実力至上主義の教室は智を呼ぶ   作:よう実の女装潜入モノが読みたかった人

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るいは智を呼ぶの冒頭(?)部分のオマージュもといパロディ。
ここだけ手紙の形式なので短めです。


拝啓 母上さま

 

 拝啓 母上さま。

 

 空の青さが真夏の到来を告げていますが、母上さまはお元気ですか。

 

 まず初めに母上さまの言いつけを破ってこの学校に入学した事をお許しください。

 

 言い訳が許されるのであれば正直に申し上げますと、中学の頃に出来た学友との約束で受験しただけであって、あくまで記念受験のつもりでした。

 

 しかしなにをどう間違えたのかは未だにわかりません。

 まさか競争率が50倍を超えるような学校に合格するとは考えておらず、無論のことながら母上さまの言いつけ通りの学園へ進学する為に辞退を申し入れようとしていました。

 

 学友は親の伝手で合格のことを察知しており、笑顔で「よもや辞退するとは考えていませんよね?」と釘を刺されてしまっては最早どうしようもなかったのです。

 

 これはそういった運命。

 運命なら受け入れるしかありません。

 学費がほぼ無料で、将来が確約されるなんてどこからどう考えても甘い罠にしか見えない学校が魅力的に映ったなんてことはなく、欺瞞と言われようともこれが運命だったのです。

 

 そして去る4月に入学を果たした東京都高度育成高等学校での生活にも慣れ、無数の監視カメラで見張られながら優等生を演じています。

 

 中学の頃とは勝手が違い学校ではゴミのポイ捨てひとつすら見逃さないその監視体制は、市井で発生する窃盗や殺人に誘拐といった凶悪犯罪、果てには陰謀論も囁かれる不審死事件が蔓延している世の中の為に使った方が良いのではと自らの不出来な頭脳で思案しましたが、ただの一生徒であり若輩たる身の上では意見を表明する事すら叶いません。

 

 せいぜい数百名の生徒の可愛らしい不法行為を抑止する為とはいえ、それを監視する費用対効果は如何なものなのかと首を傾げつつも理事長の行き過ぎた潔癖症に対して意見を述べること能わず、日々を粛々と過ごしておりますが、理事長のご尽力の甲斐もあって学校の敷地内は非常に清潔な環境が保たれています。

 

 数百人のゴミのポイ捨てを抑止する為に多額の血税が使われていると知られれば、有権者は黙っていられるのでしょうか。

 今のところ情報統制は上手く行っているようですが、高度に発展する情報化社会においていつまで隠し通せるのかについては、政府の手腕に期待するしかありません。

 

 

 

 そのような学校ではありますが、希望する進学・就職率ほぼ100%というのは真っ赤な嘘である事が判明しました。

 世界大戦末期の大本営発表と同じくらいには大嘘です。

 

 確かに募集内容としては『ほぼ100%』という言葉でぼかしていました。

 しかし実情は、全体の上位約25%の人間がほぼ100%の進路を得られる。が正解です。

 

 将来の夢は、公務員として誰も使用しない資料の整理をするフリをして、サボっているのに給料だけは立派に持っていく事を考えた(ばち)が当たったのかもしれませんね。

 

 ですが、日本政府が主導している学校においてそれを信じた全国の保護者を誇大広告の様に優良誤認させた上で生徒を集めて、ABCDの各クラスに40人ずつ振り分けてからその集団同士で競い争い合わせる事を強要しており、詐欺紛いな行為はいつの間にか合法になっていました。

 詐欺師にとっては非常に素晴らしい社会ですが母上さまは嘆かれるでしょうか。

 

 そんな詐欺が合法として扱われる法治国家が運営する学校において不法行為は全て、疑わしいだけでは警察の捜査の手が入る事はなく、見て見ぬフリをして当事者たちの自己責任であると放置し、常日頃から教師が必要最低限の言葉だけを説明して指導したつもりになっているのは当たり前です。

 

 教鞭を執る人間としては不甲斐ないと母上さまは仰るかもしれませんが、教師である前に労働者なのですからそこら辺はそういうものだとして割り切るしか無いのでしょう。

 何故ならホワイトでクリーンな学校な訳ですから残業という概念は当然のように存在せず、残業代なんて発生する訳がありません。

 そもそも残業をしているとバレたら能力を疑われ兼ねませんし、残業代が税金の無駄遣いだと叩かれるのがオチです。

 もちろん労働災害なんてもっての外。過労死が原因だとマスコミにでも漏れてしまえば大問題に繋がりますからね。

 

 もしそうなってしまえば、まず最初に潔癖症な理事長の首は確実に飛び、学校の実情が暴かれ、保護者は大激怒で訴訟が飛び交い、衆議院は解散総選挙……というシナリオが想定されます。

 そちらへ繋がるリスクの方が圧倒的に高いのですから当然、生徒の行いを見て見ぬフリをするのは明白でしょう。

 

 なので、生徒の不法行為は全てバレなきゃ犯罪じゃないという理屈がまかり通るのは、基礎中の基礎な権利で。

 生徒が他の生徒を騙そうとする詐欺行為は合法だから当然で。

 本能が赴くまま、遊惰(ゆうだ)に身を任せるのも常識で。

 暴力で全てを解決し、支配する人間がいるのは必然で。

 天才的頭脳を持つ友人がそれを見て評価しているのも定常で。

 リーダーの失策はその人をリーダーとして選んだ自分には自責が全くないとばかりに選挙制度を真正面から否定し、糾弾するのは処世で。

 そして息をするように買収することは生徒に課せられた義務です。

 

 もしかすると母上さまは正気じゃないと胸を痛められているかもしれませんが、これらの行為は『教師からの愛情』と『友人同士による熱い友情』という薄っぺらい言葉で全て片付けられますから、非常にクリーンで健全な学校であると胸を張って言い張るべきでしょう。

 

 故にいじめやカツアゲといった行為は愛情的とも友情的とも思えませんので、絶対に許さないという学校の運営方針は概ね間違えようのない道理とも言えるかもしれませんね。

 

 

 

 しかし残念ながら、そういった高度育成高等学校のとても素晴らしい学風に適していない集団も存在します。

 

 クラスメイトは社会通念上、悪とされる事を忌避し仲間内で助け合って『ひとりはみんなの為に。みんなはひとりの為に』これを地で行く道徳的な教育が大変行き届いていて、人情と慈愛と仁義に満ち溢れた方たちですが、基本的には羊のような存在であり学校の素晴らしい学風とはあまり適しておらず、正々堂々正面切って戦う事を選んでしまうお人好しばかりなのです。

 

 素晴らしい学風に染まりきってしまった他クラスからすれば、それはただのカモでしかありませんが、人として当たり前のことを当たり前として行う事は実に正しく、道を正してあげられるのも恐らく正常な神経を保ち続けている我々人間にしか出来ません。

 

 遊惰とその場の感情だけに身を任せる者たちがトップに立つ社会?

 暴力という間違った手法と無為に人を貶める者が頂点に君臨する社会? 

 裏切りと糾弾が蔓延り、人を駒としか見ていない者が全てを牛耳る社会?

 

 そうやって間違った方法で伸し上がった人間が国家の中枢に居る世界はきっと弱者にとって不都合なことが起こることは想像に難くないでしょう。

 そんなことあってはなりません。なので我々が正義と友情の代弁者として立ち上がり、それらを否定せねばならないのです。

 

 しかし力無き正義が無力であることもまた事実ですし、勝てば官軍、負ければ賊軍と言う言葉もある通り、勝ちさえすればそれだけで正義であり正当性も主張出来ます。

 

 それに誤った道へ突き進もうとしている者を殴ってでも止めるのは法としては誤りですが、友情として見れば健全な行為なのではないでしょうか。

 

 ──といった具合で口当たりの良い言葉(プロパガンダ)を適当にペラペラと並び連ねつつ、()()()()()()()()()()()()()という方向へそれとなく論点をずらして騙って煽った(アジテーションを行った)だけなのに周囲からは大絶賛され、気がつけば主導する立場として祭り上げられてしまいました。

 

 逆に彼らは純真過ぎて詐欺師や怪しげなセミナーに勧誘されないか心配です。

 

 

 

 さて、母上さま。

 ここからが本題なのですが、実は先日、新たに契約を取り交わしましたことをご報告致します。

 保証人としての母上さまに、ご許可を頂きたくここに一筆したためました。

 保証人という言葉を聞くと母上さまはエリマキトカゲの如く襟上の皮膚飾りを大きく広げて威嚇のポーズを取っている姿が思い浮かびます。

 

 保証人、なんと官能的な響きでしょう。ですがご心配には及びません。保証人としての母上さまには何ひとつとしてご迷惑をおかけすることはありません。

 現実の金銭に関係する懸念は皆無なのです。なぜなら、この学校では全てプライベートポイントという特殊な通貨が使用されていて、大量のポイントを所持していても外には持ち出せず、卒業時には全て回収されるからです。

 それに保護者が口出し出来る環境でもありませんので、保証人を立てることもない未成年者だけで締結出来る契約にしました。

 

 必要な契約であったことは疑う余地もありません。

 

 いささか大げさな修辞を許していただけるならこの混迷の学校生活を生き延びるために、理性の限界(Aクラス)権利の堕落(Cクラス)人間性の失墜(Dクラス)に抵抗すべく人類の生み出した最大の発明であるこの概念こそが、パラダイムシフトとして要求された契約そのものでありました。

 

 なんというか適当に難解な語彙を蝟集(いしゅう)、すると日本語体系のありがたみを噛みしめます。

 

 そもそも契約とは遥か昔から行われていた慣習で、当事者の自由な意志に基づいて結ぶものです。教師であろうが、国家であろうともそれに干渉することは出来ません。

 

 契約費用はなんと驚きのロハ。

 ただし契約の維持費はヤクザも驚き、収入の半分を上納金として納税する必要がありますが、無論の事ながら上納金は他の学友達からの妨害行為から身を守る為と有益な策を弄する為の貯蓄です。

 

 契約者はお互いを守るために行動し、何かあれば組織として戦う為。

 同級生や先輩、いずれは後輩たちが行うであろう事は、ぞんざいに正義の名のもとで難癖を付けて全て悪であると一方的に断罪し、友情の名のもとに蹴落とすことを是としつつ最終的にはしれっと約束された将来を確保する為。

 社会的通念上は悪とされる事について、こちらが行う分には全て友情と正義の発露から行われたという詭弁で押し通す(棚に上げる)為。

 

 お人好しが多いクラスメイトに清濁併せ持つ心構えを持たせる為にはそのような取り決めが必要でした。

 

 結束を固める為に結ばれた契約であり、自由意志です。

 そしてこれもまた友情契約なのです。当事者同士の権利の元、合意があって成立した同盟契約であり、契約を結んだ全ての人間が勝利を目指す義務と責任を背負わせました。

 

 母上さま。これまで同様、この手紙がお手元に届くことはないと存じていますが、新たに契約を取り交わしましたことをご報告致します。

 

 私たちは友情契約を締結いたしました。

 

 母上さまへ

 かしこ

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