バレンタイン。女の子にとっては聖戦だとかなんだとか言われてるし世の男子はチョコを貰えるかどうかで一喜一憂するアレ。その日がやってきたわけだ。
前世は関係なかったな。だって馬だし。前々世?母ちゃんから貰っただけで女子から貰えたことなんてない。
バレンタインなんて所詮企業がチョコを売るためにやってるイベントに過ぎねーし!チョコなんか貰ったって嬉しくねーし!だから悔しくなんてないんだからね!……というのが俺のバレンタインの認識だ。実際のところ貰えなくてすげぇ悔しい思いをしたし、枕を涙で濡らしたこともあったな……チョコに振り回され過ぎだろ俺。
ただ、幸か不幸か今の俺はそれなりの交友関係を構築しているし、友チョコなんて文化もあるくらいだ。だから1個か2個、プボちゃん達がくれるだろうから10個はいかないにしても結構貰えるんじゃね?なんて朝登校したわけですよ。その結果──
「あ、あの!ヴァーディクトデイさん!これ、チョコです!」
「おぉ!ありがとう!すっごい嬉しい!」
「ヴァーディクトデイさん!チョコ、あげます!」
「ありがとう!丁寧にラッピングされてるな~、大事に食べさせてもらうぜ!」
「う、受け取ってください!」
「あ、あぁ。うん、ありがとう」
「わ、私の気持ちです!どうか!」
「あ、ありがとう……」
「ヴァーディクトデイさん!」
「……あぁ、はい。ありがとうございます」
ヴァーディクトデイさん!ヴァーディクトデイさん!ヴァーディクトデイさんetc.……
「ようヴァーディ。今日は遅かった……なんだオメーその紙袋は?」
「……全部チョコだよ」
「あ~そういや今日バレンタインか。納得だ」
俺の両手に持ちきれない量のチョコを貰ったんだが?確かにバレンタインのチョコは欲しいとは言ったがここまで欲しいとは言ってないんだが?
「それで?もう打ち止めか?」
「信じられるか?これでまだジェネ先輩とかドンナ先輩とかには会ってないんだぜ?」
「よし、お前はもう上級生に近寄らない方がいい。今日は教室で飯食うぞ」
「なんだかんだ優しいよなお前……俺の昼飯このチョコの山になるだろうけど。あ、そうだラーシー。ほいこれ、友チョコ」
「お、サンキュー」
それにしても、いくら俺が大食いだからって限度ってもんがあるだろ。これ全部食ったら糖尿病になりそうだ……トレーニング頑張らねぇと。
「ちなみに最速は誰だったんだ?」
「アイ先輩。朝自主トレする時に貰った」
「成程な。あの人のことだからドヤ顔してそうだな」
「普段真面目なのにその絵面が容易に想像できるのがな……今のうちにちょっと食っとくか」
早速1つ開けてチョコを食べる……うん、甘くておいしい。これが1個か2個なら大事に大事に食べるんだがな。
「おはよう!ってうわぁ!?ヴァーディの机がチョコでいっぱいになってる!」
「ようパンちゃん。すげぇだろこのチョコの山」
「1つちょーだい!」
「ダメ。これは俺が貰ったもんだから。俺が食わないと失礼だろ」
「いちりある!」
「ま、そーいうとこなんだろうな。律儀っつーかなんつーか」
会話をしている間にもチョコを口の中に放り込んでいく。なんだろう、食い始めたばかりだけど終わりが見えねぇ。
「おはよ~。ふわぁ~」
「おう、おはようプボちゃん。今朝は珍しく早起きだったみたいだけどなんかあったのか?」
「おはようボンド!」
「はよ、ディープボンド。そうなのか?」
珍しくプボちゃんは早起きだったのか、朝練から帰ってきたらすでに起きてどこかに行った後だった。ただ眠そうにしているけどなんかあったのか?
「え?あ、あぁ、うん。ちょっとやることあってね~」
「ふ~ん。ま、早起きなのは良いことだ」
ちょっと慌てた様子なのが気になるけど、突っ込まない方がいいか。あ、パンちゃんもプボちゃんも来たし渡しておくか。
「ほいプボちゃんにパンちゃん。2人にも友チョコ」
「え、本当?ありがと~ヴァーディ君」
「ありがとうヴァーディ!大事に食うからな!」
2人とも喜んでいるし、渡した甲斐があるってもんだ。
「こんにちはヴァーディ!カフェテリアにいないから心配しちゃった!」
「あ、こんにちはアレグリア先輩。どうかしました?」
お昼休み。プボちゃん達と教室で飯を食ってるところにアレグリア先輩が来た。表情はニッコニコだ。そして後ろ手には紙袋。うん、察しはついた。
「はいこれ!バレンタインのチョコ!いっぱいいーっぱい!愛情込めたからね!ヴァーディのために!ヴァーディのために!」
「なんで2回言ったのかは分からないですけどありがとうございます。大事に食べさせてもらいますね。あ、これはお返しのチョコです」
「ッ!ありがとうヴァーディ!つまりこれは……そういうことだよね!?」
「どういうことですかね」
さて、これでバレンタインのチョコが1つ増えた「失礼、ヴァーディはいらっしゃる?」おっと、さらに増えたか?
「ドンナ先輩、こんにちは」
「えぇこんにちは、ヴァーディ。早速だけどあなたにチョコを持ってきたわ」
ドンナ先輩が持ってきたのはすげぇ豪華な袋に入ったチョコ。見ただけで高級感漂うな、既製品?
「外装から全部ワタクシが揃えました。勿論中身はワタクシの手作りチョコです」
「え!?これ全部手作りなんですか!?」
めっちゃ気合入っとる!
「あ、ドンナ先輩。これお返しのチョコなんですけど……」
「ッ!あら、ありがとうヴァーディ。フフ、大事に食べさせてもらうわ」
「ち、ちょっとドンナ先輩のと比べるとアレですけど」
「こういうのは気持ちよ。少なくとも、ヴァーディから貰えたというだけでワタクシにとってはどんな宝石よりも価値があるわ」
ドンナ先輩……!良い人だな~!それはそれとしてチョコが増えたわけだが。
「さらに増えたなオメー」
「何だろう。食った側から増えていってる気がするんだけど」
「気のせいだろ。あ、そうそう。ホラよ」
「うん?なんだこれ?」
「ホットココアだ。さっきの友チョコのお礼だよ」
「固形じゃないってだけでこんなに嬉しいとは……」
「大げさだろ」
みんながそれぞれ昼食の弁当を食べる中、俺1人チョコを黙々と食べている。何だろう、自分で決めたことなんだけどどことなく哀愁が……。いや、気にしない方がいい。早めに処理しておかないと後で困るのは自分だ。せっかく俺にくれたんだからしっかりと食べないと!
「……なんだろう。ちゃんと味の違いはあるんだろうけど、大本はチョコだからそんな変わらないというか」
「チョコで味が変わるってよっぽどだろ」
「あ、アハハ……」
「ヴァーディ、鼻血には気をつけろよ!」
修行僧の気分なんだが。昼休みで大分チョコを減らせたもののまだちょっと残っている。残りは帰ってからだな……後は増えないことを祈るだけだ。
放課後。トレーニングへと向かう。
「あ、そうだバディ。これチョコ」
「ん?ありがとうヴァーディ。わざわざ良いのに」
「気にすんな。世話になった人に送るのは当たり前だろ?」
「そういうことなら。これはありがたくいただくよ、ヴァーディ……後、本当に気をつけてね?その量のチョコ、1人で食べるんだろ?」
「……と、トレーニングの合間にも食べるから、まぁ」
「糖尿病になりそうだね」
俺もそう思うよ海藤さん。そして今チームの先輩方からも貰ったからさらに増えた。
「はいヴァーディ!これわたしからのチョコ!」
「ありがとうございますジェネ先輩!すっげぇ嬉しいです!俺からもお返しのチョコです!」
「~~ッ!本当に良い子だねヴァーディは~!」
ジェネ先輩に抱き着かれて頭を撫でられる。その後ジェネ先輩はトレーナーにもチョコを渡していた。
「姉さん、私からもいつもの」
「私もからもだよお姉ちゃん!」
「お、2人ともありがとな!じゃあこれ、俺からもチョコ!」
「「ありがとう姉さん(お姉ちゃん!)」」
エフ達にもチョコを渡して、これで終わりだろうか?〈ピロン♪〉……なんだろう、凄く嫌な予感がする通知音が。まずは開いてみるか。
【ヴァーディ様。バレンタインという文化があるようですね。なのであなた様宛にチョコを送らせていただきました♡本日中に寮に届く手筈になっております】
エネさんからのチョコか……あんまり想像がつかないな。とりあえず帰ってからのお楽しみってとこか。
(ありがとうございます。味わって食べますね、っと)
爆速で既読がついて返事が来た。それに返事をしてトレーニングへ。その途中。
「あは、ヴァーディ君」
「……コントレイルか。どうかしたのか?」
どういうわけか、コントレイルまでもが来た。何の用だ?
「今日って、バレンタインだよね?」
「まぁ、そうだな。世間一般的には」
「だからね、僕もヴァーディ君にチョコを作ってきたんだぁ」
コントレイルが?俺にチョコだと?……別におかしいことじゃないか。
「そうかい。なら、俺からもお返しのチョコをあげないとな。ほらよ」
「ッ!へぇ、これがヴァーディ君のチョコか」
「別に何の変哲もないチョコだけどな」
コントレイルは俺があげたチョコを持って恍惚とした表情を浮かべている。凄く嬉しそうだ。
「僕にとっては君から貰ったチョコってだけで特別だよ。それよりもさ、僕のチョコを食べてみてよ」
「?後からでも良くないか?」
「今食べて欲しいんだ」
なんか圧が強いな……構わんが。さて、どんなチョコかなっと。
(見た目は普通のチョコと変わらんな?)
特に変わった様子はない、普通のチョコだ。ここで食って欲しいらしいから食べるが……うん、美味い。
「美味いな。レースも強くて料理もできるのか、お前」
素直な感想をコントレイルに伝えるが、コントレイルはというと。
「……♥」
俺がチョコ食ってるのを笑顔で眺めているだけだった。
「ねぇ、あの子コントレイル……だっけ?あの笑顔にうすら寒さを感じるのウチだけ?」
「奇遇ね、私もよ」
用件はそれだけだったのかコントレイルはすぐさま去っていった……やたら嬉しそうにスキップしながら。
寮に戻ってまたチョコの処理に入る。処理って言っちまったよ。せっかくくれたものなんだからそう言うのは良くないな。
「ただいま~ヴァーディ君」
「もぐもぐ……あ、お帰りプボちゃん」
「まだ食べてたんだ、ヴァーディ君……」
「いや、これで最後の1個だよ……ご馳走様」
寮に戻ってきたらエネさんのチョコが届いていたのだが……うん、デカかった。あなた様への愛をたっぷりと込めました、なんて言ってたから覚悟してたけど。一番苦戦したよ。
それにしても、やっと食べ終わった~!生まれて初めてこんなに貰ったな~!
「……」
「んで、プボちゃんはなんでそんなにソワソワしてんの?」
「うぇ!?そ、そんなことないよ~」
いや、めっちゃ慌てとる。しかもなんか隠したな?
「いやいや、そんなこと言って今何か隠したろ?大人しく見せろ~!」
「わ、わ~!?止めてヴァーディ君!?」
さてさて、なにを隠したんだ~……ってこれ。
「チョコじゃん。ゴメンゴメン、勝手に奪い取ったりして」
すぐにプボちゃんに返そうとするけど……プボちゃんは恥ずかしそうに俯いているだけだ。どしたん?
「どうしたんだよプボちゃん。もしかして、怒ってる?」
「……う、ううん、別に。怒ってないよ」
「そうなの?じゃあなんで受け取らないの?」
プボちゃんは手をもじもじさせている。顔も真っ赤だし、風邪でも引いたのかな?
「そ、その……そのチョコ、ヴァーディ君用に作った物だから……」
「え?マジで!?」
超嬉しいんだけど!
「でもヴァーディ君、朝からずっとチョコ食べてたし……め、迷惑じゃないかなって」
「んな訳あるか!」
プボちゃんのチョコが迷惑だなんてそんなことあるわけなかろうが!包装をビリビリに破いて一気にかぶりつく!プボちゃんは目を見開いて驚いているけど関係ないね!あ、ヤバい。めっちゃ美味いなコレ。
「これで本当にご馳走様だな!美味かったよプボちゃん!」
「あ、うん。ありがと……」
「てか、もしかして朝からいなかった理由ってこれ?昨日も放課後すぐにどっかいってたし」
プボちゃんは顔を赤くしてまた俯いた。ということは……そういうことか。
「ありがとなプボちゃん!本当に美味かったよ!」
「あ、あはは~。そんなに喜んでもらえてぼくも嬉しいよ」
「こうなると俺のチョコが申し訳なくなってくるな……あんま凝ったもんじゃないし」
「そんなことないよ。ヴァーディ君のチョコも美味しかったよ」
「ありがとなプボちゃん。そういってくれて嬉しいぜ」
来年からはもっと凝ったもんを用意するか?……その前に、ホワイトデーに大量のお返しをしなきゃいけないんだが。
「ま、まぁとりあえずお風呂にいこうよヴァーディ君。そろそろ時間だよ?」
「え?……あ、マジだ。早く用意しないと」
プボちゃんと一緒に大浴場へと向かう。
こうして、俺のバレンタインは終わった。うん、しばらくチョコは良いかな……。
コントレイルの意味深な笑顔。