ダンテ著:囚人が違う世界の鏡   作:何処にでもある

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 G社課長代理のトーマです。経歴は課長と混ざってます。

100%に到達。これより〖合鏡〗を開始します。



囚人の違う鏡 トーマの人格V 人格〖リウ協会 南部2課 部長〗

 

囚人の違う鏡の物語V

LCB グレゴール→LCB トーマ

 

 

 

[煙戦争 54日目]

 

 

 

 燃える死体と切り裂かれた死体を捉える。酷く酔った視界。憂鬱な思考と自罰的な思考を切り捨て周囲を確認する。青の煙と紫の糸…鎖で支配された戦場で、俺は薙刀を構え直した。

 

「おや、これを受けてまだ動けるのか」

 

 黒い仮面、金色の沿線で飾った黒い服、青い飾り髪。ウジャトと呼ばれるその集団と、俺達は対峙していた。

 

「ええ、これでも戦争専門の協会の部長ですので」

 

 気付かれない様にゆっくりと立ち位置を有利にする様動く。此方の生存者は24人内負傷者12人に重傷は6人。対して向こうは18人内負傷者7人重傷3人。此方の方が数は揃っているが場はこの煙を支配している向こうが断然有利。

 動けない者も多数、向こうに逃走する意思無し。部長になった初任務でこの様とは、生き残った所で先はないだろう。よくて減給、そうでなければ解雇か。

 

「だが貴様だけが動けた所でな。…奴らを殺せ」

 

 キセルを持った隊長格らしい人物が合図を送れば、一斉に此方に向かってウジャトを差し向ける。

 さて、俺だけが動けた所で何が出来るとは、そう問われれれば俺に出来ることは少ない。だが、やる事だけははっきりとしている。

 

「出来るだけ多くの仲間を引き連れて生き残る!」

 

 心臓に刺さっている紫の鎖に触れる。先程から触れようと模索して見つけた。青い煙が濃い所ならばこの手は生きる事を停止しながらも掴む事ができた。

 鎖を思いっきり引っ張り、引っ張り、切り裂かれようとしていた仲間達と隊長格のウジャトが此方に向かって勢いよく引き摺られる。そのまま手繰り寄せ、全員を背負って走り出す。

 

「ウグ、グヘ、ゴハ!」

 

 隊長格のウジャトだけは暴れられてはいけないので鎖を振り回して地面に叩きつけながらも霧を抜けて瓦礫とあちこちで上がる火の手を耐火性のあるリウ協会の制服で押して行く。当然他のウジャト共が追いかけてくるが、此方は戦争専門の協会、撤退戦の心得も持ち合わせている。

 そうして暫く裏路地の複雑な道を抜け、L社の巣にたどり着いた。振り返り、追っ手がいない事に安堵する。

 

「はあ…はあ…何とか撒けたか」

 

 途中、隊長格のウジャトに追跡装置が仕組まれている事に思い至り、キセルをくすねてから投げ捨て無ければ仲良く全滅していただろう。

 

「うう…」

「いたい…くるしい」

「ぼくはわるくない…だって…だって…」

「なにもかもおわってくれれば…」

 

 背中に背負う仲間達の呻き声、苦痛と蝕まれる精神による重度の混乱。何するにも先ず、記憶と共に精神の異常を洗い流す脳洗浄と何でもいいから回復装置がいる。

 

「何かいい物は…あれは」

 

 P社のシェルター、民家の瓦礫の山に隠れてはいるが見間違える筈はない。世界一安全の謳い文句に恥じない頑丈さと豊富な備蓄が売りのシェルターだ。丁度いい、入れて貰えるか判らないがここで何もせず仲間が死ぬのを見続けるよりはましだ。

 扉をノックし、中に入れて貰う様に頼み込む事にした。

 

「すみません!リウ協会南部2課のトーマと言います!仲間が死にそうなんです!どうか中に入れて貰えないでしょうか!」

 

 返事は無い。当たり前だ、戦争が始まって既に54日も経って、生き残っている住民は運のいい者か慎重で疑い深い者、巣の奥か別の巣に引っ越した金持ちくらいのものだ。

 ここは巣だが裏路地とそう離れてはいない。ただで入るには対価も信用も足りないだろう。

 

「勿論ただとは言いません!この戦争が終わるまでの間、リウ協会が全力を持ってあなた方をお守りします!ですのでどうか、開けてくれないでしょうか!」

 

 もう既に先にリウ協会で受けた任務、ウジャトの偵察は十分に行えた。何ならキセルもある。これがあれば偵察も十分だ。俺は暫く返事を待ち、駄目か…と立ち去ろうとした時、キイ…と重々しい金属音が聞こえた。振り返る。

 

「ほんとうにまもってくれるの?」

 

 扉の隙間から俺達を、夏の空の様に青い髪と深い知恵も持った様に輝く黄色い目が特徴的な少女が覗き込んでいた。

 

 

 備品を使い仲間達の手当てを終える。呻き声も苦痛に歪んだ顔も穏やかになり、峠を越えた事に安堵の息を漏らす。

 

「ふう…一先ずは何とかなりそうだ」

 

 あの後、少女の案内に従いシェルターの備品を使って仲間達の脳洗浄と治療を終わらせた俺は、改めてシェルターの隅で本を読む少女を観察した。

 都市の住民には珍しく扉を開けた少女は、大人が着る様な大きさの白衣を着て、床に座って本を読んでいる。本は大きく、少女の半分以上の大きく分厚い本で、表紙は革で補装され、タイトルは書いていない。角は黄金で飾られ、高級なものである事を主張していた。

 

「少しいいかな」

「なにかしら?」

「どうして君は扉を開けてくれたんだい?」

 

 暫くは仲間達が意識を取り戻すまで時間がある。俺も英気を養う為座り身体を休ませる間、少女に気になる事を幾つか聞く事にした。

 

「…わたしだけだとこのまましぬわ」

「どうしてそう思ったのかな?」

「…きょうは3がつ27にちだから」

 

 理由としては意味が通らない。確かに今日は3月27日だが、それを理由にするには様々な意味で不適切だ。

 

「…わからくてあたりまえでしょうけど、きょうはけむりせんそうがもっともはげしくなるひよ」

「それは誰から聞いたのかな?」

「あいんおとうさん」

「アインお父さんか…聞いた事のない名前だ」

 

 煙戦争、巣を管理する会社、頭が飛ぶ為の翼、その翼同士の蹴落とし合い。煙戦争はL社にG社、それに留まらず戦力を商品にしたR社、斜陽にあるT社とW社、Lの翼を戴かんとするXX社を取り込んで勢いのあるLobotomy Corporation社に付き従うM社、間違いなく向こう100年で一番大規模な戦争になる戦争。

 戦争専門の協会としてはいつも以上に仕事に溢れるこの戦争で、環境汚染の激しいL社を潰す事を題目に数多の陰謀が行き交うこの戦争で、今日こそが1番争いが激しくなると保証する人間なんて間違いなく何処かの会社の重鎮しかあり得ない。

 これでもその辺りの知識は頭に詰め込んだ俺が聞いた事が無いとは、余程奥側の人間の様だ。

 

「おとうさんはむしょくよ。しらなくてもしょうがないわ」

「無職?それはあり得ない。ここは巣だ。莫大な税金を払う為に仕事をしている筈だ」

「でもおとうさんはむしょくといったわ。おかねはおやのちょきんって」

「…そうだ母親は?そっちが稼いでいたりしていないかな」

「おかあさんはいないわ。わたしはおとうさんだけからうまれたもの」

「????」

 

 クローンは都市の法律で1週間以内に殺処分と禁止されてる筈…巣にいるなら頭はこの家族を知っているだろうから…やめだ、この事は深く追及しないほうが痛い目を見ずに済むだろう。

 

「…そうだ。まだ名前を聞いていなかったね。君の名前は?」

「わたしのなまえを、きいてどうするの?あなたにとってもっともふようなことよ?」

「これから俺の仲間が意識を取り戻すだろう?そうしたら名前を読んだほうが間違えて別の人の足を止めなくて済むからね。教えてくれないかな」

「…それもそうね。あなたのむこうのひとたちにもそろそろころあいだとかんがえていたもの」

 

 納得してくれたのか、少女は本を畳んで両手で抱えながらぺこりと頭を下げてから俺と、或いはそれよりも遠くを覗き込む様に目を合わせて言った。

 

『私はアンジェラ。元L社秘書ないし元図書館館長にして司書、元たった一つの本の所有者にしてアインのセフィラコア、カルメンの影武者にして太古の川を泳ぐ者。ダンテ、貴方の味方よ』

 


 

 

『だから、警戒する必要は無いのよ?』

 

 ある日の、突然の事だ。「こっち」の世界でシンクレア、ロージャ、ホンル、ファウストを除く囚人が全員『あっち』の囚人になり、ヴェルギリウスとカロンを抑えて私を捕らえようとしてきた。

 それを残った4人の囚人が私を守ろうとするも、『あっち』の人格の方が質も量も上回る以上、ホンルは数字になって奪われ、ロージャはエンケファリンによって崩壊し、ファウストは紫色の蛇のようにくねる剣に貫かれ、健闘していたシンクレアも糸にする為に切り刻まれてしまった。

 余りにも突然。針を回すには余りにも時間が足りない。ヴェルギリウスが赤い血のマント王冠をいつの間にか被り、応戦するも他勢に無勢。もう駄目かと、その時に現れた彼女は、そう言って青い煙を吐き出して『あっち』の囚人を止めてしまった。

 

『けほ、けほ、かなりきついわね…』

[君はいったい…]

『あら、さっき言ったでしょう?アンジェラよ』

[この状況と経緯が知りたい所だけど…そうも言ってられないみたいだね?]

『そうね。貴方は私を信じるしか道が無い以上、私に従うでしょうね』

 

 彼女…アンジェラはもう一度青い煙を吐き出した後、無事だった4人の囚人の肉片を拾い、ヴェルギリウスを脇に、カロンは背負って私に近づいてくる。

 

『星辰を合わせなさい。貴方がいつもやっていた様に、あっちに行くわよ』

[…ああ、分かった]

「…グ…勝手に来て、こんな事をして、タダで済むと思っておいでですかね」

 

 ヴェルギリウスがアンジェラを睨み言う。もう気絶から復帰したみたい。いつでも行けるように針を回して「こっち」と『あっち』のピントを合わせる。

 

『済まないわね。こうなったのも、巡り巡って私達の過失でしかないわ。だけど、それはそれとして、この場では私のやり方が1番最適だもの。先ずは従っていて欲しいわね』

「…どうやらその様だ」

 

 調律者の人格が後ろで手を掲げた。T社の上級職員の人格が私の針を止めようとする。E.G.Oを発現しかけたW社の3級整備要員が次元渡りの様に空間を超えて私に切り掛かる。

 

『これは…この本がいいかしら』

 

 それらの一瞬前に、アンジェラが何処からともなく本を取り出し、服とキセルが白い服と顔を隠す黒いベール、つばの広い白い帽子、薬指に3巻の指輪を嵌めた、色とりどりな宝石を持った格好になると、エメラルドの宝石を掲げた。

 

『暴食の宝石。飢えに耐えて土を耕す希望』

 

 宝石から蔓が生い茂り、私達を囲む。白い花が所狭しと咲き、一斉に何かを頬張る様に花弁の中心にある牙を動かせば、掲げた黒い手は弾け私の針は止まらず、斬りかかろうとした者は蔓に囚われ抜けるのに時間を必要としそうだ。

 針が廻る。ピントがあった。亀裂が裏返る様にして一面に広がり、収束する。

 

『着いたようね』

 

 白い紙の様に動く光を捉える。バスでは無い。いつもと違う光景が広がる。

 

『生憎私以外は2人しか居ない寂しい所だけど、きっと気にいると思うわ』

 

 見渡せば本、本、本。高く積まれた本にとてつも無く大きい本棚と、何処か安心感を覚える光に包まれた…正に図書館と言えるそこに、私は居た。

 背負っていた2人を降ろし、近くにあった椅子に座ったアンジェラが笑みを浮かべる。

 

『ようこそ、ゲストの皆様。元図書館にようこそおいで下さいました』

『残念ながらまともな本はございませんが、ですがきっと気に入ってくれると思います』

『ぜひゆっくりしていって下さい。きっと、あなたに相応しい本をご用意できますから』

 






〖人差し指代行〗は振動を溜めたり沈潜と破裂の回数を増やすのが得意です。
分岐
G社では無くリウ協会に入社する
『あっち』への分岐その1
アインがカルメンに出会わない
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