飛行機雲に焦がれて   作:カニ漁船

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皐月賞、本走。


決戦の皐月賞

 

 

皐月賞

 

 

枠順番号ウマ娘名人気

1
1コントレイル
1

1
2レクセランス10

2
3コルテジア14

2
4ヴァーディクトデイ
2

3
5サトノフラッグ
3

3
6ディープボンド18

4
7サリオス4

4
8ウインカーネリアン17

5
9ブラックホール13

5
10アメリカンシード16

6
11クリスタルブラック6

6
12マイラプソディ8

7
13ダーリントンホール7

7
14キメラヴェリテ11

7
15ラインベック15

8
16ガロアクリーク9

8
17ヴェルトライゼンテ5

8
18ビターエンダー12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに、この日がやって来たってわけか。前世において俺とアイツが初めて出会った日……クラシックレースの一冠目、皐月賞。辺りを見渡せば、コントレイルやサリオス、プボちゃんが視界に入る。ただ、この舞台ということもあってみんな集中しているのだろう。張りつめた空気が支配している。

 

 

(にしても、勝負服ってもんは不思議だな。確かに、力が湧いてくるような気がするぜ)

 

 

 そんな俺の勝負服は緑を基調とした航空服のようなデザイン。黒い外套を羽織ってちょっと中二心をくすぐるようなデザインになっている。頭の中に思い描いたのがこれだったので割と中二心が残っているのかもしれん。

 勝負服に関してはもういいだろう。後はどのように走るか、だ。

 

 

(まず、このレースは一筋縄じゃいかねぇ。G1ってのもそうだし、何より──コントレイルがいる)

 

 

 アイツの実力はよぉく知っている。入念にウォーミングアップを済ませて、自分の力を最大限発揮できるように。後は。

 

 

(調子は万全だ。後は……()()()()()()()

 

 

 そんなことを考えながら、俺は発走に向けて身体を整えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ついにこの日を迎えました。クラシック三冠レースの初戦、皐月賞!最も早いウマ娘が勝つと言われている本レース、中山レース場芝2000m。天候は晴れですがバ場の状態は稍重と発表されています》

 

 

《前日の雨の影響がまだ少し残っていますね。これがどう影響するのか、気になるところです》

 

 

《さて、ここで本レースの1番人気を紹介しましょう!1番人気はこのウマ娘、1枠1番のコントレイル!ここまで無敗、ホープフルステークスを制してこの皐月賞に乗り込んできました!果たしてどのようなレースっぷりを見せてくれるのか?非常に気になるウマ娘です!続いて2番人気。2番人気は2枠4番ヴァーディクトデイ!こちらも無敗で皐月賞に乗り込んできましたスプリングステークスの勝ちウマ娘!後方からの末脚は衝撃の一言!今回も飛ぶような末脚を見せてくれるのでしょうか!そして3番人気は3枠5番サトノフラッグ!弥生賞を制しての皐月賞!今回はどのようなレースを見せてくれるのか?ゲート入りは順調に進んでおります!》

 

 

 各ウマ娘がゲートに入る。静寂に包まれた中山レース場、そして今、最後のウマ娘がゲートに入った。

 風の音さえも聞こえてきそうな沈黙。その空間を切り裂くように──ガシャン!と、ゲートが開く音がレース場に響き渡った。ゲートに収まっていたウマ娘達が一斉に駆け出す。

 

 

《最後のウマ娘が今ゲートに入って……ッスタートしました!クラシックの初戦皐月賞が幕を開けました!各ウマ娘が綺麗なスタートを切りましたが、4番のヴァーディクトデイがやや出遅れたか?》

 

 

《ヴァーディクトデイは後方からスタートしたいのでしょう。彼女は内枠ですし、集団にもまれることを嫌ってわざと出遅れたのかと》

 

 

《成程。これも計算の内ということですね。さぁ激しい先行争い、ハナを切ろうとしているのは8番のウインカーネリアン、逃げ宣言のキメラヴェリテはこれはどうか?7番のサリオス、朝日杯を制したジュニアチャンピオン、サリオスも前につけようとしている。1番人気のコントレイルもちょっと出遅れたか?先行争いの位置にはいません》

 

 

 ヴァーディクトデイは最後方の位置に、コントレイルは中団の後ろにつけている。上位人気の2人は後方に控えていた。前では激しい先行争いが繰り広げられており、朝日杯王者のサリオスはこの先行争いの位置に。ディープボンドも前目につけている。

 

 

《先行ウマ娘が定まらないまま1周目のゴール板を通過。しかし、ここでようやく来ました、逃げ宣言のキメラヴェリテがハナを奪います!14番のキメラヴェリテが第1コーナーの手前で先頭に立ちます。ここから差をつけていきたいところ。内にはウインカーネリアン、2番手にウインカーネリアンが追走。この2人を前に行かせる形で3番手ディープボンドにビターエンダー。サリオスもこの位置につけています》

 

 

《まだ固まっていますね。ここから自分の位置を見つけることが重要になってきます》

 

 

《コントレイルは中団後ろの位置をキープ。どうやらこの位置をキープするようだ。そしてヴァーディクトデイはやはり最後方を選んだ。ヴァーディクトデイは最後方からレースを展開する形。前の様子を窺っていますヴァーディクトデイ》

 

 

 第2コーナーを抜けて向こう正面へと入る。この段階で先頭のキメラヴェリテと2番手ウインカーネリアンの差は4バ身から5バ身程。ウインカーネリアンから1バ身離れてビターエンダーとディープボンドが続く。レースは縦長の展開を見せていた。稍重のバ場を考慮すると、少し早いペースでレースが進んでいる。

 

 

《最初の1000mを通過しました。最初の1000mは59秒8!59秒8で通過しました先頭はキメラヴェリテ!》

 

 

《やや早めですね。これは後方に待機しているウマ娘に有利に働きますよ》

 

 

《隊列は縦長ですが少し外に膨らんでいるようにも見えますね。やはりヴァーディクトデイの末脚を警戒してのことでしょう!2番手ウインカーネリアンが徐々に差を詰めていく。キメラヴェリテとの差を詰めていますウインカーネリアン。そしてウインカーネリアンに続くように他のウマ娘達も差を詰めてまいりました!縦長の隊列が少しずつ短くなってきています!だが最後方ヴァーディクトデイはまだ控えている!前との差が広がっても自分のペースを貫きますヴァーディクトデイ!》

 

 

 皐月賞は後半戦に入る。コントレイルはこの段階で外へと持ち出す。それにつられるように、後方のウマ娘が何人か外へと膨らんでいった。残り600mを切って先頭を走るキメラヴェリテが後続に捕まろうとしている。なんとか粘って入るものの、2番手を追走していたウインカーネリアンがキメラヴェリテに並ぼうとしていた。最後方からはヴァーディクトデイが前へ前へと押し上げてきている。最後方に控えていたヴァーディクトデイが、第3コーナーの終わり際、第4コーナーに入ろうかというところで進出を開始していた。前との差を詰めにかかる。

 第4コーナーに向いて最後の直線に入る。ここで──()()()()()()()()()()()()()()

 

 

《第4コーナーを抜けて最後の直線に入ろうとしている!キメラヴェリテとウインカーネリアンが先頭!そしてコントレイル……コントレイル!?コントレイルがいつの間にか大外に持ち出している!最後の直線に向こうかというところで大外からコントレイルが急襲!サトノフラッグもこの位置にいる!そして《あぁっと!こ、これは!?》あ、あああぁぁぁ!?な、なんと!?外に膨らんだウマ娘と外から追い上げてきていたヴァーディクトデイが接触!ヴァーディクトデイのバランスが少し崩れた!わずかによろけるヴァーディクトデイ!》

 

 

 悪気があるわけではない。外に振らされた結果、バ群の一番外から追い上げていたヴァーディクトデイに接触してしまった……そういうことである。誰もが勝つために必死になっている。その必死になった結果だ。

 だがヴァーディクトデイは。わずかによろけたものの──それだけである。

 

 

「……」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()、ただ前を見据えていた。

 

 

《かなりの不利を受けたヴァーディクトデイ!中山の直線は短い!ここから先頭に追い付くことはできるのか!?コントレイルとサリオス!ジュニア級から頭角を現していた2人が突っ込んでくる!ヴァーディクトデイこれは厳しいか!?》

 

 

 勝負は最後の直線に持ち越された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煩わしい。腹立たしい。俺を蝕む幻影が、俺の前を走り続けるコントレイル(アイツ)が、俺の気持ちを昂らせる。

 

 

(ごちゃごちゃ考えるのは止めた)

 

 

 俺を導くように走る幻影への苛立ちとか、いつまで俺を蝕み続けるんだ?とか。そんなもんは思考の外に追いやれ

 

 

(追いつけねぇ?知るかそんなこと)

 

 

 俺にとっては──一択だ。

 

 

()()()()()()()

 

 

 全ての思考を放棄して。ただ全力で駆け抜ける。その時一瞬

 

 

「まずは、一つ目っ」

 

 

 前を走る幻影が、なにかを呟いたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーディクトデイは最後方。バ群は固まって入るものの、ここから上位入線は厳しいかと思われるような位置にいた。

 

 

《ヴァーディクトデイこれは厳しいか!?ここから立て直して先頭に追い付くのは厳しいか!?先頭はコントレイルかサリオスか!この2人の一騎打ちになるか!?ウインカーネリアンはどうか!》

 

 

 刹那、皐月賞を走っている全てのウマ娘達は感じ取った。

 

 

「ッ!ふっ、やはり来るか!」

 

 

「ッ、あはぁ。きた、きた。きたねっ!」

 

 

「この、うすら寒さは……!」

 

 

 全員が一斉に後ろを見る。彼女達の瞳に映ったのは。彼女達の耳に聞こえたのは。

 

 

空気が破裂するような音とともに、大外から追い上げてくるヴァーディクトデイの姿だった

 

 

 全員が一斉に総毛立つ。そして、なんとしてでも追いつかれまいとさらにペースを上げようとする。だがヴァーディクトデイの速さは──群を抜いていた。

 

 

《残り200を通過!先頭はコントレイルとサリオス!そして……ッ!?そ、外からヴァーディクトデイ!外からヴァーディクトデイ!す、凄まじい末脚だ!大外からぶっ飛んできたぁ!他のウマ娘を瞬く間に躱すヴァーディクトデイ!》

 

 

《いやはや、これは……!》

 

 

《サリオスとコントレイルが逃げる!ヴァーディクトデイが追う!この3人の一騎打ちだ!サリオスかコントレイルかヴァーディクトデイか!無敗対決を制するのは一体誰なのか!?ヴァーディクトデイが距離を詰める!残り100!ここでヴァーディクトデイがコントレイルとサリオスを捕らえる!その差を縮めるヴァーディクトデイ!並んで、並んで……!》

 

 

 一線を画すスピードで猛追するヴァーディクトデイ。ついには先頭を走るコントレイルとサリオスに並ぶ。並ぶが──それまでだった。

 

 

《しかし僅かにコントレイル!わずかにコントレイルが抜けていたぁぁぁぁ!ヴァーディクトデイ、大外一気も惜しくも及ばず!無敗対決を制したのはコントレイルだ!無敗で皐月賞を戴冠したのはコントレイルだぁぁぁぁ!2着はハナ差でヴァーディクトデイ!3着はクビ差でサリオス!》

 

 

《ま、まさかあそこから追いつくとは……あれだけの警戒、アクシデントがあったにも関わらず上位に食い込んでくるとは思いもしませんでした。負けてなお強しでしょう》

 

 

《凄まじいレースを見せてくれました!無敗で戴冠したコントレイル、上がり最速の末脚で翔け抜けたヴァーディクトデイ、この2人相手に粘ったサリオス!誰が勝ってもおかしくないレースでした!》

 

 

 無人であるがゆえに中山レース場は静寂に包まれている。しかしテレビや配信でレースを見ていたファンは拍手を送っていることだろう。

 レース終了後、コントレイルはヴァーディクトデイを見つめていた。

 

 

(あぁ……やっぱり君は凄いなぁ、ヴァーディ君。君なら絶対、ここまで来るって思ってた。それに、途中で感じたあの殺気にも似た威圧感)

 

 

「ゾクゾクしちゃうよ……♥」

 

 

 そんなヴァーディクトデイは、コントレイルの方へと視線を向けていた。冷たい目、普段のヴァーディクトデイからはとても想像ができないほどの冷たい目。それを受けてコントレイルは──深い笑みを浮かべる。

 

 

「僕の勝ちだよ、ヴァーディ君」

 

 

 様々な有利不利があったものの、それら全てをひっくるめてレースだ。だからコントレイルの言い分は間違ってないだろう。この皐月賞の勝者は、間違いなくコントレイルである。

 だが、コントレイルは笑みから一転、不満げな表情を浮かべる。

 

 

「だけど……僕はこれで勝ったなんて思わないよ。だって、色々とあったみたいだし」

 

 

 コントレイルはなんとなく察しがついていた。ヴァーディクトデイの身になにかが起きていたのか。だからコントレイルは、心の中では納得していなかった。この皐月賞の勝敗に。

 

 

「だから、次に持ち越しだね?ヴァーディ君」

 

 

 ヴァーディクトデイに微笑むコントレイル。ヴァーディクトデイは。

 

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

 それだけ告げて、地下バ道へと歩を進めていった。コントレイルは一瞬不思議そうに首を傾げるものの、ウィナーズサークルへと向かうことに。

 

 

「次こそは、次こそはこのサリオスが!勝利してみせよう!」

 

 

「ヴァーディ君……」

 

 

 それぞれの想いを胸に、戦いは次なる舞台へと移ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ガッ、ハァッ!」

 

 

 極度の疲労感から、俺は控室で倒れ込む。なんとか地下バ道は持たせることができた。もし地下バ道で倒れるなんてことになれば大問題だからな。

 

 

「ハァ、ハァ……ぐ、うぷっ!?」

 

 

 それにしても、この疲労はヤバい。冗談抜きでヤバい。今までの疲労とは比べ物にならない。

 だが俺の心は──高揚していた

 

 

「ハ、ハハ……つ、ついに。やってやったぜぇ……!」

 

 

 この疲労には覚えがある。この極度の疲労がなんなのか、俺には()()()()()()

 

 

()()、お前に負けた……だが、ここからだ)

 

 

「一つ目のリミッター……外れたみてぇだなぁ……!」

 

 

 前世は秋の天皇賞。俺の覚醒は──早まったみたいだ。




皐月賞はコントレイルの手に。そしてヴァーディの今後は?
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