今更ですがこの小説は並行世界なのをいい事に「こっち」も『あっち』も変化してます。人格の世界はそこから更に変化した物です。
ホドはミシェルという名前も持っています。
「こっちの世界」
〖ツヴァイ部長〗の人格をもう使えるかウーティスに聞いてみたら使えるそうだ。
私としてはいつ「こっち」に人格が繋がったのかいまいちピンときていないのだが、どうも私が『あっち』に行っている間「こっち」には『あっち』の私が来ているみたいで、その時に同期を済ませてるみたい。
人格の同期で、今までのものとの違いを聞いてみると、今までのものは主観的に捉えていたものが客観的になるらしい。
私みたいに側から見る様な視点って感じでは無くどこか他人事、知らないシリーズ物の映画をテレビから見る様にどこか遠く要領を得られなくて困惑が勝るそうだ。
なので大半の囚人は『あっち』の人格を使う事に支障は無いけれど、中には強く影響を受ける囚人もいる。
[側からみるとシンクレアのままなんだけど…]
「そうですか…?僕…ミシェルさんって人になってませんよね?」
[なってないよ。髪の毛も茶色くないし…オドオドしてるのは似てるけど…何より男の子のままだ]
「…そうですよね。僕は…僕だ。そうだ…その筈なんです」
「……違う…違う…僕は裏切って無い…僕じゃ無い。僕はシンクレア…シンクレアなんだ…」
こんな風に自我が不安定になる様で、そういう時は別人だと否定する必要が出てきた。これはまだ軽い時の物で、ひどい時は「ロ…ロー…ラ…ラ…」と呻き声をあげる。その時は強く殴らないと戻らないから他の囚人に手伝って貰う事になる。
こうなる囚人はまちまちで、シンクレアは特に酷く影響を受けている様だ。彼曰く、朝起きて鏡を見ると稀にミシェルさんの姿で映る時があるらしい。
…本人には気のせいだと伝えているけど、私にも稀に、彼が彼女の姿になって見える時がある。影響を受けている他の囚人もそう見える時があるし、使う度にE.G.Oみたいに何か侵食されるみたいだ。
…今はこれで何とかなっているけど、その内戻れなくなる時が来るとどこか確信を持ってしまうのは、私の時計による物だろうか。…ファウストには伝えた方が良さそうだ。
因みに〖ツヴァイ部長〗の人格はマッチが低い代わりに使うだけで保護を撒く性能をしていた。試しに単騎で使ってみたら保護13まで行ったのは驚異という他ない。守護者の呼吸で嫉妬さえ貯めれば無条件で回復出来る事も強みだろう。その代わり相手にダメージを負わせるのも困難なのでサポートとしての起用となる。考えて使う必要がありそうだ。
『あっちの世界』
それはそれとして『あっち』の世界での仕事はしなくてはいけない。例え貰った物に欠陥があると分かったとして、それは相手に頼まれた仕事をしない理由にはならないからだ。
私のやる事は鏡の中にいる釘の狂信者達を倒す事が基本だけど、最後の締めに幻想体と戦う事もある。何体かは私も相対した事のあるものも居たが、知らない相手の方が多いから『あっち』の囚人に聞いてから戦闘する必要がある。
[この幻想体の名前と特徴を教えてくれ]
『はい、管理人。あれは願いの石といって1番多く攻撃した相手を集中砲火する特徴があります』
[簡単に倒せそうだね]
『それと攻撃をまともに3回くらうと死にますね。優秀な僕には効きませんが』
[…ああ成程、〖K社ホンル〗みたいに復活するなら気にせずに殴れるのか…頼りにするよ、ドンラン]
『お任せください。普段通りパパッと倒しますから』
そう言ってドンランはエンケファリンを他の囚人に刺しながら願いの石をあっという間に倒してしまった。
ドンラン。「こっち」ではK社の枝の契約相手として少なく無い時間を同行した人物だ。『あっち』では囚人として一緒にいる訳だけど、ユーリもそうだが…どうにも『あっち』では「こっち」とだいぶ違う道行を辿っていそうだ。
ここまで違うと参考にはならないとは思うけど、どんな事があったのかは興味がある。今度暇になった時にでも聞いてみる事にしよう。
囚人の違う鏡の物語III
LCB イサン→LCB ドンラン
[L社 25日目]
WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING
セフィラ崩壊によるクリファ顕現
セフィラコアの抑制が必要
WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING
酷く視界が揺れる。ガンガンと唯一残った肉体を、頭を強く何度も壁にぶつけてるみたいに強い痛みが走る。
その度に緑色に全てが包まれ、とっくに無くなった手足がもう一度溶けて広がってほつれていく。痛みが消える。また痛む。痛みが消える。また痛む。ずっとずっと繰り返し続ける。
「僕は何度繰り返せばいい?」
サイレンが鳴る。警報が響く。
力になりたいと思った。ただ何も出来ないのが嫌で、僕が手を上げるだけでみんなが救われるならそうしたいと思ったんだ。
「怖くなんて無かった。僕が最後ならそれでいいと思った」
職員が走る。赤色の侵入者が鍵を開く。アブノーマリティが脱走した。
正直さ、酔ってたんだ。何も出来ない僕が唯一できる事だった。誰か程には頭が良く無くて、誰か程には強く無かった。これが最善だと自分に酔っていた。
「安全な場所なんて無い。どれだけ酔ったところで目の前の脅威は消えやしない」
今日入ってきた事務職員が死んでいく。何処かで死体の笑い声が響いた。
愚かだった。視野が狭かった。当たり前の幸福すらも満足に知る事のできなかった子供は、騙されて使い潰されて無意味に死んだ。ただ子供のまま繰り返す人形以下のブリキの箱だけが残った。
「出来もしない事を頑張るのは疲れたんだ。もういいんだ、頼むから眠らせて下さい」
無音のオーケストラが鳴る。職員の髪の毛が散る。蒼い星が鼓動を鳴らした。
目が覚めるとブリキの箱の中で緑色に溺れていた。職員が酔って進むのをやめれば初めから。真面目に1人でも多く救おうとすれば初めから。自殺はしたくても出来なかった。
「…ああ、こんな事なら『手を上げなければ?意味のない想定ね』
青い青い空の様な色の髪、閉じた目に何一つ変わらない表情、見たくない顔が見えた。
『あの時の貴方はメンタルが不安定で他者の利益を優先しようとする状態だった。だから、あの時の貴方はどう転んでも自ら参加する事になっていたでしょうね』
「…ア◻︎◻︎◻︎◻︎。今更何の用かな?」
『用が無ければ来ては行けないかしら。無意味な質問ね。…Xが自死した。なら、何をしてももう意味がないもの。だからこれは…そう、散歩よ。或いは検証、次回の為の情報収集でもいいわね』
普段通り手を前に添え、目を閉じたまま近づいて僕の傍に座る。今更何がしたいのだろうか。
『今回の発端は赤の試練ね。早期に対応出来ずに悪い方へと流れ、職員の死に様を見て耐え切れずそのまま…シナリオにどこまでなら要素を加えられるかの検証は引き続き行うべきね。音楽のセラピーはあまり効果的では無かったから…次はサングラスでも掛けさせようかしら?』
「…君も繰り『返してるわ。そもそもの起点は私だもの。ああ、エンケファリンの調整は済んだから今回の記憶も持ち越し可能よ。今回は弱めに設定したから出来ても既知感のみでしょうね。これまでの検証で塩梅は理解したし次はうまく難易度を落とせそうね』
「…な『んなのか聞くのは無駄よ。これまでの6千7百4回の失敗を無駄にしたくないだけとだけ答えておくわ。…時間稼ぎ終了、情報の解析完了。継続的な精神攻撃の対抗策も次で成功しそうね。永かったわ…』
立ち上がり、息を吐いて僕を背に歩いていく。置き去りだ。僕はまた部外者になるのか?何も分からないけど、せめて…。
目を閉じたまま顔だけを僕に向け、ア◻︎◻︎◻︎◻︎は淡々と、作業の様に語る。
『大丈夫よネツァク。次こそは上手く行くわ』
[
分岐
偶然カルメンに会って着いて行く。