Ensemble_BLUE's   作:korotuki

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更新です!

さすがに展開が冗長すぎないかと心配になる作者です。体操服ハスミのヤケクソ補填今回もあるの草。
そんな配慮の行き届いたブルアカ運営が大好きです。その勢いで現物のOther side storiesも再版しないか?

活動報告の方に誤字について謝罪しました……ほんっとごめんミレニアム………


惨状齎す悪党の美学

  

『"あくまで防衛戦に専念。深追いはしないでね"』

 

 先生からの指示を聞いて、アビドス高等全域に展開した対策委員会とミキトは声を出さず通信機をトントンと叩くことで返答を示した。

 

 状況としては、ラーメンを食べ終えてさぁ午後の仕事にと気を入れ直したところでアヤネがアビドス高等学校に近づく武装した生徒たちを捕捉。

 

 明らかに敵意を持ちこちらに近づく集団――これまで撃退してきたカタカタヘルメット団ではなく、金によって善悪どちらにもつく中立中庸の傭兵生徒たちを迎撃するための迎撃態勢を整えそれがつい先程完了した。というところである。

 

(いよいよキナ臭くなってきましたね……カイザーグループの装備を持ったヘルメット団に、その代わりかのように来た雇われ傭兵達。何もない訳がない)

 

 体育館辺りの担当となったミキトが奇襲をしかけるため建物に息を潜めながら思案する。

 

(元より悪い噂が絶えない、というか連邦生徒会(ウチ)でも不正の証拠はいくらでもあるようなカイザーグループ。一枚以上は噛んでるだろうな……)

 

 靴擦れ音や談笑の声といった敵の接近を知らせる音に徐々に緊張感が高まるのを感じながら。最後に弾倉を確認する。

 

『まだ待ってください!まだ……まだです…!』

 

 耳元の通信機から聞こえるアヤネの声に神経を集中させる。開戦(スタート)を切る判断は自分ではなく彼女だと僅かに逸る心を押さえつける。

 

『"――――、アヤネ!"』

 

『みなさんそれぞれの防衛可能領域に敵団の先頭が侵入!各自の判断で防衛を開始してください!!私も適宜サポートします!』

 

(…今は考えるな。ただここを――)

 

 殲滅(・・)するのみ。

 そう決心したミキトが隠れていた壁から身を晒し、アンダーバレル・グレネードランチャーのトリガーを引く。

 

 シュポンと気の抜けるような音とともに、鈍色の弾頭が弧を描き集団の中心へと吸い込まれるように着弾する。

 

 直後、爆発。

 

「ぬお!?」

 

「グレネード!!」

 

 大きな被害を与えたが、それよりもミキトが欲したのは爆発の後の混乱。

 

 次弾を装填しながら全速力で接近。混乱から立ち直りつつある集団に次々と弾丸を叩き込む。

 

(傭兵バイトが撤退するのは大きく二通り……!)

 

 助走をつけてドロップキックをぶちかまし三、四人を吹き飛ばす。

 

(勤務時間の超過、もしくは――割に合わない(・・・・・・)と感じた時)

 

 キックをした体勢から地面へ背中から倒れ、仰向けの姿勢から構えた銃を乱射する。

 

「うげぇ!?」

 

「こいつ…連邦生徒会の捜査官!?」

 

「なんでそんなのがアビドスみたいな田舎にいるのさー!!」

 

 撃ちながら後退りして障害物にまんまと身を隠したミキトは、反撃の銃弾を身を低くして身を守りつつマガジンを交換する。

 

(防衛してたら時間一杯粘られる。やるならトコトンまで追い込んで撤退させた方が早いハズ)

 

 腰を落とし、全力で地面を蹴り加速して飛び出し、残った傭兵に弾丸を浴びせる。

 

「チッ。フンッ――!」

 

 最後の一人へ照準を定めたところで自身の染み付かせた感覚から残弾がないことを察したミキトはマガジンを落とし地面に落ちる前にキャッチ。

 

 アンダースローで最後の一人へと投擲する。

 

「マガジン投げてきた!?ぶへっ」

 

「沈んでおいてください…ねっ!!」

 

 戦闘を生業とするだけあり反応し投げられたマガジンを払い落とした傭兵だったが、その隙に肉薄したミキトがその首筋にハイキックを食らわせ、あえなく昏倒してしまった。

 

「うっわ…先遣隊(びんぼうクジ)のやつら全滅だよ……」

 

「しかもアイツ連邦生徒会の人間だよね、目をつけられたらヤバくない?」

 

 そしてそんな様子を少しはなれた場所から見ていた別動隊。その中から引き気味な声が響いた。

 

 事実ミキトのそれは迅速かつ暴力的であり、これから戦う人間として畏れるのに足る迫力があった。

 

 ふと、腕を組んで考え込んでいた一人の傭兵がカッと目を見開いた。

 

「…別に他のとこから侵入してもアビドス高校壊滅の依頼は達成できるのでは?」

 

 …………。

 

『たしかに!』

 

「逃がすと思うてか…?」

 

『ヌワーーッ!?』

 

 別動隊は視線に気付きいつの間にか近づいていたミキトにボコボコにされた。

 

 そのあと、まさか防衛側がそんな超前のめりな攻勢をかけてくるとは思わなかったのか索敵出き次第ミキトは突っ込み傭兵たちを次々と制圧。

 

 アヤネの支援や先生からの戦術的助言もありその約六割を倒し、無事作戦時間前の退却を成功させた。

 

『"ミキト……随分と無理したね?"』

 

「すみません…ハァ……防衛戦には縁がなく、足を…ハァ…引っ張る可能性もあったので」

 

 建物にもたれかかり息を整えながら、先生からの通信にそう答えたミキト。

 

 彼の戦闘は基本的に自分は攻める側、彼本来の職務のこともあり防衛戦になれていないのは本当のことだった。

 

 故に攻勢をかけ大損害を与えあちらから撤退させる。攻めてくる敵がいなければ防衛戦をする必要はないという逆転の発想である。

 

 それなりの消耗こそ負ったが、彼からしてみれば達成できたのでオールオッケーといったところだろう。先生からの心配の声は敢えて無視した。

 

「先生、襲撃の主犯格は……?」

 

『"うん。それが……お昼の時に会った子たちなんだ"』

 

「昼……?自分たち以外にはアビドスの住民の皆さんしかいなかったと思いますが」

 

『"ミキトが席を立った後に来たんだよ。その時は仲良く出来たんだけどね……"』

 

 先生の言葉に僅かな哀愁が交ざるのをミキトは感じる。

 

「世を儚むのはいいですけど、今は戦闘中なので」

 

『"っと、ハハ……手厳しいね"』

 

「生徒を慮るな、とは言いませんよ。そうしてしまったらそれは先生じゃない……場にそぐわないってだけです」

 

『"うん。ごめんね――続けるよ?』

 

「おねがいします」

 

 会話を続けているうちに息を整えたミキトは念のため周囲を警戒しながら歩く。自分の場所から撤退させた分ほかの防衛箇所に皺寄せがあるハズなのでそこに救援に行こう。そうリッカが考えたところで――

 

『"集団で、そのリーダーと思われる子の名前はアル。それであの子たちは自分たちは"便利屋"だって名乗ってたよ"』

 

「アル……陸八魔アル!?便利屋68!!?」

 

『"知ってるの?"』

 

「知ってるもなにも…!黒髪黒コートの男子生徒は!?」

 

『"……見つけた。ホシノが警戒してる正門前にいるみたい。まだ戦闘に参加してはいないみたいだけど"』

 

「ッ!なら、ホシノ委員長にこう伝えてください!!」

 

 

 

「ノった時のあいつは――リッカより強い!!」

 

 

 

 

 

 

 

「……これで打ち止め、かな~?」

 

 学校の正門という、おおよそ襲撃の起点であり最も激しい攻勢を仕掛けられるであろう場所にホシノは配置されていた。盾を持ち、ストッピングパワーに優れたショットガンを使用することからも妥当な配置とも言える。

 

『………。』

 

 悠然とした立ち姿に、普段通りの間延びした口調。しかしその足元には幾人もの傭兵バイトたちが意識を飛ばされた状態で伸されており、小さな体躯には見合わない彼女の戦闘力を如実に表していた。

 

「むぅ……」

 

「お前行けよ」

 

「嫌に決まってるじゃん」

 

「どしたの~?おじさんとしては、そのままそこでボケーッとしてくれた方が楽できていいけどねー」

 

 傭兵バイト達は、仕事仲間を悉く叩き伏せ。しかしミキトのように自分から積極的に仕掛けることはせずあくまで番人の責務を果たすホシノに対して立ち往生の状況に陥っていた。

 

 膠着状態へともつれ込ませることに成功したホシノは内心ほくそ笑みながら、しかし周囲に注意深く視線巡らせていた。

 

(……どこにいるのかな~?)

 

 後輩たちからの報告によって、"便利屋"と名乗っていた彼女たちの内の四人は後輩たちと戦っている。だが一人……姿が見えない。

 

 自分たちに協力してくれている秋茜ミキトに立花リッカと同じ男子生徒、上記の二人とも方向性は違えど特異的な強さを持っていたためイヤでも警戒せざるをえないホシノ。

 

(さて、どうくる?素直に回り込んでの奇襲か、ミキトのように中距離から不意の狙撃。それともリッカくんみたいに空飛んで飛び蹴りしてくるのか……)

 

 ホシノが動かないため、傭兵たちも動けない。一進一退かと思われた矢先――事態は唐突に動いた。

 

 B A N G !!

 

 並みの銃火器からは到底放たれないような銃声が場に響く。

 発生源は傭兵バイトたちよりもさらに後方――そこにみなの視線が一斉に向けられた。

 

「おいおい、困るぜそれは」

 

 ホシノの予想を裏切り、噂の人物は正面からまっすぐホシノに向かって歩いてきた。

 

 大型のリボルバーを天に向け、悠々と歩く黒髪黒コートの男子生徒。

 

「アンタらへの依頼は"威圧"じゃなくて"襲撃"だ。依頼(オーダー)通り働いてもらわなきゃ、うちの社長が何のためにそれなりの金額払ったかわかんねぇよな?」

 

 中性的な部類にはいるミキトやリッカに比べると幾分か精悍な顔立ちの男は、表情こそ穏和なものだが。怒気を纏わせた威圧的な声で傭兵バイトに声をかける。

 

「……それはゴメンね。でもあっちもかなり強くてさー」

 

「そーそー、相手するだけ無駄だって!」

 

 男の近くにいた傭兵バイトが声をあげ、背後の仲間も同調する。

 

 それを聞いた男はしばし無言で佇むと、やがてゆっくりと最初に発言した傭兵バイトへと近付く。

 

「フム……現場判断大いに結構、だがあくまで決定権はうちにしかねぇよ」

 

 徐に先程空へ向かった撃ったのとは別の、オートマチックの銀の拳銃をとりだし突き付けた。

 

「ちょ!?それなら話は別――」

 

「抜けるか?三手(・・)遅れてる、お前が」

 

「……っ!」

 

 拳銃を向けられた傭兵はとっさに自分も男に銃を向けようと腕を動かそうとしたところで警告される。

 

 『銃を構えて』『狙いをつけて』『引き金に指をかけ』そして『発砲する』。

 これを行うまでの4動作(アクション)。その一つ一つを盤上遊戯(ボードゲーム)の『一手』として例えるのなら……確かに既に引き金に指をかけた男に対し眼前の少女は"三手"遅れたと表現できる。

 

「周りも動くなよ?例えここから包囲されて撃たれても最終的に立ってるのは俺だぜ」

 

 根拠もなにもないハッタリじみた発言。しかし周囲の傭兵バイトは動こうとしない。

 それは……男自身のことを知っている人間が一定数いることもあるだろうが、それよりもこれまでの男の行動によって、「こいつならやりかねない」という思考が実体なき鎖となって傭兵バイトたちを縛り付けていた。

 

「二択だ」

 

 そこで男は手で二を示し、まず最初に自分を指差した。

 

「一つは、このまま停滞。あるいは撤退しようとして俺と門番の挟撃にあい、生き残ったとしても契約不履行の汚名を着て更に便利屋に恨みを持たれるか。もちろん依頼金は減額だ」

 

 続いて、ゆっくりとホシノのほうを指差した。

 

「二つは、当初の依頼通りアビドスを襲撃。そこの小さなピンクの門番様と戦うことだ。無論報酬は払うし――俺も手助けする」

 

 そう言うとこれまで見せてきたリボルバーとオートマチック。二丁の銃の照準をホシノに合わせる。

 

「どうする?俺的には二をおすすめするぞ」

 

「おじさんは(いち)かな~。そっちの方が楽だし」

 

 前門の虎後門の狼。二匹の猛獣に挟まれた傭兵バイトたちは――――狼につくことを選んだ。

 

「…やっぱ傭兵は、信頼第一だからね」

 

「だねー…そもそもあんな物騒なのに眼をつけられるのもたまったもんじゃないし」

 

 自分に言い聞かせるような台詞とともに、渋々といった様子で銃をホシノに向ける。

 

「うへ~……もう、めんどくさいなぁ」

 

「まっ終業時間まで精々十分。それまでは……」

 

 幾多の銃口と一つの盾が向かい合う。

 

目一杯働こう(レッツプレイ)!」

 

 ズダダダダダダッ!!

 

 親しい友達に声をかけるような声で放たれた号令で戦闘が開演(・・)した。

 

 眼を細めたホシノは銃声が響く前に盾で防御姿勢を取り、銃弾の嵐をやり過ごす。

 

 傭兵たちはその間にホシノを中心に扇状に広がる。どうやら数を活かして磨り潰す算段に出たらしい。

 

 いくらホシノの体が小さく、またその盾が大きくとも全面を防ぐことができない。

 戦い慣れした傭兵らしく理に適った戦術だなとホシノは冷静に分析する。

 

(なら、押し潰される前に……叩くっ!)

 

 盾のグリップ部分を握り直し、自身の前面に付きだし前進する。

 

 無論盾持ちショットガンという制圧・接近戦の権化のような存在を近付かせたくないため傭兵も黙っていない。銃撃で迎え撃つがホシノの盾で大方弾かれる。

 

 そしてある程度の距離に近付いた時、盾で固定するように構えたショットガンを撃つ。ドパン、と放たれた散弾は、傭兵バイトたちの体に衝撃をはしらせる仰け反らせる。

 

 打ち倒した傭兵によって空いた穴へと飛び込み、そのまま乱戦へともつれ込ませた。

 

「ほらほら~。どんどん倒しちゃうよ~」

 

「こんのっ…!」

 

 盾で殴り、脚で刈り取り、ショットガンで吹き飛ばす。小さな体躯に似合わず、強靭な体と繊細な技術で敵を倒すホシノはまるで移動要塞のような有り様だった。

 

 それに対し傭兵バイトたちも対応しようとするが、同士討ちを恐れてるのか攻撃は散発的であり。さきほどより密度の低いそれをホシノが防ぐのは難しいことではない。

 

 だが――――

 

「お待たせ、まったァ!?」

 

「ッ!!」

 

 密集した傭兵バイトの中を、蛇のようにスルリと抜けてそれは来た。

 

 ホシノは男が近付いて来たのだと瞬時に理解すると、迷うことなく声の方にショットガンを向け引き金を引く。

 

「ハハッ!サプライズって苦手なタイプか?」

 

「少なくとも奇襲は誰だってイヤじゃない?」

 

 放った散弾は回避され、男の黒コートを掠めるだけに留まった。

 そしてお返しとばかりに拳銃のトリガーが引かれ、フルオート機能を搭載しているのかパララッと小気味のいい音と共に5、6発の弾丸がホシノに迫る。

 

「おっと……おぉ~、いい威力してるね」

 

 盾での防御が間に合うが、先程まで余裕で受けていた傭兵バイトとは隔絶した威力の衝撃が襲う。相当量の神秘だなとホシノは一層男を警戒した。

 

「そりゃどうも!次は生でどうだい?」

 

「遠慮しとく――よっ!」

 

 追撃とばかりにリボルバー――先程までは遠かったため気付かなかったが、二つ(・・)のバレルが垂直にくっついているダブルバレルだった――をホシノに向ける。そうはさせじとシールドバッシュで弾き飛ばすが、どうやら当たる直前に自ら地面を蹴り飛んだらしくその手応えは軽いものだった。

 

『"ホシノ。返答はいいから聞いて"』

 

 そんな時、通信機から先生の声が響く。

 小競り合いが一旦終わった絶妙なタイミング。おそらくは機を伺って通信をしてくれたのだろうその気遣いに妙に浮わついた気分になりながらも"了解"の合図である通信機を二回ノックする。

 

『"ありがとう。今ホシノが戦ってる……灰九霹(あくへき)ミチユキについてミキトから伝言。「ノってる時はリッカよりも強い」そうだよ"』

 

 先生のその言葉を聞き、頭の中で反復しながら小さく頷く。

 

 ホシノとしては下手なバイクより速く走り装甲車を一撃で凹ませ短時間ながら空を飛ぶ。そんなビックリ人間であるリッカよりも強いとは心中穏やかではない。

 

 しかしあの真面目な連邦生徒会の人間がそうそう根拠のないことを言わないのはここ数日の間に把握したため。ホシノは男…ミチユキの姿を探す。

 

 だが目に見えるのは傭兵バイトの姿だけ、ホシノの記憶が正しければミチユキは周囲に比べ頭一つ抜けた身長があったはずだが。それが嘘だったかのように人混みに隠れていた。

 

(いや、もしくはそういう能力なのかなー……)

 

 そこまでホシノは考え、相も変わらず乱戦で傭兵バイトたちを千切っては投げしながらもいつ襲撃してくるかを警戒し続ける。

 

「スパイ映画とか、クライムアクションモノで良くあるよな」

 

 ふと、姿は見えないのに声だけは響く。

 

「明らかに周囲と比べてガタイのいい奴が、平凡な人間しかいないはずの雑踏に入ったら最後。完璧に見失ってしまうって展開」

 

 今がそうだと言外に告げる彼の言葉にしかしホシノは涼しい顔で言い返す。

 

「なら、そもそも人混みをなくちゃおっか~」

 

 その言葉と共に、ギアを一段階あげ。これまで以上の速度で傭兵バイトを伸していく。

 

 言葉通り紛れる敵を減らし炙り出す目的もあるが、同時に脚を動かすことによってミチユキに照準を絞らせないという狙いもあった。

 

「へぇいいな!人の雑踏を全員踏み潰すなんて、俺よりアウトローっぽい!!負けてられねぇな――こんな展開はどうだい?」

 

 再びミチユキの声が響く。銃声と怒号飛び交う戦場においてもそれは不思議としっかりとホシノの耳に届く。

 

「人混みの中俺を探すアンタ。だが中々見つけることは出来ずに頻繁に頭を振り俺の姿を探してる」

 

 ふと、ホシノはその言葉通りに自分が行動しているのだと気付く。声が聞こえるならそれなりに近くにいるだほうと探すが、シルエットどころかコートの端すら見つからない。

 

「そうしているうちにアンタは疑念に刈られる。『もしかしたらもうここにいないんじゃ?』『既に遠くにいて、今届いてるこの声は拡声器越しのものなのでは?』と」

 

(わざわざそう言ってる時点で近くにはいるんだろうけど……本当に見つからないなぁ)

 

 これがホシノの独白(モノローグ)ならそうなっていたかもしれないが、これはあくまでミチユキの言葉。

 それに拡声器越しにわざわざ明言している以上、肉声が届く範囲……つまり銃の射程圏にはいるということになる。しかし見つからない。

 

 ホシノはならばと彼自身の姿ではなく、行動自体のの目的を探る。

 

(便利屋ちゃんたちの目的はここの襲撃。都合三方向から来たわけだけど、一つはミキトが撤退させてもう一つは後輩のみんなが他の便利屋の子と戦ってて。そして最後の一つは今こうして私が守ってる……なら時間稼ぎが目的?いや、でもそうするなら声をかけるのは寧ろ逆効果。沈黙を守りつつちょっかい(・・・・・)を出し続けたほうが楽だし確実……む)

 

「こんのぉ!!」

 

「よっと」

 

「ぐへぇ!!?」

 

 そんな時、ヤケクソになったのか銃のストック部分で殴打しようと傭兵バイトが迫る。

 攻撃自体は斜めに逸らすように受け丁度自分の目線と同じぐらいの高さになったそれに膝を喰らわせ黙らせた……しかし、思考がそこで中断させられてしまった。

 

 本人たちに自覚があるかわからないが、ミチユキが彼女たちに求めたのは「自分用の肉壁」と「ホシノの考えを纏めさせないためのちょっかいかけ」だとホシノは予想する。

 

 なら今しがた伸した彼女にはまんまと役割を果たさせたのだろうと、ホシノは僅かな苛立ちとともにミチユキはどこだと周囲を見渡す。

 

「……ふと、先程までは見ていたなんてことない人混みの隙間」

 

 (ミチユキ)の声が響く。

 

「いないことを確認したアンタは別の場所をみるだろう。そう、丁度その真反対とかな」

 

 その言葉に導かれるように、ホシノはチラリと自分の背後を見る。しかしそこには案の定傭兵バイト以外誰もいなかった。

 

「そうして視線を外した一瞬、いつの間にか自分に肉薄し後頭部に銃を構える悪役。ありがちだな?」

 

 また響くその声はしかし。今までの居場所を探らせないそれとは異なりはっきりと耳元で聞こえたような気がした。

 

(まさか後ろを――――ッ!?)

 

 弾かれるように後ろを向く、だが相変わらずミチユキの姿はなかった。まさか自分が(ブラフ)に惑わされるとはと歯噛みしそうになった時。

 

『“ホシノ!!上だ!!!”』

 

「えっ――!」

 

 ミチユキの情報を渡して以降、今まで沈黙を保ってきた通信機から突如叫ぶような先生の声が届く。その声に従い上を見ると、そこにはミチユキの姿があった。

 まるで逆立ちで跳ねているかのような状態で、ホシノの頭上で先程は撃たせなかったリボルバーを構えていた。

 

BANG!!

 

「ッ、ぐっうううううう!」

 

 ホシノは先生からの支援もあり防御を間に合わせることに成功する。

 

 しかし衝撃は甚大。戦車の主砲では小揺るぎもしないと自他共に認め、認められたホシノは久しく"手の痺れ"という感覚を思い出した。

 

「チッ、出来れば初見殺ししたかった。それに、手口を見破られた悪役ってのは大抵――ッ!」

 

 これまでの飄々とした相貌を崩し忌々しいといった顔でホシノとその盾を見るミチユキを一発の弾丸が襲う。

 

 見事に額に命中したそれによってミチユキは吹っ飛び……それまで二人と傭兵バイトたちが乱闘していた範囲からも抜けた。

 着地自体はゴロリと転がることでうまく衝撃を逃がしたミチユキがバッ顔を上げ、銃弾が飛来した先を睨む。

 

「俯瞰して見られる第三者がいるってのも原因だが、やっぱ手の内を知ってる人がいると話は変わるか……ミキトパイセン」

 

 このミチユキの言葉を聞き、ホシノはなるほどと彼の視線の先へと振り向く。そこにはアサルトライフルの銃身を下げながらこちらへと歩いてくるミキトの姿があった。

 

「久しぶりですねミチユキ…そちらの流儀にケチをつける気はありませんが、自分のところに顔を出すなら事前に連絡入れるのが筋なんじゃないですか?」

 

「いやぁ恥ずかしくて……」

 

 そう言いながらもミチユキはゆっくりと立ち上がる。銃を二つ携え黒いコートをたなびかせる様子はさながら幽鬼のようで、髪の隙間から覗く翡翠の眼には二対一でも尚自分は負けないと自負してるかのような戦意を秘めていた。

 

「窮地になればなるほど、悪党の足掻きは輝きを増す……そうは思いません?」

 

「なら、なんの山場(ハイライト)もなくきみを仕留める」

 

「ッハハ、確かにそれが一番効く(・・)……ん?」

 

 ふと、ミチユキの視線が二人から外れ。腕時計の方を見る。

 そのまま数秒固まったかと思いきや、大仰にため息をついた彼は銃をホルスターに収めた。

 

「あー……やっぱやめます。一流のアウトローは逃げ時を誤らないらしいでふし――そろそろ時間なんで」

 

 突然の撤退宣言。それに二人が呆けた顔をしていると、フラフラと傭兵バイトの一人が起き上がった。

 

「ねぇ…もう10分なんだけど」

 

「あぁ、だから撤退だ。もちろん報酬は満額支払いだし。動けない奴は護送してやるよ」

 

 途端に戦意を霧散させ傭兵バイトたちにそう言うミチユキに、ホシノは彼が『残り10分』と言っていたことを思い出す。どうやら傭兵バイトたちの雇用時間のことだったらしい。

 

 彼らは今から撤退するのだろう……だが、敷地を始めた荒らされたものとしてこのまま黙ってはいられない。とホシノは一歩踏み出す。

 

「このまま逃がすと思うのかな~?」

 

「いーや思わないさ。だからコレで納得してもらう」

 

 ミチユキは徐にホシノにも使ったリボルバーを構える。身構える二人だったが、その銃口を二人に向けることはせず。緩慢な動作で傭兵バイトたちが乗ってきて、戦闘によってお釈迦になったビークルに銃口を向け――

 

BANG!!

 

ゴシャアアアア!!!

 

「うっわ……」

 

「相変わらず、馬鹿げた威力だ…」

 

 弾丸を打ち込まれた車体が大きく吹き飛び粉々に砕け散る。

 

「こいつの名前は"バスター"。上下それぞれから別々の弾丸を発射する特殊なリボルバー」

 

 ミチユキは懐からスピードローダーを取り出し、手際よくリロードする。

 

「2発同時に使用する都合上装弾数は3発だが、威力は体験して。そしてたった今見てもらった通りだ。追撃するなら……次はこれを校舎に撃ち込む(・・・・・・・)

 

 その言葉にホシノは固まり、ミキトは苦虫を噛み潰したような顔をする。それを見たミチユキは顎を動かし傭兵バイトたちに「行け」と促す。

 

 すると彼女らは倒れた仲間を抱えトボトボと学校の敷地へと出ていく。

 

 それを二人は黙って見送るしかなかった。

 

「…賢明な判断ドーモ。と言おうか?」

 

「いりませんよ。きみがいる時点でこの展開は予想してましたし」

 

「……なんか、君だけジャンルちがくない?」

 

 ホシノの疑問とも皮肉とも取れる言葉に、ミチユキは初めて年相応に笑った。

 

「まさか。アンタがここで殊更強いって情報はあったし、課長さまから念押しされたから。いつもより陰湿だっただけさ」

 

 ミチユキはそう言うと懐のリボルバーをポンポンと撫でる。

 

「撃たずに済んでよかった。困難は好きだけど、悲劇は嫌いなんでね」

 

「ミチユキ~!てったいよ~!!」

 

「おっ社長!了解でーーす!!……じゃあまた!」

 

 襲撃したときは別人のような、まるでリッカのような快活な笑みを浮かべたミチユキはアルの後を追うように走っていく。それを追う気も起きないホシノとミキトの二人はただただその後ろ姿を見送るしかなかった。

 

「ねぇ、あの子さ」

 

「はい?」

 

「どっちが()なの?」

 

「……両方ですかね」

 

 ミキトはふうと息を吐くと座り込む。

 

「戦ったホシノ委員長なら分かると思いますが、ミチユキは非常の多量の神秘を保有してます。それは『映画っぽい能力はだいたい再現できる』という能力として発揮されている」

 

「映画っぽい……?もしかして、やたら口煩かったのって…」

 

「口に出すのがトリガーらしいですからね」

 

 ふと遠くからほかの委員会メンバーや先生が走ってくるのを見た二人は、無事を知らせるため手を振った。

 

「ただなりきるのではなく、能力もあいまって彼の役は本物になる……なので能力発動のために悪どい真似をする彼も、さきほど見た彼も。両方素なんです」

 

「……めんどくさいねぇ」

 

「同感です」





・灰九霹ミチユキ
基本戦術は連射性の高いクイッカー(もう一丁のオートマチック)により牽制と足止めを行い。威力に秀でたバスターの一撃で仕留めるスタイル。
大量の神秘を有しており、それを利用し映画っぽいことが出来る。
悪役は楽しいしかっこいいがそれはそれとして打倒されるべきだと考えるタイプ。

・秋茜ミキト
防衛戦が苦手なのは本当。基本攻め一辺倒の男である。
会議において【アビドスの地形特性を活用した観光事業と廃墟を利用した他学園の模擬戦闘場としての貸し出し事業】を題材とした資料を提出した。

まぁ土地の権利アビドス自体にはないんで無駄なんですけどね。
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