中山レース場。
《横にずらっと広がってウマ娘達が最終コーナーから最後の直線に入ります!1番人気ヴァーディクトデイはまだ後方!まだ後方に控えていますがっ!来たぁぁぁ!ここでヴァーディクトデイの末脚が輝く!ヴァーディクトデイが中山レース場を翔け抜ける!瞬く間に前のウマ娘を躱してひとつ、またひとつと順位を上げていく!このウマ娘の末脚は次元が違う!中山の短い直線もなんのその!この末脚の前には無意味でしょう!》
《やはりこのウマ娘はモノが違う!大外を警戒されていても関係なしっ!見るもの全てを魅了する大外一気で先頭に躍り出ましたヴァーディクトデイ!ヴェルトライゼンデも上がってきているがこれは届くかどうか!?ガロアクリークとサクセッションも必死に追走!しかしヴァーディクトデイには届かない!残り100!これは決まりました!》
他のウマ娘達は必死に追走するが、そのウマ娘に届くことは叶わず。ヴァーディクトデイがレースを制した。
《ヴァーディクトデイだヴァーディクトデイだ!【冷酷無慈悲なレースマシーン】がスプリングステークスを制しました!皐月賞に向けて大きな弾みをつけましたヴァーディクトデイ!ここもいつものスタイルで、大外からの直線一気でレースを制した!》
《ワンパターンではありますが、警戒されていても関係ないとばかりに躱して1着を取りますからね。やはり、彼女の末脚は素晴らしいの一言でしょう》
《クラシックの初戦皐月賞!果たして彼女のレースはどうなることでしょうか?今から楽しみです!》
そんな実況が観客のいない中山レース場に響く中。ヴァーディクトデイは。
「何かが……
ブツブツと呟いていた。その後、ウィナーズサークルへと向かう。
「スプリングステークス勝利おめでとうございます!皐月賞制覇に向けて大きく前進、といったところでしょうか?」
「まぁ、そうですね。自信はついたと思います」
「最優秀ジュニア級ウマ娘は惜しくも受賞を逃しました。率直な意見をお聞かせください」
それレースに関係あるか?別にいいが。
「選出されたウマ娘もまた強いですから。これからたくさんレースを勝って、自分の実力を証明出来たらなと思います」
「ヴァーディクトデイさんの戦法はワンパターンとの声が上がっていますが」
「それで勝てていますので。ただ……いや、なんでもないです」
受け答えしながら、これからのことを考える。
(ナサニエルさんが言っていた、俺の能力に対して出力される力が少ないというもの……俺はリミッターと定義した。これを外すにはどうすればいいのやら)
俺の身体が出来上がっていないからこそ、無意識のうちに身体がリミッターをかけているらしい。俺の身体が出来上がればリミッターは自然となくなると思うが……ここで心配されるのは前世のことだ。
(前世と一緒ならば、おそらくリミッターが外れた瞬間俺の身体にとてつもない疲労が出る。だから同じ轍を踏めば、間違いなく前世と同じ結果になる)
そんなのは死んでもごめんだ。だから狙うべきは──このリミッターを少しでも早く外すこと。自分の身体を仕上げることだ。
(後もうちょっと、な気がする。本当に気がするだけだけど)
実際のところは分からん。もしかしたら、秋天まで俺のリミッターは外れないままかもしれない。だけど……やる価値はある。
(この調子のまま駆け抜ける……全てはアイツに追いつくために)
「それではヴァーディクトデイさん!皐月賞に向けての意気込みは?」
「……頑張ります」
「か、簡素~……い、いえ!なんでもありません!ありがとうございました~!」
なんかやらかした気がしないでもないがまぁいいや。
スプリングステークスは無事に勝った。次は──皐月賞。
レースから数日経って学園。
「やぁヴァーディ!元気にしているかな?」
「んあ?サリオスか。どうかしたのか?」
少し色の濃い金髪をショートカットにしたウマ娘、サリオスが廊下で話しかけてきた。コイツ隣のクラスだからそんなに会う機会ないんだよな。コントレイルやタクトちゃんと同じクラスらしいが。
「スプリングステークスを勝ったそうじゃないか!このサリオスが君を祝福しよう!」
「そりゃどーも。お前さんは朝日杯おめでとさん」
「祝福の言葉ありがとう!しかし、惜しくも最優秀ジュニア級ウマ娘の称号を得ることはできなかったよ」
「ま~相手が相手だからな」
メイクデビューを圧倒的な強さで勝利、東スポ杯で凄まじいパフォーマンスを披露、ホープフルステークスを危なげなく勝利したコントレイルがいたわけだからな。いくら朝日杯を制したサリオスでも分が悪いってもんだ。一応俺も選出候補だったらしいが落選した。いくら派手な勝ち方をしているからといって、俺はコントレイルやサリオスと違ってG1勝ってないからな。
「だがしかし!最優秀ジュニア級ウマ娘など恐れるに足らず!皐月賞はこの私、サリオスが貰った!」
「言うねぇ。俺も負けねぇぞ?」
「然り!君もまた私のライバル、その末脚は圧巻の一言!だが私は恐れない!何故なら私はサリオスだから!」
「体重管理気をつけろよ~」
「んな!?も、問題ない!トレーナーさんがちゃんと管理してくれている!……だからたぶん大丈夫」
そのままサリオスはどっか行った。にしても面白いヤツだな~。
「ヴァーディ君、サリオス君と話してたんだ」
「おぉ、プボちゃん。そういやプボちゃんも皐月賞出るんだってな。おめでとう!俺達も一緒に走れるな!」
「うん、ギリギリだけどなんとか出走できそうだよ~」
プボちゃんも皐月賞に出走できるらしい。前世では出走してたこと知らなかったからな~。まず知り合ってもいなかったし。
「ついにヴァーディ君と一緒に出走か~。よ~し、頑張るぞっ!」
「俺も負けねぇからな?プボちゃん」
「勿論だよ~」
プボちゃんも気合を入れるように握りこぶしを作っていた。ちょっと可愛いな。
皐月賞も着々と近づいてきている。トレーナー室で有力なウマ娘の対策会議を海藤さんと行う。
「いいかい?ヴァーディ。次の皐月賞の有力候補は君を含めて3人だ」
「コントレイルとサリオス、だろ?」
海藤さんは頷く。
「ホープフルステークスを勝ったコントレイル、朝日杯でジュニア級王者になったサリオス。そしてこれまでのレースでインパクトの強い勝ち方を残したヴァーディ……この3人が皐月賞の最有力候補だ。コントレイルとサリオスの警戒を強めるのもそうだけど、君も気をつけた方がいい、ヴァーディ」
「今まで以上にマークがキツくなるとか、そんな話?」
「分かっているなら話は早い」
海藤さんはホワイトボードを使いながら説明していく。
「君の勝ちパターンは全部バ群の一番外、大外の位置からの捲りだ。今までのレース全部をこのパターンで勝ってくる。それだけ強いということでもあるけど、それと同時に……マークもさらにキツくなってくる」
「ま、マークされても大外から捲ったしな。それが皐月賞でも通用するかは分かんねぇけど」
「そういうことだ。だから、少しでも無理だと感じたなら大外からの捲りは使わない方がいい。君のレースセンスならば可能だろう?」
「ま、そうだな。それにしても初のG1か……っしゃあ!頑張るぜ!」
「その意気だよヴァーディ!」
皐月賞に向けて、気合を入れる。気合が入る理由はもう一つだ。
(
そう誓って、トレーニングへとうちこむ。全てはコントレイルに勝つために。
「……以上が、皐月賞の有力なウマ娘の情報だ」
スピカの部室。ここには今スピカのメンバーとそのトレーナーである沖野がミーティングをしていた。議題はスピカのメンバーであるコントレイルの皐月賞に向けて、のものである。
「いいかコン坊!ワープすれば勝てる!内から豪快に追い抜いていけ!」
「それはあなただからできることでしょうが。コントレイルさんとゴールドシップさんでは走りから戦法まで違いますわ」
「バ場の状態にも気をつけなきゃだね。あんま天気よくないみたいだし」
「はい、ひとまずは精一杯頑張ります」
コントレイルは1つ深呼吸をして堂々と答える。
「最有力候補はコンちゃん含めてサリオスにヴァーディ……この三つ巴になるって言われてるね」
「そうだなデアリングタクト。だが、弥生賞を勝ったサトノフラッグも要注意だ。チーム・カペラのとこだからな」
「ダイヤちゃんのとこだ!」
嬉しそうな声を上げるキタサンブラック。チーム・カペラに所属しているサトノダイヤモンドとの仲を知っているスピカのメンバーは微笑ましそうな視線をキタサンブラックに向ける。
「朝日杯王者のサリオス。こいつもマークすべきなのは間違いない。だが、最優先で警戒すべきなのは「ヴァーディ君ですよね?」そ、そうだ」
コントレイルの圧に一瞬怯む沖野トレーナー。1つ咳払いをして続ける。
「ヴァーディクトデイ最大の武器はその末脚だ。ハッキリ言って、お前の世代において現段階最速といっても過言じゃねぇ」
「特に、トライアルレースのスプリングステークスが顕著ですね。あれだけ外をマークされていたのに」
「うん。関係ないってばかりに大外からぶち抜いていった。あの末脚は群を抜いている」
「何度映像を見返してもやべぇな。こんだけ警戒されてても問題なく上がってくるってよ」
サイレンススズカ、トウカイテイオー、ウオッカは口々に呟く。
「うんうん!やっぱりヴァーディは凄いよ!さすがはボクのお気に入り!」
「アレグリア嬢はどっちの味方なんで?」
ヴァーディクトデイの評価を聞いて鼻高々といった様子のグランアレグリア。だがジャスタウェイにその様子を突っ込まれていた。
「でも、皐月賞はさらにマークがキツくなってくるわ。さすがのヴァーディといえども」
「えぇ。ただ、だからこそ未知数な部分がある」
「大外一辺倒なのか、それとも……ってとこですね」
ダイワスカーレットの言葉に反応するサイレンススズカとスペシャルウィーク。2人が危惧しているのは、ヴァーディクトデイが大外を封じられた場合どんな手段を取ってくるか、というもの。
「つっても、今まで大外一辺倒なんだろ?じゃあ次も変わらないんじゃね?」
「どうでしょう。ヴァーディのレースセンスは同期の中でも群を抜いている……レイパパレからそう聞いたことがあります」
ゴールドシップの言葉を即座に否定するデアリングタクト。話が広がりそうなところで、沖野トレーナーが締めた。
「とにかく、外を警戒しておけコントレイル。ヴァーディクトデイにとって最も得意な展開は大外からの捲り。それを機能させるっていうのは得策じゃない」
「はい」
「しっかりと自信を持てよコントレイル。皐月賞──勝ってこい!」
沖野トレーナーの激励。それにコントレイルは。
「はい、勿論勝ってきます」
自信に満ちた表情で答える。そしてコントレイルは俯いて──笑った。
(ようやく戦えるねヴァーディくぅん……!ずっとずっと、楽しみにしてたよ……!)
「フフ、ウフフ……!」
「……なんでこう、普段は真面目なのにヴァーディが絡むとこうなるんだろうね、コントレイルは」
「コンちゃんあんまり他の子と深くかかわらないですけど、ヴァーディだけは別というかなんというか」
「なんだろ。うすら寒いものを感じるぜ」
「奇遇ですわねゴールドシップさん。私もですわ」
様子のおかしいコントレイルをちょっと引いた表情で見るスピカのメンバー。もう慣れたものである。
──皐月賞は着実に近づいていた。
もう1話ぐらい挟んで皐月賞へ。