「こっちの世界」
日課の鏡ダンジョンでファウストが〖今日の顔〗の人格を使っていた。聞いてみればこれが私が向こうで人格同期した成果らしい。通常の同期と違い私の承認が無くても使えるそうだ。代わりにレベルは現状28で同期レベルはⅣで固定何だとか。
傲慢の罪を9つ貯めた途端スキルの属性が相手の脆弱耐性の物のいずれかに変化し始めていた。相手に合わせて顔を変える様は確かに〖今日の顔〗と言えるだろう。
しかしタイミングを見計らってマッチを合わせないと上手く
上手くすれば精神の調子が悪くても最大限の力を発揮できそうなのは何かに使えそうだね?
『あっちの世界』
向こうの世界では囚人もヴェルギリウスも違う人だけど、カロンはそのままだった。話してみても相変わらずブルンブルンと言っていたので何だか安心した。変わらない事もあるみたい。
『管理人!戦闘の指示をお願いします!』
[ああ、今するよ]
彼女はエリヤ、席順や振る舞いからウーティスの立場の囚人だ。私を崇拝というか、持ち上げというか、私を正しいとする姿勢こそ共通しているが、ウーティスよりも依存、盲信に近い言動をしている。頼られる事に悪い気はしないけど、見ていて不安になってくるね。
向こうの世界に来て、ただ同期してお終いと言う訳にはいかなかった様で、ファウストとユーリが交渉した結果私は向こうの方でも業務を行う事になった。向こうの世界では経験チケットが無く戦闘のみでしかレベルが上げられないから、こうして何回も戦闘をこなす必要があるみたい。
どうにも向こうの私は、私よりも指示が上手では無いらしくレベルを上げるにも効率が悪いんだって。代わりにマッチのオートって言うものががあるそうで、私には無い物だから羨ましく思った。
毎回1人1人のマッチの手札から速度を予測して相手を選んでいるから本当に羨ましい。聞けば対人戦だとスイスイ指示してるらしいし、対人戦も幻想体戦も高速でちまちま指示内容をあーでも無いこーでも無いとやっている私には本当に本当に羨ましい。
何とかご教授願いたい物だ。
囚人の違う鏡の物語II
LCB ウーティス→LCB エリヤ
[都市怪談 図書館 総記の階]
剣戟の音が響く。
「エリヤ部長!これ以上はもうダメです!せめて部長だけでもお逃げください!」
血塗れの隊員が叫ぶ。片手を欠損させ、頭から血を流す様をもう長く無いと察して歯噛みする。私の実力不足の結果だ。そう後悔しても状況は悪くなる一方で、他の残る隊員もイサドラとサンとジュリアのみであり、その残った隊員も重傷で逃げる事も出来ないだろう。
何がいけなかったのだろうか。考えても考えても答えは出ない。そもそも、お世辞にも能力の低い私が部長になれたのもおかしいな話だ。
「部長!…チ。呼吸を整えなさい!総員戦闘準備!連続で攻撃しようとする奴は私が対処する!」
頭が巡らず、混乱する。イサドラの護衛指示を合図にみんなは私を背にして小柄な少年と白い線で飾った黒い服を着た成人の2名と切り結んでいく。それをどこか他人事の様に眺めて考える。
私はどこで間違えたのだろう。
私は初め、ただの巣の歯車として働く羽根だった筈だ。ある日、道端でカルメンと名乗る女性の演説を聴いて、それに共感して…だけど私は要領が悪かったから、ついて行っても碌なことにならないとついて行かなくて…だけど、あの演説を聴いた後では今が息苦しくて、どうにかしたいと必死に足掻いてツヴァイ協会に入社して、要領が悪くて何度も何度も失敗し前部長のウォルターさんに庇われてそれで…
心が不安定になる。初めからそうだった。私はいつも空回りしていて、今回だって今までの汚名を濯ごうと無断で行った都市怪談の討伐で、隊員を21人も殺してしまった。
私のせいだ…私が…私は…
「部長!正気に戻って下さい!」
「そうですよ、相手は強いですがやれない相手じゃ無い。俺達はこんな窮地は何度も経験して来たんです。なら、今回もやれない事はないですよ」
隊員の声が聞こえる。見ると、先程の長くは持たない隊員も片手に剣を握り、息も絶え絶えではある物のまだ生きる事を諦めてはいなかった。
「…みんな」
「部長、確かにあなたは不器用で、指示が下手で、何人も死ななくてもいい犠牲を作りました」
「イサドラ、その言い方はよく無いんじゃ無いのー?」
剣戟の音が止む。お互いに重傷を抱え、次の一手で決着までの流れが決まる状況。それによる膠着、睨み合いの一瞬。こちらに振り向かずいつでも飛び出せる態勢のままに話は続く。
「…ですが!私達はあなたの努力とその成果を知っています。あなたが作った戦闘技術のマニュアルは私達の実力を上げた!あなたの指示方式には1人でも多く生き残らせようという意思があった!何より、あなたじゃなければ私達3人そろってツヴァイ協会に入る事もなかった!」
「初めはとんでもない人の部下になっちゃたなあって思ったんですけど、部長って隊員の為にって自費で高級工房の装備を配ったり、護衛専門の3級フィクサーに研修の教師として雇ったりしているのを見てたら、ねぇ?」
「見ていて不安になりますけど、悪い人でも無いし、もう少しだけついていこうって思わせられるんですよね。それでいつの間にかここまで来ていましたし、部長はそんなに悪く無いですよ」
…剣と盾を握り直した。そうだ、今はくよくよとしている場合じゃ無いんだ。部下の為にも、1人でも多くの隊員を生き残らせる為に。
「ごめんなさい!今復活しました!私が前に出ますのでその援護をお願いします!」
失敗ばかりだ。群れからはぐれた掃除屋との遭遇戦の時も、捨て犬に引き抜きをして敵対する事になったときも、偶然見かけた見込みのあるネズミに勧誘をかけたら何故かねじれた時も、護衛依頼を受けたVIPに訪問してペットに襲われた時も、護衛対象が都市疾病の工場に誘拐された時も、私は依頼と隠蔽の為に部下を見捨て続けてきた。
この罪は消せないだろう。ここで生き残ればまた罪を重ねるだろう。その罪悪感で生き残った部下には出来る限りの事をし続けたが、それも私の独りよがりに過ぎないだろう。
だけど、ここは死に場所じゃ無い。私の自殺にみんなを巻き込む訳にはいかない。だからせめて、盾として率先して前にでよう。
ツヴァイ協会はあなたの盾。お金さえあれば裏路地の組織や、狂った殺人鬼からあなたと家族、そして家を守ります。
後書きにはどこで分岐したのかの想定でも書こうと思います。
〖今日の顔〗…ユーリが脱出では無く留まる事を選び、何日も枝の影響を受けてねじれやすくする。
〖ツヴァイ6課部長〗…カルメンについて行かず、その後転職に成功してツヴァイ協会に入る。