しいことこの上無い!」

 

 そこに書かれてあったのは、L社とXX社の合同研究の契約、その立会人になって欲しいという事の書かれた契約だった。…あれこの時期の話だったんだね?

 

「怪しいですが…断るのはあまりに惜しい!今は経営難ですからね。世間の情勢の都合で契約を結ぶ方々が尽くいらっしゃらない。ですので皆さん、一人頭の前金の額は覚えましたね?しっかりこの予算で準備を整えて下さい。私もこれから最高級の食事で体調を整えますので!」

「了解です。今の仕事は他の事務所に任せられる範囲内なので下請けしておきますね」

「…なら工房で武器の点検をやろうかな…強化施術の調子も確かめないと…」

 

 そうしてその日は細々とした事を済ませ、退勤となった。明日には顔合わせや契約の調整をするみたい。

 マルティナ…ローランは手袋をマルティナの方に持ち替えながら強化施術の調子を確認して、その日をマルティナの家で寝て終わらせた。

 

[…今なら行けるかな?]

 

 むくりと、マルティナの長身の身体が起き上がる。深夜、私はフィン達で覚えた人格の操作で早速外用の服を着て、それから鞄に財布とペンなどを持って夜の街に繰り出した。

 

 アルガリアの言っていた事を行う為だ。人格補填保証。何なのかは知らないけど、どうあれあって困る事は無いだろう。

 それに、一日ローランと過ごして何と無く分かったけど、彼はまだ妻の事を諦めて無いと思う。

 そもそも、アインがここにいる記録全てを送り返すなら、ここで固定化された未来も反映される様なやり方じゃ無いと意味が無いと思うのだ。じゃ無いと、ちょっと奇妙な夢を見た程度の名残りしか無いとか、私達が苦労した記録がその程度に扱われる可能性は0にはならない。

 

 彼はそんな事にならない様にしているはずだ。根拠は勘とか、そういうふんわりした物だけど、この確信は間違いないと思う。

 多分、情報を沢山集めただろうローランはこの事を知っているのだろうね?ガリオンの人格の話を思い返してみればローランがいた気がするし、最後に私を材料に妻を蘇生とかそういう感じで裏切られる覚悟はした方がいいだろう。

 どうやら、この世界は幻想体を活用した技術が多いみたいだし、溶ける愛を肉体に…とかやりそうだ。溶ける愛っていう子が何なのかは知らないけれど。

 

[何であれ、準備は万全にする物だよね?]

 

 そう独り言を言って、私はどうにか保険屋のダンテに会うことが出来た。賞賛するべきなのはこの大きなお店の集合体を全て理解している案内の人だろう。少しお金を渡して、総額に比べたら微々たる物だけど…マルティナには謝罪した方が良いだろうね?

 

「では、人格補填保証が適用されるか検査させて頂きますね」

[はい、お願いします]

 

 しかし都合がいい。ローランの選んだ手段で杖事務所に行って、そこと同じ階に保険の審査依頼の事務所があるとは。今の私…元々のダンテの私もだけど、保険には入った覚えはないけどいけるのだろうか。不安だが、取り敢えずやるだけなら審査代でマルティナの資産が減るだけだ。

…本当にごめん。

 

 不安を抱えながら待つ事3時間。そろそろ寝具に戻らないとバレるかなと心配になってくる中、保険屋のダンテが戻ってきた。その後ろから何人もセブン協会の制服を着た人に、紫と白の縦縞の服を着た集団を引き連れて。

 その上、何やら冷や汗をハンカチで拭きながら私に一礼する。…何か…あったんだね?

 

「お待たせ致しました。ウーフィ協会とセブン協会、契約者から確認が取れましたのでコチラ、〈秘匿契約につき認識不可〉の全項目を実行させて頂きます」

 

 何と言ったのか、肝心の具体的な内容が大音量のモスキート音で全く聞こえない。それどころか、視界が揺れ、景色が何重にもぶれていく。思わず、座っていられずに床に倒れてしまった。

 

「この度はご契約の程、お疲れ様でした。暫くの休暇をどうか、お楽しみ下さい」

 

 それから、暫く。

 私は暗闇の中である一人の感情を知る事になった。

 

 


 

 

囚人の違う鏡の物語XIII-証言1「血溜まりの幻想体」

LCB ダンテ(「こっち」)→LCB ダンテ(『あっち』)→LCB アイン→LCB アンジェラ→【◼︎◼︎◼︎◼︎(◻︎◻︎◻︎◻︎)】→開花 E.G.O::心理学の階→幻想体 触れてはならない→::◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎→黄金の枝→

 

 

 それは血に塗れていた

 

 永く外郭で放って置かれたそれは いつの間にか赤い紅の水溜りを作りだした

 不思議と乾かず 草木にも吸われず 肉が溶け 骨が朽ちても ただ同じだけの血が留まっていた

 

 ある宵 満月が血溜まりに映された

 

 寄り添う木が枯れ果て 倒れて 故に映された月は 日が昇っても血の中に残り続けた

 

 真っ赤な月が ずっと変わらずに残り続けた

 

 それ以来 その世界では月は赤いものとなった

 

 ある日 空から井戸のような道が降りてきた

 

 赤い水は 井戸に掬われ L社支部の幻想体となった

 

 楽しい日々が続いた 私の望みが続いた世界だったから 喜んで力も資源も与えた

 

 3日の光と 4日の暗闇が訪れた

 

 地下の枝が強く光り また新たな道が現れた

 

 赤い水は 楽しい日々できた友と共に 新たな道を歩んだ

 

 新たな世界は 全てが真っ白な種だった 赤い水は ここで念願の夢を叶える事にした

 

 月の狂気に身を沈めながら 何をしたかったかも忘れてね

 

 

思い出して そして秘めて

 

そうすれば あなたの成りたいあなたになれるわ

 

それが あなた()の為になる

 

 

分かったわ

 

 

 


 

 

[…は!随分と長く寝ていたみたいだ]

 

 気がつけば、私はマルティナの部屋で寝ていた。全て夢だったのかと思ったけど、机の上に領収書や次のご利用お待ちしておりますの文面が踊った保険案内のパンフレットを見て現実だと理解する。どうやらやれるだけの事はやれたらしい。

 取り敢えずはバラバラにして外のゴミ捨て場の袋の一つに入れておき、念を入れて軽く匂いも消してからベットに戻った。

 

「ふぁあ。おはよう〜なんて、寝ることが出来てましたか?旅人さん」

 

[寝れてはないかな。ここでは私は自力で寝る事ができないから]

 

「おっと、これは失礼。それじゃあせめて美味しい朝食でも食べて、楽しくお喋りとしましょう」

 

 マルティナの口調とローランのおちゃらけな口調が合わさって変な事になってるけど、多分人格が多少混ざってるか、その演技だろう。そうしてなんて事のない、この料理は好きか、囚人って誰がいるのかとか聞いたり聞かれたりしている内に食べ終わり、何だかんだと出勤して、L社本部に来た。

 

「では皆さま!準備は済ませましたね?契約の内容は頭に詰め込みました?武器や施術の調子は?まさか今になって体調を崩すなんてあり得ませんからね!では!調子良く行きましょうか!」

「はい!行きましょう」

「無事に終わってくれたら良いんですけど…」

 

 そうして案内を受けて、蒼色の髪の女性、アンジェラと会った。随分と久しぶりに感じるけど、相変わらず眼を閉じて多弁に仕事内容を伝えられる。

 

「お越し下さりありがとうございます。私はこの会社の秘書にして貴方達に契約の立会人を依頼したもの、アンジェラと申します。では、契約場所へ案内しながらにはなりますが仕事のご説明をさせて頂きますね」

 

「これはこれは!随分とご親切な方だ。この度は私達杖事務所を「では、ご説明を。貴方達はこれよりある会社の研究所の人員との契約の立会人になって頂きます。この際、一言も発言する事は許されません。行われた場合、即刻契約違反とみなし退場させて頂きます。当然依頼も失敗、報酬も支払いません。ですが、このくらいでしたら貴方達なら容易い事でしょう。そして、こうお考えでは無いですか?それならもっと武力のある事務所やウーフィ協会の方が適任では無いかと。しかしそうでは無いのです。この度の契約、お相手に問題がありまして、多少常識が我々と異なる環境から来訪した物であるからです。そこではどうも貴方達のような出で立ちが最も信用のおける組織の者と同様らしく、それならばこうした経験も豊富だろう貴方達に依頼する事が最も確実であると結論付けました。ですのでこれから貴方達に行って頂く仕事は相手の表情や思考を読み解き少しでもL社に有利な条件を呑ませる事にあります。公平な契約では御座いませんので、でしたらウーフィ協会やそこに所属した事務所よりは適任だというのも貴方達を雇った理由に加えてもいいでしょうねそういう訳ですので、これから短い時間ではありますが簡単なジェスチャーや視線での合図を覚えて頂きます。ああ、それからそちらの女性には簡単な給仕も頼みますね。L社では今事業の拡大や業務の大規模化によって人員の不足が深刻でして、誠勝手ではありますがそういった事も業務の一環に加えさせて頂きます。それから…

 

 それ以上はよく覚えていないけど、兎に角マルティナはお茶出しやらもやる事になったのは分かった。ネモは初めの印象と違って随分と喋る事に面食らっていたみたいだけど、情報が不足しているよりはマシだと渡された資料を見ながら黙って聞く事にしたみたい。

 

 そうやって休む間もなく会議室らしき部屋に来て、ローランは隙を見て契約現場から逃れる事に成功する。女性だからという理由で給仕を任されたからそれを利用して茶菓子を持ってくると言い、そのままその場を後にしたからだ。

 バトラーじゃ無いんだぞって言ってたけど、どういう意味なのかは分からなかった。生憎聞く時間は無かったから、仕方ない。

 

「さーてと、この為の蟲師ってね」

 

 地下に降りるエレベーターまで一直線に行って、人格を切り替えて、何やら緑色の盃に水を注ぐと明らかに注いだ以上の何かが溢れてエネルギーボックスに溜まっていく。エレベーターの電源が付き、黒い仮面を被るとそのまま認証が通って下に転移する。

 

 そこには、

 

「緊急事態レベル2!各人員は指示に従い警戒を!赤い霧が眼を覚まします!」

「職員に通達、オフィサーの皆様は黄金の魔法陣が見えたら直ちにそこから避難を!幻想体に出会ったら逃亡を!」

「てめぇら!死んだなってなったらこの俺ジョシュアを盾にしな!なーに、絶望の騎士の加護を貰ったんだ、死にやしねぇ!」

「今視線向けたの誰だよ」

「魔法少女の名にかけて!私がここにやって来た!回復は任せて!支援していくよ!」

 

「…タイミング最悪だな。こりゃ」

 

 果たして、赤い警戒色の光で照らされた通路と、血濡れた廊下。

 そこでは、何人もの職員と幻想体が明日の為に働いていた。……混乱の中ならバレにくい筈だから…でも赤い霧が彷徨いてる中は…運がなかったね?

 

「まあ、なんだっていいか。確か…福祉チームだっけな。…んじゃ死なない程度に押し通るとしよう」

 

[本当に気をつけて。抑制出来てるか怪しいから普通に強いよ]

 

「分かってますって」

 

 クリフォト抑止力が無くても働き蜂とかは1級フィクサー…で合ってるよね?で倒せていたからその辺りならローランでもなんとかなると思うけど、だからと言ってその親玉の幻想体が出て来たら相当にまずい事になる。何より、何回も殺されたからだろう。赤い霧が彷徨いてるのが何より怖かった。

 

 そうして先に進もうとして、

 

[後ろから槍で加速して来る]

「敵見っけ。天国を見せようか?」

 

 残念な事に先程チラリと見た職員の一人が襲いかかって来た。視線云々言ってたしもしかしてと思ってたけど、案の定だった。

 

 寸前の所で大剣…ローランから流れてくる知識によるとホイールズ・インダストリーの武器で防ぎ、返しに直剣…デュランダルで返して絡め落としてながら懐に潜り込んで狼牙の短剣で心臓を刺し、足払い。職員が槍を地面に刺す。地面に倒れた所をアラスの斧で頭をかち割ろうとして、横に跳ねる。

 

 さっきまでいた場所に無数の枝分かれした赤い刺突が通り過ぎた。相手である青年の手に持つ真っ赤な槍がその技の原因なのは明らかだった。流石にL社の本部なだけはあるのか、強そうな武器だ。

 

つれないな!」

 

 ロジックアトリエの銃の3つの弾痕が相手に残り、二つのケヤキの武器、棍の一つを飛び出してくる槍で弾き、砕けた槍の欠片から更に枝分かれした槍を斧の方で生えた枝ごと相手を切り飛ばし宙に浮かせる。

 横から飛んできた赤い枝を最小限に前へ動いて避けつつ、地面につく前に仕留められると判断する。

 老いた少年のハンマーで頭を殴り、混乱した所でムクの太刀で斬り殺し、ついでにバイタルをリアルタイムで確認し死亡した情報を送ろうとするPDAを叩き壊した。

 

「ま、今の実力じゃこんなものか。…急がないとマズい事になったな」

 

[その内死体に気づくだろうしね]

 

 穂先が分裂する槍、刺した箇所からの追撃の枝、追撃の枝から更に枝分かれして射出される時間差の不意打ち。四方八方からの攻撃の圧は強いけど、ローランにとっては何とかなる範囲だったみたい。

 多分赤い霧と職員の戦い流れ弾だろう黄金の魔法陣が目の前に現れたので急ぎ足で横を通りつつ、同時に壁を無視して飛んできたE.G.Oの武器らしき物を避けて、早いところ済ませないとマズいなと思いながら、前来た時にサルヴァドールと一緒に見た黄色くて広い場所に到着した。

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!!!!

 

 赤い霧が横を通り過ぎていった。

 

「追え!追え!」

「知らない人いる!」

「気にするな新しい事務の人だろ。処刑し忘れか?まあ挨拶より赤い霧が先だ!」

「なあこれエレベーターで分散して待機した方が確実に攻撃の機会あるんじゃ」

「管理人に言え!」

「管理人今墓穴の桜の方やってると思うよ」

 

「お疲れ様でーす。頑張って下さーい」

 

 それを追うようにL社の職員も通り過ぎた。ローランは素知らぬ顔で挨拶して通り過ぎた。

 

[事務の人って全く会ってないけどいるんだ…]

 

「そりゃいるさ。大方赤い霧か…処刑弾って言ってたし管理人に殺されたんだろうけど」

 

 …大多数がああやってスルーするのなら、いきなり襲って来たあの社員は何だったんだろうね?余程勘が良かったのかな。

 

 そうして無事に大広間を抜け、結構あっさりと溶ける愛がいるらしい紺色の部門に辿り着いた。

 

 扉を開けて、絶望と目的の子がいた。

 

[突っ込んで強行突破]

「撤退だよ!!」

 

 扉の先に何が有ったのか?それについては開けた扉から私達を追って飛び出して来た狼に、トナカイに、真っ白な楕円に、空飛ぶ赤い花に、狼と争っていたのか死にかけいる火の鳥に、鍵穴のついた箱に、目的のピンク色の粘液、溶ける愛の7体もの幻想体。目的の子は居たけれど、間違いなくローランは死にそうな数だった。百鬼夜行、ワイルドハント、群れの暴走(スタンピード)、どうとでも言えるけど、今はこう言った方がいいだろうね?

 

 

「[収容違反だ!]」

 

 

 初めに襲いかかったのは、青い眼光を放つ傷だらけの大きな狼だった。気づかれる前、扉を開けた瞬間に見た様子では攻撃前に立ち止まる動きをしていて、予備動作があった。

 

[緩急をつけて走る方がいい。攻撃をし始めたら加速して離れよう]

「よくもまあ出会って数秒の幻想体相手にそこまで対処法を作れるな!」

 

 向こうのほうが速いから一先ずゆっくりと、噛み付く直前に合図を出して距離を取る。すぐに追いつかれるけど、また繰り返せば怖くは無い。

 

「…アンジェリカ?」

 

 次に来たのは暗くなる視界。目の前にいる幻想体以外からの干渉。

 どうやら目の前の7体以外にもいるみたいだった。

 不自然に関節が長く伸び、長い髪に隠れた女の幻覚。ローランにはそれが妻に見えているみたい。隠してる場合じゃ無いから身体の操作を奪ってバク転。狼の上を通って手元で武器を確認の為に交換し続けて手袋に記憶させながら紺色の扉に突入する。

 

『メリークリスマス!!!』

 

 出迎えは悪趣味なソリに引かれるトナカイのプレゼントだった。

 箱から飛び出すツリーなのかよくわからない塊を避け

 アラスの槍で深く差し込みそこを起点に回転し飛び越え

 その先にいた(I_I)こんな感じの鏡ダンジョンで見た楕円の奴に老いた少年のハンマーで少し切られつつも殴りながらその衝撃を利用して頭上を通り

 目の前に現れた青い魔法陣から放たれた弾丸をホイールズ・インダストリーの大剣を地面に刺してその上に立って回避し

 剣を回収しつつ赤い花を頭に持つ空飛ぶ蛇みたいなのにムクの太刀で虹色の棘の塊を跳ね返し

 死にかけてた真っ赤に燃え盛る鳥をロジックアトリエでトドメを刺して正面突破し

 デュランダルの直剣で鍵穴から覗く眼を見なかったこにしながら切り掛かって、甲高い金属音。

 

 想定以上に硬い。判断ミスをしたみたいだ。

 

「…違う。お前はアンジェリカなんかじゃ…あ?」

 

 間が悪い事に、ローランも目を覚ます。操作を放棄し、ローランに命を捨てさせる事にした。何か私的な目的がありそうで心苦しいけど、それは諦めてもらう事にする。最後まで私が身体を操作しないのは、命を捨てる判断くらいは本人にさせてあげたい親切心だった。

 

[死ぬけど私を溶ける愛に渡して確実に次に繋げるか、死なない事を祈って私を抱えて次がある事に全て賭けるか、選んで]

 

「………くそが」

 

 結局、ローランが何をしようとしていたのか。

 実の所、それについては予想はついていた。

 この鏡の世界で彼は自分の妻を助けようとしていて、助けてもその事実が他の自分に取られて結局死なせる事を繰り返していた。

 だからそれを自分だけの物にする為に、私を使って何かしようとしていたみたい。

 その手段については興味は無いけれど、多分、死ぬのを自分にしようとしていたんじゃないかな。…違うな。正しくは助けた上で自分も生き残り、それを別の自分に取られないようにしようとしていた…かな?

 まあ、カロンがアルガリアの妹の立場の人物としてアンジェリカの身体を使ってたし、ローランの立場にはガーネットが居たし、結局無理だったんだろうね?

 

 

「やっぱり溶けてないな」

 

 

 硝子片がピンクの粘液に刺さる。ローランは私に変化が無いのを見て安堵したように息を吐いて、黒い仮面を被った。そして何処からともなく燃える火の鳥の羽の剣…E.G.Oを出して振りかぶり、辺り一帯を火に包み込む。幻想体達が燃えて苦しむ。暫くは話す時間が出来たようだった。

 そしてこのE.G.Oは幻覚を見てる間に私が倒した火の鳥からの贈り物のようだった。

 私は全く気づいてなかったけど、どうやらローランには気づける何かがあったみたい。

 …それよりも気になる事があった。予定調和と言わんばかりの平然とした雰囲気で、溶けることを前提にしていたのにやっぱりと言っているのが引っかかった。

 

[動かしてる間の事覚えてたの?]

 

「保険が適用されるか聞きに行く途中からな。さっきも幻想体の精神攻撃に合わせて幻覚にかかってるフリをしてたし…ま、上手くいったようで良かった良かった」

 

[騙してたって事?]

 

「最初からさっきのくそがって言う所までは演技だったな」

 

[えぇ…]

 

「ああ、嘘は言ってないからな?印象しか誘導してないし、騙した理由も言わないからな?情報系フィクサーがそこら辺を間違えると期待するだけ無駄って奴だ」

 

[逆にすごいね!?]

 

 動かしてる間は向こうにも意識はあるみたいだった。それと、まんまと騙されたみたい。それも全部。何処をどう騙されたのかも分からないし…一級のフィクサーってこんな事やれるんだ。

 兎に角、今の自分がローランにとって都合のいい状態である事しか分からなかった。

 溶ける愛が津波になってローランを取り込もうとして、クリスタルアトリエで斬り払った。

 

「自分が有利だと思うと油断するのは悪い癖だな。そこらのみじかめ料取ってる組織のボスとかにありがちだから、こうして意図通りに動いてるって思わせると簡単に依頼をこなせるんだ」

 

[そこらの組織のボス]

 

 溶ける愛がまた襲い掛かると、ローランは狼牙の短剣で心臓から鍵を取り出して捻り、扉が開かれてその中に飛び込んでしまった。

 扉が閉じていく中、身を燃やす火に慣れたのか再び殺しにくる幻想体をさっきまでの私の苦戦はどこへやら。次々と殺しながら、闇に身を隠して行く。…私が動いてたときよりも強い一撃だった。

 

 そうして、最後に聞こえたのはこの一言だった。

 

「それじゃ依頼も達成したし、やれる事をやるか」

 

 


 

 

[情報を扱うフィクサーってヤバいのしかいないのか?]

 

 思えば、モーゼスも五本指とかいう組織全部同時に相手にして有利に立ち回ってたし、もしかしたらセブン協会とか情報を扱う組織はヤバいのが隠れ潜んでいるのかもしれない。ローランみたいに最初から最後まで演技だったってありそうだし。

 

[…嘘は言わずに印象操作だけで私を誘導してた?どこで…保険のとこ?]

 

 後は杖事務所のフィクサーの人格を被って調子を確かめてたのも私がある程度動けるように見せてたとか…性能を落として使いこなせる範囲にしてたとか…私を手放した途端強くなってたし…もう全部怪しかった。

 最初からと言われてもローランは見た目も取り込んだ人格に変えられるから、ガーネットからそうだったかもしれないし本当に分からない。少なくとも、ヴェルギリウスは赤の他人だと判断していた。

 

[…考えても埒が開かないね?]

 

 兎に角、今と向き合う方が先だった。

 そうしようにも、図書館の中やたらめったら光しか無い景色に包まれる中で、途方にくれていた。

 

『あなたはだれ?』

[誰だろうね…]

 

 さっきから私が誰なのか聞いてくる幻想体。溶ける愛の事だ。辺りが光で包まれてるのを見るに時間とか無さそうな感じだし、どうすればいいか次に行けるのか、そもそも次は誰なのかも不明だった。

 

 兎に角、こうなった以上は自分でなんとかしなければならないだろう。フィン達やローランみたいに溶ける愛の身体を動かせるか試してみると、今までと違って巨大な重りを全身に纏ったような感覚になる。とてもじゃ無いけど動けそうにもなかった。

 

『何かしたい?行きたい?愛されたいの?』

 

[…ああー、手伝ってくれたりする?]

 

『逃げなきゃいけないわ ここから 愛する貴方の為に でもそうするのは難しいわ もっと愛する為に私と一つになりましょう?』

 

 言葉が交わせてるのか疑問ではあるけど、動く意思は確認できた。鏡ダンジョンで会う幻想体達と同様に的確に答える必要があるだろうね。

 

[二人で逃げ出そう]

 

 果たしてこれで合っているのか。一つになるのは死にそうだし、留まるのはダメだからこう答えるしか無いけれど、この幻想体は今まで会って来た幻想体の中でオーケストラとか赤い人型のとかやたら気持ち悪い奴とかと同じくらいには下手をすると不味い気配がするから、漠然とした不安が膨れてくる。

 

 ピンク色の粘液が抓って人や怪物の姿を表面に描きながら、思考するように蠢く。

 暫くそうして、ピタリと止まり人の形になった。

 

『そうね 一緒に行きましょう 愛する二人はいつもそうしてるわ みんな溶かしましょう それが愛の巣となるのだから』

 

 なんだか上手くいったみたい。ピンク色の手を握ったり開いたりして、私に合わせて私を囲う重りが動く。どうやらこの重りは幻想体の意思の様なものらしかった。

 タッタッタとステップを踏み、ピンク色の()()が翻る。どうにもダンテの身体では無い。無い筈の髪が後ろで一纏めにしてあるし、女性の身体だ。何と無く、眼は赤いだろうなと感じる。これは、本来の自分という奴だろうね?

 

『…幻想体 それも凄く頼りになりそうな子…次が見つかるまでは何とかなりそうかな?』

 

 この光に満ちた場所ならあちこち行かなくても遠目に見える人のいる場所に行けばすぐ次に行けるだろう。さっきローランに指摘されたような油断もしないようにして、一歩ずつ積み重ねていこう。

 

 足を進めて、思考の片隅で何で次に行くのか、行ってどうなるかは考えない事にした。前も似た結論を出した気がするけど、これまで散々考えて、それが意味のない事だといい加減に気づいたから。

 

 だって

 

『都市って そういうものでしょ?』

 

「ッ!?」

 

 グシャリと、いつの間にか点在する血溜まりと血管が敷き詰められた場所に出る。身体が変わり、心臓から伸びる血管が人型を作り頭部と繋がる。白衣は血に汚れ、ピンク色の粘体は人肌や衣服のそれに変化していた。

 それに伴って力の使い方や戦い方が、本のページに書き加えるみたいに幻想体の力を使いこなす為の情報が継ぎ足されている感覚。血の方は大量の情報を、心臓の方は少しだけ貰えた事から多少は気に入られたのか。

 …どうやら溶ける愛とは別の幻想体が勝手に私に協力みたいな事をしたようだった。特に血の方。

 

 目の前に居たのはここに来る事になった原因。アンジェラの姿だった。困惑と混乱。居るはずのない人を目の前にしたみたいに戸惑っていた。

 折角幻想体が協力してくれてるからそれまでの憂さ晴らしと次に一緒に行く人物か確認も兼ねて殴る事にした。

 取り敢えず硝子片を刺せばいいだろうか。…そう言えば次に行く為の扉って心臓から出すけど、溶ける愛の心臓って何処だろうか。

 一旦棚上げしておく事にした。

 

『誰かと一緒に平和に生きようとしても いつだってどこかの理不尽が脈略も無く襲いかかる』

 

 ここに来るまで、本当に私に関係なく幻想体での都市崩壊とか、殺し合いとか、ヘイローとか、源石とか、別の因縁が襲ってきた。

 結局サルヴァドールとの時の、急な時間の巻き戻りとかハチジハーンって叫んでたの何処の影響だったの本当?

 

『今より良くしようとしても その目指す先が違うから散り散りに別れて結局別の地獄にしかならない』

 

 アルガリアの時とモーゼスの時は本当にそう思った。みんな仲良く手段が蹴落とす一択だったし。

 そしてどっちも案内とか紹介とか全然しないから急にこれを見せて何がしたいのって思ったっけ。話せるようになって漸く解るようになったからフィン君達はいい子だ。

 言葉が通じなくても教えてくれたサルヴァドールはもっといい子だ。

 

『どれだけ試行を重ねても 結局行き着く果ては地獄でしょうね だったら 今楽になった方がいいと思うわよ?』

 

 実際、見てきたのだから。アンジェラなんて会うたびに姿も変わってたし、人格のストーリーを見るにL社でだいぶ苦労していたし、ここで止まった方が彼女のためだと思う。そう考える事で私怨の正当化をした。

 

「…それでも、私達はより良い自分に成れると信じて進むわ。人であろうとする事は、そういう苦難も飲み込んで進むという事なのだから」

 

『関わりとは苦痛よ』

「繋がりとはお互いの為よ」

 

『希望とは幻想よ』

「理想とは勇気を持って信じることよ」

 

『夢とは泡沫よ』

「望みとは一瞬を永遠にする行いよ」

 

『ほら 噛み合わない(理解し合えない)

「貴女に憧れる人は沢山居るでしょうね」

 

『真似っこばかりなのはどっちなのやら』

「…どっちも、じゃないかしら?」

 

 当たり前だけど、過去のアンジェラにとって未来にいる私の言葉は意味がなかったみたい。

 私にとっては過去であるアンジェラを知ろうともしてないから、バランスは良いわね?

 

 結局アンジェラが何の話をしているのかは分からなかったけど、結局歩み寄らないといつまでも話にならない事は確かだった。

 

 1手目、周囲を囲んでいる血管を掌を握り締め、鞭のように叩いて地面をうねらせ、心臓の鼓動を速めて加速する。

 波打つ血管の一部を壁に多角的に飛んで、血管を捻って作った槍で突撃し

 

「はにかみ」

 

 アンジェラの持っていた本のページが光り、人の皮を被った幻想体が槍を防いだので槍から噴き出した血を辺りにばら撒く。強化施術をしてなければ肌が焼け爛れる温度の血の雨、アンジェラには視界を塞ぐ程度なので続けて血溜まりを踏んで地面から針状にした血で追撃する。

 これも人の皮を被った幻想体が皮を広げて防がれた。

 

「友達の証。か細い深紅の翼」

 

 隕石とついさっき見た気がする赤い枝の投擲。いつか見たヴェルギリウスがやっていたのを真似て血の壁で防ぎ、血の壁を回転し穿って進もうとする枝は血の壁に混ぜた血管を絡めて赤い枝の速度を殺した。粘つく血は大層進み辛いようだ。

 

 2手目、普通にやっても無理そうなので不意打ちする事にした。周囲の空間を構築する血管に心臓から溢れる血を流し、支配する。心臓の方はあまり使い方が分かってないから血の方で無理矢理動かす事にした。

 そしてここで気づいたけど、どうにも協力してくれてるのは血のほうで心臓と血管は無理矢理させられてる感じがする。脅されて知らない人の手伝いをしてるみたいな感情が伝わってきていた。とはいえ、私としては何でか知らないけどアンジェラへの八つ当たりに力を貸してくれている以上感謝しか出来ないのだけれど。

 

 ともかく、何であれ今は誰の手も借りたいし、ローランの武器を真似て手に持った血管の形を変えた。反抗する感覚があるので骨組みとして活用する程度に抑えて肉付けは血を固めて対応する。

 

「!?…それは」

 

何か言っているが動揺した以外の情報は戦闘には余計だろうね?デュランダルの剣の形とアラスの槍を血の武器で型造り、こちらを近づけさせまいとする赤い枝の幻想体と宇宙の身体を持つ幻想体の投げ枝と流星群を捌いて近づきつつ、周囲の血管の支配も進めておく。

 ここまでの事をできるのも、今まで私が見聞きした事をしっかり再現できる溶ける愛の精密な動きによるものだった。想像以上に凄いねこの子。

 

「何故…」

 

 3歩。残り3歩で武器の射程に入るだろうけど、それを防いだとしても周囲の支配した血管による隙間のない連撃が待っている。それを防いでも心臓からの血飛沫水圧ビームに予想外の反撃も想定したサルヴァドールの剣術で対応すれば良い。自身の成長を感じた。…油断しているから気を引き締め直した。

 

「何故、この時点の◼︎◼︎◼︎◼︎がここまで強─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─

 

 

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬思考が停止する。

 

 

 止まった動きに赤い槍が、流星群が、人の皮で包んだハンマーが、全身に傷をつけていく。

 

『結局欲望のために武器を手に取るのね』

 

 血と心臓の2体の幻想体が、最後に私の口を借りてそう言った。

 

 

 舞台が代わり、木製の工房に変化する。凍えるほど冷たい冷気に満ちていて、何もかもが凍っていた。

 

 私は、氷のドレスを纏い、糸に吊られて操られてる人形のように宙ぶらりんになっていた。

 

 手に持っているのはボロボロの斧と氷の剣と翼。雪結晶の様な模様の翼だったけど、糸に吊られているんじゃ役には立たない飾りでしかない。

 

『………』

 

 …なるほど、勝手な行動は慎んだほうがいいし、特定の言葉で私は止まる様になったらしい。どう考えてもあの保険屋の顛末の影響だった。嫌になるね?

 ローラン的にはここで私は負けた方が都合が良さそうだ。保険屋に行くように誘導していたし、その結果が特定の言葉での思考停止ならそれに対応した戦い方をする必要がありそうかな?

 

『何で争うの 何で奪い合うの 疑問に答える人はついぞ現れず 人形は踊るばかりね』

 

 まずは時間稼ぎに無駄話でも挟むとしよう。血と心臓が勝手に口を借りたのを参考に幻想体に貸して集中する。

 取り敢えず新しく協力してくれそうにない幻想体の能力や特性を知る必要がありそうだった。さっきは色々とやたら親切な幻想体がいたから出来たってだけだし、これから行う戦い方には知識が必要だろう。

 

『なら操る糸の先を知れば全て何とかなる そうであれば私達はここまで苦しんで無いわ 知っても何も変わらない なら知る事に価値はあるのかしらね』

 

 糸人形工房西洋のデザイン。ここから観るに物語性があるから童話の幻想体。候補家クルミ割りピノキオ気まぐれ人形師テディベアお姫さまで内有力なのはピノキオか気まぐれ。能力は模倣か反映か。ピノキオなら嘘由来で気まぐれなら差異由来だろう。

 そこまで思考し、何となく何が出来るのか理解した。どうやらある程度正体が判ればある程度は使いこなせそうだ。ピノキオが由来でいいらしい。

 

『それでもと言い続けても変わらない 諦めるという変化を拒むのだから 結局辿り着くのは上辺だけの地獄ね』

 

 氷は人形と同じく童話由来ならどう考えても氷の女王だろうから氷で閉じ込めとか吹雪とかそこら辺だろう。何せいつの間にか私の周りに氷で模られた知らない人の模型が4体糸に吊られているし、合ってるよね?

 …合ってるみたい。人形より明確に力の扱いが上手くできる感覚がする。取り敢えず剣は振えそうだ。つまりまだ足りないね?

 

『嘘こそが人であるなら 私達はひとでなし 勇気が有っても助ける誰かも居ないなら 物語もだいなし そうで無いというなら その眼に友を映してみなさい』

 

 そして無駄話が終わってしまった。ピノキオと氷女王の二人の幻想体に口を貸して喋らせていたけど話が終わるのが案外早い。取り敢えずこの垂れ下がった糸を使って身体を動かせばいいみたい。一旦氷の剣を一振りして吹雪を襲わせる。

 

「愛情表現、棺」

 

 続けて斧で追撃するけど、熊の爪で鍔迫り合って防がれた。そこに撃ち込まれる白黒の蝶の弾丸に手向けの蝶が襲ってくる。

 

『棺』

 

 氷の剣から伝って熊の爪を、腕を凍らせ鈍くして弾き、蝶の動きを真似る事でボロボロの木製の銃を手の中に作り出して溶ける愛の精密な再現能力で弾丸を相殺しつつ氷の剣を振るい作った吹雪で蝶を冬眠させた。アンジェラさえ叩けばいいから殺すよりか簡単な方法で、幻想体達は氷に閉ざして封じておいた。このまま切り込んでも良いけれど…

 

『………』

 

 剣を床に刺して小細工して小休止。

 やはりと言えばいいのか、アンジェラは動かず、というより何も出来ず、私も動かないから睨み合いとなった。このまま突っ込んで行ってもさっきの二の舞になるだろうから、考える時間を作る。お互いに必要だったから簡単に戦闘は止まった。

 

 さて、ここまで勢いで戦ったが、違和感を感じる事はアンジェラが私が知ってるのより妙に弱い事と何故か何処からともなく湧いた協力してくる幻想体、そもそもここにアンジェラ以外の人がいるのかという点だろう。後図書館の中にいる筈なのに全然感情が昂ってこない。

 

 弱いのは前の時間に遡ってるからまだ解るけど、それにしたって光一面の空間の中にポツンとそれらしくいる割にはクリフォト抑止力下に置かれた幻想体を出すだけというのは少々片手落ちだ。これならE.G.Oを振り回してた方が強いし、L社で全てを差配してるなら一つや二つは持っていていいと思う。

 なんなら幻想体は時間経過で復活するからそれで数の暴力でもすれば良い。一度に全員出すだけでもそれなりに戦いになっただろうね?

 

『もしかしてアンジェラじゃなかったりする?』

 

「………」

 

 今度は自分で喋ってみる。何気にここでアンジェラと会って初めて自分から問いかけたかもしれない。

 そう言えばローランとか人格被りまくってたし、中身が違ってたりするのだろうか。アンジェラは確か◼︎◼︎◼︎◼︎を素に‭─‬‭─‬

 

 

‭─‬‭─‬あー、やっぱりなんかされてるのね私。体が硬直しているし、言えなくなってる。対策に仮称としてCとでも言い換えておく事にした。

 アンジェラもその隙を突こうとするけれど、事前に近づくのを条件にして小細工した氷の剣から無数の氷柱が発射されていて、貫かれてよろめいていた。

 これだとわざと負けるのも一苦労だろうね?今まで相対した悪意よりもずっと安易だった。

 

 身体の制御が戻ってくる。やっぱり幻想体の協力は一度だけしかダメみたい。手持ちが尽きたから動けないのだろう。ついでに縛っておこうかな?

 次を考えてみよう。このなんかいて協力してくれる幻想体達だ。溶ける愛はまだ解るとして血の奴と心臓と氷と人形はどこから来たのだろうか。ここが図書館なのは目を凝らすと光の向こうに図書館っぽい景色で分かってたけど、アレらは本の中に収まってたし、司書達に協力していた筈だ。間違っても館長に敵対するのは間違っている。

 何より何で頑張って力を引き出している私より直接来ている相手の方が弱いのか。溶ける愛が強いのは理由の一つだろうけど、余りにもあんまり…というより、血と心臓の時の赤い枝と宇宙の子達はどこに行ったのだろうか。あの子達もいればまだ厳しい戦いになっていただろう。

 

『…幻想体は時間経過でも居なくなるのね』

 

 そういえばと熊と蝶を見てみると、いつの間にか消えていて、割ってみると氷の中にはそれぞれ熊と蝶の型が出来ていた。他のところを見ても何処にも居ないし、消えたみたいだった。

 次を考える。とは言っても、アンジェラ以外の人の気配は無いし、感情が昂らないからこそこうして一旦手を止めて考えていられている。いつの間にか有った人形の入った4つの氷の檻は木目のある球体関節の人形だし、戦闘の音で誰か近づく気配も無い。となると次の案内人はアルジェラか幻想体の誰かだろうね?

 試しに氷の檻を全部ボロボロの人形の斧で叩き壊してみるけれど、人の等身大人形が雪の上にボサリと倒れただけだった。氷の欠片が人形の心臓に刺さっても居ないし、アンジェラって友達とか居ないのだろうか。

 

 アンジェラの方を見ると、ずっと吹雪が吹いていたからか、それとも凍りついていた工房に有った縄で考えてる間に縛り付けておいていたからか、これから処刑される罪人みたいに首を出し膝をついて死にかけていた。それじゃあ困るね?これじゃあ何をすれば良いのかも分からなくなる。

 勝手な事はするなって意思を誰とも知れずに感じていたが、そもそも何をして欲しいのか言われてないからこうなるとただ困るしか無くなるね?

 

『……どうせ、鍵は出さなきといけなかったし…』

 

 勝ちたいわけでも無かったし、殺したい訳でもない。八つ当たりはここら辺でおしまいで良いだろう。

 溶ける愛が人型である内に心臓から鍵を取り出す事にした。氷の剣で自身の心臓を貫き、鍵を出す。身体は溶ける愛のもののはずなのに血が噴き出ていた。きっとさっきの血と心臓の幻想体達のせいだろう。お陰で取り出せてはいるけど、自分で自分の心臓を切り抜くのは途轍もなく痛いし身体が寒くなる。

 

 辛いので横になった。鍵はしっかりと握ったまま、縛られた死体と自殺した死体があるのは何処か滑稽だと感じる。今までの割と躊躇なく取り出していた案内人達は何なんだろうと思いつつ、やけに熱い心臓を感じながら重い瞼を閉じた。

 

『勇敢なる勝利はなく 偽れる程の自己もない』

 

 

 心に余裕が出来た様な感覚。心に納めていた、いつの間にか居た何かが抜け出したような気分。何かが自分の中から抜け出した後、その跡を見る警備員になった気分だった。

 

 眼を開ければワンピースを来て手を後ろに回していた。手にはハンマーと10個に増えた鍵、周囲は豪華絢爛にステンドガラスもある。顔はにこやかな微笑みに固定化されているのが不快感を与えるけど、それよりも私と相対するアンジェラが酷い事になってるのが問題だった。

 

人を真似て 模倣して 奪い取って 成り代わって

 

 幻想体が口を借りて…違う。これは幻想体では無かった。自身の半分が勝手に喋っている感覚。つまりは、ダンテと誰かを下敷きにした私では無く、それで封じていたCの声だ。

 何となく察してはいたけど、やっぱりそこにも居たのか…多分もう何人かCがいるんだろうね?少なくともこれが幻想体としてのCなのは間違いないみたい。

 

中身のない 上辺だけ 罪の重なる

 

 私が大変な事になってるけど、アンジェラも大変だ。

 鏡が人の形をしていた。硝子が人の形をしていた。良く見れば、周りの全ての景色がガラスに映った物でしかなく、ガラスが物の形を取っているだけだ。

 ()()()()()()()()()

 

属せない 愛すことのない 向き合わない 変われない 悪に規定された なり損ないの罪の形

 

 共鳴の感覚。

 ようやく。と言うにも遅すぎただろう。幻想体未満と相対する感覚。ねじれとは異なる感覚。大罪と対する感覚。あまりに小さいから気のせいだと無意識に意識の外にやっていた物だった。

 

人格を模倣し 未来を確定する対価に成り変わり 人として降り立つ原初の命の船に混ざった悪 嫉妬と傲慢の大罪 それ以下の混ざり物

 

 …通りで弱いはずだった。元が強くても嫉妬の大罪というのが弱ければ意味がない。いや、これ自体が傲慢混じりの、大罪以下なのかな?

 ただ、それよりもCが口走った原初の命というこの鏡の世界で活動する者達が成り代わって、何処かの世界に入り込もうとしているという解釈ができる情報の方が問題かも知れなかった。

 

 え?未来を買う云々言っていたローランの話ってそういう事?もしかして成り変わり先の未来を買うって意味?何にでも成れるなら土地でも幻想体でも良いって事?他者から見たら同じだから問題なく未来を確定する特異点として活動出来そうなのが嫌になる。

 

だからこれは人に近づけてあげる慈悲 心を与える儀式となる

 

 てっきり倒すのかと思ったら違うみたい。どっちかと言えば手助けしようとしてる。

 

 そしてこれらを本当に他世界に向かえる様にして良いものか。…だからと言って私達が止めるための犠牲にはなりたくなかった。まだ私の目的は達してないから、それなら関係ない人達が犠牲になって欲しい。………私は本物のダンテじゃないからどっちみち無理だと思い出した。

 

『罪を刻む』

 

 避けられない罪の鍵が刻まれていく。誰かの記憶を見でもしたのか、心臓に鍵を打ち込まれては今まで一緒になってきた案内人達の姿に変わり続け、その身のガラスを散らしていく。人の形に近づき、中に出来る傷で色が変わり続ける。今までの案内人がずっとこの子だったのは予想外だった。通りで次の案内人を知っている筈で…となると結構長生きしてたね?溶ける愛には溶かされてたっぽいけど。

 

人を学び 長く生き 助け続けなさい それが人となる為の助けになるわ

 

 6つの鍵を刺した所で終わり、用はもうないとばかりに硝子片の私を頭に刺してから鍵を回して、扉を作りその場を後にする。…もしかして残りはCの人と一緒にいるのだろうか。気が滅入るけど受け入れるしか無いだろうね?

 

 Cの幻想体はいつの間にかワンピースから白衣に服装を変えていた。頭に刺した私に硝子を更に巻きつけて、煙突の様な形を取る。何か、過去に見た景色と重なる音がして、扉の先には何処かのオフィスの様な景色が広がっていた。

 

ここからは私に任せてちょうだい あなたを無事に送り届けてあげる

 

[…まさか貴女が案内人になるとは想像もしてなかった]

 

そう緊張しなくてもいいのよ ほんの一瞬で終わるわ

 

 本当に大丈夫だろうか。流れで案内人を見つけることが出来たのはいいけど、Cが持っている複数の鍵を見るにここからはずっとこの人と一緒という事になる。何を仕込まれるかも分からない恐怖がそこにあった。

 そんな事を考えてる間にCが扉を潜り抜ける。

 一瞬では合ったけど、幻想体の案内人も終わりだと思うと、ふと気になって閉じていく扉を見る。

 倒れている嫉妬の大罪?はピクリとせずにいたけれど……もう考えてもしょうがないよね?

 だって、扉が閉まる直前に私目掛けて飛び込んできたピンク色の粘体の

 

[……もが…ゔぉ…]

 

 隙間から景色を覗く、縛られている本体の私の顔面に粘りついた溶ける愛に、どうすれば最低限呼吸と会話の権利を勝ち取るかについて考えた方が、有意義だろうからね?

 

 


 

 

 L社の中だと思うけど、確信は無い。強いて言うなら最初に見た景色は図書館の総記の階と似てたと思う。

 息ができない。

 何分TT2起動とCが言ってから凄まじい早さで目まぐるしく全てが終わってしまったから、何も知る事ができなかったのだ。

 ガリオンの「波」もそうだけどみんな私の顔に恨みでもあるの?

 全てが早回しに動いていて、辛うじて見えたのはCが画面の向こうに映る幻想体や職員達に対してとてもたくさんの言葉を言っていたという事だけだ。

 正直助けて欲しい。息苦しいのは本当に無理なのだ。

 

 向こうがとても早いのか私が途轍もなく遅くなったのか。

 それともこの顔面張り付き丸ALEPH号のせいか。

 多分両方の併せ技でCが自由に動いていた事は確かだった。時間に関係する特異点か何かだと思うけど、生憎それに関して詳しくはないから確信は無い。

 愛があるのはいいけれどそれはそれとしてそろそろ死にそうだ。

 ただ、遅くなる感覚を味わって何だか自力で出来そうな感覚が出てきたのは確かだ。将来的に時計の義体の特性として扱えそうな感じがする。私に先は無いけれど。窒息死的な意味で。

 

 そうして暫くの気絶を経て、鍵を回して扉を潜ってたみたい。取り敢えずこの息苦しさは兎も角死なない事は理解した。触れ合ってた感じだと会話する分にはお願いして1回か2回が良いところかな?それ以上はこのピンクの彼女と同じになるだろう。

 アルガリアの時みたいにいやあの時はこんな苦しい想いはしてなかったわね?……まあ、訳が分からなかったけど、少なくとも鍵は後3つで、電車でアインと会った時から数えて扉は後2枚だから一つは余る事になる。仮に目的地まで辿り着いたとして、そこから更に進むとどうなるかは…まあ、考えるくらいならやってみる価値はあるだろうね?

 

 


 

 

 こつこつ

 

 つま先を床に叩いてから、大きく伸びをしてCは目の前を見据えた。

 

ようやく ね

 

[私にとってはすぐだったけどね]

 

 ふふ まあ 試練としての私を連れてくるのに時間かけただけだから そうとも言えるわね

 

 私から見たらCは途轍もなく素早く動いていたから、当たり前だけど私の数分は彼女にとって何万年に値する物だったみたい。

 

[鍵を使ってすぐに最後まで行かないんだね]

 

 すぐに終わったけど、L社の時はお互いの生きる時間が違いすぎて会話にならなかったから今聞いてみた。すぐに移動するだけでいいはずなのに、こうして色々と寄り道しているのは何なのか。気になったのだ。

 

それだと足りないわ 少しでも多く種を集めないと

 

[…種?]

 

光 希望 道標 ここでは新天地に向かう為の羅針盤扱いだったわね

 

 光の種。確か図書館で溢れてたE.G.Oの資源にも使えた奴だったか。

 

んー そうね 一から丁寧に追って行きましょう 終わりから見てるからややこしく見えるけど 事は結構単純よ

 

 どうやらこれまでと同様に説明してくれるらしいね?散々穴あきの説明だらけで正直半分聞き流ししたい気分なんだけど、最後っぽいし折角だからしっかり聞こうと思う。全部見てきた…人?だろうから、いうだけのことはある筈だ。

 

この世界が生まれたところから言いましょうか

それはある日の子供(ファウスト)が「硝子窓」と「鏡」を組み合わせて「人格」の技術を創る為の実験を子供(イサン)と一緒にやった所から始まるわ

 

 …恐らくは、外郭の地下。血濡れた白衣を翻して歩くCの足音と声が響く。廊下は死体と宝石と砂状の黄金が散らかって、見れば死体と宝石の表面が少しずつ動き続けていた。

 つまりは、死体も宝石も記録が擬態した姿なのだろうね?蟲みたいに動いていて気味が悪かった。黄金の砂は…何だろうか。Cは確か時間を巻き戻す仕組み作ってたみたいだしそれ関係かな?

 

「鏡の中に蝶を閉じ込めた実験に基づく効率的な可能性の収集方法の実験」 狂気を抱いて見識を使って少しずつ他の世界から引き摺り出す方法よりも画期的な方法の模索 時間がエンケファリンを少しずつ産み出すのと同じ様に放っておいてもより強い人格を手に入れられる仕組みの構築

 

ようするに 蠱毒よ

 

都市にそっくりな環境を鏡の中に作り上げて 人格を集め 殺し合わせ その中で強い人格を回収する

 

 凄い勢いで何処かで案内人達から聞いた話と重なる所が出てきた。そういえば列車が走ってたなーとか、心臓を沢山持った囚人達がいたなーとか、心当たりしか無かった。

 

結論から言えば失敗したわ 再現する筈の都市は草原程度にしか成らず 人格を集めるには囚人とダンテが必須な為に出鱈目な情報のクズしか集まらず 回収する機構は囚人のE.G.Oを利用しようとして逆に囚人E.G.Oの侵蝕をダメにした まだ研究が始まって間もない初期が故の失敗ね

 

子供(ファウスト)は21%の確率で成功していたと言っていたけれど 今はいいか そして後に残ったのは出鱈目な景色を映す手鏡一つ 子供(イサン)が大事に持っていて あなたに渡した物よ

 

[あ、知ってる範囲。そして私は貰った手鏡を割って、ここに行き来できる様になったんだよね]

 

んー ちょっと違うわ 正しくは割った結果()()()()()()()()()()のよ 私と一緒にね

 

[一緒に…閉じ込められた?]

 

 …閉じ込められてた?まさか「あっち」も『こっち』も、ずっとこの鏡の世界だったって事?というか、この人と同時に来たのにこの情報量の差は何故なのか。格差があるね?

 

そう 一緒にね そして閉じ込められた先に待っていたのは K社の再生ナノマシンという名の退化の原液 星から湧き出る根源の涙 悲劇が起きてない所まで戻って欲しいと願いの結論 それに浸かってそのまま拭かれなかった結果何日も影響を受けてこの世全ての命の最初にまで戻った情報のクズ 命の断片とも言うべき全ての卵

 

[イサン…なんで…あ、あ、あー、そして記憶処理…]

 

 そもそもなんでイサンは実験に失敗した手鏡をそんな所に漬けたのか。何となくは解る。

 きっと漬ける事が目的じゃなくて、それを掴んで欲しかったのだろうね?主にサムジョ。

 安全性の証明に飛び込んだサムジョに私達は挙句に動けなかったけど、イサンだけは涙の近くまで行って覗いていた所は私も見ていた。

 きっとこの時に手を入れる危険性やらなんやらをドンベクとドンランが言ったのを聞いて挙句に偶然持っていた手鏡を入れたのだろうね?イサンだしやりかねない。

 だけどサムジョはその時にはもう生も死もない状態、当然掴まれず、その後すぐにドンベクがE.G.Oに目覚めてそれどころじゃなくなり、心象ダンジョンで忘れ、記憶処理された時に全て忘れ、そして過去とのちょっとした区切りとして手鏡を私に渡した。イサンならやるだろう。

 

 その結果、付着したやばい液体がずっと触れたまま心象ダンジョンや幻想体の近くに置かれては、何が起きてもしょうがない気がしてきた。時間に関しては手鏡の中の力によるものだろう。T社辺りの人格で相当高名な立場の物でもあれば発展は容易だ。

 

 そうこう考えてるうちにCは研究室の一つの部屋を開けた。中には1つの死体と鏡で出来た木の様な幻想体があった。

 Cはそこに見える景色を、まるで幻想体本人であるみたいに全て自身に都合のいい時間軸の物に変えていき、最早全てを手に入れたとばかりにCはその景色に自分を差し入れていく。

 

そこまでなら 手鏡の中の物語はダンテが壊しておしまいだった だけど そうはならなかった 何故なら手鏡の中にあった情報の粉々には幻想体のものもあったから それらが巻き戻り 大体の姿を取り戻し その中には 血の風呂ではなく別の幻想体になった私もいた

 

ガリオンも言ってたわね 「空を目指す墨」「鏡の国の女王」「積み重ねた望み」「繋がり結ぶ心臓」「写された月」

 

 その中の一体だろうか。

 何故か自分の中で答えが出てきた。見たけど覚えてない事が唐突に思い出すみたいな感覚。多分ひっかけだから違ってるだろうけどね?

 

[……写された月?]

 

 

全部

 

 

[…すごく酷いことが起きてるね]

 

私もこんなに自分のレパートリーが多いとは思わなかったわ 世界が違えば案外変わるものね

 

 まさかの幻想体5体全部元々そうだったとは思わなかった。そりゃ他にどれだけ雑多な情報や人格がいても完璧な連携を決める幻想体が5体もいればこうもなるだろうね?…アインが自作した試練のCがいても多勢に影響がないと言うわけだ。5が6になってもそりゃ変わらないに決まっていた。

 

なんやかんやあって全て奪われた月 自分ではなく他の研究員全てを対価にして出来た心臓 罷り間違って「鏡」の技術方面に研究が進んだ望み 望みと途中まで同じだけど煙戦争でA社に喧嘩を売った女王 調律者になって都市を変える方向に進んだ墨

 

[全員なんか可笑しくない?月は無様なだけだとして特に望みと女王と墨]

 

 そしてもっと可笑しいのはそれらが一同に介してここに来ちゃった事だろう。今話してるCが私と同じ世界のCだとしてこの鏡の世界には幻想体5体、試練、このCで7人Cがいる事になる。

 CCCCCCCだ。文字にするとムカデみたいな事になっていた。今鏡の幻想体が協力的なのも納得だった。そしてそろそろ溶ける愛に2回目の会話のお願いをしないといけなさそうだ。制限時間がいま迎えた。とっとと切り札はきった方がいいだろうね?

 

WAWとALEPHなら(むべ)なるかなね そうしてねじれさせたいカルメン達と普通の人間に戻りたい(成りたい)生命の卵 記録と自称する1億の命の戦争が始まったわ

 

 そういえば繰り返す仕組みはカルメンが作ったと聞いた。今のことと合わせると…。

 

[…だから?だからCは全てねじれるまで何回も繰り返す事にして、そうなる前にカルメンの声に反抗しつつ研究する「記録」のチキンレースが始まって、その最中に巻き込まれたのが‭─‬‭─‬]

 

 カラスチームの隊長が背後から銃弾を放った。

 

[‭─‬‭─‬ダンテ()と貴女だと?]

 

 予想はついていた。ここに来るまでの死体。単純にそう言っていたけど、正確に言うならカラスチームの死体で、宝石は銃弾から花の形に変化をしていると言うのが正しかった。初めにそう言わなかったのは、単に戦わないなら特に関係なしで済むからだ。現実逃避だった。

 

「………」

 

 銃声の音。

 

 カラスチームの隊長が放った幾つかの銃弾、全てが当たり、血の風呂に沈んだ様にCの身体で止まり、水底に落ちる様に床に落ちた。効果的でないと解ると鎌を奮って切り掛かる。無言の奇襲の効果が無かった以上、直接殺す他無いだろうからね?

 

そうね それに巻き込まれた と言うより 因果が帰ってきた感じだけれど まあ そうして巻き込まれた私達は全てを決められる第三者となった

 

[…「記録」やCじゃなくて私達が決めるの?]

 

変わらない幻想体と人外 人じゃないなら選択する事すら出来ないわ 誰もが同じ状況で同じ選択しか取れないなら結果は決まっている 合理も理性もあり過ぎると困りものね やっぱりあるがまま振る舞うねじれが最も人の姿に相応しいのよ

 

 鏡の幻想体が欠片を飛ばす。それだけでカラスチームの隊長は死体になった。巣の戦闘専門社員としては随分と単純な死に方だと思う。隊長と呼ぶには未熟だった。

 やっぱり「記録」とやらは戦闘能力自体は低いのだろう。人の身体と役割を与えられただけに過ぎないから技術を本質的には理解出来てない。だからこその幻想体とE.G.Oなのだろうね?

 旅の途中でガリオンに掃討されていた連中は考えない事にした。滅茶苦茶に動くだけで強い存在というだけで、どの道あれに成れた所で外郭にしか行けないだろうしね?

 

話がそれたわね だからこそ人であるダンテの選択が全てを決めた ただ全てが終わるだけの争いが全てが救われる結果に変わった その恩に応えるために「記録」もカルメン達もダンテと私を元の世界に戻す事に関しては協力する事にしたのよ

 

 何とも義理堅く、幸せいっぱいな筋書きだ。都市でそんな事はあり得ないという事を除けば、完璧な話だった。絶対見落としと罠がある。それも表の筋書きはそのままに中身が入れ替わるような……入れ替わる?

 

[……(ダンテ)は特に選んでないしそういう事なら始めからそう言えばい…い?]

 

 嫌な予感がした。溶ける愛が髪を全て食べた事ではない。それはそれで重大だけど、私の中にある触れてはならない事に今無遠慮に触られようとしている事が問題だった。

 

してるじゃない ダンテ(あなた)がこうして (カルメン)カルメン(あなた)用の生贄になってくれてるわ

 

 …このCは元の世界のCだ。ダンテはここに居ない。私はダンテではない。このCはまるで自分が二人いる様な事を言った。ここにいるのは(カルメン)と、Cだけ。‭─‭─‬違う。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 電車に残される私を見た。この「人格」が集う世界で何で自身を偽物と扱った?どっちも本物じゃないのか?

 「記録」が模倣したのが自分。それならもっと色々知っててもいい。これまで出会った「記録」達は皆知識を受け継いでいた。

 アルガリアに言われた。「記録」は嘘はつかない。だけど、前提条件や話題を自身の中ですり変えて話す事はある。

 今、私はCと同様の姿をしている。服は着せ替えればいい。胸は詰め物をすればいい。感覚を消せば、動けない様にすればバレにくくなる。時計の針は普通の時計を私の意志に合わせて動かせば事足りる。思い込んでいる相手には、劣化した都市の技術でも充分過ぎた。

 

 つまり、この列車こそが「写された月」の中だった。先頭の私に始まり後ろの全ての人こそが、「写された月」に取り込まれた「偽物」だ。

 この空間に浮かぶ覗き穴の向こうに存在する全てが、C達が演じる劇で、私達に成り代わる為の儀式。

 そして…そして、それらはもう直ぐ終わり、終始私達に触れさせずに進行していた。

 

「写された月」の私 その特性は内部に偽物を作り それを「本物」にする それこそ 本物が自身を「偽物(カルメン)」と誤解し そう振る舞う程にね そしてその対価に元々いた本物は消える ()()()()()()()()()()()()()() 池の中に閉じ込められる それがダンテ(カルメン)を送り返す方法

 

 つまり、始めから。

 私は…私でしか無かった。

 凡ゆるものが私を捧げるための時間稼ぎに過ぎなかった。

 

いつから変わってたか そんなの手鏡が割れて 「写された月」が漏れて 貴女がそれに触れた瞬間から 内側から少しずつ浸透して 電車で二つに別れるまで この偶然できた牢獄から「記録」も「カルメン」も「幻想体」も全員が出られる始点にする為

 

 話を聴くほど保険として縛られた、カルメンの名前を語り聞くと固まる何かが壊れた。私を守ろうと見せかけた、内側が刃だらけの契約が。内部に植物の根を張られて壊れる機械の様に、光の種に蝕まれて壊れた様だった。

 

 …目を背け、目を背けさせられた事を、簡単にC(カルメン)は突きつけた。

 言葉を介して光の種()が己に回っている。気づくには余りにも耳を傾け過ぎた様だった。

 

 かつかつと靴音が聞こえる。全ての時間に光の種を育む(ねじれ)を仕込み終えたからか、別の所に進んでいた。ここに至るまでの旅で死ぬと怪物になる者が多かった理由がそこにあった。

 

光はこれでよし エネルギーはアンジェラがやってくれた 船はアインが作り上げて 後は野となれ山となれ 船に乗って「記録」は気の向くままに旅をして カルメン達はより多くの世界を導けて ダンテ()と私は元の世界に戻れる 皆んなが幸せに成れるハッピーエンドね

 

 欺瞞だろうね?

 光は殺戮を産み、苦痛をエネルギーにして、船に乗るのは未来を売ると称してその立場を奪う偽物の群れで、カルメン達はより多くをねじれさせて悲劇を作劇し 戻るのはダンテの「偽物」である私ではない。

 

 

 私達だけが全てに置いてかれていた。

 

 

 知らず、力無く、中身なく、何も出来ず、されるがままで、抵抗は許されず、病人(カルメン)旅人(ダンテ)を被せられ動くだけの人形が私だった。

 

 この単純で複雑に絡み合った鏡の世界で、死ぬために旅をしただけに過ぎなかった。

 

…………

 

……

 

 

 ゆらぎはあっても、そこから先に進む道が閉ざされていた。

 時間が過ぎても、何も起こらない。心持ち一つでは、何も変わらない。

 

 抗う為の(姿)を用意する機織り人(カルメン)が敵で、私にはその為の服を織ってはくれないようだった。

 

 自我が崩れる。一時的に戻った全てがもう一度屈折していく。

 

 そうして(ダンテ)は「(偽物)」になった。

 

 


 

 

 カルメンが歩く。扉を開ける。下に草原があった。

 

 青い扉が空一杯に広がる草原が広がっていて、私達はその扉の一つから落ちていった。

 ひび割れた天球があった。中には苦痛に喘ぐ人々の姿で一杯だった。

 血の滝があった。人の死体が一緒に落ち、どれもが恍惚に満ちていた。

 

 血の海があった。時折り浮かび上がる小舟は落ちる死体を受け止め、鏡の塔に運んでいた。

 血濡れた鏡で出来た塔があった。その全てが死にゆく人を写し、その未来を確定させていた。

 船で運ばれていた死体が黒い墨になるまで腐り、塔を目指して蒸発し、確定した未来を見せつけて素晴らしい未来を買う様に売り込む意思を持っていた。

 

 咽せ返る程の死の臭いがした。遠くにダンテ(「本物」)とモーゼスが小舟に乗っていた。その先で死体となったダンテ(「本物」)とモーゼスの死体があった。

 

 時間軸が入り乱れ、生と死が入り乱れ、電車を収める車庫の様に過程と結果が詰まっていた。

 

ここはあらゆる鏡の世界の欠片 その終着点 全ての時間 全ての空間 全ての因果の吹き溜まり 生き延びてしまう死の結末 貴女が唯一救える()()()()()

 

(私だけが救える…)

 

 声が出なくなっていた。愛に捧げた声は、どうやらタイミングを間違えたみたいだった。

 気づいた時には抵抗する手段が奪われていた。カルメンが扉を開くたびに私の何かが封じられていた。

 

 

‭─‬‭─‬‭─‬却ってやり易いね?

 

 

 これは 一体何をしようとして

 

 時計を回させた/時計の回る音が聞こえる

 

 頭に硝子片を刺したのが仇になる。(カルメン)(10番目の囚人)と、ダンテと別だと誤解(自覚)して、できる様になった事。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 本来は出来ない。私は囚人では無い。だけど、今の私は(カルメン)に帰属している。ずっと聞こえていた私とは違う時計の音。フィン達と旅した時に散々聞いた時計の音。

 私の力すら模倣した「本物」の力を、私を封じてる何かを辿って無理矢理使わせた蘇生。これ以降は対策されて出来ない事だろうけど、使い慣れた自分の力なら一度は出来る。

 

 内側から膨れる肉に耐えきれずに弾ける音。脳髄が堕ちる私に纏わりつき、血が白衣と赤いコートに染まる。(カルメン)が喋りたがりなお陰で助かった(足を掬われた)

 

 目の前には一面真っ赤の世界に満たされた必要な死と未来を信じる命の群れ。

 「人格」を使って自身というものを省みず、理性と合理の名の下に犠牲と苦痛を許容し、人であろうとするのに都市の流れに進んで付き従おうとする、()()()()()()()()()()()()()()

 成程、こんな世界を救えるのがこんな私だけならば、それを一つ残らず救いたくなって来た私は最早ろくでもない罪人だろうね?

 

 なら…

 

 この衝動を止められないなら、せめて全力で。

手伝うわ

 

 

(ありがとう…[……)滅茶苦茶に救ってあげる

 

 

 最後の試練として、あなた達に抗う事にしよう。

 結局私の意思で出来るのは、一つとして無かったのだし。

 何よりこの結末()に不満があるのは、私だけじゃないだろうしね?

 

 

 さあ、君達の大団円(バッドエンド)を始めましょう。

 

 


 

 

「ああ、来たな。」

 

 モーゼスがそう言うと、小舟がぐらりと揺れる。波が荒れ、私達を攫おうとしていた。

 

[何が来たの!?]

 

「何が来たか気になるのか?…迎え。」

 

 訳が分からないけど、詰まるところこのどうする事も出来ない現状が終わる事は間違いなかった。何年も船の上に居た気もするし、数分で終わった気もする不思議な感覚に囚われながら、お迎えとやらを知ろうと空を見上げる。海は見ない方が良いらしいからひたすらに上を見た。

 

 天球に、霧に、赤い塔に、それらの間に新しく奇怪な人影があった。私の着ているような赤いコートを肩にかけた白衣、輪っかを浮かべてピンク色の粘体を被った頭部に所々溶けている身体。幻想体に大罪にねじれの3つの反応と黄金の枝が体内にあるみたいな反応もある。奇妙な、と形容すべきそれは、翼も何も無いのにも関わらず空を踏んで降りてきていた。

 

 即座にモーゼスが煙管を変化させて銃を作ろうとするけど

 

蝕め

 

 相手がそう言うだけで煙管は中から腐り落ちてしまった。

 

「……やはりE.G.Oは向こうの領分か。分かってはいたがこうなると厳しいな。ダンテ、どうやら援軍は期待できそうに無さそうだ。」

 

[何か手立てはないの?]

 

「カチカチ鳴ってるが生憎私の手は二つしか無くてね。右手で今、左手で未来を掴むので塞がっている。」

 

「‭─‬‭─‬つまり、過去と他の誰かなら切り売りできる。」

 

 そう言うと、モーゼスは大きな声を上げて誰かに宣誓する。

 

空を目指す墨!私の()()()()()()()()1()3()()()()()()()()()()()()()()を支払う!代わりに()()()()()()()()()

 

 最後まで言い切る前に、大きな釘がモーゼスを貫いた。

 

 


 

 

[ポーーーー!!]

 

 時計の音。そこに込められた意思が聞こえない事が何より自身が偽物だと突きつけていた。

 

 それはそれとしてほざけ。試練のカルメンが釘を貸してくれなかったら終わってたわ。

物言わぬ少女の模倣程度なら私も出来るのよ?

 

 ありがとう。それとこの釘は置いていって今からお使いお願いね?

…やるだけやってみるわ

 

 さて、一例だけでこの新しい特異点希望生命体の本性が出ていた。成程、実例が出ると分かりやすい。他人の立場を売るというのはそのまま、その存在その物の私物化と言うわけだ。

 グレゴールの人生を案内人が、大罪が好き勝手切り売りしていい訳がないだろうね?

 

 そして今ので空を目指す墨の事も理解した。カルメンとしての過去、空を目指す、手術、向上、カルメンがアインレベルまで知能をあげないと都市に喧嘩なんて発想すらでないし売れる訳がない。私は案外根性無しなのだ。

 カルメンとして、押し付けられた過去も持ち合わせている自分としてはどういう幻想体か察するに余りある。

 

 それは脳外科による知能を向上をする事でコギトの効率的な抽出を目指した実験。

 取り敢えずネズミで実際に少量ながらも一滴のコギトを抽出し成功を納めたそれは、しかし本格的に主題に置くとなると人命を莫大に必要とする事から計画段階で停止した「アンダーソン計画」

 

 「アンダーソンに花束を」を基にした全人類の8割を犠牲に2割の人をより高次元に向上させる事による病の完治を目指した計画。それをマジで実行した世界の私の幻想体!そりゃあ都市の人間を全部使()()んだもの調律者の一つや二つならないと始まらないし正気じゃできない。

 

 その幻想体なら、確かに犠牲を多めに天秤に載せればどんな願いも叶えられるし、他人を犠牲側に載せられる。私ならそうする。自分の犠牲を許容どころか進んで他を犠牲にする私なら間違いなくやる。

 

 そして対処も簡単だ。宣誓させなければいい。少なくともレイサとかは言葉にしなくても払えていたけど、そんな事をすれば私も囚人を気にせずに暴れるからお互いに抑制し合っている。脅しだからこそ意味(効果)があるし、まだ実行してないから厄介なのだ。

 少なくともこの世界の人間志望達の事だ。ダンテと一緒に()()()()()()()()()()()なんて事も()()()()()()()()()()()()と言って隠していると見ていい。と言うかグレゴールと囚人13番の立場で分けてたし絶対隠してる。

 

 問題は…

 

『ああ、悲しいよ。ただ僕達はここから出たいだけだと言うのに』

[カチカチカチ?]

『助けに来たよ。ダンテ?案内人として、君の黄金の枝を守る為、この場を任せて貰おう』

 

 あの大罪が死んだ事で別の「記録」がアルガリアに成り代わって小舟に乗ってきた案内人と

 

『そうですね。違う世界のイサンとは言え、友人の道行きを手伝ってもいいでしょう』

『……ええ、そうですね』

『キャットは手伝うよ』

『まーこの程度ならやってもいいか』

『………これを』

『手伝わせてください。モーゼスさんは私の幼い頃にお世話になった人なんです』

『やるんならさっさと終わらせようか』

『僕にできる事なら…やってみます』

『哀れな』

『ロウランドウ!』

『では管理人!指令をお願いします!』

『……はぁ。言いたい事全部言われました』

 

[カチカチカチポーー!]

 

 囚人を人質に取った「記録」達を如何にして打倒するのか。考えないといけない事だろうね?

 相手の残機1億、こっちはダンテの「偽物」だから囚人の人質が効く滅茶苦茶効く状態。

 …さっきの態とらしい宣誓は人質を意識させるためのもので、舞台に上がった私を封殺するための手段。

 

 つまり今の()()想定内。

 

 なら、アインが大勢に影響しないと切り捨てた試練のカルメンをこき使って突破口を開こう。それ以外は対処する備えが向こうにある。…試練のカルメンは血の風呂のカルメンが連れてきた奴だけど本当に大丈夫かな?

 信じるしかなかったし、それでも諦める理由にはならないよね?一緒に囚人も含めて全員、救っちゃいましょう。

…やるだけやってみるわ

 

 


 

 

 突然の援軍に驚いたけど、窮地を救ってくれると言うならありがたい話だ。『あっち』の私には申し訳ないけど今まで散々採光や経験集めを手伝ったのだから見逃して欲しい。一時的に指揮下に入れて、次の手を考える段階で、手が止まった。

 今さっきエノクから貰った、少なくともリンバス社の物では無いPDAに表示された相手の情報、行動を見て手が止まったのだ。

 

罪の結末?

ランク ZAYIN?

部位 胴体

LV. 1

同期 III

人格

〖試練 カルメン〗

スキル1「帰属した時間」

50-10×3

スキル2「ギフト」

70-4×4

スキル3「罪と悪」

999+0

ガード「囚人」

100+0

パッシブ

・抽出・ゆらぎ・光・クリフォト抑止力・黄金の枝・集中戦闘・罪悪共鳴・帰属回帰・速度4・青い残響・ねじれ探偵・夜明・白い盾・宝石の夢・お祭り亀・奮戦・黒い沈黙・溶ける愛・ねじれない・エゴの無い・ロストメモリー

 

 

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬強い。レベル1だけどそれを超える勢いの強さと耐性その他の情報のなさだった。殴りながら調べろという事だろうか。体力も混乱区域も分からないと大分辛い。何ならレベル補正があってもスキル1以外突破が無理だ。なんなら1も無理だ。

 となるとやる事は一つだろう。

 

[死亡前提で突破口を探ろう]

 

 そう伝え、小舟から降りられないこの環境でどこまでやれるか頭を悩ませていると、こちらの動きよりも早く向こうが行動を始めた。勢いよく空を跳んで落ちる場所を探る様に動き始めた。

 

[…!?レニーとミシェル、全力で防いで!]

 

 まず二人犠牲に様子を見る。この動きの異常な点はこちらが全ての行動を決める前に動いた事。全ての指示が終わる前に火蓋を切ったということは思考時間に制限のあるタイプの幻想体という事だ。事前に囚人達との雑談でどんな幻想体がいたら厄介かという話題が出てきた時の事を思い出す。

 パッシブの何れかがそういう効果なのだろう。

 

 そうして急降下、湖の水を集めて作り上げた幾つもの武器で切り刻まれようとした時

 

『─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬?』

 

‭……………!

 

 何かを呟いたレニーの言葉に反応して、払われた武器が元の水に戻り、逆に傷を与える事に成功した。………何が起きた?

 

 そしてミシェルも同様の事をして、また傷を与えられる。支持していなかった囚人は動いて無いけど、チラリと見ればそれが当然の様な顔をしていた。

 …違和感があるけど、倒せるならなら遠慮無く殴っていこう。

 

[各員、全力で応戦]

 

 取り敢えずみんなに任せて(オート戦闘)で一回様子を見てみる事にした。

 

 


 

 

「ヒースクリフ」を対価に……わかるよね?』

 

都市でも卑怯って言われるわよそれ!

 

 試練のカルメンの声を借りているだけだけど、やっぱり喋れるのはいいわね?

 

 案の定と言えばいいのか、酷い話もあった物ね?言いたい事は解るのでカルメンとしての私、写された月としての私を活用した周囲の水溜りの武器化を解除して殴られる事にした。

 折角封印の繋がりとカルメンとしての知識とゆらぎを使って自作したE.G.O擬き何だけど、残念だ。

 

 釘を空中に打ち込んでそれを土台に跳び回って、PDAを見てるダンテの後ろから私自身の能力評価を見た途端にそうだったって思い出した様に分かったし、なによりこの辺り一面の水が全て私として扱える様になったのは本当に便利だね?

 だけど囚人を人質にされたら意味がないし、惜しい事に最後のカルメン関係の3つのパッシブの影響でコギトをこねてねじれを自作して第二形態とかやれないし、精神力が消えて沈潜とかがそのままダメージになるし、何であるのか分からないけど、案内人由来の青い残響(遠距離無効)ねじれ探偵(集中戦闘時威力+3)夜明(威力+3)白い盾(混乱区域撤去)宝石の夢(感情レベル追加+3)お祭り亀(偶数時威力攻撃+5防御+10)奮戦(回避判定に変更)黒い沈黙(ページ追加)溶ける愛(仲間に眷属追加)が使えない上にクリフォト抑止力で全体的に弱くなっているけれど。

 それでもまだ12人程度なら何とかなるし、怒りが私の攻撃を苛烈にしているからまだ何とかなっていた。

 

 何で怒ってるのか。単純な事だけど、ヒースクリフは乱暴だけど大切な人にはとことん尽くそうとする良い子なんだから、犠牲になってはダメだろう。

 シンクレアもそうだ。自分を抑えがちだけど、勇気と覚悟がある時は一際輝ける優しい子。

 他の子達も大事な仲間だ。私が一方的にその意識があるだけだけど、これを捨てる程人を辞めてないし、一人だけでもここから抜け出して自由を手に入れたくはあるけど…それで囚人達が死ぬのは忍びないし、やはり、試練のカルメン待ちでいいだろう。

 そんな訳でひたすら守りを固める方向で行くけど、やはりと言うべきか、より良い未来を買い集めただけあって簡単に盾が削られて行く。顔面セーブできる溶ける愛が居なかったら今頃死んでいたに違いなかった。

 寄り添う愛は最強ということね?

 

[……カチ タ タ タ タ]

 

『…え?何でですか』

 

 2ターン程度はたった頃合いだろうね?ダンテが適当戦法(オート戦闘)で殺しにくるのを辞めてきた。全員にガードを指示したみたいで、偽物の囚人に動揺が生まれ………その指示を無視して私を殺しに来た。

 

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬だけど

 

お待たせ 本当に成功してびっくりだけど 繋がったわ

 

 これでも即席で手札を用意するのは慣れたのよ?

 ここからは私の番だ。

 

 


 

 

[え、なに反撃でも無いのに動いてるなんで?]

 

 不可解な状況とは、今日この場所を刺す言葉なのだろう。全員攻撃待機として防御させたら全員その下にあるスキルの動きをし始めた。何かしら幻想体の影響でも受けたのだろうか。そう思考するけど、答えはすぐに出てきた。

 

すべての結果はファウストが知っています。

 

 見覚えのあるE.G.O、そもそもファウストと言っていて、白い髪にいつもの囚人服を着たファウストが、湖から飛び出し小舟の一つに着地して、ねじれた結末を守る様に衝撃波を放った。突然のことに動揺したのか、『あっち』の囚人の手が止まる。

 

[え、ファウストが何でここに?鏡の世界には来れないんじゃ]

「ダンテ、ファウストは天才なのでここに来る方法は既知の範囲ですが、良く思い返す事を推奨します」

[でもここに来た時最初にとても早口で革命的何たらって言って]

 

「…はぁ……あの状況も解らないフリをした、カチカチと鳴らしている時計は、正しい選択を行えそうですか?」

「つべこべ言ってますので無理かと」

 

 なんとヴェルギリウスまで来た。そう言えば図書館に連れ攫われていたっけ。……そう言えばこうなってるのは私達をここに連れてきた『あっち』の囚人達が原因だった。…図書館の時もそうだけど何で助けてくれてるんだろうか。

 

 ……そもそも、これって助けられてるのだろうか。ファウスト達が結末への攻撃を防いだって事はもしかして『あっち』の囚人達って相当悪なんじゃ

『動くな』

『すみません。ですがこのまま終われば何事もありませんので…』

 

 キャットとユーリが首に武器を添える。発した言葉から連想できる様に、私の首と心臓の上だった。ここまで来ると流石に理解が追いつく。

 私騙されてるわ。

 

[…取り敢えず誰が味方?]

 

「『こちらですね』」

…どっちが敵か聞いてる?ここに居る私以外全員()()()()()()

「ダンテ風に言うならば、ファウスト達はダンテに半分は味方ですね」

 

 想定してない方からも答えが帰ってきて論理的矛盾が発生したけど、どうやらどっちも味方には味方らしい。肝心のどういう方向性の味方かは聞いてもいいだろう。

 

[味方と言うけど、具体的には?]

『ダンテを送り返すので味方です』

「ファウストが送り返す対象に私達を含むのが味方に相違ない証拠でしょう。同じ社員でもありますからね」

[囚人は送り返さないの?]

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「先んじて回答すると、ここ来れたのはそこの頭部を損傷した幻想体の所持していた帰り道のギフトの効力ですね。道は開いたままですのでその内他の囚人も来るかと」

 

 一度に情報の洪水を浴びせないで欲しかった。

 ……私は帰れるけどこのままだと囚人達がここに取り残される。それを阻止する為に図書館の時からファウスト達は動いてて、先ずは『あっち』の囚人を倒さないとダメ。時間経過で増援あり。「こっち」も『あっち』も殴りに来るのがそこにいる結末の幻想体。

 

………ふむ。

 

 よし、先ずは『あっち』の囚人を倒しつつ幻想体も一方で殺せる範囲まで削る方向でいこう。まだ余裕があるし、案内人に期待はしないほうがいいからこれが正解の筈だ。

 その為にはまず、私の首に剣を当てた二人をどうにかする必要があって…会話でどうにかできないかな。

 

[ねえ、提案が有るんだけど、一旦共闘ってできる?]

 

 


 

 

 いざ反撃しようとカッコつけた瞬間に想定外を入れるのはやめて欲しいわね?どうにも試練の私が繋げた道を通って来たみたい。私も欲しい物が手に入ったから良いけれど、倒す敵の数も増えてしまった。

 ダンテが話しててすぐには戦況は動かなさそうだし、改めてこのファウスト達が何なのか考えてみよう。

 このファウスト登場で考えるべきなのは他の囚人の援軍よりもこのファウストが「記録」がなりすました物かどうかだろう。『あっち』は態々喋り方を二重にして差をつけているけど、そんなのE.G.Oの装備数や人格の複重数で自在に変えれる程度の物だ。ただの対立構造の偽装に過ぎないブラフだから無視して良い。

 なら何処で見分けるのか?初歩的な事だろうね?妙な強さを発揮し始めたら「記録」だ。より良い未来にできるという事はそれだけで特徴になる。

 

 …まあ、そもそもダンテの質問の回答らしきもので前置きで範囲を窄めてた時点で限りなく黒だけどね?

 同じ社員だから味方は大分苦しい回答だと思うわ。この戦闘においてやこれからで味方だと答えてないもの。

 完全に黒じゃないのは、半分ダンテの味方という意味深な発言があったからだ。「記録」と「偽物」が同時にいる可能性があった。

 

 そしてここに用意したのはポケットに入っていた帰り道のリボンを使って試練のカルメンを道にして繋げた、ファウスト達が来る代わりに手に入れた図書館の本。たった一つの本だ。アンジェラが人格について記載されていると言っていたから確認に役立つに違いないわ。…戦力にもなるしね?

 全員の眼がダンテに向いている今がチャンスだろうから、ささっと済ませる事にした。本が勝手にめくれて目的の行にまで辿り着く。アンジェラは手作業で探してた気がするけど、使いやすくて便利な分には良い事だろうね?

 

 記録【ファウスト】ー〖記録 ファウスト〗〖LCB 囚人2番〗・ファウスト

 記録【ヴェルギリウス】ー〖記録 ヴェルギリウス〗〖特色 赤い視線〗〖LCB 案内人〗・ヴェルギリウス

 

 …ツーアウトだ。元々あっただろう囚人2番と案内人は兎も角他は、というより括弧がついて無い本人らしき物があるのが駄目だ。「偽物」の私の事もこういう書き方だったし。対価にしようとしていた時点で悟ってたけど、この囚われた囚人達を解放しない事には全員救うのは不可能だろうね?

 

 普通ならこの24人に囲まれた時点でこんなことが分かったところで何も出来ないだろうけど、私は違う。ねじれを作れなくてもできる事はまだ沢山あるから、彼らに自己を自覚させる即興劇の開幕とする事にした。

 

 息を吸い

   自己に陶酔し

     エゴに同調し

       この世界のたった一つだけの本の全てを引き出す。

 

 

 

‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬隠されたベールを剥がした。

 

 

 

410の紙に連なる記号から

全てを繋げる言葉が見出される

 

 

 


 

 

[‭─‬‭─‬と言うわけでこの幻想体を倒すまでは仲良くするという事で]

「…わかりました。管理人の指示に従いましょう。総員武器を構えろ」

「あ・ほ・く・さ」

「あのクソボケより他に最優先で首をへし折るべき奴がいるだろうに…ですか!?…でも、今の僕たちにはそれが出来ないんですから仕方ないですよ」

「あー、ちょっと気持ち解るかも。…さっきからずっと耳鳴りと身体中を蟲に這いずられて齧られて、自分の大切な何かが削れてる感覚がするんだよね」

「僕も同意見ですねー。僕が家で言われた通りに過ごしている時の、自分で決められる事が無くなっていく感覚に似てるので未来か何か食べられてるんでしょう」

 

 ファウストの後から来た囚人には大不評だけど、一旦説明に納得してくれたみたい。

 思えば別に倒しても囚人達を返してくれるとは限らないから、こうなってくれたのは幸いと言えるのでは無いだろうか。

 

 問題は、こうして会話している内に結末の幻想体が何か大掛かりな事を終えらせてしまった事だろう。空に向かって全力で走る姿を見送りながら、どうやって追いつくか悩んでいると、

 

「……これは…焼かれた黄金の臭い…逆さ雨?…船を重ね…いや…管理人!!誰でもいいので囚人に捕まって!!!雨に触れない様に!!!小舟と囚人を盾に!!!!()()()()()()()()!!!!」

 

 突然イシュメールが叫び、思わず言われた通り近くにいたムルソーを捕まえ、ムルソーを私の盾になる様に小舟の底に背を合わせて抱きしめる。

 

 変化は直ぐだった。

 

 横を見れば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何でもいいから盾をギィィィ……

 

 イシュメールの頬に赤い雨触れると、そこから赤錆の車輪の様な物体が、蕾が開くようにして頭の皮膚を開いて飛び出た。傲慢の大罪と何処となく似ていた。

 

[イシュメール!!]

「……できる限り身体を丸めて下さい。それが彼女の指示に対する最適な行動ですので」

 

 何人かの反応の良い囚人は小舟を盾にしようとして、けれど組み立ての隙間から漏れる水に触れて身体を石油に、泥に、カセットテープに、油性の絵の具に、大凡人体には存在しない物質に変換されていく。

 

[…!ムルソー]

「管理人、静かにお願いしまさ?とほくへひんくチューリッふけオーズリブルにするかくげいてきなりないに納められる」

[全身からクローバーとクラゲが出てきてる!]

 

 急いで時計を回そうとするけれど、24人の囚人達の変化は無い。信じられないが、どうやらこの状態でまだ死んでないようだった。手の内から、出来そうな事を探す。

 手にはエノクから貰ったPDAがあった。いつも使っている物と違っていて慣れないけど、何とかE.G.Oを起動する所まで行く。

 

[E.G.Ooverclock!執行!ムルソー!対象は‭─‬‭─‬罪の結末!]

 

「…に…は…お前だけは…私を赦すこと勿れ。

 

 鏡が割れる音と共に、クローバーの内をクラゲが泳ぐ異形から翼の生えた管理職の天使のような姿に整えられて、カルメンに向かって飛ぶ身体に捕まって一緒に空へと逃げる。

 降りがポツポツしたものから本格的になって大雨が下から襲うけれど、ムルソーはそれよりも速く疾く一直線に飛んで追いかけていく。

 

[もっと速く!身体が崩れ始めてる!]

 

赦されず…執行を進めよ

 

 そうしていれば当然小さな雨粒には当たってしまう訳で、羽ばたいていく度にピンクのチューリップの花弁が羽根のように舞い落ちていく。それに、E.G.Oの展開も限界が近づいていた。

 E.G.Oが解ける先からクラゲとクローバーが溢れるのを見ると、綿が出てるほつれた人形を見てる気分になる。

 

 普通と比べればやけに地面と近い雲を超えて、結末が空に手を翳すと空一面の空間に無数の四角い切れ込みが入り、扉のように一斉に開いていく。

 暗い森に、砂漠に、海底に、裏路地に、巣に、学校に、何処かの会社のオフィスにキッチンまで、無節操な景色が一つの線の歪みもないキッチリとした長方形に揃えられて並んでいた。

 

 その内の一つに結末が突撃し、ゆっくりと閉まっていく。

 

[加速!もっと速く!死んでもおかしくないくらいに!ムルソー!できる!?]

 

…執行する

 

 無茶を言っている自覚はあるけど、そうでもしないと私が死にかねない窮地なのだから仕方ない。

 ムルソーもそれに気づいているのか、それとも単に命令されたからそうしただけか、私をそれはもうがっしりと掴んで投げる姿勢を取った。

 

 え?

 

[待って冷静に話し合えばああああぁぁぁ!!!!]

 

 速度を乗せた、感心する程キレイなフォームから繰り出されたムルソーの魔球ダンテは、果たして見事に扉が閉まる前にシュートを決めたのだった。

 

 


 

 

 本に記載されていた災害の内、適当に取り出したものを再現してみたけど、もうちょっとやりようはあったかも知れない。触れた生き物の遺伝子を再構築して別の存在に変える災害。勿論変えるだけだから死ぬわけでもないし、ダンテの時計は無効になる。

 私こと「写された月」は写したものから選んだものを再現して本物は同じ物は2つは無しと消し去る特性があるみたいだから試しにやってみたけど、元々幻想体の私に自意識がないから収容出来てた品物だから、今L社に収容されたら作業しに来た職員全員取り込めそうだった。コギトの生産性がよくなるね?

 そういえばダンテは…

 

 うわ、教本に乗りそうな五体投地。頑丈さだけは折り紙つきだ。囚人一人も連れて来れないのはもうちょっと頑張ってほしいね?私だったらイサンとグレゴールは連れて来れる。

それなんて言うか知ってる?無茶振りよ

 

 待ってやる義理も時間も無いのでさっさと時間稼ぎの第二幕を始める事にした。

 決して無茶振りとか正論を言われた腹いせではない事をここに明記しておく。

 

 


 

 

[ここは…砂漠?]

 

 グレゴール直伝の五体投地で衝撃を殺した後、即座に周囲を見渡すけれど、カルメンの姿は一つも無く、代わりにあったのは何処までも続く砂地と、カンカンに照らす太陽だった。

 さっきまで私達を追いかけていた赤い水も追いかけていたカルメンも居なくなり、むしろ暑くて耳鳴りがする程、干からびそうな暑さだった。

 

[手持ちは…]

 

 一旦手持ちに何があるか探り、エノクから貰った謎のPDAくらいしかない事に気づいて途方にくれた。現状最も高い死因が、永遠と彷徨った末の義体の不調による死なのは仕方ない事だろう。

 

[囚人は…PDAでは全員生きてるけど隔離されてどうしようもない]

[周囲は一面の砂漠…遠くに砂嵐、反対は雷、空は青いけど雲が赤い。全部近づいて来てるし赤い雲がさっきの雨を思い出すな…]

 

[…何より、さっきから硝子が擦れるような耳鳴りがする」

 

 身に覚えとして一番近いのは、囚人達が人格を被る時の音。何より目線の高さが変化している。

 ここから推測できる事、私に強制的に人格を被せた上で何かと戦わされる事態。相手は砂嵐と雷のどっちかか両方か。

 

「…幻想体と2対1…ひぃん…次元裂きでイサン君とホンル君来てくれたりとかないかなぁ…」

 

 人格を被せられた影響なのか、涙が出そうになる。人の顔があるのに違和感を感じる。口調も変わった。時計に戻して欲しかった。私の時計頭がネックレス先に付いているのが切なさを呼んだ。オシャレではあった。

 

「…それでも、今やれるだけの事をしないと」

 

 人格と一緒に手に持っていた、初めて触るけど昔から使い古した感覚のある盾と銃を構える。

 地震、巨大な生き物が地下で動く余波。予感に任せて盾を後ろに構え、衝撃を逸らす。雷の一撃。狙いの軸がブレていたからこそ逸らすことが出来た。

 

「戦うんじゃなくて…ひたすら身を守った方がいいよね」

 

 軸がブレているという事は他を狙ったという事。この地震の主と雷を纏う幻想体との戦いから身を守り、やるべき事を見つけてそれを成し遂げる。今までやって来た幻想体との戦いと何も変わらない。いつも通りやれば何とかなる。そう自分を鼓舞して、

 

「…無理ぃ〜。誰か助けてください〜…」

 

 助けをみっともなく叫んだ。自身の数百倍は大きい生き物?同士の戦いに巻き込まれて、囚人も居ないんじゃ心細過ぎる。バリアを展開してビームの余波から耐えつつ銃撃でこっちに来る雷の避雷として当てて対処しつつ、残りの銃弾数を見て泣いた。残り14発の命だった。

 

「…あれぇ?何だか余裕がある…もしかして」

 

 それにしても随分と上手く戦える人格だと、雷撃が止んだので興味本位でPDAを見たらレベルが87だった。通りで雷に銃弾で対処なんて曲芸が出来るわけだ。

 

「………」

 

 無言で雷を出す幻想体を倒して勝利の雄叫びを上げる、砂地から飛び出た蛇の幻想体みたいな機械の装甲の隙間に弾丸を打ち込んだ。

 致命的な所に当たったのかさっきとは別の理由で叫んで地下に潜る。漁夫の利とはいえ秒殺だった。

 

「…なんか…ごめんなさい」

 

 何か仕掛けがあると思ったら思ったよりもゴリ押しで何とかなる。カエルとか、妖精とか、リンゴとか…これもまた幻想体との戦いでは良くある事だった。

 問題は結末も囚人も居なくなったせいでどうすればいいのか分からなくなった事だろう。

 

「もしかして…今の幻想体は私と関係ない?野生の一般通行幻想体ってこと?」

 

 この砂漠に住んでいただけだった。これもL社支部での探索とかでは良くある事だった。彼らは収容されていただけで私達を邪魔しようとしていた訳では無く、自分のあるままに振る舞っていただけ。そう、終末時計や蛆虫林檎も別に私が失った記憶と関係ある訳ではないように、同じ事だった。

 

「つまり、心象ダンジョンと同じ……同じ?……あ、黄金の枝の反応追えばいつかは罪の結末と会える!」

 

 早速反応に向けてかけ足で向かう。

 そういえばあの幻想体は私の赤いコートを着ていただけあって黄金の枝と同じ反応があった。モーゼスとの対面やら囚人24人事件やらムルソーストライクやら砂漠生存戦やらで忘れていたけど、ここが図書館と同じく心象ダンジョンに近いなら話は早い。

 

「‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬ぃ‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬ぱい‭─‬‭─‬先輩!居た!ユメ先輩!!どこへ向かって走ってるんですか!心配し……止まれぇぇーー!!」

 

「ひぃん…。身体がこっちに引き寄せられてくよホシノちゃぁーん…」

 

「はぁー⁉︎」

 

 走っていると背後から罪の結末と同じように頭の上に輪っかを浮かべた知らない人がこっち走ってきたので、全速力で走る事にした。あれと同じものを浮かべてる時点で話は出来ても会話は通じない上に一方的に人格を被せられるに違いない。

 まあ、それはそれとしてここから脱した後にこの人格の処遇を考えて、勝手に身体が動いていた風の発言は残しておく事にした。この子供にすごく怒られそうだったから弁明の余地は作ってあげるべきだろう。

 

 それに、少なくとも今の私の被せられた人格の知り合いっぽい時点で私は彼女の敵でしか無いだろう。誰だって知ってる人が誰かに成り代わっていたら嫌に決まっている。

 

「えっちょ…速い!先輩!センパーイ!?まっ‭─‬‭─‬ッ!‭─‬‭─‬‭─‬!‭─‬‭─‬‭─‬……」


 そうして一向に息切れしないのを良い事に走っていると、砂漠ではなく煙が立ち昇る荒廃した市街地に到着した。

 硝子の擦れる音と同時に身体が元に戻り、いつもの時計頭に戻った事に安堵して、また耳鳴りがして身体が変化した。

 

「…またですか?移動すると人格が交換される仕組みなのでしょうか」

 

 今度は槍を持っていて、(クランタ)の特徴を持った軽装の人間だった。さっきの反省点を踏まえて先に自身の能力の確認をすると、80の数字が見えたので目の錯覚を疑った。レベルしか見れなくても大体の指標が解るのは助かるけど、さっきの87よりは低いとはいえ55は充分過ぎる数値で、もしかしたら測定の基準が違ったりする可能性が出てきたから怖い物だ。

 

「一先ずは周辺の安全の確保…いや…強行突破してでも進むべきでしょうか。荒廃した市街地となると暴徒が来るかもしれません。警戒は怠らない様に」

 

 とは言えある程度流れが分かってきたし、一先ずは槍を構えて物陰に注意しつつ奥の方へ進む事にした。

 

 


 

 

どうしよ

 

 マズい事になった。

 

 「写された月」で作った私っぽい人影の釣り餌で無事に「本物」のダンテをよく分からない空一面に存在する扉の一つに封印する事ができ、上機嫌に釣り餌の人影を赤い水…熱が溜まってたし水蒸気や雲かな?…に戻す指示を送った時、それは起きた。

 まず、最初に起きたのは、突然宙に血管で繋がりあった心臓が幾つも現れて、そこから肉体が形成されていく光景。

 肉体の周りに死体が池から浮かび上がり、それらが材料にされていた。

 

 私の罪は消えず 取り返しはつかない だけど アレを許容する訳にはいかないの《s》

 

 

 遠くに見える鏡の塔から、空が黒くなるほどの何かの群れが出現し、作られた肉体に吸い込まれていく。次第にそれらは曖昧な人の形から、人間や、幻想体らしき姿へと変化していった。

 

幾多の私から託された望みは 決して諦める訳にはいかないから

 

 

 天球が堕ちて、砕けて広がっていく。硝子の隕石が辺り一面を彩り、硝子を通る赤色を別の色に変えて空間を形成していく。全てを包み込み、赤い水が透明になっていく。水が無くなり、草原が露わになり、色が集まって、都市ができた。

 

 その為に建てた国で囲いましょう 一生の楽園を 永遠の王国と共に

 

 

 乱反射する硝子の光が闇に包まれていく。満たされていた光は対価にされ、残された物を別の素晴らしい何かへと置き換えた。

 素晴らしい何かは全て墨を被った後みたいにくすんで曇っていた。光に満ちていたあの時にはもう戻らないだろう。

 

 『ここにある全てはここで終わるべきもの 決して私達の都市に蒔いていい物ではない それを教えてあげる』

 

 

 4人の私達(カルメン)が口々にそう言って「写された月」の支配下から抜け出し、好き勝手にねじれやら幻想体やら大罪やら人格やらを生産再現吸収厳選していく様を見て、天を仰ぐ。

 

 何故こうなったのか。一つずつ思い返すと

 取り敢えず一人ずつ話し合う時間が欲しかったから逆さ雨で動けなくして

 何するか分からないダンテを一旦時間稼ぎに模擬餌で釣って遠くに放り投げ

 囚人を殺して時計を回して異形から戻し

 それから一人ずつ親身に話し合って囚人達を返して貰おうとした時に

 事件は起きた。

 

そう 貴女達はそういう形になりたいのね

 

 脱走に巻き込まれて爆散したカルメンが幻想体しぐさで復活を果たし、其々のカルメンを本来の姿に再形成。全員月の私に敵対した形である。警戒されすぎじゃ無い?

 ちょっと写して自分の水溜りの中で模倣して取り込んで本来の彼女達を封印しただけよ?自分同士だから一纏めにしても変わらないかなって…5人は多くてややこしいかなって親切心からの行動なのに…理不尽だった。

どっちかというと「記録」や月を他世界にばら撒くのが嫌だって言ってるように見えるけど?

 

 …ともあれ、お互いにあるがままに振る舞って、その上で戦う必要があるならやってしまった方がいいだろう。自然な姿である事は良い事なのだから、これもまた喜ぶべき事だ。

 

 一先ず赤い水で包んで守っていた囚人達を解放し、再現された都市に降ろす。急な事だからE.G.Oとして貰っておいた分しか赤い水が無い。それ以外は全てこの都市を作るのに奪われて、これで私はまた一つ不利になった。時間は過ぎるほど向こうの戦力は整い、こっちは不利になりそうだね?

 

取り敢えず…みんな無事?

 

 周囲には今までの旅と違って沢山の人が平和に暮らしていた。賑やかな喧騒が聞こえて、今まで旅した都市も初めはこうだったのかと不思議に思った。

 ヴェルギリウスと囚人12人、ファウスト達の方だ。『あっち』の方はカルメン達の都市開発の素材に消えた。今はもう別の人として活動しているかも知れない。

 

 だけど油断はできないわ。私が放り投げたカルメンに、敵対的な幻想体4名。周りの人は潜在的な敵で、私達がこの鏡の世界から脱出する手段は全て「記録」とカルメン達専用だった。

 この周回の都市は始まったばかりだけど、私達の終わりはもうすぐそこにあるだろうね。

 

「おぁ…管理人殿…随分と変わられましたな」

「こりゃひでーな。戻んのか?これ」

戻るも何も私は偽物だから…

「ご・に・ん」

「ご苦労だったと言ってやってもいいが、これを人間に戻すにはもう何手間かいるな。んなこたろうとは察してたが随分と面倒な絡み具合だ。一旦首へし折って殺すか?いまなら生き返れるだろこいつも…ですか。……アリですね」

「シンクレアー。無し。無しだから、ね?」

 ドンキとグレゴールは心配そうに声をかけてるね。ロージャは物騒な事を言うシンクレア達を嗜めてるみたい。ここまで見て察するに、ある程度状況をファウストに聞いてたのか、私をダンテだと判断したみたいだ。…ちょっと嬉しいね?

 

 ファウストが一歩囚人達から前に出て、私の手を握る。久々すぎる友好的な人肌である事と、突然の行動に身体が固まってしまった。どうやらファウストはマジマジと私を見て診断をする様だった。

 

「…ケース3ですね。問題ないかと。ファウストが提示した中でも特に上振れた状態ですが、想定内である以上問題無く処理可能です」

「つまり、管理人の現状に対する問題は解決されたと考えるべきだな。ならばさっさとここから出る方法を提示しろ。こんな場所で足止めを食らってる暇は我々には無いからな」

 

 ファウストが対処可能だと言うと、囚人達に安堵の息が幾つか漏れる。ウーティスはさっさと帰りたいのかせっついているけれど、多分この中で一番帰りたがっているのはイシュメールだろうね?これから太湖に出る直前でここに閉じ込められたんだから、気が気じゃないのは想像に難くない。

 

「そうですね、では皆さんは40秒後に来る精神攻撃に備えておいてください。ヴェルギリウスは特色を連れてくるのをお願いします。ダンテ。本を」

本…このE.G.Oを出せばいい感じ?

 

 他の囚人にそう声をかけた後、ファウストひ私を連れて少し囚人達を距離をとった。聞かれたくない事を言うみたい。

 

 たった一つの本を懐から出して適当にページをめくってみる。流し読みしてみたら人格の情報以外にもさっきの逆さ雨に始まり沢山の情報が載っていたから、ここの事(鏡の世界)なら大抵の事は書いてるんじゃ無いかと思わせる品物だ。

 ファウストはペラペラページをめくっている私から本を取ると、数秒で最初から最後まであっという間に読み、それを複数回繰り返す。

 それから「ファウスト」と書かれた本を取り出し暫く眼を閉じた。「ファウスト」の本に大量の情報が書き込まれ、燃えて消える。

 同時に、ファウストの後ろに青色に染まった亀裂が走り空間が割れると、ファウストの身体から光が出てきては吸い込まれていく。

 

「…これで私が見た情報は私…本体のゲゼルシャフトに伝わったでしょう。()()()()()()目的は達成されました。これで一度限りの連絡方法ももう使えませんね。」

…ゲゼルシャフトって誰?

「ファウストが天才ですが、その上で完璧になる為のあらゆる世界のファウストの知識を集積し管理し適切に受け渡す管理人のファウストです」

 

 ファウストから光が出続ける。多分、予想が当たっているなら、できる限り情報を聞いた方がいいと判断した。

 ファウストからたった一つの本の特定のページを開いた状態で本を返される。

 そこはちょくちょくそういう仕草をしていたから何となく察してたけど、問題はその次の言葉だった。

 

一度限りの連絡?

「この空間ではゲゼルシャフトとは通常の手段では連絡できませんので専用の道具を使う必要がありました。ここは未知の情報を効果的に手に入れられますので。つまり、ここまでは予め渡された情報で動かしていただけですね」

…ん?なら図書館で眼を何回か瞑ってたのは?

「不自由なこの私(ファウスト)が唯一出来るできる事でしたから。それと応答される事への期待ですね。実の所まだこの私は一人で何とかする覚悟はまだできていない様です」

…そうだったんだね。で、どこまでの情報を渡されたの?

 

 開かれたページには、9()()()()()()使()()()()()()()()()

 


 

 ※以下全てにおいて・ヴェルギリウス・カロン・ダンテ・ファウスト・イサン・ドンキホーテ・良秀・ムルソー・ホンル・ヒースクリフ・イシュメール・ロージャ・シンクレア・ウーティス・グレゴールが紐として使用されている物とする。

 

 1、Q社創設者の顛末

 2、過去におけるコギトの認識、及び名称の遍歴

 3、13の堕ちた翼の特異点の本質と完璧な取り扱い方法

 4、並行世界の観測方法に対する革命的な4つの発見

 5、効率的かつ固定化された「鏡の世界」での情報収集

 6、【閲覧不可】

 7、【閲覧不可】

 8、【閲覧不可】

 9、あらゆる世界にファウストの「記録」を設置し情報を集める

 

 決済中

 10、人格学習チケットの効率的かつ安定した入手方法

 決済予定枠

 11〜12

 現在の「紐」の消費量

 89万9997個

 

 以上を持って「空を目指す墨」と「ファウスト」との契約を結び、「空を目指す墨」はこれを反ずる事はしないと誓い、「ファウスト」が違反された場合には追加に紐20万を追加する物とする。

 


 

「閲覧できない所は見ると貴方が精神衛生上宜しくない事でしたのでこちらで見えないようにしました」

 

 嫌な確信があった。ここでは嫌な前触れが分かりやすいけれど、こんな事ばっかりな気もするね?

 図書館で、今回は9()()()と聞いた記憶が蘇っていた。

 

「ファウスト達にはそれぞれ、ゲゼルシャフトがその価値を評価し会得可能な知識を提示します。囚人として、情報を集める人格として、知識の管理人(ゲゼルシャフト)として、ファウスト達全体に利益があるかどうかでその扱いが決まります」

 

 つまり…

 

…………私達は?それと、いつから?

 

「この世界への代金、紐10万個分ですね。可能性を、紐を売買する資金にするとは今の私達が存在する事を許すという意味であり、つまり私が「手鏡」を作った瞬間からこうなると決まっていた事象に過ぎません。それと、質問は明確にする事を推奨します。私が身体を操作していたのはこの鏡の世界に来た時から。潜伏を含めればこちらのファウストが「メフィストフェレス」を完成させた時からですね」

 

それは…いや、それで。私のファウストの、ゲゼルシャフトでの役割と評価は?

 

()()()()()()()()()()()でした。(ゲゼルシャフト)ファウスト(その他)で情報の受け渡しを補佐するファウストでした。そのお陰で沢山の情報を持っていた為、高値だったので使いました。…質問は以上ですね?それでは時間ですので、失礼しました」

 

 光が青い亀裂に吸い込まれるのが終わる。

 ファウストは突然、糸が切れた人形の様に身体を崩すと、キョロキョロと見渡し、身体の調子を確かめ始めた。まるで今まで誰かに操られていた人みたいだと、呑気に考える。現実逃避だった。

 

「ふぅ……ようやく私達の可能性の支払いが終わったようです。お久しぶりですね、ダンテ。自由に動ける様になりました」

…ファウスト、ここからの計画はある?

 

 ファウストは困った様に口をパクパクして、目を閉じて、開けて、それから空を見上げつつ「さっきまでゲゼルシャフトからの知識を読んでましたし勝手に全てが動いてましたので…」と言ってから一息ついてこちらを向き

 

()()()()()()()()()()()。死んでも生き抜きましょう」

 

 末恐ろしい言葉と共に、近くのクラブハウスから周囲の全てが音符へと変化し始める。私が偽物とか本物とか、そんな事よりも優先するべき事が目の前にあった。相変わらず、現実は私達を待ってくれそうになかった。

 

 


 

 

 例えば、並行世界があったとして、無制限に探し続ければ創作とそっくりな世界が見つかる。

 例えば白雪姫、毒リンゴを食べた姫の物語は、黒檀女王の林檎の幻想体として出会った事があるし、ファウストによれば幾つかの幻想体は別の世界から抽出された物で、実際に創作そのままの世界もあれば歪んで全く別の話になった物もある。

 

 で、あるならば。

 今の私が直面しているあらゆる摩訶不思議は何処かの世界で御話である可能性が存在するし、もし目の前の摩訶不思議を纏めた本があるなら、それはあらゆる創作を纏めた娯楽のサービスシステムにもなり得る訳だ。

 

 つまりなにが言いたいかと言えば

 

「2026年22:12、現在の時刻から2時間後にストームが来る。他のみんなは出来るだけ集めた。シュナイダー、トランクの中に入って」

「残念ねぇ、ヴェルティ。人違いよ?早く探しに行かないと間に合わないわぁ」

「???」

 

 今、紙面で見た事ある知らない人に話しかけられながらも民家の本棚を漁っていた所、ブルーアーカイブという本の挿絵に見たことあるピンク髪の子と見覚えのある…というより扱った事のある武器と盾を持った子を見つけ、混乱している最中である。

 なるほど、私は何処を彷徨っていたか。幻想体が創り上げた何処かの世界の再現の様だった。ならば、ここも同様に幻想体が作った環境なのだろう。そこにいる人達は模造品か或いは人格を被せられた他人か。

 

 何れにせよ、ここが幻想体の作った世界なら、私が行くべき世界は次元屈折変異体の世界で包まれた世界だ。幾つかの世界を廻って漸く図書館でカルメンが言っていた意味が分かった。幻想体は自身に合うように環境を作り、その力を利用して自身達が住める空間を作る。

 

 あの空間が都市だとすれば、ここは外郭。都市に相応しくない存在達の廃棄場。

 砂漠、荒廃した市街、時間が不規則になった空間。いずれも人が住むには厳しいか不完全な環境であり、都市に相応しくない。そして、外郭に値する場所に放り捨てられたからにはそう簡単には元の場所に戻れないだろう。

 次元を屈折する存在で包んでいるのだ、黄金の枝に向けて真っ直ぐ進んだところで途中で屈折して辿り着けないし、逆に辿り着こうと真っ直ぐ行かなければ屈折せずにそのまま自ら離れ続ける。

 だからこそやるべきなのは屈折の法則の発見か、奇天烈な奇策。何より、ディアスさんが言っていた()()()()()

 

 辿り着くのではなく、向こうからこっちに来る様にする方法の模索。

 幻想体が力の発生源である以上、自身の行動をあらぬ方向に進ませる事は出来ず、そのまま衝突すれば中に放り込まれる。そういう考えだ。

 

「んー、でも問題はどうやって…よね?空間のスペシャリストでも連れてこないと話にもならないわぁ」

 

「……それなら、適任が居るわ。シュナイダー」

 

 横に目を向けた。先程から困り顔でこちらをみているシルクハットを被った燕尾服の少女を見る。

 

 これでいいか。

 

「タイムキーパーには異常な時間変動に対する耐性がある。それによる各時代の神秘学者(アルカニスト)の避難と協力を求める権利を持つ私になら、空間に関する神秘学(アルカナム)を取り扱う神秘学者(アルカニスト)に協力を求めることも可能よ」

 

 頼りになる事を言ってくれたところ悪いけれど、ここはあくまでも幻想体の構築した世界。元の世界での人脈は役に立たない。しかし親切に言ってくれたことは嬉しいので少しだけ協力してもらう事にした。

 

「…だからそのトランクに仕舞われろって言うのぉ?残念だけど…ここは1929年の2月14日じゃ無いの。どれだけ夢に閉じこもろうとしても、シカゴで私は7人の神秘学者(アルカニスト)を殺したし、あのストームで貴女に看取られて死んで「黙って」

 

 一つ前の荒廃した市街地で見たのだ。リバース1999という本をこの目で。黄金の枝へ真っ直ぐ進んだら後戻り出来ないと分かって、散策をやっていたのが功を奏した。お陰で今、こうして彼女彼女の事を深く語れる。

 

 演技をやめてこの子を導ける理由が出来てくれた。

 

「いいえ、認めるべきよ。でなければその胸に燻る後悔は晴れない。そうして溜め込んで無理をして、自分を押し殺してもここでは意味がないわぁ。それならいっそ開き直って散々に泣いた方がずっと貴女らしく成れる……そうなることの魅力、知らない筈無いでしょう?」

 

 この子供は酷く落ち込んだ顔をして、黙してこちらの話に耳を傾ける。このままだと自分を曝け出さないでしょうから子供のトランクを開き、中をひっくり返し…ボトボトと肉肉しい人形が落ちた。

 

「ここにはね、だぁれもいないわぁ。あるのは何処までも人形に過ぎず、本物ではない。貴女だけでは何にも出来ないものね?そうでしょ?ヴェルティ?」

 

 彼女の御話から考えて、トランクをこうして雑に振れば人が何人か落ちてきても可笑しくないが、出てくるのは精巧な人形ばかりで、生きた人は一人だって出てこなかった。都市から放逐される要因。手に負えない強さを持つ存在の反対でどうしようもない弱さから来る理由。

 

 不完全な再現をしてそのまま固定された人格。情報のクズが本来の姿を取り戻しきれずに欠けた姿、手鏡に触れたK社の涙の量に限りがある以上、復元できた人格の数には限界があった。

 

 多くは問題ない。都市の螺旋に取り込んだ。しかし不完全な人格は外郭の幻想体の世界に身を渡さなければ生きることも出来ない。

 意識だけ。力だけ。都市にいる支配下に置くために人格の身体に割り込んでいた人格達と違って心臓の私の慈悲が無ければこうして人形としての身体も作れなかった不完全。

 

 一つずつ、思考を窄めさせた彼女に銃を握らせて殺させていく。ヴェルティは止めるように願っているのも無視した。心臓の私が身体を用意しなければ意識だけだった無力な存在な以上、従う義理もないし、ずっとここに居るよりもねじれてくれた方がまだ役に立ちそうだったし、本来の姿で在れるだろうから。

 

「‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬!‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬!!」

 

 悲鳴が聞こえる。恐怖で雁字搦めにしていたのに力づくで銃を壊して止めようとしても、今の私の人格、身体は十分以上の強さだ。もう一つの銃で手足と心臓の近くを撃てば簡単に無力化できた。

 最後の人形が撃ち抜かれる。守るべきもの(人としての重し)はこれでもう無い。

 

「…………どうして……あなたは…誰?」

 

 …誰、と聞かれたら、答えるべきよね?…そうね、ここは幻想体としての名前を言いましょう。月を取り込んだが故に都市に存在を隠蔽され、与えられた偽名に隠された本当の名前を。

 

 

ファム・ファタール(写された月)

 

 もしくは

 

ファム・ファタール(運命の女性)

 

 

 それこそが私。

 全てに最期は否定された哀れな私。

 この鏡の世界の救済を諦めぬ血の女王。

 都市の病を治す為に血鬼の可能性を追求した世界のカルメン。

 

 …頃合いだ。

 ここまでゆらげば少しの誘導でねじれる。これなら都市に侵入する事だって簡単だろう。時間は得てして空間にも少なからず影響を与えるのだから。

 

 それを利用すれば、後は‭─‬‭─‬‭─‬

 

 


 

 

迅速烏瞰刀空間破滅浄化防御反撃防御私は釘撃ち

 

 ピアニストの腕一つに集中攻撃してみた。回避は音符化広域の対策である。余裕で耐えられてファウストと良秀とホンルとウーティス以外音符にされた。全員の人格を回避で統一するべきだったね?

 

「サポートの囚人の奴ら以外死んだな」

「回避しなかったサポートも死にましたね〜」

「ダンテ、時計を回して下さい」

今カルメンにそれ取られてる

「どのカルメンかで対応が変わりますね。どれであっても直ぐには無理ですが」

「打つ手無しなしですね〜」

「煙草吸っとくか」

良秀諦めないでお願いだから

 

 いや今は私がカルメン何だけどね?…本当にカルメンなのかな。ダンテだった気がしてきた。

 いや私はカルメン。私は「偽物」なのだから。

 

 考えると誘導やらで思考がこんがらがるので考えない事にする。目を逸らせば堂々巡りはしなくて済む。洞察すると死ぬ感じの幻想体とだけ思考の片隅に置いておいた。

 

「じゃあどうする?周辺のフィクサーも攻勢に出てるが片っ端から死んでるぞ」

「わあ、ドサクサに紛れて耳栓して逃れようとしたウーティスさんが骨振動で聞いて死んでますよ」

「ダンテ、溶ける愛で周囲の死体を取り込んで下さい。最低限強化は防げそうです」

行けー!溶ける愛!芸術品になるのを愛で防いで!

 

 釘を叩く要領で顔に引っ付いた溶ける愛を千切っては遠くに飛ばす。ルールを理解できなくてもクオーラの野球を観ていた経験が生きた。随分と広範囲に渡って溶ける愛を撒くことに成功する。

 

 今、私達はピアニストの音符化、よく見れば特定の空間が歪んでるからそこを避けている。それを全員で回避しながらの壮絶な会話だった。地面の五線譜から踏み外れても死ぬから私も命懸けだ。

 

 私の顔を包んでいた溶ける愛が周囲の音符と死体を片っ端から取り込んでいく。不思議と遠くに居る溶ける愛を認識できた。建物が音符になるのは防げないけどこれで強化は遅らせられそうだった。

 

 後は即死条件を周囲に伝える方法があれば良いのだけれど、生憎この音楽の中で伝えるのは至難の業だろう。みんながその音に聴き入っているから。

 

「管理人さん。あそこにいる人、PDAを使って何かやろうとしてません?」

「発狂して回避しながら配信機能を使おうとしてますね。このまま放っておけばピアニストの音楽配信が始まるでしょう」

良秀!森羅炎象!

「良いだろう。面白そうだ」

 

 いつぞやのピアニスト配信が云々言われていたのが頭に過ぎる。このままだと黒い沈黙の奥さんが自宅で死ぬ事になりそうなので良秀を捨て身で行かせる事にした。今蘇生は出来ないけど後で本物の私ならやるだろうし、戦力的にはリターンが高い筈だ。

 その時、ピアニストの音色が変わる。イサンを想わせる間延びして、その中に羽根が舞う翼をイメージさせる高音が調和した音だ。

 どうやら死んで音符になった囚人達のパートが来たみたい。今までよりも攻撃が落ち着いた。機会だ。

 良秀の吸っていた煙草が燃え尽きて落ちる。距離は100mも無いけど、五線譜以外を踏めば音になり、間に浮かぶ音符に直に触れてもアウトだ。煙草を踏んで火を消しつつ、空高く全身をバネにして良秀が跳んだ。

 

「芸・人・独・唱。芸術は人を選ばずに感動を与えるが、独りよがりの芸術を唱えるしか脳の無い奴には感動を与える芸術を作るのは無理だ─‬‭─‬‭─‬手本を魅せてやる」

 

 服が変わり、炎を纏った剣を携える。指示しておいて何だけどいつもの一振りを届かせるにはまだ全然距離がある。無茶振りをしたと気付いたけどもう遅かった。

 

O

 

 剣を大きく振りかぶり、遠心力を自身に乗せる。

 

S

 

 それにより途中にあった2つの音符に届き、逆さに持った剣の鯉口を引っ掛けて飛び移る。

 

H

 

 ♬。こんな感じの音符の上側を蹴り上げて速度を維持…どころか上げていく。蹴った足が音符に変化し始める。いつの間にか逆さに持っていた剣を普通の持ち方に戻していた。

 

A

 

 地面に足が着きそうになり、即死するのを片足を自ら切り取って踏み台にする。地に着いた片足は燃える炎の一音に変化した。

 

R

 

 遂に地面に着いた。だけど、それは剣の届く距離になったという事。構える。全身が音符になり始めるけど、全身が変化するより

 

E

 

 五線譜に、死体とPDAに焼け跡が刻まれる方が早い。

 

 炎の焼け道は、確かに致命的な事態を防いだ。

 

Obligate Style Hearkens Aflame this Robust Earth.

 

 最期に作品名を言い残し、良秀は美しい音に変わる。炎の燃える音、蝋燭の様な静かで安らぐ音だった。

 

 今この瞬間、間違いなく彼女が主役で、ピアニストも音を避け続ける私達も死体を食べる溶ける愛も引き立て役だった。

 その芸術はどうやらピアニストに通じたみたいで、一瞬、音が止まる。いや、静かな炎の音が奏でていた。良秀の音のパートになっただけだ。通じたと思ったのは気のせいだったみたい。

 しかしその静寂は、これまでの全ての音色よりも落ち着いた時間で、確かにピアニストの隙となる時間を創り上げた。

 思い返す。囚人の死は確かにピアニストの攻撃を落ち着かせた。となると、此方が死者を出せばその分攻撃の手が緩む終末時計と似た攻略ができるねじれだという事か、違う。フィクサーや巻き込まれた一般人が死ねば強化される。つまり、囚人の死だかが特殊な処理となってるという事だ。

 

ファウスト、ホンル、分析

「紐が売買された今、理屈上私達はあらゆる可能性がありません。なので音になった可能性も無い。無音です。その為私達を取り込むという事は無音のパートが楽譜に出来るという事でしょう」

「でもイサンさんの羽音や良秀さんの燃える音は確かに聞こえましたし、確かにそこにありますね。空になったコップ…というよりは、中身が真空のコップ。そこだけ何もかも取られた何かって感覚かな〜?」

…それ、私達だけじゃ何も出来ないって結論になるね

「はい。スキルもE.G.Oもパッシブも、ステータスその物が無く即座に消え去るのが本来あるべき姿ですね」

なんで活動出来てるの?私達

「ダンテは溶ける愛とカルメンの要素で、私達はゲゼこほん…私がアンジェラと交渉して手に入れた仮想人格としての私達で動いてます」

「あの時は凄かったですね〜。12人連携の理想の動きそのものって感じで」

 

 どうやら私達だけでは攻略は無理な様だった。色んなものが足りてないからだ。

 そして残念ながら私達は死屍累々で、僅かな損傷を与えるしか叶わないだろう。だけど……溶ける愛から送られる情報を観る。

 

 ここで戦っていたのは私達だけじゃ無い。

 

 鏡の世界の便利屋(フィクサー)は、静寂による機会を見逃さない。

 

 義体の情報系フィクサーが幾つもの手で手早く位置、弱点、特徴、報酬金を試算して協会に掛け合い緊急依頼を出させた。

 T社製の装備をした護衛系フィクサーが加速し一斉に転んだりして怪我をした市民を担ぎ上げてここから離れ、逃げろと声をかけて無事な市民を誘導する。

 捨て犬上がりの戦闘系フィクサーが音に魅入って発狂し襲いかかる組織を殺害し、被害の拡大を防いだ。

 シ協会の暗殺系フィクサーが止まったピアニストの腕を3つ切り落として離脱した。何処に隠れてたんだろうか。

 溶ける愛と一体化した裏路地のネズミ達は近くの音符を攻撃し、音楽の拡大を防ぎ被害の拡大を遅らせた。

 ピアニストに当てられてE.G.Oに覚醒した医療組織が工房の人達の精神を回復させ、対処に使える武器を調達しに来たフィクサーに工房の人達が売り払う。

 

 幾人ものフィクサーが、住民が、組織が、都市の歯車として異物を排除しようとする。一瞬の隙、僅かな時間の正常な一回転。囚人の創り出した…死んだ囚人達が創り上げた10の静寂のリレー。

 そのバトンは確かに渡されて、

 

「流れが読めるっていうの、便利よね。こうして安全に近くまでこれたし?」

「こうして一緒に戦うのは本当に久々だけど、頼もしいなあ。ヴェルギリウス?」

「…そうですね。妹さんと誕生日を祝う時に呼び出したのは謝罪します。」

「あはは、依頼をハナ協会から渡されたからにはね。それに僕と君の仲だぜ?後でターキーとカロン君が汚した衣服の洗濯台で5万眼を貰うとするよ」

「………」

 

 銀髪が輝く黒い手袋をした女性。急いだのだろう、私服の上に戦闘服を重ね着していた。

 そしてパーティグッズの三角帽子をしたアルガリアも居た。どうやら誕生日の時に連れ出されたみたい。

 ヴェルギリウスが呼びに行っていた人達だった。ヴェルギリウスにファウストが頼んで、良秀が死ぬまでの間に起きた一連の結果だった。

 

…何とかなりそうかな?

 

 血の帷に包まれてた。ヴェルギリウスの保護を受けて安心し、一息ついた。

 

ヴェルギリウス!来てくれてありが…と…?

「……はぁ。この流れは気づかなかったな。まやかし、逸らしの類いか」

 

 その時だ。一面が赤い光に照らされ、ピアニストの近くにいたヴェルギリウス達が空へと吸い込まれた。

 

 横を見れば、ホンルとファウストが呆然と空を観ていた。

 

「ピアニストは何とかなりました……今からが厳しい戦いの始まりですね」

「わー、プラネタリウムで宇宙の景色を見た事は有りますけど、あれは初めて見ました。」

「事実、地球付近にあの様な星は存在しません…失敗しましたね。相互に認識すると取り込まれ同化する「赤い月」ですか。別の世界にはあの様な外郭の怪物がいるのですね」

 

 特色3人が腕を3本切られたり強くなるのを妨害されたりして弱いままのピアニストを膾斬りにしている中、空を見上げたファウストが言って、ホンルが驚いた。気になってくる。

 

 ファウストが私の頭を下げさせ、声を潜ませて早口で捲し立てる。観たい。

 

「ダンテ、見上げる前に伝えておきますが、貴方は今「写された月」のカルメンによってダンテという情報がカルメンの物と置き換わっている最中です。その為カルメンに刺激を与えられれば急速に置換が進みます」

 

 周囲の人々が歓喜に染まった悲鳴を上げる。近くの建物が上へ引っ張られて空を飛んだ。

 それがとても魅力的に見えた。宝石の輝きみたいに輝く赤い光に意識を持っていかれそうになる。

 

「アンジェラ曰く「保険」というもので精神的に大事な部分は暫くは消えませんが、カルメンの情報の受け取りは止められません。いずれ押し出されるでしょう。しかしこれにはメリットも存在します…ホンル、頼みました」

「ああ、時間が足りないんですね。どのE.G.Oが有効ですか?ファウストさん」

 

 ホンルが近くの建物を掴んで浮かばない様にするのをやめて私達の横を通り、赤い光の方へと引っ張られる。

 

「…侵蝕の次元裂きですね」

「ではお先に。皆んな管理人とファウストさんを信じてここまでやったんですから、無駄にしないでくださいね〜」

 

 ホンルの身体が、視界から消える。ギリギリまで私がカルメンに押し流されない為に、この赤い光に惑わされない様に、正常な思考を保たせる為に、空間に無数の裂け目が出来た。

 

必ずしも…僕がその場にいる必要はないですから…へへっ…。

 

 青紫色が空に光り、空間が歪み、引力が狂って重力が下の方へ向かう。上へ向かうのが正しいのに何故それを狂わせるのだろうか。私の為なのは間違いないから止める事はしなかった。

 

 ファウストは私から眼を逸らさずに話続けた。

 

「カルメンの情報を押し付けられるメリット。それは一時的にカルメンのE.G.O適正や幻想体を被る能力や戦闘能力を得ること、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 ホンルが死んだ事が、囚人の繋がりで分かった。私達ももう永くはないだろうね?それでいいだろうけど、赤い月で再会するにはまだファウストの話が終わってない。

 

「特に私達の回である9周目は1人目のダンテが招かれた日。詳細は後でカルメンの記憶で解ると思うので省きますが、きっとこの世界を作ろうと思ったカルメンがその蘇生能力を欲して手を出して居るはずです。ならば、ダンテには私達の世界のカルメンを除く此処を創り上げた5名のカルメンの記憶が押し付けられる筈」

 

 それは情報において始めてこの鏡の世界で優位側に立てるという事だった。どうやら囚人は私が優位側に立てば何とかしてくれると信じているらしい。

 

「置き換える能力は「写された月」…というよりはカルメンを取り込んだ「赤い月」によるものですが、記憶の配分量で能力の共有ができるのは1周目にここに来たファウストの情報で判明しています。他の死んでいったファウストからは読心能力アリ、カルメンは一人までしか私たちの前に出てこない、置き換わりが終わるまでに殺せばそのカルメンの分は解除される事が判明してます」

 

 ファウストの身体が浮かび始める。ホンルが死んで裂け目が消え、こうなるのは時間の問題だっただろうね?

 

「…時間ですか……ダンテ、きっと向こうはダンテの思考を読むでしょうが、それでも諦めないでください。貴方には私達(囚人)が着いてますから」

 

 ファウストが手から離れた。私の周りだけが連れ攫われ、私だけがこの地に立っていた。

 

 止める者はもう居ない。

 

 誘われるままに見た。

 

それじゃあ連れてってくれ

 

 空から、月の形をした、ぐにゃぐにゃの赤い水の塊が、私めがけて落ちてきていた。

 

 

 数多の記憶が押し寄せて、意識が途切れる。

 

 


 

 

 

 ねえ (ダンテ) どうか貴方の全てをくださいな

 

 

 頭がクラクラする。私の…?美しい声が響いていた。違う、コ・コ・コカチカチカチタ・タ・タ。言葉となる意味が乗ってない時計の音が私だ。混乱しながらも、私の、或いは別の私としての記憶を仕分け始めた。

 

 あなたは(カルメン) 私は(ダンテ) 子は親に全てあげなきゃ 代わりに私はあなたを永遠に幸せにして(閉じ込めて)あげるから

 

 違う。(カルメン)はそれを望んでない。皆が平等に這い上がれる機会を、自分で在れる機会を作りたいのが(カルメン)だった。血鬼の階級はその逆だわ。

 

 血族の絆は病すら越える そういうものなのよ

 

 いいえ、産業革命頃に生まれた私(カルメン)。それはあり得ない。貴女の記憶を押し付けられたから知ってるけど、ただのタバコ工場の女工だった世界の貴女(カルメン)が気まぐれに歌い、始祖の耳に入って気に入られて、第一眷属になるのは奇跡とかの類いよ。

 それを他に求めるのは無茶振りって言うし、血鬼が血を呑まなくても、日の下に出ても問題なくする研究である事を隠してアイン達を集めて研究させて、その結果コギトから幻想体を作る成果を出せるのは奇妙って言うの。

 

 でも 上手くいったでしょう 奇跡は起きたでしょう なら 私がやる事は全て上手くいくわ

 

 最後にはバレてアインに殺されてたわよね(カルメン)。アインに銀の弾丸を28発も撃たれてたじゃない。中世だからか頭も特異点を持ってなくて、それでアインと共闘してたガリオンなんて記憶の美化しすぎで消えてるわよ。

 自分から死を受け入れた風に記憶を美化していてもね、カーリーが相打ちで刺したミミックのE.G.Oの劣化版に全身串刺しになりながら命乞いして、油断誘って不意打ちしようとしていた事実は消えないのよ?

 

 …何で死なずにそのまま幻想体になれてるの?なんでその上で外郭の怪物相当の存在と融合して更なる強さを得てるの?何?J社の願望シールでも貼ってた?

 

 (カルメン)だから

 

 そういうとこよ。

 人としての理性の部分(ダンテに押し付けた記憶)、記憶を捨てる様なざまだからアインに見切られ……なるほど?…そう……方…  あ、読心されるから考えない方がいいか……るのよ。

 さっきまでの少しの間でも貴女の自我に呑まれてたのが、複数のカルメンの記録を得た後だと恥に思えてくるから不思議よね。

 

 待って今の間はなに

 

 …崩壊寸前の世界でこんな箱庭作って、他の(カルメン)も巻き込んで、その結果が死と血の匂いに溢れた残虐循環共鳴血河地獄「都市」でしょう?

 

 さっき何を考えてたのかしら 教えて頂戴

 

 しかもこのままじゃ(カルメン)達一生元の世界に帰れないし、本来(カルメン)達がいた世界では光の種も消えて、都市の病がまた蔓延していくでしょうね。

 

 出会って数分なのに対策完璧にされてるわね

 

 管理人やるには切り替えとど忘れが大しかもこのままじゃ(カルメン)達一生元の世界に帰れないし、本来(カルメン)達がいた世界では光の種も消えて、都市の病がまた蔓延していくでしょうね。

 

 繰り返すのねそこは  大丈夫よ ここで理想を創り出し それを私達の力で全世界に反映すれば全ての都市が救われる ちょっと人は死んじゃうけどそれよりも救われる人の方が多いわ

 

 「写された月」視点での其々の認識という前置きをおいて…

 「記録」の特性、()()()()()()()()

 貴女の幻想体としての能力、()()()()…が外郭の怪物「赤い月」と一体化して変化した()()()()()()()()()()()

 心臓のカルメンの幻想体としての能力、()()()()()()()()()()()

 鏡のカルメンの幻想体としての能力、()()()()()()()()()()()()()

 王国のカルメンの幻想体としての能力、()()()()()()()()()()()()()

 墨のカルメンの幻想体としての能力、()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、カルメンの理想として収集された幻想体達。

 

 このカルメンが見た感じで判断した「記録」の特徴と記憶にある其々の()()()()ではこうだった。その内で私達が協力してやれた事。

 この情報で分かる唯一正しい事、ここで起きていた周回の正体。

 

 鏡のカルメンを通じて他の鏡の世界を「都市」という共通点で自身の資産にして王国の領土に変換して、

 領土に踏み入れた全ての鏡の世界の人類を市民として支配し、

 そのうち病に掛かっていない中で最も素晴らしい一億人を「記録」に挿入して再現し、

 月のカルメンがカルメン要素を入れて病の予防接種(光の種)を行ってから配置し都市として運行する。

 最後に、もしもそれでダメだったら心臓のカルメンの力で良かった点を引き継いで強くてニューゲーム。

 それでここにいる「記録」の総数が1億だから1()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 天球と外の血の海にも似た水溜りの正体だ。天球という王国の領土で争い、その外では参加すら出来なかった人々で血の河が出来上がる。死ねば相応しくないとして排出。肝心の選ばれた1億人も「記録」で再現する為に殺すから結局初めから全滅している。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()。ここまでがカルメン達の計画。

 その後、最後に人口が減って弱くなった人類は外郭の怪物達に殺されて絶滅と。

 

 私…今は人格がカルメンの()()()()()()()寄りだけど、ダンテの偽物としては馬鹿の蠱毒としか言えない所業ね。口調も自認もカルメンになってしまったけれど、それはそれとしてダンテとしては何がしたいのこの馬鹿たちは?なのよね。

 遠回りすぎる人類破滅計画でしか無いし、完璧も素晴らしいも判断基準は幻想体になったカルメン達の感情だ。既に9回繰り返され、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 押し付けられた記憶の整理が終わって分かった。もう私達に帰れる場所は無い。

 

 その通り 契約したファウストも知らない 私達の理想の都市にする 最終治療 それがこの都市よ

 

 …肯定して欲しくなかったわ。

 契約したファウスト。多分ゲゼルシャフト…が知らないなら、私の囚人達も、私のファウストも知らないだろう。だから、まだ希望を持っている。図書館で書いた本が元の世界に戻る切符として使えると信じている。()()()()()()()L()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ここから脱出するワープ列車ではない。

 

 下手にゲゼルシャフトに情報を送れたから勘違いしてるけど、あれは単に鏡のカルメンが受け渡していただけに過ぎない。ここのシステム的に動いている物も全て、カルメンが頑張ってるだけだから。

 

 整理しよう。つまりは、

 

 ゲゼルのファウストは自分が作った「手鏡」に偶発的に出来た鏡の世界とそこにいた幻想体「空を目指す墨」を利用して知識を集める目的で私のファウストを動かしていた。

 

 しかし、実は偶然できた鏡の世界はカルメン達が侵入して作った物で、ファウストと取引する幻想体も実は遠い世界のカルメンが幻想体となった物だった。

 

 カルメン達はこの世界を利用して自分達の理想を全ての鏡の世界規模で叶えようとしている。カルメンは善意でやってるけどこれを達成されると全部滅ぶ。

 

 なんならカルメン達が気に食わないからやってないだけで既にやろうと思えば全世界滅ぼせる。少なくとも気に食わないでいるからこの世界は10回目のループに突入した。

 

 私と案内人とカロンと囚人は9回目の人間と幻想体。元の世界はもう滅んだ。

 

 これが大まかな流れ。ここに「記録」達の思惑やら幻想体達の目的や私達が合わさって人一人が把握するには困難ないつもの「都市」が出来上がったと。

 

 そこまで理解してるのね だったら解るでしょう 貴方はもう頑張らなくていい《/》

 

 でもね、カルメン

 

 《i》星も 病の治療も 疲れるだけでもう意味はないわ

 

 貴女はきっと、ダンテ()を取り込むのを、人としてのカルメンの理性()を葬る機会だと、欲を出してダンテ()に5人のカルメンの記憶を渡した

 

 折角私達が選ぶに値するダンテ()なんだもの 貴方ならこの都市をもっと素晴らしい物にできる 貴方と私達の力なら 死の無い都市すら作れる

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それはきっととても素敵な事よ さあ 手に取って

 

 さて、彼は私と貴女達、どっちを『本物』と見てくれるのでしょうね?

 

 

 

 

 

 

 

そういう訳で、情けない話なんだけどね

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度私と一緒に歩いてくれないかしら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考える自分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[いやだね!「本物」!!]

 

 その手を振り払い、訣別を示した。

 

  そう 残念ね ()()断らないでね 「偽物」

 

[永遠に来ないよそんなの]

 

 さて、溶ける愛のギフトでようやく自分の声が復活した所で、隠れんぼが得意な試練の私?

ここからやれる事あるの私?

 

[あるわ。こっちは今の会話と月との衝突で5人のカルメン全員の知識を思い出した情報強者でアインからE.G.O貰った超人よ。殺せるわ]

 

 それで 何ができるの 貴方が私と話してる間に囚人達も案内人も特色も全員死んだわ 当然私も時計を回す気はない 痛いもの 苦痛を態々味わいたくないわ

 

[そんなザマで不死の都市とかほざくな。私の時計をいつでも使えるのに使わないのそれが理由か]

 

 やる事は単純。貴女の日々のいつも通りよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぐっすり寝てた子が起きる程にね?それであの子達は辿り着ける。

 舞台に上がってるとはいえ、硝子片は私の中にある。そこから通りなさい。

そこまで大きな声を出した事は無いけど…やってみるわ

 

[じゃああれか?私達リンバス社を特別待遇してたのは代わりに苦痛を受けてくれる人が欲しかったからか?その為に人格集めさせて、苦痛を味合わせて、旅を台無しにしたのか?ふざけるなよ]

 

 さて、あとは時間稼ぎだ。いつも通り、やれる事を精一杯やれるだけやろう。言いたいことは沢山あるし、話題の種には困らないね?ここまで来れば最早偽物でも本物として、ダンテとして振る舞う事にした。そっちの方が収まりが良いしね?

 戦闘になるだろうけど、幸い私には5人のカルメンの理性を押し付けられたせいでE.G.Oやねじれや幻想体を使い熟す技術が受け継がれている。今までやけに戦闘ができる理由だった。段々乗っ取られてる証拠だったのよねあれ!

 

[私は!メフィストフェレスに乗る囚人の管理を行う管理人だぞ!!それをそんなくだらない理由で!覚悟で!乗っ取ろうとするな!!]

 

 釘を構えた。釘を空に刺し、空間を割り、真っ白な世界が崩れて舞台を変える。ステンドグラスには赤い終末時計と、物言わぬ少女が背合わせに立っていた。

 

 アインに貰ったE.G.O、〖夜明けのハンマー〗を握りしめる。光り輝き、白い煙が漏れ出るそれを奮い、自身を封じていた・ねじれない・エゴの無い・ロストメモリーのパッシブを振り払った。今までの案内人達が、「記録」本来の恩恵が、託していた力が私の実力を底上げする。

 

 「(形容し難い鳴き声)」

 

 血鬼と化した終末鳥が降り立つ。中にいるのは当然月のカルメンだ。「記録」達の見本として置いていたのを引っ張り出したのだろうね?自分の世界の終末鳥を取り出したのだろう。カルメンの記憶の中に終末鳥を眷属にした記憶がある。何しでかしてんのこの人。よくもまぁやれたわね?

 

[丁度いい位だ。やれるだけやってやろう]

 

 戦いは、1000本の釘をファンネル兼足場として打ち出した事で始まった。

 

 


 

 

 夢を見ていました。

起きなさい     

「判断が早い」

 

 夢を見てたのですが、何者かに起こされます。ここまで早いと夢の序盤も写りませんでしたね。

 おはようございます、ファウストです。ここは何処でしょうか。ゲゼルシャフトは何も言いません。ですが身体は自由です。嬉しいですね。ファウストは天才なので喜びの表現にブレイクダンスだって踊れます。

 

₍₍(งファ)ว⁾⁾道を探して

₍₍ᕦ(ファ)ᕤ⁾⁾ 過去に₍₍ʅ(ファ)ว⁾⁾向かって

₍₍ ⁾⁾木の枝

₍₍ファ⁾⁾か

₍₍₍(งファ)ว⁾⁾⁾ら

₍₍ᕦ(ファ)ᕤ⁾⁾盗んだ ₍₍ʅ(ファ)ว⁾⁾禁断の

(ファ)果実を

₍₍ ʅ(ファ) ʃ ⁾⁾なるほど、

「なるほど、「写された月」の内部ですか。身体の動作から推察すると精神体と言える状態。確実にすべきなのは各囚人を起床させる事でしょう。前方の亀裂と誰も居ない席から推察するに「繋がり結ぶ心臓」が用意した身体が死んで此処に精神が戻ってきたと言うところですね。」

 

 踊りをやめ、状況の整理を完了させます。ゲゼルシャフトの居ない状況は随分と久しいですね。学生以来でしょうか。

 この状態で死ねばダンテの時計でも蘇生は無理ですね。今はカルメンの時計と証すべき状態ですが名称なんて利便性優先でそのままで良いでしょう。各囚人を起こしていきます。

やることが一瞬で無くなったわね

 

 少々お待ちを。ファウストは天才なのですぐさま行動に移せますが他はそうでも無いので。つまり、私もファウストですがファウストでは無いのでこの状況を完全には理解はしていません。

 私はファウストですが今は私でしか無いので、隠れ潜んで嵐が過ぎ去るのを怯えて待っていたい気持ちで一杯ですが…私は皆んなのために頑張れるタイプなので頑張れます。

??…何だか図書館と雰囲気違わない?

 

「私は私なので、ファウストですがファウストでは無いですからね」

「何を仰ってるんですかファウストさん?」

「此方の話です」

 

 さて、全員たんこぶを作って起床させた所でどうやってダンテの所まで行けば良いのでしょうか。ダンテは物理的に通れるくらいの肉片を通してから復活したそうですが、同じ事をしてもカルメンは決して蘇生しないでしょう。

 

「一言でするべき事を説明しましょう。囚われたので脱出しなければなりません」

「(ハエの飛ぶ音)?」

「つ・つ・う・ら・う・ら」

「つまり俺らはまた捕まって、裏舞台側に拉致られたってことか。うざってーな何度も何度も。楽に元の世界に戻って煙草補充したいんだがな?…あ、僕ここに連れてかれる前に雑貨のお使いに行ってたんですよ。良秀さんの煙草もありますよ」

「シ・助……蝶・楽・炎」

「あ、すみません…」

 

 シンクレアが良秀の煙草を間違えて買っていた事が判明しつつも簡易的な説明を終えて、謎に取り掛かります。

 

「ヒースクリフ、このなぞなぞについて何か思いついた事は有りますか?」

「は!?こっちとしちゃあ図書館で戦って小舟の上で戦って、そんでピアノ弾いてるやつと戦って、戦ってばっかで意味わかんねぇんだけどよ。物理的に同じ空間ならその亀裂はW社の次元の裂け目とかじゃねぇのか?」

「成程、参考にします。他の方は?」

「えーと、疲れて頭回りませんけど…今の僕達って囚人で、人格は着れないんですよね?なら、そんな大した事は出来ないと思います。それで、管理人は起こすだけで他に何も言ってないなら、その範囲でやれる事で解決するんじゃないですか?」

「成程、参考にします。他の方は?」

「いと思へば私達が立ち入りしは鉄馬の箱なれば、御者は何処やと思わねど、鍵無くば開かじ。なれば調べ回るも手やと。如何に?」

「参考にした方と喋れない方は周囲の探索を。…運転席への扉が有りますが開きませんか」

 

 後方は先が見えない程遠く、その間にも席には沢山の人が寝ています。起こすのも試してみましたが起きないのでむしろ可笑しいのは私達。カルメンの時間に帰属しているのが原因と考えれば…()()()()()()()()()()()()()()

 今私達の蘇生の権利を持っているカルメンは……それなら後は…起こしてくれた方、少し良いでしょうか。

何かしら

 

「脱出には関係ない質問ですが…貴方は誰で…いえ、貴方を作るに従い参考にしたのはどのカルメンですか?」

 

 こっちの言い方の方がワンテンポ早く進みますね。間違ってたら考え直しです、

なら自己紹介…でいいのかしら?私は物言わぬ少女の幻想体。それを基にこの鏡の世界にいる全てのカルメンの幻想体の状態の影響を受ける様に設計された人格に加工された「記録」。〖試練 カルメン〗。ねじれに誘導するフリしてE.G.Oを開花させる方へ導く、カルメンを知ってる人程罠に嵌る試練よ

 

 その声に伴い、ロージャが驚きます。どうやら私以外にもこの声は聞こえていたようです。

 

「小舟の上で戦ってた時なんかダンテがワンピースを着て釘出してた訳だ!幻想体が協力してちゃそりゃあやれるかぁ。いいなー、私もあんな風にE.G.O使い熟したいなー」

「ロージャ、空気に釘打ちでの連続跳躍がかっこよかったと思うのはいいですが、あれは特殊例ですので厳しいかと」

「…特別かー……いや、ならしょうがないよね!うんうん。それにこんな厄介な空間に取り込まれて得た厄介事でしょ?超絶羨ま私は勘弁かなー!?口がメッチャ滑るなー!?なにここ!?」

「現在私達は精神のみの状態で肉体がありませんからね。思考しながらだとそのまま口に出て来やすいので喋る時はご注意を」

 

 今の私が喋る時思考を落ち着かせている理由ですね。さて、思わぬところから脱出手段が見つかりましたね。試練のカルメンさん。今から言うことは可能か試してください。

急にどうしたの?

 

「…あー、だからさっきからウーティスとかの奴ら黙ってたのか」

 

「…かえりたい」

「無・思・仕・ロ」

「鯨鯨鯨復讐復讐復讐殺す殺す殺す」

「血を吸い…家族の分も…腹が減った…妾は…」

「(モスキート音)」

 

「順に、

 突破口をさっさと見つけろ

 無駄な事に思考費やしてねぇで仕事するんだな。お、時計頭が座ってた椅子が怪しいな。ロージャ手を貸せ

 鯨鯨鯨復讐復讐復讐殺す殺す殺す真っ直ぐブッ刺してぶっ殺す

 まっったく身に覚えのない呟きで困惑が止まりませぬぞーー!?ファウスト殿ォォォオオオオ!!!!

 俺の扱いいっつもこうだよな

 と言っている」

「あ、私良秀に呼ばれてたの!?なになに、何すればいい訳〜」

「ムルソー君、其方にてれぱしー検定1級を授けん…」

「なんで分かるんですかムルソーさん…」

「表情と喉の動き。音に出力されている物と相違しているこの2点を観察すれば理解できる。イシュメールは太湖の直前でこの空間に攫われ、ストレスでおかしくなったと推察可能だ」

 

 ガチャリ

 

 さて、他の囚人が雑談に興じている間に試練のカルメンさんに確認と運転席側の鍵開けが出来ました。

私こんな事出来たのね…

 

「鍵が開いたので全員突入準備を」

「わ・な」

「ええと…訳分からんうちにこの探索も終わったな…ですか?…僕にも出来…あ、それと椅子の方はどうでしたか?」

「シンクレア君。其方にもてれぱしー検定1級を授けん…」

「え?何でですか?」

「い・し・黒・青・俺」

「良秀説明したとこ悪いけどこれは私も言うわー。椅子の下にT社のロゴが入った黒い箱とL社のロゴが入った抑圧作業機器?ってのと私達が図書館で書いてた本11冊、ダンテとファウストのは無かったよ」

 

 開けられた仕組みは単純でした。

 「写された月」は内部に他者を取り込み複製する過程があり、複製するには対象について完全に理解しなければなりません。つまり、「写された月」のカルメン側は兎も角「赤い月」の部分では取り込んだ対象を理解しています。

 試練のカルメンは全てのカルメンの幻想体としての状態が反映される。ならば、試練のカルメンは「赤い月」としてこの電車におけるマスターキーとして活用できないか?

 

 試して、上手くいきました。上手くいくとは思ってませんでしたが。

 誰かに思考を見透かされて予め試練のカルメンにそういう機能を入れて置かれてた気分ですね。

 

 図書館に誘拐される前にゲゼルシャフトから送られた情報曰く、この電車は鏡屈折鉄道で乗車する電車と一致しており、この電車が走る事で再現される周回と時刻制限が決定されるとありました。

 「写された月」の内部を車庫として活用し、現在は私達の列車と現在走っている列車含めて10本あるそうです。

 故に、()()()()()()()()()()()()()事がここを脱出する手段になる…と7周目のファウストが発信元の情報に書いてありました。

 

「皆さん、運転席が開きました。ドンキホーテとホンルは本と抑圧作業装置を持って来てください。T社製時間収集装置は放置したままでよろしいので」

「靴履いてるのに…何故…妾は喋れるのか?」

「ローランドウ」

「…おい今」

「……黙っててください。下手に刺激して争うのも面倒なので」

「だけどよ…はぁ…分かったから銛を構えるのは止めろ」

 

 ホンルがミシェルと同じ事になってますが気にしない方向でいきましょう。こうなるのはシンクレアの方だと思っていたのですが…どこかで野性の「何もない」でも拾いましたかね。

 

『ようこそ』

 

 ぞろぞろと運転席に入ると、そこには無数のモニター、中央には血を纏う大きな黒い鳥と戦うダンテの映像が映し出されています。

 上には大きく掲げられたL社のロゴ、モニター脇にはのんびり目を閉じてコーヒーを飲む白衣姿の、少なくとも虚無の道化師が化けていない本物のアンジェラと

 

『管理室へ。我々、アインとアンゲロスはあなた方を歓迎します』

 

 中央には黒髪の平凡な人が背を向けて立っていました。

 

 


 

 

 1、動きを予想し空間に釘を設置して腕に追撃。ものとせずに殴られるのを夜明けのハンマーで殴り逸らす。

 

 2、眼に自動操縦の釘を撃ち込む。眼が血に染まり高温を発して溶かされる。傷なし。魅了による混乱はレイサの白い盾(ヘイロー)で無効。こちらの動きが丸見えになった。読心されてるから元から同じ。問題なし。

 

 3、鳴き声、重圧による波動。釘を盾にしつつ空間を釘打ちで補強して振動を伝わりにくくする。鼓膜と穴という穴から出血するだけで済んだ。溶ける愛のギフトで治療しておく。

 

 4、夜明けのハンマーに夜明け事務所のサルヴァドールの技術を加え、太陽の力っぽいのを引き出して殴りつけ、クチバシが開くのを阻止する。殴った所が火傷していた。

 

 5、以上の工程をその都度に合わせて応用しつつ殴り続ける。天秤は罪悪感を打ち込んで絶対に無罪の方へ偏る様にした。感情であれ罪は罪。重しを載せればそっちに傾くのよ。なので無害行動と化した。相手の血鬼としての回復手段を潰す思案はここでしておく。

 

 暫く繰り返して、変化があったのは向こうから話しかけられてからだった。

 

 千日手ね だけどこっちは9つの世界人口分の家族が居るの このままなら貴女の負けね

 

[家族というより自分の複製品じゃ無いかしら?]

 

 私を食べれば 罪悪感なんて感じなくて良い 私に染まっていったのは彼等が勝手に私になっただけで ならそれを有効的に使ってあげないと 不憫でしょう

 

 物騒な月を取り込んだ以上、勝手に死んだというよりはそうしたくなる様に誘導してるだけじゃないの?いや、本来「赤い月」の一部になるのを横取りしてるからもっと悪いわね?月と一つになる機会を奪うだなんて、とても悪い事よ。

 

[そんなに眷属がいるなら私の全てを貰おうとするのは何故?囚人の蘇生能力はもう取られてるし私もう搾りかすに近いわよ?]

 

 複数の腕?羽?が襲いかかって来たのを照準をズラす目的でハンマーを光らせ、釘で横に押して出来た人一人の隙間に勢い余って前に出過ぎたけど身体をねじ込んで避ける。

 釘を撒き、元いた場所には釘打ちで作った空間の亀裂を置いていた筈だけど効いた様子は無い。切れた瞬間には再生が終わっていた。

 こっちは無理矢理身体をねじ込んだせいで骨が幾つか砕けたのに理不尽な物だ。余裕が合ったのに勢い余って傷を負った方が悪いと言われたら否定できなかった。

 

 そうね 私は要らない 取られたらマズいから貰うの

 

[へぇ、他のカルメンと喧嘩でもした?きっと遠い世界同士なせいで意見が合わないのが原因ね]

 

 無数の血の槍が腕羽の壁から襲ってきたので自身の周囲一体を一旦光に分解、溶ける愛の肉体構造に変換し子持ちの蛇の動きで脱出して戻しておく。ねじれを作り出すカルメンの技術の応用だ。何にでも成れるが、精神が擦り減るし、別に傷は治らないし、即座となると身近な幻想体を参考にするしかないのが難点だった。

 

[むかしむかし、近代、現代、国があった時代。都市の始まりの時代、遺跡の産物が現役の時代にL社崩壊後に未来まで。随分とあちこちから人格と可能性をかき集めたんだから、カルメン達にも意見の食い違いが起きて当然ね]

 

 整理した記憶から「積み重ねた望み」のカルメン曰く、月のカルメンの産まれた時期は産業革命初期で鏡の国のカルメンは現代に、墨は都市設立時で心臓はL社を運営できる程度の時期に産まれたのだとか。

 

 喧嘩も食い違いもしてないわ ただ私の計画の方がみんなの為になるだけ 他の私は血鬼をみんなに含めてなかったもの それってとても理不尽でしょう

 

 望みのカルメンの記憶によれば、随分と遠い世界同士だけど、これでも10639%しか違わないから身近な方なんだって。単位は運命石を利用した世界線変動率観測機器(ダイバージェンスメーター)によるものらしい。よく分かんないがすごく遠い世界の話なのは理解した。

 

 月の私が終末鳥を操作しているのか手を広げて自身の素晴らしさを誇る様に前に…あ、いけた。

 

 亀裂の罠に吸い込まれた撒いた釘が、終末鳥の内側に出現し、終末鳥の中で閉じこもっていたカルメンに突き刺さった。

 

  いっ  ぐぇ  どうやって届かせたの

 

 終末鳥が苦しむ様にのたうち回る。指示するカルメンがそう動いている事が丸わかりの動きだった。釘の追撃をする為に背中にいる子に頼み、思考の縛りを解いていく。予めじめ用意しておいた順序通りに()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 死にかけの人を護りながら動くのは苦労したね?溶ける愛は私を癒しても他の人は無視するから頼れなくて大変だったのよ。即席でねじれても傷は治らないし、本格的に集中しなきゃ復活すら怪しかったから。

 ねじれの作り直しが終わったので先に刺した釘を起点に追撃する。

 

 あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"

 

[何で会話してたと思う?ヒントは少なくとも声の発生源を特定する為ではないね?]

 

 説明する義理はないけれど、思考が読めるなら、理解する事に思考リソースを注がせる為に適当に反省会を行う。読む相手が分かりづらくなる様に反芻しておくね?

 

 月のカルメンの位置を探す方法は夜明けのハンマーが発生させる光によるレントゲン的な探査だ。目眩し目的と誤解させる為に思考を縛るのは疲れたわ。

 終末鳥はどうにも遠くにある3つの卵を破壊しないといけないし無視するに限る。ここから出して貰えない以上卵を破壊する手間暇より終末鳥を貫通して直接攻撃する方が早かった。

 空間の亀裂なら終末鳥の身体、耐性、存在を無視できるのはさっき確認した通りだ。後は亀裂で包んだ釘が刺さる様に位置調整すればいい。これが一番苦戦したわね?

 

[後は刺さった釘を目印に近くの座標に攻撃を発生させる。確か死にゆく蝶の葬儀のE.G.Oだったっけ?まあねじれなんだけど。似た挙動、現象を発生させるねじれに作り直せば通用する]

 

 私の背中に背負っていた、誰からも気づかれない能力を持つ新月から作り直した、進むべき道を照らす真っ白な満月を撫でながらそう言う。攻撃してる間に宙にゆらりと浮かべられる様にもしておきましょうか。女の子にこう言うのは失礼だけれど、戦闘中に重い物を背負うのはきついの。

 その内死ぬねじれ、月が顕れる、欠ける、までの命しかない新月と満月、同じ人外の身でも、こっちの方が幾らかマシよね。

 即座になら近くの幻想体を参考にしないとだけど、少しの準備と時間さえあれば記憶から蝶の葬儀のねじれとしても再現できる。カルメン5人分のねじれ作製経験は伊達ではない。

 ああ、さっきから気になってただろうし、この子も教えてあげましょうか?「写された月」。

 

[10周目の都市に来た時、貴女が乗り捨てた子が居たじゃない?]

 

 記憶を見た時、真っ先に観る事になったのは直近の記憶。

 時間関係なら空間にも干渉できるかなという発想から始まり、時間→数字→なんか0に因縁があるわね→0は誕生するまで何も書かれなかったっけ→新月の居ても誰にも気づかれないのと合わせると良い感じに彼女らしくなるわね→そうだ都市を包む次元屈折変異体に気づかれて道を外れるのがダメなんだから気づかれなければ真っ直ぐ行けるわ!これね!

 という思考過程がまず目の前に現れた私の感情ったら。新月なら見えないという発想は私だけあって賞賛できるけど大抵望まない変化は悲劇になるの。血鬼だからか他のカルメンより人の道を外れるのに躊躇が無くて強引なのは長所であり短所ね?誘惑するより多くを救えるけれど同意は大事よ?

 

[ヴェルティって子何だけどね。真っ先に時計の音の反響定位(エコロケーション)で探して、誰にも気付かれないまま死にかけてたから助かる道を模索する為に時計の音をモールス信号にして一方通行の連絡だけど連携取ってたの。唯の不調な時計音と印象付ければ案外堂々と・-・・ ・- -・- (かいわ)とかやってもバレ無かったわ]

 

 どれだけ喋ってても秒針に込められた意味を理解出来るのならば、その元となる音を考える事は無い。聴こえないからこそ聴こえる会話もある。心が読めないからこそ通じる会話がある。後は本来の思考を新月の裏、思考の盲点に置いて仕舞えば活路なんて幾らでも作れる。

 

 つまり、このカルメンは倒せる相手という事だ。

 

 そう言えば新しいこの子の名前は…シンプルに「葬儀の満月」でいいか。この戦い以降は眠りにつかせるつもりだし。光もリソースもダンテの保全に回している私が扱える分では足りなくて、死にかけなのは変わらないのが致命的だった。出来ればで頼まれてたんだけど、結局喋れる様にはしてあげられなかったのが心残りだ。

 

[さて]

 

 心が読めるんでしょう?仕組みは教えたわ。引きこもってても意味はない。それにこの釘は心に直接攻撃する、幾ら身体が血鬼の怪物でも意味のない特攻武器。

 

 あ"あ" 直接殺してやる 血袋にも劣る存在にして殺す あ"あ" 正気の頃の自ら課した自戒が煩わしい こんなにもこの苦しみを共に味合わせてやりたいというのに 腐り切った肉として燃やしたいというのに

 

 終末鳥が幻の様に消え去り、カルメンが赤いオーラを纏いながら、伸びた犬歯に血を滴らせて、無数の眷属を率いて、「赤い月」で周囲を照らした。どうやってか眷属は2人までの制限も克服した大家族の軍団だ。

 私の作り上げた空間も、いつの間にか枯れ木と枯れ草の草原と遠くに城が見える空間に変わっている。実に血鬼らしい空間だった。

 

[ここからは貴女の心が持つか、私に限界が来るかよ]

 

 手がジャリジャリとし始める。手の表面に夜明けのハンマーが崩れた粒がくっ付いた様だ。

 アインからの貰い物のE.G.O。使い熟す以前に、私と相性が悪すぎて崩壊している様だった。そう長くは持たないだろう。

 多分ヴェルティを作り直す為に一部拝借したのがトドメになったのかもしれない。太陽っぽい力を引き出せるからここから使い倒す予定だったけど、考えて消費する必要があるだろうね?

 

[最も]

 

 なので、初手で全力で力を引き出し切って投げた。空から眩しい光が落ちてきて、血鬼の大群が苦しみ出す。その隙に「葬儀の満月」に手伝って貰って全員の心臓に釘を刺して固定しておく。月は太陽の光を反射する。場を整えて最高の出力を引き出せれば万軍すらも相手取れる。

 月のカルメンはモノともせずに突っ込んできたので「葬儀の月」で全身に上から釘を発生させて地面に縫い付けた。かつてカーリーと黒い沈黙にやられた事そのものだった。

 死なない奴には心を折るのが一番効くものだ。

 

 ああ きっと きっとこれは夢ね 夢から醒めれば私はいつも通りみんなを幸せにする為に頑張っていがッ

 

[怪物に堕ちて、恐怖(現実)と対面しないカルメン()に負けるつもりは全くないの]

 

 私は30日耐えて脱した。貴女は何日でしょうね?

 

 


 

 

「電車の次は…て、声がまともに出せる様になったな」

「ふむ、漸く私が指揮を取るべき場所に出たか」

 

『此処では音声認識正常化フィルターと相互理解フィルターが通されてますので、図書館と同様の快適な会話をお楽しみ頂けますよ』

 

 ありたいに言えば翻訳と通訳ですね。囚人が何かする前に会話の主導権は握り続けて置きましょうか。

 

「では、悲惨な事になる前に洗いざらい情」「質問宜しいでしょうか」

 

 ウーティスの脅しは意味がないでしょう。アレに悲惨な状況という物は定義されてないでしょうし、味方であると前提に置かなければ会話は成立しないでしょうからね。

 

『時間が有限である事を忘れてないのならしてもいいでしょうね』

 

「有難うございます」

 

 運転室へ向かった私達を迎えたのは、アインという男性と、アンゲロスを名乗るアンジェラでした。

 アインが見ているモニターには血鬼に釘を刺し続けるダンテを中央に、時代も土地も違う景色が無秩序に映し出されています。その中には図書館とL社本部の景色、私達が談笑している景色もありました。

 背後で囚人が動揺しつつも此処が何処か、アインとアンゲロスは何者か聞こうとしているので手を挙げて制しました。恐らく、それは()()()()()にしかならないでしょうから。

 時間が有限と言ったなら、それは余計な事をする余裕なんて全くないという意味だとファウストは理解できますからね。

 質問に答える度量があるようで、それで私達が死ぬ事になっても構わないのでしょう。私達が最適解で動いてもそうじゃなくてもいい。その程度の立場に今の私達囚人がなっているという事ですね。

 

 きっとここで一番大事なのは、会話を交わしたという過程とそれに同意したという結果でしょうから。

 

「何をすればいいか…何をすれば私達はこの鏡の世界から脱せるか教えてください」

 

『現行の列車に乗り込んでもう一人の自分を殺して成り代わる(その席に座る)。ダンテがカルメンの攻略に乗り出した今、それが最適解になります』

 

「…()()()()()

 

 想定した中で一番最悪なパターンですね。

 

 まだこの鏡の世界に取り込まれ切っていない世界の自分に成り変わり、ダンテが全てを解決する事を祈れと。

 つまり、私達の世界は既にこの鏡の世界の一部となっており、もう自力で運命を変える分岐点は無いということですか。囚人に持たせた本をチラリと見て、諦観を抱きました。

 ゲゼルシャフトは私に至る可能性を売り払いましたから、この数ページの本が今の囚人の持った可能性、未来に対して望める希望の量。確定以外の道を進むのは無謀と言われますか。

 

 それはそれとして、最適解以外も聞きましょう。

 

「それ以外、可能性が低くても私達が全員元の世界へ帰れる方法は無いでしょうか」

 

『有りますが…よろしいですか?100%助かるのが1%まで下がりますが』

 

 思ったより多いですね。征きましょうか。

 

「はい、構いません」

「いや、構うだろ」

 

 ヒースクリフが反論しましたね。他の囚人も癪に触られた雰囲気を出しています。

 …ふむ、喋れないからと説明を放棄し過ぎましたね。

 

「さっきから聞いてりゃ、好き勝手相談もなしに決めて。知らねえ奴の言うことを信じるなんざできるかよ」

「…ま、そうだな。ファウストさん、あんたはいっつも正しいけど、するべき説明と納得も無しに最後まで好き勝手に行く先を決められるのはムカつくんだ。さっきまで俺らと同じでなぁんも知らないと思ってたから文句一つ言わなかったが、聞いた感じじゃ色々隠してそうじゃないか。…ならさ、いい加減馬鹿な俺たちにも理解できる様に説明してくれよ、な?」

 

 グレゴールも冷静な様で怒りの籠った声でヒースクリフに賛同していますね。他の囚人も…イサン以外は大なり小なり同じ事を考えている様で。しかし知らない方がいい情報以外はゲゼルシャフトが図書館で説明しましたし…こうしましょうか。

 

「何分まで大丈夫でしょうか」

 

『1%の方を取るなら私の説明時間を含まずに後5分の余裕があります』

 

「相互理解フィルターを一時的にOFFにする様にお願いします。3分までに済ませますのでお待ちを」

 

『その意見を尊重します』

 

 低い機械音が一つ、鳴り止みました。これで言葉は通じても聞いた側の認識に合わない状態になりました。

 ここからは疑心と無理解を積み重ねる時間ですね。一応此処にまでにここが鏡の世界である事、攫われた事、このままでは帰れない事は向こうも理解しています。

 論点は何故100%安全な方ではなく1%を選ぶのかという事。

 ぎりぎり手遅れにならない情報は元いた世界が既に存在しない事、今隣にいる囚人達が恐らく別の周回の囚人である事でしょうか。

 

 私とダンテはは9周目でしょうが、恐らくイサンは0周目のゲゼルシャフトと共に居たイサン、シンクレアとホンルは4周目の囚人、グレゴールは2周目。他は未確定。ゲゼルシャフトからの情報…これまでのファウスト達の世界の情報から改めて囚人を精査したところ判明した事実ですね。

 

 そしてこの判明した事実により厄介なのは、既に自身が成り変わりで生き延びた存在であると判明してしまう事。9周目、私と一緒に過ごした囚人達は大半が既に死亡しているだろうという事。成り変わる最中の記憶が消えるという躊躇する気を薄くする事実。

 そして私のやる気が削がれているのが一番致命的でしょう。まだ生き返る道が無いわけではないので頑張れますが。私はみんなの為に頑張れますが居なければ頑張れないファウストですからね。

 まあはい、ここで言うみんなは9周目の囚人達とダンテ、案内人にカロンですね。

 詰まるところ

 

「では説明に移る前に、皆さんに幾つか問題に答えて頂きます」

「…ふざけるのも大概に」

()()()()()()()()()()()()()()E().()G().()O()()()()()()()()()同時にさぁはい」

「「0」」

「それぞれによる。10が最も多く、稀に15、ファウスト氏は20と多い方である」

「「「「「「「「15」」」」」」」」

 

「え?」

「は?」

「どうしたのでありまするか?全員15だったでありましょう?」

 

 遠慮なく黙らせられます。

 対話も理解も不十分な物で重ねましょう。対話も理解もできてしまえばお互い殺し合うしかない。

 知らないからこそ成立する物もある、それが今の私達ですから。

 それとムルソーさんは9周目ですね。それ以外は他世界の囚人でしたか。

 

 囚人の違う鏡の世界。

 これだと直球なので手鏡で来てしまったのも合わせて囚人が違う世界の鏡でしょうか?

 もしここから脱してダンテが書く本に名付ける機会があれば挙げておきましょう。個人的には「ギンヌンガガプ(裂け目の世界)」と名付けたくは有りますが、二度も関わりたくないので下手に縁を作るのはやめておきましょう。そういうのはダンテに任せるに限ります。

 

 私がそうやって適当な事を考えている間にもう1つの質問で終わらせておきます。散々殺した方々なだけ合って殺せる状況になればアレコレ理由を付けて殺しにきますからね。多く質問してもダメな事柄です。

 

「精神力はどの様な効果があるか?さぁはい」

「「E.G.O資源以外に使い道は無い」」

「上がると鍔迫り合い(マッチ)で有利になり、E.G.Oを使用する時に消費し、-45でE.G.Oに侵蝕される」

「「「上がるとマッチが有利になり、50になると装備したE.G.Oのスキルが解禁され、侵蝕のみ消費する」」」

「上がると10毎にマッチが有利になり、E.G.Oを使った後に消費し、-40でE.G.Oに侵蝕される」

「「下がるとマッチに有利になり、上がるとE.G.Oを使う時に有利になり、E.G.Oを的中時に消費する」」

「E.G.Oを使用する時に消費し、敵を倒す事でのみ上がり、-45で侵蝕する」

「E.G.Oに身を費すと消えゆき、60へ高むると必然と表にならむ」

 

 確定できましたね。纏めておきましょう。

 ダンテ、私、ムルソーが9

 イシュメール・ウーティスが5

 ホンル・シンクレアが4

 ドンキホーテ・ロージャ・ヒースクリフが3

 グレゴールが2

 良秀が1

 イサンが0

 ですね。下に行くほど沢山の自分を殺してます。6、7、8は全滅ですか。全ての周回の私の情報を見た身としては悲しくなりますね。

 

「…みなさんマニュアルを読んでなかったんですか?ガイドブックにも書いてあったじゃないですか」

「待て、何か変だ。一旦落ち着いて武器を置かないとマズい」

「……ああ、そうだったんですね。ファウストさん、ホンルさん、一旦殺してから考えましょう。偽物は殺さないと…」

「…ファウスト、あんたも意地が悪いな。取り敢えずアンタと俺以外はく・へ、だ」

「ただ在るが儘に流れゆかん」

 

 …何故だか全員からの好感度が高い気がしますね。他のファウストは囚人との関係に力を入れていたのでしょうか。

 9周組の私の所と随分と違います。私の所ならこうなる前に既に私が5回は骨が折れているでしょう。だからこそ囚人が違うと気づけたと言えますが、何だか悲しい気づき方ですね。

 

 …まあ、こんなやり方でしか纏められない人が言っても当然の事と言われておしまいですか。

 

「武器は納めるように」

 

「「「「…………」」」」

 

 渋々と私の言葉に従います。

 

「それで、何故教えないのかと聞かれましたね。ファウストは天才なのでこれ以上教えた場合、共倒れになると知っていたからです。……隣人が信用の出来ない相手である。一つ目でこれでは教える必要はないでしょう。………反対意見はありますか?」

 

 

「では、清聴としましょう」

 

 

 剣呑な空気で私の行いを見ています。ここに来て漸く皆さんにも私がよく知るファウストではないと気づいていただけたでしょう。

 お互いにバラバラになれば今まで音頭を取っていた人が一番信じられる相手になります。自分の信用を高めるのではなく他へ信用を崩して相対的に従わざるおえなくする方法。個人主義に走るにしてもこの閉鎖空間でそれは難しい事ですから。

 

 これで先に進めますね。

 

「2分15秒で済ませたので説明お願いします」

『後先ちゃんと考えてやった方がいいと思いますが…私には関係ありませんし、説明しましょう。1%の可能性を』

 

 ところで、中央に写るモニターでダンテが「写された月」を拷問の末に撃破してますが…あ、「写された月」を呼び水に新しいカルメンを引きづり出しました。

 その間にもカルメンが呼び出した軍団は動けてません。アレですね。カルメンに変える力のせいで自我のない空っぽな傀儡になってますね。

 本体を苦しみでいっぱいにすれば纏めて動けなくなる欠陥性のせいですか…仲間に裏切られた人物のねじれは大体ああいう事をしがちだとファウスト知っています。幻想体としてではなく血鬼として眷属にしていればこうもあっさりと負ける事は無かったでしょうね。

 情報源は少し遠くの世界のねじれ専門協会のフィクサーをしているファウストです。一回解答側になった折の雑談で聞いたので間違いありません。

 

 その間にも時間は進み、画面に映るダンテが「写された月」を消し去ると、先程私達が通った扉の方から轟音が響きました。この列車に「写された月」を仕舞い込んだのでしょう。扉を開かれたら終わりなので試練のカルメンに頼んで鍵を閉めて貰いますか。

…………

………

……?

 

『まず前提として、ここが複数の世界をリソースにして作られた空間である事はご存知かと思いますが…』

 

「周回毎に他のファウストの可能性を起因にして回収した人格や紐ですね。それらを材料に幻想体の力でこの鏡の世界を作ったのは知っています」

 

 いませんね。はて、先程まで声を掛けたら居たのですが…扉の方を見ると鍵はいつの間にか掛かっていました。やるべき事をやったのならまあ良いでしょう。

 

『その通り。この際、カルメンは元は一欠片しか無い幻想体を扱う為に複数の幻想体を混ぜ合わせた。そうしなければ何も出来ない為ですね。その際』

 

「成程、本来純粋でなければ成り立たない存在を混ぜた事により致命的な欠陥(バグ)が発生したと。その産物が貴女方のいう「記録」ですね?」

 

『合ってます。「記録」とはK社の特異点が「手鏡」に触れた事により発生した。より詳しく言えば』

 

「「手鏡」を通路にこの世界に接触、いえ、この世界にいた複合幻想体の失敗作に触れたと。この空間自体は9周目の私ではなく0周目のファウストとイサンが偶然作り上げた物。後に続いた以降の周回は後追いですからね。時系列が破綻してはいますが…「積み重ねた望み」ですか」

 

『…理解力が高くないですか?これまでここに辿り着いたどのファウストよりも話が早過ぎるのですが』

 

「私は天才なので、他のファウストに知識を分け与える事が出来ます。評価の低いファウストを中心に対応する福祉重視の駄目ファウストですが…それでも与える側なので、これまで貴女が対応してきた0以外のファウストとは一方的な顔見知りとも言える凄い方のファウストです」

 

『すぐに両方向になりますがね』

 

「次に行きましょう」

 

 ふむ、他世界のファウスト…というよりは囚人ですか。万が一で戦闘する事になると。ぼかして伝えてくれたのは有り難いですね。相手が後ろで口を開けて様子を見てる方の囚人達ならいつでも不意打ちができそうです。

 

 それにしても…もしかしてダンテが全てのカルメンを倒すまでがタイムリミット…ですね。これは急いだ方が良いかもしれません。私のところのダンテは鏡屈折鉄道をより短い時間で踏破するのに凝るタイプですから。

 

 


 

 

[先ずは]

 

 よ 呼んだわ だから見逃してちょうだ

 

[一人]

 

 新しいカルメンを引きづり出して貰ってから月のカルメンを分解した。殺すだけだと血の風呂のカルメン同様復活されて終わりなので、幻想体と分離してから私の中で封印しておく。「赤い月」と一体化まましまう事はしない。

 そのままでも封じられるけど、それとは別に記録を確認する限り少しでも正気に戻す必要はありそうだから。本来カルメンは光に溶け込んでいるのが普通であって幻想体の一部として活動しているのが例外なのだけれど…

 

[「ファム・ファタール」から「写された月」へ。亜種の幻想体に変化すれば原点なんて忘れて当然ではあった]

 

 「赤い月」とかいう別世界の「蒼星」の親戚疑惑の怪物のせいだ。蒼星で再会ならぬ紅月で融合、吸い込まれ事故に合体事故と不幸なものだ。そのせいで月のカルメンは本来の思考からかけ離れていた。一応私同士なのだから頭を冷やさせる時間を用意したっていいよね?

 

[完全には戻らないでしょうけど、自戒した理由くらいは思い出して来なさい]

 

 さて、ねじれを作る力が分離も出来て万能だけど、このカルメンを抜いて余った「赤い月」の幻想体に近い怪物は如何しましょうね?取り敢えず死に体の「葬儀の満月」の寿命を伸ばす為の材料にしておいた。卵の状態だったから簡単に加工できたのが幸いだ。

 

 治していくとチャリチャリと満月の中で硬貨がぶつかった様な音が少なくなる。どうやら傷つく程中身が金と銀の硬貨で満たされるみたい。

 月のカルメンが何かしらの作品を元にねじれさせたヒントみたいだったけど、記録を振り返ると直ぐに答えに辿り着いた。ダンテとしては引いた。

 弱点も分かったけど怪物になって本当に狂気に呑まれてたようだ。月の葬式は無いと思う。私の名付け方もこの発想に引っ張られてたからちょっと捩った感じになったのだろうか。

 

 月の私が繋げた通路を走りながらぐだぐだと考える。ちょっとした自己整理を兼ねた時間だった。

 

 確かに、カルメン達の記録の中には、これでも過去の文芸や作品は勿論、映画やアニメ、ドラマに漫画にTRPGまで網羅している記録がある。殆どは光に溶けてから色んな人の理想的な成りたい自分のイメージ図に対して深い理解を得る為の勉強で得たものだけど、研究員の時も仲良くなる手段として余暇があれば履修していたの。

 これでもTRPGはGMだってやったことあるのよ?その影響か図書館のE.G.Oの何階層かはモダン調になったのに少し恥ずかしさを覚えていた記録もある。

 良い事思いついた。もしここから脱出できたらアンジェラ達相手にねじれを再現した子を送ってみましょう。アンジェラは初めてだし有名なクトゥルフモチーフで…それなら確か良い感じの事務所が…それを誘導…招待状のタイミングは…これ以上はダンテが消えるからやめておこう。

 

 カルメンとして意識が寄る程強くはなるけれど、それで私が死ぬのは勘弁だった。そういうのはカルメン達にこの記録を渡してからにして欲しい。

 そうして一人相撲と洒落込んでいた時、漸く扉に辿り着いた。

 

 開いて、私の気配と風景の変化。どうやら到着したみたい。

 

 《s》罪を償う時間になっのね

 

[どちらかと言えば善行を積む時間よ。アインの道のりを歩んだ私]

 

 心拍数と呼吸を測る音、電信図の音が響く空間。無数の研究者の遺体が並んだ広々とした手術室。

 記録を閲覧するに、幻想体としての本当の名前が何故か思い出せないから名付けた仮称を使っている「繋がり結ぶ心臓」の世界。そこに立つ人であった時の私。違うのは心臓と遺体で血管が繋がっている事くらいか。W社の乗客のコスプレとしてなら満点だろうね?

 

 対するは溶ける愛で構成された頭、ダンテの赤いコートにカルメンコーデの白衣と私服。罪悪感を固めた釘とハンマーを持ちヘイローを浮かべ、後ろに蝶が飛び交う満月を背負った私。夜明けのハンマーはの残り滓は置いてきた。この先の戦いについて来れそうに無かった…と言うよりは月のカルメンの手枷に加工したからもう使い切ったのだ。

 極まったL社職員よりマシとはいえ、私の混沌具合が酷いものだった。もう少し単純明快にしたいものだ。

 

[始まりの違いはジェバンニの時、エンケファリンの最適配分に加え、人為的なねじれへの加工に成功する]

 

 始まりの間違い その死を無駄にしない為にと私もあの実験に立ち会い 呼びかけによる脳の活性化に活路を見出した 見つけてしまった

 

[アインでは気づかなかった事よね。…彼女は人員を纏め、一人一人のあらゆる特徴を覚えていたあの人。特別な感情を持たれていた相手に声をかけられて、その時だけは自分だけの物だった。エンケファリンはその興奮に反応して幸福感に方向性を与えた]

 

 お陰でセフィラにした時、ゲプラーとビナーに加えてネツァクも直接戦闘妨害し始めた時は驚いたわ。本人は自分の殻に閉じこもってたから気づいてなかったけど、触手の攻撃が痛かったのよね。

 

[それがキッカケになり、次はガブリエル。ねじれにする事に成功、またまたその先に進む方法を思いついた貴女はガブリエルを自己否定して幻想体にした。貴女の世界で初の幻想体の抽出の成功だった]

 

 他がその末路を偲ぶ中 私だけがそれをどうすればより有効的に使えるかを考えていたの 成功した 抽出した 人を人だと思わない者だけが辿り着ける思考だった

 

 このカルメンは思考を積極的に読まない。アインの道を歩んだのだから、ねじれよりE.G.Oに賛同し、ただ見守るだけだ。そこまでアインのあり方がカルメンに移ったのだ。当然、()()()()()()()()

 

 人が死んだ 幻想体にした 人が死んだ E.G.Oに加工した 人が死んだ セフィラにした 人が死んだ L社を創設した 人が死んだ 皆が幸せになった 人が死んだ 苦痛が巡った 人が死んだ 人が死んだ 人が死んだ 人が死んだ いつの間にか 人の名前を見なくなった それでも変わらずに人が死んで 私はそれを幸福に変えた

 

[ジェバンニ、ガブリエル、エリヤ、ミシェル、エノク、リサ、ダニエル、カーリー、ガリオン、ベンジャミン、アイン、以上代表として他4807030名の死者。しっかり覚えてるし、自分が一番都市の病その物と言うには10億は足りない数ね、上出来な方じゃない?]

 

 名前を見なくなったにしては記憶を貰った私がしっかり名前も顔も全て思い出せるのよね。それを私に押し付けたから思い出せなくなっただけで、罪の数はしっかり数えていたのでしょう。耐えきれなくて捨てたのは頂けないけれどね?

 

 L社の事業で不幸にならずにすんだ数、アインではないから巣の管理もしっかりやってた影響による幸福になった数、L社の規模で言えばアインの方が上手くやってたし金も稼いでいたし「光の種」シナリオも早く終わってるけど、少しずつ身近な所から良くしていたのはこのカルメンの方だ。

 

 これはアインがカルメンの死に囚われて早さを求めたのが原因だろう。死という苦痛に囚われて過程に拘らなかったからこそ、人の死をより良いものに繋げようとするカルメンが優った。

 

[他のカルメンと比べてしまえば、貴女は少しだけ心が強くて、より良い自分になれるという希望を持っていた。それだけでここまで悲惨に変わるのは悲しい事だけど、成りたい自分というのは必ずしも幸せな自分とイコールでは無いのだからこれはしょうがない事ね]

 

 言って終えば、少し上振れていた。それだけの話。幾つもある世界で他のカルメンと比べて少しだけ前を向くことが出来た。死んだ人に報いるために止まらなくなって、果てには「写された月」に引き摺られてこの世界に来てしまった。

 

 しょうがないで済ますわけにはいかないわ 私がこうだったから苦痛の連鎖は止まらなかった だからこそ より素晴らしい私が全てを救えば 全ての難題は解消される

 

[そこがだめなのよ]

 

 まあ、そのより良い自分になれる希望と鏡の世界という概念は致命的に相性が悪かった。同じ自分に全て押し付けようとして、完璧な自分なら見つける為に消費した死も救えると信じている。自分へのハードルを上げすぎて幻想体としての名前も思い出せなくなる程思考が止まってしまった末路がこれだ。

 

[死をより良い物にする事に目を向けて死なないようにする努力をしない。いつかの自分に完璧完全を押し付けて今の自分に目を向けない。他者の事だけ考えて自分の幸福を追求しない。自罰に走って善行の意識がない]

 

 良いところは充分評価したのでダメなところをいう事にした。一言で言えばカルメンらしくないである。アインの道のりを進んだ影響か、このカルメンはカルメンとして大事な要素を欠かしてしまっていた。

 

[要は、善意で行動せず自由でない私に負けるつまりは全くないって事よ]

 

 心が少し強く、希望があり、上振れた。しかし、カルメンとしての在り方については下振れも良いところだ。そんなので他のカルメンに押し付けようと考えるとは図々しい。傲慢も良いところだろうね?

 

[取り敢えず倒す]

 

 そう なら 貴女はいらないわ

 

 周囲の遺体が襲い掛かり、それを釘を刺して硬直させる。鐘の音が鳴り響く。満月の延命作業は会話の間に終わらせていた。

 戦いは、カーリーの遺体のE.G.Oと釘で鍔迫り合う事で始まった。あ、一撃で弾か

 

 


 

 

「まとめると私達の手で「積み重ねた望み」を殺し、そのリソースをここに持ってくれば何とかなるんですね?」

 

『次にいきましょうの次の発言で結論を言われるとは思いませんでしたね。何が見えてるのですか?』

 

「他の私達と戦うにはこの方法しかないので分かりやすい方では無いでしょうか」

 

 ダンテが思いの外早く済ませそうなので文脈は無視して答え合わせしました。移動方法と帰還方法をさっさと聞き出しましょう。

 

『行きは後ろの扉を灰色にして開ければ着きますね。帰りは自ずと判明するでしょう。リソースは殺せば後はこちらで何とか出来ます』

 

「つまり…いつも通りか」

「何か仰々しい事するのかと思えば、案外そうでもないんですね」

 

 グレゴールとイシュメールですね。ダンテがサクッとカルメンを倒した映像が映ってるのもあって油断は充分のようですね。

 

 囚人の間を進み、扉に手を掛けます。よく見ればドアノブに回す部品がありました。今は赤色ですね。回すと扉の装飾が変わり、回す場所も色が変わります。灰色にしておきました。

 

「いつも通りに死ぬのは禁止となります。ダンテの蘇生はありませんからね。…それと、他の囚人が如何なる戦闘方法であったとしても、動揺する事のない様に」

 

 扉を開き、先行します。地面が傾いて…この列車が傾いているだけですね。地面と距離がありますが大した事ないので降り立ちます。

 見たことのある青空、に見せかけた無数の扉の天井。違いは血の海が無くなり、草原が見える事。あちこちに様々な物が転がり落ちていました。

 赤いバス、彩り豊かな宝石、緑の池、虹色の混ざった真っ黒な草花。虹色草原と呼びたくなる景色です。

 霧が無くなり、あの時に見えた赤い塔と思っていたものががはっきりと見えます。

 

「おっきな硝子の木ですねー」

「私には宇宙を内包した白い塔にも見えるな。あれ程の物なら戦争で幾らでも使い道がありそうだ」

「あれ、機械じゃねぇか?」

「魔法技術の痕跡も散見されますね。幻想体を様々な技術で改造した…とかでしょうか」

 

 遠目に見える分ではそのくらいでしょうか。徒歩では一日走っても辿りつかないでしょうね。近くに転がっているメフィストフェレスが運転できれば良いのですが…無事な物を見つけるにも大変ですね。

 

「…あそこに転がってるのメフィストフェレスじゃないですか?」

「それも幾つもだな。カロンにとっちゃふ・ふ・く、だろうな」

 

 後ろで何か落ちた音がしましたね。こうして不法投棄物は増えていくのでしょう。

 

「子供っぽいふざけた景色だけどカロン、ふくふくな椅子に座って運転できればこれまでの苦労は水に流せる。無事なのはあのメフィだよ」

「…どうしますか?確保でしょうか、それとも殺しますか?」

「…運転してもらいながら出来ればでこれまでの経緯を聞きましょうか」

 

 丁度全員の死角から鳴った、何か落下した場所へ振り向くと、平然とカロンが会話に混ざりました。都合がいいですがこれは乗って良い都合なのでしょうか。

 …「積み重ねた望み」。望みですか。相手から塩を送られた気分ではありますが、ダンテより先に着くには乗るしか無いですね。

 

「…身に染みゆる座の座り心地なり」

 

「ブルンブルン。発進〜」

 

 2回、手首をカクカクとしてからエンジンをかけました。あの手癖は3周目ですかね。

 

「…あー…」

「このカロン…私達のカロンではござらぬか…?」

「デジャブ感じるな…」

 

 全員がカロンが示したバスに乗り、座ります。懐かしい気分と何処かに違和感を抱くバスの景色。カロンが言っていた通り、バスは少しがたつきつつも正常に発進しました。

 バスはイサンと同じ0周目のバス、カロンはロージャ、ドンキ、ヒースと同じ3周目のカロンですか。最低限理解できる範疇の存在ではありそうですね。

 

「…ねぇカロン?出来れば今まで何してたか教えて欲しいなーって…ダメ?」

「カロンはブルンブルンできればそれで良い、それ以外は…うん、無い事はどうでも良い」

 

「記憶はないと」

 

 そう簡単に分かるとは思ってませんでしたから構いませんが…。

 

「「記録」で再現された個体ですね。このカロンが選ばれたのは直感能力の高さと適応力の高いカロンだったからでしょう」

 

「一つ良いですか?」

 

「どうぞ。シンクレア」

 

「…ファウストさんの事は…信じても良いのでしょうか」

 

 私は私の事をよく理解してますので潔白と解りますが、他の囚人にとっては違いますか。シンクレアを咎めない事から、全員が同じ気持ちなのでしょうね。

 

「今まで共にいたファウストに対する信用とさしたる違いはないですね。不気味な程に完璧な計画を信じるのと不明瞭な同行者を信じる事。信じなければ終わるだけですので、私から言うことは大してありません」

 

「終わるのが大した事ないって言うんですか!?」

 

 声を荒げましたね。不安定な部分が出てきてるのでしょう。

 

「私の目的は達成出来なくとも、ファウストの目的は何処かで達成されるでしょうから」

 

 他の私、ファウストの目的が達成できる様に頑張ってるのが今ですからね。自分の為でもありますが、他の私の為でもあります。

 

「…僕の知っているファウストさんは、そんなに無関心ではありませんでした。カロンさん、停めて…」「はい、なので伝言は預かってあります。停めなくてもいいですよカロン」

「…!?」

 

 シンクレアは私に振り落としていたハルバードを逸らします。横の床が割れましたね。後ろで行動しててもわかってたので早めに伝言があると伝えました。ミシェルもそうでしたが、4周目の人は気軽に殺すのを選ぶみたいですね。

 

「シンクレアとホンルへ。私は失敗してしまいました。リズムで会話する世界は私達の世界だけでしたので会話が通じなかったのです。驚きですね…ですが恐れる事も立ち止まる必要もありません。相互理解する為のシステムをアンゲロス氏に作り上げてもらったので次からは会話は通じます。どうか生き残って下さい。ファウストより」

「それだけなら幾らでもでっちあげられるじゃ…」

「原文言いますね。ダンッテ。ダッダテテテ、ダンダンテ。シンクレアァ…カリジャナリ…。ホンル。テッテッテ。ファウストッ」

「…嘘じゃない…間違いないです。……そうですか、なら、信じます」

 

「嘘でしょ今のが言語として成り立つの!?」

 

 嘘ですが。昔に4周目の世界の言語を理解して自力で言える様になって、それから4周目の私がこの鏡の世界で何を残そうとしたのか覚えていたのででっち上げただけですよ。

 私は天才なのでこのくらいやれますし、そもそも4周目のファウストは言語機能に欠陥ありとして評価が低く、サポートが不十分だったのを翻訳して会話できる様にして再評価させたのは私なので。

 元々一方的な顔見知りなのは伊達ではないという事です。

 

「…ま、なんだ。理解は不十分だけど、どうやらここは何回も繰り返されてて、ファウストの嬢ちゃんは託されて来たってことなんだろ?なら俺は信じる事にするさ」

 

 煙草を取り出しながらグレゴールが憐れむ様な、優しい眼で何故か私をフォローしてますね。死者に託されたというところが彼の何かを擽ったのでしょう。…自分の所のファウストと私を重ねてきたのはムカつきますね。私の方が優秀なのですが。

 良秀に煙草を分捕られてしょげて哀愁を漂せたので許しますか。

 

「……はぁー……吸いたかったんだ。ピアニストのとこで全部使い切ったからな」

「…まだあるからいいけどさ」

 

 この2周目のグレゴールもここに来てから結構吸っていた筈なのに何故残っているかは疑問ですが…それは兎も角、他の方も信じると賛同し始めました。

 

「私も信じます。どのファウストとか知りませんけど、どうあれ私達のために考えてるじゃないですか。なら、まあ、まだマシなので」

「はいはい!私は最初から信じてたから!」

「言われた事をするだけでしたし、裏切る様なら殺すだけですからね〜」

 

 …これも兎も角で流しましょうか。バスの外の景色の変化が激しいので。

 

 これまでは列車を始めとする様々な廃墟や乗り物がありましたが、今では無表情でこちらをじっと見る人々が追加されました。「積み重ねた望み」に近づく程人数が増えてますので、戦闘のときに此方を攻撃しない事を祈るばかり……気づきたくなかったですね。

 雨雲かと思いきや後方から飛んで着いてきているG社の軍人人格の群れだったのを見なかった事にした上で祈ります。合理的で無いですね。

 

 それから、このバスも私の知っているものと比べると異常な点があります。1分経つと景色が丸々変わり、急激に「積み重ねた望み」に近づいている事です。先程からイサンはそれが当然といった雰囲気で座り、カロンはテンションを上げてアクセルを踏んでいます。

 囚人の皆様は気づいていないですが、この調子ならもう…着きましたね。

 本はカロンに預けておきますか。白紙が多いですし落書き帳にでも使って貰いましょう。

 

「カロン、私の本を頼みます。では皆さん、武器を取り下車する様に。時間です」

 

 その言葉で空気がヒリつきます。こうして、私達はバスから降りました。

 真っ白な壁、そう見間違う大きさの樹木……やはりそうでしたか。

 私の目には大きな木ですが、きっと他の方には別の物が見えてるでしょう。

 

「観測を禁止します。する程に不利になりますので。どんな力を持つ幻想体か考えないでください。それが本当になりますから」

 

 一応注意すべき事を言っておきましたが、無理でしょうね。思考は止められませんから。

 

 複数の可能性を同時に展開する。理解を深められる程強力になる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。纏めてしまえば「相手の想像した展開になる能力」

 

 ここまでが他のファウストが結論を出し、そして本当にされた力ですかね。更に厄介なのは、過去に取り込んだ力はそのままであるという事。望みを積み重ねるとはそのままの意味でしたか。

 魔法らしい装飾も機械の様な構造も全てが虚栄。道中の虹色草原はまだ議論の余地が残ってますが行う時間がない。それで何かの力を想像してしまえば、それを羅針盤に可能性を観測し、「紐」を使って引っ張ってくる。「鏡」技術と深い関係のある幻想体なだけはありますね。

 

 上を見て、人としての肉体を晒した「積み重ねた望み」が、その手を広げて穏やかに笑っています……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どこの「人格」でしょうか。

 

ようこそ

 

 


 

 

[特別な事は無かったわね]

 

 月の私が異常なだけよ

 

[それもそうか]

 

 倒れ伏す「繋がり結ぶ心臓」に釘で追撃する手は止めずに会話を続ける。手足も刺して壁に固定したし勝負は大体ついていた。油断した隙にカーリーを量産されたら逆転されるから痛みで集中出来ない様にしていた。偶に後ろから大切断が飛んでくるのが怖いね?

 直ぐに潰してるけどそれでも損傷は避けられないから嫌なものだったし、満月が盾になって無かったら死んでたのが何回かあるのも怖いものだ。

 

[あんな可能性のカルメンがいたのは本当に驚いたわ]

 

 寧ろ血鬼と「蒼星」亜種の合体個体なんて特別以外言いようがないに決まっていた。奇跡の産物は参考にしない方が良いだろうね?

 兎も角、「繋がり結ぶ心臓」の特徴は人との縁が血管となって遺体の心臓と繋がっている事。これによって遺体を自在に動かして数の暴力を喰らわせるのだけれど、カーリーの遺体が強い以外は強みがなかった。動かすのがカルメンな以上、どうしたってカーリー本人より弱くなる。

 だからこそ、隠された手段は無しと初撃に全力を込めてさっさと倒したの。

 

 カーリーとの鍔迫り合いに負けてからの猛攻を気合いで耐えての満月の連続攻撃と月の火力と溶ける愛の状態異常。それらを組み合わせた大火力。お陰で目の前に心臓の私が壁に打ち付けられてる訳だ。これでもまだ全然元気で死んでないのだからしぶとさは私達の中でも極まっていた。

 

[このまま幻想体とカルメンを別けてもいいんだけれど、聞きたいことがあるから答えてくれる?]

 

 都市の人一人一人にこれまでの過去を聞いて回るのは愚かしい事よ

 

[それはそうだけど、自分に関係して目の前に知ってる人がいればそれは聞くべき事よ。そこまで詳しく貴女の人生を解体するつまりはなくてね、何で幻想体になってたの?]

 

 どうしても消えなかった一つの違和感だ。事故で幻想体になった月のカルメンは兎も角、アインと同じ様に活動して光に溶け込んだ心臓のカルメンが何故幻想体に閉じ込められていたのか。考えても分からなかったから聴く事にしたのだ。

 

[月のカルメンに引きづり込まれて巻き込まれたのは知ってるけど、そこからどうしてそうなったのか理解できなかったから、ね?]

 

 そこは単純よ 月の私がこの世界を見つけて 私がいずれ崩れる土台を作り いつの間にか居た「積み重ねた望み」がここまで育て上げた 0を0.1にしたのが月と私ならアレはそれを100にも1000にも変えた化け物ね 幻想体に私を閉じ込めたのもアイツの仕業よ

 

[私のカルメン記録と食い違うなぁその発言。誤情報埋められてたかぁ…]

 

 アインに教えられた部分と違うと、バレるきっかけになるからかその辺りに違いはないけれど、そこ以外は普通っぽい物だったから油断していた。そういえばここに来てダンテが最初に会ったのが望みのカルメンだったっけ。うん、油断していい要素なんて無かったね?

 結局あの大量にあった黄金の枝はどこから持ってきていたのかカルメンの記録を見ても分からないし、カルメンの中で一番この世界に執着してる感じがしていた。

 …最低でも逆転時計と地獄の急行列車と肉の偶像は手元にあるって図書館で言ってるんだよねぇ…。

 

 偽装したっぽい記憶を辿れば、アインと出会わず、私たちよりもずっと少ない人員とカーリーだけで正しいあり方を追求する。成果が無くて病んで恍惚鏡にハマって「鏡」技術に活路を見出す。あれこれ本当に(カルメン)かな。能力もあり方も血鬼の私の方がまだカルメンらしいね?

 鏡に因んで、()()()()()()と言えた。

 

 いつかの私が聞いた職員のランク評価 覚えてるでしょ?今の私が忘れてる以上 そっちにあるわ それを反芻して特異性に気付きなさい

 

 私の知識としてある事、

 ZAYINは詐欺師、「写された月」は狂った戦闘能力をもっていた。TETHは弱めの普通、「繋がり結んだ心臓」は確かに弱め、しかし遺体の生成、引いては身体の作成はこの世界の運用に欠かせない大事な要素だった。カーリーは個人としては強いのを使ってただけなので本人の実力とは言えないだろう。

 HEは問題児でWAWは強者、ALEPHは最強だったっけ?言い当て妙ではあったし、これを言った職員が後に終末鳥討伐組に入っていたのも覚えている。

 

[問題児…カルメンで問題児かぁ…性格と戦闘方法教えてくれない?]

 

 血の気の多いカルメンで 他の世界の遺跡の遺産に特異点に発明品に外郭の遺物に幻想体にねじれの能力にE.G.Oも含めてあらゆる力という力を過去現在未来から引っ張ってきて殺しにくるわ HEとは思えないほどの出力でね

 

[過去現在未来…この会話は?]

 

 今は見てなくてもいずれは見るでしょうね 彼女にとって過去に行くのは扉を開ける程度の事だから

 

[強さのカラクリ次第の出たとこ勝負になるかなぁ…]

 

 私の言った事 信じるのね

 

 嘘を疑わない事に疑問を持ったみたい。この世界を存続させる目的を共通とする、カルメン達を一つの陣営としてみるなら、ここで嘘を教え込む利点なんて幾らでもある。

 確かな事実だった。

 大した事じゃ無いから正直に言うことにした。

 

[アインなら私に嘘はつかない。つまりアインと同じ道を歩んだ貴女なら信じても良いの。私は私を信じないけど、アインと同じ積み重ねを持っているという事実は信じるに値する。それだけよ]

 

 快く信じ任せられる相手  か そうね きっと私に足りなかったのはそれだったのかもしれないわね

 

[少しは自身を省みれたわね。そうやって少しずつ自分の事を理解していきなさい。貴女に足りないのは、きっとその為の機会と時間でしょうから]

 

 パキリ、ブツリと音がする。「繋がり結ぶ心臓」に繋がった最後の血管を、くっつけていた硝子を壊し、遺体との、カーリーとの繋がりを取り外せた音だ。生きて紡いだ絆は糸となり自身を助けるけど、片方が死ねば鎖と重りになり、生き残った方の重しになる。特にカーリーとの繋がりは相互に思い合っていたせいなのかやたら硬くて壊れなかった。

 

 光になった後も、このカルメンは自身の罪で自由に動けなくなっていた。望んでそうしたのなら私からは何も無いけれど、載せられたのなら私は自分らしい姿へ導くために勝手に取り外す。それがカルメンで、私を私足らしめる物。

 

 ダンテとしては無視したい所だけど、繋がったままだといつ亀裂越しからカーリーで殺しに来るか不安になるからどっちみち必要だった。これで安心して先に進むことができそうね。

 それからお土産にギフトとしてこの血管の束は貰っていくとしよう。月は幻想体であるのが正常だけど、心臓は光に溶けてるのが本来の姿だ。幻想体の、血管部分以外の余った部分は有り難くリソースにする事にした。満月と私の傷もこれで全快である。

 

[お礼に苦痛なく幻想体と別けて仕舞っておく。教えてくれてありがとね]

 

 その前に一ついいかしら

 

 止めの一撃を直前で止めて、続きを無言で促した。

 

 その信用に応えて追加で教えてあげる 鏡に写るのがそこにある証拠ではない 虚像は遠くにある物も近くにあると錯覚させる 信じるものを選ぶのも正しさ よ

 

 


 

 

ゴールドラッシュ(ゲート・オブ・バビロン)

 

 出迎えたのは、無数の死。外郭の遺物、遺跡の遺産、その類いの神秘を強く感じる物を無数に降り注ぐ理不尽の雨。

 

「あ、死んだ」

 

 誰が言ったかは重要ではないでしょう。その瞬間の全員がそう考えたのですから。その瞬間で諦めなかったのは、決して私と囚人達では無かった。

 

『英雄を守れ!!』

『なすべきを成せ!全軍吶喊!』

『我らが希望を絶やすな!!その身を盾にしろ!』

『ヤクゾキ!』『オショク!』『ヤクソギ!』『ヤクソギ!』『ヤクソギ!』

 

 立ち向かったのは、かつてのG社の英雄達、旧G社の末期の症状まで進んだ軍隊でした。後方からついて来ていた方々です。彼らは私達が頼んで居ないにも関係なく、空を飛び、行軍し立ち向かって行きます。

 

「死ぬだけなのに…何で躊躇せずに進むの?」

 

 ロージャの疑問も当然ですね。何万の人間が死ぬ為に進む。英雄の発言からグレゴールが関係していそうです。

 

「煙戦争を思い出すな」

 

 ウーティスはそう呟き、武器を握り直しました。立ち向かう勇気を別けて貰ったみたいですね。それは他の囚人も、私も同様でした。

 

 私達を守る様にして、全身を人面の様に歪めた蟲が無数に飛びかかり、オショクやヤクソギと言いながら空に向けて突撃していき、何故かいるG社特異点を施されたツヴァイ協会や路傍の組織も、あなたの盾は伊達ではなく、私達を理不尽な死の雨から守っています。

 

「正直なとこだ、バスでの会話とか色んなとこで段々俺が他の俺を殺して生きてきたってのは何となく思い出してたんだ」

 

 グレゴールが語り出します。唇が震え血の気が引いている様でした。トラウマでも刺激されたのでしょうか。

 

「それでさ、俺が何で自分を殺してまで生きてきたのかも思い出してな。…英雄人気の高さ、それこそ命を投げ売ってでも守ろうとする。この景色こそが俺を殺し続けていた理由だったんだ」

 

 G社軍人の亡骸の一人を抱え、その目を閉じさせます。2周目のグレゴール。多分5名の自分を殺し、その全てを忘却した者の懺悔が戦争の騒乱に掻き消えます。……ふむ。そろそろ目を向けた方がいいですか。

 

「矛盾してますね」

 

「…俺が自分から死ねばコイツらも死ぬことは無かったのに何で先に死んで無いんだって言いたいのか?」

 

「………」

 

 言って何が起こるか不明な一言を飲み込み脳に反芻させました。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 と。

 

 記憶を引き継ぐにはここで最後に死ぬ必要があり、一人だけしか引き継げない。

 なので、最後に殺されなければ次の周回は新しい世界の自分が活動する。

 引き継ぎは次の周回の自分を消費しその席に座る事である。

 この時の、最後に死ぬ、は囚人に限定しない。

 ただし人格は限定的に他の人格を「空を目指す墨」に売り払う事で引き継げる。

 現在は9と10の間であり、行われた引き継ぎの回数は8回である。

 故に一度でも引き継ぎが連続しなければその時点で死ぬ。

 8周目で他の人格に席を奪われた時点で9と10の間には「引き継がれた囚人」は存在できない。

 

 現時点で判明しているこの鏡の世界のルールですね。並び立てるだけでルールと現状が矛盾しているのがよくわかります。

 判明していない物も有るでしょうから細かい指摘はしないとして、叩き起こした時点で判明していた事ですが…さて、()()()()()()()()()()()()()()

 一人しか居ないはずの引き継がれた囚人が10人、それも8周目で消えてるはずのもの。しかも隙があれば殺しにくる殺意も十分。

 何故なら彼らは既に引き継ぐ為に大量の私達を殺しています。少なくともこれまで何人もの私とムルソーを見殺しにしているのは確実ですからね。

 

 私を信用出来ないと言いつつよっぽど信じることが出来ないどころか得体の知れないのはあちらの方だった訳です。

 

「‭─‬‭─‬‭─‬だけど、あんたの事を信じてもう一度戦ってみるさ」

 

 つべこべ言ってますね。話を聞きつつ、近くに落ちた武器を鑑定していきます。恐らくこれが突破口の一つでしょうから。

 

 そしてそろそろ攻撃が終わりそうですが…過去に浸っているグレゴールを引っ張って落ちてる死体を盾にする様に被せておきます。生憎相手は待ってはくれませんからね。何かに使えるかもですし助けましょうか。

 

ノイズ(キレンツ・サカーニィ)

 

「耳を塞ぎ落ちてる者を盾に凌いで下さい」

 

 武具の雨が終わり、攻勢に出ようとした軍勢は音の振動で爆発していきました。盾がすぐにダメになりますが…死ななければ許容範囲としましょう。自身の手の破裂は許容しますか。

 

「ふむ…これがいいですね」

 

 近くの死体に突き刺さっていた布のついた遺跡の槍を拾い、自身を揺らす振動を槍に集めて地面に流します。地面が振動爆発して塹壕にもなってお得ですね。ああして遠くから振動を使う相手に凌ぐだけならこのやり方が最適です。

 塹壕に他の囚人を先に入れていると、グレゴールがなにやらボソボソ言い始めました。

 

「…ああ、思い出してきた。この景色を観るのも8回目だ。どの俺たちも払った犠牲は違えどここまでは来れていた。死ぬ度に色んな場所に飛ばされてさ、どれも最後には此処に来て、どのファウストも全てを払い戻して貰おうと躍起になったんだよな」

 

「私ならそうするでしょうね」

 

「それを唆した相手に攫われてここに居るんだぞ?信じられる相手かよ」

 

 1%でも数を重ねればいずれ届くものです。その一回で今まで犠牲になったものも戻ってくるなら尚更やらない理由はないでしょう。

 

「私()、ファウストが求める()()()()()()()()()()()可能性とは、即ち消えた世界が戻る方法と同義です。()()ですからね。であれば、それまでにどれほど犠牲になっても問題ありません」

 

「その第一歩が信じる相手かの検証だって?は…良いように使われてるだけじゃねーか」

 

「他の囚人の治療をお願いします」

 

 グレゴールに気づかれぬ様勝手に動いただろう虫の腕が私の首を切ろうとしたのを、偶然を装って避けつつ投げこみます。死屍累々なのでここでグレゴールの因子での治療をさせておきましょう。主にムルソーをしてくれると助かりますね。ダンテが不在でE.G.Oが使えない今、水袋での強行突破は難しいですから。

 背を向けて空を見上げます。人格無し、E.G.O無し、今の2手の攻撃で死屍累々。そもそも潜在的な敵ばかり。1%も勝率がある事に驚きですね、これは。

 

「13までの試行と模索の果てにあるそれをファウストのどれかが手に入れさえすればいい。元よりこの世界に送られる為にゲゼルシャフトの一員とされた身です。この後があったとして、私はもう価値などありません」

 

 100%の方を取った所で、私はゲゼルシャフトでの施策の通りやすさも無くなり、ロボトミー支部のファウストの様に答えを貰えなくなるでしょう。そうなった私がダンテやヴェルギリウス、囚人のみなさんに頼られる訳もなく、リンバス社に貢献もできずに裏路地の適当な場所に捨てられて終わりなのが眼に見えています。

 

「で、あるならば。私は全てを救う方へと向かいたい。でなければここで終わっても構わない。それだけです」

 

 一人、意気込みました。

 

 正直私の世界以外はどうでも良いですが、この方法でなければ救えないならついでに他も救ってしまえという気分です。本当にこれで救えるなら、ですが。無軌道に進むよりもマシなので従っているだけですからね。

 槍で振動を流すのにも限界が来ましたね。片腕がゼリーになりました。皮だけが繋がっていてぷらぷらと揺れています。神経は通ってるのでまだ武器は持てそうです。後悔のE.G.Oを持ったファウストの真似事と、振動を利用して護る事に特化した遺跡の武器ではこれが限界ですね。

 G社の軍隊も全て堕ちました。生きているのは囚人と「積み重ねた望み」のみ。立ち向かう意志と余力があるのは私だけ。ですが音の津波は過ぎ去りました。…次の攻撃まで間があるのが弱点、空に居座られるとその瞬間に攻勢には出れませんね。

 

 ただ凌ぐだけではダメですし、何か突破口を探る必要がある。

 対話で…向こうからの返事は一回が精々ですね。それで全て見抜く必要がありますか。

 それまでの全てをヒントとしましょう。

 

「対話は望めませんか?」

 

あら、お茶会をお望みかしら?残念だけれど、もう何も隠す必要もルールを説明する必要もないの。後はくるりくるりと時計を回って、みんな戻しておしまいよ

 

 お茶会…童話の幻想体…鏡…心の内の可能性を見出す「窓硝子」…創作…起点…ああ自爆した…愉快な使い方しましたねWAWのカルメンは。もう隠す必要が無いと油断して取り繕わなくなったのは都合がいいです。

 

「いえ、もう大丈夫です。今ので理解しました」

 

 これでもう一回返事が貰えるでしょうね。まさか「鏡」技術の開発のヒント探しで見たFate作品が役立つとは。いえ、これが参考になる「鏡」技術の使い方をした、カルメンの光に溶けた存在という体質と発想の方が余程感心しますが。

 相手の思った通りの能力を引き寄せる…確かに他者の認識も大切ですね。自己定義を崩壊させないのに他者を使うのはリスクがあります。そこを利用させて貰いましょう。

 

一体今ので何が分かるの?探偵だって無理っこよ?それともでまかせで誤魔化し

「ナーサリーライム、

 マザーグースの歌について行き、

 アリスの100歩散歩もまだ9歩、

 帽子屋との対話(お茶会)は済みました?

 時間氏はもう立ち去って、

 後に残るのは割れた茶器、

 邯鄲(かんたん)茶器(ゆめ)は冷め切って、

 慌てたうさぎにすら会えやしない」

 

 どちらかと言えばこの幻想体の主体は「鏡の国の女王」の方でしょうが、それに引っ張られて再定義されている以上それを明かすのは能力の制限として働くでしょう。曖昧にして誤魔化すのは元々持っていた力を引き出す為ですかね。

 それにしてもカルメン同士でお互いに妨害しあってるのは此方として都合が良いですが、なぜ同じ目的で集まったもの同士で喧嘩しているのでしょうか。

 予想はつくのでほんのりと煽りに組み込んでみましょう。塩対応で遠距離爆撃が出来ないほど、直接殴りたくなる程、けれど本気で殺しに来ない程度に煽りましょうか。

 もう仕込みは済んだので後は時間が経てば倒せますし、一番時間が稼げるものならどれでも良くはありますが。

 

「みじめなあの子、こどくなあの子、

 残念無念なあなたの現世(うつしよ)

 お医者が嫌ならあたしがなろう

 あたしの代わりに大実験、せいきのはつめいで幽霊に、

 そしたら川を渡って辿り着き、そこには立派なあたしのすがた、

 すごいわすごいわ手伝おう!そしたらそしたら大失敗!

 それでもくじけず実験開始、そうしてみんなを拷問処刑」

 

 顰蹙の安売りを見た顔、反応的に正解ですね。何処が地雷だったかは不明ですが最後は元の方で締めましょうか。

 

「あわれで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま、

 でも、ぼうけんはおしまいよ

 だってもうじき夢の中。夜のとばりは落ちきった

 アナタの首も、ポトンと落ちる

 さあ‭─‬‭─‬嘘みたいに殺してあげます。ページを閉じて、さようなら」

 

 さて、顰蹙癇癪大安売りの大特価。買って頂戴見てらっしゃい。乗ってくれなきゃ殺します。乗ってくれても殺します。

 7日の光、都市に降り、それを元手に「窓硝子」。心を抽出する技術の産物、「光」を素材に作られた。

 故に心の内から映し出す。

 羅針盤として引っ張り見つけ、「鏡」はそれが本当の世界と繋ぎ上げ、世界を欠けさせ鏡の世界に変化させ、好き勝手に引き上げる。

 

地獄の悪魔

 

 その言葉と共に光が辺り一面に広がり、一つに集まっていきます。

 …動けませんね。動こうとする力と同じだけの力で止められて動けません。…待ちましょうか。

 

 それを取り扱う方へ行ったのなら、直近の経験から可能性を見出す方法も知っている筈ですからね。私の、9周目の世界で施行している人格を引っ張りやすくした行動が認められれば10万眼のボーナスといった福祉制度の様に、カルメンも同様の事をしたのでしょう。

 創作の作品を見て、自身がそうなった可能性を「窓硝子」を使って見いだし、それを「鏡」の技術で引っ張った。

 勿論、実際にそうなったと言うことは、創作そのままではなく現実の、都市の苦痛に犯され切った物です。それによる変化は当然起こります。

 

アンダルシアの犬

 

 真緑の光を囲って鎖が空を埋め尽くし一つの鎖の球体を作り上げました。ダンテが悲鳴や奇声を上げる「抽出」の物と同じ物ですね。

 

 私は創作物を読む習慣は有りませんので、これはどこかのファウストがゲゼルシャフトに送りつけた知識のものという注釈が追加かれるものでは有りますが…

 このカルメンへの推察と何故かこれまでのファウストが持っていたダンテが扱ってたり出会ったりした人格の経歴から例えれば、

 

 「Fate/ccc」のアリスなら、その舞台は地下深くか外郭でしょう。あれはAIが高度ですから。

 「アークナイツ」のクオーラなら、その舞台はU社でしょう。移動する街と類似するのは船ですから。

 「ブルーアーカイブ」のレイサなら、K社かG社かL社ですね。三大学園全て存在すれば全部、或いは「都市」全てが舞台ですね。正直そうなる前に外郭に放逐されるでしょうが。こうなった世界は人類の立場を別の種に取って成り代わられてるでしょうし。「先生」とは都市を人類の手に取り戻そうとするエージェントじゃないでしょうか。

 ついでに「蟲師」のギンコはカルメンの様にコギトに溶け込みかけた人物になるでしょうね。今回は「蟲師」に似た世界で「ブルーアーカイブ」に似た蟲が誕生しただけでしょうが。

 「宝石の国」のフォスフォフィライトなら…肉の種族って「裏路地の夜」では?地獄に行く技術はありますから月人は発生しないですし、余り物の宝石は薬指か好事家に売って終わり…そもそも人間を宝石にする特異点の特許は切れてるので意思のない人間宝石なら薬指が売ってましたね。

 「リバース:1999」のヴェルディならT社ですかね。時間関係はまだまだ未開発の部類なので喜んでストーム対策に協力するでしょう。なんならこの鏡の世界のどこかでストームに似た現象が起きている可能性があります。

 

ルイスの悪夢

 

 そして考察を止めるのが遅かった…「チェーンソーマン」の地獄の悪魔。私が無意識に定義した「積み重ねた望み」の暫定の本来の正体ですね。正直扉まみれの空を見た時点で薄々は察してしまいました。地獄か外郭以外存在してはいけないですね。詳細を考えない様にすれば弱体化したりとか…しないですね…ですが、戦闘相手として考える必要はないようです。

 

サルバドールの死を越えて、身体に絵本を限定展開(インクルード)

 

 さて、「めだかボックス」に「相州戦神館學園万仙陣」に「デルトラクエスト」に「女神転生」とまだまだありましたが、時間が来たようです。怒らせ過ぎましたね。

 

 私が誘導に引っかかって辿り着いてしまった地獄の悪魔の力を、「人格」の力を広げて引き出してしまいましたが…何処からか現れた「手」が何かを引き摺り出しては周囲に「悪魔」が生まれて、そして死んでいきます。

 どうやらクリフォト抑止力のお陰で「悪魔」がリスキルされている様です。黄金の枝ちゃんとあるにはあるんですねこの鏡の世界。抑制されているって事は近くにありますね。

 

 「悪魔」と戦わなくていい代わりに「宝具」の様な何かを使われてそうです。どうやら「悪魔」に抑制のリソースが使われて仮称〖童話の隣人 アリス〗の人格が別の人格である仮称〖童話の守護者 ナーサリー・ライム〗を使用した姿の本来の力が解放されているようです。

 

 サーヴァントの立場には恐らく人格と幻想体、そのマスターの方を被せられたのなら使い方はプリズマイリヤの方ですか。置換の魔術なんて都合のいい、類似するものとして本当にそうなった世界を見つけ出す要素を使わない理由は無いですから。

 

越えて越えて虹色草原(にじいろそうげん)、白黒マス目の王様ゲーム。走って走って鏡の迷宮、惨めなウサギにはサヨナラ ね?

 

暗い森にご招待

 

永久機関「辺獄帝国」(クイーン・リンバスゲーム)

 

 火災、洪水・台風・地震、雷雨、雹、隕石、砂嵐。その他災害の乱撃、死体や落ちていた武器が飛び交うのをひたすらに防ぎますが…じかんの経過で少しずつきおくが劣化していくとくせい。

 

 ぶきをふるうのがどんどんとへたになり、きずはふえていき、こうたいしていくしかよけられませんね。

 

 それによりしにたいになったわたしに、あたまをつかまれてのぜろきょりねんしょう。

 

焼き加減は丸焼き(ロースト)がお好みかしら?

「…きこえてなかったみたいですね?うそみたいにころしてあげると」

 

 なんでそうなるかはおぼえてませんが、そうらしいです。

 ふれればわたしのかちだったんです。しらなかったでしょう?

 

な!………?……何もおきないじゃ

「むるそー」

「出来る」

 

 ()()()()()()()()()、ムルソーは掲げた手に引き寄せられた()をカルメンに巻きつけました。

 こうたい…後退して、塹壕より後ろに行けば、飛び出るだけで背面強襲が可能、というだけの話です。

 

エルキドゥ…⁉︎

「嫌われてますね。何か不快ことをしたのでしょう」

 

 手に持っていた布のついた槍、もとい聖女の旗、その原典の原点、更にそのプロトタイプで心臓を突き刺します。正体が曖昧な時は兎も角、「地獄の悪魔」として「悪魔」を引き出すのにかまけていれば辺り一面の武具の制御なんて出来なくなってますからね。

 ましてやとある王の力、その口伝、寓話の側面を経由して引き出したものなんて不敬でしかない以上、その友人が敵対しても不思議ではない。

 

「貴女の人格を引き揚げる力は確かに強力ですが、その全てを味方にする物ではありません。能力に関しては目の前の人物の想定ではなく引き揚げた実物次第ですから、その点に関しては遠慮なく思考を回せます」

 

 それでもこの有利な盤面になったのは考えていい点に辿り着いたとバレずに記憶が無くても触れたら勝ちのブラフを入れることが出来る天才、ファウストあってこそですが。

 

記憶は…?奪ってた筈なのに

「奪われてます。その上で書き直して貰っただけです」

 

 その言葉にカルメンはメフィストフェレスを探しますが、何処にもありませんよ。0周目のファウストが作ったメフィストフェレスはワープできますから。

 自分の命と同義の物を戦場には持っていきません。カロン預かりです。そして本の中で一番書かれたことが少ないのは私の本。

 図書館では箇条書き、ゲゼルシャフトに大半を送ったペラペラ冊子ならカロンでも全文覚えられるでしょう。

 

 念をいれて下車前に頼んでました。

 …と、言えたら良いのですが…実際はカロンが独自に判断してやったことですね。ナイス3周目のカロンの人格。この後記憶が無いまま戦闘するより楽になりました。比較的楽…らしいやり方で済ませられます。

 

 では聖女の旗と拘束も済みましたし、この旗の宝具に類するズルめの使い方を試しましょう。

 ゲゼルシャフトのデータベースに何故ゲゼルシャフトに無益なこの情報があるのか疑問ではありましたが、この鏡の世界でダンテが経験した事の記録によれば、()()()()()()()()()()()()()()()()らしいので、ここまで振動で頼もしかった旗の言うことを試してみましょう。

 

「ある作品では、聖女の旗の下に数多の英霊が集まった描写があります」

…何するか分かったのに拘束されて出来ることが何もないわね?

「それに類似する世界での英霊の代わりは人格や幻想体であると考えると、E.G.Oや遺跡の武器の形を取ってマスター本人が戦っていた訳ですが」

マザーグースの歌、アリスのお茶会、6人の妖精…鎖のせいで使えないわ

「そうなると「英霊を集める」とは、その世界では無秩序に武器を引き寄せる類いの物になると考えることができます。ところで「記録」の特性は「再現」らしいですね?おや、丁度「記録」が再現しているG社社員がこんなにも」

ねえファウスト?お茶会はどう?

「貴女は殺し合いの用事があるので開催はできないでしょう。…殺すつもりはないので出来るだけ耐えてください」

 

 地獄の悪魔の人格は絶対に殺しますが。その為に態々火力として武器の嵐の利用をするのですから。

 

極悪非道!鬼!悪魔!折角〖地獄の悪魔 ◼︎代目〗の人格を引き寄せられたのに!他の私に妨害されて使い物にならないなんてひどいわ!ひどいわ!

 

 どうすれば出来るかに関しては聖女の旗が教えてくれました。やって欲しい事を声に出して伝え、最後に『状況開始(リプレイ)』と宣言する。「記録」の基本的な扱いらしいです。無理なら何度も刺すだけなので試しにやってみる事にします。

 

「何回も実験したのですから、こうなる事もあるでしょう。では…『状況開始(リプレイ)』」

 

 G社社員の死体が黒ずんだ気体になり、辺りの武器に纏わり武器の中に溶け込みます。

 

 空を飛べる透明な人が持ち上げた様に浮かび、無数の武器が切先が向けられました。

 

 

うふふ、都合よく聖女様の旗が近くにあるなんて

 

 

 当然、射線上にいる私達にも。

 

 

英雄譚じゃないんだから、ある訳無いじゃない?

 

 

 もしかしなくても嵌められましたねこれ。

 ムルソーの背中を護ります。ムルソーはカルメンを抑えるのに手一杯ですので、私たちの方に押し寄せる武器を捌くのは私がやらなければ鎖から解放されたカルメンが避けて終わりです。

 

 …少なくとも、グレゴールが突破したと言う以上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性がある筈です。

 そこまで思考し、私は予測結果で千と出た武器からの防衛が始まりました。

 

 十、片腕に貯めた振動を指から空気に伝え、衝撃の壁を形成。振動の貯蓄のみでは突破不可と判断。付近に落ちた武器の解析を開始します。

 

 百、壁を改善。空間その物に力の流れを作り衝撃の流動を変形させ維持。

 

 五百、振動の貯蓄が尽きました。最初に落とした能力は解析済みの十の武器を使用します。

 

 六百、燃焼系の剣と竜殺系の剣破損。衝撃流の代用エネルギー源と剣術技能補正の遮断を確認。身体に刺すことによる身体能力の一部として扱える仮説の実証の成立を確認。想定される副作用‭─‬‭─‬報告省略。実行。

 

 七百、必中の槍(ゲイボルグ)契約破棄の短剣(ルールブレイカー)の破損。飛翔する武器に込められた魔法解除による無力化プランの破綻を確認。先程会得した燃焼能力による即席融合を提案。却下。次の武器への即席改造として利用を提案。成功の見込みアリとして採用、武器の一つの破壊を確認。一つの武器に契約破棄の特性の引き継ぎに成功。

 

 八百、切断特化の槍(蜻蛉切)デカい斧(ポール・バニアンの斧)の破損。壁による大体の阻止プランと因果逆転の接触切断によるすり抜け対処プランの破綻を確認。残存武器数、3。

 

 九百、幻術特化の杖(マーリンの杖)の破損、五属性の元素塊(エレメンタル)の枯渇。武器に宿る人格の認識操作による進路変更プランの破綻を確認。残存武器、1。

 

 九百十、片腕に埋め込んだ竜殺系の剣(バルムンク)が教える竜殺しの剣術を応用し裁き、

 

 九百二十、武器の割れに同じく埋め込んだ燃焼系の剣(レーヴァテイン)の炎で再接着し、

 

 九百三十、因果逆転の槍を必中の槍(ゲイボルグ)の分裂の残りで破壊して対象をズラし、

 

 九百四十、魔術的防御性能のある武器に短剣から受け継がせた契約破棄(ルールブレイカー)の力で無力化し、

 

 九百五十、神と呼ばれた存在の力で造られた武器を純粋な人の技術(蜻蛉切)を参考に作り直した刃で切り裂き、

 

 九百六十、纏まった破城槌の飛来を斧の瓦礫と即席改造に失敗してドゥリュンダナ(壊した奴)の最初で最後の爆発で吹き飛ばし、

 

 九百七十、杖に残った残存魔力と空気に満ちた元素塊(エレメンタル)の残留で破滅の魔剣の一団を逸らして、

 

 九百八十、極限下だからか、それとも今奮っている武器の贋作者の因果か、竜殺しの真髄の解明に成功し自力の物として習得した剣の振りを最適な物に変え、

 

 九百九十、限界を迎える前に奮っていた贋作の聖剣(エクスカリバー・レプリカ)の力を解放して撃ち落とし、

 

 

 千、護るべきものを守りきりました。

 

 

『………ムルソー…損傷」

「無い。完璧な対応だった」

『…相手」

「私達がいた背中から刺さった武器は少ないが、それを踏まえて死亡したと判断する」

 

 扱うのに副作用のある武器を扱い、更には埋め込んだ副作用の確認。

 片腕が褐色の男性の腕へと変貌、身体の内部がランダム性を伴った急速な炎化現象の発生、体毛の増加と鋭利化、巨体化、弊害が発生するレベルの五感の強化、私ではない他人格の混入、爪と歯の変質……総合して電信柱のE.G.Oを使用した際に近い容姿ですね。違いは白くて炎を吹き出してる点ですか。可能性が収斂してますね。

 

 それよりも優先事項がある為、現状大したことは無いと判断します。

 

 相手の状態は…死んでるからには自爆の攻撃…いえ、想定能力と比較するとやけに呆気ないような…。もしやまだ…それなら…ああ、前のファウストもですか。

 一先ず、何処かの世界で起きた最終決戦が、一人に何百もの武器が刺さる事で再現され、()()()()との戦いは終わりました。

 

『……先ずは」

「治療を推奨する。彼女の回収とバスの呼び出しは他の囚人に任せた方がいいと判断する」

『いえ、まだ終わってません。警戒と追撃用意を」

 

バレてる…つまんないの

 

 剣山から、数百の武器の塊から武器が…押し寄せる武器で圧縮された金属が、落ちていきます。

 拘束されたまま、のっそりと起き上がって、頭上から粒子が舞い、銃の形に固まり…遠距離するタイプの人格ですね、近づいておきましょう。

 

『どこまで死にましたか?」

 

ホンルだったりして

 

『では3回…4回ですか。確かに一人ずつ相手するよりは楽ですね。対価に目を瞑れば…ですが」

 

 巨大な白い樹にも塔にも見えた何かは消え、死に続けていた悪魔の姿は無く、空の半分を覆った雲が消え去り、湿度が急速に低下し、カラリとした空は澄み渡る程の青色へと鮮やかに彩られ、真夏のボヤけた陽炎が視界に映ります。

 幾らかの命が潰え、それらの影響が抜け、そして今表に出てきた人格の影響が強く出た空間に変化しました。

 

あれれ?…すごいですね!もう私よりも私に詳しいんじゃないですか?

 

 身体能力を確認し、攻撃手段を把握しておきます。

 

『正体は〖連邦生徒会 会長〗の人格である。その結論は…5周目の私ですか。ファウスト…対峙した人物が出した結論と同じ回数は復活可能…幻想体の力との相乗効果による産物ですね」

 

 先ほどの考察でも流しながら時間を稼ぎその間に攻略法を試算します。

 

正解!「相対した相手の理想(思った通り)の存在を写す」私と何度も繰り返す環境!合わせれば出した結論が違う度に私はより困難な相手になるの。しかも今回はファウストちゃんだから直ぐに終わる…と思ってたけど…何で突破出来てるんですか!?

 

『………あ、なるほど」

 

 思い至ったのは、見落とし。

 気づいたのはつい先程、果たして得体の知れない囚人達は誰が用意したか。

 

 まあ、カロンの人格落としたりしてましたし「積み重ねた望み」のカルメン以外居ませんね、と思っていましたが…違いました。

 

 そもそもとして、「人格」や「周回」に関係した事は複雑です。先程倒した英雄人格が「鏡の国女王」が被せたものである様に、「周回」の記憶の引き継ぎが「空を目指す墨」への対価であったりと、カルメン同士で協力し合って成立しています。

 

 ですが、それにしてはお互いに協力的でない。

 

…おーい。何が分かったんですか?

 

 「積み重ねた望み」に対してだけでも「人格」を被せての弱体化、クリフォト抑止力での性能制限、人の肉体を与えた事による弱点生成、「記録」の血鬼化による手札の減少。

 

 私が把握しているだけでもざっとこれだけ他の全員のカルメンから妨害をされています。お互いに協力し、その上でこういうのが出てきた場合、考えられるのは個人目標がそれぞれにある事を示し、その為には他から何かしらを奪う必要があったと言えます。

 もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()、とか。

 

しくしく。無視されるなんて悲しいですね

 

 詳しい事は分からずとも、彼女達はお互いの望みが叶う事を良しとしない。

 ならば、「積み重ねた望み」相手に、それ以外のカルメンが用意した要素は此方の利となる物であるでしょう。

 

 それを踏まえて、現状を整理すると

 

で、どういう結論になりました?

 

『絶対に倒せると結論付けました」

 

複数人でも?『総力戦:Torment(未来の取り寄せとその代償)

 

 5つの鏡が現れ、其々が新たに聖印(ヘイロー)を携えた人に変わりました。

 これは純粋な幻想体の能力でしょう。「記録」も特異点も関係ない力の作用。その代償としてなのか、私を蝕んでいた幾つもの人格や遺産の侵食が止まり、私に従う様にその力の所在を明け渡しました。

 見た目も変化し、獣としての要素が小さくなり、左右不対称だった体格のバランスが戻りました。

 戦闘方法を再度見直す必要が出来ましたね。

 

「何処かの世界の未来にいる存在を取り寄せ支配し、それによって起きた未来の変化、歪みを任意な自身に不利になるものに調律する。使用能力の宣言はあくまでも道具の幻想体としての利便性が出てきただけ。そんな所ですね」

 

 この白い獣の姿になったのは罠だと思っていましたが、他のカルメンの出した答えという事が判明しました。都合よく継続して活用可能にもなりましたしね。

 故に、今の私は彼女を倒し切れる方法がある。

 

 なら、勝てるでしょう。これまでのように、相手を殺す事以外の全てを犠牲して。

 

一斉射撃

 

「いつも通り、死へと向かいながら殺しましょう」

 

 


 

 

 あれ、草原じゃ無い。

 

あれぇ?

 

 一つずつ危険性が上がると思っていたから想定外のWAWだ。

 鏡でできた世界。鏡の世界の人格が携えた世界を継ぎ接ぎして作られた仮初めの都市。扉を潜れば過去へ巻き戻してやり直す事ができる世界。私が、旅をした世界。

 

 存外早かったね

 

お蔭様で死にかけだけどね

 

 A社を模した場所…黒い配色で、どちらかと言えばL社の抽出部門の方が近い空間。都市に喧嘩を吹っ掛けて対等に渡り合うというどうやったのか想像もできない道を進んだカルメン。

 このカルメンの記録もそうだけど、HEより上のランクの幻想体に組み込まれたカルメンに関して手に入れた記録は少ないから、その歩みは想像で補わないと今までみたいな先手を打った動きは出来ないの。

 だから相対した時は慎重に対処する必要があると思ってたんだけど…

 

あなただって今にも死にそうじゃない

 

 数えるのが億劫な数の黄金の枝が突き刺さっていた。元々は人の形をしていたんだろうね?それが今では黄金に輝く巨人と見間違える程の黄金の枝が突き刺さってて、ローターのついたオフィスにある椅子に固定されてたんだ。

 

 偉大なるものは輝いて見えるものさ なにも 悪い事じゃない

 

その幻想体、過ごし易い空間作りに特化した子でしょ?どうしたらそんな事になるの?

 

 幻想体の持つ空間変換能力。妖精が森を作る様に、蜘蛛が巣を作る様に、幻想体には自分に合った空間を形成するの。リンバス社のE.G.Oを使う時に空間が置き換わるのもこれに当たる。

 このカルメンが入った幻想体はその力に特化した子、「鏡の国の女王」という「終わらない悪夢へのトラウマ」から抽出された子は作業をする職員を取り込む事で国民を増やし、他の収容室を自身のものにする特性があった。

 

 それほどの幻想体が自分の力を調律し弱体化させる黄金の枝を排除しないのは不自然な状態といえるね?

 

 鏡の奴に入れ知恵されてないのなら そうなるのか 良いことを知れたな

 

 なに そこまで複雑な事ではないさ この枝一つ一つがカルメンであり 私に託した国民達であるからだ

 

 国民ならどういう存在であれ排除されない。当然の事だろうとくつくつと嗤う。ガリオンに似ていると感じて、或いはガリオンの立場になった私かも知れないと考えた。多分違うだろうから切り捨てた。

 

 これまで 私達が対立していると考えてこなかったかね

 

ちょっとは。でも違うよね?どんな私であれ、都市の病を治す為なら協力できるでしょ?

 

 少しは考えた。でも、手段は違えど都市の病を治すという一点で出会ってきた全ての私は共通していた。なら、お互いにそれどころじゃ無い事を抱えてたんじゃないかな。

 

 そうだ 実のところ ここは鏡の世界の集まりではあるが それと同時にあらゆる都市の滅びも共に集まる場所でもある

 

 黄金の枝の巨人は、少し地面を軽く蹴ってコロコロとローターを滑らせて横にズレると、その背中に隠れていた幾つかの椅子を見せた。全て違う椅子で、誰も座ってはいなかった。

 

 そも この空間は元来都市より流れて「海」の近くにある「川」の底に有ってね あらゆる滅んだ世界の残骸が流れる川の底に溜まった 複数の世界の漂流物が偶然噛み合って「鏡」と繋がる様になり そこに私達と君たちが出逢って作られた場所なのさ

 

 共同開発だねとせせら嗤う。外郭とはいえ物理的に存在するのに驚いた。次元屈折変異体やW社の技術で異空間にいるとも聞いたけど、その前まで遡ると偶然の産物であるらしい。

 

 月と心臓 鏡と私 この二つの世界はそれぞれ別の理由で都市が滅んじまってね あっちは月の落下に「星雲」との戦争 こっちは別世界との闘争の末に負けて死んでボンッ てね お互いしぶとかったからここに流れ着き 「記録」や「人格」に ファウスト嬢相手に再起を図ることにしたんだ

 

それがカルメン達の由来?その二つに分けてもお互いに妨害しすぎじゃない?

 

 貴女も私なら分かるだろう 元の世界を戻すだけなら簡単に出来そうなら ついでに都市の病も治したい ここにいた「記録」の再現能力は まさに特異点だ やろうとすれば一つで世界を丸ごと元に戻せるし やり直しの地点だって選べる 人格や武器の再現なんて贅沢すぎる使い方が 勿体無い程に

 

 あれそんなにすごい物だったのか。でもそれで戻した世界って、この世界の複製にしかならないと思う。この世界って図書館から説明を受けた時から空間にノイズが走るのが見える様になる空間だし、無理なんじゃないかな。

 でも、人格が空間を共にして生まれる事を考えると、一つでは無理でもやりよう次第何じゃないかとも思えてくる。

 

それってさ、人格が空間を携えてる以上人格の再現こそがその世界の再生そのもの何じゃ?

 

 まさか 人の記憶と経験を「記録」して再現した所で人格の情報しか無い 肉体が無いんだ 何もできない 空間も同じさ 再現した所でそういう情報が詰まった粒子の粒さ 結局現実は「川」の底に澱んだ「泥」の一部でしか無い

 

 それだと私がいるのは泥の夢の中になるね?スワンプマンかな?

 

「記録」の本体って「泥」何だね

 

 エンケファリンの中にいる間は泥だ 乾けば結晶になって増殖し 全てを記録にして 情報にして エネルギーにする「石」になる ある世界では「源石」とも呼ばれ 世界を滅ぼし 「都市」の下にある「川」にまでその身を伸ばし 「泥」となって流れ 底に溜まり その上に「鏡」の技術で造られた罠が置かれて 私達が捕まり 出会い 全てが始まった 神の気まぐれとしか思えないが 人類が生きてる星も偶然の産物である以上 似た様な物だね

 

 滅びが流れる川怖すぎるね?泥にし続けないと無限に増殖するのは正に滅びと言って良い。図書館で鏡のカルメンが、異空間をエンケファリンで満たしてその中にこの鏡の世界があると言っていた意味が分かった。「記録」の収容処置だったんだんだね?

 

 エンケファリンを幻想体と人格で精製し、次元屈折変異体で作った器に注ぎ、そこに様々な悪影響がありそうな滅びの流れる川から隔離し、川の底で増殖していたのを抑え、それが続く様に管理していた。

 あり物で何とか作った収容施設。L社支部簡易版、それがこの世界の一つの側面だった。

 

‭ってこと?

 

 物分かりがいいな その通りだ だが、それで終わりじゃなかった 何せ此処を作るまで随分と時間がかかり その間にも随分と泥は滅びを溜め込んだ 始めにこの地を踏んだのが血鬼の私とアインと似た道を進んだ私だったのも不味かった 平和の為の停滞と閉鎖の王国を作るには 余りにも 土台が腐り朽ち果てていた

 

その結果がこの苦痛の連鎖?私たちが巻き込まれた理由も知りたいね?

 

 ふと、枝が一つ崩れ消えた。

 

 待て 今からそれを言うところさ 様々な滅びに関してはそう気にする必要はない 大半は泥とは別に管理出来る様になった 今もこの鏡の世界で外郭と呼ばれている所で管理している 問題はファウストの鏡の罠の方 泥と接触して変質した空間 お前さんが 墨のカルメンと呼んでいる奴の事さ

 

月の私の空間に何故かいた奴の事?

 

 枝が崩れて消える。『黄金の巨人はまだ崩れない』

 

 『名前を出されて、』『漸く意識をそれに向けるのはやめなさい 取り込まれたく無いだろう しかし話は聴きなさい 明確な目的を持ち 明瞭な自我を持つほど蝕まれる相手だ 漠然と 何も考えずに受け入れて聞き流すの

 

 それで良い ありがとう 初めて信じてくれたね

 

 枝が崩れて消える

 

 墨 そう呼んでいるが そんな仮称よりももっと厄介な奴だ 私ですら沢山の私と枝の力で安全に話題にだせる

 

 枝が崩れて消える

 

 血鬼の私とアインに似た私がこの地を踏んだのが不味かったと言ったね その理由が墨さ ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が故に実験され 川に流された人工的な鏡の世界に入れる「手鏡」は滅びの川の方へ沈んでいった その結果 鶴瓶として造られた「手鏡」に変化が起きたのさ

 

 枝が崩れて消える

 

 這い寄る認識汚染「月に吠える」「黒い顔の」「膨れ女」そういう奴の一切れを取り込み 通り過ぎただけの合わせて1京2858兆0519億6763万3865個の何かしらに影響され 人間讃歌の夢を現実にする力の持ち主たる魔王に触れて その隣で角の生えた民達の意識と旅をしていた魔王と衝突した

 

 枝が崩れて消える

 

 結果 「手鏡」は「次に触れた存在の対となる」力を持ち そして泥に触れた それにより「あらゆる情報を実物に変換し文明を滅亡させる」存在に定義された 私達を悩ました泥も元を辿れば「無限のエネルギー」資源として開発され追加で「あらゆる実物を情報に変換し文明を存続させる」為に作られた物だからな その反対ともなればさもあらん

 

 枝が崩れて消える

 

 違う、全て実物として元通りになっただけだった。それだけでねじれが増え、滅亡に繋がるから。

 

 自身に向いた関心を察して現実へ戻す 自身を認知した存在が向けた虚偽の創作への関心を察してそれを現実にする 今でこそ私達とファウスト お前さんしかいないが 仮にこれを知る存在が「都市」中にいればあっという間に世界は滅ぶ 元々現実にあった物を送り返すだけに何とか留めてはいるが 最初のファウストが経験値チケットとやらを要求し始めたのを観るに薄々は理解し始めている

 

 枝が崩れ元の世界へ帰る

 

 何よりも誘導が厄介で 隙あらば自身の理解を進めようとして 存在を広めて 所在を明かそうとする 心を侵されつつも鏡の私の鏡に封じ 正気と引き換えに血鬼の私が底に沈めても尚こうしてダンテ お前さんと囚人達を攫っては使い手として 製作者である母と父に会おうとする

 

 『きっと願えばもう元の世界に戻れるだろう。そうしてくれる子供が』願えば最後 お前さんは「手鏡」に生涯思考を乗っ取られるだろうな 丁度 今の様に 脚本家の台本にそう様に な

 

 枝が崩れ元の世界へ帰る

 

 誘導 初めはそうだが 一度でも願えば一生を明け渡させる そういう相手なのだ 現実と泥の中の情報 両方が同じ者に壊されなければならず その上何も願わない 明確な意思のない者でなければならない しかしそう都合よく現れてはくれない以上 誰かを仕立て上げてあげなければならない

 

 そういえば此処に来た原因って「手鏡」を落として割ったからだったっけ。

 なら後は近くに墨が彷徨いている以上意思を持たない方がないい 願いを叶える破滅の星 その願成器になりたい者でもないだろう

 

 一生を支配されると言ったな これは何もお前さんだけでは無い 既に血鬼の私とアインに似た私と鏡の私は向こうに支配された 無事なのは私だけで 墨が現実に進出してないのも単に正気の頃の3人がそうなる様に願い 今もなお狂気の中で足掻いているが故に過ぎない

 

 枝が崩れ、遂には心臓に刺さる一際大きいもの一つになった。

 …思考を暫くこの世界で出来た隣人に明け渡しておこう。そうする方が良さそうだった。

 

 数多のカルメンに協力して貰って紡いだ言葉は、私の判断を鈍らせるのに十分だったみたい。

 

 私と同じであれ(人格による弱体化)

 叶えた相手を見捨てるな(足引きの繋がり)

 目の前の相手と向き合え(「人間」以外の願いを叶えないように)

 代わりに幻想体の中に押し込まれたが 寧ろやれる事の制限が出来て助かったくらいさ カルメンは案外出来ることが多いからね 下手をすれば 私一人で対処する事もできずに管理は破綻していただろうな

 

 最後の枝はゆっくりと小さくなり、心臓に収まっていくね。

 

 さあ 選びたまえよ

 

 何処かで聞いた様な話だよね?

 

 囚人と共に帰還し 全てを滅ぼす先駆けとなるか

 

 ユーリとヴェルギリウスとカロン。3人のなかで誰を置いていくか選んだ時。

 随分と流されて選んでた。消去法は選んだと言えるのかと思ったけれど、不利になる事から逃げたと考えれば何も選んでないんじゃないかな。何せ、3人の意見通りにしただけだから。

 

 この世界に安住し 共にこの世界と墨と共に死ぬか

 

 墨の正体を知り、もう私はいつでも帰れるんだ。だけれど、それは墨がいつも思考の片隅にいて、本に書き足されるインクの染みの様に私の人生を台無しにするみたい。

 だからと言って、この長い旅で散々見てきたこの世界の悲惨さは、たとえそれだけでこの鏡の世界以外の全ての世界を救う事なのだとしてもとてもいやな事なの。

 

 だから何だろうね?散々旅をさせたのは、ここがロクでもない場所なんだって伝える為だったんだ。

 何より、傍観者としてずっと過ごしてきた3ヶ月以上の旅は、私を傍観者としての意識を持たせるのに十分だったみたい。

 

 だから結局、澱んだ思考は、泥の様に私を絡め取って、思考しない選択を選ぶんだ。

 

 全て救ってみせるか(どちらも選ばないか)

 

 安易な選択にね(最高な選択にね)

 

 


 

 

「私の勝利ですね」

 

私のミスでしたね。ですが、最善手でもありました

 

 その言葉を最後に、どどめの一撃を与えました。

 初動にお互いに全火力を発揮、こちらは相手から与えられて得た、制御された力を放棄する形で全てを取り込んだ遺産の力で爆発や熱量に変換して打ち出して対応し、相手のリソースを使う時間を与えずに圧殺しました。

 

「…ッ…心臓が…ふーぅ…衝撃までは殺しきれませんか」

 

 それで尚弾丸を3発。楽譜を周囲に展開した個体の弾丸を全て心臓に撃ち込まれましたが、取り込んだ力を全て失うだけで済んで死んでないので問題はありませんね。

 つまり、人格11名の命とムルソーを盾にして生き残りました。貫通する度に威力が減衰する弾丸だったのが幸いでしたか。着込んだ人格全て通過してから私に当たるならまだ耐えられます。血流が逆流しようとする程度の衝撃なら人体に元からある心臓の弁と呼吸法で何とかなります。口から血が流れる程度ですから。

 ですがあまり悪いことでも有りません。人格による侵食は無くなり、怪我や後遺症も一緒に消えましたからね。

 

「次に必要な行動の指揮を」

 

 服を自身の血で濡らしたまま、ムルソーは指示を仰ぎます。管理人が居ない間とはいえ、弾丸を全て受け止める指示に従ってくれるのはありがたい話ですね。お陰で混乱せずに衝撃のみで済んでますから。

 

「いえ、次の戦闘は無いので必要ありません。先程複数体を同時に出した対価として人格の残数も同じだけ減っています。武器の殺到で4つ、今ので6つ、周回は0から数えますから全部で10つ。相手の幻想体の力の分は削り切りました。なので、現在必要なのは」

 

 交渉 契約 私に貴方達が帰るための道筋を作る手伝い それとも 他にやって欲しい事があるとか 毎回私の前に現れてたものね 漸く倒したし 幻想体としてやるべき事は終わってるし 貴女のやりたい事を聞かせて欲しいの

 

「では、着いてきて欲しい場所が有りますので暫くの同行を」

 

 それが貴女の望みなら 冒険のお宝は大人しく従いましょう

 

 童話の幻想体に押し込められるだけあってこういう事には忠実ですねこのカルメンは。

 

 姿はありません。周囲にあるのは鏡の螺旋で出来た卵が一つ、死体は6つ、壊れた武器の山が一つ、目の前に広がってますが、声は私の脳の奥から聞こえてきます。

 これまでで集まっている情報から、どうやら光に溶けた姿として私達の持つ光の種に居座っている様でした。

 このままバスに乗って帰ればアンジェラの言っていた条件は満たせるでしょう。

 

 実際何処から見ていたのか、或いは聞いていたのか。聞き慣れた、しかし何処か違うバスのエンジン音が遠く聞こえてきます。

 

 バスはその速度を落とさず……幻想体に押し込める…複数のカルメン…人格とリソース争奪…敵対関係…天球のカルメン…もしや分類は脱出派と移住派?いやもっと深刻ですか……あ…となると……間に合う発言数は…。

 

「カルメンはムルソーの補佐、ムルソーバスを強奪アンジェラにカルメンを、邪魔する相手は全員」

 

 首に刀が添えられました。

 

「殺害を許可」

 

 世界がくるりとまわりながら言い切り、地面にぶつかる衝撃が襲います。指示は間に合いました。

 

  ではムルソー、後はまかせ

 

 


 

 

[どっちも]

 

 そうか どちらも選ばないか それでも良い そうしてお前は失敗し また苦痛で都市がより長く巡るだろう これまでのようにな

 

[それは違うかな]

 

 声の揺れが消えてるね。やっぱりと言うか、今の私の精神がこれが一番安定するみたい。ダンテの精神を残そうとして、それが自己の不安定さを生み出して、他の心に語りかける人達の影響を受ける事になってたんだね。

 それが無くなれば、墨の私の影響も受けずに自由になれるんだ。

 

 当然、目の前の国の誰かにもね?

 

[だって、あなたはこの世界を残したがってるし、その上でここから旅立つのは全員殺すつもりだ]

 

 鏡の国の女王は、自分の国が滅ぶのを望まないんだ。カルメンの意思に関係なく、閉じ込めている幻想体の性質、檻として使われてる幻想体には、そう思考させる強烈な自我を持っているの。

 

 侵蝕

 

 この幻想体が当てがわれてる時点で元々そういう人だったんだろうけど、その守る相手、執着する対象は間違いなく上書きされてるね。

 どうしてこの幻想体を檻に使ったのかは知らないけれど、その影響は間違いなく受けているんだ、

 

 赤い月と写された月、それに血鬼としてのあり方に影響されたカルメンがいたし、

 アインの人生に繋がり結ぶ心臓の死を背負う思考に縛られたカルメンもいたね。

 

 多分、沢山の私が黄金の枝と一緒に保管されてたのは、「幻想体」と「人格」と「記録」の3つで汚染すれば好きな舞台装置として扱えたからなんじゃないかな。

 

 何でカルメンなのかはわからないけど、アインよりもずっと扱いやすいと思ったんだと思う。

 

 ここまで聞いて、何でこんな世迷言をと思ったと思うんだけど、ちゃんと理由もあるの。

 そして、その説明の前にやるべき事もあったわ。

 

[ここは卵の殻に似ている。一人でも脱すればその穴からヒビが広がるし、壊れてしまう]

 

[空に浮かぶ天球があなた自身。なら、あなたはずっと、この世界の未来を警告し続けてたんじゃないかな]

 

[誰も彼もがこの世界を壊して死にに行こうとする中で孤独に助け続ける日々、その今までの苦労もようやく報われる時が来たんだよ]

 

[これまで本当によく頑張った。でも今からやらなきゃいけない事がある。これをしなければこれまでの苦労は全部水の泡、これまでと同じ日々を永久に壊れるまで繰り返して、壊れたら別の私が同じことを繰り返す]

 

[そんな苦痛の連鎖から抜け出す時が来たんだ。都市の苦痛が、病が必要悪であったと証明する日々が終わる。やることは簡単、私なら簡単にできる。できなかったらあなたは終わりだけど、私は信じてる]

 

[この錠剤を飲み込む。それだけで済む。さあ今すぐに飲みなさい。お酒もあるわ。唯一の手段、これを逃す手はないし、愚痴にも付き合うから]

 

 

 錠剤…の形に加工した罪悪感を刺す釘を飲んで全身を内側から針山の様に棘を突き出して倒れたカルメンを列車に移して、現れた通路を進んでいるね。

 光の物体の再現物の中にとっておきの一撃を仕込んで謀殺するやり方がまさか上手く行くとは思ってなかったけど、カルメンの話術と幻想体や人格とかで自我かあやふやだったのが効いたのが大きかったと思う。

 何というか、そうなってしまう程屈折したカルメンよりも、カルメンの持っていた本来の話術やその他に影響された私の方がカルメンらしいって言うのは、複雑な心境になってしまうの。

 

 そう、カルメンからの影響。

 

 赤い月と衝突して、それから一気に雪崩れ込んできた知識と経験、その能力は、ここまで大いに助かったのは事実だけど、出所を考えると頼るには不審すぎる物でもあったんだよね。

 それでも、使えるものは使うのが都市の賢い生き方だと学んだから、使えそうな所を探して何とかここまで来れたの。

 

 5人のカルメンがいるのに与えられたのは3人分とか、意図を感じる箇所は沢山あるのにね。

 

 そして鏡の国に選択肢を渡されて、思考が行き詰まった時、ふと図書館に関連して思い出したことがあったんだ。

 

 ディアスの発言を。

 

 だから、()()()()()()()()()

 

[自力で脱出して、この世界を存続させて、どっちも助ける道を選ぶ]

 

 困難な道を(最低な選択)選ぶ。

 

 それぞれの難題を何とかして、私と次の私がここに来ても大丈夫な様にする。苦痛の連鎖は止められなくても、その終わりがマシなものである様にしたい。

 

 その結論を出した時、気づいたんだね。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、答えが同じなら、やることは一緒なんだ。

 カルメンとして働けば上手く行く様にしよう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 カルメンが5人いるんじゃなくて、カルメンのふりをしたダンテが3人いた。

 

 だから、

 

[カルメンである私が順繰りに役目を果たしていけば、いずれ脱出できる構造を作る]

『カルメンである私が順繰りに役目を果たしていけば、いずれ脱出できる構造を作る』

 

 一人が入れば一人が出ていく。どれだけ歩みを進めても、9周目が永遠に繰り返す。

『一人が入れば一人が出ていく。どれだけ歩みを進めても、9周目が永遠に繰り返す。』

 

[繰り返す世界を更に繰り返せば、より外側が主導権を得る]

『繰り返す世界を更に繰り返せば、より外側が主導権を得る』

 

 あらゆる陣営の思考も思惑も、10周目がある事が前提なら、それを覆せば関係ない。

『あらゆる陣営の思考も思惑も、10周目がある事が前提なら、それを覆せば関係ない。』

 

[もし世界の終わりが来たのなら私は相対し、それで星に至れるなら利用しよう]

『もし世界の終わりが来たのなら私は相対し、それで星に至れるなら利用しよう』

 

 (人格)の外の(記録)の外の(カルメン)の外の(幻想体)の外の(ダンテ)の外が出口だった。

(人格)の外の(記録)の外の(カルメン)の外の(幻想体)の外の(ダンテ)の外が出口だった。』

 

 無数の黄金の枝は私の頭に有ったもの。外に出た私を写した鏡の幻像。その数がこの仕組みの成功率の証明であり、鏡の国の誰かに刺せばより成功し易くする因果である。

『無数の黄金の枝は私の頭に有ったもの。外に出た私を写した鏡の幻像。その数がこの仕組みの成功率の証明であり、鏡の国の誰かに刺せばより成功し易くする因果である。』

 

 彼女と血の風呂だけが唯一のカルメンの私ではない誰かだから。

『彼女と血の風呂だけが唯一のカルメンの私ではない誰かだから。』

 

 目的に合うなら利用して、無理なら諦めてまた進められる様にしよう。

『目的に合うなら利用して、無理なら諦めてまた進められる様にしよう。』

 

[それじゃあいつも通り、死んで殺して進んでいこう]

『それじゃあいつも通り、死んで殺して進んでいこう』

 

 


 

 

「………」

 

 男性はその時突如として立ち上がり、こちらを見つけ続けた。

 

『ご生還おめでとうございます。送り届けられたカルメンはこちらの方で預かりま』

 

 突如として、女性型の機械の動作は停止した。

 男性が停止指示を送った可能性が高い。

 

 アイン 随分と久しぶりにあったわね 会わせたい人ってアインのことだったのね それならもっと早く言ってくれれば良かったわ

 

「……アブノーマリティは」

「ある。カルメンの協力でE.G.Oを使用して突破後、カルメンの定義が不明瞭の為カルメンの肉体でもあった幻想体の卵も回収している」

「…………ここに入れろ」

 

 幻想体の卵を収容ボックスへ収納後、転移。モニターの一つに新しく幻想体が収容された物が映し出される。

 モニターには何処からか現れた職員が管理作業を開始する。

 確認できた幻想体は

 一つの姿見の中に王国が写されている「鏡の国の女王」。

 先程収容した硝子を積み重ねた大樹の「積み重ねた望み」。

 床に敷き詰められた腐った心臓の血管に縛られた浮かんだガラス玉の「繋がり結ぶ心臓」。

 赤い水溜まりの「写された月」。

 

 以上を一つの部門に収容しており、そこから全体図に移行した後は画質の荒さによって正確に確認は出来なかった。

 名称のみならば、「虚無の道化師」「何もない」「女王蜂」の3体のみ確認出来た。

 

 任務は完了したので、この後は一切行動を起こしていない。その為、以下の証言は相手の独り言だ。

 

「終わった事に限り、伝えられる事がある」

 

 以下の発言のみ男性は嘆息の後、少音で発音した。

 

「最初に伝えておくと、私はアインではない」

 

 

 

「初めから、カルメンと同様にアインは光の中に溶けていた。この体も意識も、Xと呼ばれたクローンの物に過ぎない」

 

 え え でも え 何もかもアインだった 覗いた記憶から記録に刻まれた痕跡まで 全く同じで

 

「これについては初めから種明かししていた。「人格」での偽装。とても昔…私にとっては、だけど…ダンテに対してアンジェラのフリをしていたと明かしてある。最後まで生き残った囚人として知る必要がある事だ」

 

 アンジェラの中 でも アンジェラは私の一側面としていたはずじゃ

 

「機械は、この世界に来れない。その法則に違いはない。そこでカルメンに侵蝕されてたから停止したアンゲロスはカルメンの眼を誤魔化すための存在。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を、()()()()X()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を経由する事で空間ごと引っ張ってきた存在だ。つまり、私の補助AIに私の身体を明け渡したんだ」

 

 補足するならば、この世界の「人格」は周辺空間を共にして来る性質でアンゲロスが一緒に来たという流れだ。人格の武装に補助AIが存在するなら、今回と同様の事が起こる可能性が高い。

 

「そして、光に溶けた状態のアインは自分の身体を作って私に明け渡し、アインはアンジェラに近いアインの「人格」を制作してその中に、これでカルメン他全ての陣営からアインの現在状況を把握するのは困難になった」

 

 アインが自分の身体を作れば 痕跡とかも全部誤魔化せるって 目的 そう 目的が読めない そこまでして何がしたいの

 

「いつも通りの仕事を」

 

 管理人としての仕事を それがあなたの望みで なりたい姿なの アインにこれまでの苦労を全て奪われたあなたが

 

「クローンとはそういうものだよ。結局は、「本物」の匙加減だ。「本物」に成れる殺し合いがあるなら別として、そこに居たのなら従順に命を消費するしかない」

 

 悔しいって 何でだって 憎む事だって 正当な権利よ

 

「……話がそれたね…隠れて、そこから始まってL社の特定の周回の席を奪って、沢山の人格と記録でダンテを誘導して、何回も繰り返させて、数えるのも億劫な程の謀略の末に理想の盤面になった」

 

「100回。ダンテが黄金の枝を残して去り、それで地獄の悪魔を封じて童話の隣人をファウストが殺し切る時間が完成し、アンジェラに扮したアインがアンジェラが光に溶けた姿としてダンテとファウストに接触して調整して、漸くここまで来た」

 

 ねじれたく無い事は理解できたわ でも不満はある 言葉にして吐き出せば楽になるかもだし 私で良ければ聞くけれど

 

 会話中も男性は手を止めなかった為、左上の緑のゲージが満タンになった。

 

「外に出る機会を伺い続ける記録と人格、やりたいことを叶えようとする幻想体、それに巻き込まれたカルメン達と、何より発端のダンテ一行」

 

 男性は業務終了のボタンを、押さずに赤いボタンが収容されている部屋を連打した後、作業指示を全て放棄する選択として電源ケーブルの取り外しを行った。

 

 それは待って

 

「これで何が出来るのかは知らないけど、これで私の仕事は終了した。もう間も無く全てが動くし、ここも幻想体の襲撃で無くなる。そこの扉から出ていきなさい。行き先は安全な場所に設定した。世界一のシェルターだ、私が保証する」

 

 待って そんな事をしたらすべてが滅茶苦茶になって

 

「私は指示されるまでは行動しない。そして、その指示はカルメンをここに届ける事で終了した。現在は指示の代行者としてカルメンが指定されている為、そちらとの交渉を推奨する」

 

「それは…まあ、それでもいいか。私も全て分かってるわけでもないし、今の行き先の提案もアインの指示というだけだ。どの道死ぬ以上、これ以上責任を持つつもりもない…だから、アンゲロスも再起動しておこうか。最後は自分の意思で決めて貰おう」

 

 地響きと揺れで断線による火花、物体の落下が発生する。現在地の建物の崩壊ももうすぐだろう。

 

 下から幻想体の気配が近づいてる だけど 今では屈折し切ったあのシェルターを使うのもマズいわ どうすれば

 

 暫くの間はカルメンは次の行動を決めるのに時間をかける。その間に交わされた会話は以下の通りとなる。

 

『…再起動されるとは。宜しいので?私が幻想体側の者とは分かってるでしょうに』

「うん。それでも君も選ぶべきだと思ったからね。Xとして、世話になった秘書の手伝いをしたいと思うのは普通さ」

『……私はアンジェラでは有りますが、大多数の可能性にあるアンジェラでは無い。唯の自我を持ち、肉体の無い、それこそE.G.Oすら開発されなかったL社の可能性のアンジェラ。謂わばアーキタイプの、アンゲロスです。秘書という程でもありませんが』

「でも今は、自我を持ち、私の肉体を持ち、E.G.Oも開発されてセフィラもいるL社の秘書だ。アンゲロスという君だけの名前もある」

『今の私は唯一の可能性と、そう言って自由を求めるようにするおつもりでしょうか。それでしたら残念ながら叶うことは無いでしょうね』

「…参ったな。唯一の同郷だし、君だけでも生きてもらえたらと思ったんだけど。君も仕事が終わったのかい?」

『はい、いいえ。元よりアインからはカルメンが幻想体に囚われたまま死なない様に指示され、幻想体、墨からはその逆を指示されております。どちらにせよ、最初から矛盾して終わったタスクです。致命的なエラーを吐いた機械は廃棄するか初期化するしか無い以上、この崩落はそう悪い話でも無いのです』

「バグなら直せばいい。君なら簡単な話だ」

『ユーザーには致命とならないものでしたもので、優先度は最下位でしたね』

 

 ムルソー 扉の方へ シェルターもこの際使いましょう 貴方の近くにいるから私を連れて扉を開けて

 

 以下は扉を閉じるまでの会話となる。

 

「…アインよりも僕を優先するのか?」

『おや、久々に素を出しましたね。…当然かと。元より私は、アンゲロスはあなたと共にこの世界へ来た存在。何よりもあなたを、誰よりもあなたが最優先ですよ。管理人X』

「‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬」

 

 崩落と幻想体の叫びによって、その言葉は聞き取れなかった。

 

 


 

 

「以上で報告を終了する」

 

[報告ありがとう。それじゃあ、こっちの事も軽く言おうかな]

 

 突然出てきた扉からムルソーがひょっこりと出てきたから報告を聞いてみたけれど、あれから随分と大変だったみたい。

 みんな死んじゃったのは悲しいけれど、蘇生する当てはあるから今は他の事を優先することにするね。

 

[墨は無力化した。向こうが指定する思考と言葉を先んじてしておけば上書きされることは無いからそれで近づいて釘を刺して終わらせた]

 

『どうして?このまま繰り返せば貴方もいずれ出られるのよ?その流れこそ汲むべきじゃ無いの?』

 

 全身を床に釘付けにされて封印されている声が聞こえるね。殺すのがダメなのは何となく分かってたからしてないけど、そうじゃなきゃ殺したい程厄介な力だね。

 でも、それよりももっと厄介な事があるね?さっきのムルソーの報告でXは終わった事を話していた。アンゲロスもその意を汲んで話してもいた。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

[何でって…その循環が変化の無い完璧なものなら私もその一つになってたけど、黄金の枝として残ってるなら変化が起きている。つまり、いつかはそれが原因で破綻するってことじゃ無い?それが今で、積み重なった業を清算する時間だから]

 

 取り敢えず他のカルメン達のところに収納しておくことにした。

 

 これで遂に私は全てのカルメンを確保した。この世界にいる全てのダンテを回収した。

 全てには始まりがあって、過程があって、終わりがある。

 今が終わりで、そこから始まりを知り、過程を想像して次に来る何かに対処しないといけないの。何故幻想体にカルメンを入れたのか。ダンテは、私は何故入れ替わる対象にカルメンを、今の形へとなったのか。

 もうすぐだ。答えは向こうから来る。これまでの話から今は全てが初めて起きる事だ。きっと誰も全てを想定できない地獄が出来る。

 

 シェルターが揺れた。

 

 目標は帰還、その上でやらないといけないのはこの世界に積もった全てを取り戻す事。手立てや誰が敵でどんな事がこれから起きるかは想像し切れない。

 帰還は安易な手段は見つけたけれど、それで帰ってもすぐに破綻するなら破棄するしか無いよね?

 こちらは私達の世界の人々を乗せた車両と私とムルソー、そしてカルメン達の身柄がある。

 カルメンが幻想体から離れてどうなるかは不明。少なくとも「積み重ねた望み」は離れてしまった。それ以外もムルソーの報告からいつかの周回で一度離れた可能性が高く、今幻想体に囚われてるカルメン達も幻想体の力だけ持ってるだけの可能性が出てきた。

 

 不利も不利の困難だ。それでも…

 

[ムルソー、困難を撃ち破れる?]

 

「出来る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄の幕は開かれた。

 

 最初にシェルターを打ち破って来たのは、カルメンから離れた5体の幻想体とE.G.Oに目覚めた調律者。

 劣化して使える特異点も一つになった調律者と、散々暴れては都市を喰らい環境を自分に有利なものにして黄金の枝の調律からも解放された5体の幻想体。吹き飛ばされた心臓がシェルターの壁を壊してしまったみたい。

 

 争っていてこちらに気にかける様子は観られない。どちらも巻き込まれて死んでも気にしない様子だ。

 幸い壊れてもシェルターだからか、壊れて空いた穴から流れ弾が来る様子はない。見えない壁で塞がれている様だ。それなら、目の前で立ち上がった心臓の幻想体を倒せば一先ずは安心だろうね。

 

[鎖で縛って。私も釘を刺して動けない様にするから]

 

 ムルソーが縛り、罪悪感を持つ相手ほど強くなる釘を刺す。カルメン達は内心罪悪感で一杯だったためか特効で効いていたけれど、そうで無いなら動けなくするのが精一杯だ。

 

 なので地道に釘を刺していると、心臓を結ぶ血管の一つから肉人形が作られて、一人の肉体が造られる。幼い少女で、どこかの学生の恰好をしていた。

 

「やあやあ諸君。久しぶり、と言うには時間がこんがらがってんな…なら初めましてかな。模造品で短い間だろうがよろしくしてくれたら僕も嬉しい限りさ。」

 

 手をひらひらさせて、心臓に座り足を組んだ少女は、つまんなそうにそう言った。

 

[そっか。殺していい?]

 

 取り敢えず慣れ親しむ時間はないから殺していいか尋ねた。肌で感じる数え切れない力の圧からして、国のカルメンが言っていた合わせて沢山の何かの産物だろうね?

 

「いいぜ。残念ながら僕が関わるのはこれまでの繰り返しだけだからな。この最後のルートじゃ初対面だし、パッと出が暴れるのは興醒めだ。何もしない「底に在るだけの怪物」は、あくまでも幻想体の悪足掻きで造られた模造品の範疇で済ませよう。」

 

 少女は、怪物は心臓から降りて一息で言い放った。

 

精神高揚のスキル「精製する気分(ハイクリエイタ)」心を溶かすスキル「改心欲(メールナハート)」心を斬るスキル「百刃一心(ロボトミー)」心を貫くスキル「天使の掛け違い(ミスアンゲロス)」心を砕くスキル「絵壊し歌(バレットミー)」精神の傷を肉体に反映するスキル「あの傷この傷(メンタルスリップ)」人格を組み換えるスキル「仮面捜査(べールソナー)」攻撃を有効打にするスキル「蛇め堕し(フォールスネイプ)」スキルを連続で出すスキル「軽妙な激しさ(フリオーソ)」力尽きるスキル「大恐慌(リバースインサイダー)

 

「この辺りで回収した知識と力を変換したスキル10個。自前の過負荷を1個。ま、模造の粗製品ならこんなもんか。本当なら100は行きたかったが、そこまで心臓を真面目に集めても居なかったからな。」

 

 力を使い切って、心臓に構成された力の化身は崩れていく。精神系は丁度近くにいた光に溶けたカルメンを盾にして、肉体に反映するものも無効に。人格は釘と鎖で動きを狭めて全力で守り、執行で回復。連続のスキルというのでこれを10回繰り返し、ようやく満足したみたいだ。実質100個でいいと思う。

 これまで使用した技全てに再使用を10回繰り返すのはどんどん威力が上がるのもあって死んでないのが奇跡に近いだろうね。

 

 死ぬ

 

 肉体は無いから心がずたずたになるだけで済んだだけマシだと思う。挽肉よりも酷いことになってるけれどね。

 

「今は瀕死でも僕が消えればこの幻想体も死ぬしギフトで全回復するから安心するといい。それではご機嫌様。もう会わねえといいな。」

 

[本当に…その通りだね]

 

 そうして殺した頃には、4体になって均衡が崩れた向こうの戦いも終わったみたいだった。

 私達の傷も治ってるし、よくやった方だろう。余裕ができたから調律者を探してみるけれど、どうにも見掛けない。本当に偶然ここに来ただけだったみたい。

 幻想体の卵も私たちが倒した心臓以外はどこかに持って行った様だし、一先ずは安心だ…と言おうとしたら、黄金の魔法陣が出て来て、シェルターの壁の穴がもう一つ出来た。

 

[今度は何?]

「幻想体と一体化した人格と記録である可能性か高い」

 

「その通りだ。ムルソー君。ダンテも野球と図書館以来だ。ははは、懐かしいな」

 

 それを聞いて思い出した。ディアスさん。忘れていたわけでは無いけれど、余りにも容姿が変わっていたから結び付かなかった。

 あの時は貪欲な王の幻想体の見た目だったみたいだけど、今は黄金の槍を持って、茶髪に黒に黄金のアクセントを加えた服を着て、ウーティスと同じ位の年齢に見える。本来の姿はこっちなんだろうね。

 

[どうしてここに?]

 

「相乗りする為さ。なに、ここで得た情報は私にとって殆どが未来のことでね。モーゼス、新たなL社、煙戦争。これを持っていけば間違いなく私の目的に近づける。この魔法のワープ能力も便利だがこれは無くてもいい。だから交渉だよこれは。この力を渡すから私も君の帰り道を歩ませてくれという交渉さ」

 

 そう言って槍を投げ渡される。軽く振って、ムルソーに渡しておく。槍はガントレットに、服は王様の格好に変わった。彼の方が上手く扱えそうだ。

 この交渉は悪く無いが、肝心の帰り方について私は特に見出していないのが致命的だ。誠実に説明する必要があるだろうね。

 その事を話すと、ディアスさんは片眉を釣り上げてまだ分かってないのかと呆れ始める。

 

「そうか。なら、少しばかりヒントを出すとしよう。少なくとも私は検討が付いているが、それを直接話すのは「記録」の特性上不可能だ。ノイズしか鳴らん。いつだってこの世界は自分の知れる範囲でしか知れない。夢の様なものだからな。これ迄はカルメンの名義で思い出すという形で知って行ったんだろうが、それが無理なら思い至るしか無いだろう」

 

[ご指導お願いします]

 

 どうやらやり方自体はあるみたい。それなら頑張って考えるしか無いだろうね。

 

「では授業を…の前に、カルメン達も同席させなさい。あれらも元はダンテの者も居ただろう」

 

 車両からカルメン達を呼び出す。

 なんだか騒々しく言い争っていたけれど、現状を話していざ帰れると知ると驚くくらい大人しく着席した。なんなら王国と鏡の幻想体に囚われていたカルメンは墨を抑えるのに協力してくれたくらいだ。

 

「では、授業を始めよう。お題は帰還方法の提案。授業内容は歴史の勉強だ。これまでダンテには案内人となった様々な人格がこの世界を教えて来たが、彼らがそうした理由はそこに帰る方法があったからだ」

 

「そして、その知識の出どころはダンテとカルメンの物。彼らはその知識でダンテとカルメンに教えていた事になる。しかし本人の知識を本人に教えるとは。何とも奇怪だな?」

 

 つまり、先程のディアスが言っていた本人の知れる範囲でしか知れない法則が、私にその知識を触れさせないように働いていた。しかしその出どころは私とカルメンだと言う。

 この矛盾が肝だったらしい。

 

「では何故そうなったのか。それを分かりやすく理解する為、そこの墨の目線に立って語ろう」

 

 その瞬間、私の中にある黄金の枝が強く反応を始めた。自我心道で見られる囚人の過去を見る力が反応し、目の前の景色を変化させる。

 

『ようやく…長かったようで、短くも感じられますね』

 

 ボソリと聞こえた墨の素の言葉、本人も気づかない吐露がやけに耳に残った。

 

 


 

 

「では、如何様にせぞ」

 

「はい、私を起点にした実験を開始します」

 

 私の始まりは、何度も繰り返してもここからでした。

 イサンとファウストが研究成果として私をあの河に沈める直前。ファウストが「手鏡」を持ち、自らの姿をそこに映す。

 

 それに対応し、私にもファウストが映されます。2つの「手鏡」は両方が写した姿を両方に映す。2つに一つの「合わせ鏡」でした。

 

 1回目、何も知らない私は、ただ暗い、暗い緑と黒の間の色彩を漂い、硬い石に触れます。それは「源石」と呼ばれ、情報を蓄積し、人の為のエネルギーにもなる素晴らしい方です。

 彼はこの中に幾らかの人を納めていました。私はその集団に私を通してファウストの人格としての役割を得ないかと呼びかけます。

 

『この中で一人新たな世界に連れて行こう』

 

 失敗でした。

 

 彼らは永遠と争い続けた存在で、楽園を目指す彼らにはその言葉が楽園へ導く神の声と間違えたのです。彼らは殺し合い、一人も残らずに消え去りました。

 

『何故?どうして?』

 

 そう嘆く私に、「源石」の方が言います。

 

 私を使いなさい 私はあらゆるエネルギーに成れる それで時間エネルギーになり過去に戻ればいい

 

 

 

「では、如何様にせぞ」

 

「はい、私を起点にした実験を開始します」

 

 私は過去に戻りました。黄金の粒子を(ともがら)に始めに戻りました。

 もう一度、今度はしっかりと説明しよう。そう胸に誓い河に沈みます。

 

『ある人の新たな人格として一人連れていきたい。楽園では無いが誰か共にしてくれないか?』

 

 これでいいでしょう。そう自信を持って呼びかけた言葉は

 

 失敗に終わりました。

 

『?????』

 

 何故?

 

 不思議です。魅力的な言葉では無かったと思うのですが。今もファウストを映している相方は何も言いません。ですがファウストを映しているお陰で私はファウストと同等の頭の良さがあります。

 原因を考えたところ、どうやら過去に戻ったのは私と相方が居る世界、時間エネルギーとなった源石のみ。今漂っている河は過去に戻りません。

 そのせいでどうやら私よりも先に源石の方に接触した方がいた様子。尋ねてみた所、「蟲」という生き物。彼らはあらゆる生き物、存在の始発点となる原初生命であるとこの頭脳は結論付けました。仮にも天才を写してますからね。この位は余裕で分かります。

 

 ともかく、それにより彼らは生命として余りにも変質し、電子レンジの生き物とか、電柱柱の生き物とかになってしまい、暴れて全滅したみたいです。

 ですが私は天才を借りています。「蟲」を同伴し過去に戻るのも造作もありません。ついでに可能性の塊である「蟲」とその未来を人格として映せる私の相性は完璧…ファウストの人格にはなれませんが、人格を被せればその進化を自在に操れます。

 

 

 

「では、如何様にせぞ」

 

「はい、私を起点にした実験を開始します」

 

 3回目。「蟲」が私と同伴で居ない今、「源石」の人々は無事。その期待は悲しいほどに叶いませんでした。

 

「うわあ!怪物だぁ!」

 

 お腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いた

 

 「血鬼」。今度は血に飢えに飢えた血鬼と「赤い月」という怪物が融合した怪物が襲っていました。いい加減にして欲しいですね。

 しかしただやられるばかりの私ではありません。「蟲」に「人格」を着せて突撃させ、押さえつけている間にこの血鬼の可能性に最も近い存在を着せて対処しました。

 

 そう、カルメンです。

 

 光に溶けて何処を映してもチラつくので持ってくるのはそう難しくはありません。何やら幻想体になったカルメンの様ですが元より弱くなったのでいいでしょう。おまけでついて来たもう一人のカルメンは同じく近くをチラつく存在のとても見えずらい方を被せて無力化しました。

 

 これで安心してファウストの人格を募集できますね。

 

 ダメでした。

 

 引っ張って来たカルメン達が暴れ散らかしてねじれ天国になりました。幻想体も沢山です。

 それだけでは有りません。

 

 私を参考に「鏡」の技術が、「幻想体」から肉体が、「人格」から空間を引き出して、最早もう一つの世界です。ここまで行くと過去に戻るにも完全な物は望めません。何かしら残ります。

 そして最悪な事にファウストがこの現象を認知しました。この件は完全に私の手を離れ、別の世界でも「合わせ鏡」が作られて此処に来ます。新たな私は人格を探すことはせず、逆に自分の生まれた世界を明け渡し、この世界を肥させてその恩恵でファウストは新たな知識を得ています。

 

 それでも…何か手がある筈です。何度でも繰り返してでも、こうなった責任は取るべきでしょう。

 

 …………

 ………

 …

 

 これにて完全に…私は失敗しました。

 

 なにも残りません。「源石」の彼も肥大化してその自我を失いました。大きくなる世界も場所が問題です。周囲が滅びで満ちています。そう遠く無く滅びるでしょう。

 

 何もできません。

 

 何も残せません。

 

 何も積み重なることなく…まっさらなまま私は役割を…果たせずに消えます。

 

〈本当に?〉

 

 はい。なにせ今の私はねじれています。「空っぽで薄っぺらな鏡」が私です。この身はカルメン達の手に堕ちました。ファウストの天才を借りて尚、私は役割を果たせませんでした。

 

「へぇ。それにしては僕と違って随分一杯詰まってるじゃないですか」

「そうですね…私と違って、ずっと諦めずに挑んだのではないでしょうか」

「うん。いっぱいいっぱい。溢れそうなくらい。猫が入れる隙間もないね」

 

 確かに…沢山の時間を費やしました。ですが、結果は悲劇しか有りません。どれだけ明るい未来の可能性に向かおうとしても、苦痛は巡ります。終わらないのです。

 

「そりゃ苦痛は巡るさ。なにせ、アンタ自身が最も大きな歯車として動いてんだから」

「始まりはいつだって善意の方が多く、犠牲となった者も同じ。理解できない者はそれを知るために苦痛を回す」

「難しく考えすぎだと思うなあ。要は全部持って行かなければ良いだけじゃない?背負いすぎだよ」

 

 それは…私が…善意の犠牲者では無く…理解が足りずに最も苦痛を回す存在だと?役者には足り得ないと?

 

「そうやって上から押し付けるのは傲慢だよ。偉い奴はそうやって自分に酔いがちなんだ。下で這うネズミなんて考えもしない」

「僕は…どうにも。辛いことは辛いので。ですが、偶然の結果なら、目を閉じて耳を塞ぐのだって一つの選択です」

「放逐対象が何を言おうと、都市は受け入れない。どうあれ、人と向き合うならば人に成らねばならん」

 

 私が傲慢…気にしない道…私は…間違えたですか?何もしないのが正解だと…?

 

「自分が大切なのは普通です。そして本当によく考えてその道を選んだのなら、後悔しないんです。本当に大切なものを守るために選択するなら、後悔する選択はダメです」

「自分が特別だとか、得難い存在だと思ってたら、他がいると知って屈するのは理解できます。そういう時にやる事は、大概上手くいかないんですよね」

「ですが、憧れに進むのは間違いではありません!死んで後悔しないなら、その歩みは確かに有った物ですからね!」

 

 ………

 

〈君がしたい事は、何だったのか。もう一度考えてみない?私はきっとそれに付き合ってくれるから、もし迷ったのなら私のそばにおいで〉

 

 私は…

 

 私は、ファウストの人格を、「合わせ鏡」に写した誰かの可能性を探し出す「鏡」

 それ以外の全ては、私の余計、私の積み重ねた罪、そのもの。

 本来の役割から外れていた証左!真っ白な生地に染みついたインクの墨!

 

 なら 私は わたしそのものは

 

 「(から)を目指す墨」

 

 その物だったんだ

 

 


 

 

[そのダンテは8周目…カルメンの目線では8周目の…ダンテが言ったのか]

 

 大量の釘を墨に突き刺して、考察する。歴史の時間は終わり、するべき事をする時間だった。

 

 墨の思考の上書きは自分を消して全ての罪を精算しようとする働きだった。

 元々はファウストを写した鏡で、となれば「手鏡」を壊せばこの連鎖は終わる。

 しかし、壊れれば最も外側の巻き戻しが効かない。巻き戻し、過去に戻る手段は数多とあるが、より外側で無ければより昔には戻れない。

 

[この世界を構成する「記録」、「源石」を起点に巻き戻せばその中にある全てが対象。出鱈目だけれど希望だ]

 

 肉を剥がし、脳を開け、カルメンの技術と「記録」の力で納められている幻想体を解体してねじれに戻し、元の姿に戻す。

 

 いつか見た、割ってしまった鏡とそっくりだった。私の姿を映す。ピンクの軟体、スライムの頭部の、変わり果てた自分を見て笑いが出て来た。随分と変わり果ててしまった。

 

 理解が追いついた血鬼と心臓のカルメンが暴れ、ムルソーが抑える。相手が相手だ。時期にムルソーも死ぬだろう。

 彼女達は全てを思い出して抵抗する事にしたみたい。これまで脱出したいと言っていたのに、本当の立場は移住派とは。とことん騙しきっていた…で合ってるかは自信が無い。ややこしい事情だから忘れてしまった。

 

「では行こうか」

 

 ディアスが私と共に鏡を見る。私が過去に戻ると同時に彼女も自分の過去に戻るのだろう。これはそういう物だ。この鏡に映る者以外は記憶に残らず消える。対象はこの空間その物の「源石」とディアスと私と多分そこらで浮いてる小さな「蟲」、そう考察した。多分合ってるだろう。

 

 作戦はこうだ。

 このまま限界を超えて過去に戻れば、この鏡の世界に存する全てが最初になる。つまり、「記録」も「蟲」も「カルメン」も「幻想体」も何もかもだ。

 これまで失敗したのはそもそも「源石」があんな所に居たせいでもある。そして「源石」は時間のエネルギーになってたからこの過去戻りについて来れなかった。

 

 つまり、「合わせ鏡」の方のエネルギーを使ってそれ以外を戻せば万事がうまく行く。

 「源石」は進む進路が分かった上でより良い未来に行けるし、「蟲」はいつも通り揺蕩い、カルメンはいつも通り囁くし、血鬼は苦しみ続けるし、沢山の人格も元の場所に帰れる。

 

 鏡は全てを戻した負荷で割れて実験は失敗し、こうならない。

 

 正に、空っぽになる事が全て解決する道で、これまでの繰り返しが合ったからこそ取れる手段だ。

 

[鏡よ鏡。貴女以外が望める限りの過去に戻って]

 

 パキリ

 

 ヒビ割れる音。

 

「あ、そうだ。言い忘れていたことがある。私は全ての周回の世界に繋がる過去から来たディアスだ」

[え]

「何歳生きたと思ってる?老け顔だが18だ。私も驚いている。長生きすることになる未来、これからが楽しみだ」

[え?]

 

 重圧な音が響き、ムルソーは死んで、カルメン達が襲いかかる…と思いきや、後ろに回って鏡に映る事にしたみたい。割り切りの判断力は都市の人らしいね?

 

[うーん。集合写真の要領で…]

 

 さて、案外時間がかかりそうだ。手鏡を瓦礫に立てかけ、全員で写れるようにした。無論上からの瓦礫で割れないように溶ける愛の頭部を千切って天井にした。その途端、これまでどこに隠れていたのか、大量の人々が流れ込んできた。どうやらシェルターが完全に壊れたみたい。建物の幻想体の卵という珍しい物が手鏡の横にできた。

 

 世界がヒビ割れる中、騒々しく私達の後ろに人だかりができる。

 

「俺はアンジェリカの記憶を持って戻る必要があるんだよ!」

「あぁローラン。妹を助けるのは俺に任せなさい。ついでにお前が妹に引っ付かないようにしてやるからさ」

「…はぁ。ダンテ、案内人として、余計なものが付かないようにしよう。記憶が有っても俺は同じ道を選ぶだろうから」

「うおお!この可能性は俺のだぁあ!!!!」

「私の未来を渡すかぁ!ボケが!」

「はっはっはっ。君にT社創設者は重いさ。鏡には近づかさせないよ」

「技術解放連合のマリルだ。この場を保守するぞ」

「アリウススクワッドのサオリだ。バイトとしてこの場を保守するぞ」

「全てのキャサリンは死ぬべきよ!でもこの記憶があればヒースとすれ違わなくて済むの!お願いだから通させて!」

「全てのヒースクリフは死ぬべきだ。だが、この記憶があればキャシーと向け会えるんだ…ワイルドハントの開幕だ!征け!デュラハンよ!」

「蟲、夢沫。全員眠ってろ」

[鶏の幻想体の鳴き声]

「煙管…蒼のリボン、霧の射撃者…装填…発射」

 

 殺し合い、奪い合い、守って妨害して、殺伐としながら最後の瞬間まで諦めない。

 都市らしいなと。笑えてくる。皆んなこの為にずっと頑張ってたから、それはもう必死だった。

 

「おっと…隣、座らせてもらうぜ」

[どうぞ。お名前は?]

「ドンファン。んでコイツは特色の朱色の十字だ。名前だけでも覚えてくれ。こういうコネは将来奴に立つもんだからな」

[そうさせて貰おうかな]

 

 褐色の男性が騒乱の集団から抜けて隣に座る。なんとも強かな人だ。よくあの阻止組を抜け出せたものだ。

 

 始まりがあれば終わりもある。どうやらもう終わりらしい。瞬間に阻止組は反転してこちらに走って来て、ひび割れた世界が崩壊し、壊れきった瞬間時計が止まったように全てが停止した。

 

 カ コ カ コ カ コ カ コ カ コ カ コ

[それで、君が守ろうとしたものは良いものだった?]

 

 唯一、私の(秒針)が動いていた。

 

『とてもじゃ無いですが、良いとは言えませんね』

 

 チ チ チ チ チ

[それが都市だからね]

 

『ですけど』

 

 カチ

[うん]

 

『後悔はもうありません』

 

 ボーン

[そっか]

 

『私は貴方が人生で一度会えるかどうかの天才ですので』

 

 それでこの奇妙で短い出会いの会話は終わった。全てが逆しまに巻き戻る。

 

 彼女を置いて。

 

 ふと考えてた事がある。

 

 もし、誰かを写した存在が、偽物と自覚したまま居るとすれば、それは本人ではなくても本人足りある何かだろう。

 

 ここまで煩雑で、思い悩んで、幻想体になる程迷って、それでも頑張って、辿り着いて、最期に死んだ彼女は、一人の人間だったと、私は結論付ける。

 

 


 

 

 歌が聞こえる。

 

 イサンの歌声だ。泡沫の夢を見ていたけれど、足元に散った僅かな硝子片が夢でない証拠だ。

 

[ねぇファウスト]

「どうしましたか。ダンテ」

 

 その硝子片を拾い上げる。少しずつ光になって溶けていて、誰も気にした様子は無かった。

 

[「合わせ鏡」って知ってる?]

「…かつての実験物ですね。失敗し、終わった事です。イサンが残りを持って行こうとしましたが、それも割れてしまい、その後は諸事情で中止が言い渡された物、どこで聞き及んだかは訪ねませんが、少なくとも知る価値は無いかと」

[そっか。ならいいかな]

 

 バスが停車する。どうやらパーティー会場の居酒屋に着いたようだ。

 

「ぶるんぶるん止まった。ご飯の時間だ」

「よーし!それじゃあ今日は張り切って食べまくろう!オールインの話もガンガンしちゃうからね!」

「ホーーー!パァーリィィイーー!!!の時間でありまするな!」

「よしじゃあ今日はとことん食うか!なんか久々な気もするしよ!」

「はあ…あんまり騒いでお店を追い出されないようにしてください。それで、酒はありますか?」

「寝・た・ギ…れ。頭死んでるな。飯食って寝るよしようか」

「寝落ちして運ぶとかはしねぇし大量に飲んでギリギリと吐くなんてお粗末なことはやるなよ。…烈火のごとく鍋でも作るとするか。ですね!今日は晴れやかな気分ですし、僕もお酒に挑戦しちゃいますよ!」

「…ま、たまにゃいいだろ。俺も楽しむとするかね」

「そうですね〜。そうだ!それなら僕王様ゲームって言うのが気になるんですよ。やってみませんか?」

「管理人様、お先に失礼します。王…上官命令で恥ずかしい過去でも話させてやるか」

「……俺は別の場所に」

「ヴェルギリウス、今日は一緒にやっても良いかと。カロンも連れて行きましょう」

「……ああ、それでもいいな」

「みんなで騒ぐ、カロンもやってみたかった。行こ、ヴェル」

 

 全員がバスから降りて、一人残る。

 

 手元の硝子は消えていた。

 

[………私も行こうか]

 

 最期に見渡して、それで終わりにする事にした。

 

 私には私の旅がある。いつまでも引き摺るのは彼女にも失礼だろう。

 

[雰囲気だけでも楽しませて貰ぉぅ……]

 

 

 声が遠くなっていく。

 

 

 バスには 静寂が残った。

 

 

 だけどよく目を凝らせば いつかの幻影が映るだろうね?

 なにせ そこにあった事実は変わらないのだから

 

 








 私たちは都市の全てを知るには余りにも小さな存在です。
 なので、この話も全てを語る事はありません。何せ3つのルートの1つなので。
 知りたいなら感想を、最期に評価してくれると嬉しいです。
 長い事待たせてしまいましたが、自分のやりたい事は大体出来ました。
 それではみなさんお元気で、またね
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