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いやー2.5周年。いろいろと凄かったですね…トリニティ二回目の水着イベントしゅごい…これは透き通ってる……
始まりは郵便物
「……………」
カリカリ、バサッ、カカカ…と、ペンが走る音がシャーレの部室内に響き渡る。その音を奏でているのはシャーレも顧問でありこのキヴォトスにて数少ない“大人”である先生と、シャーレ部員第一号である秋茜ミキトによるものだった。
「先生、なにか気になる嘆願はありましたか?」
“今のところは特に、かな?もちろん気にならないからといって無碍にはいないけど”
「…かといって猫探しで銃弾の中這いずり回ったり、校舎清掃が新校舎設立になってたりするのはいささかどうかとは思いますが?」
“アレはことの成り行きだから…!”
そんなやりとりをしつつ二人は黙々と作業を続けている。現在の時刻は午後3時頃となっており、部活動開始というにはまだ少し早い時間であった。
シャーレには当番制という一日毎に担当が入れ替わり、各々がシャーレの活動をするというシステムがあるが…時間的にその担当の生徒は到着していないようだった。――尚、ミキトは部員一号として数えられているが。厳密には連邦生徒会から派遣された先生の補佐官という扱いのためほぼ毎日いる。
つまり二人は現在。本日の“当番の生徒”を待ちながら、現在も尚増え続ける書類仕事を片付けている最中、というところであった。
“…そう言えば、今日来るのってどんな子なんだろう”
そしてその生徒の名前を記された当番表を、先生は作業開始前に見たが。その名前は先生の記憶にはないものだった。
『えっ部活動顧問なのに生徒のこと知らないの?』と言われそうであるが、シャーレへの入部方法は“キヴォトスに存在する生徒なら例外なく入部可能である”という特性故か極簡単なものであり。なんなら仮入部というだけなら顧問である先生の承認が必要ないという有様。
だがその事を不安に思う先生ではなく。寧ろどのような生徒が訪ねて来るのか。と見知らぬ生徒との邂逅を心待ちにしていた。
“楽しみだなぁ…”
「…?それは――良かった…ですね?」
ふと口から零れたその言葉の真意を測りかねたミキトは、適当な相槌を打ちながらも整理した書類をまとめてそれらに不備がないかとざっと目を凝らし――――目聡くも彼の目はその不備を捉えた。
「あれ、先生。こちらの報告書ですが少々計算の結果や記号が……」
“どれどれ――うわホントだ。これだと流石に提出出来ないよね…”
クリップで纏められた書類には確かにいくつかの不備が確認でき、日々の疲労によって齎されたそのミスは残念ながら中々に深刻な類いだった。
「さすがに差し戻されますかね…あぁーそれにこれは、提出場所で使用する単位がそれぞれ違いますね。複数箇所の同時手直しが必要か…」
“ゴメンね…”
「いえいえ。寧ろ書いてる段階で気付かない自分が間抜けですので…っと、とりあえずこれで」
ミキトは書類の束を直接ペンで手直ししまとめ終えるとそれらを封筒に封入すると自分の机の上に置き、椅子にもたれかかり固定された背もたれを用いて背を伸ばし意識を入れ直す。
「提出と不備の謝罪兼ねて先方に直接向かいます」
そして彼は席を立ち。言葉を行動に移そうと外へ向かおうとし――先生が呼び止めた。
"いや。それは私が持っていくよ……いいかな?"
しかしそんな申し出に対し、ミキトは首を横に振った。
「だめです。これから始めての生徒が来るのに、先生がいないのは言語道断。それにこの書類の作成者は自分なので…」
"ッ!"
「ははっ、流石に。こちらでは負けませんよ」
言葉で説得する…その前にフェイントを掛け先生を巧みに躱したミキトは悔しげな顔をする先生を見つめる。
「お心遣い感謝を、しかしこれは自分の責任。謂れのないものならともかく……それかなんです?先生は自身の責任も取れない生徒を育てるのが目的で?」
"…違うよ"
「でしょうね。なら、この"責任"は私に果たさせて下さい……煽るような言葉になってしまったことに謝罪を。では」
"こっちこそ引き留めてごめんね。行ってらっしゃい"
そんな言葉を最後にミキトはシャーレから出ていく。その姿が見えなくなるまで見送った先生は、深くため息をついた。
"やっぱりなんか…一線引かれちゃってるなぁ"
そう、呟くとともに思い出すのは。
…ミキトは先生を煙たがっている訳ではない。
寧ろデスク仕事ではユウカには劣るながらも精力的に働き、残業にて先生と夜を越した日は3日では足りない。
また戦闘においても前線に出ようとする先生を言葉で軽く諫めながらも止めることはせずに、ならばせめて先生に脅威が向かないようにと獅子奮迅の戦果を見せるなど、シャーレの部員としてこれ以上ない働きをしている。
しかし――それでも。
やはりと言うべきか。先生がもっと仲良くなろうと踏み込んだ時に時折見せる、どこか軽く煽り対立し。距離を置こうとするような言動が、二人の関係において確かな壁として立ち塞がっていた。
"機密の多い仕事らしいから、あまり人と関わるのをよしとしてない…からとかかな?"
入部直前の隠すようなリンとの会話、そして時折先生に見えないような位置で書類の作成。デバイスの操作をしていることからそうあたりを付ける先生。
ふと、彼の持つ白いタブレットの場面が明滅する。
"…調べる必要はないよアロナ。私はミキトを信じてるし、彼が言いたくなったときに聞くだけだよ"
先生だけに感じ取れたなにかに対し、彼の信念を思わせるような柔らかい口調で返答する。するとその時、部屋に備え付けられたインターホンが来客を示すチャイムを告げた。
"っとと、そうだったそうだった…"
慌てて先生は画面を操作し来訪者を映し出す。そこにいたのは、藍色の髪をツインテールにし髪色と同じ大きな瞳を瞬かせた――早瀬ユウカだった。
"あれ、ユウカ…?"
『こんにちは、先生』
"うん。こんにちは――それで、なんでユウカが?あ、もちろん来ちゃいけないって訳ではなくてね"
『分かってますよ、そのぐらい……私は確かに今日当番じゃありませんけど。今日の当番の子は私と同じ学校なので、シャーレまでの案内がてらのお見送りです』
呆れたような、少し嬉しいような。そんな年頃の女の子らしい複雑な思いを顔に出しながらもユウカは一歩横にずれる。
『ほら、挨拶しましょう?』
『はい!ユウカ先輩!!スゥ―――』
女子としては低く、しかし男子としては高いテノールの声の持ち主はユウカに促されるままにインターホンのカメラ前に立つ。
金糸雀色の髪に一房の赤いメッシュが特徴的なナチュナルショートヘアの。となりに立つユウカより僅かに背丈の低い彼は、短く。しかし鍛えているのか多量の空気を吸い込み……
『ちょっと、待って!?気合入れ――先生耳を!!』
"あ…"
矢継ぎ早な警告と、息を吸い込む彼と、
『初めましてッ!ミレニアムサイエンスハイスクール一年の立花リッカです!!これからお世話になります!!!』
音割れによって贅沢にグラデーションされた大声での自己紹介をマトモに浴び。目を白黒とさせながらも"随分と元気な子だなぁ"と前向きに捉えることにした。
『~もうっ。あなたの声、気合い入れるとすっごくおっきいんだから抑えるようにって。学校と駅の改札とインターフォン鳴らす前!都度三度言ったわよね!?』
『ご、ごめんない!注意としてはいたんですけど、いざ顔を合わせたら嬉しくなっちゃって……』
頬を膨らませながら説教をするユウカに謝り、モニター越しにもその太陽を思わせるパッチリとした大きな金色の瞳をギュッと閉じ"ショモ…"としている顔となった立花リッカの情感が伝わってくる。
"私は大丈夫。"
"確かにちょっとびっくりしちゃったけど、それだけだよ"
二人から自分が見えていないことをいいことに、深呼吸や緊張からの脱力を繰り返し何とか身体の平静を取り戻した先生は笑顔を見せ。
"さ、入って。"
そう言って、彼らをシャーレの中へと迎え入れるため。解錠のボタンを押した。
『あっ!そう言えばここの郵便受け?みたいなところにお手紙一通入ってましたので持ってきました!!』
『リッカ、あなた…郵便受けの番号知ってたの?』
『いえ!配達ポスト側から腕伸ばして取りました!なんか重要そうだったので』
『………先生、少々お時間いただいても?』
"…とりあえず入ってからにしない?"
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「…まさかレッドウィンターにて反乱分子のレジスタンスとなり10キロ低品質バケツプリンをチェリノ銅像の顔面にメテオジャムすることになるとは……」
時はかなり進み。場所はシャーレのある建物前の街道。
書類の受け渡しと訂正箇所の謝罪――にしては身も心も煤けたような印象を受けるミキトは僅かにふらつきながら帰路についていた。
「確かにあのプリンの味は酷いものでしたけど、普通文句を言うのはプリンの製造工場なのでは……?なぜ、どのような流れで生徒会へと矛先が…」
疲れた脳で冷静に事態を振り返ろうとしたが、灰色以前に燃え尽きた彼の脳内は『理解できぬ』『ループ革命チェンジ』『キヴォトスだしこんなものでは?』『おいやめろ』と思考停止を通り越し心理に近い飛躍を起こしていた。
「あの先生のことです。連絡なしはさすがに心配されてるでしょうし…今朝のことといい流石に悪いことをしたか……」
かぶりを振り思考を止めたミキトはそこでふと、今朝の先生とのやりとりを思い出し苦い顔をする。
先生が彼に対して信頼と期待を寄せていることと同じように、彼もまた先生に対して期待を抱いている。
「先生のことは信頼したい。それは本心だ――」
仮にも転生者(あらすじ参照)である彼は記憶を消されているとはいえ先生の偉大さは微かに覚えており。自由で青臭いように見えてその実どん詰まり手前になる要素の多いこの世界を、ハッピーエンドへと導く彼のことを憶えている。
なんならミキトは全幅の信頼を寄せたいとさえ考えていた。
「――だからこそ、本来いない私が。今過度に干渉するべきでは…なぁ」
しかしだからこそ。その思いが故に。
不純物であると己を定義するミキトは先生と積極的に関わるべきではないと考えていた。
「しかし…自分が生徒である以上。あの人は決して自分を放っておかないのでしょうね」
歯噛みするような、それでも沸き上がる嬉しさを抑えられないような複雑な感情をその言葉とともに吐き出しながら。彼はシャーレの部室へとたどり着いた。
(…とりあえず、今朝のことは謝ろう。親しくなるのを避けるにしても。軋轢を生むのは違う筈)
「フゥー…フッ」
柄にもなく深呼吸をした自分に対し、「どの立場が」と鼻で笑う。スライドドアへと伸びる手を見ながらふとミキトは今日の当番を思い出した。
(嗚呼、直情的で。それでいて人懐こいあの人なら、こんな下らない事も――)
考えない。そう思うと同時に彼は扉を開ける。
「失礼。ただいま戻り、まし…た……?」
もはや見慣れたシャーレの部室。入った方向そのままに顔を上げれば、業務を続ける繊細の姿を幻視し。またその通りだろうと顔を上げた
「――あぁ!ミキト捜査官、やっと帰ってきたわね!!」
しかしそこにいたのは先生でもなく、本日の当番である少年でもなく。…なぜかミレミアムのセミナー、早瀬ユウカがいた。
ミキトの入室に気付いて走らせていたペンを止め、肩を強張らせながら無造作に近付いてくる彼女に対しミキトは口をパクパクと開け当惑する。
「…なぜユウカさんがここに?というより先生は……」
「そう!!」
平静を取り戻し降って湧いた疑問をそのまま口に出したミキトの言葉に対して、ユウカは食い気味答えた。
「そ、そう?」
「そうよ!その先生に頼まれて、私はここに残ってあなたを待ってたのっ」
その剣幕に圧され一歩後ずさるミキトだったが、彼女が言う"先生"という言葉を聞いて眉をひそめる。
「先生は…でかけたのですか?」
「でかけたというか、活動をしに行ったというか…とりあえずこれを見て」
説明を求められたユウカはそこで生来の生真面目さを取り戻し、先生の机に置いてあった一通の手紙を差し出す。
渡された手紙を胡乱げに見るミキトだったが、このまま持っていてもなと思い直しユウカの手にあったそれを受け取り。既に空いている封を解く。
「アビドス、廃校対策委員会――あの高校、既に廃校が視野に入るまでに……」
連邦生徒会のメンバーとして旺盛を極めていた時期のアビドス高等学校を知るミキトは、その委員会の名前から察せられるかの高校の置かれた状況に対して嘆息をし。それから本文を読み進めた。
「………なるほど」
複数枚の紙に書かれた文字は、文字数こそ多くはなかったたがその筆跡や。彼の校のもつ背景からまさに藁にすがるような思いで書いたのだろう事が思われる…そんな文面だった。
「…この嘆願書を見て、おとなしく出来る人ではないですし……なるほど。これで先生はアビドス高等学校へと向かってしまったという訳ですか」
「それだけなら、よかったんだけど…」
したり顔で頷き手紙をユウカへ返したミキト。だがユウカの顔は優れず、明朗快活な彼女には似つかわしくない。曇ったものとなっていた。
そんな彼女は言い淀みながら。口を開く。
「先生は、まだ
「まぁそれは…突然外から連れてこられたようですしね。一応外回りの時間を活用して案内はしていますが」
「あっちゃー……マズいわね」
いかにも"困った"という風に額に手を置き天を仰ぐユウカ。
その様子に最初こそ疑問符を浮かべていたミキト。しかし直前のユウカの言葉を思い出した。
「地理に明るくないから"マズい"…まさかとは思いますが――
「えぇ、私の憶えている限り。ほぼ着のみ着のまま…」
「………」
今度はミキトの番であった。パンとそこそこ高い音とともに額を叩くと、ユウカと同じように天井を仰いだ。
先生が向かったと二人が予測したアビドス高等学校は、以前こそトリニティ・ゲヘナ・ミレミアムといった面子を抑えキヴォトス最大規模を誇る学校と自治区を誇っていた。
しかし隣接する砂漠からの異常な頻度と規模の砂嵐によってかつての栄光は途絶え。現在は土地全てが砂漠と言い換えていいものへと変化し、アビドス事態も借金によって金回りは火の車という有り様となっている。いわば"砂漠にのまれたゴーストタウン"
極地の代表である砂漠を渡るにはそれ相応の知識と準備が必要であることは自明の理であり。またそれを怠った者は………
「これってもしかして、シャーレ存続の危機。なのかしら……?」
「…うん」
ユウカの一言のミキトの返答により、部室内に重苦しい沈黙が流れた。
「ところで…まさかリッカも?」
「えぇ…というか、あの子が手を引っ張ってピューと行っちゃったから。止める間もなくて…」
その言葉に、無意識に首を横に振りながらミキトは葛藤する。
(…先生だけなら、恐らく放っておいてもいい――だが。
先生に過干渉するべきではない。そう考えていたミキトだったが、皮肉にもそれを覆そうとしているのは同じ転生者でもあるミレニアムの少年立花リッカだった。
(物語は分からない。だがさすがにアビドスへ向かわずに別の場所へ流れ着いたりはしないはず…物語の第一章としてはあまりにも煩雑だ)
そこまで考えたところで、ミキトはふぅと息を吐く。
(…なら、仕方がない。変数が計算を狂わせるなら、それを正常に正すのもまた変数となるはず)
自分にそう言い聞かせるようにしながら、ミキトは顔を上げる。
「自分が向かいます。先生の手伝いをするのがシャーレの補佐官の責務ですし」
「というか、それしか無さそうね…先生をお願いするわ。あとリッカにあったらすぐ戻るように言ってあげて」
「それは構いませんが…なぜに?」
「あの子は本来今日だけの当番よ。それに、外泊届も出してないし……こう言っといてくれないかしら?」
少々芝居かがったように言ったユウカの伝言を聞いたミキトは柔く微笑む。
「了解しました。あいつ…リッカは、善き先輩に恵まれたようですね」
「懐かれて、それから絆されて。世話を焼いてるってだけよ。素直で争い事にも強いあの子はミレニアムにとっても私にとってもいい清涼剤なの…あとこれ、あの子に渡しておいて」
「ハハ…目に浮かぶ。その調子で頼みます。リッカは奉仕精神の塊のように見えますが本質はかなり、
ユウカからミレニアムのロゴが刻まれたアタッシュケースを受け取り。その会話を最後にミキトは先生の補佐としての権限を持ってユウカの待機の任を解き。シャーレに所属する全ての生徒に一定期間先生の不在を知らせるメールを送ってから地下駐車場へと向かった。
「さて、と…」
カツ、カツ、と自分以外だれもいないためかやけに響く足音に耳を傾けながら、彼は準備を進める。
シャツ一枚の上から雑に黒革のライダースジャケットを羽織り、運転用のグローブをはめ調子を確かめるように手首を回す。
赤く塗装された己の愛機たるアドベンチャーバイクにまたがり、それに装着された外付けのサイドカー。ヘルメットとゴーグルなどの装備を点検し、それら全てをチェックし終えた後。最後に後部座席に括り付けられたバックパックを手に取る。
「…二重遭難にならないことを祈りますか」
目をつむり祈るようにアビドス周辺の地図とコンパス。緊急用のGPSと信号弾を入れバイクのエンジンを点ける。因みに補給物資はサイドカー側だ。
エンジン音が高鳴り、車体が震え、そしてそれが最高潮に達した瞬間。ミキトはそれを控えめに蹴り上げた。
後輪が勢いよく回り始め、それと共に加速していく車体。風を切り感覚とともに地下駐車場から出たミキトを乗せたそれは、テールランプの光跡を引きながら道路を駆ける。
・秋茜ミキト
転生したという自覚はあり、物語の中という認識もあるが。ブルーアーカイブの記憶はキレイすっぱり抜け落ちているためこの先の展開は知らない。メタ読みでアビドスに向かう。
・立花リッカ
手紙を持ってって先生がそれを読み。すぐさま助けに行こうとした先生に同調、ユウカが止める間もないスピードで飛び出していった。
因みにユウカがミキトに渡したアタッシュケースの中身はリッカの武器が入っている。