ブラックマーケットでの騒動の翌日。
図らずも臨時収入が懐に入り込みホカホカになった便利屋68のオフィスにて。
「…………」
「はぁ…」
二人の生徒が一人はため息を何度も、もう一人は無言で銃の手入れをしていた。朝早くからいるのか、封を切られたインスタントコーヒーのゴミが屑籠に捨てられている。
その一人は便利屋68を取りまとめる冷静沈着冷酷無比な女社長――を目指す陸八魔アル。
もう一人の方は特に気にしていないがここに余人がいれば「さすがに多すぎて心配より辟易とする」と感じてしまう頻度でため息をつく彼女の心情は、今は推し量ることは出来なかった。
そしてそんなアルの物憂げなため息を一切気にすること無く黙々と銃のメンテナンスに従事しているのは、便利屋にて"幹部候補生"の肩書きを拝領する新人。灰九霹ミチユキ
本人の気質と戦闘スタイルも相まって普段は非常に騒がしく、また憎たらしい雰囲気を見せる彼だが。今はただ真摯に銃を向き合っていた。
「………やっぱ痛むのが早いな、火薬が多いから仕方もないか」
普段見開かれている目は猫のように細められ、ストックで殴り付けるなど戦場で乱暴に扱うこともある銃へ触る手はまるで初々しく恋人に触るように慎重に。
静かにしかし確実に。その姿はある意味「仕事へ向けて入念な準備を進め鋭気を養うアウトロー」のようにもアルには見えた。
「…私も、手入れしましょうかしら」
「前にやろうとして暴発してなかったっけ?」
そんなことを呟いたアルに答えた声は、今しがた開いたオフィスの扉の奥から聞こえてきた。
ふと目を向けると、課長のカヨコがその端正な顔を"前"を思い出しているのか僅かにしかめながらもオフィスの中へと入る。奥には室長のムツキの姿もあった。
「おっ、みっちーメンテナンスしてる? どれどれ~」
ムツキは早速とそのイタズラ好きな性格が顔を出し、ソファにてメンテナンスをしていたミチユキにちょっかいを出そうと背後に回り覆いかぶろうとし――
「っとムツキさ~ん。流石に手入れ中は勘弁ですよ!」
体が触れそうになった時にパッと銃から手を離しその伸し掛かりを甘んじて受け入れた。
「あちゃーバレたかうりうり~……あれ、アルちゃんなんだが元気ない?」
奇襲に失敗したため仕方なくミチユキの髪をかき乱していると、古い付き合いゆえにアルの不調に真っ先に気付き声をかけた。
「ん? 確かに……社長、寝てないの?」
「寝たわ…」
「じゃあ、何……依頼に関してのこと?」
「……うーん」
カヨコは質問を重ねるが、煮え切らない返事にムツキとミチユキの方を見ると肩を竦めた。
「心配することなんかなくない? これまでの2倍の人を雇って、こっちが地理的有利を握れる場所で襲撃する」
「うん。そのためにハルカも朝早くから
「ほんっと爆弾の設置と発破にかけては凄まじいですよねハルカちゃん。ぜーんぶドカーンと吹き飛ばしてそれでゲームセットかもしれませんねー社長!」
三人はそれならせめて元気付けようとそれぞれ今回の作戦の有効性を称える言葉を投げ掛けるが、それでもアルは未だ憂鬱な表情を浮かべている。
そんなあるに三人は困ったような顔を――ムツキだけはニコニコとした笑顔だったが――していた時、二人が出社した時と同じようにドアが開き。ハルカが入室してくる。
「ただいま戻り……ひっ、み、皆さんどうしてそんな顔を――まさか私のせいですか!? すみませんすみません今すぐ出て」
「オワーッハルカちゃん待って! ステイ!!!」
入ってくるなり難しい顔をして悩んでいた四人を見て、ネガティブ思考ゆえ自分のせいだと思い込み出ていこうとしたハルカをミチユキが止める。
「……こうして、ハルカも無事仕事を終えて帰って来た。進捗はどう?」
「は、はい。作戦行動領域内に、私なりの考えを元に爆弾を設置しました。このスイッチを押せばすぐにでも…うへへ……」
「さすがだねハルカちゃん! えらいえらーい♪」
「あわわ…」
ムツキに褒められながら頭を撫でくり回されるハルカは当惑しつつもそれを受け入れている。
「はぁ……」
「そんなにくよくよしてるなら、さっさと手付金を貰って懐を痛まないようにすればよかったのに」
これまでの経験からアルの悩みを金銭関係だと思いそう進言する。するとそこでようやくアルは顔を上げた。
「それはイヤよ、手付金を受け取らないことは私たちの鉄則よ……」
「手付金を貰うと依頼主の意向……指示に従わざるをえないから…だっけ?」
「そうよ! だって指示によってはアウトローらしいこと――じゃなくて私たちのスタンスから逸脱したことを強制されるかもしれないじゃないの。それは、私の目指すビジョンには相応しくないわ…!」
カヨコの補足にアルは強い語気で返した。
それは解るし、なんならよく知っているとカヨコは誇らしさ半分呆れ半分の心で肩を竦める。どうやら違っていたらしい。
「うりうり~ハルカちゃんはかわいいな~!」
「ここか? ここがええんか!? どうなんだい!!」
「あわわ…! これはもしかして、幸せへの耐性訓練…!?」
ふと隣を見ると、ハルカがムツキとミチユキの二人に猫可愛がりされており。しばらく放っておいても良さそうだ。もう少しこの社長の悩み相談に付き合うのもいいかもしれない。
「それとも依頼がプレッシャーになってるのならいっそのこと依頼を放棄して。ゲヘナに舞い戻る? 社長の言う手付金を受け取ってたら出来なかったことではあるけど」
「ぷ、プレッシャーだなんて思ってないわよ! そ、その…ちょっとだけ」
可愛がりながらも話を聞いていたのか、ムツキがふと首だけを回して二人の方へ顔を向ける。
「それはちょっと悪手じゃないかなー? 風紀委員が黙ってないと思うけど」
「風紀委員、ね……確かにこうしておいだされたのも。社長の口座が凍結されたのも風紀委員のせいだ。けど、今アビドスに割いてる戦力をそのまま差し向ければ充分雲隠れできる確率はある」
「やっぱ過剰戦力な気もしますけどねー」
「そんなことない。逆に今の言葉を裏返せば、それだけアビドスの連中が厄介ってことだよ。あれで人数もいたら……考えたくもないよ」
「えぇ~? そんなに強いかなぁ……」
「いいえ、今さらゲヘナには戻らないわ」
「かといって。はぁ……」
そう自信を持って力強く断言したカヨコに対して茶々を入れる二人の様子を見ていたアルは、しかし尚も浮かない様子でため息を吐いた。
慰めも説得もダメ。となると後は地道に時間をかけて悩みを聞き出すカウンセリングの出番となるが、作戦を控えた彼女たちにそんな時間はない。
「まーまー! そんじゃ気分転換と前祝いを兼ねて、今からご飯食べに行きません?」
パシンと大きく手を叩いたミチユキ。
「柴関ラーメンとかどうです? アビドスのバイトであるセリナ嬢さんもこの時間はシフトではないみたいですし!」
あどけない顔――事実彼はハルカと同じく高校一年生のため便利屋では最年少である――に気の抜けたのか、アルは気難しい顔を取り止めると席を立った。
「そうね……確かに、私たちの鮮烈な勝利を前に何もしないのは愚の骨頂。ミチユキの言う通り前祝いに行きましょうか!」
「よっ社長太っ腹!」
「今回は普通に一人につき一杯注文できるね…いやそれが普通か」
「あの店主さんのことだし、今度は5人前頼んだら50人前にしてきたりしてねー!」
「5、50人前……!?」
何はともあれ、五人は戦前の腹拵えとして柴関ラーメンへと向かった。
・
・
・
・
・
・
ピロンッ♪
ミキト
被告人、前へ。
ミキト
被告人はあくまで交流の場であったこのグループから入手した情報を元に作戦行動を行う。
皆で別々の道を歩む際に取り決めた約束を反故した罪に問います。異論ありませんか?
ミキト
よろしい。では略式裁判に則り有罪です
アクタ
異議なし
リッカ!
異議ありません!
ミキト
被告人に発言を含めたあらゆる自由は許されていません
ミキト
静粛に!…罰としてこれより一週間起きてすぐこちらのグループにポエムを書くことを命じます。13:00までに"いいね"のリアクションが三件を超えなければそれを1日とカウントしないのでそのつもりで。
アクタ
正 義 執 行
リッカ!
あくはほろびた!
ミキト
裁判終了。さて……皆さん近況はどうでしょうか?
リッカ!
ちょっと新しい子が来たのでトタバタです!
アクタ
いつも通り業務漬けです。本日はヒナ委員長の付き添いで遠方にいますが。
ミキト
それは…治安的に大丈夫なのですか?
アクタ
美食や温泉連中は今は牢の中です。アコ行政官も今日はやけに気合いが入っていたので恐らく平気かと。
アクタ
拙もそこは不思議に思いましたが…まぁやる気のあるのはいいことよ。とヒナ委員長も言ってましたので。
ミキト
この時期に風紀委員長と、書記であるあなたが直接出向くとなると…例の条約ですか?
アクア
流石に、コメントは控えさせていただきます。
アクタ
…普通、突っ込まないのがマナーでは?
リッカ!
エデン条約って、ゲヘナとトリニティ。二つの学校が仲良くしましょーねっていう素敵な約束事ですよね! ボクも前にリオ先輩に一緒に入りませんかって言ってみたんですけど、暫く固まった後に「面白い冗談ね」って流されちゃったんですよねー。
ミキト
あ~…あなたはそのままでいいかと、リッカ
アクタ
……眩しいですねえ
アクタ
想像させないでください。書類の山が山脈になります。
ミキト
……ハッキリ、状況は悪いですね。真実が露呈した分絶望感が募ると言いますか。
アクタ
話には聞いています。失礼な話ですが、存続しているだけでも奇跡ですね。
リッカ!
うぅ、やっぱりボクも戻った方が…
ミキト
ミチユキに賛同する訳ではありませんが、今は座して状況を許容する時間だと自分は思ってます。それに、リッカはリッカで忙しいんでしょう?
リッカ!
……そうですね。正直こっちも難しい状況が多くて、先生に少し相談したいというか。
ミキト
それは直接本人に。先生は忙しい程度で生徒からの相談を切り捨てる人ではありませんから。
ミキト
臨むところ。次回作がそう易々と公開できると思わないことです。
アクタ
気持ちのいい子、ではあるんですがねぇ…
リッカ!
ミチユキはいいヤツですよ! でもたまに悪いので、その時は戦うだけで!!
アクタ
了解、楽しんで。
リッカ!
ラーメン! あ~結局最近食べれてないな~!
ミキト
…ラーメン?ミチユキ、いや便利屋68あなた達まさか
プツンッ
(あっヤベ、来たのバレたか…? まっいっか)
柴関ラーメンに到着し、今度こそはと人数分のラーメンを頼んだ便利屋68の面々。各々雑談や今後の作戦への決意を固めるなかで一人スマホを弄っていたミチユキだったが、あわやミキトに居所を知られてしまうと感じた彼は即座に電源ごとぶっちぎる。
「ほい今度は兄ちゃんの分だ! おまち!!」
「あざーす!」
しかしその行動は余計ミキトが抱いた疑念を確信に変えるものとなり得るのでは? と一瞬ミチユキは思い至るが、今さらどうしようもないかと開き直りラーメンを受け取った。
「わぁい来たーー!!」
「ひ、ひとり一杯だなんて。こんな贅沢いいのでしょつか…!?」
「アビドスさんとこの
「!?」
悪党であるその前に。食べ盛りの高校一年生のミチユキは目の前で特大の存在感を放つラーメンに今すぐかぶりつきたい(ラーメンを食べる表現としては不適切だが)衝動を何とか抑え込み、隣に入る己の上司であるアルの号令を待つ。
「………?」
思えば、ラーメンを受け取る前まではぎこちなくもムツキとの談笑をしていたハズだが。柴大将からの快い言葉を聞いた瞬間早速食べようと箸を持った手で固まっていたような気がする。
(むぅ…速く食べたいんだけどどうしたんだろうな社長は――)
横目でチラリとアルの方向を見やるミチユキ。しかし顔を伏せなにやらプルプルと震えているアルを見た瞬間、ミチユキの背後にゾワリと走る何かがあった。
「……じゃない」
静かに、しかし大きく震えながら絞り出された言葉に。皆は一様に止まり首を傾げた。
「友達じゃ、ない!」
急に大きな声を上げたアル。それに柴大将はもちろん普段は冷静なカヨコも眼を大きく見開き驚きを露にしていた。
(あーまずい、
そんな中、予感もあってか比較的冷静に受け止められたミチユキはそこからどう対処すればいいかを考える。
「そうよっ! な~んか引っかかると思ったらピンと来たわ! 問題はこのお店、この店よっ」
「どゆこと!?」
「私たちはクールでホードボイルドっぽく仕事を達成しに来てるのよ!? なのになんなのこのお店の雰囲気!! お腹いっぱい食べれてあったかく親切に話しかけてくれて、和気あいあいですごくほんわかしてる!!!」
「…ビックリした。急にこのお店のいいところ全部言うね社長。食べ終わった後に書く満点レビューの下書き?」
「へへっ、よせやいアルちゃん。照れちまうぜ……」
「違う! いやあってるけどそういう話じゃないわ!!」
便利屋68…というよりその社長である陸八魔アルは、ふと突然爆発してしまうことがある。
一流のハードボイルドなアウトローを目指し日々邁進しようと努力する彼女だが、その場の環境やそれを取り巻く人物。そしてクセの強い部下たちと、そんな部下から『根はとっても優しい』と評判の彼女自身が真に非道な行動に踏み切れることはなく、中々うまく行かない日々が続くことが多い。
「ここにいると、みんなで仲良くしちゃうわ! 実際前にアビドスの人たちとそうなってたし!!」
「それなにか問題あるのー?」
「大ありよ!! 私が目指してるアウトローは、仲良しこよしでなあなあで済ませるような感じじゃなくて。敵と味方の区別をキッチリつけるタイプなのよ! とにかく、一人前のアウトローを目指す私にこのお店はダメ! 要らないわ!!」
「……!!」
そんないかんともしがたい現状に鬱憤が溜まり、それが噴出する。それがミチユキが言ったアル社長の爆発の正体であった。
「私が欲しいのは冷酷で無慈悲で非常な
「いや、それは言いすぎなんじゃ……」
単に不平不満を口にするだけ…ならいいのだが、その中で発せられる起こっている時特有の無茶な意見を発端とする
ミキトはちらりと自身の隣の席に座っていた便利屋68 の社員こと伊草ハルカの姿を見る。
「……アル様が困ってて、願ってる」
普段はネガティブが服を着て歩いているような彼女だが。今しがたミチユキが覗き込んだ彼女の目は使命感に焚き付けられるように昏い輝きに包まれていた。しばらくすれば見た目からは想像できないほどの身体能力を発揮し、敬愛するアルからの指令(という名のぼやき)に突き動かされどんな突飛なことも遂行しようとする彼女は正に暴走機関車。その心強さと恐ろしさをミチユキはよく知っていた。
(…まずいな。確かここはギリギリ作戦範囲内、人様のお店があるから設置してないなんてぬるいことをするような人じゃない。まず確実に
ミチユキはそう推論し、恐らく柴関ラーメンが爆破されることをいち早く予見した。
(ハルカにも、回り回って社長にも悪いけど。流石にお腹も空いててしかも旨いことが確定してるラーメンがお店ごと爆破されて台無しになるのは嫌だ)
無論己もアル社長のことは尊敬しているがそれはそれ。と瞬時に事を納める方に舵を切ったミチユキはならば――と思考を巡らせる。
(ハルカの方はそう難しいものじゃないな。社長の方を考えて――そうだ。いっそ塗り替えてしまえばいい)
そうと決まればと、ミチユキは深く息を吐き。吐き切ったところで一度止め。今度は深く息を吸った。
自分自身の存在を息とともに全て押し出し、成りたいものを夢想し吸い込む。
彼が
「それなら――」
「待ってハルカちゃん」
おずおずと、しかしもう止まらないような雰囲気のハルカが話を切り出す腰を降り。既に手に握っていた起爆スイッチを持つ手にそっと手を添える。
「ミチユキさん、何を――するんですか?」
「アハハ、俺は味方だよハルカちゃん。それに俺は……ちょっと不満なんだ」
据わった目でミチユキを軽く睨むように見上げるハルカに負けない強い目で見返す。
「社長の助けになりたい気持ち、それはオレもおんなじだ。なのに、優秀なハルカちゃんがいつも先に行動しちゃってて……最近のオレは不甲斐ない思いを自分自身に抱いてる」
「ッ!? いや、ミチユキさんは私なんかより全然…!」
「ありがとう。だけど事実いざという時に動いて社長を助けているのはキミなんだ……」
心優しく、そして自己嫌悪の強いハルカの気勢を削ぐ言葉や仕草を選ぶ。しかし決して「お前のせいで」とは言わない。自分ながら卑怯で狡い手だと思ったが、ミチユキもまたアウトローを目指す身。利用できる物は利用しようと言葉を続ける。
「だから一度……一度でいい! この場の手助けはオレに譲ってくれないか?」
「ももももちろんです!! すみません私なんかがミチユキさんの活躍の機会を何度も奪って――」
「いやいいんだ。それは正しいことだから…だからもしこれからオレがこれからすることが、社長を手助けするには不十分だと感じたなら。その時は遠慮なく吹っ飛ばしてくれ」
その言葉に、すっかり普段通りの自身が無さげな雰囲気に戻ったハルカがこくこくと頷くと。持っていた起爆スイッチを持つ手を緩めた……離さない辺りもしミチユキがダメだった場合本気で発破に踏み切る気らしいが。
(応援なんだか退路絶たれたんだが分かんないなこれェ! ……さ~て、せいぜい静かに。しかしてオーバーに演じるか)
「――社長。お待ちを」
羽織る黒コートが床につくことを気にせず、椅子から下りたミチユキはアルの前に膝を付く。
「何やって……! …何かしら、ミキト候補生」
「はい。未だ未熟な身ですが一つ提案を……この店、潰してしまうには惜しいかと」
最初こそ戸惑ったアルだが、ミキトの恭しく畏まった言葉遣いや態度から「ここはアウトローっぽく聞き入れた方がかっこ良さそう」という理由から、急に先程までの癇癪を遠くへ投げ捨て冷淡な微笑をその顔に浮かべ問い質す。
「そう…でも、私はさっきの言葉通り。このお店は私たちの目指す境地にあるものとは正反対、氷のように冷たい血の通うアウトローには相応しくないわ。アナタはそれを覆せるだけのものがあると思っているのかしら」
「社長に意見をするのですから、当然あります。しかし言葉での説明はしづらく……実演。という形で表現させてもらっても?」
「フフ、いいわよ? かわいい部下の頼みだから。一度だけ撤回のチャンスをあげようじゃない」
「ありがたき幸せ……」
「やっぱみっちーアルちゃんのことおだてるの上手いよねー。本人もノリノリだからそれで相乗効果って感じで!」
「そうだね。まあこのままちょっと見守ってみようか」
深々と礼をしたミチユキはゆっくりと立ち上がり、店の外へと出て行く。
ドン!バカン!!ゴロゴロゴロゴロ―――!
店の外から何度かそんな大きな音が響いたかと思うと、突如ガラガラガラッ! とやや乱暴に柴関ラーメンの扉が開かれた。
そこにいたのはもちろんミチユキだったが。その姿は大きく変わっており、普段から「社長の格を落とさないように」と清潔に保たれている。マントのように羽織っているロングコートには砂埃や銃弾で貫かれているような穴が空いており、一目で『何かの騒動に遭い消耗』したのだと分かるような姿をしていた。
「すまない店主。まだ…やってるか?」
「――応、そこのカウンターでいいかい」
「十分過ぎる…今の俺にはゴミ箱の上だって、最高級のソファーに勝る」
「おいおいそりゃあウチの椅子がゴミ箱だってことかい?」
「クッ…ハッハ! ッ~……訂正する。素晴らしい椅子だ」
柴大将は蚊帳の外、かつ説明もなく唐突に
体を引き摺り、時折体を机や柱にぶつけながらもミチユキは椅子に座る。
「ほら、おしぼりだ。注文は?」
「この店の…そうだな、一番高いのメニューを一つ」
「ずいぶんと曖昧だなぁ」
「迷惑料込みだ……分かるだろ?」
僅かに微笑みながらそう言ったミチユキ。その鉄火場にいたであろう風体と腰のホルスターから見える銃、そして彼の目には氷のように冷たく強い光が瞬いており。明らかにただ事ではないことがあずかり知ることが出来た。
「分からねぇなあ…だが、なんだが今日はあんたを最後の客にしといた方がいい気がするな。暖簾を下げてくるぜ」
「……感謝する」
「何のことだかな」
そのまま柴大将はラーメンを作り始め、ミチユキは特に何かをするでもなく……いや、逆に何もしないことによって己の存在を希薄化させ周囲の様子をうかがっているようにも見えた。まるで自分と柴大将以外の『何か』を畏れているように。
「……………。」
「ほうら、全盛り柴関ラーメンDXだ。一番高いのはこれだな」
「ありがとう」
出されたラーメンを淡々と啜るミチユキと、それを見守る柴大将。
単なる沈黙ではない、言葉こそ交わしていないが。2人はそれぞれ目や耳、そして感じ取れる気配から互いを観察し合っており…それは互いが互いにとっての脅威に成りえないか水面下で探っているようだった。
それは食事が終わるまで続き――
「…馳走になった。うまかったよ」
「ありがとよ」
カチャリ。と丼を置いたミチユキは財布を取り出すと、無言で五千円札を柴大将へと差し出さした。
「会計を、釣りはいらない」
「多くねえかい?」
「…口止め料込みだ。もし俺のことを聞いてくるやつがいても、黙っていてくれ」
そう言ったミチユキは、面を隠すように僅かに顔を傾ける。その目はまるで感情を感じられないほど冷徹に澄んでおり。そしてそれと同時に言葉にできない圧を孕んでいた。
(く、口止め料!口止め料のシーン!よく見るやつだわ!!)
アルは内心作劇の中で幾度も見てきたお決まりのシーンが出てきたことに感動する。この後はきっと互いにニヒルに笑い、颯爽を別れる風景をアルは想像した。
「……受け取れねぇな」
「…何だと?」
しかし、意外にも柴大将はこれを断った。自らレジまで赴きお釣りを持ってきた彼は、それをミチユキが座っていた机の前に置いた。
「店主、訳を聞いてもいいか?返答次第では――」
言葉を皮切りにミチユキから放たれる冷たい圧。いつの間にか、トレンチコートの内側にある
それに相対する柴大将は、しかし表情を変えることなく口を開いた。
「いや簡単な話なんだけどよ…常連でもない初見のお客さんの顔なんて、覚えてるわけないだろ?」
「……は」
「ま〜これでな? あんたが今後も通ってくれて、それでこっちが顔覚えちまったんてんなら道理が通るがよぉ……イチイチ覚えてられないよ忙しくて」
「……」
「つまりなあ? 口止め料をもらおうがあんたの顔を忘れて意味ないから。素直にこれだけ取ってけってこった」
「……………。そうか――そうだな。ハハ! アァ~ハッハッハ!!」
肩を揺らし、大袈裟に高笑いをするミチユキ。どこか力が抜けてしまったようで……まるで憑き物が落ちたかのような雰囲気に包まれていた。
「まったく……そうか、そうだな。ならこの金は改めてここに来た時の代金としよう。美味い飯も食って気力も出た…決着をつけて、改めて来させてもらおう」
「決着っつうのが何かは知らねぇが、まぁそんときゃまた食わせてやるさ」
「あぁ、言われなくとも……」
ミチユキは再び出入り口に向かっていく。店の自動ドアが開くと、一際強い風が店の中へと入り込み。彼の羽織るトレンチコートが大きく揺れた。
そこから垣間見える彼の雰囲気は、傷つき今にも倒れそうなソレから。全てを蹴散らし生きてやろうと息巻く猛獣のようになっていた。
「また来る。店主」
「おう、またのご来店を…ってな」
ウィーンとミチユキが出ていった自動ドアが閉まってから数秒後。
「…ってな感じで『気配りと察しの良い店主に匿われ、そこでの人情と飯で再起するアウトロー』に最適なお店だと思うんですが、どうでしょうか社長」
「最っ高だわ!えぇもちろん残すわ!店長さんもステキだったわ!!」
「よく分からねぇが…あんがとよ?」
・立花リッカ
天童アリスの武器入手イベント、セミナーのユウカからのゲーム開発部正式入部のため試練イベントを達成。
その後ユウカから「これからは人数だけではなく一定の成果も上げなければいけない」という話を聞き驚愕するゲーム開発部を見て「なんかやたらとのほほんとしてると思ってたけど知らなかったの!?」と驚く。
プライスに向けての所属部活の成果物は既に完成し、提出も終わっていたため継続しての協力を約束。
晴れてアリスから『助っ人』ではなく『格闘家』という称号を頂戴。遠方の先生からの助力も受け、G.Bibleを手に入れるため再び廃工場の攻略へと赴くことになった。
ゲームデータを消されたモモイは泣いていい。
・秋茜ミキト
絶対にまた襲撃を企んでいるため出来ることなら今すぐ銃を持って柴関ラーメンに突撃したいが、すればミチユキと同じ“違反”となるため口をつぐんで唸っている。
・灰九霹ミチユキ
ラーメン食べたいし美味い店が潰れるのも嫌なので一芝居打った。
・上条アクタ
……なんか、風紀委員の一部が勝手に動いているような?