実力至上主義の教室は智を呼ぶ   作:よう実の女装潜入モノが読みたかった人

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嘘つき村の住人の実態と鈴蘭の姫君

 

 突然ですが、僕の出す問題を真剣に聞いて、答えを考えてみて欲しい。

 

 問い:──あなたはスカートです。

 

 そもそも問いとして成り立っていない? 

 確かに僕もそう思う。ただ、何事にも様式美という言葉もあるからそういった出だしにしただけで、特に深い意味はないよ。

 

 ちなみにこれは母親の言いつけであって、仰せのままスカートになるだけで良い。

 お前はスカートになるのだ……なんて無体を命じられたのではなく、日常的にスカートを穿きなさいという道理。

 

 日本語って難しいよね。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 目線を少し下げれば歩くたび、裾には2本の黒いラインが入った下ろしたての白い制服のプリーツスカートは、ひらりと蝶が飛ぶように揺れていた。

 

 スカートは好きになれない。

 こんな布きれ一枚でいったい何を守れるというのかと思うが、入学式に参加した女子のスカートがミニ丈。いや猛者に至っては更に短くスカートを穿いている子も居て戦慄が走った。

 

 入学早々から痴女である事のアピール? それとも露出が趣味な人? 

 

 どういった思考を辿ればそうなるのかと考えながら入学式の時に周りを観察すると、比較的大人しそうにみえる子でもマイクロミニ丈に近いスカートを着用しているのだ。

 

 ──この学校において貞淑な女子は絶滅していたっ!! 

 

 風紀という価値観の相違に頭を抱えそうになったが、もしかすると高度に発展した現代社会を逞しく生き残る為に進化の過程でスカートが短くなったのだろう。そう思いたい。

 

 これがもし理事長や日本政府高官の趣味でそうなるように根回ししていたなら相当、闇が深い案件だ。未来を支えていく若者を育成する事を目的とした学校で女子生徒に対して短いスカートを強要していた。

 

 これが真実であればマスコミにリークするだけでも面白いほど荒れるだろうなぁと、イタズラしたいお年頃な気持ちが胸を刺激したけれど、多分この学校ではマイクロミニ丈のスカートが今の流行であって、僕のようにひざの丈まである長いスカートを穿くなんて化石並みな時代錯誤でダサい価値観なのだろう。

 

 ……ひざ丈のスカートでも結構冒険したんだけどなあ。

 

 とはいえ、僕のひざ丈まであるスカートはもはや幻想種のような存在であるが、校則に反していないから周囲の同調圧力に屈する気持ちは一切持っていない。

 

 むしろ淫奔(いんぽん)の道へ突き進んでいる全ての女子に、何の疑問を抱いてない事に対して警告を発するべきなのではないだろうか。

 それともそんなスカートを穿いておきながら、一方的に男子を変態扱いする為の罠か? 自ら公序良俗に反してるくせに? 

 と、なんだか嫌な妄想が膨らんでしまった。

 

「トイ……お手洗いっと」

 

 今は誰もいない校舎の廊下を一人で歩いているが清楚で如何にも品行方正な優等生らしく、付け加えるなら優雅で上品な歩き方は崩さない。

 一瞬、油断して声からは素を出しかけたがギリギリのところで取り繕う。教室や廊下、階段といった様々な場所から偏執的な数で設置されている監視カメラが僕を見張っているからだ。

 緊急時でもない限りは走るなんてもってのほか。これではうかつに廊下でゴミのポイ捨てひとつも出来やしない。

 

「不審者対策……にしてはちょっと異常だよね……」

 

 誰に語りかけたわけでもない独り言を呟く。

 前の学校にも名ばかりだけな防犯用の監視カメラは存在していたが、この学校はそれよりも警備が厳重だ。コンビニで設置されているカメラと同様に犯罪への対策もそうだが、内部に居る人間の不正を防止する為に見張っている可能性が高い。

 無論、フェイクも混ぜているかもしれないけれど見た目だけでは判断がつかなかった。

 それにそんなつまらない事で露見してしまえばせっかく作り上げようとしているイメージが台無しになってしまう。

 

 トイレの前に立つ。男子用と女子用で別れていて、一拍だけ息を入れてから女子用トイレに入る。真っ先に監視カメラを探すが、さすがに配慮されていたようで設置されていなかった。

 

「そりゃそうだよね……」

 

 適当なトイレの個室に入り、誰も居ないと思うが流水音が流れるスイッチを押した。中学の頃に比べて丈の長さが少し短くなったとはいえスカートを穿いて生活するのにも慣れてしまったのは全て、生まれてからずっと呪われている我が身のせいだ。

 

 ──呪い。詛い。呪詛。人を呪う。人から呪われる。人を呪わば穴二つ……な呪いのこと。

 僕は呪われている。

 そして、決して他人には漏らしてはならない重大な秘密がある。

 呪われているから異物にしかなれないし、集団において異物は排斥される。排斥される中で秘密が露見するかもしれない。

 であれば偽るしかない。そうやって偽りに偽りを重ねて嘘で塗り固めた結果が和久津智()という存在だった。

 

 手を洗ってからトイレに設置されていた少し大きめの全身鏡の前に立つ。

 白いブラウスの胸元には紺色のリボン。僕から見て左側に金属製の前ボタンが縫い付けられたえんじのブレザーは、ボタンをきっちり締めてあり、父親の遺伝が強い茶色の髪の毛は腰まで伸びていて、ひざ丈まである白いプリーツスカートを揺らしつつも母と瓜二つな顔立ちをしている僕がそこに映っていた。

 なんとなくな思いつきでくるりとひとまわりする。

 裾にある2本の黒いラインが際立つ白のプリーツスカートがふわっと舞い上がっていた。

 

「かーわいっ!」

 

 そして、そんな感想が自然と出てしまった自分自身に落ち込んだ。

 

 拝啓 母上さま。

 私はもう戻れないかもしれません。

 かしこ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「ごきげんよう、智さん」

 

 トイレから出ると同時、プロのパティシエが作った甘くて美味しいショートケーキの苺代わりに鈴蘭をのせたような声を掛けられて、僕は少し面倒くさいなと感じながらも表情を作って対応する。

 

「ごきげんよう、有栖」

 

 ── 坂柳(さかやなぎ)有栖(ありす)

 彼女とは中学時代からの付き合いで水泳や一部の体育の授業の時は一緒にサボタージュしていた仲でもあり、僕がこの学校に進学することを勧めてきた友人だ。

 小柄な体躯に艶めく柔らかな銀糸のミディアム・ロングヘアの髪にはお気に入りの黒いベレー帽を被っていて、美白な肌と可憐でチャーミングな姿から想像出来る通り、中学では『鈴蘭の姫君』という異名を持っていた。

 しかしながら淡藤色のつり目な瞳と鈴蘭の花が持つ毒性を知っていればなんとなく察せられるように機嫌を損ねると非常に好戦的で苛烈な一面も持ち合わせているお姫様でもある。

 実は入学式前の朝にも一度顔を合わせていて、中学の時から継続して「ごきげんよう」と挨拶を交わすことに関して続けるのかと指摘されたが、朝昼晩全ての場面で使える合理的な挨拶であると力説したからか、彼女もそれを使ってくれる事になったという非常にどうでも良い経緯があったりする。

 付け加えるなら、先天性疾患が原因で歩行が不自由しているそれは僕の呪いにも似ているようで、どこか共感を覚えてしまう相手でもあった。

 

「騒動がこちらにまで聞こえましたよ? 智さんのクラスメイトの方が倒れてしまったそうですね」

 

 僕の行き先なんて全てお見通しですよと主張するように彼女は保健室の方へ不自由な足ながらも緩やかな速度で歩き始めていた。その名の由来通り、ミュゲ(すずらん)とフリージアの上品で甘く透明感のある香りが彼女との日常を彷彿とさせる。

 なるほど。たとえここで会わなかったとしても最終的には保健室で捕まっていたというわけか。

 

「Aクラスの担任の……」

「真嶋先生ですか?」

「そうそう。隣だったからまっ先に来たけど、そのあとすぐにCとDクラスの担任の先生まで駆けつけたから騒動自体はさすがにみんな知ってると思うよ」

 

 突然、Bクラス全体が驚きやらなにやらで大きく騒ぎ始めたから声もよく通っただろう。真嶋先生が何事かと駆けつけて、緊急事態を察した後に応援で呼び寄せたのは、いまいち印象の薄い男性教師ときっちりしたレディーススーツを着た如何にも冷徹そうなポニーテールの女性教師。

 その女性教師に対して星乃宮先生が、サエちゃんって呼んでいたのは一番印象的だった。

 

 あの厳しそうな印象でサエちゃんはちょっとギャップがあって笑ってはいけない場面で笑いそうになった。多分これから僕の心の中ではサエちゃんって呼ぶと思うが、星之宮先生から聞いた話によると上の苗字は茶柱らしい。

 僕の苗字も割とレアだと自負しているけど、茶柱はその上を行くほどのレアリティだ。絶滅危惧種に指定されるだろう。

 星乃宮先生はそのサエちゃんに担架を取りに行かせて、僕は一之瀬さんの膝枕係だった。意識を失った人に対してあまり動かさない方が良いらしい。鼻血の止血はしちゃってたけど。

 

 真嶋先生と印象の薄い男性教師は、保健室まで一之瀬さんを担架で運ぶ為の人手だった。あとは担架で運ぶ際、廊下へ出ていこうとする時に邪魔な机を少し移動してたくらいで。

 僕は救急車が必要なのではと思ったけど、星乃宮先生が保健室への搬送を指示した理由はよく分からない。保険医の判断で何かしら理由があって不要と思ったのだろう。

 実際に一之瀬さんはのぼせてただけだったらしいからその判断は的確だったとも言える。

 担架が到着した後、教師4人で前後左右を囲んで一之瀬さんは無事にドナドナされたって寸法だ。

 

「そのクラスメイトの方を真っ先に支えていた智さんは、お見舞いのついでにSシステムの質問も行っていたのでしょう?」

「おや? 何故そうお考えで?」

「いつもなら解散と同時に足早になって帰ってしまわれる智さんが今ここにいるだけでも証明にはなりませんか?」

 

 僕が一之瀬さんを支えていたという話は誰かから聞いたのかもしれないが、相変わらず鋭い推論だ。

 まあSシステム──プライベートポイントや評価に関しての疑問は僕の平凡な頭脳でも取っ掛かりを掴んだぐらいだから、有栖が気付かない筈ないか。

 

「ただ単に入学で浮かれた僕は学校の探索をしていたかもしれないよ? もしくは七不思議の探索に勤しんでいたかもしれないし」

 

 これは、あまり通じないだろうと思いつつも抵抗を試みる。

 

「それは考え難いですね。抜け出す口実として休み時間に行うタイプですし、七不思議の噂があってもあまり興味を示さない人だと私は考えますけどね。それならば倒れたクラスメイトの方を出汁にしつつ担任の教師に対してSシステムに関する質問を投げていた。が、一番可能性として上げられるかと」

「そこまで読まれていると確かに否定もし辛いかな。でも僕は有栖と違って一之瀬さんの心配もしていたからね〜」

「……そうやって、隙あらば私の事を貶めようとする癖、なんとかなりませんか?」

 

 いや、一之瀬さんを出汁にしたって言ったのは有栖の方だけどね。基本的に人当たりが冷たいからそういった言葉を無慈悲にポロッと出しちゃうんだろうな。

 

 中学最初の頃、僕は『人に柔らかく接して敵を作らず、誰にも触れさせない』人間で在ろうとしていた。多分だけど、坂柳有栖という存在が居なければそれは完璧なほどに出来ていただろう。

 しかし、僕らはそれが運命だったかのようにクラス合同で行われる水泳の授業の際、プールサイドで見学する間柄として出会い、とある些細な隠し事をいくつも行っていた僕とその虚偽を見抜き、僕の全てを暴こうとする彼女との間で攻防を繰り広げる間柄となった。

 

 最初は自身の手駒を使った軽い嫌がらせから始まり陰湿極まるような悪評の流布、事故に見せかけつつ人を池に落としたり未遂ではあるが硫酸など(洒落にならないもの)をぶっ掛ける計画を立てていたり……。

 あの時を振り返れば、進学校でありながら情操教育も兼ねているお嬢様学校とは一体……? 

 と考えさせられてしまうような攻撃を受けていたが、有栖には何者かの暗躍で『無理矢理、ノンケに押し迫るほど倒錯的な性的嗜好を持った同性愛至上主義者(レズビアン)』という噂が流れた。

 

 その有栖には本人の容姿も相まってその手(ガチ)の人が学年問わず大いに歓迎と歓喜(ニャーニャー、にゃんにゃん)していたけど、ノンケでその手の話題(猥談と趣味嗜好)に対する理解と耐性が初心な乙女(クソ雑魚)で身体にもハンデのある彼女へ強く迸るようなリビドーを向けられて耐えきれる訳もなく僕に対して膝を折った(泣きついた)

 好奇心は猫をも殺すという諺もあるが、因果な事に有栖にはネコ(が多めなだけでリバとタチも居たけれど)に囲まれて膝を折ったというわけだ。

 

 1年生の終わり頃に和解し、今に至ったという複雑怪奇な縁を結んでいる。

 

「敗因を述べるのであれば、私はチェスを指しているつもりでしたが、智さんは将棋を指していた差でしょうね」

「……さらっと僕の思考を読まないでくれる?」

「今日は珍しく顔に書いてありましたから」

 

 ジトっとした眼で僕を貫こうとしている。よほどあの件は忘れたくても忘れられない出来事だったらしい。実際、僕も地獄絵図(いいぞ、もっとやれ)と思ったくらいだ。

 

「その天才的な思考力が羨ましいね」

「……何度も言ってますけど、私が一から十全に組み立てていた策をただの勘だけで事前に潰してみせた智さん……いったいどちらが天才だと思いますか?」

 

 有栖が言う通り自慢じゃないけれど僕は勘がかなり良い方だ。デジャヴを感じる事もよくあるので、いわゆる第六感が優れている方なのだと思う。

 実際、彼女との間では勘に助けられたことも多かったので僕はそれをかなり信用している。

 

「勘が良いのは認めるけど、働かないときは本当にどうしようもないから有栖の頭脳が上だと思うけど」

「……そういった智さんの卑屈な態度は嫌いです」

 

 ぷいっとそっぽを向いた。なんとも可愛らしい仕草だけどお世辞で機嫌を取る作戦はウケが悪かったか。女の子って難しい。

 有栖が提唱する『人間は生まれた瞬間のDNAで決まっている』という説で考えるなら僕は呪いを持っている分だけ普通の人よりも劣っていると思うが正直どちらでもいい。

 僕はただ単に与えられた手札で精一杯やりくりするしかないと考えているだけだ。

 

「それで本題ですが、Sシステムの質問は如何でしたか?」

 

 Sシステムの情報を集めに来たと思われる有栖には星之宮先生へ質問していた内容。プライベートポイントさえ持っていれば割と柔軟に解決出来てしまう仕組みを僕はゲロっていた。

 無論、彼女も当たりをつけていたが推測はあくまで推測だ。それを裏付ける為に僕の思考を見越してから動く辺り、なんだか妙で嫌な信頼のされ方な気もする。

 

「毎月1日に貰えるポイントの額も聞いてみたんだけど、そっちははぐらかされたよ。最悪、『ゼロポイントを支給しました』という未来が無いとは言い切れないね」

「ふふふっ……ということはやはり変動すると見て間違いは無さそうですね。せいぜい授業態度には気を払っておきましょうか」

「だね〜」

「そしてこちらでも水泳の授業は全て見学なさるのでしょうか?」

「一身上の都合によりお休みを頂くことになるかと。ポイントさえあれば全て解決出来るなんて本当に素晴らしい限りだと僕は思うよ?」

 

 そこまで話したところで、保健室の近くまで来ていた。

 

「それで? 僕はこれで洗いざらい全部喋った訳だけど、有栖はこれからどうするの?」

「そうですね……ここまで来てしまいましたし、せっかくならご挨拶させて頂いても構いませんか?」

「そう? なら紹介するよ」

 

 保健室の扉を3回ノックした。

 そこで今更ながら緊張し過ぎでのぼせて倒れるほどのコミュ障の恐れがある人(一之瀬さん)に対して、有栖を紹介するのは不味くないかと一瞬、疑問が湧いてきたが既に後の祭りだなと思い考えを切り捨てる。

 中から間延びしつつも割と元気そうな声で返事があったので扉を開けると一之瀬さんはベッドに腰掛けていた。

 さっき僕がちょっとしたイタズラ心で一之瀬さんの耳に囁いた時は、友達同士でもそういったじゃれ合いの経験が無かったらしくて顔が真っ赤になるほど照れていたけど、今は流石に落ち着いているみたいだ。

 金髪巨乳な中学の後輩()に何処となく似ていたのでつい癖でやってしまった。僕の癒し系枠というやつだろう。

 

「今の調子はどう?」

「うんっ……多分もう平気だけど……その子は?」

 

 前髪を邪魔そうにしている一之瀬さんは訝しむような表情をしていたが、積極的に誰かを問う辺り実はコミュ障ではないかもしれない。

 いや、それ以前の問題として僕がトイレから戻ってきたかと思えば横に誰か連れていたら……そりゃ当然のように不思議と思うか。

 

「紹介するよ。この子は1年Aクラスの坂柳有栖さん。中学の時の同級生でその時も別のクラスだったけど、僕とは友達の関係だね。それと先天性疾患が原因で、歩くには少し足が不自由してるからそこだけは配慮してあげて欲しいかな」

「……どうも初めまして。智さんからの紹介の通り、1ーAの坂柳有栖と申します。智さんがこちらまでお見舞いに伺っているとの事だったので、ついでではありますが私もご挨拶させて頂こうかと思い、顔を出しました」

「あ、そうだったんだ。えっと……私はBクラスの一之瀬帆波ですっ。和久津さんとはその〜……私と教室では席の前後の関係なので、これから仲良くなれたらなぁと思ってます……けど──」

「一之瀬さんが倒れたのは既に私たち新入生の間では有名になっていますよ?」

 

 ──どうしてわざわざ坂柳さんがここに? と続くであろう一之瀬さんの言葉を切って有栖が続けた。

 まるでテレビのクイズ番組を見ている時のような気持ちになる。

 

「ごめん。そういえば説明してなかったかも。一之瀬さんは気を失ってたから担架でここまで運ばれたんだけど、1年生のクラス担任の先生方が運んだから、1年生は多分ほどんどの人が事件を知ってると思う。さすがに一之瀬さんの名前は伏せられてると思うけど……たぶん時間の問題だろうねぇ」

 

 一之瀬さんはショックで天を仰いでいて、小声で「うわーっ……」と言う嘆きを拾った。

 まあ、僕が一之瀬さんの立場でも同じ反応してたと思うから気持ちはなんとなく理解出来るけれど、かなり時間が押しているし、可愛い子ではあるのは認めるが初対面の人に対してそこまで割く程の義理人情も持ち合わせていない。無情とも思われるかもしれないが話を切り出す。

 

「さて、必要なものも渡したし僕はそろそろ帰るけど、一之瀬さんはまだ休んでいくの?」

「ううん……。調子も良くなったから私もそろそろ帰ろうかなぁとは思うけど……」

「……僕? 僕たちではなく?」

 

 すかさず有栖から指摘が入る。

 今日は是が非でも逃がさないという目をしていた。今更ながら考えに至ったけど、ここまでが彼女の計画だった訳か。

 こういった細かい企てに対して彼女にはしてやられるばかりではあるけれども、僕の身に危険が及ぶような謀略であれば割と勘が働く。

 あとは未来の展開を予想する内容……たとえば体育祭でどこが勝つかといった内容であれば僕のほうが当てている。お陰さまで涙目な彼女の財布から僕の財布へ5人の諭吉さんが移住したこともあったなぁ。

 そんな熱い青春の1ページがあったりしたわけだが、自分でも言うのはなんだけど僕はとても付き合いが悪いと自覚している。むしろ意識して付き合いを避けているくらいだ。

 

 ……それも我が身に宿る呪いのせいで歪な人間関係の構築を余儀なくされているとも言えるが。

 

 あと、有栖は普通に面倒くさい。本当に面倒くさい。

 特に黒のベレー帽を被っていて天才的なやつは総じて、同性愛至上主義者(百合が趣味)で、いつかは。

 

「目には目と鼻を。歯には歯と舌を。罪には罰を10倍返しで」

 

 と発言する未来が訪れるくらいにヤバい奴と相場が決まっている。

 何故かは分からないけれど僕の本能が叫んでいるのだ! 

 でも、あまりあからさまに拒絶するのは僕の生存戦略にも影響する。そんな不遇な板挟みな攻防を繰り広げていたりしていた。

 

「でも……寮へ行く前にはドラッグストアやスーパーには行くけど……?」

「それはちょうど良かったです。私もそちらへは赴こうとはしていたので」

「あ、そういえば、送った荷物を先に開封したいから、寮に行く必要があったんだ」

「そうですか。では私も寮までご一緒しますよ」

「やっぱり先にコンビニへ──」

「智さん? いい加減諦めては如何です?」

 

 今日は何があっても、どこへ行こうが付いてくる気だ。ここではっきりと断る理由もあまり思い浮かばない。困った時の走為上(逃走)を発動しようにも一之瀬さんの目の前でその策はちょっと取りづらい。

 有栖は勝ち誇った表情をしている。こんなちっちゃな事に対して勝った気で居てくれるなら、これからも末永くそうしていて欲しい。

 

「ねえ! それ、私も付いて行っても良いかなっ!?」

 

 一之瀬さんから背中を刺されて神は死んだ。最早どこにも退路は存在していない。

 こうなればもう……やけくそだっ! 

 

「……もちろん喜んで。じゃあ、行きますか!」

 

 僕たちは、学校を含めて60万平米もの広大な敷地の中にある街へと繰り出した──。

 





スカートのくだりの話。
ただのイラスト的な表現というのは分かるけれど、智ちんなら絶対穿かないと思う。
あの短いスカートが校則で定められているとすれば、相当やばい。
自らあの短さを選んでいたとしても相当やばい。
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